『ザ・チャイルド』(’76、スペイン)
物分りのいい大人になら、この映画、逆『ススムちゃん、大ショック』('71)、とお伝えすれば事足れりなんだろうが、
それにしても、早いな、永井豪。'71年発表か。
(エ・・・あんた、『ススムちゃん』を知らないって?
なに、それでも、あんた、人間か?!
若すぎて知らない?あ、そう。未成年。
でもね。そういうの、一般社会じゃ言い訳っていうんだよ。世間は許してくれないよ。就職だって超氷河期なんだから。今すぐ反省しなさいよ。こういう不勉強は、命取りになるよ。
こんな下らないサイトの記事を読んでる場合じゃないんだよ、これ本当よ。
今すぐ、万策尽くして入手しなさい。悪いことは云わない。頑張れ。
アラなに、忙しい?いま、受験生なの?
じゃあ、失敗する前に、余計に急いだ方がいい。
試験は落ちるだけで済みますが、『ススムちゃん』は一生憑いてまわります。)
・・・いささか脱線が過ぎたが、『ススムちゃん』は親の子殺しをグローバルなSF的視野で捉えた、永井豪の傑作短編。のちに、『デビルマン』のエピソードに組み入れられてますから、読んでトラウマになった方は多数いらっしゃると思う。マンガの形をしたトラウマ製造装置。この点に於いて我が国のマンガ表現は、他国に抜きん出て素晴らしい。。
そういう意味では、近年のマンガ表現はまとも過ぎて、ショック描写が圧倒的に不足していると思われる。
努力だの、友情だの、勝利だの、そんなもの、もはや結構だ。
マンガにまず最初に必要なのは、気のきいたショック描写である。
再び、話を戻す。
映画『ザ・チャイルド』は『ススムちゃん』の腹違いの弟みたいなもんである。
豪ちゃんのマンガが饒舌で雄弁だとすれば、こちらはちょっと寡黙なタイプだ。
舞台は、スペイン。
お祭りでにぎわう海岸の観光都市に、夫婦ものがやって来る。妻は三人目の子供を妊娠して身重だが、まぁ、気分転換にバカンスを楽しみたくなったんだろう。
爆竹が鳴らされ、ハリボテの竜や怪人が練り歩き、祭りの喧騒を極めるこの街に、時を同じくして、全身メッタ刺しの若い女性の遺体が流れ着く。死因は不明。
主人公夫婦は、騒がしすぎる街にうんざりし、沖合いに浮かぶ孤島へ足を伸ばすことにする。渡航の手配をしていると、突然海岸からサイレンが鳴り響く。
また、別の死体が漂着したのだ。
どこかで、なにか異変が起こっている。人知を越えた規模で。
こうした導入部の描写は、J・G・バラード『結晶世界』('66)の冒頭、結晶化した人体が河岸で発見されるくだりと同じ。
主人公達の企てる旅が、図らずも謎の核心へと迫る探検行になってしまうのも同様だ。
やはり、これしかないのではあるまいか。
『ザ・チャイルド』は、異様に静かな映画だ。
巻頭の街の賑わいも、主要な舞台が島に移ってからの静寂を強調するため、導入されたものであるに違いなく、昨今流行りの空疎な「ビックラかし」が一切出てこない点も含め、監督の狙いが意外と高級であることを物語る。
そうそう、この作品のヒントのひとつになっているのがヒッチコックの名作『鳥』('63)であることを考えれば、これが寓意に満ちた大人の映画であることにご賛同頂けるものと思う。
あぁ、この映画のテーマを、ハッキリ書き損ねていた。
子供による大人皆殺し計画。
これで、あなたも興味を持ってくれると思う。DVDは通販限定商品らしいので、ちょっと入手しにくいが、頑張って。
| 固定リンク
「映画の神秘世界」カテゴリの記事
- 『人類SOS!』 ('63、TRASH MOUNTAIN VIDEO)(2012.12.24)
- トビー・フーパー『悪魔のいけにえ2』 ('86、CanonFilms)(2011.12.16)
- 『ある日、どこかで』 ('80、Universal)(2011.12.13)
- 『この子の七つのお祝いに』 ('82、松竹-角川春樹事務所)(2011.12.03)
- 『宇宙水爆戦』 ('55、ユニヴァーサル)(2011.11.12)
コメント