『機動旅団八福神』 (’04~'09、日)
リアリティを追求して、曖昧さの駅に辿り着く。
で、いつも雨降りだ。
ごく最近といっていい近未来、戦争に負け中国に支配されている日本。
敵国アメリカとの戦争に使用されるのは、核爆発さえ受け止める絶対防護スーツ。
それに乗り込む少年少女たちの、成長の物語。
以上が外枠。
この文章を読んでも、実はこのマンガをさっぱり理解したことにならない。
福島聡の絵柄は、どう見ても大友克洋の水脈から湧き出して、アニメ方面へ流れていって、渋く纏まった感じ。
明らかにうまいんだが、万人受けするかどうかは疑問符がつく。
マンガ的デフォルメを入れたくて、でも難しい。そういう、質量感のある絵柄です。
寺田克也の表現方法が、ある程度、普及し共有化されていってる現状(アニメ系エロマンガ誌の表紙なんかごらんなさい。)を鑑みるに、この人の絵はむしろ、損かなァ、と。
もっと下手なのに、もっと売れてる人が結構いる訳ですよ。
(デスノートのマンガ家さんとか。←冗談ではなく、何回聞いても名前が覚えられない。)
福島聡が地味な印象を与えるとしたら、アニメ畑の皆さんは、もう一度よく考え直してみた方がいい。
で、話の内容なんですが、これはいわゆる「キャラもの」です。
ま、そりゃ色んな事件がありますよ、日米近未来戦ですから。京都で核爆弾テロ、とか。(緊急事態が未然に阻止される訳じゃないところが、2000年代の作品なんでしょう。『ドーベルマン刑事』なら絶対止めてる(笑)。)
でも、福島先生は最初からこれを、人物列伝のように企画していたんじゃないかという節があって、さまざまなキャラクターが出てきてエピソードを繋げていく。
例えば、
主人公の入隊、
ヒロイン(改造人間)との出会い、
鬼軍曹(女)登場、
王玲花が便所でオナニー(笑)、
あからさまに言動の怪しい男(二重スパイ)の演説、
元自衛隊員が吠え、
二枚目気取りのゲス野郎が、米軍基地での初恋エピソードを披露、
サバゲーマニアが実戦登用、
大人のおもちゃ屋の娘が救急隊員になる、
などなど。
この間、米軍は偵察機を飛ばして日本の基地を攻撃したりしてますが、実はそっちは本線じゃない。
敵側ロボット(重度犯罪者の脳髄を組み込んだ、遠隔操作型。操るのは、母親殺しの気違い。)が出てきて交戦が続いても、同じこと。
こういう外し方は、相当気合が入っていないと出来ない。
ありえない、アニメ的なウソを現実として語ろうとするなら、飛び道具的な要素を絡めてでも、そのギャップを埋めるしかないだろう。
だから、機動兵器「福神」の内部充填剤は、大人のおもちゃを改良してつくられるのだし、隊員には真性マゾが必要なのです(笑)。
冗談のようですが、これは作者として勇気ある選択です。はぐらかしや、照れがあっては出来ません。
結果、「わかりにくい」と不満を云われても、「だって現実の方こそ、充分に解りにくいじゃないか!」ということなのであります。
以上の流れからお分かりでしょうが、最終巻で描かれるのは、「満を持しての最終決戦」ではなく(いや、一応それもあるんですが、一話限りで終わり。)、かの『行き行きて、神軍』を狙ったとしか思えない、「あなたにとって戦争とは、何でしたか?」インタビュー大会なのでありました(!)。
本当に、これだけで一巻出来てる。でも、個々人の感想はあるけど、お互い議論はしないから安心して読んで頂きたい。この辺も、ゼロ年代の作品らしいところだと思います。
したがって、キレイに纏まりません。
話的には宙ぶらんのまま、幕切れです。だって、現実にオチなんかありませんもん。
リアルであるということを真剣に追求すると、曖昧さに行き着くのです。
物語のダイナミズムが戦争を語るんじゃなくて、個々の人物の記憶としての戦争像。
絵柄も含めて、福島先生はとことんリアリスティックなお方でありました。
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