川島のりかず②『狼少女のミイラ』 【前編】 ('85、日)
【ナレーション】
2千年。
破滅的な大災害を生き延びた人々は、池袋の漫画喫茶・イメクラに入り浸り、サンシャイン地下にコロニーをつくって生活している。
絶望的な現実を忘れさせるため、シャブ、暴行、児童ポルノが横行し、水着の児童の写真を携帯しているだけで逮捕される異常事態が続いていた。
そこに、今・・・。
[主題歌、流れる。]
“守れ、みんなの池袋”のフレーズに合わせ、以下のショットがインサートされる。
・埼玉方面の青い空。まだ人間が手を触れていない、美しい自然の只中を走るスズキ9号車。
・運転手の制服姿のスズキくん。Vサイン。背後でタクシーが民家に突っ込んでいる。
・人類救済計画の司令部。ミニスカ、スク水、ハミ乳のメガネっ娘達が、いっせいにアポを取っている。
・大正テレビ寄席を見て爆笑する、ウンベル総司令。
・日経の一面。「リーマンショックに、のりかず関与?!」
・伸びたスズキくんの腕が、メーター表示を切り替える。割増料金だ。ゴー。
・ビルの谷間から、不気味に持ち上がる、巨大な血まみれのドクロ(のりかず①)。
・エンジン全開でのりかず①を粉砕する、スズキ9号車。
・頭から地面に突き刺さったウンベル司令の両足。蟹股で、痙攣中。
[シーン1・深夜のファミレス]
【ナレーション】
地球が滅亡しても、塾があるのはどうしてであろうか。そんな不条理を解明するため、一平は由美子とファミレスに来ていた。
(白熱した議論が続いている。)
「・・・たしかに、今の日本はハードな状況よ。でも、子供は子供なんだから、しょうがないじゃない?」
由美子はレスカを飲んでいる。さきほど、奇怪な飾り付けのチョコパをたいらげたばかりだ。
「そこだよ。」
一平は、半ズボンの付け根を掻きながら、反論する。
「子供にだって、社会のために出来ることはあるはずだ。怪獣と友達になるとか。」
「あなたのは、現実を直視しない弱虫の屁理屈よ。早く、大人になりなさい、一平くん。」
フフンと鼻で笑って、グラスをかき回す由美子。
「ちくしょう、由美子、おまえ、変わったな!」
プルルル、と携帯に着信が。すかさず飛びつく由美子。般若の面のキーホルダーが揺れる。
「・・・ごめん、あたし。今、ちょっち、マズイんだ。後で掛け直すから。・・・うんうん、もうハダカになってる?・・・あたしもよ、小宮山くん。」
携帯を切った由美子に、一平が噛み付いた。
「ちくしょう、なんだよ、由美子、お前、小宮山と。」
「なにいってんのよ、あんた、関係ないでしょう?そこをどきなさいよ、このキモキモ人種!」
怒りに駆られ、思わず組み付いていく一平。悲鳴を上げる由美子。
しかし、瞳の奥にカッと怒りの火が点る。
その瞬間、ショワショワショワーッと、由美子の全身から伸び出す体毛!みるみる毛むくじゃらの狼人間に変身していく由美子!
その目は、血のように赤く輝いている。
「ウガッガォオオォーーーン!!」
泡を食って、床に倒れ込む一平。のしかかる狼人間、鋭い牙で一平の皮膚を切り裂く。流血し、逃げ場を求めて必死に床を叩く一平の細い手、ガッと毛むくじゃらの腕につかまれる。
「ウワワァーーーッ!!」
ねじ切られ、放り出される一平の手。
無惨な棒くいと化したおのれの腕を悲しげに見つめる一平。激痛よりもショックの方が大きいようだ。
断面からピュッピュッ、と血がしぶいている。
[シーン2・人類救済計画、総司令部]
当直のオペレーターが電話を取っている。
「はいはい、こちら総合本部。・・・あら、一平くん?」
顔見知りらしい。
切り返しのショットで、電話をする一平。傍らから従業員の手が、携帯を持ち上げてくれているのが判る。
「エ?!怪獣に襲われた?!場所は?」
[シーン3・スズキ9号車]
【ナレーション】
一平少年の訴えを聞いたウンベル総司令は、直ちに現地へ飛んだ。
(S.E.夜の高速を爆走するトラックの通過音。)
「なんだ、スズキ。まだ布団が恋しいです、って顔してるぜ。」
助手席から話しかけるが、運転するスズキくんは寝ぼけまなこだ。
「ふぁい、ふぁい。・・・いや、起きてますよ。ボクはどうも寝起きがダメでして。」
キキィーーーッ。猫を踏んだ。
「あぁ、ごめんなさーーーい!たたらないでね。
学校時代は、授業中居眠りを始めたら、決して起きない男として、有名でしたー。」
「最悪だな。」
ウンベル総司令は、煙草を出して火を着ける。窓を細めに開けた。
「しかし、こうして深夜、自ら現場に赴くなんて、わしって本当に偉いのかな?隊長クラスでも、指揮官自身が現場に急行するなんて、まずないんじゃないか?」
「メグレ警部は、警視になってもその姿勢を貫いてましたよ。」
スズキくんも、煙草を取り出した。本日、二本目だ。
「もっとも、現場を離れて政治的やりとりに終始しちゃったら、メグレ物じゃないですが。
・・・おぉっと。」
タクシーが大きく蛇行した。
「もっと慎重に運転してくれよ。車が長持ちせんじゃないか。
・・・んん?どうしたんだ、スズキくん?」
一気に眠気が醒めて、青ざめた顔でスズキくんが云った。
「司令。また、なんか轢いたみたいです。」
[シーン4・夜の住宅地]
(斜めに停まったスズキ9号車。路面についたゴム跡が煙っている。)
倒れている毛むくじゃらの人影。
駆け寄るウンベル総司令とスズキくん。
「おーーーい、あんた、大丈夫か?!」
その途端、ガバッと起き上がってくる怪人物。伸びた鋭い爪が、スズキくんの鼻面を引っかいた。
「イテテテテ!!」
飛びずさり、暗闇にギラリと輝く真っ赤な目。変身した由美子だ。
「ウワッ!!お前は!!」
いきなり、腰だめに拳銃を構え、発射するウンベル総司令。
ビックリして腰を抜かしたスズキくんを尻目に、慌てて逃げ出す由美子。拳銃の弾などものともしない、異常な走りっぷりである。
「・・・ま、コイツは銀の弾丸じゃないからな・・・。」
路肩の藪に潜り込んで姿を消した由美子の方を睨みながら、小声で司令が呟く。
「し・・・司令。あれは、いったい・・・?!」
「見ての通りだよ。
よし、この地区一帯に非常警戒網を張るんだ。総員緊急配備!!」
[シーン5・深夜、薬局の看板前]
酔っ払い、看板に凭れて泥酔状態。背後に月、煌々と照り輝いている。
「ウィィッ、ヒック。」
フラフラと近づいてくる狼人間。黒いシルエット。
「なんだ、おめぇは?かぁちゃんか?このやろ。ペッ!」
唾を吐き、持っていた日本酒を瓶ごと呷る。
幸せそうな薄笑いを浮かべている。
小首を傾げた狼人間だったが、意を決したように爪を一閃させる。
地面に転がる、酔っ払いの首!!
まだ、半笑いを浮かべている。
狼人間、踵を返すと夜の街に消えていく。その姿にかぶる由美子のつぶやき(twitter)。
「待ってて・・・小宮山くん。今いくからね・・・。」
(CM入る。以下次号)
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