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2010年3月 1日 (月)

池川伸一『恐怖のほうたい女』 ('80、日)

 誰がBADだって?!

 マイケル?・・・そんな奴のことは忘れちまいな!
 そう、あんたがマイケル・J・フォックスやマイケル富岡のことを忘れたみたいに、さ。
 俺たちは、「時間」という名の列車に乗ってるんだぜ。
 目的地は、墓場。
 遅いも早いもあるもんか。

 俺に言わせりゃ、本当のBAD(ワル)は池川伸一だ。
 
リスペクト!

 あんたに、「ほうたい女」の話をしてやろう。
 女としての幸せを、残らず奪い取られた奴さ。悲しい話さ。

 彼女は、母親の再婚相手に殺されかけた。
 自分達、親娘を捨てて、若い別の女に走った父親に、だ。
 母は失意から病気で亡くなり、天涯孤独の身となった彼女は、義理とはいえ父親の責務を一切果たそうとせず、平気で新家庭を構えた男を許すことが出来なかった。
 彼女は単身、男のところに話をつけに乗り込んで行き、こう云った。

 「私は、絶対許せない。あんたの新しい家庭をメチャメチャにしてやるわ!!」

 義父は前非を悔いた。
 海より深く、反省した。
 だけど、彼女がそれを許したかって?・・・許す筈ないだろ!
 意を決した父親は、「すまない。すまない。」と呟きながら、彼女の首を絞めたのさ。
 こうして、彼女は殺されたんだ。アーメン。

 しかし、彼女は蘇った。
 ポーの「早すぎた埋葬」(1850)さ。乱歩の「白髪鬼」('31)さ。
 暗闇の地底で目覚め、恐怖に身を焦がされながら、全身をネズミに齧られながら、逆にそのネズミの肉を食いちぎり、飢えをしのぎながら。
 彼女は、地上に這い上がった。
 親切な医師に助けられ、なんとか命は永らえたが。
 
 髪は抜け落ち。肉は削げ落ち、顔は食い破られ。
 必死に土を掘った指先は、骨も剥き出し、見る影もない。
 医者は、整形手術を幾度も施してくれたが、無惨に崩壊し切った彼女の肉体はもとに戻らない。
 そして、彼女の精神も。
 二度とは元には戻らない。

 彼女はかつらを被り、醜い全身をほうたいでグルグル巻きに隠すと、宣言した。

 「アイツのすべてを奪ってやる!!」

 ・・・さぁ、そこから先の話が聞きたいかい?
 本当に、ひどいことになるんだよ。
 
よせ、よせ。
 知っても嫌な気分になるだけさ。聞かない方がいいよ。

 父親は、新しい妻との間に、ふたりの子供がいるんだ。
 自分がされたのと同じ仕打ちを、その子らに。

 十歳の子供の手を、ネズミに喰い切らせ、骨まで剥き出しにする。
 この、骨が飛び出した指先のアップが、実に凶悪な描写でね。
 また、かじられた子供が「痛い、痛い。」と泣くもんで、こっちまで指先が痛んでくるよ。
 
 包帯だらけのその子を縛り上げて、目玉と耳にクリームを塗るんだ。
 またも、ネズミを放って襲わせる。
 そいつを眺めてほくそえむのさ。

 しまいに、その子は棺に入れられ、地中に埋められ、完全に発狂。
 もう、人間じゃないよ。
 唸り声を上げて、姉に襲いかかって来るのさ・・・。 
 
 ・・・どうだい、誰がBADか分かったかい?
 マイケル?
 おいおい、こんな気分の悪い話をした俺だって?!

 こんな嫌な話をしたのには、理由があるんだ。
 俺たちがこの店で扱ってる商品には、愉快なばかりじゃ済まない、劇薬もあるってこと。
 それに、もうひとつ。
 きれいに包装されたお菓子だけじゃ生きていけないってことさ。
 誰も、ね。

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