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2009年11月 3日 (火)

アラン・ムーア 『フロム・ヘル』 ('04、英)

 まず書誌的間違いから。アラン・ムーアは原作者であり、作画はエディ・キャンベル。原書の出版元は米国のTop Shelf Productions, Inc.で、英国産ではない。さらに云えば2004年は邦訳の底本となったエディションが出た年であって、そのずっと以前に単行本は出ていた。

 (だがこれは洋書コミック店で分厚い原書を覗き見しながら、あまりの文字量の洪水に溜息をついていたダメ男の記憶だ。『Vフォーヴェンデッタ』も『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』も翻訳前から持っていたのだから、「フロム・ヘル」を読んでいなかったのは、明らかな怠慢だ。)

 以上の前説は(既にお気づきの方もおありだろうが)、実はどうでもいい。社交辞令だ。
 これから重要なことを言う。
 アラン・ムーアの著作を一冊も持っていない諸君。
 諸君は大きな考え違いをしていないか。

 ムーアは一部アメコミ読者の占有物ではない。
 『ウォッチメン』は確かにマンガで初のヒューゴー賞受賞作だったが、それはSF界がムーアの本質を正しく理解していたからではない。
 こと『フロム・ヘル』に関しては、題材として史上最も有名な連続殺人事件を扱っているので、歴史ファン、ミステリーファンに強力にアピールできる内容となっている。リサーチも緻密だ。翻訳ミステリ賞くらい獲るかも知れない。だが、しかしそれがムーアの本質ではないのだ。

 ムーアのもっとも重要なポイントは、彼がオリジナルなコミック作家だということだ。
 
 ムーアのようにマンガを描いた奴はいなかったし、ムーアのようにコミック界で振舞った人間は居なかった。
 (彼は、DC、マーベルといった大企業の鼻ッ面を思い切り叩いて絶縁した男だ。)
 物事を本気で突き詰めようと思ったら、相応の覚悟が必要だ。例えそれがマンガのコマ割りという馬鹿馬鹿しさの極みのようなシロモノだろうと。
 ムーアはいつも全知力で作品に取り組む。
 手抜きややっつけといった言葉は、ムーアの辞書には存在しないのだ。
 なのに、だ。
 そんな誠実きわまる男の仕事に対して、「読みにくい」の一言はないんじゃないのかね、親愛なる読者諸君?
 神は死んだのだろうか?北極グマさえも?そして、あんたは人でなしの鬼畜生だろう。この野郎。

   あぁ、失礼。

 無論、私は諸君がどれだけ真剣なのかを知っている。
 その言葉の真の意味で、常に面白い作品を求めていることも。
 
 だから、悪いことは言わない。
 今すぐムーアをお読みなさい。
 どの本でもいい。
 だが、一般向けに考えれば、この『フロム・ヘル』からどうぞ。

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コメント

>大きな考えちがい<
はしておりません。

作家をいま初めて知った
という類いの者です私は…

投稿: 鉛筆 | 2009年11月23日 (月) 04時02分

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