『801Live』 (’76、英)
ブライアン・イーノの立ち位置を、イアン・ギランだと考えてみるのはどうか。
フィル・マンザネラという男は、かなり気前のいい人物らしく、ロキシー仕事が一段落した76年、こんな企画物ライブを残している。
ビル・マコーミックのベースとサイモン・フィリップスのドラムというだけで充分強力なうえに、他にキーボード、ギター(スライド)がそれぞれ別にいる豪華仕様であるからして、イーノ先生は好きにしていてよろしい。
(メインのギターはマンザネラ全開、弾きまくりだ。気前いいから。それにしても、つくづく凄い名前だ。マンザネラ。)
オリジナルジャケットでのイーノのクレジットは、「シンセ、ギター、ボーカル」の表記であるが、実質「ボーカル」担当と考えられる。(だいたい実は楽器、全然弾けないですから、あいつ。)
で、イーノの歌なんであるが、これがちょいと凄い。
声質がもともとそうなんであろうが、なんかケミカルな声なんですよ。
無機的で、コケティッシュな声。技巧や力みが全然ない。所詮うまくなりようがないだけだろうが。
そんなへなちょこ野郎の声が、このアルバムの奇妙なポップさを創り出してしまったと言っていい。端正だが、常に脱力している。自然体で、しかも虚弱体質だ。
グラムの残党が、カンタベリーロック系(元マッチングモール)のベースと、ジャズ畑出身でハードロックもこなす凄腕セッションドラマー(調べたら、現在TOTOでドラム仕事中!完全にバカ者だ!)を率いて、イーノと競演する。
しかも曲はイーノがアンビエント化する先駆けとなった、『アナザーグリーンワールド』収録曲も!
無茶だ、無茶すぎる。
そんなごった煮を、うまく集約してみせているのが、イーノの唱法の天賦の才(天然ともいう)なのであろう。
別に、イーノがシド・バレットで、バックが『神秘』期のピンク・フロイドだという観点もありうるが、残念ながらつまらない。しかも間違っている。
私としては、あいつがイアン・ギランだと思って聴くのを断然お勧めする。
なお、このアルバムには誰でも知ってる有名曲のカバーが二曲収録されていて、クライマックスに投入されるのがなんと「ユー・リアリー・ガット・ミー」というのも実に恐怖だが、
(よく考えていただきたい。一体地球上の誰がイーノに歌って欲しいだろうか、そんな曲を?選曲に周到な悪意が感じられてならない。)
もう一曲が、なぜかあの「トゥモーロー・ネヴァー・ノウズ」で、これ、意外や普通にかっこいい、良い出来なのである。(当然ミスターナントカよりもね。)
原曲より軽快で、明るい演奏。しかも立派に変な曲。演奏するメンバー、特にイーノ(ハゲ)の笑顔が身近に感じられて、なんか嫌だ。
でも、実のところ、80年代バンドのサイケデリアに多大な影響を与えたのが、ビートルズの原曲ではなくって、ここでの801の演奏だったんじゃないか、という超適当な推論は成り立つ気がする。
傍証として、トーキングヘッズ『リメイン・イン・ライト』のラス曲「オーバーロード」が、この曲の回転数を落としたみたいだった、という事実が私により確認されておりますが、よく考えてみたら、あれもイーノ自身のプロデュースだったな。ぎゃっふん。
ところで、801というのは、イーノがソロ二作目『テイキング・タイガーマウンテン』録音中に見た夢に出てきたバンド名だそうで、偶然性を重視する(単なる思いつきを珍重する)いい加減な男としては、無視できない符丁だったのであろう。
でも、それって、よく考えたらバクチ打ちの理論だよな。
そんな奴でも、ビル・ゲイツから仕事が来る程度には出世できる!
これぞ、まさにサクセス・ストーリーの幕開けといえよう!
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