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2009年12月30日 (水)

『どんづる円盤』 (’78、日) <中編>

  (承前)

  第三話、「オラといっしょに、古いそさ、いくだ!」 

 「・・・これは、大失敗だなぁー。」
 
 早や陽はすっかり傾き、宵闇の気配が漂い始めた屯鶴峯を眺めるベンチで、スズキくんは重々しく溜息をついた。
 突然、話の腰を折られたおやじは、苦々しげな表情で、
 「なにが?」
 と、訊いた。
 
 「なんでか今回の章題は、すべて諸星大二郎先生の名作『妖怪ハンター』から採られている訳でしょ。それをまた、何と無惨な・・・。
 大傑作で、単体で映画化までされた第三話『生命の木』が台無しですよ。そもそも、“古いそ”ったァ、一体なんです?!」
 「古磯ロングビーチとかな。
 まぁ、いいじゃないか。瑣末なことだ。続けるぞ。」

6) 「二年前にも円盤は来ていた。六十人ぐらいの人たちが円盤に乗って行ってしまった。」
 「その人たちがどうなったか知らないが、先生の推理では、他の星から来て人間を食料にしているんだろうっていうんだ。」

 斉藤の明かす驚愕の真実に、二の句も接げない佐田。

※    ※    ※    ※

 「確かに、無茶苦茶な設定ですよね。」
 スズキくんは、咥えた煙草をふかしながら考え深げに云う。
 おやじ、軽く頷き、
 「佐田じゃなくても驚愕するわな。二年前に円盤が来ている、どころか大昔からちょくちょく来ているんなら、今回の円盤騒ぎはなんだったのか?
 そもそも、日本国民が一挙に六十人も大量に円盤に拉致されでもしたら、いかな間抜けな官憲といえども黙ってはおるまいて。」

 白亜の岩壁に入り陽が照り映えて、夏枯れの樹々の隙間から零れ落ちる。
 カラスが、カァーと啼く。
 陰になった遠くの山肌に、徐々に闇が深まって来ているようだ。

 「そういや、文中に突然現れる“先生”ってのは、何者なんですか?ここまでの、解説にまったく出てきませんが。」
 ボリボリと頭を掻き、おやじはベンチから立ち上がり、周囲をうろつき出した。
 「先生!先生!先生!こいつが大問題なんだ。」
 ふいにスズキくんに近寄ると、
 「実は該当人物が、一名居る。
 そいつはプロローグから画面に出ずっぱりで、斉藤を超能力者呼ばわりしたり、宇宙人との仲介者に選ばれたのだ、と宣告したり、結構重要な役どころだ。
 ところが、こいつには名前がないんだ。紹介的な台詞もない。勝手に現れ、勝手に解説してるようにしか見えない。
 おまけに、この場面以降、こいつは消えてしまい、二度と画面に姿を現さないんだ。気楽なもんだ。
 ちょうど、現在のわれわれのような立場だな。」

 おやじ、くるりと読者の方を振り向き、
 「ところで誰なんだ、お前?」

※    ※    ※    ※

6)(つづき) 唐突に場面変わって、浴衣姿でひとり夕涼みする佐田の妹、ミチル。
 「おしいなァ、こんないい夜に円盤が現れないなんて。」
 呑気な台詞を云っているところへ、ザザーッと藪を這って近づく黒い影!
 「キャーッ!!」
 悲鳴をあげて失神し、地面を引きづられていくミチル。

 その声を聞いて斉藤、佐田、それに斉藤の父が彼女を捜しに出る。
 手分けして捜索するうち、墓地まで来た斉藤の父、怪しい物音に遭遇。
 「誰だ?!うぁあああっ!!!」
 真夜中の墓地に響き渡る、斉藤父の絶叫!そのまま、行方不明に。

7) 翌朝。さすがに事態を放置しておけなくなった警察(三ヶ月間なにをしていたのか?)、周辺住民の協力を得て、山狩りを開始する。
 これまた勝手に単独行動をとる斉藤と佐田。こら。樹海に奥深く横たわる、不時着したらしき巨大な円盤を発見。

 「円盤はもう来ていたんだ!僕たちが空ばかり見ている間に!」

 推定、地球到着は三ヶ月前ということか。(根拠薄弱だが。)
 何の考えもなしに、UFO内部へどんどん侵入する斉藤と佐田。
 床に倒れている宇宙服の人影、数体を発見する。(プロローグに登場した姿に同じ、(1)の記述を参照。)
 しかし、まったく身動きしない。

 「ウワッ!!宇宙人だ!!」

 端的で、非常に判り易い説明。
 しかし、宇宙服の中は空っぽのようだ。こわごわ、ヘルメットを外してみる佐田。
 すると、二重のショックが襲い掛かる。読者はすっかり置いてけぼりだ。
 
 「ワァーッ!!鬼の頭蓋骨だ!!」

 宇宙服の中には、巨大な、「鬼」を連想させる、角の生えた異形の頭蓋骨が入っていた。
 まばらに荒い髪の毛が残っているさまからして、そう年代の古いものではない。
 よく見ると、円盤のフロアには同様の大きな白骨が無数に散乱し、食い破られたらしき宇宙服の残骸もあちこちに見受けられる。
 佐田の推理。
 「この円盤が襲われて全滅したとき、怪物か何かに食われてしまったんだよ。」
 「怪物?もしや、みんなを攫ったのも同じ・・・。」

※    ※    ※    ※

 「最早、円盤並みの飛翔速度で飛ばしてますよね、このへん。」 

 おやじの肩越しに読者を覗き込み、スズキくんが云う。
 「でも、みなさん、ついてきてくれますね?
  目的地はまだまだ先なんですが、そろそろ加速度的に話が転がり出しますよ。」
 ニヤリ、笑った。

   第四話、闇の中の古い顔 

8) 無事円盤から脱出し、森を抜けて戻る斉藤と佐田。
 その途中、怪しいガリガリと何かを齧る物音を耳にする。
 藪を掻き分け、物陰からこっそり覗くと、

 目玉を刳り貫かれた女性の生首。
 地面に散乱する手足。
 そして胴体にかぶりつく、巨大ゴキブリの群れ!


 「うぁーーーッ!!」
 人間よりも大きなゴキブリが群れをなし、転がった人体を食べている。地面に拡がる血の洪水。
 着衣から推測するに、三ヶ月前、豪雨の際に崖下に転落し意識不明となり、そのまま消息を絶ったテレビタレントの女性のようだ。(前編(5)の記述を参照。)
 (しかしこの人、三ヶ月間どうしていたのだろう?)

 「ヒャーッ!!」と、その場を逃げ出す斉藤と佐田。
 気がつくと、どんづる峯の到る所で、ゴキブリ達が捕らえた人間を八つ裂きにして喰っている。まさに人肉パーティ状態。
 「ちくしょう、お父ちゃんも食べられて死んだのだ、かたきは必ずとってやるぞ!」
 ぐんぐん結論を先走る斉藤少年。

 やっと麓の村まで降りると、菰を被せた遺体を運ぶ村人に出くわす。
 「もとむちゃん、お父ちゃんが見つかったでー。」
 さっきの今で、すっかり変わり果てた父親の亡き骸に対面する少年。まさに無情の世界。
 崩れ落ち、号泣するのであった。

9) 日没。
 ゴキブリは夜行性、今夜再び襲って来るもの、と佐田は確信する。
 (この辺で判明するのだが、(1)(6)に登場し消えてしまう謎の人物“先生”とは、佐田の役廻りと被る設定の人物だったと思われる。キャラ被りにつき抹消されてしまったようだ。)
 佐田は警察に電話するがまったく信じて貰えず(先段(7)での山狩りの件、なぜか無効になっている。)、
 仕方がないので火炎瓶をつくり、インディペンデントでゴキブリと戦う決心をする村人たち。 
 
 佐田の予言どおり、満月をバックに飛来する巨大ゴキブリの軍勢!!
 手製の竹ヤリ(笑)で戦うも、まったく効果がない。
 たちまち追い詰められて、火炎瓶を放り投げ、車を運転し逃亡する佐田。免許あるらしい。ほか、斉藤少年、斉藤の母親(乳飲み児を抱いている)。
 途中、佐田の投げた必殺の火炎瓶を受けて炎上した、巨大ゴキブリが暴走。
 道路横を走る近鉄線の運転席に突っ込み、列車転覆、死傷者多数の大惨事が発生する。
 佐田も、反動で近所の石垣に追突し、メガネを割る大惨事(笑)。 

 こうなりゃ徒歩だ。
 全員走って必死に逃げ込んだ先は、やはりというか、小学校だ。(このシーケンスの描写は、完全に『漂流教室』のエピゴーネンである。)
 他にも居た生存者達(全員小学生)を指揮して、椅子や机でバリケードを築き、理科室のアルコールで火炎瓶をまたしても作る佐田。メガネを外すと、意外やイイ男。でも、イケ面過ぎて一瞬誰だかわからない(笑)。

 そして、あっという間に、「ガサ!ガサ!」と校舎の壁を這い登り、押し寄せて来る無気味な巨大ゴキブリの大群!

 鋭い肢に捕まれ空中へ消える者。追いまくられ無惨に踏み潰される者。
 佐田と斉藤の必死の反撃。竹ヤリに突き刺され、校舎二階から地面に墜落する巨大ゴキブリ。
 それでも結局、数に優るゴキブリ軍は、じわじわと人間を追い詰めていく。
 やがて、木造校舎の中で、自ら放った火炎瓶の炎で退路を絶たれ(バカ)、絶体絶命の境地に陥る佐田たち一同。

 そのとき、突如、夜の校舎の上空に現れたのは、輝く巨大な葉巻型UFOだった!!

  
(以下次号)

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