2022年10月 9日 (日)

澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(単行本–2015/10/30、2018年2月 角川ホラー文庫)

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★注釈、これ絶対ちゃうやろ、違うやつ

 漆黒の暗闇を切り裂いて、一本の矢が飛んだ。
 矢羽根は白地に赤い二本縦縞。白鷲の尾羽を朱線に染める宣戦布告のしるし。鏃の切っ先が鈍い光芒を放つ。
 矢はトツン、と小気味いい音を立て、怪奇探偵スズキくんの横の柱に突き立った。

「・・・は?!・・・」
 夜食のラーメンを屋台で小気味よく啜っていたスズキくんは息を飲む。
「はるばる大阪くんだりまで来て、信太山新地に巣食う妖怪年増女を退治し、快く報奨金をせしめて締めのラーメンを食べている平和な今宵のボクに、こうして堂々宣戦布告してくる不届き者は一体誰なんでしょ?」

「わしやー、わし」
 弓を片手に頬を真っ赤に染めた白塗りの中年男が飛び出して来た。黒縁大めがねを掛けダブダブの道化服を着ている。
「パンパカパーン!わしが浪速でウワサの万博仮面。好評につき二度目の襲来」
「って、仮面かぶってないじゃないですか。名乗りが漫画トリオだし。どうせ、あんた古本屋のおやじでしょ」
 おやじは露骨に傷ついた顔をした。
「うるさい。妖怪博士・・・かと思えば二十面相。鋼鉄の人魚と思えば実は二十面相。さすがに宇宙怪人だけは違うでしょ?と思ったらやっぱり正体二十面相。
 怪人は昔から意味ない変装変化を繰り返してきた。天地開闢以来の正しい伝統にわしも忠実に従っておるだけじゃ!」
「もういいから。そういうのは。無駄に記事が長くなるから。今回は手早くスピード感を持って纏めるんでしたね?ま、お掛けください」
 
 グビグビとコップの水を流し込むおやじを横目で見ながら、
「メンマ。あと瓶ビールください。グラスふたつ」
 テキパキ注文すると、
「さて、コント終了。帰りの新幹線の時間があるんで、さっさといきますよ。だいたいあんた、この為だけに自腹で旅費出したんですか」
「・・・うん」
 おやじは草臥れたのか、とろんとした目で頷く。

「澤村伊智『ぼぎわんが、来る』を一日で読んだんでね。この速度感を大切にしようと思い急いで弓を買い込んで新幹線に飛び乗った。駅員と乱闘しながら浜松、名古屋、京都。最終的に取り押さえられ迷惑行為で強制下車。交番で詫び状書かされ、あとは各停京都線で来た。この熱さとスピードを皆さんに至急お伝えしたい」
「いやそれ、かえって時間かかってるし。弓矢の意味がわかんねぇし。ホントなにがしたいんですか、あなたは」
「確かに。鉄道警察、京都府警から厳重注意くらった。今度やったら前科者だって」
 怪奇探偵スズキくんはほくそ笑んだ。
「急がば廻れ奥の細道。怪奇に抜け道なし、常に一通です。
 だいたいスピード、スピードって、あなた、P.D.ジェイムズの処女長編『女の顔を覆え』に優に一か月掛けてた人でしょ。人間関係の配置がしっくりチャンと脳内に入らないと、登場人物多い推理物はキツいですよ」
「ああ、まったくその通り。進まなくて正直イラつくわ、牧師とか医者とか近所の若造とか全員いらないんだよ!どうせ家族の話じゃん!しかも、その家族内でも容疑者のイケメン兄が看護婦に手を出すし、妹は出戻りで出版関係者と不倫しているくせに、一方で警部にコナかけるし。とにかく関係者全員が性欲ありすぎなんだよ!お前らがもっと大人しくしてれば、こんなに事件は紛糾しねぇよ!」
「そもそも、みんながもう少しまともだったら殺人事件は起きなかった可能性だってある。ジェイムズもそこが一番言いたかったんでしょうね。またしても横溝、またしても『獄門島』だ。登場人物たちのキャラが立ちすぎると、因果な歯車が勝手に廻り出し陰惨な殺人事件のひとつも起こらないと事態が収束しないという」
「それ言ったら、推理小説全般に終わりじゃん(笑)」

「ところで、」
 怪奇探偵スズキくんは注いだビールをグイと飲み干し、
「今回は確かジャパニーズホラーアクションの伝統について語るんでしたよね?」
「うん。無論スピード重視でな!ま、採り上げる本は既に“単行本⇒文庫⇒映画・マンガ”と一周以上回って最新刊とは全然言い難いけどな!」
 おやじは汚い鞄からハチマキを取り出し、締めた。「いくぞ、本土決戦だ」

「あ、キャプテンKENだ。ってか、スピードスピードっておっしゃいますが、もう開始10分以上を経過してますけどね!
 さて、今回お題の『ぼぎわん』なんですが、中島哲也の映画版は観たんですか?世評は微妙みたいですが」
「本編は観てない。公開当時にYoutubeで予告編だけ観てて、なんかJホラーはJホラーでもサイコパス出る『妖怪大戦争』みたいな感じ?そこから原作の存在を知った。歴彦逮捕の角川ホラー文庫。『粘膜人間』でお馴染みの角川ホラー大賞受賞作」
「そのコメからいいイメージがまったく湧きません」
「春樹もやばかったが歴彦もやばかった(笑)お前ら角川源義の発刊の辞を読んでないのか。“学芸と教養の殿堂として大成せん”」
「オリパラで賄賂贈れるのは大成した証拠でしょ。逮捕のAOKI会長だって1964年当時“オレは今は行商だ。だが、いつか商売を成功させて、オリンピックの審判団の服を作りたい”とルサンチマン膨らませていたそうですし」
「分かりやすい成功のイメージ。オリンピックで桃鉄あがり、みたいな。オリってホント魔性ですよね。関わった者全員を不幸にする(笑)
 それはともかく、この本を読んでないよい子のお友達にあらすじを手っ取り早く紹介しておきましょうか。おやじには頼まず、恒例Amazonよりの引用です。

幸せな新婚生活を営んでいた田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。取り次いだ後輩の伝言に戦慄する。それは生誕を目前にした娘・知紗の名前であった。正体不明の噛み傷を負った後輩は、入院先で憔悴してゆく。その後も秀樹の周囲に不審な電話やメールが届く。一連の怪異は、亡き祖父が恐れていた“ぼぎわん"という化け物の仕業なのだろうか? 愛する家族を守るため秀樹は伝手をたどり、比嘉真琴という女性霊媒師に出会う。真琴は田原家に通いはじめるが、迫り来る存在が極めて凶暴なものだと知る。はたして“ぼぎわん"の魔の手から、逃れることはできるのか……。怪談・都市伝説・民俗学――さまざまな要素を孕んだノンストップ・ホラー!
https://www.amazon.co.jp/dp/4041035562?ie=UTF8&tag=bookmeter_book_middle_arasuji_pc_logoff-22&redirect=true&viewID=&ref_=nosim#productDescription

「うんうん、こんな感じだっけ。一応合ってるが“幸せな新婚生活”というのは二重に嘘。そもそも子供がしゃべる年齢になってる夫婦は新婚ではなかろう」
「いや、子連れ婚の場合とかならあるでしょ。本書の場合は違いますが」
「あらすじだけなら、これは育児崩壊してる悲惨な家庭に子取り妖怪が忍び寄る、という実に古典的な噺でね。因もあれば果もある。事の発端は実は先代のおばあちゃんの呪いで・・・という地味な常道で、あんまり面白くない」
「面白くない(笑)イクメン皮肉ってるとこがわかりやすいので、わりかし読者には好評みたいですが・・・みんな、イクメン嫌いなんですね!」

ねこ
後半がやや失速したけど、面白かった!自称イクメン夫のリアルさが一番怖かった…。
https://bookmeter.com/books/9853223x

「うん、前半がハマる人と後半の展開に燃える人とあると思うんですよ。前半は明らかに狙って書いたっぽい。わしは当然後段推しなんだが、先に弱点指摘しとく。後段の展開は確かに力み過ぎで失速気味の箇所があってさ、新幹線代かけて東京からわざわざ近畿の山まで行って、ジッと霊視して結局「ここにはいません」って!(笑)コントかよ!警視庁動かせるレベルに忙しい人がなにやってんだよ!」
「(笑)白石晃士リスペクトのギャグでしょう。“ここじゃない!あっちだ!”ドタバタ、みたいな」
「あと、国家機密レベル級の超霊媒師が、一体どうやって祓うのかと思ったら、最終的には腕づくだった(笑)取っ組み合って押さえ込む。柔道か!(笑)」
「ま、単に睨み合うだけじゃ収拾つかないですからね。そこは大人になってください」

「でも、わしは後段の方が抜群に面白かったな。不条理な因果が襲い来る前半、別に悪くはないんだけど。例えば死にざまショック度の高い、夫の殺され方。大口でガブリ、人間半齧り。ルチオ・フルチっぽくていい」
「もしもし、そこ説明が単なるオタ妄言になってますよ!善良な一般読者の方は、映画監督フルチなんか知らないんですよ!そんなんだからいつまで経ってもメジャーになれない」
「だけど『サンゲリア』は一般人でも知ってる1980年の大ヒット映画ではないのか?公開当時、社会現象にもなった筈だぞ。『いち、に、サンゲリア』ってな!」
「だから、それは2022年現在からすれば、42年前です!高齢者しかご存じないでしょ。いま戦後何十周年だと思ってるんですか?」

本年8月に太平洋戦争終結から77年が経過する。77年というのは明治維新から太平洋戦争終結までと同じ長さだ。
引用元:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1791S0X10C22A1000000/#:~:text=%E6%9C%AC%E5%B9%B48%E6%9C%88%E3%81%AB,%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%81%A8%E5%90%8C%E3%81%98%E9%95%B7%E3%81%95%E3%81%A0%E3%80%82

「あ、やられた・・・」
「ね。この数え方されるとインパクトありますでしょ。年齢自覚するでしょ。“サイバーパンク以降のSFがよく分からん”ってあんたがボヤくのも当然。それは30年以上前の話だし、あんたなんか耄碌した老い耄れクソジジイなんですよ!」
「エ・・・老い耄れ?この、わしが・・・?わしって老人だったの?!老人Z?」
「なにボケかましてんですか。前回100年以上生きてるって公言してましたよ。どう見たってくたばり損ないの瀕死のジジイでしょーが!アントニオ猪木だって、ボブ・ディランだって死ぬときは死ぬんですよ!」
「いや、ディランは生きとるよ。まだまだ若い(Forever Young)。80歳だが・・・」
「と・も・か・く。
 年寄りの世迷い事は大概にして、話を『ぼぎわん』に戻してください。いい加減に読者全員が本気で読む気を失くしてます」

「うん。この本を読んで、わしの率直な感想は実に簡単。兄弟姉妹の違いはあるけど、霊能力で兄の方が強くて、祟られた家庭に入り込んでって、これってミスター仙人九十九乱蔵シリーズやん!」
「は?・・・ああ、夢枕獏ですか。ボクはあんまり読んでないんで詳しくないんですけど・・・」
「『蒼獣鬼』まではテンション高くて結構面白いよ。ミスター仙人のダサさ加減は正直どうかしてるんだけど。稗田が妖怪ハンターという故事に倣った編集者のフルスイング、オーバースローだろうね。獏は『幻獣少年キマイラ』朝日ソノラマ出世組だね」
「ソノラマか。菊池秀行なら結構ハマりましたよ。ボクのクトゥルー神話好きも実はそこから来てる」
「わしは、レッツゴー怪奇!ハマープロ・リスペクト!な映画レビュー本『怪奇映画の手帖』しか知らんのだが・・・この人、有名な作家の人なのかね?」
「ぎゃふん。相変わらず偏った本棚ですね。なんでそれだけ読んでるんですか?まぁ菊池先生の著作数を見てやってくださいな。確実に引きますよ!恐ろしい数です!」

菊地ファンクラブ 作品リスト
http://kikuchi-fanclub.d.dooo.jp/list.html

「うぎゃーーー!!!」
「恐れ入りましたか。菊池先生は読者も追いかけるの大変なんです。それでも付き合いで新刊が出ると買ってしまう。毎度内容スカスカで酷いって嘆きのブログよく見かけますよ」
「確かに涅槃の境地、無双モードに突入してる作家だな。なんだこれ?『トンキチ冒険記』(笑)」
「そこは積極的に無視。しかし、どんなものでもいい、作家がこれだけたんまり書けば、中には(たぶん)読むべき内容の本もあるのです」
「うむ。ま、でも確かに彼の黴臭い恐怖映画に対する愛は本物っぽかったが。初期『宇宙船』に寄稿してるくらいだからな。それでも私は小説に食指が伸びないので、たぶん今生では読むことがないであろう。来世に期待」
「はァ、あちらもいらんそうです」

 コケたおやじ、気を取り直し、崩れた白粉顔に掛けた黒縁の大眼鏡を指先で直して、
「ところでジャパニーズホラーアクション小説の伝統について概説するが、まずこれは西村寿行をゴッドファーザーと規定する。ジャンルの草分け的存在だ。具体的には、連作長編『鬼』(角川書店 1983年)に結晶化されるような、怪奇、陰陽師、性と暴力と霊能力に犯罪が絡む大人の黒い読み物の総称だ」
「ふむふむ。さっぱりわかりません。ボク、その人ぜんぜん読んでないです」
「映画にもなった『犬笛』とか知らん?誘拐された自分の娘を取り戻すべく鬼刑事が執念深く追って行って、犯人を追い詰めると、島田陽子が乳首にバンドエイド貼ってコンニチハ~って出て来るという(笑)」
「なんですか、それ・・・?コントですか?」
「国民的大ベストセラーだよ!松本清張とか森村誠一とか大藪春彦とか、社会推理や暴力全面肯定派が国民の本棚を賑わしていた時代があったんだよ!売れたからガンガン映画化もされて超大作として封切ってた。今じゃブックオフの棚の肥やしだ」
「はぁ。『黒革の手帳』とかなら今でもしつこいくらい映像化されてますが」
「現代に継承されてるのは、『黒革』と『ザ・ビッグホワイトタワー』、『白い巨塔』くらいだな。ジロータミヤ猟銃自殺でお馴染みの。『ザ・タイムショック』って知ってるか?」
「お年寄り回顧録みたいな流れになってますよ。話を戻してください」

「うむ。もともと、動物・人間・レイプ・大量虐殺・国家規模の陰謀を含む、ワイルド極まる70年代ロマンの旗手であった西村先生であるが、心霊にも強かった。多方面に影響与えた『鬼』は重要作なので押さえておいた方がいいぞ。
 『鬼』に代表されるエンタメ心霊妖怪作劇術を基本骨子に据えて、鏡花、乱歩に輸入翻訳をバックボーンとする正統派ホラー路線とは明確に一線を劃すジャパニーズホラーアクション小説は、具体的には襲い来る超常現象異界の怪異を、聞いたこともない変な呪術と強引な腕力とで捻じ伏せる、大雑把すぎる力技を最大の武器とする。
 そこに、SFXが異常発達を遂げたハリウッド映画、具体的には『遊星からの物体X』やら『エイリアン』『ポルターガイスト』『狼男アメリカン』などのパワー系ホラーフィルム、その影響下にあるOVAやアニメ『妖獣都市』らと共謀、ビジュアルイメージには流血残虐系(フルチやサビーニ)を加味、永井豪の伝奇残酷マンガのエッセンスを軽いスパイスとして、半村良を嚆矢とする伝奇SF系、諸星大二郎が祖先としか思えない古代誌・伝説、中国古典からの引用系を配合。要はいいとこ取り。
 結果として、
 ・怖くはないけど気持ち悪い
 ・とにかくド派手でマンガチックにページを捲れる
 ・連続する流血描写と性描写で人間の本能へダイレクトに直撃
 という、下品な娯楽の王道、欲望の満漢全席として成立した特殊ジャンルなのだ。代表例が獏や菊池先生や友成純一だ。でも裾野はもっといるぞ。横溝美晶とか志茂田カゲキちゃんも書いてたし、有象無象は星の数」

 怪奇探偵スズキくんはため息をついた。
「うわー、説明長ぇ~。祥伝社で獏さんや菊池先生が売れたのが爆発的ブームの発端で、並行して若年層にもソノラマでも『キマイラ』や『吸血鬼ハンターD』が売れてました。
 そこから小難しく辛気臭い本格ホラーと異なるエンタメ重視ホラー路線が一般客にもヒットし、80年代以降マーケットを席巻していく流れはボクも認知してましたが・・・」
 おやじ、ニンマリ笑う。道化顔が溶けて流れてよっぽど妖怪みたいだ。
「マジ、このジャンルのニッチな読書ガイドはあって然るべき。愚作や便乗作が数多く存在するので収集するだけで面倒だが。だいたいご本家も獏も菊池も代表作シリーズは延々続くグダグダ路線にシフトしていくしな。
 だが、私の見るところ、『ぼぎわん』第三章は本来この文脈において語られるべきなのだ」

「なるほど。で、令和の時代に昭和末期のテイストを蘇らせた本書は、当然エポックメイキングな立ち位置で?」
「いや、残念ながら佳作クラス(笑)造りが丁寧でちゃんとしてるし、ぼぎわんは意外と物理的破壊力のあるモンスターなので、実際楽しく読めるのだが。水木しげるの妖怪図鑑みたいな感じ?
 だったらもう少しメインストーリーを下世話な性と欲望路線で強化し、『復讐するは我にあり』、倍賞美津子は猪木の嫁級にグチャグチャな展開になって良かったんじゃないのか。登場人物のみなさん、全員が意外と品行方正、ウブで純情なんだよ。魔界に手を染め変態する元同級生の民俗学者とか、きみよもっとキモくなれ!って感じ?ただの意地悪おじさんじゃん!」
「それ、あんまりやり過ぎると逆にウケないんじゃないですか。やはりライトでないと。ラノベでないと。好評につき本シリーズは続投、その後も何冊か出てますね」
「うーん、シリーズ追いかけるほどの魅力は正直感じなかったが・・・」
 
 スズキくん、すかさず画面の外に向かい、
「(小声で)反論したいお友達がいたら、ボクにお便りくださいネ!あくまでこれは、老い耄れクソおやじの主観的意見ですんで」

「なにを大衆に媚び売っている。よし、言いたいことは伝えたし、そろそろ行くぞ」
「へ・・・?!どちらへ?フランスのパリとかへ?」
「バカもん、この世の外側へ。理性と常識を飛び越えた夜の彼方へだ。あれを見よ」

 通天閣上空に真紅の気球がゴンドラぶら下げて、どんよりした闇夜に浮かんでいた。
 
「あー、時代錯誤も甚だしい。今どき何を出してくるんですか。あれまさか、怪人二十面相が警官隊に追い詰められて逃亡に使った大気球ってんじゃないでしょうね?」
「そのナニだ。ヤフオクで購入しました」
「ロマンないなぁー。猟奇王も泣きますよ。しかもネタが小林信彦『大統領の晩餐』丸パクリだ。どうしても乗る気なんですか、あの安全点検皆無そうな代物に?」
「うん。止めても無駄だよ。わしは固く決心しとるんだ」
「いえ、決して止めたりはしませんが、酒代くらい払ってってくださいよね」
 おやじ、乱杭歯を剥き出しニンマリ笑い、
「舐めんなよ、わしは年金なんか一切かけてないんだぞ!高齢者所得はゼロ円なのだ。でなきゃ、なにが悲しくて貧乏な古本屋なんかやるもんか。ということで、ではスズキくん、この場の勘定は完全に任せたぞ」

 ゴムの突っかけがコンクリートを踏んでタタタと湿った音を立てる。
 おやじの猿に似た後姿が雑踏に遠ざかっていった。

「あ、ちょっと。ちょっとー、ってば。あーダメだ、異界に行ってしまわれた」
 
 遠くで怒鳴り声や車のブレーキ音が連続して聞こえ出した。
「なんや、こいつ」
「やばいわ、包丁持っとるで」
「警察を呼べ」
「うわ、壁を登り出した」
 
 怪奇探偵スズキくんは涼しい顔で、懐から取り出した年代物のセブンスターの箱の封を切り、一本銜えて火を点ける。
 パトカーのサイレンやら、消防車に救急車など緊急車両の警笛音が、繁華街のネオンの中に鳴り響き始めた。隊列が左右に展開し拡声器が持ち出され、投降を呼びかける真面目そうな警官の声が聞こえて来る。
 やがて、投光器が投げかける丸いスポットライトの中に、一心不乱に高層階へ壁を登る小柄な老人の姿が浮かび上がった。

「死刑執行人もまた死す・・・か」
 スズキくんは煙の輪を吐き出し、ウェストポーチから財布を取りにかかる。新幹線のまだあるうちに東京へ帰らねば。
 怒声が上がり、屋上に辿り着いた怪老人がゴンドラに乗り込むと、巨大な気球がぶらり揺れながら動き出した。
 煙草を揉み消しお会計を済ませる。スズキくんは後を振り向きもしなかった。

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2022年9月18日 (日)

ザ・ドアーズ『L.A.ウーマン』(L.A. Woman)1971、エレクトラ・レコード

やっぱりドアーズ。絶対ドアーズ。
 これが最高であり他に比べるものが無いワケですよ。まず、そこを強調しておきたい。

でもね、いきなり期待裏切りますけれども、私の場合、LP時代から全アルバムを当然コレクトしギンギン愛聴しまくり、ライブ音源や海賊盤まで手あたり次第収集しとかいった、そういうわかりやすい行動をまったくしません。皆無。伝わりにくいんですよ、私の場合。根幹から。共感得にくい。
 ストーンズの好きな人が全員中野D児な訳ではないし、収集物を開陳する本も出版しませんし、ではザッパファンはみな八木康夫なのかウンチクくっちゃべるのか、鳥井賀句そしてジョニー・サンダースは、とかしょうもない話はもういいでしょ。みんな故人なんだし。そういう時代は葬ろうよ。あ、でも鳥井賀句、まだ生きてるのか。「現在はミュージシャンとして活動する傍ら、中国算命占星学師範として、占い師としても活動している」。
 ドアーズ、私がLP時代に持ってたのは三枚目『太陽を待ちながら』だけで、なんか当時¥2,000の廉価版で安かった気がする。中学のとき。
 おっと、その前に当時NHK FMで日曜夕方6時、洋物映画のサントラばかりをリクエストに応じてギンギンにかけまくる狂った番組があり、そこで『地獄の黙示録』の主題歌だった「ジ・エンド」を初めて聴いた。やばい。これ、やばいことになってる。やたら長いし、聴くと頭悪くなりそ。
 実際アルバムを聴くとこれがまた、強烈な違和感。不快感。吐き気とめまい。漂う不潔感。生ける不吉の象徴。
 アカペラで汚い飲み屋で騒ぐどん底オヤジを活写した「マイ・ワイルド・ラブ」には大感動。こういう表現があったのかと影響を受ける。
 これぞドアーズ。ぼくらのドアーズ。曲の途中で名もなき兵士が銃殺されちゃったりしてもう最高。なんか指先についた精液匂ってる感じなんですよ。たとえがキモくて申し訳ないが、音も歌も生々しくてね。えぐかった。
 本能に訴えかけてくる音楽。
 衝動が暴走していくあの感じ。諦念と弛緩。キレキレの歌と演奏。言い切りの快感。
 ♪おまえは行方知れずだリトルガール。神隠しにあったのだ♪
 中学生はこれ一枚聴いては充分満足し、時は流れ。その後ファースト、『まぼろしの世界』はCDで購入し、大学一年目の時だから1987年くらいか。ま、絶対文句ない。ある意味ちゃんとしてます。有名な曲しか入ってないし。
 それからさらに10年後。1997年未発表音源多数の4枚組ボックスセットを購入。最高。4枚のうち1枚はベスト盤ってのは詐欺だと思ったけど。ヒットラー感満載の「ファイブ・トゥ・ワン」のライブテイクなんか凄かった。もうアジるアジる。
 ♪5対1だよ、1ふくむ5♪
 『ソフトパレード』『モリソンホテル』は40周年記念エディションの年だから、2007年。このとき、ファースト、セカンド、サードも新ミックスで買い直してる。(新ミックス?大差ないね。やる価値なかったねブルース・ボトニック。)
 こうして亀の歩みを繰り返して全オリジナルアルバム制覇したのがなんと今年8月ですよ。2022年ですね。最後に控えていたのが、最大のヒット作『L.A.ウーマン』。ジム・モリスンが完成後フランスへ行って麻薬で野垂れ死んだんで、ラストになってしまった曰くつきの一枚。そしてこの時かつての中学生は55歳になっていた。

ラ・ウーマン
収録曲
1.チェンジリング
2.彼女を狂ったように愛する
3.こんなに長い間ダウンしていた
4.私の窓辺の車ヒス
5.ロサンゼルス・ウーマン
6.アメリカ
7.ヒヤシンスハウス
8.這うキングスネーク
9.The Wasp (Texas Radio And The Big Beat)
10.嵐のライダー
11.オレンジカウンティスイート(ボーナス)
12.(肉が必要です)Don't Go No More (Bonus) シングル

この傑作アルバムの発売50周年を記念して、3CD+LP仕様となる『L.A. WOMAN [50TH ANNIVERSARY DELUXE EDITION]』が発売されることとなった。(邦題Google翻訳)

 特にコメントすべきことはないけど、LPはさすがにいらねんじゃね?商売感まる出し。
 「嵐のライダー」のリフって「大地に触れないで」と同じ。もともと蜥蜴王の祝典の一部なんですよ、そのチャリティの一環です。トカゲ王の墓なんです。実はその完結編。
 そういう残務整理の中でかかると「ヒヤシンスの家」がえらくいい曲に聴こえてしまうのが不思議。異様に盛り上がる。心に刺さります。
 わずか6枚のアルバムコンプリートに40年かかってしまいましたが、どのアルバムがどうこうとか、せこい話はもういいでしょ。どれも最高でしたよ。疑いなく。真顔で断言できる。
 ここまで来るのに長い、長い、長い時間が本当かかったが、実はほんの一瞬だったんだ。結局(IN THE END)。

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2022年7月24日 (日)

P.D.ジェイムズ『不自然な死体』(Unnatural Causes、1967年) <早川書房 世界ミステリシリーズ1410>

「怪奇探偵スズキくん、いま怪奇はどこにある?」

 古本屋のおやじは饐えた暗闇の中に座ってしゃがれた声で問いかける。
 昭和感漂う古本屋『運減堂』は、文京区本郷から台東区上野へ向かう暗闇坂の途中に、時代に取り残された遺物のように傾いで建っている二階屋である。なにせ目前は東大本郷キャンパス弥生門、嘗て樋口一葉など名立たる文人が本郷から上野を行き来した道も古式を偲ぶゆかりはまったくなく、門構えの大きい曰くありげな家もまだ辛うじてあるとはいえ、坂道沿いに繁茂してきた樹々の投げかける深い陰影など大半取り払われ、すっかり面白みの無い都心のありきたりな二車線道路の細い坂道と成り果てている。
 誰も来ない店内にイスを設え、お馴染み怪奇探偵スズキくんはのんびりお茶など啜っている。
 赤褐けた斜光が正面のガラス戸からうっすらと差し込み、居並ぶ本棚にぎっしり詰まった背の灼けた古書の山を照らし、カウンターに座った異様に真剣な面持ちの猿に似た老人の顔を闇に浮かび上がらせていた。 

「そりゃ読者の皆さんの心の中に、依然としてあるでしょ。怪奇を求める心は不変ですよ」
「うん。先日の元首相射殺事件だって主たる国民の関心は背景に拡がる闇にある。宗教団体、無茶な献金、一家離散と自殺未遂、元自衛隊」
「いや、自衛隊は闇じゃないでしょ(笑)」
「22歳元女性自衛官が実名・顔出しで自衛隊内での「性被害」を告発・・・という記事がAERAに載ってたが。わしの小学校の幼馴染が自衛隊の医官かなにかで結構羽振りいい筈だが、あいつ出身は仏教大だぜ」
「(笑)いや、ぜんぜん、闇を感じませんが」
「まったく風情のわからん奴だ」

 おやじは溜め息をつき、テーブルの煙草を取り上げ火を点けた。
 スズキくんは愛想笑いを浮かべて、腕を組む。

「ただ、なんとなく言いたいこともわかる。平坦に地ならしされ無味乾燥、アメリカナイズにフラット化されたつまらん現代社会でも、人間居るところには常に闇の影が付きまとう・・・ですか。あなたと川島のりかずの持論ですね」
「百年以上生きてみて分かったんだが、人間のやることなんて、そんなに変わらんよ。権威というものが悉く矮小化され貶められる明るいSNS社会にだって闇はある。普段出て来ない内面が吐き出され易い傾向を考えれば、一層闇は深まったと言えよう」

「あんた百年以上生きてたんですか。そりゃご苦労様です」
 怪奇探偵は半ば呆れた口調で言い放ち、お茶を啜る。
「その割に迂闊ですよね。隙が多い。このブログで言えば、2010年2月好美のぼる『悪魔のすむ学園』の記事をアップした時、あなた、パソコンを通じて悪魔が呼び出される設定が『女神転生』だって知らなかったでしょ?」
「うん、昨日YOUTUBE観てて気づいた。無知でした。謝罪しとく」

【ファミコン】女神転生 合体好きにはたまらない名作RPG
214,263 回視聴2022/07/20
https://www.youtube.com/watch?v=HUSr_CO6Bms

「ま、しかし、アレだな、スズキくん。ボルヘスだって『女神転生』知らないで「バベルの図書館」シリーズを編纂したんだろうしこりゃもうノーカウント、ノットギルティだよな!」
「・・・な、わけないでしょカスが!」
 卑屈な笑いを浮かべるおやじを軽く一蹴し、怪奇探偵スズキくんは本題に入った。

「さてさて今回は、42歳デビュー!元看護婦にして生活苦の育児ママ、英国ミステリー界の大御所P.D.ジェイムズおばちゃんの初期傑作、『不自然な死体』を取り上げる訳ですが・・・」
「ここで注意!文筆家の最大のタブー、推理小説の評論を敢行するためには犯人もオチもすべてバラさねばならぬ、を今回も忠実に実行するからな!この本に少しでも関心があって将来読むかもと思う人は、読んでから来い!読んでから必ず来ないと、ギロチンに架けられ首を捥がれた血塗れのおやじが真夜中にきみの後ろに立つからな!ま、ただ単に立ってるだけなんだけどな!動きにくいぞ、気をつけろ!」
「はいはい。本書のあらすじはおやじに任せると嘘を書くといい加減わかったので、Amazonの商品ページから引用します」

内容(「BOOK」データベースより)
 ダルグリッシュ警視が休暇でサフォークの叔母を訪ねた日、両手首を切断された男の死体が、小さなボートに乗って近くの海岸に流れついた。
 遺体は付近の村に多く住む物書きの一人、推理作家のモーリス・シートンだった。
 さっそく郡警察が捜査を開始したが、解剖の結果、意外な事実が判明した。死因は心臓麻痺。自然死だったのだ。
 だが、はたして純粋な自然死なのか。手首切断の背景には何があるのか?ダルグリッシュは否応なく事件に巻き込まれていった…。
 人間と背景の緻密な書きこみと謎解きの妙が見事に融合した、ミステリの新女王の初期の秀作。
https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%8D%E8%87%AA%E7%84%B6%E3%81%AA%E6%AD%BB%E4%BD%93-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E6%96%87%E5%BA%AB-P-D-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA/dp/4150766045

「確かに面白そうな発端ですね。掴みはオッケーな感じがします」
「P.D.ジェイムズはちゃんとしてるんだよ。エンタメをわかっとる。溢れる凶悪な遺体損壊とネガティブ極まる人間描写。端的に言ってこりゃ横溝正史だな!」
「は、唐突に横溝ミステリーですか。あの宇宙飛行士Dさんも最大級のリスペクトを捧げるという(笑)」
「あいつは、いい歳こいて『怪獣男爵』のハードカバー復刊を購入してしまう本物の痴れ者だよ。お前の方がよっぽど怪獣男爵だっつーの」
「(笑)しかし、レビュアーは全員これが横溝だとは誰も気づいていない模様です。以下ランダムに引用抜粋してみましょうか」

■不自然な死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 文庫 – 1989/8/1
P.D.ジェイムズ (著), 青木 久恵 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%8D%E8%87%AA%E7%84%B6%E3%81%AA%E6%AD%BB%E4%BD%93-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E6%96%87%E5%BA%AB-P-D-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA/dp/4150766045

河童の川流れ-ベスト500レビュアー

結末も不自然な構成であり、ネタバレになってしまうが、あの男を、あの女が手足のごとく使いこなすことができるだろうかとの違和感は免れない。
他のレビュアーが書いていましたが、「障害者に対するあからさまな嫌悪感が書かれていて非常に不快です。」とのご指摘は評者も同じように感じていたから同感してしまいました。

■不自然な死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
P.D.ジェイムズ
https://bookmeter.com/books/20419

kyoko
なんか気色悪い物語だった。好感を持てる人はダルグリッシュの叔母のジェインだけ。我がまま勝手な村の人たち、それぞれの人間性に興味を持てないまま(自分のせい)、突然の独白で事件解決。
(引用終わり)

「お前ら、本当バカだね!横溝だから人権無視なんだよ!(爆)特にkyouko!お前、小学生みたいな幼稚な感想書いてんじゃないよ!」
『只今不適切発言がありました。おやじは訂正してください』
「???」
「今のは今回から導入された違反行為判定A.Iです。当サイトの利用運営ポリシーに反する行為発言があった場合、自動的に稼働し反省を促す。度重なるルール違反が認められた際は利用者のアカウントを凍結する怖ろしい機能を有しています」
「お前が裏声で喋ってるんじゃないのか。だいたい貴様なんで後ろ向いて喋ってるんだ?」
「いいから先に行きますよ。次は好意的な発言の方です」

■不自然な死体 (1983年) (世界ミステリシリーズ)

mothra-flight
1、2作目で希薄だった探偵趣味が全面開花。両手首を切断されボートで漂う死体という最高のつかみから、自然な「不自然な死体」の解決ぶりは、その悪趣味ぶりとあいまって見事。

■不自然な死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 文庫 – 1989/8/1
P.D.ジェイムズ (著), 青木 久恵 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%8D%E8%87%AA%E7%84%B6%E3%81%AA%E6%AD%BB%E4%BD%93-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E6%96%87%E5%BA%AB-P-D-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA/dp/4150766045

Nody-ベスト500レビュアー
ミステリとしても何故死体の両腕を切断したかという、後年の作品には見られない強烈なホワイダニットの面白さがある。中盤、ダルグリッシュがロンドンに赴く辺り、構成が緩むのが惜しいが、押し寄せる嵐の中、グロテスクな犯人の内面が明らかになるクライマックスは息もつかせない迫力だ。
(引用終わり)

「そうそう、遺体損壊にはちゃんとした理由があるんだよね。酷い理由が。途中両手の無い死人がタイプした手紙が届いて、容疑者一同ガクゼンとなるとか身障フル活用(笑)」
「クリスティは映画化されても、ジェイムズがされない黒い理由はその辺りにあるんですかね?」
「そうそう、ちゃんとクライマックスに大ネタでアクションを入れてくる。今回も終局に行くほどエンタメ指数が急上昇。メリハリの効いたプロの作劇術なのに。差別はおかしい」

■不自然な死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
P.D.ジェイムズ
https://bookmeter.com/books/20419

はもやん
【ネタバレ】これは女性でないと書けない話だなぁ。犯人の怒りもわかる気がする。なんとなく彼女のことが嫌いなダルグリッシュの「男の内心」も見透かしてて面白い。最後、ダルグリッシュ自身がデボラにフラれる理由も理由だし。

花乃雪音
タイトルはセイヤーズ『不自然な死』のオマージュとなるが、不自然な死体というには両手首が斬られた死体というだけでは大仰な表現に思えた。しかし、その後に実は自然な死であったことがわかる。最後に語られる両手首を切られた不自然な死体とした理由は凡庸だが死体を不自然と自然の間で行き来させたことでタイトルが意味をなしたように思える。

セウテス
タイトルから解る様に、セイヤーズ氏「不自然な死」へのオマージュ作品であり、本家そのままと感じる描写も後半には在る。しかし何故手首が切り取られたのか、という考察が少ない上に面白くない。圧倒的に、本家に軍配が上がると思う。どうやら、独自性を出し始めた時期に当たる作品なのだろう。また名探偵の見せ場である犯人を特定するクライマックス、こうした演出にも作者なりの批判を込めて描いたと感じる。
(引用終わり)

「おいおい、花乃雪音!お前の文章、何回読んでもなに言ってんだかサッパリわかんねーんだわ!
『最後に語られる両手首を切られた不自然な死体とした理由は凡庸だが死体を不自然と自然の間で行き来させたことでタイトルが意味をなしたように思える』
 理由は凡庸?なに抜かす?そりゃ蓮見か?正体は蓮見学長だろう貴様?!お前の手首を切り落として、干して乾かして三越の贈答品の箱に詰めてメキシコ人達に送ってやろうか?!この凡庸にスカしたクズ野郎が!」
『ピーッ、ピーッ。只今不適切発言が・・・』
「うるせぇ裏声小僧。だったら、オレの発言、どこが具体的にまずいのか説明してみろ!」
『殺害予告はNGです。あと蓮見と三越は、特定出来てて完全にあかんやろ。特に三越。アホかお前は!無駄にリアル企業を敵に廻して何の得があるんだっちゅーねん!』
「わーわー、ハスミはともかく、三越さん三越さんごめんなさい。溢れる三越愛の為せるワザなんです頼むから許してちょんまげ。そしてにゃんまげ」
 おやじ、平伏し連続土下座で地面に頭を擦り付け、床に穴を開けてしまった。

 怪奇探偵スズキくんは嘆息し、気を取り直して言った。
「ところで、唐突に語られるセイヤーズ氏の「不自然な死」とは・・・?検索してみました」

■不自然な死 (創元推理文庫) 文庫 – 1994/11/16
ドロシー・L. セイヤーズ (著), Dorothy L. Sayers (原著), 浅羽 莢子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%8D%E8%87%AA%E7%84%B6%E3%81%AA%E6%AD%BB-%E5%89%B5%E5%85%83%E6%8E%A8%E7%90%86%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%BBL-%E3%82%BB%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%82%BA/dp/4488183042

殺人の疑いのある死に出会ったらどうするか。とある料理屋でピーター卿が話し合っていると、突然医者だという男が口をはさんできた。彼は以前、癌患者が思わぬ早さで死亡したおりに検視解剖を要求したが、徹底的な分析にもかかわらず殺人の痕跡はついに発見されなかったのだという。奸智に長けた殺人者を貴族探偵が追いつめる第三長編!
(引用終わり)

 おやじは床の穴から泥だらけの顔を持ち上げ、
「なんか、これ、普通じゃね・・・?読んだことある感、満載なんじゃね・・・?」
「おそらく花乃雪音とセウテスは、『おまいら知らねーのかよこのカス』病の知識マウントでしょ。でも本書と確かに関連はありそう。タイトル原題. Unnatural Deathだし。暇があったら比較してみる必要がありましょうが・・・浅羽が訳してるんじゃ期待薄かな・・・」
「でも、絶対この本は横溝じゃないよな!!!もう断言しとくわ!ジェイムズの最大の長所は、英国人のくせに獄門島に勝手に出張してきているところにある」
「まだ無茶言いますか。あんまり言うとまたA.Iに怒られますよ」
「いや本当だって。P.D.ジェイムズには超有名作品『女には向かない職業』というのがあって、江口寿史かそれに似た人が文庫版カバーを描いているので、てっきりおしゃれな都会派ミステリー作品かと誤解していたら、実際読んで驚いた。ゴリゴリの昭和感溢れる因果物!」

■女には向かない職業 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 文庫 – 1987/9/15
P.D.ジェイムズ (著), 小泉 喜美子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/%E5%A5%B3%E3%81%AB%E3%81%AF%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%84%E8%81%B7%E6%A5%AD-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E6%96%87%E5%BA%AB-P-D-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA/dp/4150766010/ref=asc_df_4150766010/?tag=jpgo-22&linkCode=df0&hvadid=295642265223&hvpos=&hvnetw=g&hvrand=2059325656949457903&hvpone=&hvptwo=&hvqmt=&hvdev=c&hvdvcmdl=&hvlocint=&hvlocphy=1009303&hvtargid=pla-579065870607&psc=1&th=1&psc=1

「巻頭でおっさんが無惨な死を遂げるのは『八つ墓村』だし、その遺言は、娘よ拳銃やるから『獄門島』へ行ってくれ。ケンブリッジの若者描写はまったく『悪魔の手毬唄』の大空ゆかりと取り巻き衆と瓜ふたつ!マジいや本当よ!遺体を鉤爪フック釣りするのは『蝶々殺人事件』だし、主人公は井戸に落とされ決死のサバイブ『車井戸はなぜ軋る』。あまりに酷い犯人とその動機は完璧『病院坂の首縊りの家』レベルであり、一族の因縁と無惨なシンクロニシティ。終盤を締めくくるアクションは『犬神家の一族』松子大立ち回りだ!」
「・・・えー、途方もなく熱弁奮ってるけど、本当ですか~?」
 怪奇探偵スズキくんは目を三角にして疑っている。おやじは襟を正し、

「疑うなら、論より証拠。読んでみたまえ。そして実際読んでみてから私に文句を言え」

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2022年7月10日 (日)

ウィルソン・タッカー『長く大いなる沈黙 』(1951、早川書房、矢野徹訳、<ハヤカワ・SF・シリーズ>3279)

『宇宙飛行士D!宇宙飛行士D!』
「・・・なんだよ、うるせぇな、ヒューストン」

 低い駆動噴射音が聞こえる。星屑が散りばめられた銀河系外空間の暗黒の彼方。真空のしじまを破ってロケットは飛び続けていた。

『こちらヒューストン。いや、実はな。ふと思い立って最近自分の書いた文章を遡って読み返してみたりしててさー・・・』
「うんうん」

 隕石遮断スクリーンに虚空に浮かぶ塵芥が衝突し、緑色の炎を上げて飛び散った。

『あらためて無駄が多いと実感。碌なことが書いてない。役に立たん。例えば、今回のレビューに宇宙設定いらない』
「Dよりヒューストン。・・・え、今さら?今頃になって、それを言う?この10年はなんだったん?!」
『ヒューストンよりD。われわれの初登場は2009年。スタートから既に10年以上も経過し、こりゃいかんと来し方を振り返り真摯に反省してみた。結論。絶望。一体なにがしたいんだろこの人。知識をひけらかしたい訳でもないし、そもそもたいした知識はない。身辺雑記要素もないし、人に共感を得たり繋がりたい願望もない。どこに向かって文章届けたいのか謎』

 宇宙飛行士Dは虚空を見つめ操縦桿を握ったまま、呟いた。

「俺は仲間のために書いてるよ」
『・・・え?』
「同じ趣味を持つ仲間や、興味を持ってくれそうな人。偉大な先輩や可愛い後輩、昔の友達や恋人。知り合ったすべての人たちに向けて」
『それセフレ含む?』
「うっせぇわボケ。ともかく自分の好きなものをより深く掘り下げて、世に広めていきたい気持ちは本当あるねぇー」
『ヒューストンよりD。ホントご立派。王道だと思う。俺にそういう考えは、一切ない』
「だろうな・・・」
『こないだアーカイブ読み返してみて、どっかのチンカス野郎に“ゴミクズレベルの文章”と揶揄されてるのに気づいたんだけど、よくよく考えたら、目指すのはそこかな?って思った。クズ以下の文章を強制的にお届けしてしまうこと。読んだ奴が全員後悔するレベルでぶちまけること。文字による拷問。そういうのがイイね!』
「はー、そうですか。最悪の目標だな!」

『褒め言葉ありがとう!!!(満面笑みでピースマーク)
 ということで、今週のピックアップはウィルソン・タッカー『長く大いなる沈黙 』。全然期待しないで漫然と読んでいったら、意外や面白かった』

「脈絡なくまた始まったな。本書は1979年1月あの久保書店Q-Tブックスから『アメリカ滅亡』の表題で復刊もされてます。同じテツ・ヤノ翻訳。その後文庫にはなってないし入手困難だろうが、そもそも入手したい奴がいない」
『で、このお話はね、細菌戦争によりアメリカ東部が壊滅。感染力の凄い細菌を封じ込めるため、ミシシッピ河沿いに軍隊が駐留し、川を越えて渡ってくる哀れな避難民を情け無用ない米兵が片っ端から射殺しまくるという。一種のジェノサイド、ワールドエンド系。若い子にはウォーキングデッド設定って言えばいいのかな。でもゾンビは出ません!細菌に感染した人は紫いろに変色して干からびて死んじゃうから』
「『大地よ永遠に』から続く破滅テーマのバリエーションか。ってことはポリティカルフィクションの要素ある?」

『ない!それが、全然ないんだ皆無。これには驚いた。社会的要素とかマクロな視点は一切ない。俯瞰描写もない。ハメットの影響なのか?グローバルな話でまさかのP.O.V.視点。爆弾落した元凶であるお馴染み赤い国との熾烈な駆け引きだとかさ、軍司令部の策動や政治の動き、本来最低限あってしかるべきものがほとんど書いていない。戦争が起きた原因すら憶測一行で終わりだし。医学方面、細菌の種類や、対処方法、解毒とか治療ともすべてが不明。潔ぎよすぎ。
 理由は簡単。叙述の視点が主人公の元アメリカ陸軍伍長からまったく動かないから。
 事件はもう、まったく現場でしか起こらない!マスマーダー絶賛実施中の過酷な状況下で、胡乱な人間数名が西へ東へうろうろ。それがこの話なんだ。貴様ら、ちょっとは状況を真剣に考えろよ!作戦会議ぐらいしろ!
 さらに言えば、この話の語り手、主役のサルは確実に人類として最悪レベル。性欲だけはゴリラ級の下士官ヤンキー独身30歳、低知能。絵にかいたような倫理無視っぷりで、モラル欠如のハラスメント行為を続々連発!コンプラ破壊の最低野郎すぎて、実に好感が持てるんだ』
「そんなやつに好感持つなよ!!!読んだ人はみんな憤ってるぞ!」

◆「奇妙な世界の片隅で」ウィルスン・タッカー『長く大いなる沈黙』(矢野徹訳 ハヤカワSFシリーズ)
http://kimyo.blog50.fc2.com/blog-entry-432.html
(引用)
主人公が、人を殺したり、利用したりするのに躊躇を覚えないという設定になっているのがユニークです。
積極的に悪事を働くわけではないにしても、自分のためなら基本的には何でもするという性格なので、読んでいて感情移入はしにくいですね。
この作品を読んでみると、他の「破滅SF」がいかに「ロマンティック」なものだったか、というのに気づかされます。
(引用終わり)

◆アルファ・ラルファ大通りの脇道
https://stillblue.ti-da.net/c44553.html
2006年02月01日12:30
「アメリカ滅亡」
(引用)
主人公はごく普通の人間。正義感があるわけでもなく、策略を企てたり、人を騙したりするのにも躊躇しません。悪人ではないけれども善人ではないのです。
(引用終わり)

『うーん、みなさん、本当うまく纏めてらっしゃる。恐ろしいことに、書かれてるみんなの感想は全部正解!すべてこの通りなのです!』
「Dよりヒューストン。つまりはアンチヒーローってことか?宇宙で女を見捨てる『ゲイトウェイ』一作目みたいなものか?」
『いや、そんないいもんじゃない。あれも最低だが知能はあった。綺麗事抜きに考えてみろよ。アメリカ人の本質って結構しょうもないものじゃないか。穴があれば突っ込むし、ポテチあれば喰いすぎて過食摂取でカウチから動けなくなるし。インディアンなら即座に撃ち殺すだろ?』
「不適切発言。差別偏見に満ちとるな。一応オレが宇宙から謝罪しとく。アメリカさんごめんなさい・・・って、ま、なんとなく言いたいことはわかりますが」
『所詮、金持った銃の国だからな。われわれは核の傘の下でふるえて眠る子羊ちゃんですよ。ぶるぶる。
 ともかく、この主人公は下劣なうえに卑劣で一切合切反省しないやつなんですよ。いいですね。それを頭に入れておかないとこの先展開についてこれないよ・・・!』

 と、ここで太陽表面で大規模フレアが噴き上がり、数秒間地球との通信が途絶。
 宇宙飛行士Dはその間に素早くコーヒーを淹れ、茶菓子を持って席に戻る。空間乱流に揺さぶれ無数の姿勢制御ジェットが舷側で閃く。
「あー、あー、お待たせ。Dよりヒューストン。聞こえるか?」
 
『ヒューストン感度良好。待ってた。続けるぞ。
 まずオープニングだ。休暇で街に出て安酒喰らって爆睡していた主人公が目覚めると、世界は既に破滅していた!限定的核戦争と細菌兵器使用が原因らしい。ここは『トリフィドの日』なんかでも定番、お馴染みの“覚醒すると世界の終わりが訪れていた”スタートなんだが・・・』
「普通じゃん?」
『いや、死体がゴロゴロ転がる通りを抜けて、食糧と水探しに出た二日酔いの主人公がまず最初に実行したことは、偶然出会った未成年の女の子をレイプすることでしたー!』
「へ・・・?」
『ここで目を疑って、マジかよ嘘だろ?と思ってると、話はさらに無軌道に展開。パトリシア・ハースト症候群で主人公に懐いてきた少女を、ちょっとの喧嘩であっさり見捨てます。理由は足手まといだから』
「ヒューストン。自分から襲っておいて?酷いな。そんなんでいいのか?俺はいいけど。確かにハメット以降のクールかつハードボイルドな世界観だな」

『ミッキー・スピレインでハドリー・チェイスで、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』だよネ。で、車パクって、盗んだガソリンで国道転がして、細菌爆弾喰らってない未汚染のアメリカ西部を目指すんだが、途中農家で食い物パクって愚劣な農民にミンチにされかけたり、軍隊崩れの暴力集団に襲われて泣きながら逃げたり。人として最悪の経験をしながら自分でもガンガン銃で人を撃ち殺し、人間偏差値を容赦なく下げ続け。秩序ない無法の世界からなんとか脱出しようと川を渡る橋まで来たら・・・。
 駐留している軍隊が橋を有刺鉄線バリケードで封鎖し、それを越えて渡ってくる奴をバシバシ射殺していた。婆さんも子供も見境なし。必殺の射撃手が最小限に節約した弾薬数で、パシパシ頭部を狙う精密射撃を駆使して、無実の避難民を容赦なく撃ち抜く!』
「え、そんな。公共がそんな暴虐行為してもいいの?」
『徐々にわかってくるんだが、細菌爆弾が撒き散らした名前のないウィルスは、物凄い感染力を持っていて罹患した患者の90%を確実に殺す。罹ると全身が紫色に腫れ上がり、短時間で紙みたくカサカサの灰色の干物みたいになっちゃう。これを防ぐためには感染地域を完全に封鎖し、ウィルスが自然消滅するのを待つしかない!だって研究しようとするとこっちがやられちゃうんだもの。コロナより最強』
「それにしてもなー・・・」
『結局、主人公含めて生き残ってる連中は、偶然抗体を保持していた珍しい人たちなんだよ。普通に捕まえて研究とかすりゃいいのに、問答無用に全員即座に射殺。橋に仕掛けた地雷で派手に吹っ飛ばす!かくて感染症対抗策に有効かつ貴重なサンプルはどんどん無益に失われていく』
「無茶しよるなー。なんか、人としても小説としても終わってる内容が平然と垂れ流されとるのね・・・」
『橋以外でも防備は無駄に完璧で、川底には爆雷。岸辺はトラップと有刺鉄条網。死角なく配置された監視台と周回する陸軍きってのスナイパー部隊の精鋭。河沿いに仕掛けられた防衛線を突破するのは、とても無理』
「この不条理な厳戒体制こそが現代の管理社会に対する痛烈かつ皮肉なアイロニーだとでも、無理にでいいから、心底感じろ!」

『さて、リバー突破を諦めた主人公は、河口なら、あるいは上流なら比較的警備が手薄なんじゃないかと思いつき、楽そうな方を選択し南下。知り合った同じ軍人崩れのやさ男とタッグを組み、物騒な奴らをバンバン撃ち殺し、農家を襲ってニワトリ盗み、フロリダまでやって来る。そこへこんなハードコアなホモダチ二名に割って入ろうという奇特な女が現れた!』
「・・・なんか、非常にヤな予感がする・・・」
『やることは、ひとつ。もちろんレイプです!!!輪姦です!!!』
「うわーーー、最低や~~~(涙目)」
『その上、人目につかない小さな無人島を発見し、そこに隠れ家をつくり籠城。そして、女をシェアします!』
「え・・・?カーシェアみたく???本当にリアルシェアするの?」
『がっぷり、どっぷり、ずっぽりシェアします!女の膣内では二人の男の精液がミックスされて混じり合います!見事に肉便器状態ですし、100%サセ子です!人倫モラルを越えてます!蠅の王です!』
「あちゃ~。めちゃモテ~(笑)」

『1951年といえば、かのサンフランシスコ平和条約・日米安全保障条約が調印された年で、フィル・コリンズ、ブーツィ・コリンズのダブル・コリンズが生まれた年でもある。アカデミ賞ーはマンキーウィッツの悪女大作『イヴの総て』で、伝説の風俗嬢イブちゃんの花びらが全開になると国民的に大評判をとった』
「微妙な嘘を書くな。トルーマン・ドクトリン「武装した少数派あるいは外部からの圧力による征服の試みに抵抗している自由な国民を支援することが米国の政策でなければならない」から冷戦がスタートした象徴的な年。この小説を支配する強い不信感、征服と支配への苛烈な欲望はデスぺレートな時代背景を象徴してるんだろう」
『ヒューストンよりD。だからって、本当にシェアするか?(笑)』
「そうなると、妊娠が心配やねー・・・時間の問題だろ」
『は。この本の中で悪い予感は必ず的中。案の定、女は身ごもり、ハテサテどっちが父親だかわからない』
「最悪の状況じゃないか。どうするんだ?」
『でもね、よくよく考えると、実は女はモテ系細いヤサ男の方が元々好きだった(笑)
 といいますか、よくよく考えると、自分勝手なゴリラ野郎は大嫌い。乱暴なだけで勝手に中出しフィニッシュだし。
 かくてラブアタックを制覇した優男は一方的に父親宣言し、女と結託して主人公を楽園の島から追放します。最終的には銃で脅され、荷物のナップサック一個持って立ち去る破目に。非常に格好悪い。母親になろうという肉便器は終局で人間的な優しさを選択するのです。が、この選択は当然と思う』
「確かに外見なブサイクなだけじゃなく、この主人公、性格と行動面に難があり過ぎだろ。ヒューストン、人としていかがなものか」
『しかし、こいつ追放までされても一切反省しない。女に嫌われても特に恥と思わない特異な人格の持ち主。異様にメンタルだけ強め。ここはあっさり諦め北へと立ち去ります』
「なんか、野良犬の生きざまみたい。タフすぎ(笑)無敵のヒーローだな」

『その後、東の果てに生き残っているらしき軍司令部を求めて、隠密行動をとっていた特殊部隊の装甲車に遭遇。油断している小隊数名連中を夜闇に乗じて虐殺。ハリガネで縊り殺すなど手口も最悪のトリック駆使して車輌を不法占拠。そのままの勢いで橋を強行突破し感染地域を遂に脱出。念願の本土復帰を果たす』
「おお、燃える新展開。なにかこの閉塞状況を打ち破る大胆な作戦行動でもとるの?権力の中枢に攻撃を加えるとか、身分を隠して議員に立候補するとか?」
『取り敢えず、無傷な街に繰り出し、せんべろ(笑)』
「は・・・?」
『それから、売春婦を買って思う存分セックス(笑)』
「うわ、ダメなやつだなー。本物じゃん!」
『ズッポンバッコン大騒ぎの翌朝、抱いた女は全身紫の痣だらけになって瀕死状態です。こりゃヤベ。保菌者じゃんオレ。逃げろ~!(笑)』
「うつした女に同情とか反省とか謝罪とか全然せんのかい!」
『うん、まったく(笑)。とにかく自分さえよけりゃいいんだよこいつ。割り切り方が毎回物凄い。でも意外とそういう人って現実にいるよね?利己主義というか博愛精神皆無。会社のガムシロを纏めてパクるようなやつ。
 ともかくこのエリアじゃ捕まったら確実に殺される。最悪実験体で切り刻まれるかも。卑怯な人質作戦とかとってジープを奪い、地平線まで続くとうもろこし畑を横切って、なんとか再び河を渡り再脱出。命からがら東部へ舞い戻って来てみれば・・・』
「はいはい?」
『特に、その後の人生に目的希望など無いんだってことに気づく。空洞です。元の木阿弥、ジリ貧どん底状態に戻っただけ。
 ヒマだからってんで再び南下し、女をシェアしたエロ無人島に舞い戻ってみたが、あれから何者かに襲撃を受けたらしく小屋は壊され人の気配など無かった。散らばる薬莢のかけらが無惨。
 あぁ、俺はこのまま死ぬまで最低行為を繰り返し、朽ち果てて行くしかないのかと絶望に打ちひしがれていたら・・・』
「・・・誰も同情しないよお前になんか・・・」
『突如、廃墟の街に入っていく目を疑う美女を発見。よくよく見るってぇと、巻頭でレイプして捨てた女の成長した姿でした。しめた、ラッキー。より戻そっと。チャンチャン(笑)』

 沈黙の宇宙空間。土星の輪の乱反射が宇宙飛行士Dのヘルメットに美しく映える。カッシーニの空隙が鮮やかだ。
 
「・・・Dよりヒューストン。なんじゃソレ?」
『うん、さすがの私も幾ら何でもこの終わり方はないんじゃないかと・・・』
「あ・た・り・ま・え だーーー!!!」
『でも、このループ・エンディング(未成年の成長を待って結婚)がハインライン『夏への扉』(1956)に影響を与えた可能性はあるんじゃないのかな?』
「Dよりヒューストン。それ、ないわ」

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2022年6月19日 (日)

怪獣ウラン (1956、X THE UNKNOWN、ハマー・プロ)

 意識を持った泥が人間を襲うドロドロ・パニック映画

 そんなもの正気で観たがる奴などいるだろうか。

 泥っぽいところで、昔トロマビデオで『悪魔の毒々モンスター』ってのがありましたが、あれは廃液で溶けて変形した人間だからね。同じハマーでも『原子人間』の系列。サム・ライミの『ダークマン』か。ジョーカーと同じ製造方法。人体改造、フランケンシュタインの流れですよね。

 『コロッサス』のマニング大佐も含め、人間が変形するモンスターには、人間的悲哀と喜怒哀楽とお色気があります。巨人獣と化したマニングがマンション窓からブロンド美女の入浴シーンを覗く場面を思い出してみて。あれ、人間だから成立するんであって、単なる泥じゃねぇ。

 しかし。

 泥がこっちを見ている。しかも、その泥が勝手に動いて、人間を襲ってくる。

 これって、かなりの確率で怖くないですか。ホラーじゃないですか。生命のない筈のものが意識を持って動く。ロボット物って全般そうだけど、あれはまだ人型ベースだったりするからねぇ。機械が動くのはまだ理解の範疇。意味が解る。動くように作られているんだから、そりゃ動くだろ。

 でも動きとまったく関係ないものが突然動き出したら、こりゃホラーですよ。本気で怖いですよ。意味わからんもん。私はレムの『大失敗』を連想した。究極の恐怖かも知れない。非生命に襲われるのって。

 放射能を帯びた被爆泥がさ、勝手に動き出して人間を襲う。ジューッと溶かしちゃう。で、泥に接触した人間が骨だけにされる、かなり呑気な残虐描写とか本作にはあって、そこが冒頭に映る、かの「この作品には過激で残酷な描写が含まれます!閲覧注意」テロップの要因になっているようなんですが、そんなこと言われてもねぇー。そこはホラ、『ウルトラQ』で放送できるレベルでお約束の範疇であって、血は出る、脳天に杭は打たれる、腕やら足は切り刻む。残虐の極みに達した現在の視点から見れば、ま、幼稚園レベルで生ぬるいものなんで、好きな人はかえって微笑ましく思えちゃうんでしょうけど。(主役の博士の見事なハゲ頭の方がよっぽど凶悪である。)

 でも、ここまで泥ネタ押し。

 あくまで、泥こだわり一辺倒。

 もう、煎じ詰めれば、すべて、泥ネタしかない!

 泥一発でここまで見せきる泥オンリー主演の映画がある。一時間半かけて大の大人が泥いじり。脚本ジミー・サングスター本気の泥チャレンジ。脱ぎも爆破もクソくらえ。泥こそはすべてだ!
 こういう、まったく観なくていい傑作に出会えるんだから、映画界もまだまだ捨てたもんじゃない。
諸君に言っておきたいが、見たい映像を見るだけが映画じゃないんだ。なんていうか、観たくないものを見せられる。そういう体験は非常に大事だし、これからの人生の糧となるんだよ。一回観たらもう衝撃もないような、ちょろいCGよか、動く泥ですよ。内部で水流して動かしてるのかな?

 

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2022年1月23日 (日)

ジャック・ウィリアムスン『宇宙軍団』The Legion of Space (1934) 野田昌宏訳 早川書房(ハヤカワ・SF・シリーズ、1968年。のち1977年1月ハヤカワ文庫収録)

やはり現実はフィクションと違って上手くいかないものなのだろう。
 それをわきまえた上で、虚構の実力を測ってみたい。
 ジャック・ウィリアムスン『宇宙軍団』は、異様にうまくいく物語の実例であり、それはご都合主義とも言うのだし、小説という嘘事のパワーを見せつける感動作でもあるのだ。
 
 私は昔からこの本を愛読していたので、他にも似たやつがいるだろうと思って検索してみたら、膝を打つ名批評どころか、まともなレビューすら発見できなかった。
 情報溢れるネット社会なのに?ITリテラシーってのはどうなった?
 お前ら、『宇宙軍団』読まずに何読んでんだよ、カスが。
 『宇宙軍団』なくして『宇宙軍団』なし。
 そんなことじゃメドウサに地球は乗っ取られてしまうよ。
 赤ガスに覆われ、発狂して理性を失くし、人肉食の野獣化人間が横行する世界ってのは、まさにこの現実のことじゃないかな。
 もうちょっと、よく考えてみようよ!

【あらすじ】
(私情私憤により「読め!」と一言書いて終わらせたいが、無視する罰当たりもいるだろうから、親切にちょっと教えてやろう。) 

 この物語は導入部が一番たるい。
 遥か未来の記憶を思い出す老人という、H・G・ウェルズがステープルトンを小規模にパクったみたいな小咄が付いているのだが、無くても成立する。例えば後年の『スターウオーズ』という作品は銀河帝国の歴史を字幕をスッ飛ばすことであっさり処理していた。
 だがな、いいか、お前ら。効率だけがすべてじゃないんだよ!
 無駄の中に宝がある。
 このケレン味、無意味な重厚感がヴィンテージSFの本物の味わいである。そこを理解して慎重に賞味しろ。年表をつくってもいいぞ。シリーズ2作目、3作目、4作目が訳される見込みは絶対ないから無駄だけどな!

 ま、そんな前説を要約してザックリ簡単に述べると、民主と帝政がぶつかって未来の地球は瓦解した。それを再建し自由主義アメリカの精神を蘇らせた偉大なるクズ集団、それが宇宙軍団だ!
 レンズマンより特殊能力が無い分、ハートが無性に熱い男達の集団だ!口数だけ多い女なんか入団できない、倫理観は小学生レベルの、ガチやばい暴力慣れした男の武装団体だ!
 この由緒ある男の殿堂に、とあるボンクラ新人が門を叩くところから物語は始まる。

「・・・新人ジョン、着任命令書により出頭しました!」
「よう、来たの。ま、座れや。われ」
「はッ!それで、どんな任務を頂けるのでありましょうか?」
「お前には火星に飛んで貰う。そこで超兵器AKKAの秘密を握る二十歳の娘を警護するのじゃ」

 警備についた途端に娘は攫われ、外宇宙の彼方バーナード星へ連れ去られてしまう!マジか!
 あせった新人は、宇宙軍団内部の卑劣な裏切り行為により抹殺されかけ、ボコボコに。宇宙軍団は鉄壁の軍規を誇る鋼鉄武闘派集団だが、人に騙されやすいのが玉にキズだ。
 地団駄踏んで悔しがる若僧に「助太刀するぜ!」と落ちこぼれベテラン職員3名が凸待ちコラボし、史上最強の燃える男の異星特攻チームが出来上がる。ここにはロバート・アルドリッチも影響を受けたと見える。

 空間を歪ませる(!)謎のエンジンにより駆動する宇宙船は、フォボスで軍団幹部を強制拉致し、冥王星で燃料を強奪し、犯罪者として全太陽系に指名手配されながら宇宙街道を爆進する。♪パララ、ララ~パララ~。
 途中で出くわしたバーナード星人の宇宙戦艦と激しいバトルとなり、小太陽を投げつけられ真空の藻屑と消えかけるが、暗黒星雲に逃げ込んで文字通りけむに巻き、6つの衛星が分子分解光線のバリアを張る警備強固なバーナード本星に辿り着く。分子結合を破壊する強力無比な警備網を努力と根性で耐え抜いて(「我慢しろ!」「イェッサー!」)、地球の数倍ある巨大惑星に超重力を感じることなく不時着する。

 だが、不幸にも海原の真っ只中に墜落したため、都合により全裸(事実)。徒手徒拳で怪奇植物生い茂る未知のジャングルを横断する破目になる。
 目指すは、この惑星唯一の大陸にある唯一の都市、夢の大都会。暗黒金属で造られた暗黒要塞の地獄塔だ・・・!

【解説】
 以上あながち嘘でもないあらすじを繰り延べてきたが。
 いや、しかし、ご都合主義をそう感じさせない、この物語のドライブ感は本物だ。
 中学の時読んで興奮したが、いまでも興奮するもの。そこは大いに褒め讃えていいと思う。突っ込みどころ満載なくせに、面白く項を捲らせる、時を忘れさせる。読書の効能ですよ。
 絶対無理な問題の立て方をして、腕に任せてその解決を図っていく手法が繰り返されるのだが、根幹は007原作シリーズと同じ。カウンター・アンド・アタック方式なんだよね。
 いきなりスラスラ解けるんじゃなくて、難題が襲ってきて、それを知恵と勇気で撃破していく達成感の地道な積み上げ。受験勉強ですよ。浪人生だね、うん。浪人生のロマンと同質だと思います。

 だから、最後の王道過ぎるサゲがいい感じにハマって、ちょっとウルウルしました。野田節って意外と芸が細かくて、やっぱいいよね。

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2021年10月26日 (火)

雨穴「とある一軒家で見つかった、不気味なビデオテープの真相」 2,050,876 回視聴2021/09/24

墓碑銘2021年―――。

災禍の年は粛々と進んでいた。昨年から空前の猖獗を振るったコロナウィルスは、真夏の感染爆発のあと、専門家も首を捻る謎のフェイドアウトを遂げ、列島各地を襲っていた中規模地震の不可解な連鎖は突如10月首都圏一帯にも及び、かの震災以降の交通機関の大混乱と共に広域に水道管被害を齎した。
 われわれが記憶しておかなくてはならないのは、皇族の異常婚礼でもなければ、安直な政権交代でもない。人類が直面する真の恐怖はまだその深淵の顔を僅か一端しか覗かせておらず、本当の地獄はこれから到来するということだ。

いまはまだ大破壊の前夜、世界は真にこれから破滅するのだ。
 
 そんな平凡なある日のこと。
 怪奇探偵スズキくんは一本の電話に起こされた。
「はい・・・怪奇探偵事務所ですが・・・」
『ハロー、ヤングボーイ』
 相手はよく知った口調で話しかけてきた。
『きみが、GW以降に来ると言ってなかなか来ないのでね。こうして自ら呼びに来たのだ』
「・・・だれ?借金取りなら間に合ってますよ。こちとら、去年から碌な仕事も無くって腐ってるんだ。おととい来やがれ、バカヤロウ」
『こいつはご挨拶だな。せっかく新しいネタを持って参上したんじゃないか。きみ、怪奇現象はまだまだ終わっていないぜ。謎は深まるばかりだ』
 スズキくんはボリボリ頭を搔いた。
 カーテンの向こうから新鮮な光が床に零れ落ち、日野日出志『恐怖怪談!!ぼくらの先生』の表紙を照らしている。
「いいですか、古本屋のおやじ」
 電話の向こうの相手は明らかにギクリとしたようだ。
「あんたとこうして漫才ごっこを始めてからもう何年になるか忘れましたが、その間に時代はドンドン進んでるんですよ。ひばり書房版を昨晩読んでた日野先生の『ぼくらの先生』だって、Amazon Kindle版が発売されてるくらいだ。それを知ってある意味ビビリましたよ」

恐怖怪談!!
ぼくらの先生1 Kindle

学校中から慕われている大仏先生。その周りでは何故か不可解な出来事が多かった。それでも生徒たちは先生に信頼をよせて、先生自体もより良い先生であろうとしていた。だが、大仏先生の過去には恐ろしい秘密があった……。表題作「ぼくらの先生」をはじめ、ナマズを寄生させて共生し利益を得ている少年の「おーいナマズくん」など日野日出志先生の魅力あふれる怪奇ファンタジー作品群。

『うん、それ実は日野先生の第一作品集「幻色の孤島」そのものだからな。実にエモくね?得も言われず、エモくね?』

「無理やりエモくなくてよろしい。電子版はフルコピー3分冊されていて、一冊当たり¥110
Kindle
価格にて読めるんです。獲得ポイント:
1pt
貰えます。ところがですよ、書籍は古書価格がバカ高くて、メルカリで¥44,444(税込)
送料込のぼったくり価格で出品しているバカがいた。絶対買っちゃダメですよ!」

『ふむ、虫プロ版はまんだらけで、¥3,800、ひばり版は¥3,000か。古書なんて所詮言い値だからな。それでも相場があるのは一定のマーケットが存在する商品だからだよな。知らん奴にしてみりゃ10円貰ってもいらん代物だろ。我が家でも家内がよく表紙にパンチをくれとる』
「ケッ、物の値打ちを知らない腐れ外道どもが。しかし、日野先生は著者と直接版権交渉できるから良いとしましても、作者行方不明で、再版のあてもないひばりは軒並み高価ですな。森由岐子ですら高い」

『あー。それ。それ言う。見事にフラグだよ、今回のテーマの』

 スズキくんは首をかしげて考え込む。

「へ・・・?!」

 

 咳払いした古本屋のおやじ、前説を続ける。

『日野先生が電子書籍化されるなんて誠に驚愕だが、考えてみれば内容もしっかりしてるし、文学的エッセンスもあるし、ファンシーな童話や寓話的な要素もふんだんにあるし。現代のよい子が読んでも一応問題なかろう。ま、日野先生には美しい奥さんを欲望から絞殺して死体をバラして薔薇の堆肥にする定番アブノーマルな話や、世間に理解されない恨み・つらみ・鬱憤に駆られて漫画編集者を衝動的に惨殺し、一部始終を目撃した読者に対して斧を投げて殺害しようとする異常な話もたまにあるのだが。セーフ。常識の範囲。問題ない。ギリ安心だ。子供が読んでもだいじょうぶ!』

「・・・そうかなァ・・・?」

『それよか、現在お読みの「神秘の探求」という無駄ブログ。今どきパッケージメディアに拘り続け、紙やら本やらディスクやらと心中しようと偏愛、収集を重ねてきた、この上なく悲惨な闘争記録であるのだが、正直もう限界なの』

「エッ?!」

『最初のこころざしは破綻崩壊、建物倒壊した。原因は収納スペース。もうこれ以上入らねぇ(泣)このままだと床が抜け落ちる。フロア崩落により死亡する。かといって収集の為に貸し倉庫やストレージボックスを借りる資金なんか無い。残念だが、俺は諦めた。神々の黄昏、地獄に堕ちた勇者ども。泣く泣く積み上げた財産を処分するしかない、ハムレット的状況に立ち至ったことを諸君に告げる。アドルフに告ぐ。ホレイショ、お前もか

「いや、それブルータス。BRUTUSって雑誌が昔ありましたよね?いや、そもそもコレクターの末路なんてのは、最初から分かり切ってたことじゃないですか。ボクなんか2,000冊積み上げて、一気に売って、また買い戻す。人生とはその繰り返しですよ」

『オレは気が小さいんだよ!ただ実際売ってみてわかった、くだらんもんが古書価格上がったりするんだな。同時代で体験した読者にしてみりゃ、物好き以外にはゴミだぜ、山尾悠子「仮面物語」なんか』

「あー、あー。作者が再刊を許可してない系ですね。出す出さないで本人Twitter書いてましたね」

『うむ。あの頃小松左京(豚)がなんでか褒めたりして、当時は星雲賞だか日本SF大賞の候補だかにもなってたような気がする。どこがSFなんだよ豚!でも、あれ、意外と買取高かったぜ。嫁が喜んでた』

「山尾をですか・・・()

『うん、山尾高評価()・・・いや、そういう話じゃないんだ。というわけで、今回はYouTubeやるぞ』

「え?」

『パッケージメディアはもう限界だ!!今どきそんなクソみたいなもん、集める奴はバカか河馬だよ。これからは、コホン、ズバリ電子だな。世界はダウンロード、ストリーミングの時代が来てるんだよ。ネトフリ、ネトゲ、ネトウヨなんだよ!CD屋なんか軒並み倒産じゃないか』

「はぁ、でも最近はハヤカワのポケミス、古いやつ拾い歩いてるって聞きましたが・・・」

 

 電話の向こうで古本屋のおやじはまた咳払いした。

『いいか。2014年に待望の翻訳が出たホセ・ドノソの大長編「別荘」の初版がわずか500部だったんだよ』

「これまた唐突すぎる展開。誰ですか、それ?」

『黙れ、俗人。ラテンアメリカ文学の高名な傑作だよ。本国チリでは文学的事件と呼ばれ、ラテンアメリカ各国で大ベストセラーだったってのに。私が見つけた日本版2020年三刷も、同じく僅か500部だった。こりゃつまりトータル1,500部での出版ってことだろ。露骨に過疎っとる。めちゃめちゃ過疎っとるネ!』

「あんたに言われたくないでしょ、ドノソも」

『うるせぇ。そこでだな。エヘン、これを大手配信サイト、例えばふわっちの閲覧と比較してみたまえ』

「え、ふわっちですか?なんでまた?今回もまた強引な話繋ぎで攻めますね」

『計算が分かり易いから引き合いに出しとるだけだ。他意は無いのよ。

 いいか、ふわっちの場合な、二桁数の閲覧ではまだ過疎と呼ばれるのだ。1,000人越えしてようやく一応大手配信者扱いにされる仕組みになっとる』

「フーン、やけに詳しいな。そうなんですか?」

『きみ、素人が個人で細々やっているいい加減な垂れ流し配信なんかを観るような、物好きな暇人が、この国にどんだけいると思うね?東京流れ者だって喰っていくには銭がいる。まともな奴は全員カツカツで働いとるよ。だから観てるのは無職やニートや住所不定者、扶養枠の人だけ。最低国民層。

 そんな逆境で人を集め、いちどきの閲覧が余裕で1,000人超えるなんていうケースは、もう並々ならぬ異常事態だよ。何か事件起こして警察絡むとか、連行されるとか、裁判だとか。自殺やらキチガイやら喧嘩色恋、刃傷沙汰だとか。放送しているマンションが火事で文字通り炎上中だとか、UFO着陸とか、青木ヶ原で心霊デートだとか。産まれた子供が実の旦那の子じゃないかも知れないからDNA鑑定するとか、あるいは大手配信者の炎上放送とかでもない限り、そうそう発生しないものなのだ。

 YouTubeなどメジャーとは違って、どこかから浮動票が大量に流入してきたりは絶対しないからな。ニコ生も同様だとは思うが、観る人、観ない人の差がハッキリしていて、一般人は間違っても偶然観たりしない。完全に閉鎖的な村社会だからな!』

「確かに。ボクは存在自体まったくに気にしてませんでした」

『大手配信者の相次ぐ不祥事や、規制強化によるアカウント停止により、ふわっち自体が最近超絶に過疎っとるが、それでも多ければ最大5,000人はいく。ネットの世界は恐ろしい。暇なやつがウヨウヨおる』

「はァ、それは確実にあんたですね」

『むむッ、MY NAME ISあんた?!どたわけが!あんた、あんたって気安く呼ばないで!
 YouTubeでは、登録者数5,000人ではまだまだ弱小。一万越えてなんぼ、10万人越えして成功、100万越えて有名人。とまぁ、恐ろしい基準があるのだがね。そうして比較すると、今回取り上げる記事の動画がどの程度の認知度をもっているのか、数字を突き合わせて初めて見えてくる訳よ』
「うーーーん。ドノソ閲覧500か。こうしてみると文学、メチャめちゃ過疎ですね!」

『本当は別ジャンルだから単純比較できないんだけどな。ドノソなんか、エンタメで本当面白いのに。もったいない。ただ、いまどき、人の関心がどこに集まりやすいか。観客の数字がどこに集まりやすいか、一応は頭に入れてもらっておいてだな・・・』

「はい・・・」

 怪奇探偵スズキくんはカップから冷めてしまったコーヒーを飲んだ。ドリップで淹れたハワイのLIONブランドである。遠くでチチチと可愛い小鳥の声がした。

『今回取り上げるのは、創作系YouTuberのホラー動画だ。まず昨年大ヒットして続編が書籍化されたという、どっかで聞いた話の、こいつを観てもらおうか。

 【不動産ミステリー】変な家

 9,318,060回視聴2020/10/30

https://www.youtube.com/watch?v=CBIL0eAwDs8

 注意警告!こっからネタバレ、ビシバシいくからな!

 ちゃんと事前に観とけよ。本だと全然読まないおまいらも、YouTube動画だったら大好きな筈だ!ふんふんシッポを振って喰らいつく間抜けヅラが目に浮かぶようだ!』

「だれもそんな暇じゃないでしょ。・・・でも、まぁ、いいでしょう。観てやるか。どれどれ」

 (幕間)
『どうだ、YouTubeにおける100万回再生の真の意味とは“100万人が観た!”ではないのだ。“物好きが百万回も観てやがる”が正しい。だって、大人は誰もヒカルもヒカキンも観ない訳じゃん。それが超大手とか適当に呼ばれるとは、認識の狭さ、世間の狭さに片腹痛いわ!栗原ひろみだわ!』
「なにを独りで騒いでるんですか。観ましたよ」

『・・・で、どうだった?』

「ふつうかな。・・・これ、どのへんがホラーなんですか?」

『うんうん。期待通りの反応をありがとう。

 ホラーというか、ぶっちゃけ、映画「ホステル」は本当にありました!みたいな謎解き話だよね。物語的には普通に“あるある”。虚実の狭間を狙った伝統の風姿花伝スタイル。都市伝説本とかエヴァ本とかに共通する、「すべての謎を解明する!・・・うん、わかった!だから、なに?」的な肩透かしとでもいうか。ちっとも凄くない真相究明というか。ネタとしては前段で振っといた森由岐子の例の問題作「怪奇!この家にはトイレがない!」、いや「魔性わらべの家」だっけ、あれと同じ話なの』

「はい。確かに」

『しかし、閑話休題、これを観て初めて分かったことだが、この世に見取り図マニアってのが結構いるんだな。笠井潔『オイディプス症候群』に小野不由美が描いた館の図面がある理由が分かった』

「え?どういうことです?」

『ほら、推理小説とかでさ、事件のあった屋敷の見取り図とか結構載ってるじゃない。実は作者がトリックを考えるために使った、単なる資料だったりするけどさ。初心者ほど、なんか深い意味あるのかと思ったりして、ついジッと見てしまうなんてことあるよな』

「実はまったく意味がないという()

『でも、その行為が段々癖みたいになってしまって、家の間取りとか館の見取り図とか大好きになってしまって、集めたり、つい自分で書いてみたりする。電車でいえば、Dみたいな時刻表マニアはそこから鉄道マニアになるけど、見取り図マニアは進化すると一級建築士を目指したりするのか?』

「あぁ、でも、鉄道マニアが本当にJRに就職すると最悪らしいですよ。余計な蘊蓄ばかり垂れてまったく兎に角仕事しないって誰か嘆いてた。確かに趣味で仕事しちゃいかんでしょう。当然だ」

『怪奇探偵のお前が言うな!!!』

「違いますよ、怪奇はボクの運命なのです(断言)。

 それにしても、これ、ぬるいよなー。風邪引きそう。でも、この動画は続編含めて書籍化されるてんですよね。果たして1,700円新刊の価値はあるのか。よし、お馴染みの秘密道具、読書メーターさんで測ってみますか。

 おっ、あらすじ掲載あり。これ広告コピーでしょ。問題なさそうだし、以下引用しとくか。

※(引用開始)

『あらすじ』

話題騒然!! 2020年、ウェブサイトで166PVを記録

YouTubeではなんと700万回以上再生!

あの「【不動産ミステリー】変な家」にはさらなる続きがあった!!

謎の空間、二重扉、窓のない子供部屋——

間取りの謎をたどった先に見た、「事実」とは!?

知人が購入を検討している都内の中古一軒家。

開放的で明るい内装の、ごくありふれた物件に思えたが、間取り図に「謎の空間」が存在していた。

知り合いの設計士にその間取り図を見せると、この家は、そこかしこに「奇妙な違和感」が存在すると言う。

間取りの謎をたどった先に見たものとは……。

不可解な間取りの真相は!?

突如消えた「元住人」は一体何者!?

本書で全ての謎が解き明かされる!

※(引用終わり)

・・・うん、なるほど。色々な方のレビュー参照しましたけど。ボク的には以下の感想が妥当な評価です。“あまり深く考えずに読んだほうが・・・”、至言ですね。

※(引用開始)

nadami30

不思議な間取りの変な家。荒唐無稽な憶測から、ある一族の因習へと繋がる不動産ミステリ。
読みやすい。
金田一耕助の時代ならともかく、現代日本の東京や埼玉を舞台にして戦前のしきたりを受継ぎ、素人の子どもが殺人を続けるのは、少し無理がある気がする…。
昭和の舞台にしたほうが良かったのでは?と思ってしまう。
あまり深く考えずに読んだほうが楽しめる和風ミステリ。

※(引用終わり)

ま、これレビューが的確な評価だってのは、まったく1ページも読んでもいないやつが勝手に言ってるだけの、根拠薄弱なエアー感想ですけどね!」

『酷い評価だが、ま、納得。妥当かな。怪奇探偵は、読まずしてその本の評価を言い切ってしまう特殊能力の持ち主なのか。連載以来ここまで続いてきて、初めて明かされる衝撃の真実だよなー』

 スズキくんは世にも爽やかな笑顔で微笑んで、

「はい、時間もカネも有限ですから。馬鹿正直一本でやってるだけで、怪奇な世間が渡れるもんか!」

『貧乏暇なしは私もおんなじだよ。でも世の中全般そうだから、これほどSNSが流行るんだろ。裏で金を毟られてるのに、気づきもしない馬鹿どもの間でな!なにがデジタル大臣だ!ふざけんな!人体にメカのひとつも埋め込んでみろ!

 家庭にファミコンしかなかった時代は、実は意外と裕福な時代だった。

 紙雑誌メディアが盛り上がった時代はまだマシだった。

 真にデジタル化とは、実は貧乏人の為の救済措置だったのかも知れないよ。スマホ1台で幾らでも暇つぶし出来るんだろうがよ。いいよな、お前ら!本当幸せなやつらだ!路上交通を妨害するだけのゴミクズ野郎どもが!』

「・・・いや、ソーシャルゲーム最高。毎日ガチャ引きたい・・・」

『では本論の動画のコメ欄から一本引用しておこうか。本気なのかね?』

yushy
0314

2か月前

これほんとにすごいです、、

まじで鳥肌、、

 怪奇探偵スズキくんはタバコに火を付け、静かに問いかけた。
「・・・結局あなた、誰かを相手に喧嘩売りたいんですか?」

『違うよ。正しい意見を言ってるだけだよ。長い年月に渡り、わしは沈黙を保っていたんだよ。自分が間違っているのかも知れない。世間のみんなが正しくて、わしは悔い改めて坊主にでもなって即刻反省すべきなのかも。そう思いながら耐えて、我慢して、水面下に沈んだ石ころのように黙って生きてきて、さらに、手術したり、豊胸したり、理不尽なハラスメントを受けたりしながら、LGBT問題に理解を深めたりして、流浪の果てにようやく真実が分かった。

 あいつらを野放しにしてきた結果、世の中、どんどん悪くなるばかりだったんだよ!

 ジャンジャン不景気になって、へんな病気も流行り出して、誰も彼もがおかしくなって、なにも良いことなんか無くなったんだよ!』

「・・・・・・・」

『ならば、言いたいことを自由に言わせてもらうぜ。それがオレのスタイルだ!世の中なんてクソだぜ。黙ってて損をしちゃった。キャハ💛』

「はァ。どうぞご勝手に。それでは、本来のレビューに戻りましょうか。

 プロの怪奇探偵として謂わせて貰いますが、やはりこの家、単なる設計ミスだと思うんです。失敗してる建築なんて、有名施工業者が請け負った地盤沈下を起こしてる某タワマン含め、星の数ほどある。そこをグッと拡げて、妄想詰め込んで膨らまして、ほら、ハリー・ケメルマン『9マイルは遠すぎる』って有名な短編ありましたでしょ?あれですよ」

『安楽椅子探偵の古典だな。仮想に仮想を重ねて、意外な真相を炙り出す。ま、単なるこじつけとも言うけどな!』

「あれが短編で書かれてるとこにポイントがあると思うんです。日常の平凡な違和感を膨らませて、架空の理屈でねじ伏せていくのは悪い切り口ではないけど、長くなるほどボロが出る。入口が平凡なだけに進むほど“そんなアホな!”感がドンドンつのって収拾つかなくなるんですね。オカルトってすべてそうでしょ。ほら、高橋克彦『総門谷』ですよ」

『あぁ、典型的なバカ小説だったな。劣化した半村良というか、もっとマンガで、内容壊れ過ぎてて1作目は結構好きだったが。敵が使徒と呼ばれ、なんでかキリストとかなんだよな・・・』

「エヴァンなんかとの元ネタのひとつですね。ダサいですね」

 スズキくんは再び、チャッチャッと引用した。

『総門谷』(高橋克彦) -
講談社文庫

初版発行:
1985

岩手県で1年間にわたり、UFOの目撃者が続出、そして奇怪な焼死体さえも! だが、このUFO騒動の裏は? 疑惑を抱く超能力者霧神顕たちは、怖るべきパワーの魔手と闘い、傷つきながらも、ついに魔の本拠・総門谷に潜入した。そこで目にした驚愕の光景とは? 構想15年を費したSF伝奇超大作。

「で、今回使いまくる読書メーターさん評価はこれで決まりでしょ!」

かつりん

ふた昔前の角川映画って感じでした。

『うん、的確だ。物事の理を解ってんな、かつりん』

「あんたの同世代の方だと思いますけどね。「総門谷」はバカ小説の典型として、最後は時空崩壊して万物リセットが起こります。広げた風呂敷たためなくなっちゃうんですよね。ケメルマンは賢かったということですよ。喋る程ボロが出る。ついた嘘を、更に規模の大きい嘘で上塗りしなきゃならない。バカのインフレ、『少年ジャンプ』の強いやつインフレと同じ理屈です」

 おやじは電話の向こうで溜め息をついた。

『ま、楽しいからいいんだけど。そればっか観てると、本当に頭悪くなって、最後は気が狂って死んじゃうぞ。「サメ映画大全」とか「人喰い映画大全」とか、本当にそう思うな。あれと伊東美和「ゾンビ映画大辞典」の格式の差について一度真剣に考えてみるべきだよ』

「嫌です。でも、まァ、わかりますよ。内容スカスカってことですよね。それは単に著者の技術レベルの差、情報量の格差なのでは?」

『いや、違うよ。真剣さが足りない!ってことだよ。バカと心中する覚悟の差というべきかね。
 まぁ、いいよ。今回の話はあくまでYouTubeだし、次はこれを観るのだ!』

とある一軒家で見つかった、不気味なビデオテープの真相

2,289,521
回視聴2021/09/24

https://www.youtube.com/watch?v=QboNR30zqPk

「ゲッ、長大化して49分もありやがる」

『うむ。最新作はストーリーテリングはこなれてきて、普通になってきてる。というか、Jホラーあるあるだな。呪いのビデオテープってネタが既に古臭いが。300万回再生も楽勝でいくでしょ、これも。まったくドノソの何倍だよ!』

「まだ、拘りますか()250万というのは、バブル期の松任谷由美のCD出荷枚数でしたね。紙メディアで唯一気を吐く『少年ジャンプ』も公称200万部から落ちてたみたい。これらは有償、無償の区別はあるから同一テーブルで比較し辛いところがありますが、でも実は、すべてのメディアは受け手の貴重な時間を浪費するという一点ではまったく同等なのです。これがスマホ普及以降の、娯楽メディアの真実ではないでしょうか」

◆参考記事:ジャンプ一強状態だが部数減少継続中…少年向けコミック誌の部数動向をさぐる(20201012)

https://news.yahoo.co.jp/byline/fuwaraizo/20210314-00226269

(幕間)

『・・・やっと観たか。観終わったか。わしはタバコ3本消費したぞ。どうだった?』

「やはり、ふつう」

()

「確かに、だいぶ語り口がこなれてきてますが。そこは、まぁ、3歳馬の馬体重増は成長分ってくらいに理解しとけばいいんですが。それよか、あの。この話、そもそもプロット破綻してませんか。呪いのビデオテープ、部屋の四隅に張る必要まったくないですよね?」

『うん、無いね。別にやってもいいけど、必然性はない。趣味の問題()

「はい。そもそも実際リアルタイムで呪いの儀式を行うことが出来ないのなら、嫁の留守中にこっそりやればいいんではないか?
 この呪術法が実在するのかどうか知りませんが、たぶん白石晃士『ノロイ』の“かぐたば”的なものでしょう。架空だけど元ネタある系。民間伝承でこの設定なら、そもそも発生時点からして、呪う対象の部屋の中でこっそりやるたぐいの呪術だったと考える方が自然でしょ。最初っから、面倒なビデオ撮影なんてしないで全然済む楽な呪い方だった訳じゃないですか。
 なんでこんなに苦労してるんですか、真犯人?」

『うんうん』
「やはり、これって、設定のための設定なんですよ。まずビデオ貼り付けありきで、そこから話が組み立てられてるので、辻褄合わなくなってしまったんだと思う。残念。

 あと、ここは声を大にして言いたいんですが、ラストの恐怖落ちがあまりに弱すぎ。やばすぎるレベルでしょ」
『そうだね。しかし、ゾッとしたって人もいるみたいよ』

YouTuber

3
週間前

最後の電話で鳥肌が立った。

YouTubeでこんなに惹きつけられるのは凄すぎる。

間取りとミステリーのシリーズ好きなのでまた見たい。


佐藤はる

4週間前

「完」の文字が出た直後に来た得体の知れない興奮。どことなく不気味で、物悲しくて、でも凄く恐ろしい、上質な映画を見た時と同じ感覚でした。今回も素晴らしい物語をありがとうございます!

『・・・都合の悪い感想は全部削除してる疑惑()それくらい、溢れる絶賛の嵐!』
「オチの弱さは特に気になりましたよ、根っからのホラー好きのボクとしては。この後に、最後の呪術が動き出して恐ろしい効果を上げるようには、どんなに好意的に解釈したって、まったく見えないんです。なんか全員無事そう、無傷そう。それってホラーとしては致命傷、最悪でしょ。 前半の展開の中でね、もうホント、軽い扱いでもネタ振りでもいいから、テスト的に猫とか犬を呪殺してみせるとかさ、隣人が狂い死んでくれてもいいんです、なんか異様な事態がないと。肝心の呪法の威力が伝わらないじゃないですか。“この呪いが発動したら世界は終わり”くらいの、大袈裟な緊張感あるハッタリでもって強引に話を盛り上げてくれないと。観てるこっちはイマイチ消化不良で、おモロくないんですよ!」

『だから、寸前で怖くない怪談という新ジャンル。虚実の狭間でリアルを狙いすぎたのか?』

スズキくんは机を叩いた。

「いや、ないでしょ、リアリティ。あったら絶対こうはならないよ!所詮アタマで考えただけの話だよ!例えば里子に出された赤ん坊の気持ちが、お前に分かるのかよ、クズ野郎が!本当の親が誰だか全然分からなくって、大人になって真相聞いて、ただギャフンと言うしかなかった、あの日の苦い経験を、あの日の夕焼け空をボクは決して忘れませんからね!このカスが!」

『え・・・?そこ?!』

 古本屋のおやじは、収拾つかなくなりそうな空気を察して、素早くまとめに入った。

『“怖い間取り”とかね、“事故物件に住んでみた!”とかね。実話系怪談が因縁話で盛り上がるのは、結構なことだと思うんだが、小学校のクラスで流行った心霊写真本みたいで新味がない。
 ホラー好きと心霊好きは、実は凄く相性が悪いのかも知れないよ。心霊とかオカルト好きな人ってさ、世にも奇妙な怖い現象が起きました!ってその事実だけで盛り上がれちゃう人達でしょ。ムー大陸は実在してました!とかさ。

 ホラーはもう少し高級というか、怪奇現象のその先を探求しちゃうものだから。

 でも以下の感想にはちょっと同意しちゃおうかな。※
スタイルズクラッシュという名の乗り物に乗っているヨシハシ

3週間前

雨穴さんのスゴいところは、

"新しい小説家像"を生み出したところだと思います。

「小説思いついたけど自費出版するお金はない」という人の先駆者になると思う。

※ 
 ニューメディアの効能を説明するのに旧メディアを持ち出すのは、政府のバカ共の常套手段。カス野郎が。この動画の内容だったら、平山夢明なら短編でやれるんじゃね?しかも、そっちの方が上手いし怖いと思うよ。第一小説書きたいなら文章にしろよ。いらねぇんだよ、新しい小説なんてよ。
 とはいえ、ま、確かにこういう小説があってもいんじゃね?頑張ってね』

「史上最強に、心こもってないですね」

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2021年2月23日 (火)

「ソンブレロ宣言(ジャクソン・ジョージ!)」

コヨーテが月に吠えついて 街は灯りを鎖ざしてる
可愛い女はベッドの中 飽食の果実齧ってる

移民しかいない国に生まれ 
流浪の暮らしを繰り返す
黄金争奪 権力の河
線路は闇へと延びていく

 男たちは荒野に立つ
 二丁拳銃、片手に握り締め
 過ぎてきた時間 拾い集めてる

Woh、Woh、Woh 夜が被る黒い帽子
Woh、Woh、Woh Wo、Wo、Wo、Woh ソンブレロ

郵便が届かないのなら 私を捜しに来るがいい
湖のほとり、静かな町 シェリフは何でも知っている

鉱石掘りの世迷い言 世界の天秤が歪んだって
真っ赤に灼けた神の鉄槌、一杯飲み屋を圧し潰す

 蠍と交尾のダンス
 毒の化粧に身を委ね
 託宣盤から新着のメッセージ  

Woh、Woh、Woh だれが被る黒い帽子
Woh、Woh、Woh Wo、Wo、Wo、Woh ソンブレロ

コヨーテが月に吠えついて 街は灯りを鎖ざしてる
汗と悲鳴は星空に満ち 国境の西を埋め尽くす

ソンブレロ(ジャクソン・ジョージ!)
ソンブレロ(ジャクソン・ジョージ!)
ソンブレロ(ジャクソン・ジョージ!)
ソンブレロ
 男は長い水を越えて
ソンブレロ
 神父の鬚に止まった空白
ソンブレロ
 馬を駆るなら彼方まで
ソンブレロ
 太陽の出ない世界へ
ソンブレロ・・・ 

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2020年10月 4日 (日)

小日向由衣『明日咲く』(’20、なりすレコード/こっこっこレコードNRSD-2282)

 うちの嫁がまったく効かないダイエットサプリを飲んでるんですけれども。食前にね。安いやつ。スギ薬局とかでポイントで貰えるみたいな。で、たまに俺に「飲め」と勧めてくるんですけど。
 まったくバカじゃないかと思うし、「そんなんで効果あれば苦労しないよ」と本人に何度も言っとるんですが、全然聞かない。結婚前から維持してる習慣らしくて。時々ポストに無料サプリの試供品が届く。仕方なく渡すと「水持ってきて」
 意味はまったく無いけど、可愛いですよね。そういうの。

 小日向由衣さんの新譜は、まぁなんというか、そういう説明しにくい可愛さが詰まった名作となっております。
 小日向さんの楽曲は、どれもがすべて、実はしっかりしたサビと耳馴染みのいいアレンジで構成されたクラシカルな構造を持つ王道作品でありまして、色物などでは決してない。世間一般メディアの扱いは違うかも知れませんが。本当よ。
 ちょっと実証してみましょうか。(以下各曲解説)

M-1 ブランコ
 これ、ちょっとした名曲ですよね。毎度おなじみ「ロビンソン」リフと、フジファブリック「若者のすべて」要素が入って、最終的に小日向メロでしかないものになってる。そんな大ヒットソングを踏襲しておいて、基本普段着で地味なのがいい。
M-2 雨の予感
 ベースラインがUB40。スクリッティの初期シングルみたい。とはいえ、八神純子の昔から「雨といえばストリングス」の故事がございます通り、バカラック並みに後追いで美しいサビメロを追いかけてくる弦楽器がいい感じ。
M-3 グッバイキャンディー
 チャラっす。チャラっすが、果たしてどのチャラなのか。具体的にはどの曲なのか。デジポップ?デジロック?謎は深い。
M-4 チューリップ
 これ、わかりにくいと思いますが、私にとってはLioの「バナナ」に通じるラテンソング。誤ってチューリップの球根百個を発注。かなりホラーなシチュエーションです。
M-5 秋空
 いい曲ですね。それしか言えなくてごめんなさい。サビがなんか相対性理論ですけれども。いいんです。
M-6 恋の呪文
 ジュディマリっす。ジュディマリ並みに売れるべきだと思いますよ。小日向さんは。百万枚です。
M-7 玄米
 テーマとしては、絵恋ちゃんなんですよ。木魚もそうですが。そこにゴーストバスターズとヒューイルイスが襲いかかってくる。YESのロンリーハートから、オーケストラルヒットも聞こえるね。
M-8 咲く
 これは名曲。なんとなく矢野顕子「花のように」の残響を感じますが、たぶん勘違い。矢野さんの評価って、今となっては微妙なものになってしまいました。
M-9 ラブユー
 めちゃ相対性理論ですけれども。テレ東ですけども。チャイナアドバイスですけれども。いいんだ、こっちの方が可愛いんだい!と強気に言い張り胸を張れ。
M-10 誓います
 イントロがブルハで、サビが戸川純でヤプーズで死にます。この歌詞は徳マル付きでいい。「死ねばいい」
M-11 明日
 地味ですけどいい曲ですよ。眉村の「大丈夫」へのアンサーなんでしょうが、端正なんですよ。小日向さんのはしっかりしている。ちゃんと王道の、安心してカラオケで歌える感じが凄くいいと思います。
M-12 猫みたいに
 性愛をテーマにした危険な楽曲。なのに曲調は「オブラディオブラダ」。あー、コレコレ。
M-13 手紙
 やばいっすよ。最凶っすよ。弾き語りチューンですけど、これ泣かされますよ。オレ、通勤電車で泣きましたもん。やばいっすよ。 
以上。

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2020年8月 1日 (土)

ショーン・ハトスン 『スラッグス』 <ハヤカワ文庫 NV モダンホラー・セレクション>茅律子 訳 

 不要不急の外出自粛。つまりはショーンハトソン祭り。ショーンハトソン帝国。

 とはいえ、これは本当にくだらない、唾棄すべき本だ。読書習慣を何か有難い物のように錯覚する者たちへ、本屋大賞選考委員の諸君へ渾身の力を込めて叩きつけてやりたくなる一冊だ。たかだか活字をたどる程度の行為がどのくらい有意義な価値を持つというのか。そんな金あったら肉を食え。まんこ買え。まったくお前さん、物事を知らなすぎるゼ! 
 例えばだ。なめくじに歯があるってのは知ってました?
 知ってる。
 あ。そう。そうだろう。カタツムリの歯は二万本あるそうだが、なめくじは一万本だってね。

 

 そうそう、こういう歯。
 いや、違うでしょーーーが!

 本書は無駄にご丁寧に映画化されており、原作にある奇妙な矛盾点(後述する)をスクリプト・ドクター的な観点から補完を試み、さらなる恥の上塗りを試みるという、宇宙船の上から宇宙船を打ち上げるような斬新なニューアイディアに満ちたプロレタリアート芸術を繰り広げてくれる。
 もはや嫌で嫌で仕方がないのだが、本書の恥ずべきストーリーを以下概要にて紹介するから、そう思え。

【あらすじ】
 舞台はイギリス。国家の首相自ら、EUから離脱したり感染したり治ったり、常にNEW WAVEな姿勢を失わないあの国だ。
 まずマッカートニーの’80年大ヒット「夢の旅人」を歌っては失禁する、どうしようもない飲んだくれが、自宅地下に異常繁殖した殺人ナメクジの犠牲になって死亡する。
 え?ナメクジに人が殺せるのかって?
 そういうことを言ってたら、立派な大人になれないよ。
 ここに出てくるナメクジはわれわれの知ってる概念を覆す、新種の生物だ。異常に知能が発達しており、群れをつくって行動し、リーダーと思しき大型の黒ナメクジに率いられて民家を襲撃し、人間を血肉の塊りに変えていく。その目的は不明だが、おそらく人類の絶滅とかそういう不毛な方面なのだろう。そう思わないとやってらんないよ。

 余談だが、先日仕事で地下鉄経由で東新宿に行きまして、帰路はそこからJR新宿駅を目指して歩いてみました。「夜の街感染」地帯へ入り込みたくないよなと思いながら歩いていきますと、ありましたよ。青い看板に「歌舞伎町」の文字が。金髪、茶髪に黒いシャツの若者たちのぶらつくスラム横を通り抜け、神舎前にどっかり座り込んだ、灰色あごひげを長く伸ばして野球キャップの古典ルックな浮浪者さんと素敵な出会いがあったり、タルコフスキーの撮った廃墟のような新宿ゴールデン街を覗いたり。あれだよね、ホロコースト映画の風景に似てるよね。ただの新宿なのに。

 で、ナメクジに話を戻すけど、レタスに混ざってナメクジ喰った男が脳内食い荒らされて血飛沫飛ばして頓死を遂げたり、ナメクジは体液字体が猛毒性だったらしく、飲んだ幼児が発狂して母親の喉笛食いちぎり、それが二階の階段踊り場だったりしたもんだから、母親は脳天を壁にこすりながら階段をでべでべでべって転落していって、帰宅したばかりのパパを驚かしたり。
 TPOを心得ない異常生物のアタックに街は滅亡寸前のピンチに。
 ここで立ち上がるヒーローは、ま、予測がつくでしょうが、保健所のおっさんである。連続する異常死の謎を追っていたオヤジは、ただひとり、すべての原因がナメクジだったという驚愕の真相を知ってしまうのだ。Oh、なんてこった。(確かに)
 ナメクジの潜んでいるのは市の全域に張り巡らされた下水道の中。
 おっさんは、下水清掃のプロ、メガネの生物学者とチームを組んで極秘裏にナメクジ絶滅作戦に取り掛かるのであった。
 さっさと警察に通報しろよ。

【解説】
 最後に出てくる疑問に関しては、この作品を映画化しようとした際に脚本家も思いついたらしく、主人公に敵対する存在として市長を作り出し、彼らが孤独な戦いに赴かざるを得ない理由を説明していた。
(原作では“どうせ誰も信じちゃくれないだろう・・・”という中二病過ぎる呟きしか出て来ない)
 だが。その結果、ハッキリしてしまった事実がある。
 中年の捜査官。若い学者。下水清掃のプロ。これってまるっきり『ジョーズ』じゃん。最もタフそうに見えるプロが死亡し、軟弱な主人公と学者が生き残る結末もいっしょ。安直だなぁー。
 そう考えると、一見無茶苦茶に聞こえる“どうせ誰も・・・”の方が、まだしもオリジナリティーを主張できるように思えるのであった。 

 


 

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