2017年9月 3日 (日)

ジーン・ウルフ『書架の探偵』 ('17、早川書房新 ハヤカワ・SF・シリーズ)

 字が大きい、読みやすい。でも単価高い。新SFシリーズ。
 柔道の世界選手権ハンガリー・ブダペスト大会第6日は2日、男子100キロ級でジーン・ウルフ(東海大)が、初出場で金メダルを獲得した。
 717bnpdioll


 昔から書籍というのは溜まる、黴る、埃りの元凶、なんか臭い等いろんな困った問題を孕んでいたもんだが、Kindleっての?クラウドっての?兎角しゃらくさい電子書籍化により、収納スペースの問題も簡単に解決。フォントサイズだって、字体だって表示選択さえすれば自由自在だ!すげぇぜ、21世紀テクノロジー。
 でも、そんな便利な時代の趨勢になんか意地でも乗るもんか、という奇特な御仁達がいる。行く先々で笑われ嫌われ疎まれたって、本はあくまで紙だし音楽はCDで聴く。そういうアナログかつ面倒な皆さんのために地方自治体が公共サービスとして、作家本人の貸し出しサービスを始めましたよ、というのがこのお話。ウルフ84歳。でも金メダル、やるもんだネ!

【あらすじ】
 1988年、公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を規制するための「メディア良化法」が制定される。法の施行に伴い、メディアへの監視権を持つメディア良化委員会が発足し、不適切とされたあらゆる創作物は、その執行機関である良化特務機関(メディア良化隊)による検閲を受けていた。この執行が妨害される際には、武力制圧も行われるという行き過ぎた内容であり、情報が制限され自由が侵されつつあるなか、弾圧に対抗した存在が図書館だった。
 実質的検閲の強行に対し、図書館法に則る公共図書館は、「図書館の自由に関する宣言」を元に「図書館の自由法」を制定。あくまでその役割と本の自由を守るべく、やがて図書館は自主防衛の道へと突き進んだ。これ以降、図書隊と良化特務機関との永きに渡る抗争に突入していくことになる。

 ・・・って。いや。もう。
 ありえんわな、こんな被害妄想丸出しの陳腐きわまる筋書き(笑)。
 ウルフ先生に失礼やぞ。


 そう、かつて俺は『ニンジャスレイヤー』第一巻が我が国に初紹介された際、歴然たるお笑いとして取り上げ、そこへついた「サイバーパンクのバックボーンうんぬん」というレスに対し、「おっしゃる通り、お見事たいした見識」と書き込み、そこで打ち止めにした。
 ここで宣言するが、あれは真っ赤な嘘である。そんなもんあるかボケ。一丁前な口利くんじゃねぇよ小僧。百年早いわ。どたわけが。
 もっともらしい、聞いた風な意見しか垂れへんクズども、お前らはもう本を読まんでよろしい。貴様らとは完全に決別することにした。つまらん一銭にもならんご託ならべよってからに。ドアホが。勝手に地獄の底まで落ちやがれ。具体的に落下せい。太陽フレアで全員皆殺しや。死ね死ね死ね死ね。くたばりやがれ。
 という、やたら威勢のいいスカスカの決意と共に、以下真の『書架の探偵』あらすじを記すことにする。金で頼まれたわけでもないのに、よくやるよ俺も。

【真のあらすじ】
 期日までに本を返さないと「図書館警察」がやってくる。なんで来るのか知らんが。まぁええやないか。そもそも「図書館警察」ってなんやねん。実態不明やん。まぁ、気にすんな。名前格好ええんやし。そう、アメリカの子ども達の間でまことしやかに伝えられるこの都市伝説は、不気味なポスター(叶姉妹共演、コミケ出店)と冷酷な司書(声・佐野史郎)と共に確かにこのジャンクションシティ市立図書館に棲み着いているのだ。あぁこわい。
 ある日図書館を訪れたサムは、やがて図書館警察に追われながらも自分の恐怖に立ち向かう。それは産まれたがすぐ惨殺された無念の水子の怨霊であった。
 って、恐怖が個人的すぎるしそもそも図書館と関係ないやん。

 う わ。
 筒井ヤスタカ並みの白々しさで申し上げるが、また違う本のあらすじを書いてしまった。あと筒井を中田某みたいに表記するのはやめろ。しかしこれまた読む気の失せるあらすじやなー。
 と、ここで気になった、よそ様の記事を引用です。 https://news.nifty.com/article/entame/showbizd/12151-13691/
 「小池栄子(36)をめぐって、8月9日発売の『週刊新潮』が旧所属事務所との深刻な金銭トラブルを報じている」というのだが、「イエローキャブ社が破産したころ、ネット上に小池のヌード疑惑画像が流出したことがあった。バスルームの床に全裸で寝そべり、乳首がピンコ勃ちしている画像や、左乳房をモロ出ししている画像など複数が流出し、一時ネット界が騒然」などという、信憑性疑わしいというか露骨に嘘やんそれ、レベルのどうでもいい情報を書き連ねた末、以下怒涛の結論となる。
 「金銭問題も一気に解決! 圧巻の爆乳“つるべ落とし”ヌードお披露目か!」
 注目ポイントは最後のビックリマークですな。期待しすぎ。本当ごっつ見たいんやろね、この人。小池の乳首。そこは伝わりました。

【本当のあらすじ】
 「バベルの図書館」と呼ばれる(主人公は「宇宙」と呼ぶ)その巨大な図書館は中央に巨大な換気孔をもつ六角形の閲覧室の積み重ねで成っている。閲覧室は上下に際限なく同じ部屋が続いており、閲覧室の構成は全て同じである。
 閲覧室の壁の内、4つの壁には5段の本棚がそれぞれに設置されており、各段に32冊ずつ本が収納されている。
 残りの壁はホールに通じており、そのホールを抜けると別の閲覧室の回廊に続いている。ホールには左右に扉があり、それぞれ立ったまま眠る寝室とトイレになっている。また螺旋階段が設置されており、それを使って上下の閲覧室に行くことができる。明かりはランプという名の果実がもたらしている。
 司書たちはそこに住み、そこで生涯を終える(死体は換気孔に投げ捨てられる)。

 この図書館の本には次のような特徴がある。
 全て同じ大きさの本であり、1冊410ページで構成される。さらにどの本も1ページに40行、1行に80文字という構成である。また本の大半は意味のない文字の羅列である。また、ほとんの本は題名が内容と一致しない。
 全ての本は22文字のアルファベット(小文字)と文字の区切り(空白)、コンマ、ピリオドの25文字しか使われていない。
 そして同じ本は2冊とない。
 
 ・・・はい。人の書いたものを出典を明確にせず適当に参照にしながら切り貼り編集していくのはホンマに楽ですなー。
 (みなさん、実のところこうして記事書いてはりますのん?)
 
いちいち『伝記集』、本の山から引っ張り出さなくて済みますもんな。そうか、バベルの図書館に同じ本は二冊とないんやなー、遺伝子配列みたいなもんかなー、とあらためて感心。いや、それどころか。ボルヘスはんは「ここに宇宙のすべてがある」、といいますか、「これぞ本でできた宇宙そのもの」なんやー、と壮大な結論に至るわけなんですが。
 はて、ホンマに面白いんかここの蔵書の本。小池栄子ヌード写真集は勿論、小池百合子写真集(京唄子の帽子付き)も絶対なさそうやけど、それで果たして宇宙のすべて網羅されるのやろか。マンガは?図説は?五味太郎の絵本は?
 あー、わかってま。ボルヘスは活字の人ですからな。宇宙は本で出来てて不都合ないんですわ。記憶の人がフネスなのと同じく確かなことですわ。
 で、ボルヘスからジーン・ウルフに話を繋げるっちゅーね(笑)コレあざといわ。確かにあざとい。

(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年7月29日 (土)

ロバート・E・ハワード『征服王コナン』 ('50、ハヤカワ文庫SF2)

 「日本でよかった」「乗客に日本人はいませんでした」と言うが、本当にそうなのか。
 この国は大陸と途絶された島国だ。われわれの中に無意識裡に、遥か海原を隔てる距離のギャップを、空想的かつ魅惑的なロマンに置換してことほぐ極めて卑しく面倒臭い心性が育っていないと誰が断言できるだろうか。
2k13757




【あらすじ】
 キンミヤ焼酎をぶら下げて東北からやって来た蛮人コナンは、都会の荒波に揉まれながら成長し、やがて歌舞伎町の帝王として近隣諸国に覇を唱えるに至る。
 これを面白く思わない葛飾区の王トラサンは、亀戸王の甥リョウサンと錦糸町の領主JRAと共に結託し、高野山より盗み出した空海のミイラを復活させ、一気に新宿区制圧を目論んだ。
 具体的には、かかるとチンコがくさる病気が流行する。
 感染源不明の恐るべき古代病は通称梅毒と呼ばれ、風俗街のどぶ板裏側付近を徘徊する最底辺売春婦たちを媒介として、幾多の都市を壊滅状態に追い込んでいく。これぞ現世に復活した空海上人が放つ恐るべき呪力だ。想像を絶するペニスの腐れ具合とそれが放つ強烈な臭い、呪術パワーのあまりの威力に戦慄する三悪人ども。
 そうして兵の士気が低下した歌舞伎町国境付近の峠を越えて、トラサン軍の精鋭部隊一千が突如奇襲。豪華シャンペンやフルーツをほしいままに掠奪。女とみれば強姦、男とみれば吊るし首。交番燃やしてワイワイガヤガヤやりたい放題。まさに悪のスターツアーズ。
 王国に垂れ込める怪しの気配を敏感に察した帝王コナンは、まァこれ、やくざ者の性(さが)っちゅうんですかなァー、自ら事態解決に打って出る。無数に唐草模様の天幕を並べたトラサン軍と神田川を間に挟み一触即発の睨み合い。いつ合戦の火蓋が切られるかヒヤヒヤ緊迫する状況下で、呑気にお気に入りのルーマニア・ビール(缶入り)をグビグビ飲んでいたコナンの天幕を暗黒の影が覆う。
 「おまえ、何者だァーーーッッ?!」
 「赤胴ッ、鈴之助だ!」
 そんなバカな。
 すかさずナンチャッテおじさんに酷似したポーズを繰り出す黒い影。
 「今お前の飲んだビールにな、カエルの小便を混ぜておいたぞ」
 「へ?」
 七転八倒苦しみだす歌舞伎町帝王、慌てて駆けつける家臣たちの目の前で、影はケロケロと不吉な嬌声を上げながら消え失せてしまった。「むむ・・・・・あれは一体・・・?!」
 その翌日。まだ消えない小便の毒にもがき苦しむ王を休ませるため、軍を率いて影武者というかそっくりさんが出陣。こいつがあっさり敵の妙計(具体的には落とし穴)に引っかかり、五千を越える歌舞伎町軍がなんと全滅。新宿区全域は葛飾区の支配するところとなってしまった。
 生け捕りにされたコナンは亀戸王の甥リョウサンの砦に運ばれ、やいのやいのと責められるが、宮廷に勤める一流風俗嬢の手引きで見事脱獄。体調が万全でないとボヤキながらも見張りの大猿を素手で引き裂いて殺し(!)、憎っくきリョウサンの顔にべったり墨を塗る(バトミントン真剣勝負の罰ゲームとして)。その後砦を脱出し、駅前の薬局へ。
 購入した毒掃丸の効力でようやく生気を取り戻した帝王コナン、怒りと屈辱にぷるぷる震えながら政権奪還をミトラに誓うが、それよりなにより現在の状況では己が生命すら危うい。比較的足の速いタクを駆り、旧王党派が熱心な抵抗を続ける荻窪方面へ逃亡。途中練馬の農園主を助けて大根を貰ったり、おばちゃんと下町情緒について語り合ったり、庶民派の一面を見せつけながら、さらに西へ。やがて三鷹から国分寺一帯の領主を務めるかつての家臣ボレボレと再会。
 「これは目出度い」「よくぞご無事で」
 国王生還を祝し居酒屋一休において豪華な酒宴が催されるも、なお浮かぬ顔の元国王のところに、すり寄ってこっそり耳打ちする者が。
 「王よ、裏口に使者が参っております」
 「なにやつじゃ?」
 「それがその、誠に申し上げにくいのですが、前王が国家に仇を成す邪教と認定され、全国的に弾圧されまくった唯一無二神バカモン教の最高司祭・トルケマーダとか申す者で」
 「そりゃ怪しいな。斬れ」
 命令を受けたボレボレの配下が出ていくと、居酒屋お勝手口でチャキンチャキンと剣戟の響きがしばらく続いていたが、やがて髪を茫々にふり乱した黒衣の男が入ってきた。
 「ふーーーー・・・あんた、なにしてくれますのん。あやうく死ぬとこやったんやで」
 国王は興味なさげに、血糊のベットリついた剣を仕舞う闖入者を眺め、
 「フン。多少は使うようだな。・・・して、おぬし何用じゃ?」
 「われわれは寺院を築くことも大っぴらに信仰することも禁ぜられ、今は帝国の闇に住まう者。しかし、火のないところを燻し狩り立て、見つけるなり獄門磔をかましていた前王に比べれば、王よ、あなたはまだしもわれわれに寛大だった」
 「ふむ、おぬしらの教義はよく知らんが、衣装が黒なのがカッコいいぜ」
 「???」
 無意味すぎる回答に侵入者はしばし絶句したが、気を取り直し、
 「と、ともかく、その恩義に報いるため、王国を襲う真の敵の正体をお教えしようと思い参上したのだ。われわれの調査網は完璧だからな!帝国一だ。TDB以上だよ!」
 「それ帝国じゃん!」
 
「やかましい・・・・・・!!よいか、よく聞け!!
 おぬしの命を絶たんと奸計を廻らしている男の名は、実は空海!」
 「・・・・・・。」
 
完璧知らなかったらしい。

【解説】
 
裏切りや陰謀、想像以上にしぶとく人外に遭遇する危難に遭っても絶対死なぬ主人公。すぐ脱ぐヒロインと、邪悪すぎて笑ってしまうレベルの悪漢。極端な者しか出てこない物語がだらだら、だらだら続いていく感覚は、もはや爽快さとは無縁の快感。
 この本、中学以来の再読だが意外と面白かった。ベタなマンガよろしく王道な要素がてんこ盛り。その後の小説や数々のゲームに置いて転用・援用・濫用が繰り返され、すっかり有名になってしまった“剣と魔法”ジャンルの基本ガジェットは既にここ出揃っている。アーリマンだの、クシュだの、ケチャだの、実在する神話や神々の名前を無断で登用して勝手に使いまくる手法も、既にあなたにはお馴染みだろう。
 それに対するエクスキューズが、

 「こちらの方が時代は古いんだから(なんせ、ホラ幻想の超古代)、現実に流通している名前の方が後出しでパクリなのだ。
 ドン臭野郎め、わかったか!!!」


 と盗人たけだけしいところも、また実に中二病っぽい。
 予想外に緻密に組み立てられた古代世界ハイパーボリアは、なんか世界観光地図を適当にパッチワークして誤解と妄想で膨らましたキナくさい代物であるが、ヘビがサービス精神旺盛なまでにクソでかい、とか特筆すべきポイントはある。そいつらが街中を勝手にうろつき、運の悪い通行人を晩飯代わりにパクッと丸呑みにしてしまうとか、そういう行き当たりばったりな社会構造のいい加減さ、デタラメさ加減はなんかいいよね。あるか、そんなバカな都市。
 ヒロイックファンタジーというのは相当キテる、精神的にいびつでヘンなジャンルの代表格なのであるからして、くだらないものは絶対にくだらない、という断固たる批判精神を持って、各場面必ず突っ込みながら楽しむべきだと思う。
 ある意味劇薬。ハワードみたく母親の死に絶望してリムジン内で猟銃自殺したりしないよう、くれぐれも根を詰めすぎないように各自注意されたし。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年5月25日 (木)

小松左京『果てしなき流れの果に』 (’65、早川書房ハヤカワ文庫JA1)

 『・・・目覚めよ宇宙飛行士D・・・!
 宇宙飛行士D・・・・・・!!』


 
突然スピーカーのボリューム最大値で飛び込んできた緊急通信に、寝棚に転がる男は大義そうに頭をもたげた。
 「んーーーー、なんやねんな、キミ。うるさいなー、たいがいにしなさい」

  空電音。多少の躊躇があって、
 『こちらヒューストン。非番の時に申し訳ないが緊急事態だ、宇宙飛行士D。実はな、太陽系にまた新たな危機が迫っているぞ!』
 「・・・・・・これまで、お前の伝えてきた事態が緊急だったためしなぞ一度もないわ、ドアホが・・・!」
 モゾモゾ寝床に潜り込む音。
 「宇宙も危険も、もう全部卒業。ボクはもう、そんなアホな世界とは金輪際オサラバしたいんや!放っといてちょ!」

 『どうか堪忍してやってつかぁさい!』
 影響を受けやすいヒューストン管制センター、悪乗りしておかしな訛りになり始めた。
 『随分前に始めたこの連載「宇宙飛行士D」シリーズ、ピルクスまでは届かなくともせめてランスロット・ビッグスぐらいは目指そうと、志高く意気軒昂、『2001年』ミーツ・キャプテン・ケネディ、そんな維新の志高い薫風香る名作群をここまで放置し野晒し荒れ放題、苔のむすまで生えるまで、千年紀の長きに渡り留守にしてもうたンは、まったくもって、マルっと、オール・オア・ナッシング、もといオール・スルー・ザ・ナイト、ザッツ・オール、ワテの責任だす。ホンマにすんません。すんません。すんません。関西きっての豪商たるおまはんでありながら、勝手に某ロートル歌手の応援団長買って出て、なにトチを狂ったこの人生。共に歩むと決めたのに、最後まで、終いまで歩み切れなんだのは、ワテが、ワテが、ワテが、全てあけまへんのんやーーーーーーー!!!(号泣)』
 
 「なにを言っているのか、全然わかりません」
 不穏当な発言に敏感な宇宙飛行士Dは、恐ろしい程クールに言い放った。「話が全然、目蒲線・・・・・・!」
 語尾が殺意を孕んでいた。

 鉄道越しにやばい気配を感じ取ったヒューストン、
 『・・・しかし、アレですね、話は飛びますが、最近ツレが電子タバコを購入しましてねー』
 「ふん、ふんふん」
 『アイコスとかじゃなくて、ニコチンレスのリキッドタイプ。あの、簡単に言いますとベープマットみたいな感じのやつですわ』
 「その喩えもどうかと思うが。ま、作動原理はたぶん同じだよね」
 『これがなかなか優れものでしてね。USBで充電しちゃうわ、長押しで爆煙を噴き上げるわ、近所のバァさん平気で犯すわ』
 (非常にウケて)
 「ゲフフ、ババァーは犯さねぇだろーがよ、ババァーは、さ!!!」
 『と思ってすっかり油断してましたら、先日うちのカミさんとベッドに入ってました』
 「ギャッフン。って、今回は落語オマージュか。小朝か」
 『ま、電子は寝タバコ可。とことん便利ってことで。しかし、話がちっとも前に進みませんな。これじゃ真剣に情報を知りたい、真面目な小松左京ファンの殺意をますます買うばかりではないか。Oh、なんたることだ』
 「お前は、そらぞらしいんだよ。小松のこと、嫌いなんだろ?」
 『・・・ええ。『さよならジュピター』以来です』

【あらすじ】
 「昔のことは水に流そうぜ!」が通用しない、極めて不便な世界。
 時間と空間はペラ一枚の平面図のように、アジの開きのように伸ばされ、その構造を理解し利用できる者たちによって勝手に管理されるようになっていた。その具体的方法は40世紀ごろに確立されたらしいのだが、細かい説明は実はない。全然ない。まぁ、ポール。アンダーソンの時の歩廊的なもんだろう、未来の超技術をいちいち説明できるもんか、するもんか、それより思考実験だ、という読者に対する甘えが感じられる。
 (その無駄な説明をあえて蜿蜒とやるのが、SFってもんの本質じゃないのか?)
 ということで、本来なら長大かつ膨大過ぎる内容で、誰も読めない、作者も書けない筈の内容を「ダイジェストでお届けしています!」
 
 「んーーー・・・・・・」
 長い沈黙の後で、Mebius 1mgメンソールの煙を吐き出して宇宙飛行士Dは溜め息をついた。
 「ま、この、別段深い話でもないのよ、って感じだよなー」
 『ストーリー詳細は、よそのブログに細かく記述してる人がいるから参照してください。アタマのつかみで最高潮まで盛り上げて置いて、あとはトントンっていう印象に終始します』
 「超進化を遂げた遠未来の知性による非人間的歴史操作計画ってのがストーリーのバックボーンにある訳でしょ。だったら、もっと人間離れした非情さを見せつけないと。ここで出てくるバイオレンス要素は、21世紀の避難民を原始時代に置き去りにした程度」
 『ともかく、いろんな時間線を追っかけこする必要がまったくないよねー』
 「第二次世界大戦パートいらねー。1963年アメリカとか酷すぎ。特に後半部、どのエピソードも枝葉の膨らませ方が中途半端すぎだろ!」
 『あれは確か堀晃だったかな、角川文庫版「ゴルディアスの結び目」解説で、小松さんはとにかくいっぱい引出しを持ってる。“破滅”って言うと、“あいよー!”っつって投げ返してくる。“セックス”っつっても“あいよー!”って(笑)
 でも、俺の断固たる見解として、引出しの数はともかくとして、恋愛描写、性描写の一本調子さは笑えない。ちょっと真剣に耐えがたいレベルなんですよ。全部、「ジュピター」の無重力セックス場面と同じ(笑)陳腐極まる』
 「浅いね確かに。ここはやっぱシルバーヴァーグで(笑)」
 『ヒューストンよりD。浅すぎだろ!!
    そういや、シルバーヴァーグ「時間線をのぼろう」のSFM版、伊藤典夫訳が出てましたね。「破壊された男」といい、典夫遺産は最近続々と発掘されてますね。
 ・・・ハテ「時間線」って、一体どんな話でしたっけ?』
 「先祖をコマして、おのれの存在を消される話。藤子Fの大人向け短編か、いや『T・Pぼん』だな。『ぼん』の一エピソードです」
 『ヒューストン了解。まとめっぽくなるけど、壮大な時間や空間を廻る話って、規模が大きければ大きいほど具体性が薄れていくんだよ。想像力に乏しい俺なんかは、すぐに付いていけなくなる。バカでもわかる明確な図式の提出と、個々のエピソードにちゃんとしたオチがつかないと。
 そういう意味では、野々村のエピソードの回収のしかたって、かなりFっぽいよ。Fに強力な影響を与えたんだと思うな、きっと』
 「Dよりヒューストン。ヒョンヒョロ~ってか?」
 『それは違うだろーが、それは!!!』
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年3月26日 (日)

大童澄瞳『映像研には手を出すな!』('17、小学館月刊スピリッツ掲載)

 気になるマンガをどうやって探す・・・?
 そもそもいい歳こいて、なんでマンガなんか気になるの・・・?

 人はさまざまな葛藤を抱えて生きている。衣食住が足りればそれで万事解決しそうなもんだが、そうもいかない。「人を殺してみたくて」わざわざ人を殺すやつも出てくるし、親戚の年寄り連中を虐殺した理由が「精神工学戦争」の結果だ、と言い張る42歳だっている。
 最近忙しいんだか暇なんだかわからない私の目下の悩みは、「あぁ、気持ちいい絵を読みたい!」である。言葉にしてみると本当バカみたい。でもしょうがない。

 本気で狂ってる諸君にはお恥ずかしくて到底及ばないが、これはこれでやっかいな精神状態だ。こういう場合、私は隙あらば落書き率が異常に高くなる。「気持ちいい絵を読みたい!」が嵩じて「気持ちいい絵を描きたい!」状態ね。日常に置き換えますと、顧客の電話を取りながら落書き。業者と電話しながら落書き。つまらん会議の合間に落書き。いい大人のくせに。もっと真面目にやれ。給料泥棒金返せ。さすがに誰かと面と向かってだと無理があるので、客先では勿論できないが、幸い私の職業は基本インドアの事務処理なのである。営業要素がある事務処理。気づいた周りの皆さんは、人間のできた方ばかりなので、「あぁ、あの人はあぁいう困った人なのよ。ありえないよね。っていうか、積極的に死ね」と温かく無視してくださる。これはこれで実に恥ずかしい事態なわけです。
 この病が発症したのは、たぶん小学生ぐらいだと思われるから、ずいぶん長い病歴だ。「全然“目下の悩み”じゃないじゃん!」という突っ込みがいま聞こえた気がするが(幻聴)、マジ治んないんすよ、この病気。誰かなんとかしてくださいよ。
 あぁーーーー、気持ちいい絵が見たい。で、検索を繰り返す。またなんか見つける。ブログアップ、って感じなんですよ。
 
 「僕は宮崎駿と吉田健一の影響が強くて」
 と、今回取り上げるこの本の著者はおっしゃる。アレ、吉田健一といえば元イカ天審査員じゃなくて文学者の方じゃなかったですっけ、と思いましてサーチしてみますと、こんな画像が。
 Yoshida_3
 
 そうそう、『交響詩篇ユリイカセブン』のアニメーターの方ですね。(私、ユリイカがどんな話か全然ご存知なかったんで、これまたサーチしましたら、スケボーに乗ったロボが大気圏外から滑走してくる画像が出ました。『木曜の男』の翻訳でおなじみの吉田健一先生もいろいろ手掛けてるってことですねー。)
 既にして話が逸れまくっている感濃厚ですので、話を本筋に戻しまして、まず褒めますが、この本、絵が気持ちいいです。細部に到るまでちゃんと考え抜かれていて、パースもきれい。手作りのよさですね。
 この絵を見まして単行本購入を即決したので、別に不満はないっちゃーないんですけれども、話の中味にはいろいろ思うところありまして。まず、あらすじを書きましょうか。誰も私に正確な内容紹介を求めてないと思うんだけど(笑)。ま、いいよね。

【あらすじ】
 (ある種の)アニメが好きだ!(ある種の)アニメのためなら死んでもいい!
 青少年を襲う原因不明の不可解な熱病・若さに憑りつかれ、高校へ進学した主人公・浅草は、同好の士・水崎と出会い、金勘定にたけた友人・金森を巻き込んでアニメ制作に邁進するのであった。既存勢力アニメ研との棲み分け問題を、映像研という曖昧なアチチュードで躱しながら、部を立ち上げ、学校側と交渉し廃屋のような部室も手に入れ、ついでにタップ台もゲットする。そして活動予算獲得のために生徒会へのプレゼン会参加。止め、連続コマ送り、一時停止、フラッシュ効果など作画コマ不足をごまかしごまかし、苦心惨憺で作り上げた作品は以下のような内容であった。

【さらなるあらすじ】
 いつの時代だかよくわからん超未来。たぶん西暦5000年くらいか、超未来都市の廃墟は苔むして緑に覆われ、宮崎駿と地球に優しい感じになっている。最後の巨大産業社会が崩壊してから約1000年が経過、それでも懲りずに人間どもは愚かな利権争いに明け暮れ、大国列強は侵略の覇を唱え辺境の小国・ナンダルシアに侵攻しつつあった。目的としては主に昆虫採集である。彼の地にしか棲息しない幻の蚊トンボは痔によく効くのだ。世界列強の傀儡君主どもは揃いも揃って全員大痔主なのであった。 
 ナンダルシアの王女で、セーラー服にガスマスクの労働運動闘士でもあるペントラ・ポポネスカは、本日もまたまた領空に無謀な侵犯をかけてきた敵国の空中戦闘艦に単身潜入し、テロ的ゲバルト行為に成功、撃ち落とす。しかし、その船は実は難民船で、国を追われた可哀相なダユタラ族の子供やら年寄りやら含む大人数を載せていたのだった。
 (わたしが・・・・・殺したんだ・・・・・・)
 いきなり大量殺人の罪に問われることになった16歳の王女。戦場に響き渡る悲痛なテレパシー。(肩透かしだけどヌケル)(これはれっきとしたオカズビデオです)(清楚な感じの女性で申し訳ないですが、水色水着と黒のアダルティーな下着で暴発してしまいそうになりました)(?)(申し訳ないですが、本能的に硬直化しそれをしごかずにいられませんでした)(・・・!!)(私は巷に流通してるAVというものを自分磨きの際に用いないのですが)(さりげなくその場面まで見てたもののここでいきり立ってしまっていたものをしごくはめに。ほんと久々だったのでかなり気持ちよく出させてくれちゃいました)
 「ナニシテ、けつかるねん!」
 
突然どつく(剣と笑いの道の)師匠ゲーハー。「すっかり違う種類の映像研になっとるやないか!ドアホ」
 「さすが師匠、的確なツッコミ。でも、なぜここに?」
 怒りと苦痛が充満した戦場のボーイズラブは真っ赤に染まり、より具体的には墜落した機体やら、飛び出した少年従者やら、ヤックに子羊に、占いババ様の遺体やらがガンガン燃えている。
 「ウ~~~ン・・・heart もう、そんなの、どうでもいいでしょーーー?!」
 なぜか師匠はおネエ言葉でマジ切れだった。「勝手に進め、愛しき風よ」
 パッパカお馬に乗って去って行ってしまった。
 恐ろしい戦争の惨状を目の当たりにしたペントラ・ポポラスカは、しごく手伝い、もとい憎むべき無益な争いに終止符をうつべく、自慢の包丁を振り上げて戦車を一閃まっぷたつ。見事捌いて名を上げた。われわれ城ジイとしては、
 (なんかオカシイぞい、根本的に)
 (くさい、まったく胡散臭いゾ!こたびの戦さ)
 (てか、巨神兵の復活はまだか・・・?!)
 (それにつけても腹減った~)

 とか思いながら、とりあえず「姫君バンザイ」と絶賛の辞を送るしかなかった。気が向きゃ、そのうちやらしてくれるかも知れないし。そう想って死んでいった城代家老の数はもはや数千に及び、城の地下はボロボロになった死骸が死屍累々・・・・・・。
                              (完)
 
 「え・・・コレって、ただのアニパロじゃね・・・?!」
「(完)って、まだ完結もしてねぇし!」
「そもそも、姫君がやらしてくれるのか否か。そこが重要な問題です(深刻系)」

 怒り心頭、こぞって席を立たんとする審査の生徒会諸君!たち。そんな中に賢いやつが一名は混じっているもんで、そいつが場を仕切って御大層な口をきくのであった。
 「待ちたまえ、生徒会の朋友(はらから)どもよ。両耳かっぽじって、よく聞きやがれ。そもそも、アニメの本質とはアニパロなり!」
 「うわ、無茶いいやがる」
 「きみの知ってるアニメ、ボクの愛するアニメ、そもアニメに種類は沢山あれど、その本質はひとつでしょ?セルに描かれるひらひらが、ガバッときて、バカンと爆発。飛び散る閃光、爆風に逆巻く美少女の緑色の髪の毛。要は、どれもこれも小賢しくてアニメ臭い。アニメ臭がする」
 「おお、アニメ臭・・・・・!」一同は感嘆の声を上げる。
 「拡大再生産を繰り返す、(ある種の)アニメの本質とは、よりアニメなアニメ、自己模倣、飽くなき異形化を進化と偽る無限の自己肯定運動に過ぎぬのよ。これ、すなわちアニパロなり!」
 識者のあまりの独断専横ぶりに、全員言葉もない。
 「光子力も原子力も皆同じ。現実に使えぬ力を使って空を飛ぶ。そんなのがドラえもんの与えるアジアの子供への勇気であるとしたら、存在のあまりの貧しさに、拙者めまいクラクラでごじゃるよ~」
 「ごじゃるよ!」はずみで誰か唱和してしまった。
 「そりゃかつてアニメには、早稲田に現役で受かるような壮大な夢があったかもしれないよ。アニメの可能性が真剣に議論の対象になった時代もあったんだよ。でも、もういいよ。ここに描かれるような世界観を“最強の世界”と呼称する勇気は、もう俺にはねぇよ」
 老人が進み出てた。
 「王よ、それはすなわち、かつてあなたはアニメの力を信じておられたということかな?」
 「この現実を変革するパワーとして」
 王は語った。「アニメは存在する。でも、それが新たな創造を生むのではなくて、かつて存在していた感動の再生産に過ぎないとしたら、そんなのは最早ご新規開拓でもなんでもないんだよ。われわれは、そんな茶番に永久に付き合う義理なんてねぇんだよ!」
 「御意。・・・抹殺」
 閃光が走り、大地が炸裂。浮上したツェッペリン型飛行船(実は地球先住民族の残した古代兵器)は軌道上から急速落下する月に押し潰され、粉々に砕け散ってしまった。
 
【追補篇】
 このマンガでの錯綜する物語は常に二重構造をとっており、例えば主人公達の造形は外面女子高生でも、内面としては(最近は比較的小奇麗に化けた)ヤングオタクどもであったりはする。つまり、筋だけ追えばサッパリ面白くも可愛くもないってことだ。
 そうした実体のすり替えが日常風景や学校など建築や室内の造形にいたるまで徹底して及んでしまっているので(なぜか校舎裏に風車がある!)、既に現実は非現実側に向かって半歩以上踏み出しきっており、本来飛翔すべき対象となる空想世界が、現実を凌駕するイマジネーションの凄さという作者の狙った構図の本来持つパワーを逆に減じてしまった、という皮肉があるように思う。
 その過剰さに乗っかれるか否か。好意的な読者であり続けるべきかどうか、読み手は問われることになる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年3月18日 (土)

ニーヴン&パーネル『悪魔のハンマー(上)(下)』 ('77、ハヤカワ文庫SF392・393)

 あッ、あッ、あ・く・まのハンマァァァーーーーーー!!!
 世界の終りの物語には、ある種の快楽がある。既成秩序が台無しになるのを横目で眺める面白さ、とにかく人がいっぱい死ぬ爽快感、無駄にスケールでかいスペクタクルと浮き彫りになる人間の矮小さ。
 世にパニック映画ブームが起こり、おもに白人が絶叫を上げながら大量死する映画がスクリーンを席巻していた70年代末、既に生まれついての億万長者(親父は油田王だか何かで、かつ生まれも育ちもビヴァリーヒルズっ子)、別に小説なんか書かなくても生きていかれそうなもんなのにそうもいかない不憫かつひょうきんなヒゲ男ラリー・ニーヴンと、生真面目すぎてまったく面白いことを言えない堅物すぎる、そのマブ友達ジェリー・パーネル氏の二名が寄ってたかって共作をブチかまし世間をブイブイいわして最も脂がのった第三作目。ここに世界でもっとも不謹慎かつ無責任なパニック大作ノベルが登場した!
 文学的な深みなんか、なんだってんだ!小説は面白ければ面白いほどいいんだ!そうに決まってる!
 この低能すぎるマニュフェストに、キングもクーンツもくんずほぐれつ大賛成。これは、だからキング牧師の偉業(奴隷解放)に先立つ無内容な上下巻、超大作ノベルブームの嚆矢となった記念碑的作品なのである。
 そう、無意味で分厚い上下巻ブームはここから始まった。

【あらすじ】
 彗星が地球に激突する!H・G・ウェルズの時代からしつこく警鐘を鳴らされてきた事態が、またも地球に襲い掛かる!ホントもういいよ!カンニンどすぇーーー!
 「発生確率、数億分の一」と巻頭で報道されていたありえない天空よりの危機であったが、たちまち数万分の一、数千分の一と縮んでいき、150ページ越える頃にはもはや既定事実になっていた。話が早くてイイネ!地球滅亡はたちまち大決定。誰もがそこまでされても、まだ科学者の発表をまだ信じて疑わないところがまたイイ。俺なら八つ裂きにしてやりますけどね、そんな無責任な連中。
 で、主人公は、ま、たくさん居すぎて本当どれが主役だかわからないんだが、とりあえず作者の一名をモデルにしたとおぼしき億万長者のアマチュア天文家は、地球滅亡より先に「なんで俺はこんなにモテないんだろう?」と悩んでいた。
 そこへ彗星到来。
 ロサンジェルスは洪水に呑まれて壊滅したが、リムジンで山へ逃げ込んだ先で、秘かに惚れてた向かいの自動車保険代理店の受付の女とカーセックス。
 「たった一晩で数万人が死んだが、やっぱりカーセックスはいいなぁーーー!!!」
 生きてる意味を取り戻した、元億万長者で現在現役の一文無しは、この女と結婚する意志を固め、合衆国上院議員の経営する秘密農場へ。この農場では、タネモミを植えるついでに広く、愚昧な大衆のクズどもに種付けの指導を行ってくださっているのだ。
 上級指導員の議員センセの娘(筋金入りのビッチ)は、近所の農家の長男(鉄壁のホワイトトラッシュ)と初体験後、さまざまな男遍歴(アラブ・ヨーロッパ含む)を重ね、ただいまのところ、やさ男のTVディレクター(妻を惨殺されたバツイチ)と絶賛交際中(交流場所は主に屋外のテント)。しかしそこへ、宇宙から元カレがロシア人連れてカプセルで降りてきて大騒ぎ。
 一方彗星落下による巨大地震、大津波に襲われて死の世界と化した地上では、元軍隊の人喰い集団が徘徊していた。災害後の世界ではとにかく食べるものがないのだ。ツナ缶一個で王様だ!この極悪非道な、親の頭の皮を剥がして乾かし酒のつまみにするような最低すぎる奴らが、ラジオの発狂キリスト教系宣教師と手を組んだ!どうしてそうなるのかサッパリわからないが、これも一種の現代アメリカの病んだ縮図。水野晴郎先生ならキッパリそう断言されるはず。
 そして、このヘンテコ集団同士の全面激突は、地球に最後に残された原子力発電所の再稼働問題をめぐって行われるという・・・・・・。
 このへんに、この本が東日本大震災以降まったく人目に触れなくなった原因があるのだろうと思う。ページは分厚く、中味は薄いが、そこそこ面白いんだけどね・・・・・・。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月26日 (日)

高遠るい『みかるんX①』 ('08、秋田書店チャンピオンREDコミックス)

 ここはすべてが都合のいい世界。
  読者にとって真に都合のいいことに、登場するなり主人公のミニスカは捲れあがりそうだ。いたずらな春風が街路を吹き抜けて、長くスラリとした太腿がローアングルからまる見えになる。
 ウ~ン、いゃ~~~ん。
 彼女は小柄でシャイでスレンダーなロリ系ギャル。髪の毛、黒。(詳しくは後述するが、この世界において髪の毛の色はキャラクターの属性を示す重要なファクターである。)
 地方出身者の彼女が新たに通うことになった高校は、新入学の時期であり、つまりは彼女は新入生であり転入生でもあるという、実に甘酸っぱすぎる設定である。
 はァ、はァ、はァ・・・・・・ツバごっくん。
 そして、その舞台設定たるや「うら若き乙女ばかりが無駄にウヨウヨいる恐怖女子高」であって、しかも「完全寄宿舎制からなる神聖な女の花園」でもあるという厳正なる事実は、これはもう、神が定めたもうた絶対意志とでもいうべき、崇高な運命の成り行きであって、さらに、その場所で宿命的な衝撃の出会いをする相棒役の少女が、巨乳でイケイケな行動派ギャル、髪の毛・赤であることは、物語の登場人物が残らずある種類の卑俗な期待値に添ったロールにより厳密に分類され配置される、古代ギリシャより伝来しさんざん使い古された、全国民的美少女コンテストが如き超広域コンセンサスに基づく二律背反黄金律によりまして自動的に算出、決定されていると断言してしまっても、全然まったく徹頭徹尾、問題のある表現ではありますまいよ。
 つまりは、閉鎖世界だ。これがよくある設定であることを作者は知り抜いており、ゆえに私たちもよく熟知している。並行宇宙のように無数に存在する男子禁制の女学園は、往々にして歪んだレズビアニズムのよき温床であって、素敵なお兄様に憧れる無垢な妹キャラの発生母体である。

 かくて、われわれがあっけにとられてシーンの繋がりを、断片的に切り出される情報の連鎖を眺めて観ていくうちに、地球は宇宙からの侵略というわかりやすい脅威にさらされ、少女たちは秘められた能力を発動し、敵を打ち破る。

 これって、なに・・・・・・?

 「あぁ、それって、アニメだよね~」
 そう物分かりのいい方はおっしゃるだろう。確かに、われわれはこういうものを長年観てきた。見せられ続けたといってもいい。あまりに氾濫しすぎて、もうすっかり慣れっこになってしまった。だが、よく見りゃこれって異常の連鎖じゃないのか。あんたら、全員おかしいよ。
 アニメ、もしくはアニメ的なものとは、現代日本に生きる私たちに深く刺さった病根である。
 私はあえて、今更ながらにこれを分析し、ささやかながら治療を試みんと、フト日曜の朝起き抜けの寝惚け眼で思い立つや否やこの面倒な文章を書き始めた。
 こんなことして何が面白いのか。それはもう忘れた。

 わが師匠フロイト・デロイト・ロス・とど松の、精密かつ高度かつ大雑把な分析によると、アニメ的なるものとはふたつのフェイズから成り立っている。
 外的要因と内的要因だ。エイ、わかりにくい。
 
 1)ビジュアルに関連するもの
 2)プロット、ストーリーに関連するもの

 これでどうだろうか。ちなみに「世界観」ってのは2)ね。
 キャラクターってのは1)と2)の混合によって生み出されるもの。「外面が内面を規定する」、もしくは「内面は外面に影響を与える」。これって本物の精神分析の教科書にも載ってましたね確か。意外と学あるね、俺ね。とっても楳図かずお的だよね、ホラ、『うろこの顔』だよ。
 でね、アニメなるものが不愉快である歴然とした理由というのがあって、それがとっても誰かに都合がいいように出来てるからなの。その都合の良さが単なるビジュアルの趣味に留まらず、物語の構造、キャラクターの内面を侵食するとき、限界を越えた人は不快を叫ぶ。が、安直でわかりやすい快楽構造は、それでも観客の内面に忘れがたい傷を残す。
 でも、そんな世界は、本当はどこにもないんだよ。
 もう、ホント、それだけ。

 この関係性を考えるとき、すぐ思い浮かぶのが、例えば押井守『うる星やつら2・ビューティフルドリーマー』なんだけどさ。あれは意図的にやってみせた構造の抽出劇だったんでしょうけど。かなり歪んだ作劇になっちゃってるし、説明不足も甚だしい。
 ネタ元はディック『宇宙の眼』で、ブラウンの『発狂した宇宙』で、根本はホラーなんだ。そして誰もいなくなる系の。だんだん登場人物が消滅していって、最後に主人公がポツンと虚空に放り出される。そして、昏睡状態のガールフレンド。彼女は夢を見続ける。美しい夢を。
 この世界が誰かの夢、妄想だったとして、果たしてその内部に囚われた人間は幸福なのか。
 これね、このテーゼ、本当いいとこ突いてるんだけど、押井はホラ、アニメの側の人だからさ、最終的にその世界を肯定しちゃうわけ。あの世界全体。なんだかんだいっても、結局好きなんですよ、あの人。だからいまだに作り続けてるんでしょうけど。
 俺はイヤだね。やっぱり。 

 ね?
 こんな風に、この文章を早めに打ち切るなんて準備不足、説明不足もいいとこだけど、細かい話はまた今度。さっさと寝ないと明日は、明日の仕事が待ってるしさ。

 もうすぐ三月だなー。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月12日 (日)

クレイトン・ロースン「世に不可能事なし」 ('58、『密室殺人傑作選』ハヤカワミステり1161)

(昼食時間の会話)

 「レーコさん、レーコさん」
 「はいはい」
 「先日土曜ワイド劇場がなくなるって報道があったの、知ってますか?」
 「えーーーーー!なんでーーー?」
 「テレビのサスペンス枠が大好きなレーコさんにはショックですよね。
 テレ朝の編成が四月からの改編として発表したんですが、土曜枠をなくして日曜の午前中に持って来るんですって。その名も日曜ワイド」
 「ダサ~~~~~~」
 「ね?日曜ワイドってどう見ても東芝だろ!この枠では過去の名作の再放送や人気シリーズの新作をお届け、ってことになってるそうですが」
 「悲しい。生きてる意味が希薄になりそう」
 「いや、それはないと思いますが。体裁のいい予算減らしなんでしょうね。しかし、もう40年続いてたんですってよ、この枠」
 「そうでしょうね。あたし、そういや気がつくと、ずーーーっとずーーーっと観てたし」
 「若くして結婚され、倦怠期を幾度も繰り返し、流浪の果てに無関心へと辿り着いた現在のレーコさんにしてみりゃ長い、長いお友達ですよね。山村紅葉。このあと、どうすんだろ?」
 「(笑)」
 「そもそも、殺人・強姦・窃盗・詐欺といった我が国の社会派ミステリー一派は、おやじの娯楽としてスタートした筈なんですよ。だから、ハダカもあれば乱歩もあった。天地茂の眉間の皺もあったワケです」
 「ふーん・・・・・・」
 「70年代の松本清張や水上勉、森村誠一などの社会派大作映画化ブームに、新興角川映画の横溝ミステリーがガップリ四つに、クラーーーッシュ!そこへ『鬼畜』やら『復讐するのは我にあり』やら、もっぱら緒方拳独走態勢による実録路線(『仁義なき戦い』ビハインド)が雪崩れ込み、ライトな80年代テイストがハートカクテルに合流するという。
 端的に言って、ネタの供給過剰が発生!」 
 「たしかに、昔の方がワケわかんなかったかも知れない」
 「そういう無茶苦茶な混沌が整理されていくのが、80年代後半から90年代にかけて。気がつくと、バブルは崩壊していて、ワイド劇場は女性向けのソフトな枠になってました~~~」
 「そうか、あたしはその頃から観てるのかなー・・・(遠い目)」
 「その後の主流はキャラクター系とかですね。「赤い霊柩車」とか「法医学教室」とか。あと高橋秀樹の十津川警部とか。サラリーマン出張のお供の京太郎がまさか女子人気を獲得するとは。でも最近の窓際太郎とか確かに面白いですけど。あれ、一種の超人モノなんだよね(笑)」
 「お約束がいいのよ、なんかベタベタで」
 「そうすると、ヘンなもの、珍奇なものが出にくくなる。こっちは怪奇とエロスが専門ですから。たとえば、ヘンテコ具合で言うとクレイトン・ロースンなんかは・・・・・・」
 「なにそれ?」
 「昔ハヤカワから出た、密室トリックばっかり集めた『密室殺人傑作選』ってのがあって、チョイスもなかなか乙で、通好みも初心者にも楽しめる一冊。何回読んでも面白いブラウン神父の「犬のお告げ」とか、何回読んでもどこが面白いのかわからないアブナー伯父の「ドゥームドゥーフの謎」とか古典的なものから、“フレデリック・ブラウンだろ、これ!つーか、星新一かよ”なショートショート「時の網」、うっかり“いいね!”ボタンをクリックしてしまいそうなバカ系パロディー「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」などなど、中味の濃い内容になってます。おすすめ。お買い得。
 基本、密室での殺人ってバカっぽいでしょ?
 だからいいんだよ。で、このお話は・・・・・・」

【あらすじ】
 魔術師にして探偵という、胡散臭さ満点のジイさんが密室殺人の謎に挑む!被害者は変わり者の大富豪、第一容疑者は火星人。空飛ぶ円盤で飛来して、こめかみに銃口を押し付けて一発ぶっ放すと、四次元の断面を使って煙のように密室から消え失せたという。かつて、これほど胡散臭い話があっただろうか?!胡散臭さのチャンピオンシップだ!
 例によってさっぱり役に立たない警察が手を焼いているのを尻目に、現れた手品のおじさんは極めて常識的な指摘を行った。

 「いや、無関係な犯人が旅費を使って他の星からわざわざ来んでしょう。動機とかまったくないし。だいたい、使い方も知らんのに銃なんか撃てる訳がない。
 いちばん怪しいのは、なんといっても、なんでかこの密室の中で全裸で気絶して倒れていた秘書なんでは?」
 
 驚愕する一同。で、よく調べてみると本当に犯人はこいつだったのです。
 (完)

 「ふーーーーーーん・・・・・・」
 「どうです?言い忘れましたが、この密室からは凶器とおぼしき銃が発見されない。全裸で倒れている秘書には当然隠すポケットがない。では、どうやって射殺できたのか?」
 「うーーーん、なんでしょう?わからない・・・・・・」
 「このトリックも手作り感満載で好感が持てるんですが、証拠を探す最後の下り、シンプルな心理試験もいい感じなんですよ。
 ・・・どうです、読んでみます?」
 「あたし、テレビの方が」
 「ギャッフン・・・!!!」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年1月14日 (土)

戸川純+Vampillia『わたしが鳴こうホトトギス』 ('16、VirginBabylonRecords)

 妻が化石を掘りに行ってなかなか帰ってこない。その隙にこの文章を書いている私は何者だろう。不甲斐ない夫ではないのか。一体こんなことって。深夜にわれわれ夫婦に何が起こっているのか。事態は既によくわからないのだった。

 戸川純に関して思い出す幾つかのことは、断片的な映像の記憶だ。例えばそれは、『夜ヒット』で観た、機械の腕をつけている「レーダーマン」の有名なステージだったり、たけしに徹底的ないじめを受けている(マジ蹴られたりしてた)『刑事ヨロシク』の清掃員姿だったりもする。
 あと、あの、ウォシュレットのCMね。あれを初めて見たころ、こんなに普及するなんて思いもしなかった。
 世間は意外とケツを洗うことに熱心であった。
 それが歴史というものだろう。

 歌手活動35周年記念として出た『わたしが鳴こうホトトギス』は、新曲1曲に旧作のリメイク9曲をプラスしたアルバムだ。
 戸川名義での新曲は12年振りだというから、まぁ全編新曲で揃えるのは最初から無理に決まってたのだろうが、それにしてもこの新曲は出来がよい。これをメインにするのを決めてから、全体の選曲をしたのだろうな。キャリアの中でも代表的な、押し出しのいいナンバーをずらり並べておいて、最終的に新曲ですべて持っていくという。ある種作戦勝ちみたいな。そりゃ「赤い戦車」で始められると、ねぇー。
 それでもね、『Men’s Junan』とか声色変化の際立ったやつだと、現在の戸川さんの声が大山のぶ代に聴こえる瞬間があったりしてヒヤリとしたりはするんだけど。でさ、次のドラえもんは戸川さんにお願いできないかな~、とか。これがまた意外と似合うし、黒いテイストも出てきて、現在の甘すぎて気持ち悪いお菓子みたいなカラーを完璧に払拭できるのに。その方が余程F氏の真実に近いってのにね。でも、本人に話したら、本気でキレられて100%断られるだろうなー。その場面がもう浮かびますもん。こりゃ妄想ですね。
 スターの存在意義って妄想の対象ですもん。
 これはね(と話を戻す)、声色が変化してるってのは、時間が経過しているってことの証しなんですよ。歌ってる人も聴いてきたわれわれも、気がつけばいつの間にか随分遠いところまで旅して来てる。もちろん中味は結局、ぜんぜん変わってないんだよ。でも、いろいろと、ホラ、そこに纏わるアレやらコレがね。劣化もしてます。風化してます。機敏じゃない。全盛期のスタイルをいつまでも演じ切るにはやはり無理がある。誰だってそう。
 ところがね。そういう無理が、タイトルチューンの新曲には奇跡的にないんですよ。獲れたての果実みたいにみずみずしい。嘘くさい表現けど、本当。
 ゲルニカの時代からして、レトロだ懐古だ、後ろ向き過ぎだとか、さまざま勝手に言われ捲りましたけど、歌ってる純ちゃん自身の資質からして、もともとそういう人だったんだね。三つ子の魂百まで。変わらない。本人がニュートラルに才能を出力すると、必然的にこういう結果に辿り着くという。
 
 人は変わらないが、時間だけは経過する。
 そういうことを考えながら、私は深夜妻の帰りを待った。バケツいっぱいに掘り出した化石を持って、彼女が笑いながら帰ってくるのを。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年1月 8日 (日)

白木まり奈『犬神屋敷』('16、ひばり書房)

 正月明けだというのに、深夜勤務をあてがわれた怪奇探偵スズキくんは巨大削岩機を廻し続けていた。直径5メートルものドリルをグリグリ回転させて地下をえんえん掘り進むという、単純極まりなくも、確実に神経をやられる種類のお仕事である。

 「・・・やれやれ、こりゃもう、2017年も初っぱなから確実な不遇が予想される展開でありますが~。しかし。
 何はともあれ、読者皆さん、明けおめであります~~~!!!」

 おめ~、おめ~という大声が暗闇に反響して消えていった。あとにはドリルの爆音ばかり。
 地下坑道には、他に誰の姿も見えない。
 ポツン、ポツンと点る安全灯の黄色い光がかえって物寂しさを煽り立てる感じだ。影の部分、光の届かぬ闇は真っ黒に塗り潰され、いっそう深い。

 「・・・孤独だな・・・・・・」
 耳元でボソッと声がした。
 「・・・ノー・フューチャー、絶望一直線。もう全然ダメって感じだな・・・・・・」

 さすがに連載長いだけあってこの展開を完全に読み切っていたスズキくん、少しも慌てず、削岩機を停止。闇に隠された坑道の端々へ鋭い視線を走らせながら、威嚇に出た。
 
 「フン、今年も性懲りもなく出ましたね、おやじ?
 ここはひとつ、ボクの手裏剣に縫い止められる前に、さっさと姿を現したらどうですか・・・?」

 古本屋のおやじは、フフンと鼻先で笑うや探照灯の明りの中に歩み出た。
 安全第一につきヘルメットを着用しているのは良しとして、片手にダランと斧をぶら下げているのは、さすがにいかがなものかと思われる。
 その斧には、誰のものかわからない血糊が付着していた。

 「フフフフフ、イヒヒヒヒ、ふはッふはッ、アはははははは・・・・・・!!」
 狂ったような哄笑には、正気と狂気の階梯を踏み外した者に特有の嫌な響きがあった。
 「正月からダラダラ、こたつにみかん、こたつにみかんと同じ動きを繰り返しておったら、遂にキレたかみさんから、こいつを投げつけられたわ・・・!」
 真っ赤な血に染まった斧を高くかざす。そういえば、おやじの額がちょっと切れてるようだ。
 「もう、わしには恐れるものなどない!神などなんぼのもんじゃい!
 今年こそ日本の路線バス全線乗り継ぎ旅を完了してくれる。そして、世紀末覇者として、小池百合子と堂々百合りますよ!
 ゆりり~~~ん!!!」(『1986年のマリリン』のメロディで)

 スズキくん、少々慌てて、
 「いや、だから有名人とか実名出しちゃダメなんですよ。余計な面倒多いんだから。
 チェインソー持って宅配業者脅しにいった(自称)ユーチューバー事件を知らんのですか。日本の知能指数はもう急速に下がってますよ、恐ろしいくらい」

 「そんな傾向に歯止めをかけるべく、白木まり奈の新刊が出たぞ。これはもう事件だ。さっそく嫁。じゃない、読め!」
 スズキくん、再びちっとも騒がず、
 「ええ、もちろんボクが今地下を掘っているのは、決して生活費捻出のためばかりでなく、小池都政に対する暗黙のプロテスタントといっていい訳ですが。
 ・・・って、え?なんで、いまさら2016年にまり奈の新刊が・・・???
 しかも、ひばりのロゴ、装丁で・・・???」


【あらすじ】


 50年前に廃村と化した村に、そろって乗り込んだバカマンガ家とふたりのこども。安く行けるリゾートなんぞ他にたくさんありそうなもんだが、敢えて過疎すぎる呪われた物件にホームステイ。さすがセンスあるなぁー。
 並ぶ廃屋群の中でも、いちばん住んではいけないと北九州の狂ったヤンキーでも楽勝で指摘できるであろう、村を見下ろす不吉な屋敷(これが当然タイトルチューンの犬神屋敷)に住み込んだ親子は、案の定、連続して幽霊に遭遇。それも全身血塗れで、脳天に斧をブッ込んだ派手な姿で、絶叫しながら屋敷内を練り歩くというハードコア・スタイル。
 「おとうさん、もういやよ!こんな村、さっさと撤収しましょう!」
 ベタ墨のハイコントラストで、必死に訴える小学生の娘に対し、父親は、
 「幽霊は怨みのある人のところに出るはずなのに、なぜわしらの前に姿を現すのか。これは絶対なんかあるぞ!!」
 と、誤った方向にヒートアップ。
 「わしの友人に心霊にくわしい男がいるから、来てもらおう・・・!」
 これでは全然回答になっていない。ほとほと、あきれかえる娘。
 しかも、そいつは結局来なかった。
                         (完)

 「エ・・・・・・なんですか、コレ?」
 茫然として読み終えたスズキくん、本をパタリ置くと呟いた。
 「ま、要するに諸般の事情により未発表に終わってしまったまり奈先生の長編まるまる一冊が、今回初めて出版された、という記念すべき事態なワケだが・・・」
 おやじはニタリ笑う。
 「コレ、内容は確かにアレだけどさ、別に出来が悪いって程のこともなくて、安心のひばりクオリティーでしょ。ギャラで揉めたってことか知らんけど、作品としては白背でもヒットでも余裕で出せるレベルだよ。水準以上。かえってまり奈先生の作家性の確かさが浮き彫りになってると思う。
 具体的には、屍蝋の入った井戸水に対する的確なフォロー。見事だ」
 「たしかに読んで損は全然ない出来栄えですけど・・・・・・」
 スズキくんは唇を尖らせる。
 「現在、これを敢えてひばりロゴで出す意義ってなんなんですかね?ノスタルジィ?好き者達が夢のあと・・・?」

 「わからんのかね?」
 おやじは確信をもって断言した。
 「すべてのマンガはひばりを指向すべし、という明確なマニュフェストだよ。何が飛び出すかわからないおばけ屋敷。誰が得するのかわからない残虐展開、エスカレーション。こじつけ。悪意ある無理難題。いい加減極まる(毎度の)ご都合主義。
 まだまだ、こうした素晴らしい作品は、出版の機会を偶然逃したまま、歴史の闇にたくさん眠っているのかも知れん。具体的には、引出しに仕舞ったまま忘れたとか、上にマットレスを敷いちゃったとか。
 この本の売り上げがよければ、そうした作品に復刻のスポットがあたるチャンスも出てくるだろうし、そんなどうでもいい作品の集積の中に、実は本当の未来への扉を開く鍵が隠されているかも。
 もう、なんたら賞だの、なんたら大賞には心底飽き飽きだ!死ね!死んじまえ!選ぶ奴も、選ばれる奴も、読んでるそこのお前も。全員、共犯じゃねぇか。
 だから、キミも『進撃』だの『ワンピ』だの、毎週ジャンプを読み続ける惰性行為はいい加減辞めにして、自由なマンガの大地に羽ばたいてみてはどうか、という有難いお誘いなのだよ・・・!」

 斧がビュッと闇に飛んだ。
 髪の毛ひとすじ、スズキくんの傍らをかすめて岩に突き刺さる。ガキッと鋭い音がし、火花が散った。
 「怪奇の未来はこれからだ。わしに附いてくるがいい・・・!!」

 「イヤです」
 スズキくんは削岩機のスイッチを入れて仕事を再開しだした。ガガガガガ。
 「怪奇じゃ喰えないんだ、そんなこと、あんたも充分知り尽くした筈じゃないですか。これ以上、自己欺瞞を繰り返すのは辞めにしたらいかがですか・・・?」
 
 おやじはそれでもニヤニヤ笑いをやめない。
 「それじゃキミは、なんでいまだに怪奇探偵を名乗っているんだね。深夜労働者スズキくんでも、凡人サボーガーでもなんでもいい筈じゃないか。
 それは、いまだにキミが怪奇を好きで好きでたまらなくて、毎晩赤い夢を見て暮らす赤い部屋の住人だからじゃないのかね・・・?」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年10月22日 (土)

ひらのりょう『FANTASTIC WORLD』('16、リイド社)

 素晴らしい。ビューティフルだ。想像力の地平が拡張されていく感覚を味わえる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

«有森麗『花汁の舐め方』('93、マドンナメイト・ハード マドンナ社)