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2009年11月 1日 (日)

伊藤潤二『うずまき』('00、日)

 スズキくんは、古本好きの好青年。
 今日も今日とて、行きつけの怪しいおやじの店へやって来た。

 「ごめんください。・・・あれ、どうしたんですか、軒先に段ボール引っ張り出して?」
 「おかしいな、確かに持ってる筈なんだが・・・あぁ、スズキくん、いらっしゃい。」
 おやじはホコリ除けに掛けていたマスクを外し、汚い歯を見せた。
 「お茶でもどうだい。あたしもちょっと休憩するとしよう。」
 「ボクは缶コーヒーしか飲みませんから。」
 「あ、そ。好きにしなさい。それはそうと、こないだ持ってきてくれた本ね。」
 「伊藤潤二『うずまき』ですね。」

 「いやー、面白かったわ。名前は知ってても、当時押さえ損ねていた本だったんだよね。嬉しい発見だった。」
 「ボクは大好きなので、まずは分かる人にはお勧めの一冊です。」
 「確かに。でも、知らない人にどういう話ですかと訊かれたら、“うずまきに呪われた町の話”としか説明しようがないんだよな(笑)」
 「全然説明できないんですよ。だから、よくこんな変なことを思いつくなー、と非常に感心しまして。潤二先生は、間違いなく才能がありますね。」
 「異常なことを思いつく才能(笑)。しかも、私の発見した潤二の法則。事態はどんどん予想以上に悪くなっていく(笑)」
 「(笑)」
 「吸血妊婦の話とかあるじゃない。あれって、吸血鬼が大量発生、怪奇植物が手術室を埋め尽くし、犠牲者がどんどん出る。最悪の結末を呈示しておいて、”その後怖くて病院には近づけません”でおしまい。フォローなし、変化球投げっぱなし。確信犯的しらばっくれ  (笑)」
 「ボクはもともと日野日出志とか好きでして。伊藤潤二だと、あぁいうところが、貸本マンガチックでたまりません。」
 「潤二先生は、ノッて来ると際限なく変なアイディアが出るんだろうな。“首吊り気球”とかね(笑)。これがまた、見事にそのまんま(笑)」
 「(笑)」

 「つまりね、潤二氏の場合、題名とワンシチュエーション、キービジュアルが先に閃くんじゃないかと思う。あとは、それを読むに足るストーリーに拵える作業なんだろうが、とにかく生真面目かつ細かい性格の方でしょ。描線も初期の頃だと、特に神経質だ。だがしかし、極限まで行くとぶちキレる(笑)」
 「確かにどの話も、最後の方、常にキレてますね。『うずまき』の場合、キャラでいえば、斎藤秀一くんの存在ですかね。常に目の下の不吉な影がある高校生です(笑)。台風がヒロインを狙って来る話なんて、もう完全な狂人と化してますもんね」
 「台風に向かって絶叫したりしてね。うん、あんな感じだね。でも彼は事実上のストーリーテラーというか、諸星大二郎先生の妖怪ハンターでいえば、稗田礼次郎役なんだよね。いろいろな秘密を知ってる(笑)」
 「ボクは、とにかくヒトマイマイの話が大好きでして(ニタリ)」
 「あのナマナマしい感じは凄い。人間変身テーマのちょっとした傑作ですよ。しかし、真面目に読んでくと、なんなんだあの展開は。“それでどうなったかというと・・・”」
 「“学校で飼うことになったのです”」

 (両名爆笑)

 「道具立ては極めて陰湿でも、潤二先生の狂気は、完全に陽性の狂気だよな。そんなのあるのか?(笑)それが最後、解放的な笑いにつながる。なんか、ほのぼのするんだよね。私は癒されました(笑)。ともかく、『うずまき』では、読者には確実にカタルシスが約束されているね。ハッピーエンドだけがお話の醍醐味ではないことを、現代のお嬢さん方にも知って欲しいもんだ」
 「でも、あれこそが、究極のハッピーエンドなのかも知れませんよ(笑)。・・・ところでマスター、なにかお探しで?」
 「いやなに、『うずまき』読んでたら、高寺彰彦の『悪霊』を思い出したんだ。このふたつは、最後のオチがまったく同じなんだよ。スズキくん、もう読んでる?」
 「いや、その本は、初めて聞きました」
 「じゃ、きみが缶コーヒー飲み終わるまでに、捜しとくわ!」

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