2025年2月12日 (水)

【本編】『悪霊島』<2週間限定公開>(1981年、角川映画)

 物語が始まるや奇妙な違和感を覚える。

 呪われた島。
 不可解なダイイングメッセージを残し死亡するおやじ。
 反目する島を牛耳る邪悪な両家と成金の帰宅。
 ふたご。双子の母もこれまたふたご。(無茶)

 なんか二次創作っぽい。というか巨匠横溝先生自らやってるから、セルフパロディか。
 もう少し具体性を加味して述べると、

「復員船で死亡した鬼頭千満太の遺言に従い島へ赴くと」

「大空ゆかりに似た感じの伊丹十三がアメリカから突然凱旋帰国して来て、」
グラサンに葉巻という記号論的なわかりやすさ!)

「小竹様小梅様役を演じる岸本加代子が逢引の末に犬に片腕ちぎられ惨殺されて、」
(顔面食い破られた岸本史上もっとも残念な姿で登場するが、なんでか血が出てないので的には放送オッケーだ。汚いだけでまったく怖くないので安心して)

「夜神楽の最中に神社に火がついて、犬神家に伝わる神器で神主が心臓一突き、
(これも大流血の現場だが、陰惨さがまったくない。篠田が悪いのだ。篠田が)

「八墓村の地下の鍾乳洞には三十六人殺しのシャム双生児が祀られていて、」
(遺骨が不自然にでかいのは美術さんが必要以上に頑張りすぎた。いい仕上がりだが、いったい何歳児だあれは)

「最終的に、強烈和服オナニーを見せつけた岩下志麻が「ひぇー」と叫んで地下の闇に消える。」
(この岩下の唐突で見事かつ退場シーンだけは実に最高。時空を越えて黒沢清『叫び』に影響を与えるくらい、鮮烈な映画的サプライズ(「一体何を見せられてるんだ?」という意味)に満ちている。ドリフのコントみたいなんだが)
 
 しかし、これっていったい。
 なにがしたいんだ。
 見たことある感オンパレード。でも新作。
 へんだ。
 すげぇ、へんだ。
 私の頭はクェスチョンでいっぱいになってしまった。だが。しかし。

 謎を解くカギは、例によってWikiに堂々と載っていた。(以下引用)

 横溝は、何かで自身のことを「怪奇探偵作家」と書かれているのを読んで、探偵作家の上に「怪奇」と付け加えられているのを奇異に思うとともに、そのように折紙を付けられたならば怪奇探偵小説を書こうと思い立った。
( 横溝正史『真説 金田一耕助』角川書店〈角川文庫〉、1979年1月5日、147-150頁。「怪奇探偵作家」)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%82%AA%E9%9C%8A%E5%B3%B6#%E6%98%A0%E7%94%BB

 例の市川崑が巻き起こした金田一映画ブームにより、角川は、というかハルキぼっちゃんは、まさに我が世の春を謳歌したのであるが、よう考えたら横溝正史先生もそうだった。一躍スターの仲間入り。『病院坂の首縊りの家』なんか出演もしちゃってるし。
 先生が、自分が原作の映画見ない訳ないだろうし、「そうか、こういうのがウケるのか。ならば、その通りやってみるか」とサービス精神を発揮したとしてもおかしくはあるまい。『野性時代』に1979年新年号から1980年まで15回連載。映画化前提の連載だったはずで、劇場版は1981年10月3日に公開。『ドラゴンボール』並みに連載とかぶってる同時進行である。

 鹿賀丈史は従来とは「ちょっと違った金田一」を目指したというが(確かにちょっとイケメンだ)、「まったく違う金田一」ではないのだった。坂口良子役が中島ゆたかという不自然感は凄いけど。

 この映画で唯一本物の素材を使用していたのは、マッカートニーの主題歌だけで、そこだけが当時鑑賞した人々の記憶に鮮明に残っていたのだが、版権問題で2002年のDVD化以降はあえなく差し替え。現在映画で聴くことができるのは、ジョー山中から毒気を抜いたような気の抜けたカバーのみ。
 だが、その点も最終的には二次創作としての完成度により貢献しているように思われる。
 ご本家による「強力なパチモン」ってことだ。要は。

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2024年12月 1日 (日)

エリック・フランク・ラッセル『特務指令<ワスプ>』 (1957年) (1968年伊藤哲訳、ハヤカワ・SF・シリーズ3197)

「これ紛れない傑作。読む価値あり。地味だけど」

 古本屋のおやじは、コーヒーをテーブルに置いて、懐から縦長のポケット版ソフトカバーを取り出した。
 西日暮里の喫茶店。
 暇を持て余す怪奇探偵スズキくんは、向かいの席で深々シートにしゃがみ込み、ひっそりタバコを燻らせている。
「それ、ボクにお奨めしてるってことでいいんですか。突然呼び出して、慌ただしい年の暮れ、ボクだってあながち無為徒食じゃないんですよ!」

「あぁ。“怪奇な事件が巷に・・・”ってんだろ?(笑)今回強力に押す気ゼロだが、でも、読んだら確実に面白い。普通にエンタメを持ってきました。部分的にジャック・ヴァンスに似たノリはあるけど、ヴァンスほどの特異性、異境趣味エキセントリック展開はない。割と平坦でノーマル。というか割と決定的なこと言うけど、これべつにSFじゃなくていいの。普通の英国冒険小説でいいんだよ。括りは」
「え?ハヤカワ・SF・シリーズなのに?」
「うん、そう。これは、文庫化復刊もされないで埋もれてしまった、ロストSFシリーズの一冊だ。中味は単純な宇宙エスピオナージ物。あるある系。筋立ては別段混み入ってないよ。地球とシリウス帝国の恒星間戦争が背景になっていて、主人公は単身で潜入工作員としてシリウス傘下の惑星へ、武器や大量の贋札と一緒に降下する。やつらを内部から叩くのだ!」

「なんで贋札と一緒に?(笑)経済がらみの一種の国際謀略戦、スパイ物の亜種みたいなもんですか?」
 まったく興味の湧かないスズキくんは、あくび混じりに適当に返事をする。

「うんうん内容理解が合ってる合ってる。珍しい。で、このシリウス星人というのは、異星人というか、要は地球からの移住民族なんだが、見た目地球人とそっくりなのは当然として、主な特徴、ともかく超軍国主義国家のバリバリで、そろって皮膚が紫色で、しかも全員ガニ股なんだ(笑)」
「それって、まさか、ガミラス星人じゃないスか(笑)」
「そうそう、これを“『宇宙戦艦ヤマト』の原点発見!”とか騒ぐほど私も若くないが、案外本当にそうかも知れないよ(笑)民族主義とか人種差別とか、差別意識丸出しでもまだ特異視されてなかった時代だから。色眼鏡過ぎる他国人、第三国人像だよね」
「そんな中に潜入するとなると、まさか・・・」
「そう、主人公は登場シーンの殆どすべてをガニ股で通します!!!(笑)」
「ガニ股スパイ物。ホンのちょっとだけ、興味が湧いてきました」
「この差別思想は、後にノーマン・スピンラッドが『鉄の夢』で揶揄することになるけど、要はナチの戯画なんだ。笑いを前面に出すことなく、タチの悪いジョークを連発する。英国人の根性悪さがいい感じに物語を加速させてるよね・・・ゲホゲホ」

 おやじは息せき切って喋りすぎ、慌てて自分の前のコーヒーを啜った。
「大丈夫ですか?死ぬんじゃないですか。お迎えがきましたか」
「ゼイゼイ。・・・大丈夫だ。読みたい本があるうちは人間は決して死なないもんだ」
「カッコよすぎ。何年やってもファンつかないけど立派です」

「で、主人公は確かに徒手徒拳で、惑星全体を統括するゲシュタポみたいな秘密警察とバトルを繰り広げるんだけど、戦法が異様に地味なの。具体的なテロ方法はまずステッカー貼り大作戦だ!
「は?ステッカー?茨城のヤンキーですか?」
「政府転覆を狙う秘密組織・シリウス解放党(架空)を名乗り、宣伝のステッカーをそこら辺に貼りまくる。地下アイドルか80年代のパンクバンドのノリだね。なにその活動。政府は尻尾を掴もうって躍起になるけど、そもそもこの組織、実体がまったく無い架空のもの。党員は一人もいない(笑)」
「なるほど。派手なミリタリーSFとは一線画す、地味でベタな活動戦略ですね。そんな地味な男が本当に政権にとってどれほど脅威なんですか?」
「ガン無視でいいのに、無視しないの!ま、無視してたらこの話即終了だけど。国や軍の暴力圧政が酷ければ酷い程デマは拡散される。主人公の地味なテロ行為により、政権は動揺し、まんまと乗せられて惑星全域挙げてのテロリスト狩りに乗り出す。ま、そこは本線ではなく、あくまで側面支援。個人の活動の影響は実際にはかなり小さくて、地球軍宇宙艦隊がシリウス軍を撃破して進行して来る。政局としては勿論そっちがデカくて、主人公のは微々たる草の根活動の一環に過ぎないのが真相なんだけど。ま、サラリーマンがんばります。

 総合的に見て、この小説内では事態がいささか主人公の都合のいいよう進みすぎるのだが、そこは『鉄の夢』が採用した超ご都合主義だね。運良く生き残る奴が物語の主役。それがエンタメの基本型だから。つまり逆ストルガツキー兄弟『収容所惑星』ってことだよ。わかるだろ?!」
「・・・その譬え、一ミリも理解できてませんが・・・」

「・・・まァいいや。人類には絶え間ない啓蒙が必要だ」
 古本屋のおやじは溜息をついた。
「ともかく、本書はハリー・ハリスンが1960年以降連発する冒険SFに共通するような、従来の通俗宇宙冒険活劇を逆手に引っ繰り返す、リアリティと現実感覚の皮肉な投入なんだ。ハリスンファン全員読め。『死の惑星』『殺意の惑星』『ステンレススチールラット』被ってるぞ。つまりは宇宙ハードボイルドってことなんだが、重要な一点が違う」
「それ、なんですか?」
「ズバリ言うわよ。お色気皆無。この本真にハードボイルド過ぎて、女性は一名も出てきません!ヌードもブラウスを押し上げる豊満な乳房も無し。それなしに、この俺を最後まで読ませるのだから大したものだ」
「はぁ嘆かわしい。あんたは書籍にいつも何を期待してるんですか。どこの店ですか。ボルヘスだってお色気秘書は出ませんよ?!」

「だから、ダメなんだ!!!暴坩屁巣(ボルヘス)!この悪魔野郎!!!」
 おやじはテーブルを叩いて立ち上がる。
 さして混み合っていない喫茶店中の客が、一斉に不審な目を向けた。
「ジャスト外道。したり顔の腐れジジイめが。常にスカして叡智の権化ばかり気取りやがって。カスが。死ね死ね、死んでしまえ!!!」
「・・・いや、1986年6月14日, スイス ジュネーヴにて既に亡くなってますが。キン玉袋に豊富な精子の溜まったおやじの下半身事情は無視して、話を進めてください」

「流石だ怪奇探偵、見事な脱線捌きである」
 おやじ、居住まいを正し、
「わしの記事が自然と長くなる理由がようやく判明。無駄が多いのだね、要するに。海より深く反省し今後は精進して参ります、ということで本筋に戻すが、この本、一匹狼テロリストが世界を相手にする英雄譚です。宇宙版『ジャッカルの日』というかな。その割に派手要素なくて地味一本槍だが」、
「『ジャッカル』最近リバイバルですよね。見ました。カッコいいじゃないですか?」
「こっちの暗殺方法は大体だまし討ち。身分を偽って相手を信用させ、隙を見て路地裏とかで射殺しちゃう(笑)ナチの武官とか将軍とか。手口がはなはだ卑怯。痛快度ゼロだけど、ま、ひとりだからな。この男の働く最も派手な犯罪テロ行為は、港に停泊中の大型フェリーに時限爆弾仕掛けて沈める、ってもんなんだけど。しかも四隻」

 スズキくん、さすがに怒色露わにし、
「げげ。そりゃ単なる大量殺人じゃないですか。一番許せんやつじゃないですか」

「だろ。地獄絵図だよ鬼畜の所業だよ。ところが、その肝心の死体散らばる阿鼻叫喚の場面は出てこないだ。“いっぱい死んぬだろう”くらいのアッサリ感で主人公は遠隔地へ逃亡していってしまう。一切の深み無し。かれ自身も官警に執拗に追われ切羽詰まってるからね。戦時下とはそういうものだ」
「戦争小説のいちばんヤバい真実。戦争中ならどれだけ殺してもノット・ギルティ」
「マイク・ハマーじゃないが、ナチ野郎はどんだけ殺してもいい(笑)古いな。あ、いやでもマイク・ミニョーラの『ヘルボーイ』も同じ考えだったぞ」
「あれは、インディ・ジョーンズのノリでしょ。深い意味ないでしょ」

「殺しはよくないです」

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2023年6月17日 (土)

『Yの悲劇』(1932、エラリイ・クイーン/砧 一郎訳1957、ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス302)

 有名な作品というのは、みんな寄ってたかって勝手に色んなことを言っているものだ。

 有名税というやつで、マイナーで誰も知らない本よりも、不当で侮蔑的な扱いを受ける確率は高い。
 常連ばかりで構成される秘密のバーより、カス客クズ客が多く集まる繁華街のチェーン店。世にいう名作にはどれもそういう不憫なイメージがある。本当かわいそう。

 だが些末な細部、ゴミクズのような意見にこそこの世の真実はある。
 読んだ人間の数が多ければ多いほど、世評はグッと定まるに違いない。だれも読まない本などクソくらえ。多くに読まれなければ意味がない。暴言暴論の荒波を乗り越え、ロード・オブ・メジャーを目指すのだ。
 そうして、億千万のあまた煌めくカスども、虫けらレベル以下の読者連中の、まったくもってどうでもいい毀誉褒貶と斟酌を無限大に吸い込んだ真にタフな作品のみが、時の重みに耐えて次世代へ真の名作として語り継がれていくのだろう。

 とはいえ、そもそも誰が読んでも傑作というのは実に難しい。

 だってそうだろ、ダメすぎる意見も、意見は意見。民主主義では清き一票だ。
ギリシアの都市国家はかつて成人資格を厳格に定義した。弱き者、愚者には市民権が与えられなかった。そういう成人定義が厳格な時代もあった。
※註1.例えば紀元前451年ペリクレスの市民権法によれば、アテネ市民は、両親ともアテネ人である嫡出の男子(嫡子)のみに限定する。嫡出とは正妻の子であり、内妻の子(庶子)は除外。母親が外国人である場合も除外。
あるいは、スパルタでは参政権を持つ完全な市民は全人口の6.7%で、男子は7歳から集団訓練をおこなって戦闘能力と耐久性を養い、市民は常に共同食事をとって(!)連帯感を醸成。贅沢や娯楽は禁じられ、貧富の差を生じさせないために、国内での貴金属貨幣の使用も禁じられていた。

 現代日本は堕落したクソガキどもが支配する。意見はすべて、どこかのサイトのパクリ。引用人生。つまりはオレやキミのような普通にダメな人たちだ。

 しかし。
 優れた識者の意見だけですべてが語られるのでは片手落ちというものではあるまいか。
 どんな賢者でも将来書かれるすべての本を読み通すことなどできない。新しい本には新しい読者がいる。古い船をいま動かせるのは古い水夫じゃないだろう。
 マニアの見解なんてクソだ。国名シリーズを全部読む奴はバカだ。そんなオタクは死んでしまえ。われわれはもっといい加減で適当であるべきなのだ。

 最初に、まずは本編の引用から始める。
(いまさら『Yの悲劇』あらすじ解説もないだろう。どうだ。オチは知ってるよな???全部バラすからそう思え。私の文章でこの作品に初めて触れる者=中学生は自らの不明を恥じてエデンの門から去るがよい。)
 この本には当然色んな翻訳があって、『ダ・ヴィンチ・コード』の越前敏弥から『ドラキュラ』平井呈一先生なんてのもある。
 しかし私は熱意を持って伝えたい。ここはポケミス版がベストだ。古くさい?あぁそうとも、グッドオールドデイズ。余計な配慮や表現に対する制約が無かった自由な時代の産物だ。
 格調高い砧一郎の名調子が冴え渡る。

P.81
「こんどの事件は、わしにはなにがなんだかさっぱりわからん。つんぼ啞に毒を盛って殺そうとするやつがいるかと思えば、こんどは、老いぼれババアをなぐり殺すやつがいる」

 ここで、私は膝を打った。
 本当『Yの悲劇』って、マジこういう事件なんだよね!!!実に的確な表現だと思う。
 私はこのフレーズが登場したとき、グリグリ赤線を引いた。全然期待してなかったけど、この版の翻訳を読んで本当良かったと思った。ワクワクするようなくだらない殺人。クイーンの本質はこれだと思った。
 そういうことなんだよね〰。
 今さらなんで『Y』の古い版なんか読む?そういう曖昧な疑問に捉われながら、ブックオフで100円投入して良かった。私は意外と古書勘はいい方なのである。そうでも思わなきゃこんなに長くやっとられんよ。
 ご存じあかね書房の児童向けも含め、この本には無数の翻訳が存在すると思われるが、しかし砧訳はWikiのリストに載っていないのが残念だ。黒い力で抹殺されたようだ。

日本語訳書
1937年 春秋社、井上良夫訳
1950年 ぶらっく選書 (10)、新樹社、井上良夫訳
1958年 新潮文庫、大久保康雄訳
1959年 創元推理文庫、鮎川信夫訳
1961年 角川文庫、田村隆一訳(2015年現在、グーテンベルク21より復刊)
1974年 講談社文庫、平井呈一訳
1988年 ハヤカワ・ミステリ文庫、宇野利泰訳
1998年 乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10 (4)、集英社文庫、鎌田三平訳
2010年 角川文庫、越前敏弥訳
2022年 創元推理文庫、中村有希訳
https://ja.wikipedia.org/wiki/Y%E3%81%AE%E6%82%B2%E5%8A%87#%E6%98%A0%E5%83%8F%E3%82%BD%E3%83%95%E3%83%88

↓以下Wiki引用し放題で情報を補完する。
■砧一郎先生備忘、
砧 一郎(きぬた いちろう、1912年4月30日 - 没年不明)
1936年北海道帝国大学理学部卒業。三菱化成工業勤務の傍ら、推理小説やノンフィクションを数多く翻訳した。
1970年代以降翻訳作品は確認されておらず、すでに故人と推定されるが、没年・死因は明らかではない。
『星団の侵入者』(W・P・マッギヴァン、アメージング・ストーリーズ 第7、誠文堂新光社) 1950
『暁の死線』(ウィリアム・アイリッシュ、早川書房、ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 1954
『斧でもくらえ』(A・A・フェア、早川書房、世界ミステリシリーズ) 1961
『影なき男』(ダシール・ハメット、雄鶏社、おんどりみすてり) 1950
『赤い収穫』(ダシール・ハメット、早川書房、ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 1953
『マルタの鷹』(ダシール・ハメット 早川書房、ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 1954
『ガラスの鍵』(ダシェル・ハメット 早川書房、世界探偵小説全集) 1954
『審判の日』(ポール・アンダースン、早川書房、ハヤカワ・SF・シリーズ) 1964
『地球人よ、故郷に還れ〈宇宙都市シリーズ〉』(ジェイムズ・ブリッシュ、早川書房、ハヤカワ・SF・シリーズ) 1965
『ユダの窓』改訂版(カーター・ディクスン、早川書房) 1975
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%A7%E4%B8%80%E9%83%8E

 まさに職人!肩書名刺代わりになりそうな立派な本がまったくないではないか。天才!
 実にかっこよすぎるキャリアで、ミステリ、SF、どうでもいいやつ、不屈の娯楽魂を感じるエンタメ翻訳者のまさに鏡か。砧先生についてもっと知りたいと思う。情報あんまりないけど。

■その他の翻訳者備忘、
井上良夫は1908年(明治41年)生まれ。戦前における最もすぐれた探偵小説評論家といわれる。『赤毛のレドメイン一家』『ポンスン事件』『完全殺人事件』とか、例のノックスの十戒で有名な『陸橋殺人事件』(ロナルド・ノックス、柳香書院、1936年)なんかやってる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E4%B8%8A%E8%89%AF%E5%A4%AB
鮎川哲也と混同してはいけない鮎川信夫は、1920年生まれの詩人。早稲田大学中退。ホームズやクイーン有名どころの他に、アップダイク、『裸のランチ』(ウィリアム・バロウズ、河出書房新社、1965)なんかも訳してる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AE%8E%E5%B7%9D%E4%BF%A1%E5%A4%AB
私の中では早川文庫版ホームズ『ボヘミアの醜聞』の誤訳で有名な大久保康雄は、1905年茨城県が生んだ翻訳界のドン。無数の下訳者たちをこき使い約55年にわたり膨大な「大久保訳」を生み出す。「大久保工房」と呼ばれた下訳者の中には、戦前からの付き合いの中村能三、田中西二郎の他、白木茂、高橋豊、加島祥造など、後に独立し名を成した翻訳家たちが多くいる。 永井淳も大久保から翻訳を学んだ。清水俊二、双葉十三郎など洋画関係者とも深い交流がある。こいつはチェックだな。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%B9%85%E4%BF%9D%E5%BA%B7%E9%9B%84
田村 隆一は、1923年(大正12年)東京府北豊島郡巣鴨村(現在の東京都豊島区南大塚)に生まれる。1950年より翻訳を開始する。処女訳書はアガサ・クリスティ『三幕の殺人』。その版元であった早川書房に1953年より1957年まで勤務、編集と翻訳にあたる。当時の部下だった福島正実、都筑道夫らの回顧文では「有能だが、あまり仕事をしない、風流人」として描かれている。『スタイルズ荘の怪事件』(アガサ・クリスティー、早川書房) 1957、『我が秘密の生涯』(1975、学芸書林)、『あなたに似た人』(ロアルド・ダール、1957、早川書房)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E6%9D%91%E9%9A%86%E4%B8%80
宇野 利泰(1909年4月21日 - 1997年1月6日)は東京市神田区生まれ[2]。実家は太田鉄工所を経営し、裕福な一家に生まれ育つも、宇野の代で工場は人手に渡っている。旧制武蔵高等学校を経て、1932年東京帝国大学独文科卒。田園調布(4の70)の自宅の隣人は石坂洋次郎[5]であり、海外推理小説に詳しかったことから江戸川乱歩の知遇を得、雑誌『宝石』(岩谷書店)の創刊に貢献。大久保康雄などと同様、下訳者を使って次々に翻訳を発表、下訳者たちの育成にも秀でており、深町眞理子、稲葉明雄など数々の著名な翻訳者が出た。『帽子蒐集狂事件』(ディクスン・カー、東京創元社) 1956『はなれわざ』クリスチアナ・ブランド、『ドラゴン殺人事件』ヴァン・ダイン、『宇宙戦争』(H・G・ウエルズ、早川書房、ハヤカワ・SF・シリーズ) 1963年、『明日を越える旅』(Journey Beyond Tomorrow、ロバート・シェクリイ、早川書房) 1965年、『狂風世界』(The Wind From Nowhere、J・G・バラード、創元推理文庫) 1970年、創元推理庫版コナンも訳すが、多田雄二名義でリン・カーターのゾンガーまで。気になる男だ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%87%E9%87%8E%E5%88%A9%E6%B3%B0

さ・て・と。
 ではレビュー総まくり。まず潔癖症が登場する。彼は気が狂っていた。
(以下引用元下記)
https://www.amazon.co.jp/%EF%BC%B9%E3%81%AE%E6%82%B2%E5%8A%87-%E8%A7%92%E5%B7%9D%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%82%AF-19-2-%E3%82%A8%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%B3/dp/4042507166

本田直樹
1ページだけだが、乱雑に折れているページがあった。
もちろん読むのに支障はないが、かりにこの商品が書店に並んでいて、店員がこの事実を発見したら、間違いなく「不良品」として扱うだろう。
検品、梱包の際、ちょっと見てくれれば、この折り目は発見できたものと思われる。気を付けてほしい。

 む。む。なにこれ。
 大手Amazonさん、おたくで目にした一発目の商品レビューがいきなり、これ。ガッカリしちゃうね。そこかよ。
 ま、いいじゃないですか。実際ありますよ、そういうことって。
 交換行っても、俺が店員なら丁寧にお詫びして速攻追い返しにかかるレベルの瑕疵。社会に何を期待しているんだ新成人。バスは定刻通り来ないに決まってるだろ。中央線は遅れがち。そりゃ当り前の話じゃないか。
 電子版じゃないんだよ。そういう態度がアナログ文化を追い詰めるんだ。PDFに折り目が付くかよ。いやスキャンすりゃつくか。ともかくこれは味気ない時代に貴重な経験をしたと思え。
 なんならお前が実際自分で検品してみろよ本田。生ける昭和の残骸、印刷工場なんてのは本物の地獄なんだよ。紙束すごい重いし手を切るし、職場には人生終わってる奴しかいない。24時間稼働で交代制、深夜バイトは朝帰り。一発で生まれてきたことを後悔させてやるよカスが。

 さて、被せて個人的な恨みつらみをぶちまけたところで、次は読解力ありそうでまったくない例です。真面目ならいいってもんじゃない。

アウトサイダー
大きな失望は、意外性を狙って少年を犯人とした点である。
ハッター家は狂人の家系で、残虐な少年を生みだしたという設定は分からないまでもない。
このような快楽殺人者の少年は、人を殺すことに快楽を見出すのであり、自殺をする選択はしない。
ヨークハッターの小説の筋書きを、最後になって変更し、しかもレーンによってそれを阻まれてしまう。
少年が敗北感を味わったのか、あるいは逮捕される恐怖感から自殺を考えたのかは、筆者はまったく描写していない。
少年が自殺するよりも、少年院で更生させる方が、まだ少年の将来性があったはずだ。
これほど狡猾で残虐な少年に対して、野放しにするレーンの独善的な姿勢が評価できない。

 ・・・え、この人、ラストのオチの意味をまったく理解していない???そんなバカな。本当そんなことってあるの。小学校の図書室レベルですけど。
 これじゃ、まるでマイクル・コニイ『ハローサマー、グッドバイ』の最後で主人公の生命が救われてることに気づかない愚かなダイナマイトくんみたいじゃないか。
 「7人のお客様がこれが役に立ったと考えています」
 えーーーマジかー。その7人、なにを考えてるんだ。
 しかしさすがアウトサイダー。一匹狼。全レビュー必読だ。(『二都物語』とかやってます)

ここまで概ねアホの意見であるが、かしこい人たちは、この本をひとしなみバカにする傾向にある。
https://www.amazon.co.jp/Y%E3%81%AE%E6%82%B2%E5%8A%87-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%82%A8%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A4-%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%B3/dp/4150701423

Satoshi Tanaka
推理小説って、だいたいがこの程度
ハッター家の「悪」って言ったって、ちょっとばかり異性関係に積極的であるとか、少々お酒が好きすぎるとか、その程度なのに、おどろおどろしくかき立てるのはバカみたいですね。
横溝正史が少々家族内の性関係が濃厚すぎるのを悪魔の所業みたいに大げさに騒ぎたてるのと同様。
こんなのを分野の最高傑作みたいに担ぎ上げて何の疑問も持たない人達ってなんなのでしょうね。

 タナカァ~!!!サ~トシ~~~、くくく。お前の意見は完全に正しい。
 まったくその通りだよ。かしこいよお前。『悪魔のいけにえ』の悪魔ってのは、ちょっと一般より知能の劣る人のことだ。『悪魔の赤ちゃん』はキバとか生えてる奇形児童です。いや差別はあかん。
だ・が・な!!!
 完璧でかしこいお前が、正常なバランス感覚を持ち合わせた優秀で立派な社会人のお前が、ウクライナ難民に義援金を贈る意識高い系のお前が、しかし、エンタメ精神を1ミリも理解しない完膚なきクソ野郎であることをいま爽やかな笑顔で断言する。
 つまらん戯言を偉そうにほざくな。正解はマウントやめろ。過大広告、過剰表現すべて分かった上で、異常な戦慄に恐怖するのだ。正気と狂気の境目は僅か数センチ間隔であることを知れ。悪魔はお前の隣にいる。

 んでもって、この人もあかん。

カエルマメ
ルイザの証言時に「それって子どもでは?」と閃いてしまったので、最後の謎解きのカタルシスが激減してしまった。

https://www.amazon.co.jp/Y%E3%81%AE%E6%82%B2%E5%8A%87-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%82%A8%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A4-%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%B3/product-reviews/4150701423/ref=cm_cr_arp_d_paging_btm_next_2?ie=UTF8&reviewerType=all_reviews&pageNumber=2

結膜炎
暗闇で犯人を触ったら、肌がスベスベしていた。犯人が女性でなかったら、その属性から三段論法的に真犯人が判ってしまう。 推理ポケット読み物というか、児童雑誌のふろくレベルの「謎」に失笑してしまうだろうこと請け合いの作品。 中学生の時は推理小説が好きだったが、こいつは読むなり「くっだらねぇ」と壁に叩きつけてやったもんだ。
中身の無いこけ脅しの文章を持ち上げるのもどうかと思う。やっとベスト1位から陥落したようだが、過去の誤った読後感に捕われた年寄り達が死んだら、誰も評価しなくなるだろう。

 ううっ。かしこい。
 普通に俊敏。
 子供だましをわかってはる。テンカハル。来ない。
 そう、これが実は『Y』最大の弱点箇所で、ここが一番のネタバレする最重要ポイント。この辺の余分な一行で気づいてしまった人は実は結構多い。橋本治もここで見限ってたよな確か。
 こういう一部の者たちにとって推理小説というのは最後のオチまで軽快に突っ走るモンスターライドのようなものなのかもしれない。論理のジェットコースター。小説の出来とはアトラクションの性能うんぬんであって、つまらんものは断固つまらない。正解だ。
まったく見事な割り切り方で、ぜんぜん間違ってはいない。
 しかし、そんな不遜な態度が果たして楽しいのか謎だ。そういう人はそもそもエンタメを読むのに向いていないのでは。としまえん行け。小説読むな。

 あと、『読むなり「くっだらねぇ」と壁に叩きつけてやった』結膜炎。おまえ。おまえはまったく良い態度である。中二病というのはこういうのを言うんだろう。なんか知らんが、かっこよすぎ。泣けてくるぜ。
 だがな、愛すべきクズ野郎、結膜炎よ。小学校の校長がT字路で首切り死体でT字型に磔になって見つかる『エジプト十字架の秘密』だとか、棺掘り起こして開けたら本人以外の死体が入っててビックリの『ギリシャ棺の謎』とか、クイーンってのは徹頭徹尾そんなんばっかり。要はくだらないんだよ。そんな面倒な殺し方考える犯人もどうかしてるし、それをアレコレ真剣に推理する読者もまったくどうかしている。だいたい読者に挑戦状を叩きつける作者ってのはどうなんだ。立派な大人といえるのか。
 そりゃバカでしょ!!!
バカに決まってるじゃないか!当たり前だ。
 でも、そこがいいんじゃない、とみうらじゅんなら言うだろう。みうらが言うなら、ボブ・ディランが言ってるも同じなんだよ。あっちはノーベル文学賞だぜ。
 バカバカしいことを大真面目にたくらむ悪鬼の如き奸智に長けた犯人がいて、探偵はちょっと脳が足りないが、それでも一生懸命真面目に事件を真剣に推理して、およそあり得ない真相を暴き出す。どうでもいい過去の陰惨な因果を引き合いに出したりして。で、挙句に犯人死亡。
 そういう、バカげたくだらないことに大の大人が真剣に血まなこになってた、ふざけた時代があったんだよ!かつて。
 実に、いいじゃないか。
 泣けるじゃねぇか。
 そこに共感できる奴だけついて来い。論理が破綻とか、もうどうでもいいんだよ!理屈じゃねぇよ。インパクトで勝負だ!
 私は品性下劣なる聖エンタメ精神に忠実なこの本を断固支持するし、その理由は世間に誇れるような立派なことが見事に一行も書いてないからだ!
 薄気味悪さと後味悪さ。読んで後悔するような陰鬱さ。その本質は大バカ者の粗忽さ。うん、まったくいい本だと真剣に思うよ。
 見解は以上だ。
 さんざん偉そうに人の意見を取り上げて、勝手な引用繰り返してダラダラ書き連ねてはきたが、もちろん私の意見は最初から決まっていたのだ。

 ところで、今回の記事を編集していてあらためて気づいたのだが、事件の根本に潜む動機に関して以下の記述があることに着目したい。

https://bookmeter.com/books/2114

ymeshelf
ハッター家を気狂い一家という表現が何度もしつこく出てくる割に原因はサラッとエミリーの梅毒が原因とだけ。
梅毒が精神疾患を及ぼすイメージが無さ過ぎて、プラモ壊した弟を殺したお兄ちゃんの方が狂気を感じる。

 ・・・ん?本当か、ymeshelf?
 むかしは普通に言ってたなよ脳梅。低知能を表す悪口表現。脳に梅毒まわって頭悪くなる説。
 例えばさ、例えが古いが、梅毒をテーマにした放送禁止曲として有名な、泉谷しげるの『おー脳!!!』って知ってる?

アメリカじゃ梅毒になった人を
何年もあるところに閉じ込めて 薬も与えず
注射もせず ほったらかして
そうなればどうなるかという実験をした
結果はきみにも察しがつくだろう

(1973年11月10日 シングル『春のからっ風/おー脳!!』)

 うん、そうそう。こういう感じ。こういう感じでみんな気軽にネタにしてたんですよ、梅毒。パッと咲きます梅の花。
 要は、家長のエミリー・ハッター老夫人はかつて超ヤリマンだったってことが発端らしいんだ。
結婚前からニューヨーク社交界を喰いまくり、旦那のヨークが粗チンの激烈陰キャだったことから、その後もお盛んかつ奔放な性生活を営んでいたものと思われる。
 その乱れた性生活の過程で梅毒に感染し家庭内感染を引き起こし、呪われた一家が出来上がったということのようだ。

 さて、梅毒が子に遺伝することは研究成果から明らかである。

先天梅毒:梅毒に罹患した母体から胎盤を介して胎児に梅毒トレポネーマが感染することにより、母体のいずれの病期でも起こりうる。出生時は無症状のことが多いが、早期先天梅毒では、生後数ヶ月以内に水疱性発疹、斑状発疹、丘疹状の皮膚症状に加え、全身性リンパ節腫脹、肝脾腫、骨軟骨炎、鼻閉などを呈する。晩期先天梅毒では、生後約2年以降にHutchinson3徴候(実質性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinson歯)などを呈する。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/syphilis/392-encyclopedia/465-syphilis-info.html

 で、その具体的な症状なんであるが。。。

■梅毒の末期症状
梅毒は第1期から第4期までステージがあり、第1期は感染後から概ね3週間後から3ヶ月の間に症状が現れる時期、第2期は感染後から概ね3ヶ月以上経過した時期、第3期は概ね3年〜10年以上経過している状態で、第4期は概ね10年以上経過している状態です。
第4期梅毒には、梅毒に感染してから10〜30年後に進行すると言われています。 第4期まで進行した場合、多くの器官系に影響を与えます。 心臓や脳、血管や神経に至るまでです。 心血管系梅毒、神経梅毒といった重篤な症状に進行します。
心血管梅毒
心血管梅毒とは、梅毒細菌による心臓及び関連血管の感染症を指します。
神経梅毒
神経梅毒は第2期梅毒でも引き起こされることがあり、髄膜炎や眼症状などの脳神経症状は早期神経梅毒とされ、第4期で引き起こす可能性のある神経梅毒とは区別されます。 第4期での神経梅毒は、主に脳実質(大脳、小脳、脳幹、脊髄)に病変をきたし、進行麻痺、脊髄癆(せきずいろう)といった症状を引き起こす原因となります。
進行麻痺
梅毒による精神神経障害です。 脳実質が広く冒され、頭痛や発音の不明瞭、痴呆を主症状とします。また、記憶障害や思考力の低下、妄想などの症状も進み、末期になると全身麻痺にまで至るとも言われています。
脊髄癆(せきずいろう)
梅毒に起因する中枢神経系統の慢性疾患です。 脊髄の病変が徐々に進行し、体の痛み、瞳孔異常、歩行障害や感覚障害、排尿障害をきたします。
https://www.aozoracl.com/syphilis_makki

 梅毒は全数報告対象(5類感染症)に分類される。
 いちおう梅毒が精神疾患を及ぼすケースは現実に存在するということでよろしいようだが、それってステージ4、末期症状の段階のようですな。ざっと10年かかる。
 とすれば、真犯人ジャッキーの年齢が13歳だから、ほぼ生まれた時から罹患していたとみるべき。母子感染により梅毒が遺伝していたとみるなら、コンラッド・ハッターの奥さんは割と普通の人だった筈で、ジャッキーに遺伝するにはちと弱い。母親が先に症状出てるべきでしょ。

 そうすると、こりゃあれだ。
 ジャッキーは実はエミリーの子供で、この話は実はそういうことだ。母親殺しだ。ジャッキーの父親が誰かってのが問題になるけど、ここは一番陰惨なコンラッド父親説を支持してみたい・・・。

(と、ここまでやれば、どうだ。賢明かつ鈍感なSatoshi Tanakaくんも、ハッター家が呪われた家系だと理解してくれたんじゃないかな?)

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2023年3月 1日 (水)

ジャック ヴァンス『竜を駆る種族』('62、ハヤカワ文庫SF220) 浅倉 久志 (翻訳) – 1976/12/15

 武部本一郎が正直微妙だ。
 挿絵つきの本を久々に読めて嬉しいのだが、丁寧に細部の描写を拾って和だし風味で味付けしてくれる本一郎マジックが、ここでは皮肉にも逆説的に働き、本書の内容を単に関口幸男訳のエドガー・ライス・バローズの世界に近づけてしまった。
 『大いなる惑星』って生頼範義の表紙だけど、挿絵まで入ってたらなんか違うでしょ。
 『魔王子』が萩尾望都の表紙なのも完全に勘違い、私的にはどうでもいい興ざめ要素だ。ぬるい。

 ヴァンスは本質的にハヤカワ青背の人でしょ。硬派ゴリゴリでアダルティ。
 死ぬ人は死ぬし、たといヒロインだろうがヤラれるときはしっかりヤラれる。現実と一緒。ファンタジーじゃないんだよ。剣は剣だし、魔法はあくまで魔法。作動原理にブレがない。拳銃だろうが、物質分解砲だろうが、仕組み云々よりも実際それを持って使う手ごたえ、リアリティ。そこに命賭けてる。

「竜を駆る種族」は長さ的には長めのノヴェレット、実は中編サイズで、同じヒューゴー賞受賞作「最後の城」と対を成す傑作。
 短い中にコンパクトにヴァンス宇宙の特徴的要素がよく散りばめられているのだが、根幹は戦国武将ふたりの真向対決。野望と意地の張り合いであって、そこに超兵器と竜が絡む。
 「男は合戦!いざ鎌倉」と思う時代錯誤な人には堪えられない、峠攻め、城攻め、平原一騎討ちの連発。欧米だから残念ながら切腹はないけど、負けた方を斬り捨て成敗くらいは余裕である。負けた家臣は即座に恭順。忠誠を誓う。
 たぶん舞台劇を手本にして、登場人物を最小限ギリギリまで削ってあるので(表紙裏の登場人物欄には4人しかいない)、ホントはもう少し活躍したらいいのにと思える人とかもいるけど、いや、これはこれでいい。
  白黒で黒澤が撮ったらカンヌ!みたいな中味だよ。
 

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2022年10月 9日 (日)

澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(単行本–2015/10/30、2018年2月 角川ホラー文庫)

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★注釈、これ絶対ちゃうやろ、違うやつ

 漆黒の暗闇を切り裂いて、一本の矢が飛んだ。
 矢羽根は白地に赤い二本縦縞。白鷲の尾羽を朱線に染める宣戦布告のしるし。鏃の切っ先が鈍い光芒を放つ。
 矢はトツン、と小気味いい音を立て、怪奇探偵スズキくんの横の柱に突き立った。

「・・・は?!・・・」
 夜食のラーメンを屋台で小気味よく啜っていたスズキくんは息を飲む。
「はるばる大阪くんだりまで来て、信太山新地に巣食う妖怪年増女を退治し、快く報奨金をせしめて締めのラーメンを食べている平和な今宵のボクに、こうして堂々宣戦布告してくる不届き者は一体誰なんでしょ?」

「わしやー、わし」
 弓を片手に頬を真っ赤に染めた白塗りの中年男が飛び出して来た。黒縁大めがねを掛けダブダブの道化服を着ている。
「パンパカパーン!わしが浪速でウワサの万博仮面。好評につき二度目の襲来」
「って、仮面かぶってないじゃないですか。名乗りが漫画トリオだし。どうせ、あんた古本屋のおやじでしょ」
 おやじは露骨に傷ついた顔をした。
「うるさい。妖怪博士・・・かと思えば二十面相。鋼鉄の人魚と思えば実は二十面相。さすがに宇宙怪人だけは違うでしょ?と思ったらやっぱり正体二十面相。
 怪人は昔から意味ない変装変化を繰り返してきた。天地開闢以来の正しい伝統にわしも忠実に従っておるだけじゃ!」
「もういいから。そういうのは。無駄に記事が長くなるから。今回は手早くスピード感を持って纏めるんでしたね?ま、お掛けください」
 
 グビグビとコップの水を流し込むおやじを横目で見ながら、
「メンマ。あと瓶ビールください。グラスふたつ」
 テキパキ注文すると、
「さて、コント終了。帰りの新幹線の時間があるんで、さっさといきますよ。だいたいあんた、この為だけに自腹で旅費出したんですか」
「・・・うん」
 おやじは草臥れたのか、とろんとした目で頷く。

「澤村伊智『ぼぎわんが、来る』を一日で読んだんでね。この速度感を大切にしようと思い急いで弓を買い込んで新幹線に飛び乗った。駅員と乱闘しながら浜松、名古屋、京都。最終的に取り押さえられ迷惑行為で強制下車。交番で詫び状書かされ、あとは各停京都線で来た。この熱さとスピードを皆さんに至急お伝えしたい」
「いやそれ、かえって時間かかってるし。弓矢の意味がわかんねぇし。ホントなにがしたいんですか、あなたは」
「確かに。鉄道警察、京都府警から厳重注意くらった。今度やったら前科者だって」
 怪奇探偵スズキくんはほくそ笑んだ。
「急がば廻れ奥の細道。怪奇に抜け道なし、常に一通です。
 だいたいスピード、スピードって、あなた、P.D.ジェイムズの処女長編『女の顔を覆え』に優に一か月掛けてた人でしょ。人間関係の配置がしっくりチャンと脳内に入らないと、登場人物多い推理物はキツいですよ」
「ああ、まったくその通り。進まなくて正直イラつくわ、牧師とか医者とか近所の若造とか全員いらないんだよ!どうせ家族の話じゃん!しかも、その家族内でも容疑者のイケメン兄が看護婦に手を出すし、妹は出戻りで出版関係者と不倫しているくせに、一方で警部にコナかけるし。とにかく関係者全員が性欲ありすぎなんだよ!お前らがもっと大人しくしてれば、こんなに事件は紛糾しねぇよ!」
「そもそも、みんながもう少しまともだったら殺人事件は起きなかった可能性だってある。ジェイムズもそこが一番言いたかったんでしょうね。またしても横溝、またしても『獄門島』だ。登場人物たちのキャラが立ちすぎると、因果な歯車が勝手に廻り出し陰惨な殺人事件のひとつも起こらないと事態が収束しないという」
「それ言ったら、推理小説全般に終わりじゃん(笑)」

「ところで、」
 怪奇探偵スズキくんは注いだビールをグイと飲み干し、
「今回は確かジャパニーズホラーアクションの伝統について語るんでしたよね?」
「うん。無論スピード重視でな!ま、採り上げる本は既に“単行本⇒文庫⇒映画・マンガ”と一周以上回って最新刊とは全然言い難いけどな!」
 おやじは汚い鞄からハチマキを取り出し、締めた。「いくぞ、本土決戦だ」

「あ、キャプテンKENだ。ってか、スピードスピードっておっしゃいますが、もう開始10分以上を経過してますけどね!
 さて、今回お題の『ぼぎわん』なんですが、中島哲也の映画版は観たんですか?世評は微妙みたいですが」
「本編は観てない。公開当時にYoutubeで予告編だけ観てて、なんかJホラーはJホラーでもサイコパス出る『妖怪大戦争』みたいな感じ?そこから原作の存在を知った。歴彦逮捕の角川ホラー文庫。『粘膜人間』でお馴染みの角川ホラー大賞受賞作」
「そのコメからいいイメージがまったく湧きません」
「春樹もやばかったが歴彦もやばかった(笑)お前ら角川源義の発刊の辞を読んでないのか。“学芸と教養の殿堂として大成せん”」
「オリパラで賄賂贈れるのは大成した証拠でしょ。逮捕のAOKI会長だって1964年当時“オレは今は行商だ。だが、いつか商売を成功させて、オリンピックの審判団の服を作りたい”とルサンチマン膨らませていたそうですし」
「分かりやすい成功のイメージ。オリンピックで桃鉄あがり、みたいな。オリってホント魔性ですよね。関わった者全員を不幸にする(笑)
 それはともかく、この本を読んでないよい子のお友達にあらすじを手っ取り早く紹介しておきましょうか。おやじには頼まず、恒例Amazonよりの引用です。

幸せな新婚生活を営んでいた田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。取り次いだ後輩の伝言に戦慄する。それは生誕を目前にした娘・知紗の名前であった。正体不明の噛み傷を負った後輩は、入院先で憔悴してゆく。その後も秀樹の周囲に不審な電話やメールが届く。一連の怪異は、亡き祖父が恐れていた“ぼぎわん"という化け物の仕業なのだろうか? 愛する家族を守るため秀樹は伝手をたどり、比嘉真琴という女性霊媒師に出会う。真琴は田原家に通いはじめるが、迫り来る存在が極めて凶暴なものだと知る。はたして“ぼぎわん"の魔の手から、逃れることはできるのか……。怪談・都市伝説・民俗学――さまざまな要素を孕んだノンストップ・ホラー!
https://www.amazon.co.jp/dp/4041035562?ie=UTF8&tag=bookmeter_book_middle_arasuji_pc_logoff-22&redirect=true&viewID=&ref_=nosim#productDescription

「うんうん、こんな感じだっけ。一応合ってるが“幸せな新婚生活”というのは二重に嘘。そもそも子供がしゃべる年齢になってる夫婦は新婚ではなかろう」
「いや、子連れ婚の場合とかならあるでしょ。本書の場合は違いますが」
「あらすじだけなら、これは育児崩壊してる悲惨な家庭に子取り妖怪が忍び寄る、という実に古典的な噺でね。因もあれば果もある。事の発端は実は先代のおばあちゃんの呪いで・・・という地味な常道で、あんまり面白くない」
「面白くない(笑)イクメン皮肉ってるとこがわかりやすいので、わりかし読者には好評みたいですが・・・みんな、イクメン嫌いなんですね!」

ねこ
後半がやや失速したけど、面白かった!自称イクメン夫のリアルさが一番怖かった…。
https://bookmeter.com/books/9853223x

「うん、前半がハマる人と後半の展開に燃える人とあると思うんですよ。前半は明らかに狙って書いたっぽい。わしは当然後段推しなんだが、先に弱点指摘しとく。後段の展開は確かに力み過ぎで失速気味の箇所があってさ、新幹線代かけて東京からわざわざ近畿の山まで行って、ジッと霊視して結局「ここにはいません」って!(笑)コントかよ!警視庁動かせるレベルに忙しい人がなにやってんだよ!」
「(笑)白石晃士リスペクトのギャグでしょう。“ここじゃない!あっちだ!”ドタバタ、みたいな」
「あと、国家機密レベル級の超霊媒師が、一体どうやって祓うのかと思ったら、最終的には腕づくだった(笑)取っ組み合って押さえ込む。柔道か!(笑)」
「ま、単に睨み合うだけじゃ収拾つかないですからね。そこは大人になってください」

「でも、わしは後段の方が抜群に面白かったな。不条理な因果が襲い来る前半、別に悪くはないんだけど。例えば死にざまショック度の高い、夫の殺され方。大口でガブリ、人間半齧り。ルチオ・フルチっぽくていい」
「もしもし、そこ説明が単なるオタ妄言になってますよ!善良な一般読者の方は、映画監督フルチなんか知らないんですよ!そんなんだからいつまで経ってもメジャーになれない」
「だけど『サンゲリア』は一般人でも知ってる1980年の大ヒット映画ではないのか?公開当時、社会現象にもなった筈だぞ。『いち、に、サンゲリア』ってな!」
「だから、それは2022年現在からすれば、42年前です!高齢者しかご存じないでしょ。いま戦後何十周年だと思ってるんですか?」

本年8月に太平洋戦争終結から77年が経過する。77年というのは明治維新から太平洋戦争終結までと同じ長さだ。
引用元:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1791S0X10C22A1000000/#:~:text=%E6%9C%AC%E5%B9%B48%E6%9C%88%E3%81%AB,%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%81%A8%E5%90%8C%E3%81%98%E9%95%B7%E3%81%95%E3%81%A0%E3%80%82

「あ、やられた・・・」
「ね。この数え方されるとインパクトありますでしょ。年齢自覚するでしょ。“サイバーパンク以降のSFがよく分からん”ってあんたがボヤくのも当然。それは30年以上前の話だし、あんたなんか耄碌した老い耄れクソジジイなんですよ!」
「エ・・・老い耄れ?この、わしが・・・?わしって老人だったの?!老人Z?」
「なにボケかましてんですか。前回100年以上生きてるって公言してましたよ。どう見たってくたばり損ないの瀕死のジジイでしょーが!アントニオ猪木だって、ボブ・ディランだって死ぬときは死ぬんですよ!」
「いや、ディランは生きとるよ。まだまだ若い(Forever Young)。80歳だが・・・」
「と・も・か・く。
 年寄りの世迷い事は大概にして、話を『ぼぎわん』に戻してください。いい加減に読者全員が本気で読む気を失くしてます」

「うん。この本を読んで、わしの率直な感想は実に簡単。兄弟姉妹の違いはあるけど、霊能力で兄の方が強くて、祟られた家庭に入り込んでって、これってミスター仙人九十九乱蔵シリーズやん!」
「は?・・・ああ、夢枕獏ですか。ボクはあんまり読んでないんで詳しくないんですけど・・・」
「『蒼獣鬼』まではテンション高くて結構面白いよ。ミスター仙人のダサさ加減は正直どうかしてるんだけど。稗田が妖怪ハンターという故事に倣った編集者のフルスイング、オーバースローだろうね。獏は『幻獣少年キマイラ』朝日ソノラマ出世組だね」
「ソノラマか。菊池秀行なら結構ハマりましたよ。ボクのクトゥルー神話好きも実はそこから来てる」
「わしは、レッツゴー怪奇!ハマープロ・リスペクト!な映画レビュー本『怪奇映画の手帖』しか知らんのだが・・・この人、有名な作家の人なのかね?」
「ぎゃふん。相変わらず偏った本棚ですね。なんでそれだけ読んでるんですか?まぁ菊池先生の著作数を見てやってくださいな。確実に引きますよ!恐ろしい数です!」

菊地ファンクラブ 作品リスト
http://kikuchi-fanclub.d.dooo.jp/list.html

「うぎゃーーー!!!」
「恐れ入りましたか。菊池先生は読者も追いかけるの大変なんです。それでも付き合いで新刊が出ると買ってしまう。毎度内容スカスカで酷いって嘆きのブログよく見かけますよ」
「確かに涅槃の境地、無双モードに突入してる作家だな。なんだこれ?『トンキチ冒険記』(笑)」
「そこは積極的に無視。しかし、どんなものでもいい、作家がこれだけたんまり書けば、中には(たぶん)読むべき内容の本もあるのです」
「うむ。ま、でも確かに彼の黴臭い恐怖映画に対する愛は本物っぽかったが。初期『宇宙船』に寄稿してるくらいだからな。それでも私は小説に食指が伸びないので、たぶん今生では読むことがないであろう。来世に期待」
「はァ、あちらもいらんそうです」

 コケたおやじ、気を取り直し、崩れた白粉顔に掛けた黒縁の大眼鏡を指先で直して、
「ところでジャパニーズホラーアクション小説の伝統について概説するが、まずこれは西村寿行をゴッドファーザーと規定する。ジャンルの草分け的存在だ。具体的には、連作長編『鬼』(角川書店 1983年)に結晶化されるような、怪奇、陰陽師、性と暴力と霊能力に犯罪が絡む大人の黒い読み物の総称だ」
「ふむふむ。さっぱりわかりません。ボク、その人ぜんぜん読んでないです」
「映画にもなった『犬笛』とか知らん?誘拐された自分の娘を取り戻すべく鬼刑事が執念深く追って行って、犯人を追い詰めると、島田陽子が乳首にバンドエイド貼ってコンニチハ~って出て来るという(笑)」
「なんですか、それ・・・?コントですか?」
「国民的大ベストセラーだよ!松本清張とか森村誠一とか大藪春彦とか、社会推理や暴力全面肯定派が国民の本棚を賑わしていた時代があったんだよ!売れたからガンガン映画化もされて超大作として封切ってた。今じゃブックオフの棚の肥やしだ」
「はぁ。『黒革の手帳』とかなら今でもしつこいくらい映像化されてますが」
「現代に継承されてるのは、『黒革』と『ザ・ビッグホワイトタワー』、『白い巨塔』くらいだな。ジロータミヤ猟銃自殺でお馴染みの。『ザ・タイムショック』って知ってるか?」
「お年寄り回顧録みたいな流れになってますよ。話を戻してください」

「うむ。もともと、動物・人間・レイプ・大量虐殺・国家規模の陰謀を含む、ワイルド極まる70年代ロマンの旗手であった西村先生であるが、心霊にも強かった。多方面に影響与えた『鬼』は重要作なので押さえておいた方がいいぞ。
 『鬼』に代表されるエンタメ心霊妖怪作劇術を基本骨子に据えて、鏡花、乱歩に輸入翻訳をバックボーンとする正統派ホラー路線とは明確に一線を劃すジャパニーズホラーアクション小説は、具体的には襲い来る超常現象異界の怪異を、聞いたこともない変な呪術と強引な腕力とで捻じ伏せる、大雑把すぎる力技を最大の武器とする。
 そこに、SFXが異常発達を遂げたハリウッド映画、具体的には『遊星からの物体X』やら『エイリアン』『ポルターガイスト』『狼男アメリカン』などのパワー系ホラーフィルム、その影響下にあるOVAやアニメ『妖獣都市』らと共謀、ビジュアルイメージには流血残虐系(フルチやサビーニ)を加味、永井豪の伝奇残酷マンガのエッセンスを軽いスパイスとして、半村良を嚆矢とする伝奇SF系、諸星大二郎が祖先としか思えない古代誌・伝説、中国古典からの引用系を配合。要はいいとこ取り。
 結果として、
 ・怖くはないけど気持ち悪い
 ・とにかくド派手でマンガチックにページを捲れる
 ・連続する流血描写と性描写で人間の本能へダイレクトに直撃
 という、下品な娯楽の王道、欲望の満漢全席として成立した特殊ジャンルなのだ。代表例が獏や菊池先生や友成純一だ。でも裾野はもっといるぞ。横溝美晶とか志茂田カゲキちゃんも書いてたし、有象無象は星の数」

 怪奇探偵スズキくんはため息をついた。
「うわー、説明長ぇ~。祥伝社で獏さんや菊池先生が売れたのが爆発的ブームの発端で、並行して若年層にもソノラマでも『キマイラ』や『吸血鬼ハンターD』が売れてました。
 そこから小難しく辛気臭い本格ホラーと異なるエンタメ重視ホラー路線が一般客にもヒットし、80年代以降マーケットを席巻していく流れはボクも認知してましたが・・・」
 おやじ、ニンマリ笑う。道化顔が溶けて流れてよっぽど妖怪みたいだ。
「マジ、このジャンルのニッチな読書ガイドはあって然るべき。愚作や便乗作が数多く存在するので収集するだけで面倒だが。だいたいご本家も獏も菊池も代表作シリーズは延々続くグダグダ路線にシフトしていくしな。
 だが、私の見るところ、『ぼぎわん』第三章は本来この文脈において語られるべきなのだ」

「なるほど。で、令和の時代に昭和末期のテイストを蘇らせた本書は、当然エポックメイキングな立ち位置で?」
「いや、残念ながら佳作クラス(笑)造りが丁寧でちゃんとしてるし、ぼぎわんは意外と物理的破壊力のあるモンスターなので、実際楽しく読めるのだが。水木しげるの妖怪図鑑みたいな感じ?
 だったらもう少しメインストーリーを下世話な性と欲望路線で強化し、『復讐するは我にあり』、倍賞美津子は猪木の嫁級にグチャグチャな展開になって良かったんじゃないのか。登場人物のみなさん、全員が意外と品行方正、ウブで純情なんだよ。魔界に手を染め変態する元同級生の民俗学者とか、きみよもっとキモくなれ!って感じ?ただの意地悪おじさんじゃん!」
「それ、あんまりやり過ぎると逆にウケないんじゃないですか。やはりライトでないと。ラノベでないと。好評につき本シリーズは続投、その後も何冊か出てますね」
「うーん、シリーズ追いかけるほどの魅力は正直感じなかったが・・・」
 
 スズキくん、すかさず画面の外に向かい、
「(小声で)反論したいお友達がいたら、ボクにお便りくださいネ!あくまでこれは、老い耄れクソおやじの主観的意見ですんで」

「なにを大衆に媚び売っている。よし、言いたいことは伝えたし、そろそろ行くぞ」
「へ・・・?!どちらへ?フランスのパリとかへ?」
「バカもん、この世の外側へ。理性と常識を飛び越えた夜の彼方へだ。あれを見よ」

 通天閣上空に真紅の気球がゴンドラぶら下げて、どんよりした闇夜に浮かんでいた。
 
「あー、時代錯誤も甚だしい。今どき何を出してくるんですか。あれまさか、怪人二十面相が警官隊に追い詰められて逃亡に使った大気球ってんじゃないでしょうね?」
「そのナニだ。ヤフオクで購入しました」
「ロマンないなぁー。猟奇王も泣きますよ。しかもネタが小林信彦『大統領の晩餐』丸パクリだ。どうしても乗る気なんですか、あの安全点検皆無そうな代物に?」
「うん。止めても無駄だよ。わしは固く決心しとるんだ」
「いえ、決して止めたりはしませんが、酒代くらい払ってってくださいよね」
 おやじ、乱杭歯を剥き出しニンマリ笑い、
「舐めんなよ、わしは年金なんか一切かけてないんだぞ!高齢者所得はゼロ円なのだ。でなきゃ、なにが悲しくて貧乏な古本屋なんかやるもんか。ということで、ではスズキくん、この場の勘定は完全に任せたぞ」

 ゴムの突っかけがコンクリートを踏んでタタタと湿った音を立てる。
 おやじの猿に似た後姿が雑踏に遠ざかっていった。

「あ、ちょっと。ちょっとー、ってば。あーダメだ、異界に行ってしまわれた」
 
 遠くで怒鳴り声や車のブレーキ音が連続して聞こえ出した。
「なんや、こいつ」
「やばいわ、包丁持っとるで」
「警察を呼べ」
「うわ、壁を登り出した」
 
 怪奇探偵スズキくんは涼しい顔で、懐から取り出した年代物のセブンスターの箱の封を切り、一本銜えて火を点ける。
 パトカーのサイレンやら、消防車に救急車など緊急車両の警笛音が、繁華街のネオンの中に鳴り響き始めた。隊列が左右に展開し拡声器が持ち出され、投降を呼びかける真面目そうな警官の声が聞こえて来る。
 やがて、投光器が投げかける丸いスポットライトの中に、一心不乱に高層階へ壁を登る小柄な老人の姿が浮かび上がった。

「死刑執行人もまた死す・・・か」
 スズキくんは煙の輪を吐き出し、ウェストポーチから財布を取りにかかる。新幹線のまだあるうちに東京へ帰らねば。
 怒声が上がり、屋上に辿り着いた怪老人がゴンドラに乗り込むと、巨大な気球がぶらり揺れながら動き出した。
 煙草を揉み消しお会計を済ませる。スズキくんは後を振り向きもしなかった。

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2022年9月18日 (日)

ザ・ドアーズ『L.A.ウーマン』(L.A. Woman)1971、エレクトラ・レコード

やっぱりドアーズ。絶対ドアーズ。
 これが最高であり他に比べるものが無いワケですよ。まず、そこを強調しておきたい。

でもね、いきなり期待裏切りますけれども、私の場合、LP時代から全アルバムを当然コレクトしギンギン愛聴しまくり、ライブ音源や海賊盤まで手あたり次第収集しとかいった、そういうわかりやすい行動をまったくしません。皆無。伝わりにくいんですよ、私の場合。根幹から。共感得にくい。
 ストーンズの好きな人が全員中野D児な訳ではないし、収集物を開陳する本も出版しませんし、ではザッパファンはみな八木康夫なのかウンチクくっちゃべるのか、鳥井賀句そしてジョニー・サンダースは、とかしょうもない話はもういいでしょ。みんな故人なんだし。そういう時代は葬ろうよ。あ、でも鳥井賀句、まだ生きてるのか。「現在はミュージシャンとして活動する傍ら、中国算命占星学師範として、占い師としても活動している」。
 ドアーズ、私がLP時代に持ってたのは三枚目『太陽を待ちながら』だけで、なんか当時¥2,000の廉価版で安かった気がする。中学のとき。
 おっと、その前に当時NHK FMで日曜夕方6時、洋物映画のサントラばかりをリクエストに応じてギンギンにかけまくる狂った番組があり、そこで『地獄の黙示録』の主題歌だった「ジ・エンド」を初めて聴いた。やばい。これ、やばいことになってる。やたら長いし、聴くと頭悪くなりそ。
 実際アルバムを聴くとこれがまた、強烈な違和感。不快感。吐き気とめまい。漂う不潔感。生ける不吉の象徴。
 アカペラで汚い飲み屋で騒ぐどん底オヤジを活写した「マイ・ワイルド・ラブ」には大感動。こういう表現があったのかと影響を受ける。
 これぞドアーズ。ぼくらのドアーズ。曲の途中で名もなき兵士が銃殺されちゃったりしてもう最高。なんか指先についた精液匂ってる感じなんですよ。たとえがキモくて申し訳ないが、音も歌も生々しくてね。えぐかった。
 本能に訴えかけてくる音楽。
 衝動が暴走していくあの感じ。諦念と弛緩。キレキレの歌と演奏。言い切りの快感。
 ♪おまえは行方知れずだリトルガール。神隠しにあったのだ♪
 中学生はこれ一枚聴いては充分満足し、時は流れ。その後ファースト、『まぼろしの世界』はCDで購入し、大学一年目の時だから1987年くらいか。ま、絶対文句ない。ある意味ちゃんとしてます。有名な曲しか入ってないし。
 それからさらに10年後。1997年未発表音源多数の4枚組ボックスセットを購入。最高。4枚のうち1枚はベスト盤ってのは詐欺だと思ったけど。ヒットラー感満載の「ファイブ・トゥ・ワン」のライブテイクなんか凄かった。もうアジるアジる。
 ♪5対1だよ、1ふくむ5♪
 『ソフトパレード』『モリソンホテル』は40周年記念エディションの年だから、2007年。このとき、ファースト、セカンド、サードも新ミックスで買い直してる。(新ミックス?大差ないね。やる価値なかったねブルース・ボトニック。)
 こうして亀の歩みを繰り返して全オリジナルアルバム制覇したのがなんと今年8月ですよ。2022年ですね。最後に控えていたのが、最大のヒット作『L.A.ウーマン』。ジム・モリスンが完成後フランスへ行って麻薬で野垂れ死んだんで、ラストになってしまった曰くつきの一枚。そしてこの時かつての中学生は55歳になっていた。

ラ・ウーマン
収録曲
1.チェンジリング
2.彼女を狂ったように愛する
3.こんなに長い間ダウンしていた
4.私の窓辺の車ヒス
5.ロサンゼルス・ウーマン
6.アメリカ
7.ヒヤシンスハウス
8.這うキングスネーク
9.The Wasp (Texas Radio And The Big Beat)
10.嵐のライダー
11.オレンジカウンティスイート(ボーナス)
12.(肉が必要です)Don't Go No More (Bonus) シングル

この傑作アルバムの発売50周年を記念して、3CD+LP仕様となる『L.A. WOMAN [50TH ANNIVERSARY DELUXE EDITION]』が発売されることとなった。(邦題Google翻訳)

 特にコメントすべきことはないけど、LPはさすがにいらねんじゃね?商売感まる出し。
 「嵐のライダー」のリフって「大地に触れないで」と同じ。もともと蜥蜴王の祝典の一部なんですよ、そのチャリティの一環です。トカゲ王の墓なんです。実はその完結編。
 そういう残務整理の中でかかると「ヒヤシンスの家」がえらくいい曲に聴こえてしまうのが不思議。異様に盛り上がる。心に刺さります。
 わずか6枚のアルバムコンプリートに40年かかってしまいましたが、どのアルバムがどうこうとか、せこい話はもういいでしょ。どれも最高でしたよ。疑いなく。真顔で断言できる。
 ここまで来るのに長い、長い、長い時間が本当かかったが、実はほんの一瞬だったんだ。結局(IN THE END)。

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2022年7月24日 (日)

P.D.ジェイムズ『不自然な死体』(Unnatural Causes、1967年) <早川書房 世界ミステリシリーズ1410>

「怪奇探偵スズキくん、いま怪奇はどこにある?」

 古本屋のおやじは饐えた暗闇の中に座ってしゃがれた声で問いかける。
 昭和感漂う古本屋『運減堂』は、文京区本郷から台東区上野へ向かう暗闇坂の途中に、時代に取り残された遺物のように傾いで建っている二階屋である。なにせ目前は東大本郷キャンパス弥生門、嘗て樋口一葉など名立たる文人が本郷から上野を行き来した道も古式を偲ぶゆかりはまったくなく、門構えの大きい曰くありげな家もまだ辛うじてあるとはいえ、坂道沿いに繁茂してきた樹々の投げかける深い陰影など大半取り払われ、すっかり面白みの無い都心のありきたりな二車線道路の細い坂道と成り果てている。
 誰も来ない店内にイスを設え、お馴染み怪奇探偵スズキくんはのんびりお茶など啜っている。
 赤褐けた斜光が正面のガラス戸からうっすらと差し込み、居並ぶ本棚にぎっしり詰まった背の灼けた古書の山を照らし、カウンターに座った異様に真剣な面持ちの猿に似た老人の顔を闇に浮かび上がらせていた。 

「そりゃ読者の皆さんの心の中に、依然としてあるでしょ。怪奇を求める心は不変ですよ」
「うん。先日の元首相射殺事件だって主たる国民の関心は背景に拡がる闇にある。宗教団体、無茶な献金、一家離散と自殺未遂、元自衛隊」
「いや、自衛隊は闇じゃないでしょ(笑)」
「22歳元女性自衛官が実名・顔出しで自衛隊内での「性被害」を告発・・・という記事がAERAに載ってたが。わしの小学校の幼馴染が自衛隊の医官かなにかで結構羽振りいい筈だが、あいつ出身は仏教大だぜ」
「(笑)いや、ぜんぜん、闇を感じませんが」
「まったく風情のわからん奴だ」

 おやじは溜め息をつき、テーブルの煙草を取り上げ火を点けた。
 スズキくんは愛想笑いを浮かべて、腕を組む。

「ただ、なんとなく言いたいこともわかる。平坦に地ならしされ無味乾燥、アメリカナイズにフラット化されたつまらん現代社会でも、人間居るところには常に闇の影が付きまとう・・・ですか。あなたと川島のりかずの持論ですね」
「百年以上生きてみて分かったんだが、人間のやることなんて、そんなに変わらんよ。権威というものが悉く矮小化され貶められる明るいSNS社会にだって闇はある。普段出て来ない内面が吐き出され易い傾向を考えれば、一層闇は深まったと言えよう」

「あんた百年以上生きてたんですか。そりゃご苦労様です」
 怪奇探偵は半ば呆れた口調で言い放ち、お茶を啜る。
「その割に迂闊ですよね。隙が多い。このブログで言えば、2010年2月好美のぼる『悪魔のすむ学園』の記事をアップした時、あなた、パソコンを通じて悪魔が呼び出される設定が『女神転生』だって知らなかったでしょ?」
「うん、昨日YOUTUBE観てて気づいた。無知でした。謝罪しとく」

【ファミコン】女神転生 合体好きにはたまらない名作RPG
214,263 回視聴2022/07/20
https://www.youtube.com/watch?v=HUSr_CO6Bms

「ま、しかし、アレだな、スズキくん。ボルヘスだって『女神転生』知らないで「バベルの図書館」シリーズを編纂したんだろうしこりゃもうノーカウント、ノットギルティだよな!」
「・・・な、わけないでしょカスが!」
 卑屈な笑いを浮かべるおやじを軽く一蹴し、怪奇探偵スズキくんは本題に入った。

「さてさて今回は、42歳デビュー!元看護婦にして生活苦の育児ママ、英国ミステリー界の大御所P.D.ジェイムズおばちゃんの初期傑作、『不自然な死体』を取り上げる訳ですが・・・」
「ここで注意!文筆家の最大のタブー、推理小説の評論を敢行するためには犯人もオチもすべてバラさねばならぬ、を今回も忠実に実行するからな!この本に少しでも関心があって将来読むかもと思う人は、読んでから来い!読んでから必ず来ないと、ギロチンに架けられ首を捥がれた血塗れのおやじが真夜中にきみの後ろに立つからな!ま、ただ単に立ってるだけなんだけどな!動きにくいぞ、気をつけろ!」
「はいはい。本書のあらすじはおやじに任せると嘘を書くといい加減わかったので、Amazonの商品ページから引用します」

内容(「BOOK」データベースより)
 ダルグリッシュ警視が休暇でサフォークの叔母を訪ねた日、両手首を切断された男の死体が、小さなボートに乗って近くの海岸に流れついた。
 遺体は付近の村に多く住む物書きの一人、推理作家のモーリス・シートンだった。
 さっそく郡警察が捜査を開始したが、解剖の結果、意外な事実が判明した。死因は心臓麻痺。自然死だったのだ。
 だが、はたして純粋な自然死なのか。手首切断の背景には何があるのか?ダルグリッシュは否応なく事件に巻き込まれていった…。
 人間と背景の緻密な書きこみと謎解きの妙が見事に融合した、ミステリの新女王の初期の秀作。
https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%8D%E8%87%AA%E7%84%B6%E3%81%AA%E6%AD%BB%E4%BD%93-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E6%96%87%E5%BA%AB-P-D-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA/dp/4150766045

「確かに面白そうな発端ですね。掴みはオッケーな感じがします」
「P.D.ジェイムズはちゃんとしてるんだよ。エンタメをわかっとる。溢れる凶悪な遺体損壊とネガティブ極まる人間描写。端的に言ってこりゃ横溝正史だな!」
「は、唐突に横溝ミステリーですか。あの宇宙飛行士Dさんも最大級のリスペクトを捧げるという(笑)」
「あいつは、いい歳こいて『怪獣男爵』のハードカバー復刊を購入してしまう本物の痴れ者だよ。お前の方がよっぽど怪獣男爵だっつーの」
「(笑)しかし、レビュアーは全員これが横溝だとは誰も気づいていない模様です。以下ランダムに引用抜粋してみましょうか」

■不自然な死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 文庫 – 1989/8/1
P.D.ジェイムズ (著), 青木 久恵 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%8D%E8%87%AA%E7%84%B6%E3%81%AA%E6%AD%BB%E4%BD%93-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E6%96%87%E5%BA%AB-P-D-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA/dp/4150766045

河童の川流れ-ベスト500レビュアー

結末も不自然な構成であり、ネタバレになってしまうが、あの男を、あの女が手足のごとく使いこなすことができるだろうかとの違和感は免れない。
他のレビュアーが書いていましたが、「障害者に対するあからさまな嫌悪感が書かれていて非常に不快です。」とのご指摘は評者も同じように感じていたから同感してしまいました。

■不自然な死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
P.D.ジェイムズ
https://bookmeter.com/books/20419

kyoko
なんか気色悪い物語だった。好感を持てる人はダルグリッシュの叔母のジェインだけ。我がまま勝手な村の人たち、それぞれの人間性に興味を持てないまま(自分のせい)、突然の独白で事件解決。
(引用終わり)

「お前ら、本当バカだね!横溝だから人権無視なんだよ!(爆)特にkyouko!お前、小学生みたいな幼稚な感想書いてんじゃないよ!」
『只今不適切発言がありました。おやじは訂正してください』
「???」
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「お前が裏声で喋ってるんじゃないのか。だいたい貴様なんで後ろ向いて喋ってるんだ?」
「いいから先に行きますよ。次は好意的な発言の方です」

■不自然な死体 (1983年) (世界ミステリシリーズ)

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1、2作目で希薄だった探偵趣味が全面開花。両手首を切断されボートで漂う死体という最高のつかみから、自然な「不自然な死体」の解決ぶりは、その悪趣味ぶりとあいまって見事。

■不自然な死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 文庫 – 1989/8/1
P.D.ジェイムズ (著), 青木 久恵 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%8D%E8%87%AA%E7%84%B6%E3%81%AA%E6%AD%BB%E4%BD%93-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E6%96%87%E5%BA%AB-P-D-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA/dp/4150766045

Nody-ベスト500レビュアー
ミステリとしても何故死体の両腕を切断したかという、後年の作品には見られない強烈なホワイダニットの面白さがある。中盤、ダルグリッシュがロンドンに赴く辺り、構成が緩むのが惜しいが、押し寄せる嵐の中、グロテスクな犯人の内面が明らかになるクライマックスは息もつかせない迫力だ。
(引用終わり)

「そうそう、遺体損壊にはちゃんとした理由があるんだよね。酷い理由が。途中両手の無い死人がタイプした手紙が届いて、容疑者一同ガクゼンとなるとか身障フル活用(笑)」
「クリスティは映画化されても、ジェイムズがされない黒い理由はその辺りにあるんですかね?」
「そうそう、ちゃんとクライマックスに大ネタでアクションを入れてくる。今回も終局に行くほどエンタメ指数が急上昇。メリハリの効いたプロの作劇術なのに。差別はおかしい」

■不自然な死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
P.D.ジェイムズ
https://bookmeter.com/books/20419

はもやん
【ネタバレ】これは女性でないと書けない話だなぁ。犯人の怒りもわかる気がする。なんとなく彼女のことが嫌いなダルグリッシュの「男の内心」も見透かしてて面白い。最後、ダルグリッシュ自身がデボラにフラれる理由も理由だし。

花乃雪音
タイトルはセイヤーズ『不自然な死』のオマージュとなるが、不自然な死体というには両手首が斬られた死体というだけでは大仰な表現に思えた。しかし、その後に実は自然な死であったことがわかる。最後に語られる両手首を切られた不自然な死体とした理由は凡庸だが死体を不自然と自然の間で行き来させたことでタイトルが意味をなしたように思える。

セウテス
タイトルから解る様に、セイヤーズ氏「不自然な死」へのオマージュ作品であり、本家そのままと感じる描写も後半には在る。しかし何故手首が切り取られたのか、という考察が少ない上に面白くない。圧倒的に、本家に軍配が上がると思う。どうやら、独自性を出し始めた時期に当たる作品なのだろう。また名探偵の見せ場である犯人を特定するクライマックス、こうした演出にも作者なりの批判を込めて描いたと感じる。
(引用終わり)

「おいおい、花乃雪音!お前の文章、何回読んでもなに言ってんだかサッパリわかんねーんだわ!
『最後に語られる両手首を切られた不自然な死体とした理由は凡庸だが死体を不自然と自然の間で行き来させたことでタイトルが意味をなしたように思える』
 理由は凡庸?なに抜かす?そりゃ蓮見か?正体は蓮見学長だろう貴様?!お前の手首を切り落として、干して乾かして三越の贈答品の箱に詰めてメキシコ人達に送ってやろうか?!この凡庸にスカしたクズ野郎が!」
『ピーッ、ピーッ。只今不適切発言が・・・』
「うるせぇ裏声小僧。だったら、オレの発言、どこが具体的にまずいのか説明してみろ!」
『殺害予告はNGです。あと蓮見と三越は、特定出来てて完全にあかんやろ。特に三越。アホかお前は!無駄にリアル企業を敵に廻して何の得があるんだっちゅーねん!』
「わーわー、ハスミはともかく、三越さん三越さんごめんなさい。溢れる三越愛の為せるワザなんです頼むから許してちょんまげ。そしてにゃんまげ」
 おやじ、平伏し連続土下座で地面に頭を擦り付け、床に穴を開けてしまった。

 怪奇探偵スズキくんは嘆息し、気を取り直して言った。
「ところで、唐突に語られるセイヤーズ氏の「不自然な死」とは・・・?検索してみました」

■不自然な死 (創元推理文庫) 文庫 – 1994/11/16
ドロシー・L. セイヤーズ (著), Dorothy L. Sayers (原著), 浅羽 莢子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%8D%E8%87%AA%E7%84%B6%E3%81%AA%E6%AD%BB-%E5%89%B5%E5%85%83%E6%8E%A8%E7%90%86%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%BBL-%E3%82%BB%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%82%BA/dp/4488183042

殺人の疑いのある死に出会ったらどうするか。とある料理屋でピーター卿が話し合っていると、突然医者だという男が口をはさんできた。彼は以前、癌患者が思わぬ早さで死亡したおりに検視解剖を要求したが、徹底的な分析にもかかわらず殺人の痕跡はついに発見されなかったのだという。奸智に長けた殺人者を貴族探偵が追いつめる第三長編!
(引用終わり)

 おやじは床の穴から泥だらけの顔を持ち上げ、
「なんか、これ、普通じゃね・・・?読んだことある感、満載なんじゃね・・・?」
「おそらく花乃雪音とセウテスは、『おまいら知らねーのかよこのカス』病の知識マウントでしょ。でも本書と確かに関連はありそう。タイトル原題. Unnatural Deathだし。暇があったら比較してみる必要がありましょうが・・・浅羽が訳してるんじゃ期待薄かな・・・」
「でも、絶対この本は横溝じゃないよな!!!もう断言しとくわ!ジェイムズの最大の長所は、英国人のくせに獄門島に勝手に出張してきているところにある」
「まだ無茶言いますか。あんまり言うとまたA.Iに怒られますよ」
「いや本当だって。P.D.ジェイムズには超有名作品『女には向かない職業』というのがあって、江口寿史かそれに似た人が文庫版カバーを描いているので、てっきりおしゃれな都会派ミステリー作品かと誤解していたら、実際読んで驚いた。ゴリゴリの昭和感溢れる因果物!」

■女には向かない職業 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 文庫 – 1987/9/15
P.D.ジェイムズ (著), 小泉 喜美子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/%E5%A5%B3%E3%81%AB%E3%81%AF%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%84%E8%81%B7%E6%A5%AD-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E6%96%87%E5%BA%AB-P-D-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA/dp/4150766010/ref=asc_df_4150766010/?tag=jpgo-22&linkCode=df0&hvadid=295642265223&hvpos=&hvnetw=g&hvrand=2059325656949457903&hvpone=&hvptwo=&hvqmt=&hvdev=c&hvdvcmdl=&hvlocint=&hvlocphy=1009303&hvtargid=pla-579065870607&psc=1&th=1&psc=1

「巻頭でおっさんが無惨な死を遂げるのは『八つ墓村』だし、その遺言は、娘よ拳銃やるから『獄門島』へ行ってくれ。ケンブリッジの若者描写はまったく『悪魔の手毬唄』の大空ゆかりと取り巻き衆と瓜ふたつ!マジいや本当よ!遺体を鉤爪フック釣りするのは『蝶々殺人事件』だし、主人公は井戸に落とされ決死のサバイブ『車井戸はなぜ軋る』。あまりに酷い犯人とその動機は完璧『病院坂の首縊りの家』レベルであり、一族の因縁と無惨なシンクロニシティ。終盤を締めくくるアクションは『犬神家の一族』松子大立ち回りだ!」
「・・・えー、途方もなく熱弁奮ってるけど、本当ですか~?」
 怪奇探偵スズキくんは目を三角にして疑っている。おやじは襟を正し、

「疑うなら、論より証拠。読んでみたまえ。そして実際読んでみてから私に文句を言え」

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2022年7月10日 (日)

ウィルソン・タッカー『長く大いなる沈黙 』(1951、早川書房、矢野徹訳、<ハヤカワ・SF・シリーズ>3279)

『宇宙飛行士D!宇宙飛行士D!』
「・・・なんだよ、うるせぇな、ヒューストン」

 低い駆動噴射音が聞こえる。星屑が散りばめられた銀河系外空間の暗黒の彼方。真空のしじまを破ってロケットは飛び続けていた。

『こちらヒューストン。いや、実はな。ふと思い立って最近自分の書いた文章を遡って読み返してみたりしててさー・・・』
「うんうん」

 隕石遮断スクリーンに虚空に浮かぶ塵芥が衝突し、緑色の炎を上げて飛び散った。

『あらためて無駄が多いと実感。碌なことが書いてない。役に立たん。例えば、今回のレビューに宇宙設定いらない』
「Dよりヒューストン。・・・え、今さら?今頃になって、それを言う?この10年はなんだったん?!」
『ヒューストンよりD。われわれの初登場は2009年。スタートから既に10年以上も経過し、こりゃいかんと来し方を振り返り真摯に反省してみた。結論。絶望。一体なにがしたいんだろこの人。知識をひけらかしたい訳でもないし、そもそもたいした知識はない。身辺雑記要素もないし、人に共感を得たり繋がりたい願望もない。どこに向かって文章届けたいのか謎』

 宇宙飛行士Dは虚空を見つめ操縦桿を握ったまま、呟いた。

「俺は仲間のために書いてるよ」
『・・・え?』
「同じ趣味を持つ仲間や、興味を持ってくれそうな人。偉大な先輩や可愛い後輩、昔の友達や恋人。知り合ったすべての人たちに向けて」
『それセフレ含む?』
「うっせぇわボケ。ともかく自分の好きなものをより深く掘り下げて、世に広めていきたい気持ちは本当あるねぇー」
『ヒューストンよりD。ホントご立派。王道だと思う。俺にそういう考えは、一切ない』
「だろうな・・・」
『こないだアーカイブ読み返してみて、どっかのチンカス野郎に“ゴミクズレベルの文章”と揶揄されてるのに気づいたんだけど、よくよく考えたら、目指すのはそこかな?って思った。クズ以下の文章を強制的にお届けしてしまうこと。読んだ奴が全員後悔するレベルでぶちまけること。文字による拷問。そういうのがイイね!』
「はー、そうですか。最悪の目標だな!」

『褒め言葉ありがとう!!!(満面笑みでピースマーク)
 ということで、今週のピックアップはウィルソン・タッカー『長く大いなる沈黙 』。全然期待しないで漫然と読んでいったら、意外や面白かった』

「脈絡なくまた始まったな。本書は1979年1月あの久保書店Q-Tブックスから『アメリカ滅亡』の表題で復刊もされてます。同じテツ・ヤノ翻訳。その後文庫にはなってないし入手困難だろうが、そもそも入手したい奴がいない」
『で、このお話はね、細菌戦争によりアメリカ東部が壊滅。感染力の凄い細菌を封じ込めるため、ミシシッピ河沿いに軍隊が駐留し、川を越えて渡ってくる哀れな避難民を情け無用ない米兵が片っ端から射殺しまくるという。一種のジェノサイド、ワールドエンド系。若い子にはウォーキングデッド設定って言えばいいのかな。でもゾンビは出ません!細菌に感染した人は紫いろに変色して干からびて死んじゃうから』
「『大地よ永遠に』から続く破滅テーマのバリエーションか。ってことはポリティカルフィクションの要素ある?」

『ない!それが、全然ないんだ皆無。これには驚いた。社会的要素とかマクロな視点は一切ない。俯瞰描写もない。ハメットの影響なのか?グローバルな話でまさかのP.O.V.視点。爆弾落した元凶であるお馴染み赤い国との熾烈な駆け引きだとかさ、軍司令部の策動や政治の動き、本来最低限あってしかるべきものがほとんど書いていない。戦争が起きた原因すら憶測一行で終わりだし。医学方面、細菌の種類や、対処方法、解毒とか治療ともすべてが不明。潔ぎよすぎ。
 理由は簡単。叙述の視点が主人公の元アメリカ陸軍伍長からまったく動かないから。
 事件はもう、まったく現場でしか起こらない!マスマーダー絶賛実施中の過酷な状況下で、胡乱な人間数名が西へ東へうろうろ。それがこの話なんだ。貴様ら、ちょっとは状況を真剣に考えろよ!作戦会議ぐらいしろ!
 さらに言えば、この話の語り手、主役のサルは確実に人類として最悪レベル。性欲だけはゴリラ級の下士官ヤンキー独身30歳、低知能。絵にかいたような倫理無視っぷりで、モラル欠如のハラスメント行為を続々連発!コンプラ破壊の最低野郎すぎて、実に好感が持てるんだ』
「そんなやつに好感持つなよ!!!読んだ人はみんな憤ってるぞ!」

◆「奇妙な世界の片隅で」ウィルスン・タッカー『長く大いなる沈黙』(矢野徹訳 ハヤカワSFシリーズ)
http://kimyo.blog50.fc2.com/blog-entry-432.html
(引用)
主人公が、人を殺したり、利用したりするのに躊躇を覚えないという設定になっているのがユニークです。
積極的に悪事を働くわけではないにしても、自分のためなら基本的には何でもするという性格なので、読んでいて感情移入はしにくいですね。
この作品を読んでみると、他の「破滅SF」がいかに「ロマンティック」なものだったか、というのに気づかされます。
(引用終わり)

◆アルファ・ラルファ大通りの脇道
https://stillblue.ti-da.net/c44553.html
2006年02月01日12:30
「アメリカ滅亡」
(引用)
主人公はごく普通の人間。正義感があるわけでもなく、策略を企てたり、人を騙したりするのにも躊躇しません。悪人ではないけれども善人ではないのです。
(引用終わり)

『うーん、みなさん、本当うまく纏めてらっしゃる。恐ろしいことに、書かれてるみんなの感想は全部正解!すべてこの通りなのです!』
「Dよりヒューストン。つまりはアンチヒーローってことか?宇宙で女を見捨てる『ゲイトウェイ』一作目みたいなものか?」
『いや、そんないいもんじゃない。あれも最低だが知能はあった。綺麗事抜きに考えてみろよ。アメリカ人の本質って結構しょうもないものじゃないか。穴があれば突っ込むし、ポテチあれば喰いすぎて過食摂取でカウチから動けなくなるし。インディアンなら即座に撃ち殺すだろ?』
「不適切発言。差別偏見に満ちとるな。一応オレが宇宙から謝罪しとく。アメリカさんごめんなさい・・・って、ま、なんとなく言いたいことはわかりますが」
『所詮、金持った銃の国だからな。われわれは核の傘の下でふるえて眠る子羊ちゃんですよ。ぶるぶる。
 ともかく、この主人公は下劣なうえに卑劣で一切合切反省しないやつなんですよ。いいですね。それを頭に入れておかないとこの先展開についてこれないよ・・・!』

 と、ここで太陽表面で大規模フレアが噴き上がり、数秒間地球との通信が途絶。
 宇宙飛行士Dはその間に素早くコーヒーを淹れ、茶菓子を持って席に戻る。空間乱流に揺さぶれ無数の姿勢制御ジェットが舷側で閃く。
「あー、あー、お待たせ。Dよりヒューストン。聞こえるか?」
 
『ヒューストン感度良好。待ってた。続けるぞ。
 まずオープニングだ。休暇で街に出て安酒喰らって爆睡していた主人公が目覚めると、世界は既に破滅していた!限定的核戦争と細菌兵器使用が原因らしい。ここは『トリフィドの日』なんかでも定番、お馴染みの“覚醒すると世界の終わりが訪れていた”スタートなんだが・・・』
「普通じゃん?」
『いや、死体がゴロゴロ転がる通りを抜けて、食糧と水探しに出た二日酔いの主人公がまず最初に実行したことは、偶然出会った未成年の女の子をレイプすることでしたー!』
「へ・・・?」
『ここで目を疑って、マジかよ嘘だろ?と思ってると、話はさらに無軌道に展開。パトリシア・ハースト症候群で主人公に懐いてきた少女を、ちょっとの喧嘩であっさり見捨てます。理由は足手まといだから』
「ヒューストン。自分から襲っておいて?酷いな。そんなんでいいのか?俺はいいけど。確かにハメット以降のクールかつハードボイルドな世界観だな」

『ミッキー・スピレインでハドリー・チェイスで、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』だよネ。で、車パクって、盗んだガソリンで国道転がして、細菌爆弾喰らってない未汚染のアメリカ西部を目指すんだが、途中農家で食い物パクって愚劣な農民にミンチにされかけたり、軍隊崩れの暴力集団に襲われて泣きながら逃げたり。人として最悪の経験をしながら自分でもガンガン銃で人を撃ち殺し、人間偏差値を容赦なく下げ続け。秩序ない無法の世界からなんとか脱出しようと川を渡る橋まで来たら・・・。
 駐留している軍隊が橋を有刺鉄線バリケードで封鎖し、それを越えて渡ってくる奴をバシバシ射殺していた。婆さんも子供も見境なし。必殺の射撃手が最小限に節約した弾薬数で、パシパシ頭部を狙う精密射撃を駆使して、無実の避難民を容赦なく撃ち抜く!』
「え、そんな。公共がそんな暴虐行為してもいいの?」
『徐々にわかってくるんだが、細菌爆弾が撒き散らした名前のないウィルスは、物凄い感染力を持っていて罹患した患者の90%を確実に殺す。罹ると全身が紫色に腫れ上がり、短時間で紙みたくカサカサの灰色の干物みたいになっちゃう。これを防ぐためには感染地域を完全に封鎖し、ウィルスが自然消滅するのを待つしかない!だって研究しようとするとこっちがやられちゃうんだもの。コロナより最強』
「それにしてもなー・・・」
『結局、主人公含めて生き残ってる連中は、偶然抗体を保持していた珍しい人たちなんだよ。普通に捕まえて研究とかすりゃいいのに、問答無用に全員即座に射殺。橋に仕掛けた地雷で派手に吹っ飛ばす!かくて感染症対抗策に有効かつ貴重なサンプルはどんどん無益に失われていく』
「無茶しよるなー。なんか、人としても小説としても終わってる内容が平然と垂れ流されとるのね・・・」
『橋以外でも防備は無駄に完璧で、川底には爆雷。岸辺はトラップと有刺鉄条網。死角なく配置された監視台と周回する陸軍きってのスナイパー部隊の精鋭。河沿いに仕掛けられた防衛線を突破するのは、とても無理』
「この不条理な厳戒体制こそが現代の管理社会に対する痛烈かつ皮肉なアイロニーだとでも、無理にでいいから、心底感じろ!」

『さて、リバー突破を諦めた主人公は、河口なら、あるいは上流なら比較的警備が手薄なんじゃないかと思いつき、楽そうな方を選択し南下。知り合った同じ軍人崩れのやさ男とタッグを組み、物騒な奴らをバンバン撃ち殺し、農家を襲ってニワトリ盗み、フロリダまでやって来る。そこへこんなハードコアなホモダチ二名に割って入ろうという奇特な女が現れた!』
「・・・なんか、非常にヤな予感がする・・・」
『やることは、ひとつ。もちろんレイプです!!!輪姦です!!!』
「うわーーー、最低や~~~(涙目)」
『その上、人目につかない小さな無人島を発見し、そこに隠れ家をつくり籠城。そして、女をシェアします!』
「え・・・?カーシェアみたく???本当にリアルシェアするの?」
『がっぷり、どっぷり、ずっぽりシェアします!女の膣内では二人の男の精液がミックスされて混じり合います!見事に肉便器状態ですし、100%サセ子です!人倫モラルを越えてます!蠅の王です!』
「あちゃ~。めちゃモテ~(笑)」

『1951年といえば、かのサンフランシスコ平和条約・日米安全保障条約が調印された年で、フィル・コリンズ、ブーツィ・コリンズのダブル・コリンズが生まれた年でもある。アカデミ賞ーはマンキーウィッツの悪女大作『イヴの総て』で、伝説の風俗嬢イブちゃんの花びらが全開になると国民的に大評判をとった』
「微妙な嘘を書くな。トルーマン・ドクトリン「武装した少数派あるいは外部からの圧力による征服の試みに抵抗している自由な国民を支援することが米国の政策でなければならない」から冷戦がスタートした象徴的な年。この小説を支配する強い不信感、征服と支配への苛烈な欲望はデスぺレートな時代背景を象徴してるんだろう」
『ヒューストンよりD。だからって、本当にシェアするか?(笑)』
「そうなると、妊娠が心配やねー・・・時間の問題だろ」
『は。この本の中で悪い予感は必ず的中。案の定、女は身ごもり、ハテサテどっちが父親だかわからない』
「最悪の状況じゃないか。どうするんだ?」
『でもね、よくよく考えると、実は女はモテ系細いヤサ男の方が元々好きだった(笑)
 といいますか、よくよく考えると、自分勝手なゴリラ野郎は大嫌い。乱暴なだけで勝手に中出しフィニッシュだし。
 かくてラブアタックを制覇した優男は一方的に父親宣言し、女と結託して主人公を楽園の島から追放します。最終的には銃で脅され、荷物のナップサック一個持って立ち去る破目に。非常に格好悪い。母親になろうという肉便器は終局で人間的な優しさを選択するのです。が、この選択は当然と思う』
「確かに外見なブサイクなだけじゃなく、この主人公、性格と行動面に難があり過ぎだろ。ヒューストン、人としていかがなものか」
『しかし、こいつ追放までされても一切反省しない。女に嫌われても特に恥と思わない特異な人格の持ち主。異様にメンタルだけ強め。ここはあっさり諦め北へと立ち去ります』
「なんか、野良犬の生きざまみたい。タフすぎ(笑)無敵のヒーローだな」

『その後、東の果てに生き残っているらしき軍司令部を求めて、隠密行動をとっていた特殊部隊の装甲車に遭遇。油断している小隊数名連中を夜闇に乗じて虐殺。ハリガネで縊り殺すなど手口も最悪のトリック駆使して車輌を不法占拠。そのままの勢いで橋を強行突破し感染地域を遂に脱出。念願の本土復帰を果たす』
「おお、燃える新展開。なにかこの閉塞状況を打ち破る大胆な作戦行動でもとるの?権力の中枢に攻撃を加えるとか、身分を隠して議員に立候補するとか?」
『取り敢えず、無傷な街に繰り出し、せんべろ(笑)』
「は・・・?」
『それから、売春婦を買って思う存分セックス(笑)』
「うわ、ダメなやつだなー。本物じゃん!」
『ズッポンバッコン大騒ぎの翌朝、抱いた女は全身紫の痣だらけになって瀕死状態です。こりゃヤベ。保菌者じゃんオレ。逃げろ~!(笑)』
「うつした女に同情とか反省とか謝罪とか全然せんのかい!」
『うん、まったく(笑)。とにかく自分さえよけりゃいいんだよこいつ。割り切り方が毎回物凄い。でも意外とそういう人って現実にいるよね?利己主義というか博愛精神皆無。会社のガムシロを纏めてパクるようなやつ。
 ともかくこのエリアじゃ捕まったら確実に殺される。最悪実験体で切り刻まれるかも。卑怯な人質作戦とかとってジープを奪い、地平線まで続くとうもろこし畑を横切って、なんとか再び河を渡り再脱出。命からがら東部へ舞い戻って来てみれば・・・』
「はいはい?」
『特に、その後の人生に目的希望など無いんだってことに気づく。空洞です。元の木阿弥、ジリ貧どん底状態に戻っただけ。
 ヒマだからってんで再び南下し、女をシェアしたエロ無人島に舞い戻ってみたが、あれから何者かに襲撃を受けたらしく小屋は壊され人の気配など無かった。散らばる薬莢のかけらが無惨。
 あぁ、俺はこのまま死ぬまで最低行為を繰り返し、朽ち果てて行くしかないのかと絶望に打ちひしがれていたら・・・』
「・・・誰も同情しないよお前になんか・・・」
『突如、廃墟の街に入っていく目を疑う美女を発見。よくよく見るってぇと、巻頭でレイプして捨てた女の成長した姿でした。しめた、ラッキー。より戻そっと。チャンチャン(笑)』

 沈黙の宇宙空間。土星の輪の乱反射が宇宙飛行士Dのヘルメットに美しく映える。カッシーニの空隙が鮮やかだ。
 
「・・・Dよりヒューストン。なんじゃソレ?」
『うん、さすがの私も幾ら何でもこの終わり方はないんじゃないかと・・・』
「あ・た・り・ま・え だーーー!!!」
『でも、このループ・エンディング(未成年の成長を待って結婚)がハインライン『夏への扉』(1956)に影響を与えた可能性はあるんじゃないのかな?』
「Dよりヒューストン。それ、ないわ」

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2022年6月19日 (日)

怪獣ウラン (1956、X THE UNKNOWN、ハマー・プロ)

 意識を持った泥が人間を襲うドロドロ・パニック映画

 そんなもの正気で観たがる奴などいるだろうか。

 泥っぽいところで、昔トロマビデオで『悪魔の毒々モンスター』ってのがありましたが、あれは廃液で溶けて変形した人間だからね。同じハマーでも『原子人間』の系列。サム・ライミの『ダークマン』か。ジョーカーと同じ製造方法。人体改造、フランケンシュタインの流れですよね。

 『コロッサス』のマニング大佐も含め、人間が変形するモンスターには、人間的悲哀と喜怒哀楽とお色気があります。巨人獣と化したマニングがマンション窓からブロンド美女の入浴シーンを覗く場面を思い出してみて。あれ、人間だから成立するんであって、単なる泥じゃねぇ。

 しかし。

 泥がこっちを見ている。しかも、その泥が勝手に動いて、人間を襲ってくる。

 これって、かなりの確率で怖くないですか。ホラーじゃないですか。生命のない筈のものが意識を持って動く。ロボット物って全般そうだけど、あれはまだ人型ベースだったりするからねぇ。機械が動くのはまだ理解の範疇。意味が解る。動くように作られているんだから、そりゃ動くだろ。

 でも動きとまったく関係ないものが突然動き出したら、こりゃホラーですよ。本気で怖いですよ。意味わからんもん。私はレムの『大失敗』を連想した。究極の恐怖かも知れない。非生命に襲われるのって。

 放射能を帯びた被爆泥がさ、勝手に動き出して人間を襲う。ジューッと溶かしちゃう。で、泥に接触した人間が骨だけにされる、かなり呑気な残虐描写とか本作にはあって、そこが冒頭に映る、かの「この作品には過激で残酷な描写が含まれます!閲覧注意」テロップの要因になっているようなんですが、そんなこと言われてもねぇー。そこはホラ、『ウルトラQ』で放送できるレベルでお約束の範疇であって、血は出る、脳天に杭は打たれる、腕やら足は切り刻む。残虐の極みに達した現在の視点から見れば、ま、幼稚園レベルで生ぬるいものなんで、好きな人はかえって微笑ましく思えちゃうんでしょうけど。(主役の博士の見事なハゲ頭の方がよっぽど凶悪である。)

 でも、ここまで泥ネタ押し。

 あくまで、泥こだわり一辺倒。

 もう、煎じ詰めれば、すべて、泥ネタしかない!

 泥一発でここまで見せきる泥オンリー主演の映画がある。一時間半かけて大の大人が泥いじり。脚本ジミー・サングスター本気の泥チャレンジ。脱ぎも爆破もクソくらえ。泥こそはすべてだ!
 こういう、まったく観なくていい傑作に出会えるんだから、映画界もまだまだ捨てたもんじゃない。
諸君に言っておきたいが、見たい映像を見るだけが映画じゃないんだ。なんていうか、観たくないものを見せられる。そういう体験は非常に大事だし、これからの人生の糧となるんだよ。一回観たらもう衝撃もないような、ちょろいCGよか、動く泥ですよ。内部で水流して動かしてるのかな?

 

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2022年1月23日 (日)

ジャック・ウィリアムスン『宇宙軍団』The Legion of Space (1934) 野田昌宏訳 早川書房(ハヤカワ・SF・シリーズ、1968年。のち1977年1月ハヤカワ文庫収録)

やはり現実はフィクションと違って上手くいかないものなのだろう。
 それをわきまえた上で、虚構の実力を測ってみたい。
 ジャック・ウィリアムスン『宇宙軍団』は、異様にうまくいく物語の実例であり、それはご都合主義とも言うのだし、小説という嘘事のパワーを見せつける感動作でもあるのだ。
 
 私は昔からこの本を愛読していたので、他にも似たやつがいるだろうと思って検索してみたら、膝を打つ名批評どころか、まともなレビューすら発見できなかった。
 情報溢れるネット社会なのに?ITリテラシーってのはどうなった?
 お前ら、『宇宙軍団』読まずに何読んでんだよ、カスが。
 『宇宙軍団』なくして『宇宙軍団』なし。
 そんなことじゃメドウサに地球は乗っ取られてしまうよ。
 赤ガスに覆われ、発狂して理性を失くし、人肉食の野獣化人間が横行する世界ってのは、まさにこの現実のことじゃないかな。
 もうちょっと、よく考えてみようよ!

【あらすじ】
(私情私憤により「読め!」と一言書いて終わらせたいが、無視する罰当たりもいるだろうから、親切にちょっと教えてやろう。) 

 この物語は導入部が一番たるい。
 遥か未来の記憶を思い出す老人という、H・G・ウェルズがステープルトンを小規模にパクったみたいな小咄が付いているのだが、無くても成立する。例えば後年の『スターウオーズ』という作品は銀河帝国の歴史を字幕をスッ飛ばすことであっさり処理していた。
 だがな、いいか、お前ら。効率だけがすべてじゃないんだよ!
 無駄の中に宝がある。
 このケレン味、無意味な重厚感がヴィンテージSFの本物の味わいである。そこを理解して慎重に賞味しろ。年表をつくってもいいぞ。シリーズ2作目、3作目、4作目が訳される見込みは絶対ないから無駄だけどな!

 ま、そんな前説を要約してザックリ簡単に述べると、民主と帝政がぶつかって未来の地球は瓦解した。それを再建し自由主義アメリカの精神を蘇らせた偉大なるクズ集団、それが宇宙軍団だ!
 レンズマンより特殊能力が無い分、ハートが無性に熱い男達の集団だ!口数だけ多い女なんか入団できない、倫理観は小学生レベルの、ガチやばい暴力慣れした男の武装団体だ!
 この由緒ある男の殿堂に、とあるボンクラ新人が門を叩くところから物語は始まる。

「・・・新人ジョン、着任命令書により出頭しました!」
「よう、来たの。ま、座れや。われ」
「はッ!それで、どんな任務を頂けるのでありましょうか?」
「お前には火星に飛んで貰う。そこで超兵器AKKAの秘密を握る二十歳の娘を警護するのじゃ」

 警備についた途端に娘は攫われ、外宇宙の彼方バーナード星へ連れ去られてしまう!マジか!
 あせった新人は、宇宙軍団内部の卑劣な裏切り行為により抹殺されかけ、ボコボコに。宇宙軍団は鉄壁の軍規を誇る鋼鉄武闘派集団だが、人に騙されやすいのが玉にキズだ。
 地団駄踏んで悔しがる若僧に「助太刀するぜ!」と落ちこぼれベテラン職員3名が凸待ちコラボし、史上最強の燃える男の異星特攻チームが出来上がる。ここにはロバート・アルドリッチも影響を受けたと見える。

 空間を歪ませる(!)謎のエンジンにより駆動する宇宙船は、フォボスで軍団幹部を強制拉致し、冥王星で燃料を強奪し、犯罪者として全太陽系に指名手配されながら宇宙街道を爆進する。♪パララ、ララ~パララ~。
 途中で出くわしたバーナード星人の宇宙戦艦と激しいバトルとなり、小太陽を投げつけられ真空の藻屑と消えかけるが、暗黒星雲に逃げ込んで文字通りけむに巻き、6つの衛星が分子分解光線のバリアを張る警備強固なバーナード本星に辿り着く。分子結合を破壊する強力無比な警備網を努力と根性で耐え抜いて(「我慢しろ!」「イェッサー!」)、地球の数倍ある巨大惑星に超重力を感じることなく不時着する。

 だが、不幸にも海原の真っ只中に墜落したため、都合により全裸(事実)。徒手徒拳で怪奇植物生い茂る未知のジャングルを横断する破目になる。
 目指すは、この惑星唯一の大陸にある唯一の都市、夢の大都会。暗黒金属で造られた暗黒要塞の地獄塔だ・・・!

【解説】
 以上あながち嘘でもないあらすじを繰り延べてきたが。
 いや、しかし、ご都合主義をそう感じさせない、この物語のドライブ感は本物だ。
 中学の時読んで興奮したが、いまでも興奮するもの。そこは大いに褒め讃えていいと思う。突っ込みどころ満載なくせに、面白く項を捲らせる、時を忘れさせる。読書の効能ですよ。
 絶対無理な問題の立て方をして、腕に任せてその解決を図っていく手法が繰り返されるのだが、根幹は007原作シリーズと同じ。カウンター・アンド・アタック方式なんだよね。
 いきなりスラスラ解けるんじゃなくて、難題が襲ってきて、それを知恵と勇気で撃破していく達成感の地道な積み上げ。受験勉強ですよ。浪人生だね、うん。浪人生のロマンと同質だと思います。

 だから、最後の王道過ぎるサゲがいい感じにハマって、ちょっとウルウルしました。野田節って意外と芸が細かくて、やっぱいいよね。

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