ジョン・カーペンター『パラダイム』 (’87、米)
ジョン・カーペンター!
おそらく、現役で世界トップクラスの監督のひとり。
あなたがひとしきり映画を観終わって、なにか他と違う感触が残ったら、その原因はなんだろう。
脚本が良かったのか?音楽だろうか?それとも、役者の力か?
いやいや、それらは結局、メニューの為の素材に過ぎない。
(早い話、優れた食材さえあれば、誰でもおいしい料理がつくれるだろうか?)
映画とは、、煎じ詰めれば、監督のものだ。
あなたが観たのは、もしやジョン・カーペンターのフィルムだったのかも知れない。
『パラダイム』は、カーペンター版のオカルト映画だ。
扱われているのは、悪魔の復活という古典的題材であり、だから『エクソシスト』であり『オーメン』である。
なにをいまさら、という陳腐極まるお話を、カーペンターは、あくまでクールに徹したアクションとして演出する。
主な舞台は、都会の一角に佇む、古びた教会。
主人公達はこの建物に篭城を余儀なくされ、悪魔の復活を阻止するべく、捨て身で奮闘することになる。
意匠はSF仕立てで、電子装置による聖典の翻訳や、未来からのタキオン通信なんてサブアイディアも登場する。
だから、近代科学対心霊現象という、この図式はなんだか『たたり』や『ヘルハウス』といったお化け屋敷映画の古典へのオマージュにも見えてくるのだが、カーペンターの独自性は、形式だけ借りた安易なパロディに堕することは決してない。
ハワード・ホークス『リオ・ブラボー』に映画の神を見た男は、思わず「うまい!」と唸らされる必殺のワンカットを駆使するガンマンである。
例えば、ドナルド・プレザンスが、教会に到着するカットを観たまえ。
滑り込む巨大なリムジン。
街路に吐き出される神父。
見上げる彼の遠景ショットに、
フェンス越しに手前から映り込んでくる浮浪者。
完璧だ。
そして、その後の、プレザンスの振り向くアクションに、画面下からニュッと伸び上げる浮浪者の動きを繋いだカットも見事なタイミング。
派手な特殊効果などなしに、役者のアクションだけで思わずギョッとさせる場面が成立してしまった。
あぁ、映画たるもの、こうでなくっちゃ。
誰もが拍手喝采である。
そういや、ナイフと血のりばかりが一人歩きした感のある商業映画デビュー作『ハロウィン』であるが、実は前述したような緩急自在のアクションによって構成される、渋い映画だった。
(ま、だから、結果としてあんまり怖くないんですが。)
現代人は語彙が貧しいので、無理やりカーペンターを恐怖映画に位置づけざるを得なかったのではなかろうか。
カーペンターの本質は、小気味いいアクション。
それに、クールなカット割りと、自ら作曲も演奏も手掛けるチープかつ単調な劇伴。
それにしても、悪魔出現に備え、教会に集結し不眠不休であれこれ奔走する科学者の皆さんを見ていると、徹夜で学園祭の準備にいそしんでいるように思われ、なんだか羨ましい。
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