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2009年11月 3日 (火)

『Slave of the Cannival God』 ('78、伊)

 最後まで観てしまうことの不思議。
 
 私は疑問だ。それに嫌なのだ。
 このブログについて周りの人に説明するときに、「本や映画、CD、マンガとか、パッケージメディア全般に関するレビュー」です、と自ら言ってきた。でも、始めてからたいして日も経たぬのに、今回はネット動画で観た映画について取りあげる。なにが“パッケージ愛”だ。まったく、いい加減だよなぁー。

 視聴したのが英語版だったので、そのタイトルをそのまま表記したが、今回の映画は『ホーリーマウンテンの秘宝/ 密林美女の謝肉祭』というタイトルで、国内でもVHSで出ていた。(調べたらDVDでも出たようで、タイトル『食人伝説』(笑)。) 
 お察しの通り、とてもゆるい映画だ。
 一世を風靡した70年代イタリアのモンド映画、『世界残酷物語』から『食人族』(’80)に到る流れはご存知だろう。
 当時のブームに乗っかって、元ボンドガール(初代)ウルスラ・アンドレスが脱ぎまくる!(ヌードシーンは実は二回だけだが。)
 人肉を食う!(正体はなにかの動物の生肉。)
 そして、ものすごく嘘臭い斧による頭部切断!(切り口のかわいいプロップ使用。)
 必然性のない大蛇との格闘!(当然ウルスラが自ら蛇を身体に巻きつけ、キャーって叫ぶ。)
 尺伸ばしの為としか思えない、動物実写フィルムによる残酷描写が連発!(無念の表情で蛇に呑まれるお猿さん。爬虫類の群れ。池の亀。エッ、亀?)
 
 そんな映画が、果たして面白いのだろうか?

 おそろしいことに、「どうせ途中で飽きるだろう」と適当に観始めた私は、そのままずるずる引きずり込まれ、一時間三十四分、ニューギニアの沼地をさまよう羽目になったのだ。
 そして、我に返った今、この映画の魅力を説明せねばならず、非常に困惑している。

 例えば、そう、以下のようなシーンはどうだろう。 

 凶暴な食人族の襲撃を逃れて、いかだで河を遡る主人公達。
 と、仲間の不注意から大事な探検グッズが水に落ちた。こりゃいかん、と慌てて手を突っ込み、必死に水を掻き回す現地人キャストA。そのアクションが不自然に長い。これは何かあるぞ、と観客が思った瞬間、ハリボテの鰐のクローズアップ!
 「ガォーーー!!」「ギャーーーッ!!」
 水中にそのまま引きずり込まれる男。喰いちぎられた手首の切断面をこれみよがしに振り回す熱演だったが、手間のかかる水中格闘シーンは哀れ省略。
 血に染まる泥河。顔を覆い、すすり泣くヒロイン。(動画キャプションにはGirlと解説があるが、実際は四十二歳の立派なおばはんである。) 

 このテの映画では、だから、まぁ、一応観客の期待通りのことが起こる。
 エロとグロ以外で、何かの表現が突出したりはしない。
 世界映画史に、間違っても残らない一本だ。このころのイタリアは狂ったように、こうしたいい加減な映画を量産しまくっていた。
(例えば『夢魔-レディ・イポリタの恋人-』を観たまえ。まったく面白くないのに、最後まであなたは観てしまい、困った顔になる筈だ。)
 先のシーンに関連づけて言えば、
 「ありえないくらい巨大すぎる鰐が人間を頭から丸呑みにしてしまう」(『アナコンダ』だ)とか、
 「水中にいたのは、鰐かと思ったら、気のいいハゲたおやじ(ダニー・デ・ピート)でした」とか、
 「鰐に喰われると思った瞬間、横から現れた巨大タガメが獲物を攫っていった」だとか、
 観客の予想以上に面白い(あるいは、つまらない)ような事態は起こりえない。
 原住民の中にちょっと可愛い娘がいるぞ、と思えば彼女はちゃんとヌード付きの濡れ場を披露してくれる。ま、その行為中に槍で刺されて即死したりしますが。いいじゃないですか。ちょっとしたサービスですよ。でも、その過不足ない登場と退場には、存外感心させられた。

 こうしたジャンル映画の決して凄過ぎない適当さの魅力、昼間や深夜に東京十二チャンネルが垂れ流していた、洋画劇場枠をだらだら観続ける快楽については、これまで多くのことが言われてきた。
 が、的確にその理由を説明できた者は誰もいない。
 
 そもそも、われわれはなぜ、すべてをわかっていて、なお最後まで観てしまうのだろうか。
 それが娯楽の本質だとでもいうつもりか。
 
 だとしたら相当に不愉快な話だ。

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