『Yの悲劇』(1932、エラリイ・クイーン/砧 一郎訳1957、ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス302)
有名な作品というのは、みんな寄ってたかって勝手に色んなことを言っているものだ。
有名税というやつで、マイナーで誰も知らない本よりも、不当で侮蔑的な扱いを受ける確率は高い。
常連ばかりで構成される秘密のバーより、カス客クズ客が多く集まる繁華街のチェーン店。世にいう名作にはどれもそういう不憫なイメージがある。本当かわいそう。
だが些末な細部、ゴミクズのような意見にこそこの世の真実はある。
読んだ人間の数が多ければ多いほど、世評はグッと定まるに違いない。だれも読まない本などクソくらえ。多くに読まれなければ意味がない。暴言暴論の荒波を乗り越え、ロード・オブ・メジャーを目指すのだ。
そうして、億千万のあまた煌めくカスども、虫けらレベル以下の読者連中の、まったくもってどうでもいい毀誉褒貶と斟酌を無限大に吸い込んだ真にタフな作品のみが、時の重みに耐えて次世代へ真の名作として語り継がれていくのだろう。
とはいえ、そもそも誰が読んでも傑作というのは実に難しい。
だってそうだろ、ダメすぎる意見も、意見は意見。民主主義では清き一票だ。
ギリシアの都市国家はかつて成人資格を厳格に定義した。弱き者、愚者には市民権が与えられなかった。そういう成人定義が厳格な時代もあった。
※註1.例えば紀元前451年ペリクレスの市民権法によれば、アテネ市民は、両親ともアテネ人である嫡出の男子(嫡子)のみに限定する。嫡出とは正妻の子であり、内妻の子(庶子)は除外。母親が外国人である場合も除外。
あるいは、スパルタでは参政権を持つ完全な市民は全人口の6.7%で、男子は7歳から集団訓練をおこなって戦闘能力と耐久性を養い、市民は常に共同食事をとって(!)連帯感を醸成。贅沢や娯楽は禁じられ、貧富の差を生じさせないために、国内での貴金属貨幣の使用も禁じられていた。
現代日本は堕落したクソガキどもが支配する。意見はすべて、どこかのサイトのパクリ。引用人生。つまりはオレやキミのような普通にダメな人たちだ。
しかし。
優れた識者の意見だけですべてが語られるのでは片手落ちというものではあるまいか。
どんな賢者でも将来書かれるすべての本を読み通すことなどできない。新しい本には新しい読者がいる。古い船をいま動かせるのは古い水夫じゃないだろう。
マニアの見解なんてクソだ。国名シリーズを全部読む奴はバカだ。そんなオタクは死んでしまえ。われわれはもっといい加減で適当であるべきなのだ。
最初に、まずは本編の引用から始める。
(いまさら『Yの悲劇』あらすじ解説もないだろう。どうだ。オチは知ってるよな???全部バラすからそう思え。私の文章でこの作品に初めて触れる者=中学生は自らの不明を恥じてエデンの門から去るがよい。)
この本には当然色んな翻訳があって、『ダ・ヴィンチ・コード』の越前敏弥から『ドラキュラ』平井呈一先生なんてのもある。
しかし私は熱意を持って伝えたい。ここはポケミス版がベストだ。古くさい?あぁそうとも、グッドオールドデイズ。余計な配慮や表現に対する制約が無かった自由な時代の産物だ。
格調高い砧一郎の名調子が冴え渡る。
※
P.81
「こんどの事件は、わしにはなにがなんだかさっぱりわからん。つんぼ啞に毒を盛って殺そうとするやつがいるかと思えば、こんどは、老いぼれババアをなぐり殺すやつがいる」
ここで、私は膝を打った。
本当『Yの悲劇』って、マジこういう事件なんだよね!!!実に的確な表現だと思う。
私はこのフレーズが登場したとき、グリグリ赤線を引いた。全然期待してなかったけど、この版の翻訳を読んで本当良かったと思った。ワクワクするようなくだらない殺人。クイーンの本質はこれだと思った。
そういうことなんだよね〰。
今さらなんで『Y』の古い版なんか読む?そういう曖昧な疑問に捉われながら、ブックオフで100円投入して良かった。私は意外と古書勘はいい方なのである。そうでも思わなきゃこんなに長くやっとられんよ。
ご存じあかね書房の児童向けも含め、この本には無数の翻訳が存在すると思われるが、しかし砧訳はWikiのリストに載っていないのが残念だ。黒い力で抹殺されたようだ。
日本語訳書
1937年 春秋社、井上良夫訳
1950年 ぶらっく選書 (10)、新樹社、井上良夫訳
1958年 新潮文庫、大久保康雄訳
1959年 創元推理文庫、鮎川信夫訳
1961年 角川文庫、田村隆一訳(2015年現在、グーテンベルク21より復刊)
1974年 講談社文庫、平井呈一訳
1988年 ハヤカワ・ミステリ文庫、宇野利泰訳
1998年 乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10 (4)、集英社文庫、鎌田三平訳
2010年 角川文庫、越前敏弥訳
2022年 創元推理文庫、中村有希訳
https://ja.wikipedia.org/wiki/Y%E3%81%AE%E6%82%B2%E5%8A%87#%E6%98%A0%E5%83%8F%E3%82%BD%E3%83%95%E3%83%88
↓以下Wiki引用し放題で情報を補完する。
■砧一郎先生備忘、
砧 一郎(きぬた いちろう、1912年4月30日 - 没年不明)
1936年北海道帝国大学理学部卒業。三菱化成工業勤務の傍ら、推理小説やノンフィクションを数多く翻訳した。
1970年代以降翻訳作品は確認されておらず、すでに故人と推定されるが、没年・死因は明らかではない。
『星団の侵入者』(W・P・マッギヴァン、アメージング・ストーリーズ 第7、誠文堂新光社) 1950
『暁の死線』(ウィリアム・アイリッシュ、早川書房、ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 1954
『斧でもくらえ』(A・A・フェア、早川書房、世界ミステリシリーズ) 1961
『影なき男』(ダシール・ハメット、雄鶏社、おんどりみすてり) 1950
『赤い収穫』(ダシール・ハメット、早川書房、ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 1953
『マルタの鷹』(ダシール・ハメット 早川書房、ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 1954
『ガラスの鍵』(ダシェル・ハメット 早川書房、世界探偵小説全集) 1954
『審判の日』(ポール・アンダースン、早川書房、ハヤカワ・SF・シリーズ) 1964
『地球人よ、故郷に還れ〈宇宙都市シリーズ〉』(ジェイムズ・ブリッシュ、早川書房、ハヤカワ・SF・シリーズ) 1965
『ユダの窓』改訂版(カーター・ディクスン、早川書房) 1975
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%A7%E4%B8%80%E9%83%8E
まさに職人!肩書名刺代わりになりそうな立派な本がまったくないではないか。天才!
実にかっこよすぎるキャリアで、ミステリ、SF、どうでもいいやつ、不屈の娯楽魂を感じるエンタメ翻訳者のまさに鏡か。砧先生についてもっと知りたいと思う。情報あんまりないけど。
■その他の翻訳者備忘、
井上良夫は1908年(明治41年)生まれ。戦前における最もすぐれた探偵小説評論家といわれる。『赤毛のレドメイン一家』『ポンスン事件』『完全殺人事件』とか、例のノックスの十戒で有名な『陸橋殺人事件』(ロナルド・ノックス、柳香書院、1936年)なんかやってる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E4%B8%8A%E8%89%AF%E5%A4%AB
鮎川哲也と混同してはいけない鮎川信夫は、1920年生まれの詩人。早稲田大学中退。ホームズやクイーン有名どころの他に、アップダイク、『裸のランチ』(ウィリアム・バロウズ、河出書房新社、1965)なんかも訳してる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AE%8E%E5%B7%9D%E4%BF%A1%E5%A4%AB
私の中では早川文庫版ホームズ『ボヘミアの醜聞』の誤訳で有名な大久保康雄は、1905年茨城県が生んだ翻訳界のドン。無数の下訳者たちをこき使い約55年にわたり膨大な「大久保訳」を生み出す。「大久保工房」と呼ばれた下訳者の中には、戦前からの付き合いの中村能三、田中西二郎の他、白木茂、高橋豊、加島祥造など、後に独立し名を成した翻訳家たちが多くいる。 永井淳も大久保から翻訳を学んだ。清水俊二、双葉十三郎など洋画関係者とも深い交流がある。こいつはチェックだな。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%B9%85%E4%BF%9D%E5%BA%B7%E9%9B%84
田村 隆一は、1923年(大正12年)東京府北豊島郡巣鴨村(現在の東京都豊島区南大塚)に生まれる。1950年より翻訳を開始する。処女訳書はアガサ・クリスティ『三幕の殺人』。その版元であった早川書房に1953年より1957年まで勤務、編集と翻訳にあたる。当時の部下だった福島正実、都筑道夫らの回顧文では「有能だが、あまり仕事をしない、風流人」として描かれている。『スタイルズ荘の怪事件』(アガサ・クリスティー、早川書房) 1957、『我が秘密の生涯』(1975、学芸書林)、『あなたに似た人』(ロアルド・ダール、1957、早川書房)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E6%9D%91%E9%9A%86%E4%B8%80
宇野 利泰(1909年4月21日 - 1997年1月6日)は東京市神田区生まれ[2]。実家は太田鉄工所を経営し、裕福な一家に生まれ育つも、宇野の代で工場は人手に渡っている。旧制武蔵高等学校を経て、1932年東京帝国大学独文科卒。田園調布(4の70)の自宅の隣人は石坂洋次郎[5]であり、海外推理小説に詳しかったことから江戸川乱歩の知遇を得、雑誌『宝石』(岩谷書店)の創刊に貢献。大久保康雄などと同様、下訳者を使って次々に翻訳を発表、下訳者たちの育成にも秀でており、深町眞理子、稲葉明雄など数々の著名な翻訳者が出た。『帽子蒐集狂事件』(ディクスン・カー、東京創元社) 1956『はなれわざ』クリスチアナ・ブランド、『ドラゴン殺人事件』ヴァン・ダイン、『宇宙戦争』(H・G・ウエルズ、早川書房、ハヤカワ・SF・シリーズ) 1963年、『明日を越える旅』(Journey Beyond Tomorrow、ロバート・シェクリイ、早川書房) 1965年、『狂風世界』(The Wind From Nowhere、J・G・バラード、創元推理文庫) 1970年、創元推理庫版コナンも訳すが、多田雄二名義でリン・カーターのゾンガーまで。気になる男だ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%87%E9%87%8E%E5%88%A9%E6%B3%B0
さ・て・と。
ではレビュー総まくり。まず潔癖症が登場する。彼は気が狂っていた。
(以下引用元下記)
https://www.amazon.co.jp/%EF%BC%B9%E3%81%AE%E6%82%B2%E5%8A%87-%E8%A7%92%E5%B7%9D%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%82%AF-19-2-%E3%82%A8%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%B3/dp/4042507166
※
本田直樹
1ページだけだが、乱雑に折れているページがあった。
もちろん読むのに支障はないが、かりにこの商品が書店に並んでいて、店員がこの事実を発見したら、間違いなく「不良品」として扱うだろう。
検品、梱包の際、ちょっと見てくれれば、この折り目は発見できたものと思われる。気を付けてほしい。
む。む。なにこれ。
大手Amazonさん、おたくで目にした一発目の商品レビューがいきなり、これ。ガッカリしちゃうね。そこかよ。
ま、いいじゃないですか。実際ありますよ、そういうことって。
交換行っても、俺が店員なら丁寧にお詫びして速攻追い返しにかかるレベルの瑕疵。社会に何を期待しているんだ新成人。バスは定刻通り来ないに決まってるだろ。中央線は遅れがち。そりゃ当り前の話じゃないか。
電子版じゃないんだよ。そういう態度がアナログ文化を追い詰めるんだ。PDFに折り目が付くかよ。いやスキャンすりゃつくか。ともかくこれは味気ない時代に貴重な経験をしたと思え。
なんならお前が実際自分で検品してみろよ本田。生ける昭和の残骸、印刷工場なんてのは本物の地獄なんだよ。紙束すごい重いし手を切るし、職場には人生終わってる奴しかいない。24時間稼働で交代制、深夜バイトは朝帰り。一発で生まれてきたことを後悔させてやるよカスが。
さて、被せて個人的な恨みつらみをぶちまけたところで、次は読解力ありそうでまったくない例です。真面目ならいいってもんじゃない。
※
アウトサイダー
大きな失望は、意外性を狙って少年を犯人とした点である。
ハッター家は狂人の家系で、残虐な少年を生みだしたという設定は分からないまでもない。
このような快楽殺人者の少年は、人を殺すことに快楽を見出すのであり、自殺をする選択はしない。
ヨークハッターの小説の筋書きを、最後になって変更し、しかもレーンによってそれを阻まれてしまう。
少年が敗北感を味わったのか、あるいは逮捕される恐怖感から自殺を考えたのかは、筆者はまったく描写していない。
少年が自殺するよりも、少年院で更生させる方が、まだ少年の将来性があったはずだ。
これほど狡猾で残虐な少年に対して、野放しにするレーンの独善的な姿勢が評価できない。
・・・え、この人、ラストのオチの意味をまったく理解していない???そんなバカな。本当そんなことってあるの。小学校の図書室レベルですけど。
これじゃ、まるでマイクル・コニイ『ハローサマー、グッドバイ』の最後で主人公の生命が救われてることに気づかない愚かなダイナマイトくんみたいじゃないか。
「7人のお客様がこれが役に立ったと考えています」
えーーーマジかー。その7人、なにを考えてるんだ。
しかしさすがアウトサイダー。一匹狼。全レビュー必読だ。(『二都物語』とかやってます)
ここまで概ねアホの意見であるが、かしこい人たちは、この本をひとしなみバカにする傾向にある。
https://www.amazon.co.jp/Y%E3%81%AE%E6%82%B2%E5%8A%87-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%82%A8%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A4-%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%B3/dp/4150701423
※
Satoshi Tanaka
推理小説って、だいたいがこの程度
ハッター家の「悪」って言ったって、ちょっとばかり異性関係に積極的であるとか、少々お酒が好きすぎるとか、その程度なのに、おどろおどろしくかき立てるのはバカみたいですね。
横溝正史が少々家族内の性関係が濃厚すぎるのを悪魔の所業みたいに大げさに騒ぎたてるのと同様。
こんなのを分野の最高傑作みたいに担ぎ上げて何の疑問も持たない人達ってなんなのでしょうね。
タナカァ~!!!サ~トシ~~~、くくく。お前の意見は完全に正しい。
まったくその通りだよ。かしこいよお前。『悪魔のいけにえ』の悪魔ってのは、ちょっと一般より知能の劣る人のことだ。『悪魔の赤ちゃん』はキバとか生えてる奇形児童です。いや差別はあかん。
だ・が・な!!!
完璧でかしこいお前が、正常なバランス感覚を持ち合わせた優秀で立派な社会人のお前が、ウクライナ難民に義援金を贈る意識高い系のお前が、しかし、エンタメ精神を1ミリも理解しない完膚なきクソ野郎であることをいま爽やかな笑顔で断言する。
つまらん戯言を偉そうにほざくな。正解はマウントやめろ。過大広告、過剰表現すべて分かった上で、異常な戦慄に恐怖するのだ。正気と狂気の境目は僅か数センチ間隔であることを知れ。悪魔はお前の隣にいる。
んでもって、この人もあかん。
※
カエルマメ
ルイザの証言時に「それって子どもでは?」と閃いてしまったので、最後の謎解きのカタルシスが激減してしまった。
https://www.amazon.co.jp/Y%E3%81%AE%E6%82%B2%E5%8A%87-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%82%A8%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A4-%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%B3/product-reviews/4150701423/ref=cm_cr_arp_d_paging_btm_next_2?ie=UTF8&reviewerType=all_reviews&pageNumber=2
※
結膜炎
暗闇で犯人を触ったら、肌がスベスベしていた。犯人が女性でなかったら、その属性から三段論法的に真犯人が判ってしまう。 推理ポケット読み物というか、児童雑誌のふろくレベルの「謎」に失笑してしまうだろうこと請け合いの作品。 中学生の時は推理小説が好きだったが、こいつは読むなり「くっだらねぇ」と壁に叩きつけてやったもんだ。
中身の無いこけ脅しの文章を持ち上げるのもどうかと思う。やっとベスト1位から陥落したようだが、過去の誤った読後感に捕われた年寄り達が死んだら、誰も評価しなくなるだろう。
ううっ。かしこい。
普通に俊敏。
子供だましをわかってはる。テンカハル。来ない。
そう、これが実は『Y』最大の弱点箇所で、ここが一番のネタバレする最重要ポイント。この辺の余分な一行で気づいてしまった人は実は結構多い。橋本治もここで見限ってたよな確か。
こういう一部の者たちにとって推理小説というのは最後のオチまで軽快に突っ走るモンスターライドのようなものなのかもしれない。論理のジェットコースター。小説の出来とはアトラクションの性能うんぬんであって、つまらんものは断固つまらない。正解だ。
まったく見事な割り切り方で、ぜんぜん間違ってはいない。
しかし、そんな不遜な態度が果たして楽しいのか謎だ。そういう人はそもそもエンタメを読むのに向いていないのでは。としまえん行け。小説読むな。
あと、『読むなり「くっだらねぇ」と壁に叩きつけてやった』結膜炎。おまえ。おまえはまったく良い態度である。中二病というのはこういうのを言うんだろう。なんか知らんが、かっこよすぎ。泣けてくるぜ。
だがな、愛すべきクズ野郎、結膜炎よ。小学校の校長がT字路で首切り死体でT字型に磔になって見つかる『エジプト十字架の秘密』だとか、棺掘り起こして開けたら本人以外の死体が入っててビックリの『ギリシャ棺の謎』とか、クイーンってのは徹頭徹尾そんなんばっかり。要はくだらないんだよ。そんな面倒な殺し方考える犯人もどうかしてるし、それをアレコレ真剣に推理する読者もまったくどうかしている。だいたい読者に挑戦状を叩きつける作者ってのはどうなんだ。立派な大人といえるのか。
そりゃバカでしょ!!!
バカに決まってるじゃないか!当たり前だ。
でも、そこがいいんじゃない、とみうらじゅんなら言うだろう。みうらが言うなら、ボブ・ディランが言ってるも同じなんだよ。あっちはノーベル文学賞だぜ。
バカバカしいことを大真面目にたくらむ悪鬼の如き奸智に長けた犯人がいて、探偵はちょっと脳が足りないが、それでも一生懸命真面目に事件を真剣に推理して、およそあり得ない真相を暴き出す。どうでもいい過去の陰惨な因果を引き合いに出したりして。で、挙句に犯人死亡。
そういう、バカげたくだらないことに大の大人が真剣に血まなこになってた、ふざけた時代があったんだよ!かつて。
実に、いいじゃないか。
泣けるじゃねぇか。
そこに共感できる奴だけついて来い。論理が破綻とか、もうどうでもいいんだよ!理屈じゃねぇよ。インパクトで勝負だ!
私は品性下劣なる聖エンタメ精神に忠実なこの本を断固支持するし、その理由は世間に誇れるような立派なことが見事に一行も書いてないからだ!
薄気味悪さと後味悪さ。読んで後悔するような陰鬱さ。その本質は大バカ者の粗忽さ。うん、まったくいい本だと真剣に思うよ。
見解は以上だ。
さんざん偉そうに人の意見を取り上げて、勝手な引用繰り返してダラダラ書き連ねてはきたが、もちろん私の意見は最初から決まっていたのだ。
ところで、今回の記事を編集していてあらためて気づいたのだが、事件の根本に潜む動機に関して以下の記述があることに着目したい。
https://bookmeter.com/books/2114
※
ymeshelf
ハッター家を気狂い一家という表現が何度もしつこく出てくる割に原因はサラッとエミリーの梅毒が原因とだけ。
梅毒が精神疾患を及ぼすイメージが無さ過ぎて、プラモ壊した弟を殺したお兄ちゃんの方が狂気を感じる。
・・・ん?本当か、ymeshelf?
むかしは普通に言ってたなよ脳梅。低知能を表す悪口表現。脳に梅毒まわって頭悪くなる説。
例えばさ、例えが古いが、梅毒をテーマにした放送禁止曲として有名な、泉谷しげるの『おー脳!!!』って知ってる?
♪
アメリカじゃ梅毒になった人を
何年もあるところに閉じ込めて 薬も与えず
注射もせず ほったらかして
そうなればどうなるかという実験をした
結果はきみにも察しがつくだろう
♪
(1973年11月10日 シングル『春のからっ風/おー脳!!』)
うん、そうそう。こういう感じ。こういう感じでみんな気軽にネタにしてたんですよ、梅毒。パッと咲きます梅の花。
要は、家長のエミリー・ハッター老夫人はかつて超ヤリマンだったってことが発端らしいんだ。
結婚前からニューヨーク社交界を喰いまくり、旦那のヨークが粗チンの激烈陰キャだったことから、その後もお盛んかつ奔放な性生活を営んでいたものと思われる。
その乱れた性生活の過程で梅毒に感染し家庭内感染を引き起こし、呪われた一家が出来上がったということのようだ。
さて、梅毒が子に遺伝することは研究成果から明らかである。
先天梅毒:梅毒に罹患した母体から胎盤を介して胎児に梅毒トレポネーマが感染することにより、母体のいずれの病期でも起こりうる。出生時は無症状のことが多いが、早期先天梅毒では、生後数ヶ月以内に水疱性発疹、斑状発疹、丘疹状の皮膚症状に加え、全身性リンパ節腫脹、肝脾腫、骨軟骨炎、鼻閉などを呈する。晩期先天梅毒では、生後約2年以降にHutchinson3徴候(実質性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinson歯)などを呈する。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/syphilis/392-encyclopedia/465-syphilis-info.html
で、その具体的な症状なんであるが。。。
■梅毒の末期症状
梅毒は第1期から第4期までステージがあり、第1期は感染後から概ね3週間後から3ヶ月の間に症状が現れる時期、第2期は感染後から概ね3ヶ月以上経過した時期、第3期は概ね3年〜10年以上経過している状態で、第4期は概ね10年以上経過している状態です。
第4期梅毒には、梅毒に感染してから10〜30年後に進行すると言われています。 第4期まで進行した場合、多くの器官系に影響を与えます。 心臓や脳、血管や神経に至るまでです。 心血管系梅毒、神経梅毒といった重篤な症状に進行します。
心血管梅毒
心血管梅毒とは、梅毒細菌による心臓及び関連血管の感染症を指します。
神経梅毒
神経梅毒は第2期梅毒でも引き起こされることがあり、髄膜炎や眼症状などの脳神経症状は早期神経梅毒とされ、第4期で引き起こす可能性のある神経梅毒とは区別されます。 第4期での神経梅毒は、主に脳実質(大脳、小脳、脳幹、脊髄)に病変をきたし、進行麻痺、脊髄癆(せきずいろう)といった症状を引き起こす原因となります。
進行麻痺
梅毒による精神神経障害です。 脳実質が広く冒され、頭痛や発音の不明瞭、痴呆を主症状とします。また、記憶障害や思考力の低下、妄想などの症状も進み、末期になると全身麻痺にまで至るとも言われています。
脊髄癆(せきずいろう)
梅毒に起因する中枢神経系統の慢性疾患です。 脊髄の病変が徐々に進行し、体の痛み、瞳孔異常、歩行障害や感覚障害、排尿障害をきたします。
https://www.aozoracl.com/syphilis_makki
梅毒は全数報告対象(5類感染症)に分類される。
いちおう梅毒が精神疾患を及ぼすケースは現実に存在するということでよろしいようだが、それってステージ4、末期症状の段階のようですな。ざっと10年かかる。
とすれば、真犯人ジャッキーの年齢が13歳だから、ほぼ生まれた時から罹患していたとみるべき。母子感染により梅毒が遺伝していたとみるなら、コンラッド・ハッターの奥さんは割と普通の人だった筈で、ジャッキーに遺伝するにはちと弱い。母親が先に症状出てるべきでしょ。
そうすると、こりゃあれだ。
ジャッキーは実はエミリーの子供で、この話は実はそういうことだ。母親殺しだ。ジャッキーの父親が誰かってのが問題になるけど、ここは一番陰惨なコンラッド父親説を支持してみたい・・・。
(と、ここまでやれば、どうだ。賢明かつ鈍感なSatoshi Tanakaくんも、ハッター家が呪われた家系だと理解してくれたんじゃないかな?)
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