沢田研二 「TOMO=DACHI」
from『ROCK'N ROLL MARCH』、2008
1. ROCK'N ROLL MARCH
2. 風に押されぼくは
3. 神々たちよ護れ
4. 海にむけて
5. Beloved
6. ロマンスブルー
7. やわらかな後悔
8. TOMO=DACHI
9. 我が窮状
10. Long Good-by
11. 護られている I love you
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さて、これから拙ブログでは『ジュリー祭り』セットリストからのお題を3曲続けて更新していく予定ですが、第1弾の今回は短めの変則的な内容となります。
先の記事で書いた通り、僕は今月15日から母親の17回忌法要のため久々に鹿児島に帰省しました。
故郷に帰るとどうしても少年時代の想い出が溢れてきます。今日はそんなとりとめのない想い出の中から、僕の高校時代・・・初めて「落語」というものに興味を持った時のことを書かせて頂こうと思います。
「落語」がキーワードと来ればお題にあやかる曲は、ジュリー自らの作詞で友人・桂ざこば師匠のことを歌った「TOMO=DACHI」で決まりですね。
アルバム『ROCK'N ROLL MARCH』から、よろしくおつき合いのほどを・・・。
僕の出身校は、鹿児島県霧島市にある国分高校(通学当時は市町合併以前の国分市)。
一応歴史ある県立の進学校なのですが元々は女子校で、僕が通っていた頃は生徒の女子率が7割近かったでしょうか(いや、別にそれが目的で入学したわけではないですよ!)。「勉強、勉強」という雰囲気はまるで無くて、良い意味でのんびりした校風でした(今はどうか分かりませんが)。
女子校時代の校歌が何と北原白秋・作詞、山田耕筰・作曲というのが、自慢できる特記事項かな~。
で、今も続いているのかは分からないんですけど、国分高校では年に1度『卒業生を送る会』なる行事が開催されていました。これは完全に「生徒主導」の仕切りで執り行うイベントで、毎年2年生を中心に生徒達がアイデアを出し合い、卒業を控えた3年生の在学の想い出となるような工夫が凝らされます。
高校生の考えることですから良くも悪くも斬新、恐れ知らずのアイデアが飛び交います。確か僕らが「送られる」年・・・誰が最初に言い出したのか「落語家さんを呼ぼう!」という話が持ち上がりました。
なにせ鹿児島の片田舎の、しかもたかだか高校生です。皆、落語家さんなんてほとんど知らないに等しいんですよ(少なくとも当時の僕はね汗)。
でもただ一人だけ、僕も含め全校生徒知らない者はいないだろう、という人がいました。
当時『笑点』司会者となって数年が経ち、全国区不動の人気を爆発させていた5代目・三遊亭圓楽師匠です。
高校生の行動力は凄いものです。なんと即座に圓楽師匠にオファーを出してしまったという・・・これが大人(先生)達の仕切りだったら、「それはさすがに無茶」のひと言で片付けられていたのかもしれません。
ところがさらに驚くべきことに、圓楽師匠からは素早い快諾のお返事が!
都会ならいざ知らず、鹿児島の、しかもド田舎の高校の『卒業生を送る会』のために、あの圓楽師匠が高座に来てくださるというのです。多くの生徒達はそれがどれほどの奇跡なのかすら実感していなかったというのも今考えれば失礼過ぎる話なんですけど。
当時僕は「落語」などまるで知らないに等しかったです。下手すると、大喜利と落語の区別すらついていなかったかもしれません。
予備知識の無いまま当日を迎えることとなりました。
圓楽師匠が用意してくださった高座は、最初から最後まで師匠独演の三部構成でした。
まず第1部では、「落語」の成り立ちやこれまでの歩みを面白おかしく教えてくださいました。
続く第2部では、特別落語に興味が無くても皆がチラッとは知っているとても有名な噺をしてくれた・・・と思います。明確に書けずすみません、実は第1部と第2部については内容をよく覚えていないのです。ただ、この第2部までは会場の生徒、先生方もひっきりなしに笑い、とても賑やかだったという印象だけは残っています。
空気が一変したのは第3部。
僕が強烈に打ちのめされ、その後「落語」に興味を持つに至ったのは、この第3部での圓楽師匠の高座が忘れられなかったからです。
鹿児島のド田舎の高校生のために遠路はるばるやって来た圓楽師匠が、第3部・・・つまり「大トリ」で何の噺をかけてくださったと思います?
少しでも落語に興味を持つ読者のみなさまはビックリされると思いますよ・・・何と、『死神』です。
素人、まして初めて高座を聞く高校生には、一体この噺のどこでどんなふうに反応し笑うのが正解なのかすら分かりません。ただただリアルに、本当にリアルに情景を語り話を進めてゆく圓楽師匠のほとばしるオーラ、熱気に圧倒されるばかり。師匠の前に、噺の肝である蝋燭が立ててあるのがハッキリ見えるんですよ。
そして最後の最後・・・師匠がその蝋燭の炎に向かって「あぁ・・・消えるぅ・・・」と呻き、ガクンと頭を落としました。会場はシ~ンと静まりかえっています。皆、「これで噺が終わり」ということも分かっていません。
沈黙の時間がずいぶん長かったような記憶がありますが、実際にはほんの数秒だったかもしれません。拍手も無いままにその沈黙は過ぎ、顔を上げにこやかな表情に戻った圓楽師匠は、『死神』の「オチ」の説明をしてくださいました。この噺の「オチ」にはいくつものヴァリエーションがあるのだけれど(例えば、蝋燭が消えた瞬間に派手に後ろにひっくり返る)、自身が受け継いだ『死神』はこういう終わり方をする、そしてそれを自分も後世に伝えてゆく、と。
これは一体どういう世界だ?凄いぞ・・・「落語」というのはこれまで僕らがかじっていたほんの少しの知識とは比べものにならないくらい深いのだ・・・。
と、多くの生徒達が感じたはずです。
後になって思えば、圓楽師匠としては高校生相手に『死神』をかければこういう状況(会場がオチも理解できず場が静まりかえって終わる)になる、と見越していらしたはず。それも含めての高座であったでしょう。
チャレンジ精神旺盛な師匠はオファーを受けて、高校生対策を練りに練り、見事たったの1日、たった数時間の間に落語の「いろはの”い”」から上級までを駆けてくださったのでした。
師匠が最後に「わたしゃあ国分高校を生涯忘れやしません」と言ってくださったのを、今でも昨日のことのように覚えています。
大学進学のため上京した僕はその後、池袋演芸場に数回(お客さんが僕と連れの友人2人だけ、という日もあったなぁ)、あと場所は忘れましたが銀座で「食事をしながら落語を楽しむ」会など、これまで何度かプロの落語家さんの高座を聞きました。
残念ながら先代圓楽師匠の高座を聞いたのはあの高校生の時一度きりとなってしまいましたが、「10代の高校生時に5代目・三遊亭圓楽師匠の『死神』を生で体感したことがある」というのは一生の宝物です。
そうそう、僕は「上方落語」は未だ体感したことが無いんです。NHK朝ドラ『ちりとてちん』に大嵌りしていた時に、知識だけはずいぶん蓄えましたけどね。
いずれ機会あらば、と考えています。
といったところで、思い出話はここまで。
今日お題にあやかったジュリーの「TOMO=DACHI」についても少し書いておきましょう。
ずっと気になってたんや
Am Dm
会えたらどないやろか ♪
G7 E7 Am
ざこば師匠のことを歌った曲、ということすら『ジュリー祭り』後に知った僕が、アルバム購入時にこの曲を「関西弁?トリッキーでユニークな曲だけど、よく分からないなぁ」と思ってしまったのは致し方ありません。
今聴いて改めて感じるのは、題材やアレンジなどに『今、僕は倖せです』の頃のジュリーを重ねることもできるんじゃないか、という。
身近なテーマをロックする!というのは2000年代ジュリーの特性のひとつですが、「TOMO=DACHI」の詞には、ジュリーの周りにいる「人」の存在をひしひしと感じることができる好篇の意味で、72年のセルフ・プロデュース・アルバムからのジュリーの創作姿勢の一貫性、繋がりを思います。
「リズム=キメのリフ」を採り入れたアレンジも、「お前なら」を彷彿させますしね。
八島順一さんの作曲は、95年の「泥棒」にかなり近い手法だと思います。この2曲はあまりにイメージが違うので「えっ?」という先輩方も多いでしょうけど、「TOMO=DACHI」って「カッコイイ歌謡曲」にも通ずる、哀愁漂うキャッチーな短調のメロディーなんですよ。
同主音による移調を採用して全体の構成にメリハリをつけているのも「泥棒」との共通点。「TOMO=DACHI」の場合は、イ短調の曲がサビと間奏で明るいイ長調へと転調します。
ZACK ばらんな人や おもろいで
A E F#m D
BUT 泣かっしょんにゃわ
A E F#m
はなしが良え シビレタで ♪
D F G A
躍動的なメロディーですよね。
ひとつ謎なのは、何故これほどまでドラムス・パートのミックスを抑えたのかなぁ、と。
いかな打ち込みのプログラミングとは言え、こうも極端なミックスは珍しい。僕などには気づけていない、白井さん一流の狙いが何かあるのかもしれません。
今後の考察課題です。
それでは、オマケです!
まずは、『ジュリー祭り』2大ドーム公演を前にしたジュリーが思いを語った、『読売新聞』夕刊記事から。
続きまして、同じく2008年の資料。ジュリーの「TOMO=DACHI」と言えば当然この人もそう・・・客席から観る『ジュリー祭り』を楽しみにしているサリーの記事です。
今回「TOMO=DACHI」の執筆をもって、昨年の『G. S. I LOVE YOU』に続き、『ROCK'N ROLL MARCH』についてもアルバム収録全曲の記事制覇成りました。
一応過去記事をすべてアルバム・タイトルのカテゴリーに移行しますが、少なくとも「Long Goog-by」の記事だけはいずれ機を見て書き直すつもりです。
「あのままだよ」と併せての記事ですし、あの曲をタイガースの「た」の字も知らない超・ヒヨッコ状態で書いてしまっているのは大いに問題アリですからね・・・。
それでは、次回からは通常の考察記事として、『ジュリー祭り』セットリストからお題を採り上げます。
全82曲の記事完全制覇まで残すは8曲。
意外や「これをまだ書いてなかったんか!」という重要な名曲が結構残っているんですよね~。
引き続き頑張ります!
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