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2009年12月29日 (火)

『どんづる円盤』(’78、日) <前編>

 スズキくん。

  魑魅魍魎がはびこる古本の世界で、「異端」と呼ばれる道を歩き続けて数十年。
 人は彼のことを、《古本ハンター》と呼ぶ・・・・・・。

  
 
  第一話、古い探求者

 「・・・国道165号、穴虫交差点。こっから、すぐだというが。」
 
 奈良県香芝市。近鉄関屋駅で下車し、人里を離れ田舎道を歩くこと三十分ほど。
 ゆるい傾斜の尾根を登り、さすがにトレードマークの黒いスーツの下も、汗だくだ。
 「やっぱり、タクシーにするべきだったな。」
 
 「・・・おや、スズキくんじゃないか。」

 道中呼び止めたのは、行きつけの古本屋のおやじ。手ぬぐいの頬かむり、手甲脚半にタートルネック。あからさまに怪しい風体である。

 「これは、これは運減堂さんじゃないですか。なんでまた、こんなところに。」
 「なにを白々しい。
  さては、きみも真相を探りに来たんじゃないのかね。あの本を読んだろ?」
 「白川まり奈『どんづる円盤』ですね。」

 それから、しばしお互い無言で歩いたのち。
 道端にぽつんと置かれたコーラの自販機のところで立ち止まり、向かいの山の稜線を走る巨大な送電鉄塔の群れを眺めながら、おやじが口火を切った。 

 「率直に聞こう。どう思った?」
 「読んだのは、大田出版の復刻版なんですよ。『侵略円盤キノコンガ』とカップリングの。『キノコンガ』は堂々たる正統派じゃないですか。」
 「SFの王道だよね。どこに出しても恥ずかしくない、B級作品(笑)」
 「例の、キノコになった子供が、ブランコに揺られながら月を見上げる口絵なんて、素直にいい出来ですよね。やはり代表作となるだけのことはあります。」
 「じゃ、有名なんで、この作品の紹介は省略だ。」
 「キノコンガ、パスですか。いいのか?(笑)」
 
 「対して、典型的に壊れているのが『どんづる円盤』だな。」
 
 「最後まで読み終えても、“エェーーーーーッ??”って感じで。なにがどうなったのか、さっぱりわからない。慌ててもう一度読み直したんですが、やっぱりわからない。」
 「巨大ゴキブリが出てくるあたりで、完全に話を見失うよな(笑)。」
 「こんなに訳がわからない作品は久しぶりです。日野日出志の『恐怖!!ブタの町』以来の衝撃でした。」
 「なんだ、そりゃ?(笑)
  だが、安心したまえ、スズキくん。」
 「なにが、ですか?」
 「『どんづる円盤』の謎は、すべて今夜解明される。私が、解く!!」

 「エェェーーーーーッ?!」

 驚くスズキくんを尻目に、おやじは、飲み終えたコーラの缶を丁寧に潰すと、リサイクル可能なように、赤い缶類専用ごみ箱に放り込んだ。
 「ところで、地球環境は大切に、な。」
 
 僅かだが、涼しい風が出てきたようだ。

   第二話、古い唇

 「しかし、こんなインパクト抜群の地名が実際にあるなんて。」
 眼下に広がる奇岩の景勝地を眺めながら、スズキくんは呟いた。
 
 奈良県どんづる峯。
 「二上山の火山活動により火山岩屑が沈積し、その後の隆起によって凝灰岩が露出し、1500万年間の風化・浸食を経て奇岩群となった標高約150mの岩山。」(ウイキペディアの解説を丸ごと引用。)

 「確かにウィキの解説は便利だが、まんま鵜呑みにするのも考え物だぞ。実は標高15,000mの険しい岩山かも知れんじゃないか。」
 「到底そうは見えませんが。」
 ようやく屯鶴峯へ辿り着いたふたりは、観光客に用意されたと思しき路肩のベンチに座り、灰白の岩塊の並ぶ崖を見ながら、話し始めた。

 「まずは、直線的にストーリーを整理してみようじゃないか。

  以下記述する内容は、深く『どんづる円盤』のストーリーに立ち入っています。
 100%ネタバレを起こすから、まだ読んでいない人、『恐怖!!ブタの町』並みの衝撃を受けたい人は、要注意!!」

 
「今回は、随分親切ですね。」
 「フン、私はいつでも親切なのだ。それじゃ、始めようか。」

1)プロローグ

 大宇宙。主人公の少年の語り。「かれらは暗い空間を飛びつづけている。」
 巨大なUFOと、その内部。
 卓を囲む宇宙服の姿が三名。その姿は、後述する、墜落したUFOに乗っていた者と同じである。
 「やつらが来ることは間違いない、この地球へー」

2)どんづる峯。
 岩地を走る地元の少年少女。
 ひとりの少年が“鬼の壁”と呼ばれる岩壁を指差す。「ほら、見たまえ。あの岩の上に文字が浮き出ているだろう。」
 彼にだけ読めるその文字は、宇宙人の来訪予告らしい。『八月八日午後八時、われわれは円盤に乗り、ここに現れる。きみは全人類に伝え、人々を集めよ。』

3)タイトル。オカルトSFミステリー、『どんづる円盤』。

4)第一章、謎の物体UFO

 東京上空を飛行する円盤、二機。
 杉並区在住の高校生佐田は、妹と一緒にこれを目撃、宇宙人談義に花を咲かせるが、その様子を天井にへばり付いたゴキブリが監視していた。

 佐田は同人誌も発行するほどの円盤気違いだが、ある日、同様に円盤狂い仲間の斉藤もとむから手紙を受け取る。
 彼は冒頭の少年で、八月八日のUFO来訪予告を告げ、関西へ見に来いと誘う。
 くだんの妹ミチルを連れ、二上山駅で下車した佐田は斉藤と落ち合い、どんづる峯へ。
 鬼の壁には、今度は巨大な宇宙服の姿が映し出されていた。(が、例によって斉藤しか見ることが出来ない。)

5)八月八日、夜。
 テレビ局の中継も繰り出し、多数の見物人も詰め掛けたが、とうに八時半を過ぎても姿を見せない円盤。
 誰もが待ちかねて苛立つなか、突如雷鳴が閃き、豪雨が降り始める。
 不安定な足場で逃げ惑う群衆。その中で、TV局の女性タレントは足を滑らせ、ひとり谷底へ落下し意識を失ってしまう。

 それから三日後。
 円盤は待てど結局現れず、斉藤は嘘つき呼ばわりされている。
 女性タレントは依然行方不明であり、この地域で他にも何名か行方不明が出ていることが判る。

6)第二章、怪物?

 斉藤は自宅で祖父の写真を見ながら回想する。「おじいちゃんが死ぬ前に言っていた、円盤が来ても乗ってはいけない、と。」
 「円盤には乗るな、だって?!」
 この地には江戸時代から円盤が来ていた。円盤は人々を攫い、殺して食べてしまったという。
 斉藤はさらに続ける。
 「二年前にも円盤は来ていた。ぼくも乗るつもりだったんだけど、先生のおかげで乗れなかった。そのときは六十人ぐらいの人達が円盤に乗って行ってしまった。」
 
 ※     ※     ※     ※

 「ここだ!スズキくん!」
 おやじは、突然広げていた本を閉じて、叫んだ。
 「え?」
 「この無謀極まりない斉藤の発言あたりから、『どんづる円盤』の暴走は開始されているのだ!!」

  (以下次号)

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