池川伸一『恐怖のほうたい女』 ('80、日)
誰がBADだって?!
マイケル?・・・そんな奴のことは忘れちまいな!
そう、あんたがマイケル・J・フォックスやマイケル富岡のことを忘れたみたいに、さ。
俺たちは、「時間」という名の列車に乗ってるんだぜ。
目的地は、墓場。
遅いも早いもあるもんか。
俺に言わせりゃ、本当のBAD(ワル)は池川伸一だ。
リスペクト!
あんたに、「ほうたい女」の話をしてやろう。
女としての幸せを、残らず奪い取られた奴さ。悲しい話さ。
彼女は、母親の再婚相手に殺されかけた。
自分達、親娘を捨てて、若い別の女に走った父親に、だ。
母は失意から病気で亡くなり、天涯孤独の身となった彼女は、義理とはいえ父親の責務を一切果たそうとせず、平気で新家庭を構えた男を許すことが出来なかった。
彼女は単身、男のところに話をつけに乗り込んで行き、こう云った。
「私は、絶対許せない。あんたの新しい家庭をメチャメチャにしてやるわ!!」
義父は前非を悔いた。
海より深く、反省した。
だけど、彼女がそれを許したかって?・・・許す筈ないだろ!
意を決した父親は、「すまない。すまない。」と呟きながら、彼女の首を絞めたのさ。
こうして、彼女は殺されたんだ。アーメン。
しかし、彼女は蘇った。
ポーの「早すぎた埋葬」(1850)さ。乱歩の「白髪鬼」('31)さ。
暗闇の地底で目覚め、恐怖に身を焦がされながら、全身をネズミに齧られながら、逆にそのネズミの肉を食いちぎり、飢えをしのぎながら。
彼女は、地上に這い上がった。
親切な医師に助けられ、なんとか命は永らえたが。
髪は抜け落ち。肉は削げ落ち、顔は食い破られ。
必死に土を掘った指先は、骨も剥き出し、見る影もない。
医者は、整形手術を幾度も施してくれたが、無惨に崩壊し切った彼女の肉体はもとに戻らない。
そして、彼女の精神も。
二度とは元には戻らない。
彼女はかつらを被り、醜い全身をほうたいでグルグル巻きに隠すと、宣言した。
「アイツのすべてを奪ってやる!!」
・・・さぁ、そこから先の話が聞きたいかい?
本当に、ひどいことになるんだよ。
よせ、よせ。
知っても嫌な気分になるだけさ。聞かない方がいいよ。
父親は、新しい妻との間に、ふたりの子供がいるんだ。
自分がされたのと同じ仕打ちを、その子らに。
十歳の子供の手を、ネズミに喰い切らせ、骨まで剥き出しにする。
この、骨が飛び出した指先のアップが、実に凶悪な描写でね。
また、かじられた子供が「痛い、痛い。」と泣くもんで、こっちまで指先が痛んでくるよ。
包帯だらけのその子を縛り上げて、目玉と耳にクリームを塗るんだ。
またも、ネズミを放って襲わせる。
そいつを眺めてほくそえむのさ。
しまいに、その子は棺に入れられ、地中に埋められ、完全に発狂。
もう、人間じゃないよ。
唸り声を上げて、姉に襲いかかって来るのさ・・・。
・・・どうだい、誰がBADか分かったかい?
マイケル?
おいおい、こんな気分の悪い話をした俺だって?!
こんな嫌な話をしたのには、理由があるんだ。
俺たちがこの店で扱ってる商品には、愉快なばかりじゃ済まない、劇薬もあるってこと。
それに、もうひとつ。
きれいに包装されたお菓子だけじゃ生きていけないってことさ。
誰も、ね。
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