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2010年2月 6日 (土)

さがみゆき『血まみれカラスの呪い』 ('80、日)

 名作だ。

 『フランダースの犬』や『母を訪ねて三千里』に勝るとも劣らない。(ちなみに、私はこれらの本を読んだことがない。胸糞悪そうだから。)
 『血まみれカラスの呪い』は、一名を『美少女とカラス』とも謂って、怪奇物の意匠を凝らしてはいるが、実は美少女レズの傑作だ。
 この表現が露悪的で滑稽に感じるのなら、ええぃ、仕方がない。恥を忍んで、こう言い換えよう。
 これは、愛の名作だ。
 
 誰でもすぐ解るだろうが、この作品は、公開当時、製作国フランスで上映禁止を喰らった映画『小さな悪の華』('70)を直接のモチーフにしている。
 (ニッポンでは、ちゃっかり公開。)
 ホラ、例の、少女ヌードで、反カトリックで、殺人があって、最後に美少女二人がオイルを被って焼身自殺してしまう、あなたのような品性下劣な人間がいかにも好みそうな、あの映画だ。
 (もちろん、私は当然の義務として観ている。)
 クライマックス、ドレスの胸元から火だるまになり、よろよろ舞台で蠢く、手を握り合った美少女ふたりの姿は実にインパクトがあったが、
 さすが業界一の美女!さが先生である。パクったのはそこではなく、「お互いの腕に傷をつけ、その血を混じり合わせてサタンに忠誠を誓う」場面だ。そりゃ、カトリック的に絶対まずいだろう。(DVDのインタビューで、監督はカトリックへの憎しみ、違和感をぶちまけている。)
 しかし、我が国では「サタン」といえども、いまいち知名度が足りない。(悲しいかな、『ドラゴンボール』のミスター・サタンに劣る。)そして、ポイントだが、さが先生にオカルトへの関心は全然薄かった。
 すなわち、エコエコでも、アザラクでもなかった。
 だから、この「ふたりだけで永遠の友情を誓い合う秘密の儀式」は、直接の愛情表現に転化される。
 血と血が混ざり合うエロさ。なめくじの体液交換。
 呪われた物語にふさわしい。

 ストーリーを紹介しておこう。
 転校生、由利桜子と親友になった小野けい子は、初めてのデートでいきなり、彼女に腕を噛まれ、流血する。
 薄暗い森の中、あたりに人気はない。
 普通の恐怖マンガでは、この行為は吸血物への布石なのだが、ここではちょっと違う。

 「さぁ、こんどは私のうでを噛んで!血の出るほど・・・。」

 戦慄するけい子だったが、強制され、相手の腕を噛んでしまう。そして、血と血を混ぜ合わせるふたりだけの儀式が完了し、永遠に離れない友情が成立する。
 誰もが憧れる美貌を持つ桜子だが、法医学者の父は精神病院で発狂し死亡、母はそのショックで自殺未遂、半身不随となり家で気味の悪い人形を作り続けるという、強力に呪われた家系の一人娘だった。
 父親のコレクションからくすねた死体写真を持ち歩き、無害な小動物を虐待することに無上の喜びを見出す異常性格に、けい子も「さすがに、この人は、ちょっと・・・。」と常識的に引き気味になるのだが、その都度、悪い毒に惹かれるように魅了され、小悪事に加担する羽目になるのだった。
 キャラメルにたかる蟻を踏み殺し、巣から落ちたカラスの雛鳥をくびり殺し、「ホー、ホホホ、ホー♪」と冷笑する桜子。
 ついには、クラスメートを拉致し、拷問にかけて病院送りにし、事故で大怪我を負った男子生徒を精神的に追い詰め、自殺へと追いやる。
 それを傍らで目撃しながら、止めることが出来ず、自責の念にかられるけい子だったが、どうしても桜子の魔力から逃れることができない。
 そんなどん底の状況を打開するかのように、突如、カラスの大群が桜子を襲った。目玉をついばまれ、絶命する桜子。その血まみれ死体の余りの美しさに、じっと佇み、見入るばかりのけい子。
 そして、彼女の中に注入された桜子の血が、彼女の精神を変貌させ、けい子は桜子と化す。合体は、完了したのだ・・・・・・。

 こりゃ上手な換骨奪胎だ。見事な本歌取りだ。
 さすがは業界随一の美女!さがみゆき先生である。(ちなみに、業界一のイケメンは、川島のりかず先生であるらしい。)
 さが先生は、美少女(の顔)を描くのがお得意だ。往年の、クラシカルなタッチで描かれる、お目々パッチリの美少女は、現代ではモンド的なテイストを放つ逸品である。
 それ以外の描写力は皆無、と申し上げてよろしい(この作品に登場するカラスは、一部で“ぞうきんカラス”と形容されている。スミベタを単純に塗ったくっただけの、そりゃぁ、もう凄まじいシロモノである。妙に可愛い。)が、逆説的にあまりに下手な絵柄がゆえに、識閾下に潜むエロティシズムを勝手に炙り出す効果をあげている。
 妙にカクカクした人体の動きもスリリング!トーン貼りに失敗した箇所も、ミラクル。
 こうなると、すべてがプラスのベクトルを描いているように思えてくるところが、この業界のマンガを読む愉しみである。
 いや、本当に輝いて見えるのだ。奇跡は確かに起きるのだ。
 
 景気も悪いし、金もない。
 いい加減、頭頂部も草臥れ果てた。便の出が悪いんです。妻が帰って来ない。だんなに浮気ぐせが。理不尽な要求をする会社。舅と折り合いが悪く。介護。まともに働く気などとうに失せた。
 将来を俯瞰しても、明るい未来がまったく描けない。
 だが、大丈夫だ。

 さぁ、われわれもひとつ、お互いの血を混じり合わせ、カラスに目玉を突かれて死んでいこうじゃないか?!
 そう思わせてくれる、これは、真の希望に満ちた物語だ。

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