Lio 『POP MODEL』 ('86、仏)
私は嬉しい。ようやく、傑作『POP MODEL』の話ができるから。
みんな既に誤解してると思うが、「吸血」とか「人体破壊」とか、私は別に趣味じゃないんだ。押入れに死体写真のコレクションとか大量に持ってたりしないから、安心して遊びにきて欲しい。
そういった意味で今回、世間一般に「かわいい」ジャンルに規定されるものを、堂々と取りあげさせて貰う。文句あるかね。
ない?結構。
(とかいいつつ、今回の文章の書き出しが、夢野久作『あやかしの鼓』のもじりであるのは、あなたと私の秘密だ。)
ご存知の方はご存知、大半の人はそんなやくざな世界とは無縁の生活を送っていると思うのだが、このLioというのは、どうやら世界初の「テクノポップ・アイドル」と定義される、きな臭さ満点の人物であるらしい。
テクノポップ!
アイドル!
胡乱な諸君も、ベルギーのテクノポップグループ、TELEXの存在ぐらいはご承知おきだろうが(知らなくていっこうに差し支えないが、細野晴臣が当時押してたという情報くらいは、小耳に挟んどいて。)、
1980年、芳紀16歳にして、そのプロダクションでデビューし、いきなりの大ヒット。これがまた、羞恥心など百万光年の彼方に吹き飛ぶような、極ロリータボイスに能天気なシンセリフが連打される、超絶に間抜けな内容。
立派な大人が聴くには、あまりにアレな、ま、細川ふみえの『スキ・スキ・スー』の先祖みたいなもんだ。
それを証拠に、歌詞の内容としては、「♪バナナ、ナ、ナ、ナ、ナナ」と連呼(事実)。あなたは、耐え切れるか?
これがフランスの皆さんに大ウケし、一躍国民的美少女に。もう、世の中、バカばっかり。
それからしばらく、似たようなシンセ路線が続いたが、飽きられてしまえばアイドルなんかお仕舞いだ。奇しくも、世間はMTVの時代が到来。メガヒットが連発し、面白ければ欧州からも世界的ベストセラーが出る、よい世の中になっていた。
(例=ネーナのロックバルーンはなんたら、ファルコの秘密警察、あと、誰だったか、ボウイのメイジャー・トムが地球に帰って来る、野暮な続編を歌ってた奴も居た。)(うろおぼえ。)
そこで、満を持してプロダクションを固め、よりメジャーなミュージックシーンに殴り込みをかけたのが、このアルバム『POP MODEL』ということになるワケだ。
しかし、このアルバムは傑作だ。
プロダクションの前提として、まず、かのシンディ・ローパーの名作デビュー盤の存在があって、元気な女の子コーラス、太いシンセ、にぎやかに入るアコギのストロークが多用されている。
それから、トレーシー・ウルマンの偽オールディーズ路線が入ってきて、ちょいと表面的なビーチボーイズ、というか似非サーフィン&ホットロッドの景気のいい(それだけの)盛り上がりがある。
すなわち、軽薄で、八十年代的な楽しさに溢れていて、ちょいとノスタルジック、ってことだ。
泣かせどころも心得ていて、締めのストリングスアレンジは、当時ヨーロッパでぶらぶらしていたジョン・ケイル先生を起用。完璧だ。
メジャー路線すぎて、もはや「テクノポップ」でも、「アイドル」でもないかも知れないが、一般大衆の私には、このぐらいが丁度いい。
照れずに、聴ける。
しかし、一曲目の題名が「POP SONG」なんで、思わずレックレス・エリックのカバーかと恐怖したのだが、やはり関係なくてホッとした。(そりゃそうだ。)
Lioちゃんの声は、あいかわらず天然で、バカで、無邪気というか恥知らずなだけなのか、キャリアのある歌手とは思えない無垢さで攻めてくる。
今回のレビューを書くため、あれこれ検索したら、「アキバ系」の元祖だと捉えている人も居たくらいだ。ふぅーん。
その辺は実のところよくわからないが、戸川純が参考にしたのは間違いない事実だと思う。
ところで、ここで歌われている言語は立派なフランス語なのだが、あの言葉はホント、喋るやつ次第なのだね。
ゲインズブール先生とは、まったく別の人種みたいだ。
深刻さゼロの能天気な唄を聴いていると、しまいに、なんか響きが広東語に聴こえて来る。サミュエル・ホイが作曲したんじゃないか、ってぐらいテイストがよく似てます。
フランスには、バカが多く存在するようで、素晴らしいことだ。
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