『ジャッキー・デ・シャノン』 (’63、米)
世界三大ジャッキーのひとり、ジャッキー・デ・シャノン。
(あとは、ジャッキー・チェンとジャッキー佐藤。)
彼女のリバティからのデビュー盤は、痛快だ。
年の瀬、何かと慌しく、道を塞ぐ小洒落た若造など蹴り倒したい気分で歩いている、世間に絶望しきった諸君!
つまらぬ小競り合いなど起こす前に、これを聴くのだ。
時代は、フォークロックの一歩手前である。
来年は、ビートルズが上陸し、バーズがスターにのし上がる。
ジャッキー自身も、ビートルズの前座をこなし、セールスを拡大することになるのであるが(アルバム『Breakin' It Up On The Beatles Tour! (1964)』って、そのまんま)、
それはさておき、ここで問題はフォークだ。
フォークって、なんだ?
ジャッキーのデビュー盤が出るのは、ディランがかの『フリーホイーリン』をリリースする直前である。
だから、ここで演奏される「風に吹かれて」も「ドント・シンク・トゥワイス、イッツ・オールライト」も、実は本人より一瞬だけ早い。
P,P.M.やキングストン・トリオの天下であるからして、「500マイル」もあるし、ピート・シーガーのカバーもある。
だが、そんなのは些細なことだ。
このアルバムの真の値打ちは、そこにはない。
フォークの本質を私がズバリ、突いてやろう。
「フォークとは、演奏スタイルのことである。」
どうだ、愚直なまでに解り易かろう?
電気化以前の楽器を用いた、歌モノの演奏スタイル、その総称がフォークだ。
で、ジャッキーはフォークスタイルで演奏しても、全然フォークシンガーじゃなかった。
一見きれいなおねえさん風なのに、期待を裏切るダミ声。パンチが効いていて、パワフル。感情表現が豊か。
ソウル、入ってる。
断言するが、ディランより明らかにイッてる。
この時点で比較すると、ヤツが繊細ぶってる小僧に見えて仕方がない。
(私は、『フリーホイリン』が最初聴いたときから好きでない。私が評価するのは『ブリング・イット・オール・バック・ホーム』以降のいかれたディランだ。)
ジャッキーがディランの曲を歌った理由は、「コンサートで聴いたら、良かったから」。
その足で楽屋を訪ねて、(どやしつけて)曲提供の約束を貰ったそうだ。
ジャック・ニッチェの絶妙なアレンジ(パーカスの入りが最高)に乗せ、
ディランより男らしく(!)奏でられる、初期ディランナンバー。
痛みと哀感を、全速でカッ飛ばす、名曲「リトル・イエロー・ローゼス」。
最初聴いたとき、思わず朝の通勤電車で涙ぐんでしまった「パフ、ザ・マジック・ドラゴン」。(この曲、絶対「ヘルプ!」がパクってる。)
ジャッキー最強説を裏付ける、素晴らしい録音が連続する。十二曲、全三十二分の天国。
マキ上田も納得だ。
そんなジャッキーも代表曲、バカラックの「世界は愛を求めている」の頃になると、歌唱法を変え、細かな情感をもパワフルに表現できる大人のシンガーに成長していくのであるが、ま、それは別の話。
人を殴ってスッキリしたい夜には、このアルバムを聴くことをお勧めする。
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