ウンベル楽屋噺 「真夜中の緊急会議、ライブat大学病院!」の巻
(都内地下の某所。防腐剤の臭いがする暗闇。)
「スズキくん、スズキくん。」
「わッ!!突然声をかけないでくださいよ、ビックリするじゃないですか。」
「いや、実は相談したいことがあってだね。」
「だからって、なにもこんな場所に呼び出す必要ないじゃないですか。
だいたい、なんでボクはこんなゴム長を着てるんですか?」
「いいから、このブラシを持って。」
「やけに柄の長いブラシですね。・・・これでいいですか?」
「オッケー。じゃ、浮かんできたら、沈めるんだぞ。わかってると思うがな。」
(ウンベル、部屋を出て行ってしまう。鉄の扉が閉まる音。)
「え??ちょっと、どこ行くんですか?困るなぁ、あいかわらず勝手な人だ。」
(プカプカ、巨大な水槽に浮かび上がる死体。)
「うわわわッ、こういうことか!」
(しばらく、闇に中でバシバシと濡れたものを叩く音が響く。)
「ふう、ふう、こりゃ、しんどい。都市伝説は本物だったわけだ。とすると、巨額のバイト代が・・・。」
『バイト代は、出ません。』
「わッ!!どこですか、どこから話してるんですか?!」
『その部屋はガスが篭もって危険だから、表に出させて貰った。現在、外部からマイクで話しております。』
「ふざけんな!!出せ!!なに、考えてんだ!!」
(壁を蹴る靴音が、連続して聞こえる。)
『落ち着け、スズキくん。暴れても事態は解決しないぞ。』
「うるせぇ!!この、人殺し野郎!!こうなりゃ、テメエを殺して、オレも死んだるわ!!」
『微妙に永井豪を入れてくるとは、こんな情況でも衰えを知らぬやつ。あるいは、きみならば、私の抱えた悩みを解決できるかもしれん。
時に、きみは、前回自分が登場した記事を憶えておるかね。』
「・・・ゼイゼイ、ゼイ。
川島のりかず連続レビューの第一回・・・。」
『そう、『血ぬられた処刑の島』だ。
喜べ、現在Googleでこのタイトルを検索すると、二番手くらいにウンベル先生の記事がヒットします。』
「嬉しくないわ!!誰がサーチするんだ、そんなマイナータイトル!!」
『そこだ。まさに、それなのだ。私の悩みは・・・・・・。』
(パチン、とスイッチを弾く音。
遺体安置室のどこかの壁が開き、カタカタとフィルム映写機の回る音がする。)
(次々と映し出される、ひばり書房刊行の川島のりかず作品、その表紙絵。)
「『悪魔の花は血の匂い』、『死人沼に幽霊少女が!』、『怨みの黒猫がこわい!』、『狂乱!!恐怖の都市へ』・・・・・・。」
『そう、マンガ史に輝く、錚々たる名作群だ。しかし、問題がひとつ、ある。』
「へ?!」
『誰も知らんのだ、そんなマンガ家!!!』
「え、そ、そうかな?近々、BSマンガ夜話でも取りあげるとか、聞きましたが・・・。」
『ない、ない!!絶対、ない!!』
「しかし、古本マンガ収集家の間では知らぬ者がない有名人ですよ!!
超傑作『中学生殺人事件』なんて、中学の教科書にだって載ってますよ!!」
『絶対ねぇよ!!追い詰められた中学生が、発狂して家族を皆殺しにする話だぞ。』
「スカスカの絵柄と、理不尽な展開が読む者に、軽いショックを与えるという。ボクは、やはり名作だと思うのですが・・・。」
『おまえだけ!
世間は、誰も知らねぇんだよ、そんなマンガ家!』
「ウゥッ、そうだったのですか・・・・・・。」
(背後に映るスクリーン、真っ暗になり、
「ガーーーーーーン」という手書き文字が現れる。)
『川島のりかずが誰かも知らないようなレベルの連中相手に、のりかずのパロディをいくらやっても無駄なんだよ!!
オレは、突如それに気づいたの!!究極の真実に!!』
「そんな、身も蓋もない。そんなこと云ったら、『神秘の探求』なんて、誰も知らないネタばっかりですよ!」
『・・・むむむ。(小声で)ちょっとは、メジャー作品も扱ってるんだが・・・。』
「世間の方こそ、もっと、のりかずを大きく扱うべきなんです!!『FLASH』のグラビアでもいい。」
『むむ、写々丸もボッキン、だな。』
「写々丸もボッキン、ですよ!!誰も知らなくたって、確実に、有名作品より数段面白い、そういう優れたマンガがたくさんあるんです!!
そんなマンガを通して、アジアの子供に夢を与えるんですよ、ウンベル先生!!」
『・・・・・・・なるほど。私が、間違っていたのかも知れん。
・・・わかった・・・。
川島のりかず連続レビューは、継続して掲載することに大決定する。いばら美喜先生も、西たけろう先生の記事も急遽アップだ!!』
(急ぎ立ち去ろうとするウンベル。立ち止まり、読者に向かいクルリと振り返る。)
「わかっていると思うが、読者諸君!
例によって、扱う作家や作品に関する細かい解説は、意図的にカットさせて貰う!
気になるなら、持てる検索能力をフル活用して、自分で調べろ!
画像や書誌解説の充実したサイトはたくさんあるぞ。
以上だ。」
(バタン、と遠くで重い鉄扉が閉まる音。)
「あ・・・ちょっと・・・待ってくらはぁぃ・・・。」
その後、スズキくんはホルマリン溶液の中に浮かび上がる死体を、叩いては沈め、叩いては沈め、一夜を過ごす羽目になったという。
翌朝、遺体安置所で意識を失っているひとりの男が、病院の管理責任者らにより助け出されたが、彼の頭髪は極度の恐怖と疲労のためだろうか、まだ二十代だというのに、老人の如く、根元まで真っ白く変色していた。
警察では、男の回復を待って事情を聴く方針だという・・・・・・。
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