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2009年10月13日 (火)

『狩人の夜』 (`55、米)

 名優チャールズ・ロートン。呪われた唯一の監督作。

 と書くと伝説めくが、この場合の「呪い」は、当時異常に客が入らなかった、という確固たる事実に基づいている。
 お話は宗教寓話とサイコホラーのでたらめなミックスでありまして、教育映画のような導入部からして尋常でない匂いがぷんぷん。

 若い父親が数名で銀行強盗を働き、仲間を殺して奪った大金を、逮捕直前に幼い娘の人形に隠す。パパはそのまま処刑されてしまうが、刑務所の同房でこの金の存在を知った宗教詐欺(偽牧師)かつ結婚詐欺師の男が、未亡人に取り入ろうと姿を現す。

でね、
 未亡人(われわれ世代には“ポセイドンアドベンチャー”でお馴染みシェリー・ウィンタース)はあっさり殺され、
 そこから、河を下って逃げる幼い娘と兄の少年と、狂ったおやじの地獄のチェイスが始まる!
(河岸の泥にはまって絶叫、とかベタなやつが)

 それにしても、この映画のモノクロ撮影のありえない美しさ、いちいちキマる印象的なカットは神の力か?

・水底に車ごと沈められ、髪をゆらゆら揺らめかす未亡人の姿を捉えた長い水中ショット
(まったくデビッド・リンチ。釣り船のジジイがそれを見つけ絶叫するくだりは“ジョーズ”だ)

・舟を岸辺に泊め、近隣の農家に忍び込む子供たち。母屋と納屋の、ふたつの三角屋根のきれいな幾何学的シルエット、月の照り返しでさざめく水面、移動するふたつの小さな影。これをワンショット、ロングで収めるという、はなれわざ。

・前述のシーンの続き。子供たちがようやく納屋の藁を寝床にまどろんだところへ、偽牧師が馬に乗り近づく。黒い帽子に黒い服。「♪神の腕に頼るのだ~」という不気味な歌をアカペラで朗唱し続けるおかしさ。怖さ。
気づいて上体を起こす少年越しに、こいつの姿が遠景に映り込んで来る場面は実に見事。

 その偽牧師を演じるロバート・ミッチャムの怪しい芝居に、リリアン・ギッシュ!

 多くの孤児達を預かる、一見偽善的にとられかねない老婦人の役柄を、実践的かつ偏狭な性格に設定した上で、かつての国民的大女優(現役のババァ)に演じさせる。
凄いのは、この人の最初のクローズアップで、足なめでゆっくりPANアップしていく、それだけでもう、息を呑むような美しさがある。

 クライマックス、ギッシュが猟銃を抱いて椅子にかけている、唐突な西部劇オマージュの場面も、だから不思議と心に傷を残すのだ。

 もともとの脚本が意図した教条主義的な宗教ドラマが、何か過剰なドラマに横滑りしていった結果、「奇妙」としか言いようのない、バランスの悪い映画が出来上がった。こりゃもう観客にうけない。

 もっと客のためを考えてヒットした、ヒッチコックの「サイコ」は1960年の公開であります。

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コメント

ウンベルケナシさま

閲覧した人の内面に染みを
残すことが無いように留意
しつつ御継続なさいませ。
貴ブログ訪問者ら側の観点
を常に念頭に置くことを
提唱を申し上げます。
貴殿のこの御記事に綴った
末尾の文章を、御自身の胸
に留めてくださいませ。。

投稿: 鉛筆 | 2009年11月23日 (月) 05時16分

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