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2010年2月14日 (日)

パスカル・コムラード『セプテンバー・ソング』('00、仏)

 チープなキャバレーサウンド。オモチャのピアノやら、なにかで。

 パスカル・コムラードは、小じんまりした可愛い毒気をふりまく、ファッション系やら文化人系にも受けのいい音楽家である。
 結構、キャリアの長い人だ。
 東急文化村と相性のいい感じ。(実際呼ばれて、何かの音楽監督を勤めたりしている。)
 でも、本質は、実は新宿マルイ本館なのである。そこんとこ、お間違えなく。

 知ってる人は知ってるし、知らない人はまったく知らない。
 そういう微妙な位置にいる有名音楽家は、世の中に結構たくさんいて(世界的ミリオンが連発した時代の後遺症か)、人口に膾炙するほど大ヒットしたシングルでもなければ、まぁ、仕方ない、無名呼ばわりも当然の結果ではあるのだが、
 それでも読者の理解を助けるために、パスカル・コムラードについて、誰でも知ってる強引な類似例を挙げると、大きなレコード屋で、ペンギン・カフェ・オーケストラと同じ棚にある感じだ。
 (これは解り易い。同世代には。)

 かつては、こういう種類の音楽は、「イージー・リスニング」と呼ばれていたのだが、よく考えたらその音楽を演ってる人に差別的な表現だ、というので廃止になったらしい。
 (「ニューエイジ」とかいう、実体のよく解らないジャンルが登場して以降のことである。)
 こういう軽い音楽を、それこそ気軽に楽しめるというのは精神衛生上素晴らしいことだと思うのだが、なにしろ昨今は世界中でふところが厳しい。

 価格に見合った以上の内容を要求されてしまう。
 無駄なものに値打ちなどない。
 精神性をもっと組み込まねば、商品として駄目だ。
 
 そういう理由で、「イージー」な「リスニング」行為すら許されなくなるとしたら、これは寂しいことである。
 すなわち、最近は軽薄な音楽でも、真剣な顔で聴くのが流行っているようで、いかがなものかと思う。
 
 さて、私がこの盤を入手したのは、タイトルの「セプテンバー・ソング」をロバート・ワイアットが歌っているからである。
 ご存知、クルト・ワイルの名曲だ。
 (いくらなんでもワイルは分かるね?『三文オペラ』とかの、ドイツの人だよ。もう、死んでるよ。)

 ワイルの曲は有名なので、いろんなアーチストがカバーしてるんだが(一番有名なのは残念だがドアーズの『アラバマ・ソング』か。)、
 ところで、きみ、世界最高の「セプテンバー・ソング」が誰のヴァージョンか知ってるかね?
 正解は、ルー・リードの「セプテンバー・ソング」である。
 誰がどう聴いても、ルー・リードの曲にしか聞えないところが最高だ。
 あまりにカッコいいので、泣けてくる。ぜひ御一聴を。

 というのは完全に余談で、問題はロバート・ワイアットである。
 あたしは、徳間ジャパンがROUGH TRADEモノの一環として、EP『WORK IN PROGRESS』とシングル「SHIPBUILDING」とか詰め込んだ編集盤を出した頃からずっとファンなのだが、
 この人、何を歌っても同じである。
 清涼感のある、静かな歌声なのだが、透明感はあっても明るさが微塵もない。温かみはあるのに、生の躍動が感じられない。
 この世の外から歌っているような、へんな声である。
 他に似た人がいない、特殊学級のような声質がうけて、結構いろんなところに顔を出して歌っている。
 (珍しいところでは、坂本龍一が『BEAUTY』でストーンズの「WE LOVE YOU」を歌わせていた。いじめか?)

 そういう意味で、今回の「セプテンバー・ソング」もパスカル・コムラードのチープなオケとの相性は非常に良くて、なかなか聴かせるテイクに仕上がっている。
 これは、ワイアットのファンには、実は悔しい話だ。
 
 私が何を問題視しているのかというと、比較的コンスタントに(といっても五年とか六年間隔だが)ロバート・ワイアット自身のアルバムも出ているのだが、これがどれもこれも大して面白くない出来なのである。
 ワイアットのファンは善良な人が多いらしくて、悪口のひとつも聞かないから、ここは長年のファンとして、云いたいことを言わせて貰う。
 奴も、もう相応の高齢になっていることだし、私もそうだ。
 残り時間は少ない。
 
 ワイアット、お前は今すぐカバーばかりのアルバムをつくれ!
 世界各地のミュージシャンと共演する必要はないぞ。
 演奏は自前のチープなキーボードと、パーカッションだけで充分だ。

 ジャズにはおもねるな。

 最近のお前の曲は、どれもいまひとつだな。
 どういう曲がいいのか分からないなら、俺が教えてやるから、今度電話してくれ!!
 

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