川島のりかず① 『血ぬられた処刑の島』(’86、日)
[ナレーション]
二千年。
1999年にノストラダムスの予言が見事的中し、人類は遂に滅びたかと思われたのだが、ところがどっこい、一部の物好きがちゃっかり生き延びていた。
僅かな生存者達は、文明の復興を目指すでもなく、漫画喫茶に入り浸り、どうでもいいような漫画の全巻制覇に血道をあげる日々を送っていたのだった・・・。
[暗闇の中。ブィーーーンとライトが灯る。]
「よく来た、戦士スズキくん。」
無数の計器類に覆われた真紅の部屋。壁面には、さまざまレア・コミックの表紙が連続して映し出される巨大スクリーンがある。
その中枢に据えられたデスクには、黒覆面に黒いタートルの男が腰掛けている。
正面に名札。 「人類救済計画指揮官、ウンベル総指令」。
「たいがいにして下さいよ、マスター。」
対峙する、古本好きの好青年スズキくんは、いつものダウンにジーンズのラフな服装。
「今回は、なんか無理やりアニメ的な設定を入れたりして、嫌な予感がするなぁ。適当な仕事やり過ぎて、頭おかしくなったんじゃないですか?」
黒覆面の男は、押し黙ったまま背後のパネルを操作した。
スクリーンに映し出されたのは、人類壊滅の瞬間の映像である。
業火に包まれる大都会。逃げ惑う人々。亀裂が生じマグマを噴出させる大地。荒れ狂う天象に、幾本もそそり立つ大竜巻。ビルをも呑み込む大津波。
「1999年、人類は滅びた・・・。
巨大隕石の衝突とも、某国の宇宙兵器の暴走とも、あるいは地磁気の局地的異常とも云われるが・・・本当の原因は、そうではないのだ。
きみは真相を知りたくないかね、スズキくん?!」
「(小声) あまり、知りたくないなぁー。」
男は、聞こえなかった振りで、再びスクリーンを操作した。
画面に映し出されたのは、血みどろで絶叫する少女が表紙絵のマンガ本だった。年代物らしく、ちょっと黄ばんでいる。
「川島のりかずだ!恐怖の大王だ!ヤツが人類を滅ぼしたのだ!」
「やっぱり・・・。」スズキくんは、ぼやいた。
「聞かなきゃよかった。」
[場面変わって、ロボットの操縦席。コックピットの中に、原チャリのヘルメットを着用したスズキくんがいる。]
ジージーと無線が入る。
ノイズが多数混入し、タクシー無線に酷似。小型ハンドマイクで、返事をするスズキくんの格好も、まるっきりタクシー運転手だ。
「あー、あー。感度良好、感度良好。本日は晴天なり。9号車スズキ、発車用意が出来ました、どうぞ。」
カーナビにあたる位置の画面に、ウンベル総指令の顔が映った。
「こちら本部。 スズキくん、今回のきみの任務だが、漫画喫茶正面入り口から侵入してくる敵の撃滅にある。」
「それって、単なるお客様ご来店なんでは?」
「バカモノ!!お客様が、こんな恐ろしい顔して来るものか!!」
画面に映し出されたのは、眼窩に蛆をたからせ声にならぬ悲鳴に絶叫する、無数のしゃれこうべの大群だった!
「これは・・・のりかず?!」
「『血ぬられた処刑の島』!近未来SFミステリーだ!」
[瞬間、無音状態になり、アクセル全開で発進するスズキ9号車、侵入するしゃれこうべの塊りが短いカットアップで連続する。]
「ストーリー紹介モード始動ッ!」
「ストーリー、紹介します!
人口増加により、深刻な食糧危機を迎えた近未来の日本では、老人とIQの低い子供を無差別に虐殺する、おそるべき政策がとられていた!
標的にされた主人公の少女は、家族による突然の監禁、なぜかミノタウロスの顔の処刑人による執拗な追跡をくぐり抜け、同じように知能の低い仲間の少年と共に逃亡の旅を続けるが、遂に捕まってしまう!
そして、連れていかれた恐ろしい処刑の島!本当に、逆さづりにした子供の首を刎ねている!ヒドイ!
大量発生したカラスが群れをなし人間を襲う!目玉を嘴でついばむ!どろり飛び出す目玉!イタイ!
死骸が山をなす、残虐の孤島に最後の惨劇の幕は切って落とされた!」
「よし!分析しろ」
「絵柄はスカスカで、どっかで見たことのある場面続出ですが、意外と読ませます!主人公が船で日本を脱出するラストなんか、黒沢清『回路』を連想させます!」
「本当か?!」
「ちょっと、大げさに言いましたッ!」
[毒を吐く骸骨の攻撃を華麗なドライビングテクニックでかわし、スズキくんは見事タクシーを敵の中枢にぶつけるのに成功する。]
「やったかッ?!」
思わず、椅子から立ち上がるウンベル総指令。
運転席から身を乗り出し、絶叫するスズキくんの雄姿。
「見たか?!これが、古本の底力だッ!!!」
[エンディングテーマ、「稀覯本のバラード」流れる。夕陽を浴びて疾走するスズキ9号車。完全に轢き逃げだ。]
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