鬼城寺健『呪われたテニスクラブ』 ('85、日)
鬼城寺健は、オニジョージ・ケンと読むのだ。
どうだい、この名前?なにか素敵なミラクルを感じないか。
団鬼六の時代から、「鬼」の一文字を持つ名前は、和製ポルノ作家のトレンドとなった。
いわば、「心を鬼にしてひどい場面を書くゾ!」という作者の立派な決意の表れだ。受験生のハチマキみたいなものだ。
(まぁ、今どき、受験とはいえ、そんな古典的な奴らは少ないだろうが。)
われらが鬼ジョージ先生は、だから、画風・内容ともにエクストリームを志向するハードコア路線の旗手ということになる訳だ。
あぁ、誤解無きように。
別に、この作品はハードコア・ポルノじゃないよ。お子様向きのホラーだよ。(本当に?)
テーマは、ずばり人体破壊だ。
小学生の女の子七名のテニス部は、引率の森先生(おやじ)、ざぁーます先生(登場人物紹介にも、この名前で表記されている。予想の通り、メガネのおばちゃん。)と杉先生(美女)に連れられて、山花高原のペンションに合宿にやって来た。
なんで、先生が三人も必要なのか謎だが、まぁ、真夏のペンションだからだろう。東都大テニス部の楽しいお兄さん達も、一緒だ。
この一帯には、平家の落武者伝説があって、意味不明の事故や怪奇現象が頻発している。そんな土地でペンションを営んでも、客なんか入らないと思うのだが、スキンヘッドでデブ、平口広美似の呑気なオーナーは気にしていない。
主人公典子は超能力少女で、トランプのカード当てなどお手のもの。
大学テニス部には、イケメンも居るが、なぜか不釣合いなオカルト好きのメガネ(童貞)が一名居て、こいつが不用意に悪魔復活の呪文なんぞを唱えてしまったもんだから、事態は急速に悪化。
甦った平家の姫(腐乱死体)に誘惑され、メガネくんは秘密の地下墓地でベッドイン(!)。姫の姿は、魅入られた者には絶世の美女と映る、お約束。
さらに、その、死体を相手の本番行為を、ペンションで寛ぐ小学生達にテレビを通して生中継(!)。
そんな愉快な騒ぎの中、典子たちの仲間が、突然行方不明に。嫌な予感がしていると、またしてもテレビから再現VTRが。
鉄球並みの硬度と化したテニスボールに、脳天をブチ割られ、即死する小学生!!
そして、テレビからは、彼女の生き血が滴り落ち、画面に映された死体が変形していく。もはや人間じゃない姿になった死体は、ブラウン管を破壊し、典子たちに襲い掛かって来る。
落ち武者VS超能力、最終決戦の火蓋は切って落された・・・・・・。
余りの面白さに、ついつい、ストーリーを書き連ねてしまったが、本当に素晴らしいのは、話の乱暴さよりも、鬼ジョージ先生の暴走するペン先なのだ。あえて、「お筆先」と呼びたいくらいだ。
なんというか、これは劇画からの一撃、「ファッキン!手塚治虫」主義なのである。
多少はメジャーな例で、似た絵柄を探すと白土三平『カムイ伝』の二十巻を越えたあたり、百姓一揆で話も絵も一番荒れていた頃に近い。
鬼ジョージ先生は、おそらく、小じんまりと纏まるよりは、「勢い重視!」のスタンスでやって来られたに違いなく、同傾向の天才いばら美喜先生(この凄いお方については、後日項を改めて詳述する。)に比較すると、「絵が、雑。汚い。」という誤った印象を持たれがちであった。
(まぁ、私やスズキくんが単純にそう思っていたわけだが。)
本作では、その不満は見事、ストーリーと渾然一体となって、解消されている。
まさに、鬼ジョージ版『悪魔の招待状』だ!
(注・これはAC/DCの名作のことではなく、いばら先生の人体破壊路線の代表作のタイトルである。内容は、ポルトガルの悪魔による三家族惨殺だ。)
このマンガは、実は同時期に欧米で巻き起こったスプラッタ・ホラー・ブームを受けて制作されたものに違いなく、グチャグチャ粘液度は低いものの、より乾いたマカロニ的な残虐描写が堪能できる。
(しかも話の骨子なんか、まんまサム・ライミ『死霊のはらわた』だったりする。)
お互い、異常に怖い顔で睨み合って、血管がブチブチ破裂する超能力合戦も素敵。(実際、ページ数かせぎの意図としか思えない。)
しかし、大友の『童夢』がちまちまと細密描写を繰り広げていたのに比べ、このロウファイさはなんて爽快なんだ。
ゴー、ゴー、鬼ジョージ!!と、思わず声援を送りたくなるではないか。
ブラックメタルやサタンメタルなんか遥かに超越して怖い、鬼ジョージ先生の「異常な顔のどアップ」については、傑作『悪魔つきの少女』のジャケット画を参照されたい。
本物の手ごたえが、ご堪能いただけると思う。
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