『G. S. I LOVE YOU』

2016年11月17日 (木)

沢田研二 「午前3時のエレベーター」

from『G. S. I LOVE YOU』、1980

Gsiloveyou

1. HEY!MR.MONKEY
2. NOISE
3. 彼女はデリケート
4. 午前3時のエレベーター
5. MAYBE TONIGHT
6. CAFE ビアンカ
7. おまえがパラダイス
8. I'M IN BLUE
9. I'LL BE ON MY WAY
10. SHE SAID......
11. THE VANITY FACTORY
12. G. S. I LOVE YOU

---------------------

おかげさまで、術後の痛みは完全になくなりました。
先日の経過診察によると、切除した傷口はもう出血も見られずほぼ完治(先生が「早いな~」と仰っていました)、薬の服用からも解放され、今後は注射でやっつけた小サイズの方が根治するかどうか推移を診てゆくことになるそうです。

今さらながらではありますが、今回の手術の件では本当にお騒がせしました。今日は「DYNAMITE痔核切除手術顛末記」最終回ということでお届けしますが、お題の「午前3時のエレベーター」楽曲考察の方に文量を割くつもりですよ~。
よろしくおつき合いのほどを・・・。


病気や手術を経験して得る一番尊いものは、「他人の痛みが分かる人間になる」ことだと言います。
今回の僕の場合は、確かに手術としては大掛かりなものではなく重篤な病気ではありませんでした。むしろ、「痔を切ることになりまして・・・」と言うとちょっとした笑い話にもなり、そのおかげで2週間の療養欠勤の許可もすんなり出た、という経緯もあるくらい。
それに、もし重篤な病気、手術だったらこうしてブログでありのままを書けていたかどうか・・・。おそらくメンタルの非常に弱い(と、今回痛感させられました)僕では無理だったでしょう。「人の痛みが分かる男」になれたとは言え、まだまだヒヨッコのDYNAMITEなのです。

そんな僕が偉そうに言うのもなんなのですが・・・闘病で一番大事なのはやっぱり本人の「気持ち」なんだなぁ、と実感することがこのひと月で多くありました。
今日はアルバム『G. S. I LOVE YOU』収録曲から大トリの記事執筆となる名曲「午前3時のエレベーター」のお題にあやかり、困難を乗り越えるための「気持ちの持ち方」をちょっと考えてみたいと思います。

生涯初の外科手術を経験したことで、僕は「大きな病気に敢然と立ち向かい、前向きに発信している」世の多くの方々への尊敬の念が格段に強まりました。彼等、彼女等の「気持ちの強さ」・・・本当に頭が下がります。
「午前3時のエレベーター」の作曲者である、かまやつひろしさんがそんな中のお1人です。
大変なご病気が発覚しての入院にもまったく怯まず、仕事への意欲も衰えず「絶対復活するから心配しないで」と発信。しかもその後ほとんど時を置かずに、自身のラジオ番組で早くも「復活宣言」をされるとは・・・。
どれほど心と体幹の強い人なのでしょうか。さすがはジュリーの兄貴分です。

ただ、かまやつさんのように心身ともに強靭な人というのは稀だと思います。病気や逆境に際して弱気になる人間・・・それが普通ではないでしょうか。
僕の場合もそうで、術後延々と続く激痛に苦しめられる中、それでも最初の2、3日は歯を食いしばって頑張るんですよ。ところが術後4~5日経っても一向に激痛が治まらないと悟った時、「痛みに耐える気力が削がれる」という「心の危機」に見舞われました。
痔の手術ごときで情けない話ですが、「これ以上はもう無理だ」と思ってしまう一瞬があるんです。
でもね、人間それが普通なんだとも思います。

そんな時に心の支えとなるのは何か・・・それは「未来の楽しみ」を見つける、その楽しみを夢見ることだと今回僕は学んだように思います。
闘病の期間によっても違いは出てくるでしょうが、その場合の「未来」って、近すぎず遠すぎず・・・というのが良いようです。つまり1年先、2年先くらいの「楽しみ」に思いを馳せることで、「今は辛いけど頑張ろう」という気力が湧いてくるのではないでしょうか。
僕はその点「ズバリ」だったんですよね。
痛みに耐える日々の中で矢継ぎ早に入ってくるジュリーの情報。来年はデビュー50周年、再来年は古希・・・「こんなことをやろうと考えている」とあの会場でチラリ、この会場でチラリ、とジュリーが話してくれたことを、ブログのコメントなどでみなさまから伝え聞くたびに「よし!」と痛みに立ち向かうガッツが戻ってくるという・・・本当に、本当に有難いことでした。
その意味でも、「ジュリーのメモリアル・イヤーの前に手術」の決断は大正解だったと思います。

加えて、「近々の目標をしっかり持つ」ことも大きい、とも実感しました。
僕は術前「『楽器フェア』までに仕事に復帰、ピーの横浜LIVEまでに完全復活」との目標を置きました。
幸いこれはピタリと嵌り、しかも「少しは楽になってきたのかなぁ」と感じるようになった頃にちょうどピーのチケットが届きました。とても嬉しかったですし、「もうひと踏ん張り!」とパワーが出ました。
結局「気持ち」って、そうしたことに助けられていかようにもなるものなんですね。

まぁここまで書いたことは、たかだか痔の手術程度で僕が辛うじて感じとった思いに過ぎません。もっと厳しい現実を真に想像できてはいないはずです。

それに僕は本当に根性無しで、手術中の自分の脈拍音(テレビドラマなどのシーンで見る「ピッ・・・ピッ・・・」と鳴っているアレですな)にすらビビっていたほどですから(恥)。感覚が大げさな面はあるでしょう。
そんな僕もこの先の人生、今回とは比較にならないほどの試練に立ち向かわなければならなくなる可能性は充分考えられます。
できるかどうか分からないけど、少しでもかまやつさんのような心の強さに倣い、僕などより大変な経験をされているジュリーファンの先輩方にも倣って、それでも苦しくなったら何か「未来の楽しみ」を見つけて頑張れたら・・・そんなふうに思っているところ。
できるかな・・・どうだろう?

ひとつ言えるのは、術後の辛い時期にはまったくそうは考えられなかったこと・・・「手術をして良かった」という気持ちに今の僕がなっている、ということ。
この気持ちを今後に生かしたいです。

とにもかくにも、
もう二度とあの術後の激痛の日々は体験したくありません。
療養中にネットで見つけた

「人間のプライドを破壊してしまうほどの排便時の激痛に耐えかね、少しでも楽に出せる方法はないものかと思案した挙句、湯船にお湯を張ってその中で用を足し、その都度奥さんを呼びつけてプカプカ浮いているナニを掬って片付けて貰っていた」

という大変な猛者のかたのブログがあるんですけど(まぁその方法でも「いくらかはマシ」という程度でメチャクチャ痛いことは痛いみたいですけどね)、そのかたは10年後に再発してしまったらしくて・・・。
僕はそんなことにならないよう、今後も特に食事には気を遣っていきます。
お刺身もワサビ抜きで食べますし、これまでせいろ蕎麦を食べる際つゆに大量に投入していた唐辛子の量も、ほどほどにします
(←それでも入れるんかい)


さぁ、いつまでも闘病回記を引っ張っていてもなんですし、ここからは今日のお題「午前3時のエレベーター」について張り切って書いていきましょう。
本当に考察ポイントの多い名曲です。

Elevator


参考スコアは当然の『ス・ト・リ・ッ・パ・-楽譜集』!


まずは「原曲」について。
「午前3時のエレベーター」にザ・スパイダースの原曲「ビター・フォー・マイ・テイスト」が存在すると僕が知ったのはほんの数年前のこと(『ジュリー祭り』以後)。そちらを聴かずして考察記事は書けない、と常々思っていたこともあり、アルバム『G. S. I LOVE YOU』収録曲ではこの曲が大トリ執筆となった次第です。
昨年でしたか、改めてJ先輩にコメント欄で楽曲タイトルを教えて頂きアマゾンで検索、収載曲を確認の上、満を持して購入したCDがこちらです。

Spiders


よく分からずに購入しましたが、これはザ・スパイダースのファースト・アルバムとセカンド・アルバムが合体した大変お得な1枚なのでした。

ファーストは邦楽ロックの歴史的意義からして間違いなく大名盤です。そのあたりについては、みなさまご存知の中村俊夫さんが素晴らしい解説を書いてくださっています。「知りたいことがすべて分かる」名文ですので、ここでもご紹介しておきましょう。


これぞ国産オリジナル・アルバム第一号

1966年リリース。特筆すべきは、中村さんも書いていらっしゃるように「全12曲中10曲が、メンバーのかまやつさん、大野さんのペンによる純粋なオリジナル曲で占められている」という点。日本のバンド・サウンドが真に誕生した歴史的1枚、ということでしょう(つまり今年の12月で50歳となる僕は、「GSと同い年」なのです)。
「フリ・フリ」は「バッド・ボーイ」だなぁ、「リトル・ロビー」は「ユー・リアリー・ガット・ミー」みたいだなぁ、カッコ良いなぁ、と思いながら聴きました。

一方で、「ビター・フォー・マイ・テイスト」の英語詞はじめこのアルバムの作詞陣も、邦楽史に残るにふさわしい面々が名を連ねていたことが中村さんの文章からよく分かりました。
阿久さんの「ミスター・モンキー」のお話は、不勉強にてこの度初めて知りましたね。言うまでもなく、ジュリーの「HEY!MR.MONKEY」を連想させるタイトル・・・糸井重里さんはこの曲をご存知だったのでしょう。

「ミスター・モンキー」については音の面でも、ブリティッシュ・ビート直系のイン トロ・リフが加瀬さんの名曲「SHE SAID...」に受け継がれていたり。
そうか・・・「午前3時のエレベーター」1曲に限らず、『G. S. I LOVE YOU』の原点を辿ることは、「GS50年」の出発点であるザ・スパイダースのこのアルバムに回帰することでもあるんだなぁ。

彼等のファーストが熱狂的に世に迎えられたことは、その後ほとんど間を置かずにセカンドがリリースされていることからも窺えます。
さすがに短過ぎるスパンでオリジナル曲を練り込む時間が無かったためか、セカンドは洋楽カバー・アルバムの趣となっていますが、そのラインナップがこれまた凄い。ビートルズ・ナンバーをリアルタイムに近いタイミングで採り上げているんですよ(65年リリースの『4人はアイドル』『ラバー・ソウル』からの選曲がメイン)。
「イエスタディ」「ミッシェル」「恋を抱きしめよう」「悲しみはぶっとばせ」といった、後にビートルズ代表曲として「誰もが知る」ことになる有名曲に加えて、「恋のアドバイス」のような隠れた名曲(『4人はアイドル』収録)を採り上げているのも嬉しい!
ロック独特の転調構成を擁する「恋のアドバイス」のカバーは、作曲家としてのかまやつさんのキャリアでも重要な血肉となっていること、疑いありません。

それでは、「ビター・フォー・マイ・テイスト」と「午前3時のエレベーター」の比較考察へと進みましょう。
まずはキーです。スパイダースはト長調でジュリーは1音低いヘ長調。「えっ、ジュリーの方がキー低いの?」と意外に思われるかたもいらっしゃるでしょうが、そこはひと仕掛けあるのですよ。
「午前3時のエレベーター」は最後の最後に変イ長調へと一気に跳ね上がる大胆な転調があるので(加瀬さんからや木崎さんの「もっと過激に!」というコンセプトに応えた銀次さんのアイデアではないでしょうか)、最終的にはジュリーはスパイダースより半音高いキーで歌っていることになります。転調部の最高音を設定してから、出だしのキーが決められたのでしょう。

さて、確かにこの2曲、「歌詞とアレンジのリメイク」関係ではありますが、メロディーそしてコード進行はそのままかと言うとそんなことはありません。
2曲ともご存知の先輩方は、一部メロディーの違いについては既に把握していらっしゃるでしょう。僕がその点に加えて「おおっ!」と思ったのは、「メロディーは同じなのにコードが違う」箇所があるということ。
『G. S. I LOVE YOU』制作には作曲者のかまやつさんも当然噛んではいたでしょうが、このコード・アレンジメントも、温故知新のポップ職人・伊藤銀次さんのアイデアではないかと僕は考えます。
例えばAメロ冒頭。
分かり易いように「ビター・フォー・マイ・テイスト」をジュリーの方に合わせてヘ長調に移調表記しますと

How could I fall in love How could I fall in love ♪
Dm                             F


↑ 「ビター・フォー・マイ・テイスト」

夜明けにLove with you 真昼にLove with you ♪
F                                Dm


↑ 「午前3時のエレベーター」

なんと、メジャーとマイナーがそっくり入れ替わってメロディーは変わらず、という。
いかにも銀次さんが考案しそうな手法です。メジャーから歌メロを始めることで

ハートにガンガン ビートでTiki-Tiki yeah ♪
Gm                     E♭      A7         Dm

この「Dm」への着地が生きるし、「その方がビートルズっぽくなる!」と考えたのではないでしょうか。具体的には「ナット・ア・セカンド・タイム」みたいに。

とにかくビートルズ・フリークの僕としては、かまやつさんと銀次さんお2人のビートルズ愛が10数年の時を超えて合体している感じが何より楽しくて。
「午前3時のエレベーター」は、これまたかまやつさんの作曲作品である「CAFE ビアンカ」ほどビートルズ・ナンバーのオマージュ元が明快ではないにせよ、コーラス・アレンジひとつとっても、「ユー・ウォント・シー・ミー」(「Ooo la la la...♪」や「ガール」(「tu,tu,tu,tu...♪」を思い出させてくれたり、「Oh Yeah♪」のフレーズがキレイにメロディーに載っていたり、やっぱりこの曲もビートルズへのリスペクトありき、だと思います。それがGSの原点でもありますしね。

最後に、三浦徳子さんの作詞について少し。
コンセプトや物語(主人公の心境)は、「ビター・フォー・マイ・テイスト」を踏襲しています。
その上で80年代先鋭の邦楽ロック作品としての表現、フレーズ使いが素晴らしいですね。

正に恋する真っ只中の時も、恋が終わってしまった後も、主人公のハート・ビートは同じように激しく波打ちます。しかし、いくら「ハートにガンガン」と胸打つ鼓動や「ビートでTiki-Tiki」滾る血流は同じでも、それが主人公に与える感情は、恋の状況によってまったく違う・・・そんなアプローチは、さすが三浦さんならでは。

午前3時にフラフラとエレベーターに乗っている、というだけで主人公のダメージが窺い知れますが、「明るすぎるぜ♪」のフレーズはその点強烈なインパクトがあります。人が心閉ざしている時、「明るさ」ほど厳しくブチ当たってくるものはありませんから。
思えば僕も今回、ひたすら術後の痛みに耐える時には暗がりが必要だったような気がします・・・。


それでは、オマケです!
『G. S. I LOVE YOU』リリースの少し前・・・『ヤング』80年11月号からジュリー関連のページを。
シングル「酒場でDABADA」を歌っていた頃ですね。


801101

801102

801103

801104

801105

801106


ということで、「ジュリーのオリジナル・アルバム全曲のお題記事執筆」達成第1号は、大本命の『G. S. I LOVE YOU』ということになりました。
これを機に、過去の当アルバム収録曲記事はすべてアルバム・タイトルのカテゴリーに移行させたいと思います。小さなことですが、僕は「少しずつ積み重ねる」ということが好きなので、なかなか感慨深いです~。

さて次回更新は、いよいよ明後日に迫った「瞳みのる&二十二世紀バンド・横浜公演」レポートの予定です。
と、ここまで書いてきて唐突に思い出したんですけど、僕は以前「三日月」の考察記事を書いた際、カップリングの「時よ行かないで」について「ピーのLIVEツアーが始まるまでには書きます」と宣言していたことをすっかり忘れていました(滝汗)。
さすがにもう間に合わない・・・いずれの機会に必ず書きますので、しばしお待ち頂ければと思います。

ちなみにピーのツアーは北京公演を皮切りに国内でももう始まっていますが、僕はセットリストのネタバレはしたくないので、一切の情報を断っています。
「三日月」や「時よ行かないで」を歌ってくれているのか、ザ・タイガースの曲はどんなラインナップになっているのか、サプライズ級の貴重な楽曲のセトリ入りはあるのか・・・本当に楽しみにしています。

昨年、一昨年と生で体感してきて確信を得ていますが、二十二世紀バンドの演奏も本当に素晴らしいです。今、一番「GS回帰」を体現しているバンドじゃないかな。
百聞は一見に如かず。みなさま、今からでも是非!

実はちょっと風邪気味なのです。なんとしても19日までには体調を戻さねば・・・。
みなさまもどうぞお気をつけください。

| | コメント (12) | トラックバック (0)

2015年4月22日 (水)

沢田研二 「SHE SAID・・・・・・」

from『G. S. I LOVE YOU』、1980

Gsiloveyou

1. HEY!MR. MONKEY
2. NOISE
3. 彼女はデリケート
4. 午前3時のエレベーター
5. MAYBE TONIGHT
6. CAFE ビアンカ
7. おまえがパラダイス
8. I'M IN BLUE
9. I'LL BE ON MY WAY
10. SHE SAID・・・・・・
11. THE VANITY FACTORY
12. G. S. I LOVE YOU

-----------------------

何と言うことでしょう。
昨夜午後10時に飛び込んできた、加瀬邦彦さんの悲報・・・僕はその時ちょうど、今回のこの最高にハッピーな、加瀬さん作曲のジュリー・ナンバーお題の記事本文の下書きを終えたところでした。
信じられない・・・。
それが正直な気持ちです。

お題曲の作曲者の訃報を受けたからには、本来なら記事の内容を書き改めるべきですが、今はそれができません。
昨日まで数日かけて楽しく下書きしていた記事を、ひとまず加瀬さん作曲ジュリー・ナンバーの名曲のひとつ「SHE SAID・・・・・・」の一考察として、今回のところは更新させて頂きます。

以下、つい昨日仕上げたばかりの記事本文です。
まったく加筆修正もせぬままupすることをお許し下さい。

☆    ☆    ☆

絶賛開催中、短い文量で矢継ぎ早の更新を目指す”ジュリーの隠れた名曲で憑き物落とし”シリーズ。
もちろん「隠れた」というのは「世間的に」という意味で、ジュリーファンにとって揺るぎない大名曲の数々をお届けする、という主旨で張り切っております。

前回採り上げた「悲しい戦い」では、歌詞の内容からちょっと今年の新譜『こっちの水苦いぞ』考察記事執筆直後の重い余韻を残した感じもありましたが、今回からはガラリと気持ちも切り替えて、とにかく最高に楽しいロック・ポップスの名曲や、穏やかに心に沁みる癒し系のバラードなど、奇跡の歌手・ジュリーここまで48年の歴史から様々な時代を行き来しつつお題を探していきますよ~。

で、今日はアルバム『G. S. I LOVE YOU』から「これぞ80年のGS回帰ジュリー!」 とも言うべき加瀬さん作曲の名曲「SHE SAID・・・・・・」を採り上げるわけですが、前回記事のお題予告ヒントで
”「悲しき戦い」のサビとそっくりなメロディーがこれまたサビで登場する曲です”
と書いたら、何と僕の思いつかなかった候補曲がズラズラと・・・いやぁみなさま凄い。決して「よくありがちなパターン」ということもないのに、ジュリー・ナンバーのメロディーの整理がついていらっしゃるんですね。

得意げにヒントなど出してしまい、恥ずかしい次第で・・・まぁ一応書いておきますと

It's true 大の男でも
D   Em     G    A

煙にまかれたい そんな夜もあるさ ♪
C                 A      B♭             A7

このサビ部のメロディーが、「悲しい戦い」のそれにそっくりなんですね。
本当に偶然の一致かと思いますが、僕などはタイムリーなファンのみなさまとはこの2曲を聴く順番が逆で、「悲しい戦い」を初めて聴いた時に「あれっ?」とね。

ということで、今日のお題は「SHE SAID・・・・・・」。
これは、いつもコメントをくださったり日頃からやりとりさせて頂いている先輩方にも特に人気の高い曲、と僕なりに認識している曲です。
「ジュリーらしさ」満開のハッピーなナンバーであると同時に、80年の暮れという時代・・・「これから古き良きロック&ポップスの再評価の時が来るぞ!」という予感バリバリの時代の空気の中でリリースされたアルバム『G. S. I LOVE YOU』にあって、その予感とリンクする1曲。

後追いファンながら、「当時のジュリーとジュリーをとりまく時代が求めていた名曲」と捉えていますよ。
僭越ながら、伝授!

Shesaid


今回の参考スコアは、ご存知『ス・ト・リ・ッ・パ・-/沢田研二楽譜集』。ちなみに「SHE SAID・・・・・・」は「I'll BE ON MY WAY」と同ページで、右見開きページ掲載の2枚の写真がこちら。

Shesaid1

Shesaid2


『G. S. I LOVE YOU』は、「GS回帰」のコンセプトを持ちつつ、加瀬さんや木崎賢治さんによる「もっと過激に!」のサジェスチョンのもと、海の向こうのネオ・モッズ・ムーヴメントにも乗っかり、伊藤銀次さんのビートルズ、ローリング・ストーンズを始めとする幾多の60年代洋楽ロック・バンドのエッセンスを盛り込んだアレンジ、若きオールウェイズの冒険心溢れる演奏、そしてそれらすべてを「歌」に昇華させたロック・ヴォーカリスト・ジュリーの完全覚醒・・・正に世紀の大名盤ですね。

特筆すべきは、当時まだブレイク前だった新たな才能・佐野元春さんの3曲が抜擢されていること。
ただ、「佐野さんの3曲」の存在感をも凌ぐ究極のプロフェッショナル・ライターの存在を忘れてはなりません。「加瀬さんの3曲」の素晴らしさを抜きにこのアルバムを語ることはできないでしょう。
シングル・カットとなった「おまえがパラダイス」。
アルバム全体の”過激”というキーワードを自ら率いるかのような、「NOISE」。
そして、「GS回帰と言うなら、これこそが80年代のGSナンバーだ」と言わんばかりに「回帰」と「進取」を完璧に両立させ提示したのが「SHE SAID・・・・・・」。
加瀬さんによるこのアルバムへの提供3曲は最高にキレていて、なおかつジュリーの「陽」を存分に引き出す痛快な作品ばかりです。
そりゃあ、アレンジの銀次さんもあれこれと魔法を仕掛けたくなるはずですよ・・・。

70~80年代のジュリーと言えば、レコーディング音源の「バンド一発録り」伝説があることを先輩方に教えて頂いていますが、アルバム『G. S. I LOVE YOU』についてはその例に当てはまらないようです。
銀次さんのレコーディング秘話を読みながらひとつひとつの演奏トラックを検証していくと、 これ相当に凝りまくった、手数をかけた録音作業ですよ。レコーディングが進む過程でどんどん「過激な」アイデアが誕生し、後から後からトラックを重ねています。

例えば銀次さんはブログで「リズム録り」という言葉を使っていらっしゃいますが、これがおそらく最初期段階の、いわゆる「ベーシック・トラック」を指すものと思われます。「SHE SAID・・・・・・」で言えばドラムス、ベース、左サイドにミックスされたバッキング・ギター、右サイドミックスのピアノがそれに当たるでしょう(ビッグバンド・ジャズなどの慣例から、ギター、ピアノも「リズム・セクション」に分類される場合がある、ということを僕は10年ほど前に映画『スウィング・ガールズ』DVDの特典映像で初めて知りました)。まずこの4トラックを一発で録り、それを土台として様々なアレンジ・アイデアによる各楽器の装飾トラックを追加、という流れのレコーデ ィング進行だったと考えて良いんじゃないかな。

で、ここからは推測ですが、かなり早い段階で「SHE SAID・・・・・・」と「THE VANITY FACTORY」2曲のベーシック・トラックが、アルバム収録順のアイデアを見越して既に1つの塊として繋げられていたのではないでしょうか。
そして、ジュリーのヴォーカルと佐野さんのコーラスは、この2曲一気に録られたんじゃないかなぁ、と。
「THE VANITY FACTORY」の初っ端の雄叫び1発なんて、「前の曲から続いてるよ」という感じがしませんか? そう考えれば、佐野さんが自らの提供曲ではない「SHE SAID・・・・・・」でコーラスを担当しているのも必然として頷けます。

で、その段階(ヴォーカル&コーラス録りの時)では、2曲の繋がり方が今僕らが音源として聴いているものとは違ったんじゃないか、とも思うんですよ。
エンディングの「OK、boy」からの「シー・セッド♪(→リピート・ディレイ)」のバックに、まだアウトロのリフレイン演奏が鳴っていたんじゃないかなぁ。最後の「シー・セッド♪」が、伴奏音に合わせて歌っているように僕には聴こえるんです。
それが最終的なミックス段階で、「アウトロを途中でちょん切ってしまう」という「過激な」アイデアが生まれ、完成を見た・・・まぁあくまで推測ですけどね。

さて僕は「SHE SAID・・・・・・」を先程「ジュリーらしい曲」だと書きましたが、「ジュリーらしさ」とはイコール「加瀬さんならでは」の曲作り、と言い換えることもできそう。そしてそんな加瀬さんの「陽」は、この曲の三浦徳子さんの作詞にも反映されています。
(加瀬さんの作曲作業は「曲先」が多かったことを最近になって知りました。僕は60年代に頭角を現したロック&ポップス界のGS出身作曲家は基本「詞先」と認識していましたが、加瀬さんはそうではないようです。そのあたりについてはいずれ「恋は邪魔もの」のお題で参考資料と共に語りたいと考えていますが、加瀬さんの作曲が基本曲先の作業だったとすると、僕が以前書いた「白い部屋」の考察などは、根本から成り立たなくなるんだよなぁ・・・)

物語の状況としては、これはいわゆる「ゆきずりの女(ひと)」パターンなのでしょうか。

何処かのBarで拾った 偶然の出逢いでも
D        A        G     A   D  A      G        A

おまえのその哀しげな 瞳は捨てちゃおけない ♪
D       A         G     A   D  A             G       A 

バーで出逢った女性の悲しげな瞳に惹かれる主人公。酔って「私なんて生きていたって・・・」と投げやりな彼女に「生きていたら良いことあるよ。例えばほら、こうして俺に口説かれてるだろ?」的な二枚目限定手管を駆使して首尾よくいただいてしまう、という歌?
ちょっとその解釈は、御都合主義な男性視点過ぎて身も蓋も無いですか(汗)。

実はビートルズに「シー・セッド・シー・セッド」という大名曲がありまして(先輩方の多くはタイガースのカバーでご存知かな?聞くところによれば、ピーのドラムスが相当凄かったとか)、その詞(ジョン・レノン)でも「死ぬってどういうことか、私は知ってる」という女性が登場。「シー・セッド・シー・セッド」の場合はちょっと哲学的な内容とは言え、三浦さんはこの曲から「SHE SAID」のタイトル、歌詞をインスパイアされたんじゃないかなぁ。「60年代ロックへの回帰」というアルバム・コンセプトは三浦さんにも伝えられていたと思いますから。

ビートルズの「シー・セッド・シー・セッド」は60年代中盤のサイケデリック・ムーヴメントを代表するような曲ですが、「SHE SAID・・・・・・」はサイケよりももっと以前、60年代前半のビート系のイメージ。
これは銀次さんのアレンジとオールウェイズの演奏によるところが大きいかもしれない・・・例えばイントロの「コー ド・リフ」は「ブラウン・シュガー」などの70年代ストーンズよりむしろ60年代ストーンズっぽいんです(「ひとりぼっちの世界」など)。だからモッズ色がより濃くなるんですね。
このコード・リフが、イントロでは一瞬の「オープニング」に徹して、他楽器が噛んだ瞬間にかき消えてしまうというアレンジが最高に渋い!
リフがそのまま曲全体のフィル・インになっている感覚です(後から重ねられた演奏でしょう)。
そしてそのリフと同じ音階は、1番歌メロの2回し目から楽器をピアノに代えてようやく登場。つまり歌メロ1回し目で鳴っているのは、タイトなドラムスとブイブイ言わすベースの2トラックのみ。
これは完全にネオ・モッズの手法ですよ。作曲者の加瀬さんも「おお!」と唸ったんじゃないかな。
銀次さん、冴えまくりです。

最後になりますが、僕がこの曲で最もシビレている箇所は、ブレイク部です。

She said 煙草の火を貸して
Bm                   F#m       

No!girl Kissが先さ No!No!No!No!・・・♪
Em                          E7           A7

ジュリーのヴォーカルの艶ももちろんですが、建さんのベースがしみじみイイんですよね~。建さんにしては珍しくピックで弾いたような音に聴こえるんだけど、実際はやっぱり指弾きなんだろうなぁ。



それでは、オマケです!
今日は『ヤング』の81年1月号からジュリー関連のページを抜粋。この号は表紙もジュリーです。


810101

『ヤング』は毎年1月号に「新春スターかくし芸大会」のレポートが掲載されていたようですね。その記事を楽しみにしていたジュリーファンも多かったでしょう。

810102

810104

810103

さらに、前年の香港公演(有名な映像が残されていますよね)の記事。「ナウい」が懐かしい・・・。

810105

また、『ヤング』では毎号、「今週の表紙」という簡単な文章が奥付に掲載されています。

810106

そして最後の広告ページがこれです。

810108

ということで。
アルバム『G. S. I LOVE YOU』収録曲の考察記事も、これで残すところあと1曲まで来ました。

拙ブログでは2009年『Pleasure Pleasure』以降のジュリーの新譜はすべてリリース後すぐに収録全曲の記事を書いていますが、それ以前のアルバムについては、まだ「考察記事の全曲網羅」を果たせている作品はありません。
どのアルバムで最初にそれを為せるのか、自分でも楽しみにしているところですが、まず「残り1曲」のリーチをかけた1枚が『G. S. I LOVE YOU』というのは、我ながら王道の線かな、と思います。

ただ、残された1曲「午前3時のエレベーター」・・・これは以前先輩から頂いたコメントで「かまやつさんの作曲には、スパイダーズの既存曲の原型あり」と教わっていて、実は僕はまだその曲のタイトルすら知らない状況なのです。
どなたかご伝授を~!


☆    ☆    ☆

本当にすみません。
こんな時にこんな記事になってしまって・・・。
言葉すら発せないほどのショックを受けている方々が、加瀬さんの周りにどれほどいらっしゃるのかと思うと・・・。

僕は昨夜から、2010年のジュリワン八王子公演での加瀬さんの笑顔ばかりを思い出します。
まだ信じられないです。

| | コメント (8) | トラックバック (0)

2015年1月 5日 (月)

沢田研二 「THE VANITY FACTORY」

from『G. S. I LOVE YOU』、1980

Gsiloveyou

1. HEY!MR.MONKEY
2. NOISE
3. 彼女はデリケート
4. 午前3時のエレベーター
5. MAYBE TONIGHT
6. CAFE ビアンカ
7. おまえがパラダイス
8. I'M IN BLUE
9. I'LL BE ON MY WAY
10. SHE SAID……
11. THE VANITY FACTORY
12. G. S. I LOVE YOU

---------------------

2015年も始まりましたね。
あらためまして、新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

今年の個人的なジュリー関連の一大目標は・・・ズバリ、なんとかCD『ACT大全集』を定価に近い値段で探して購入すること!
昨年末、いつもお世話になっている先輩にACTのパンフレットをズラリと見せて頂いたんですが、パンフには歌詞が載ってるじゃないですか。今までじっくり検証したことが無かったんですけど、ジュリーの作詞作品、或いは作曲作品、たくさんありますよね。特にジュリーの詞がすごくエキセントリックと言いますか、オリジナル・アルバムの詩作とはまた違った魅力を、今さらながら感じています。
そして、加藤直さんの詞も改めて歌詞として読んでみると素晴らしくて・・・。もちろん、Cobaさんの作曲やアレンジについては間違いなし!なわけですし。
現在の鉄人バンドのベースレス・スタイルにジュリーがスッと入っていけた一因として、ACTでの特殊な楽器構成で歌った経験があったのでは、とする柴山さんの貴重な言葉(『ギターマガジン』より)なども「なるほど!」と目からウロコでしたし、畏れ多くも「楽曲考察」を銘うつこのブログで、これまでACTの曲をただの1曲も採り上げていない状況ってどうなの?と日に日に思いを強くした・・・僕にとってはそんな冬休みでもあったのです。

ただねぇ・・・肝心の商品は既に廃盤。ネットで中古盤を探したんですが、アマゾンさんでは5万円以上の値がつけられていたり・・・さすがに手が出せません。
「このお店なら比較的安く売ってるよ!」などの情報がございましたら、是非是非教えてくださいませ~。


それでは本題です。
ジュリーのお正月コンサート『昭和90年のVOICE∞』初日渋谷公演まで、もうあと数日。
僕は長い間、「おめでたい」と同時に「慌ただしい」という感覚を持って新年を迎えてまいりましたが、6年前からそれに加えて「ジュリーに逢える=新年」を実感するようになりました。
基本、毎年のようにお正月にLIVEをやってくれるジュリー。本当に有難く、尊いことだと思っています。

実は、初夢ではなかったんですが、新年明けてからジュリーのお正月(たぶん)LIVEの夢を見ました。
「我が心のラ・セーヌ」をやっていたんですけど、何故かジュリー含めてステージ上の5人全員がアコギを弾いていたという・・・。
GRACE姉さんは肩叩きみたいな巨大なマレットでアコギのボディーを叩いていました。意味不明でしょ?
おそらく、年末に「アコギの弦を代えなきゃ」と思っていたのにすっかり忘れて年を越していたのを潜在意識が覚えていて、そんな夢になったのではないかと。
曲が何故「我が心のラ・セーヌ」だったのかはまったく不明。セットリストの正夢だったりして?

さて、そんなこんなで新たな年を迎え、今日は2015年の楽曲考察記事1発目。
『昭和90年のVOICE∞』初日に向けた”恒例・全然当たらないセットリスト予想”シリーズ、ラスト1曲。珍しく自信満々、的中予感バリバリのお題です。

昨年、『日劇ウエスタン・カーニバル』(1980年)の完全DVD化が告知され、新年早々の発売予定に多くのジュリーファン、タイガースファンのみなさま同様、僕もとても楽しみにしていましたが、何やら生産中止となってしまったようで・・・。
アルバム『G. S. I LOVE YOU』リリース直後のジュリーとオールウェイズのパフォーマンスの真髄をじっくり観られるのか!と期待していただけに、本当に残念です。新年の楽しみがひとつ無くなってしまいました。
こうなったら、お正月ジュリーに『G. S. I LOVE YOU』から「これぞ」という曲を歌ってもらって、気持ちの帳尻を合わせるしかありませんよ!
「1月」にふさわしい曲があるじゃないですか。いよいよこの曲の記事を書く時が来ました。

高校時代に熱心に聴いていた佐野元春さんの作品の中でも、特に「カッコイイ!」と思っていたロック・ナンバー・・・それが元々「沢田研二のアルバムのために書き下ろされた曲だった」と知った時の衝撃、感動。
「ジュリーが歌った佐野ナンバー」として、僕にとってはまずこの1曲。
『昭和90年のVOICE∞』でセトリ入りを果たせば、僕は『奇跡元年』以来2度目の体感となります。
「THE VANITY FACTORY」、伝授!

僕は高校生の時、佐野さんのファンだったクラスメートに、一度ジュリーのアルバム『G. S. I LOVE YOU』を聴くよう、熱心に勧められたことがありました。
彼曰く、「ヴァニティー・ファクトリー入ってるよ!」とのことで・・・僕も「佐野元春のヴァニティー・ファクトリーにあの沢田研二がコーラスで参加している」ことだけは、佐野さんのアルバム『SOMEDAY』で知っていましたから、「沢田研二も自分でカバーして歌ってるのか~(←真実の順序は逆だったわけですが)」と大いに興味はそそられたんですが、結局その時は手を出さずじまい。
今となってはただただ後悔するばかりです。ビートルズやストーンズが大好きで、しかも「アレンジ」に目覚め始めていた当時の僕が、『G. S. I LOVE YOU』を聴いて、その音作りのセンスに何も感じなかったはずがありませんからね。
特に「THE VANITY FACTORY」は、シングル・カットとなった「おまえがパラダイス」と共に、ジュリーファンはもちろん、マニアック層にも大衆性にも訴える力を持つ、アルバムの目玉曲と言えるでしょう。さらに言うと、佐野さんのヴァージョンを知っていればこそ、「おっ!」と思うところが多い曲なのです。

アルバム『G. S. I LOVE YOU』での「GS回帰」のコンセプトが、元々は70年代末に海の向こうで起こった「モッズ回帰」のムーヴメントと連動して起こり、さらにはそれがザ・タイガース同窓会へと繋がっていった、ということはこれまで何度か他収録曲の記事で書いてきました。
ただ、「GS回帰」と言ってもそれは単なる懐古的なものではなく、古き良きエッセンスを採り入れつつ「過激」で新しい最先端のロック・ミュージックの開拓を狙ったものです。これはネオ・モッズも同じこと。
加瀬さん、木崎さんが「もっと過激に!」とイニシアチブをとり、アレンジャーの銀次さんはじめ現場のスタッフやオールウェイズのメンバー、そしてジュリーが完璧に応える・・・それが『G. S. I LOVE YOU』という稀有な名盤の素晴らしい一面ですが、まずはコンセプトに沿えるだけの優れた楽曲が揃わなければ企画の具体化も無かったわけで、アルバムに3曲を提供した「80年代ロックのキーパーソン」である佐野さんが『G. S. I LOVE YOU』に関わった事実はあまりに大きいです。

新たなサプライズ、新たな才能の出現。
佐野さんはその直後、ジュリーへの提供曲である「THE VANITY FACTORY」「I'M IN BLUE」の2曲のセルフカバーを含んだアルバム『SOMEDAY』で大ブレイクしました。とにかく、(僕もそうでしたが)「洋楽至上主義」に囚われていた日本の多くのロック愛好少年&少女の感性を撃ち抜いた、佐野さんの80年代以降の邦楽ロックへの貢献は計り知れません。
いち早いジュリーへの作曲提供実現は「奇跡的な必然」だったのかな、と思います。

『G. S. I LOVE YOU』はそんな佐野さんのブレイク一歩手前の時期に、「ジュリーからあなたへのX’masプレゼント!」なるキャッチコピーでリリースされています。
年の瀬の発売だったんですねぇ。

801206


↑ 『ヤング』1980年12月号より。
”三大特典予約”の実物が気になります・・・今もお持ちの先輩方はいらっしゃるかな?

810107

↑ そしてこちらは『ヤング』1981年1月号より。


先述の通り、僕はみなさまとは違い「THE VANITY FACTORY」の楽曲自体は佐野さんのヴァージョンで先に知りました。数十年経って初めて聴いたジュリー・ヴァージョンは、色々な意味で衝撃でしたよ・・・。
まず、この2人のヴァージョン、聴いた時の印象がそれぞれまるで違うんです。

佐野さんのセルフ・カバー・ヴァージョンは完全なアップ・テンポのエイト・ビート・スタイル。
浜田省吾さんの「愛の世代の前に」などにも通じる、マイナー・コード・スケールの煽動性を生かした、いかにもティーンエイジャーのロック好き少年を惹きつけそうな音作りのギター・ロック・ナンバーです。
対してジュリー・ヴァージョンは、ジャジーで渋い「大人のロック」的な仕上がりとなっています。こちらは20代から30代の女性を虜にしそうな・・・その頃「ナウい」なんて言葉がありましたけど、当時のジュリーファンにとってはそんな感じだったのかなぁ。
メロディー、コード進行はほぼ同じ。つまり、ジュリー・ヴァージョンと佐野さんのセルフカバー・ヴァージョンの違いは、アレンジと演奏によるものなんですね。

では、それぞれのヴァージョンで異なるアレンジを施される前・・・佐野さんが『G. S. I LOVE YOU』のために書き下ろした、作曲したてホヤホヤ剥き出しの「原曲」時点での「THE VANITY FACTORY」がどのような作品だったのか・・・その点については、伊藤銀次さんの発言にヒントがあります。

銀次さんは初めて佐野さんがこの曲を聴かせてくれた時(銀次さんのブログによればそれは『G. S. I LOVE YOU』レコーディング現場ではなく、銀次さんがまだジュリーのアルバム・アレンジのオファーの話を聞く前のことだったそうです)、「ビリー・ジョエルみたいでカッコイイ!」とそのファースト・インプレッションを語っているんですよね。
その銀次さんの言葉を知った時、一瞬僕は「はて・・・この曲のどのあたりがビリー・ジョエルなんだろう?」と思ってしまいました。これが逆に言えば銀次さんのアレンジの魔法の証。自身の持つ様々な引き出しをもって装飾していく銀次さんの手管によって、「最初はビリー・ジョエルっぽかった」曲のイメージが一新されているのでしょう。
で、アレンジを抜きにしてメロディーの起伏、コード進行など基本的な部分だけを素直に検証してみますと・・・「はは~ん、銀次さんが連想したのはたぶんコレだな」と僕が思い当たったビリー・ジョエルのナンバーは、アルバム『ストレンジャー』1曲目収録の「ムーヴィン・アウト」という曲です。

Movinout


↑ 『BILLY JOEL COMPLETE Vol.1』より

ヴォーカル部冒頭、短調のメロディーの載せ方ね。
佐野さんが「THE VANITY FACTORY」のメロディーをシンプルな楽器1本の弾き語りで銀次さん達の前で披露しているのを想像すると・・・なるほど「ビリー・ジョエルみたいでカッコイイ!」と思えてきます。
考えてみれば、佐野さんの曲にはビリー・ジョエルがオマージュ元だろうと思われる曲がいくつか他にあるんですよ。「バルセロナの夜」が「素顔のままで」だったり、「インディヴィジュアリスト」が「ランニング・オン・アイス」だったり・・・(ただし「バルセロナの夜」については、佐野さんの意向とは別にアレンジ段階で似てしまった、というインタビュー記事を読んだことがあります)。

さて、銀次さんはそんな「THE VANITY FACTORY」を、よりジュリーの「過激さ」に近づける・・・つまりアルバム『G. S. I LOVE YOU』のコンセプトに馴染ませるため、新たなアレンジ解釈の刀を抜きます。

Vanity


↑ 『ス・ト・リ・ッ・パ・-/沢田研二楽譜集』より

ストレートなマイナー・コードのメロディーで、ラジカルなフレーズを繰り出すロック・ナンバー・・・と来れば!
そう、これはみなさまご存知、ローリング・ストーンズの「アンダー・マイ・サム」。

Undermythumb


↑ 『ローリング・ストーンズ・ベスト曲集』より

『G. S. I LOVE YOU』のアレンジを任されるにあたって、改めてザ・タイガースの音源考察に取り組んだという銀次さん。当然、「アンダー・マイ・サム」をタイガースのレパートリーとして認識していたはずです。「NOISE」を加瀬流ストーンズとするなら、「THE VANITY FACTORY」は佐野流ストーンズ。
佐野さんというまったく新たな才能と、「GS回帰」アレンジとの合体。なんとも刺激的なアイデアです。こうして「THE VANITY FACTORY」には、「アンダー・マイ・サム」のリフ・オマージュが施されました。
こうなればジュリーのヴォーカルに「あぃやっ!」が加わるのは必然。「これこれ!こういう感じがイイんだよ!」とレコーディング・スタジオで全開モードになるジュリーの姿が目に浮かぶようですね。

『G. S. I LOVE YOU』の大きな魅力として吉野金次さんによるミックスの特殊性が挙げられますが、アルバムのクライマックスとも言える配置の「THE VANITY FACTORY」では、「HEY!MR.MONKEY」や「彼女はデリケート」のように、荒々しいコンプレッサーのセンドリターンを施した演奏トラックを最右、最左に完全に振り分けるようなミックスにはなっていません。基本センターに各楽器を集中させ、オルガンとバッキング・ギターのトラックだけを左右に拡げている感じ。
このことからも、アルバム『G. S. I LOVE YOU』の中で「THE VANITY FACTORY」が「シングル曲」とはまた違った看板ナンバーとして制作スタッフ間に共通の認識があったことが窺えます。

ジュリーは『G. S. I LOVE YOU』収録の佐野さんの作品をとても気に入ったようで、「THE VANITY FACTORY」もその後のLIVEセットリスト入り常連のナンバーとなっていったようですね。
Co-CoLo期にオリジナルとはまったく異なる斬新なアレンジで演奏されていたりもしますが(それはそれで滅茶苦茶カッコ良いです!)、僕が『奇跡元年』でこれまで唯一生で聴いた時は、「アンダー・マイ・サム」のリフ再現ありのヴァージョンでした。
また、1998年お正月LIVE『Royal Straight Flush』では、「アンダー・マイ・サム」「The Vanity Factory」の2曲をブッ続けで歌うという確信犯的なセットリストもありますね(生で体感された先輩が羨ましい!)。

先程、佐野さんの作品はティーンエイジ
ャーに圧倒的に支持された、と書きましたが・・・これは、一昨年末に亡くなられた大滝詠一さんと同じく、10代の少年少女が憧れた「素敵な大人」をその音楽の中に見出していたことがひとつあると思うんですね。
そして佐野さんの場合にはサウンドはもちろんですが、少年達が望む「大人」像の発言としての「歌詞の魅力」がそこにあったと僕は思うわけです。


オフィスの窓にもたれて
Am                  F

ブラインドを少しずらして
  G                     C

水曜日の夕暮れを 静かに吸いこむのさ ♪
Am           F            G                   Am   


佐野さんの『SOMEDAY』で初めて聴いた時には、まずは深く考えず「なんだか語呂がカッコイイ」というだけでその歌詞に惹かれたものでした。
ただその後、佐野さんの発する言葉のひとつひとつを考えるに連れ、聞き手の少年達は覚醒します。
社会に従事する「働く大人」でありながら、世の不条理への違和感を隠さない。おかしいことはおかしいと、虚構は虚構だと言う。
「子供は易々と大人の欺瞞を看破するもの」とよく言われますが、その中で数少ない(と少年達には感じられていた)「少年の感性を持つ大人」が、世にはびこる虚構にどう向き合ってゆくのか・・・。

1月の夜が 静かに 降りてくる ♪
Dm  Em    Fmaj7  E7-9

(注:『ストリッパー』楽譜集では、この部分の最後は「E7」の採譜。でも「E7-9」の方が僕はしっくりきます)

多くの佐野さんの楽曲のメッセージは「思考することをやめない」ことだと僕は思っています。
昨年よりもさらに「大変な年」・・・2015年が始まったこの1月に、改めてよく「考えて」みたいことも多いです。ジュリーの『昭和90年のVOICE∞』も、そんなセットリストになるのではないでしょうか。

僕は佐野さんの『SOMEDAY』では、レコードB面の「真夜中に清めて」「ヴァニティー・ファクトリー」「Rock'n Roll Night」の3曲の流れが好きでした。そのせいでしょうか、「THE VANITY FACTORY」には「B面のヤマ場」というイメージを持っていて、それは『G. S. I LOVE YOU』でも(聴いたのはCDでしたが)感じとることができました。
さらに、生涯2度目のジュリーLIVE『奇跡元年』で初めてこの曲を生で体感した時、「アンコールでのセットリスト入り」がふさわしい曲だなぁと思ったものです。
僕にとって「THE VANITY FACTORY」は「佳境」のナンバーなんですよ。

『昭和90年のVOICE∞』初日渋谷公演・・・僕はこの「THE VANITY FACTORY」が『奇跡元年』と同じく、アンコール・ナンバーで採り上げられると予想します!
さて、実際はどうなりますか。


それでは、オマケです~。
『ヤング』1981年2月号の巻頭特集ページから、アルバム『G. S. I LOVE YOU』全曲を歌った、という81年新春コンサートのフォトをどうぞ~。


810201

810202

810203


さぁ、これにて今回のセトリ予想シリーズは終了。
近日中に簡単な「ネタバレ禁止」のお願い記事を更新しまして、こちら本館は20日フォーラム公演のレポート執筆(僕は初日とオーラスに参加します!)まで、しばらくの間お休みします。
その間はいつものように、別館side-Bにてどっぷりと『昭和90年のVOICE∞』セットリストに浸る予定。

どんな曲が歌われるのでしょうか。僕のセトリ予想は少しは当たるのか・・・本当に楽しみです。
もし、アンコールで「THE VANITY FACTORY」のイントロが流れたら、予想的中とかそういうことに関係なく、とんでもなく盛り上がってしまうだろうなぁ・・・。

まずは、逸る心を抑えて仕事に邁進いたします。
昨年末から寒い日が続いていますから、みなさまもどうぞお身体には気をつけて!

| | コメント (16) | トラックバック (0)

2014年9月10日 (水)

沢田研二 「HEY!MR.MONKEY」

from『G. S. I LOVE YOU』、1980

Gsiloveyou

1. HEY! MR. MONKEY
2. NOISE
3. 彼女はデリケート
4. 午前3時のエレベーター
5. MAYBE TONIGHT
6. CAFE ビアンカ
7. おまえがパラダイス
8. I'M IN BLUE
9. I'LL BE ON MY WAY
10. SHE SAID・・・・・・
11. THE VANITY FACTORY
12. G. S. I LOVE YOU

----------------------

いやぁ・・・僕は参加できなかったのですが、6日の渋谷公演のMCで、ジュリーがビッグニュースを届けてくれたみたいですね~。
来年からの改装工事が決まっている渋谷公会堂・・・そのひとまずのお別れ、大トリとしてジュリーが最終3日連続の公演を務める方向で話が進んでいるのだとか。
凄いことだ、と思います。

いえ、タイガース時代からジュリーと共にあり、何十年にも渡るジュリーと渋谷公会堂の縁を知り尽くしていらっしゃる長いジュリーファンの先輩方にとって、それは「当然」のことでしょう。でも、僕のような後追いのファンからすれば、「さすがはジュリー!」「やはりジュリー!」、ジュリーはとんでもなく凄いロッカーだったんだ、と改めて知らされた思いです。
今の若いバンドマン達はどうか分かりませんが、少なくとも僕の世代までは・・・若者が「ロックバンド」を志すにあたって夢に見る、憧れの舞台というのはまず渋谷公会堂、最終的には日本武道館、という歴然としたステータス認識がありました。
日本ではこの2つの会場が「ロックの象徴」であり、アマチュアはそのステージを夢に描き、プロデビューしたロッカー達は皆、そこを目指すのです。目標を遂げた者は、自他共に認める「ロックの歴史の一員」となります。

これまで、「我こそはロックなり」と手を挙げ名をなした幾多のバンドやアーティスト達が、渋谷公会堂のステージに立ち、歴史を作り上げてきました。「渋公がひとまずお別れとなるならば」と勇んで今一度渋谷公会堂の有終のステージに立たん、と息荒い思いを持つビッグネームは邦楽ロック界にはたくさんいることでしょう。
しかし、渋谷公会堂の「ロックの歴史」はその記念すべき大トリに「沢田研二」を選びました。
こんな誇らしいニュースは無い!

きっと、長いジュリーファンの先輩方と同じように、渋谷公会堂側のスタッフのみなさんが、ハッキリ認識してくれているのですよ。この「ロックの聖地」とまで呼ばれた箱のひとまずの幕引きに、一体誰が最もふさわしいのか、ということを。
これが実現すればもう、ジュリーという歌手が「日本におけるロック・ライヴの神様のような存在である」と天下に知らしめられたと言って良いんじゃないかな~。
同時に、ジュリーの「ロック・ライヴ」は現在進行形で、今正にその頂点にあるのだということも。

無理だろうけれど、気持ち的には3daysすべてに参加したいところです。できれば改装前に、未だ経験が無い2階の出っ張り部分(SONGE様が「天使の羽根席」と呼んでいらっしゃるお席)で一度観ておきたいなぁ・・・。
本当に嬉しい、心沸き立つビッグニュースでした。会場で直接ジュリーのMCを聞いたYOKO君も、興奮してそのことを話していましたよ。


それでは、本題です。
前回記事では、ピー先生のツアーに二十二世紀バンドのメンバーとして参加中のJEFFさん率いるオレンジズの最新アルバム『SCORE→』をご紹介し、ネオ・モッズのことなど色々書かせて頂きました。
今日はそれを受けて・・・という感じで前回記事のキーワード、「60年代回帰」「変態作曲家」(褒めてます!)という面から80年代初頭のジュリー・ナンバーを採り上げ、その魅力と特異性に迫ってみたいと思います。

制作に関わったスタッフが、明らかに当時の正当的なロック界を席捲していたネオ・モッズ、ニューウェーヴといった気鋭のバンドの影響下で力を注いだと考えられる、不朽の大名盤『G. S. I LOVE YOU』から、ジュリーが驚異の作曲能力を発揮した名曲です。
「HEY!MR.MONKEY」、伝授!

「神頼み」ならぬ「モンキー頼み」・・・糸井重里さんのトリッキーな詞。ご存知のかたも多いかもしれませんが、洋楽ロックにおいて「MONKEY」という単語はかなりアブナい隠喩として使われます。糸井さんはもちろんそうしたニュアンスをも狙っているでしょう。
タイトルに「MONKEY」が入っている曲・・・ビートルズなら「エヴリバディーズ・ガット・サムシング・トゥ・ハイド・エクセプト・ミー・アンド・マイ・モンキー」、ストーンズなら「モンキー・マン」。
いずれも、最高にブッ飛んだ、「過激な」名曲です。そしてそれはジュリーの「HEY!MR.MONKEY」も同じ。

「過激」・・・僕が『G. S. I LOVE YOU』をジュリーの幾多の名作群にあって、特に「オンリーワンなアルバム」とイメージを持っている要因のひとつです。

前回記事では、「ネオ・モッズ」というジャンルが簡単に言えば「60年代のバンド・サウンド回帰」を目指したものである」とし、日本のGSとの共通点にも言及しました。
海の向こうの「60年代の正統派ロックの志、忘るるべからず」というネオ・モッズ・ムーヴメントは1979年の映画『さらば青春の光』大ヒットを起点として生まれ、80年代に入ると多くの魅力的なバンドを誕生させました。
愛すべき60年代バンド・サウンドへの回帰を志す新たな多くのバンドの出現、その作品群に、洋楽ロックの流行に鋭いアンテナを持つ加瀬さんや木崎賢治さん、そして伊藤銀次さんなどのプロフェッショナルが、「よ~し!」と意気に感じ沸き立たないはずがありません。
ネオ・モッズ全盛、ニューウェーヴが完全覚醒した1980年代初頭、『G. S. I LOVE YOU』というアルバムで、ジュリーの周囲にいた強者の面々が「60年代のGS回帰」のコンセプトを打ち出したのは、当時急速にロック色を強めていったジュリーの作品作りを考えても、ごく自然な流れだったのではないでしょうか。
これは、先月の銀次さんのラジオ番組で語られた内容からも推測できることです。

70年代末から現れ始めた正統派洋楽ロック・バンドによる60年代ロック回帰のエネルギーは、こうしてこの日本でジュリーの大名盤『G. S. I LOVE YOU』を生み出すと同時に、GS再燃のムーヴメントに火をつけ、81年の日劇ウエスタン・カーニバルのファイナル公演の熱気、さらにザ・タイガース同窓会実現へと繋がっていった・・・このあたりの経緯については、僕などより先輩方の方がよくご存知でしょう。

そこで今日僕は「HEY!MR.MONKEY」に明確に採り入れられている60年代回帰のコンセプト、さらには作曲家・ジュリーの凄味、という2つの点を中心に考察させて頂きます。

まずは、60年代回帰について。
これはね・・・楽曲そのものはもちろんですが、アレンジとミックスによく表れているんです。
当然、仕掛け人は加瀬さんそして木崎さんでしょうか。そのコンセプトを受け形を纏め上げたのが銀次さんを中心としたレコーディング・スタッフの達人の面々、ということですね。

特に「HEY!MR.MONKEY」はアルバム1曲目ということで、制作時の並々ならぬ気迫が感じられます。
銀次さんはアルバム制作中、木崎さんから「もっと過激に、もっと過激に!」とさかんにハッパをかけられていたといいます(銀次さんのブログより)。「過激」のベクトルが当時のネオ・モッズやニュー・ウェーヴのムーヴメントに根ざしていて、「ジュリーの作品ならばさらにそれを痛快な「肯定」のエネルギーを以って日本の音楽シーンに広く提示できるはず」との確信が制作スタッフの胸にあったことは間違いないでしょう。
「HEY!MR.MONKEY」は、その象徴のような1曲です。

60年代ロックへの回帰、というコンセプトで銀次さんがこの曲にまず施したのは、2つのビートルズ・ナンバーのアレンジ・オマージュの導入。これについては、かつて銀次さんのブログで詳しい解説がありました。
サイド・ギターとベースがユニゾンする16ビートのリフは、アルバム『リボルバー』の1曲目に収録されているジョージ・ハリスン作の「タックスマン」。これは本当に「まんま」ですから、初めて聴いた瞬間僕にもオマージュ元が分かりました。銀次さんもブログで語っていたように、長調と短調の違いがあっても、アレンジの工夫次第ではそのまま載せられるんだよ、ということです。
後に白井良明さんが、長調の「
ブルーバード ブルーバード」に短調の「青い鳥」のギター・フレーズを載せたアレンジ・アイデアと狙いは同じだと思います。

もう1曲のビートルズ・ナンバーのオマージュ元は、アルバム『ア・ハード・デイズ・ナイト』収録のポール・マッカートニーの作品「今日の誓い」(タイガース・ファンのみなさまには、タローのヴォーカル曲としてお馴染み?)。
「ジャカジャン♪」とマイナー・コードを強いストロークでただ鳴らすだけで、こんなにも過激でインパクトの強いイントロになる、というね。
実はこのオマージュについては僕はずっと気づけていなくて(アコギとエレキの違いでイメージが変わっていたからだと思います)・・・銀次さんのブログを拝見した時に「あぁ、そうか!」と目からウロコでした。
いやぁ、凄いよ銀次兄さん!

思えば銀次さんがブログで『G. S. I LOVE YOU』の制作秘話を綴ってくださったのは、2011年でした。あの辛い時期に、ほぼタイガースの全国公演があり、一方で銀次さんがGS回帰をコンセプトとしたジュリーのアルバムについて詳しく語ってくださっていた・・・全国のGSファン世代が、どれほど励まされたことか。
60年代の熱い音楽には、力があるということですよ!

また、銀次さんが再度アレンジを担当したジュリー・アルバムの次作『S/T/R/I/P/P/E/R』(こちらも海の向こうのタイムリーなムーヴメント、パブロックの影響が色濃く主張されています)にも、また色々なアレンジ・アイデアの秘密があったはずで・・・銀次さんのブログでの制作秘話続編を心待ちにして早、数年が経ちます。
銀次さん、早く書いてくれないかなぁ(柴山さんのファンのみなさまも首を長くしてお待ちのようですし・・・)。
ロックパイル・ファンの僕としては、「
バイバイジェラシー」の秘密が特に知りたいぞ~!(笑)

続いて、ミックスについて。
各演奏トラックに荒々しいコンプレッサー処理が施されているのが、まずこの『G. S. I LOVE YOU』制作にあたっての「過激なロック解釈」のアイデアと言えます。
この点、阿久=大野時代にも同様のコンプレッサー処理が見られます(歌謡曲黄金期のジュリー・アルバムの「ロック性」も見逃すなかれ!)。

そしてこのアルバムには、「擬似・擬似ステレオ」と言うべき特殊なミックスが施されています。これはネオ・モッズの例ですと、後にザ・ジェットセットというバンドが4枚目のアルバム『ヴォードビル・パーク』で採り入れている手法と同じで、やはり「60年代ロックへの回帰」をコンセプトとしたもの。
モノラルとしてレコーディングされた作品を、後から「擬似ステレオ」処理した60年代ロック・・・ビートルズのアルバムはじめ、数多く存在します。「力技」のステレオ処理のため、演奏トラックがそれぞれ左右にくっきりと寄せられているのが大きな特徴。例えばビートルズの初期作品では、片方が演奏で片方がヴォーカル、と完全に左右に2分されている「擬似ステレオ」テイクもあります。

『G. S. I LOVE YOU』はそこまで極端ではありませんが、「左寄り」「右寄り」のミックスが当然のように可能となっていたこの時代に、「完全に左」「完全に右」というトラック振り分けを敢行・・・まさに「敢えてこうする!」というミックスなのですよ。目指しているのは、サイケデリック期のビートルズの雰囲気ですね。
これこそ『G. S. I LOVE YOU』というアルバムの大きな個性であり(実は、シングル・ヴァージョンの方の「渚のラブレター」もそのコンセプトに沿ったミックスとなっているのです。そちらについての詳しい考察はまたいずれ)、収録曲中「HEY!MR.MONKEY」は「彼女はデリケート」と並びその点で最も徹底されているナンバーです。

ヘッドホンで聴けばよくお分かりになるかと思いますが、この曲の「擬似・擬似ステレオ」ミックスの内訳はこうなっています。

最左に、ドラムスとオルガン。
最右にサイド・ギターとベース、さらにもうひとつ・・・何と、ヴォーカル・ディレイ!

ジュリーのリード・ヴォーカルにかけられたエフェクト・ディレイの残響音を、わざわざ別トラックに書き出し、それを最右サイドに振ってミックスしているという・・・信じられないほどの手間をかけたミックス処理です。
これ、『ロックジェット56号』掲載の白井さんのインタビューでの言葉を借りるなら、正に「変態」の域ですよ!そこまでやるか、というね(繰り返しますが、白井さんが語っているように、「変態」というのは当時ロック界において流行した最高の褒め言葉なのです)。

そして、最高にイカした「変態」と言えば。
銀次さんも驚嘆していた、ジュリーの作曲です!

いや、アルバム『JULIEⅣ~今僕は倖せです』などを聴けば、「ジュリーならこのくらいの斬新な作曲は以前からやってるよ」ということにはなりますが、銀次さんが驚き感心したのは・・・アルバム『G. S. I LOVE YOU』制作に課せられた「もっと過激に!」というコンセプトにピッタリの曲を楽々と提示してきた、という、「時代の申し子」としてのジュリーの資質だったのではないでしょうか。
「歌手としての表現だけでなく、作曲でもここまで時代感覚を自然に持つ人なのか!」と。
アルバム2曲目の「NOISE」が、アレンジやミックスのアイデアを注ぎ込むうちにどんどん「過激に」変貌していったのに対し、1曲目「HEY!MR.MONKEY」はジュリーの作曲段階から既に「過激」が運命づけられていた曲だった、と言えましょう。

「HEY!MR.MONKEY」のコード進行は、本当に過激に尖りまくっています。
銀次さんがブログでその斬新さ(過激さ)を解説、絶賛してくれていたのは、「Oh!Mr.Monkey♪」から始まる転調部でした。

Mrmonkey


↑ 『ス・ト・リ・ッ・パ・-/沢田研二楽譜集』より

Oh!Mr.Monkey 俺のことなどどうでもいい
           Em                                D7     G

明日死んでもかまわない
A♭                          D7

Oh!Mr.Monkey あのコにすべてをあげてくれ
           Em                               E♭         D7

世界一   幸せにしておくれ ♪
A♭ B♭  A     D7        Gm

ト短調からホ短調への転調、という時点でとんでもない進行・・・銀次さんはその破天荒ぶりを、「ハートに火をつけて」に比するほどだ、とドアーズの名曲を例に挙げてブログで解説されていましたが、これは「とんでもないコード進行」例としてすごく分かり易い比較で、さすがは銀次さん、と思ったものです。
ただこの転調に関しては、「GmからGへの同主音による近親移調の応用(Gを同調号のEmキーに見立てる)」と、無理矢理に理屈をつけられなくもありません。
銀次さんが心底ブッ飛んだのは、その転調部の中身。ジュリーの編み出したあまりにも独創的展開についてなのですよ、きっと。

一番凄いのは「世界一幸せに♪」の箇所でしょう。和音ごと1音上がって半音下がってからD7。そのD7が見事に元のト短調のドミナントとして機能しているという・・・。
また、「すべてをあげてくれ♪」での「E♭→D7」は、転調前のAメロにも登場する進行なのです。

歩き疲れて  はぐれてる ♪
B♭      D7  E♭        D7

「はぐれてる♪」の箇所ですね。
突拍子もない転調をした後で、転調前とまったく同じ半音下がりの進行がキレイに揃って出てくるって、一体どういう感性で作曲しているの?・・・と、銀次さんが完全KOされる様子が目に浮かびます。

ジュリーとしては純粋に「ハードな短調」が狙いだったのでしょう。曲想からシンプルに考えれば、その後の「ス・ト・リ・ッ・パ・-」「十年ロマンス」「麗人」「灰とダイヤモンド」といった短調シングル・ヒット群へと繋がる、作曲家・ジュリーのキャリアの起点となった作品、と捉えることもできます。
しかし、時代背景と共に表れた、隠しきれないジュリーの資質と才能、銀次さん達スタッフの入魂の作業が「過激性」となり、「HEY!MR.MONKEY」は突如独立出現したジュリー作曲の異色作・・・そんな位置づけの傑作ロック・ナンバーということになりそうです。

それにしても・・・演奏トラックだけならまだしも、ジュリーのリード・ヴォーカル・トラックを後処理でここまでいじり倒した(もちろん良い意味で、ですよ!)アルバムというのは、後にも先にもこの『G. S. I LOVE YOU』只1枚限りでしょう。
それは、ジュリーが時代のロックに望まれ選ばれた証でもある・・・そう思います。

ネオ・モッズのコンセプトがそうであったように、当時銀次さんが80年代に入って「肯定的メッセージを持つロック」の行く末を案じていた面は多分にあったはずです。
ジュリーという時代の申し子と巡り逢い、ロックを愛するスタッフが皆渇望していた「60年代バンド・サウンドへの回帰」を実現。若きプロフェッショナルとしてアルバム制作に心血を注いだ銀次さんにとって、『G. S. I LOVE YOU』は宝物のような作品なのでしょうね。


それでは、今日のオマケです!
ご紹介するのは有名な『ス・ト・リ・ッ・パ・-/沢田研二楽譜集』のショットから。
この本には、アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』収録全曲だけでなく、『G. S. I LOVE YOU』の収録全曲のスコアも掲載されています。写真が目玉であることは間違いないですが、スコアとしても凄まじく貴重なお宝なのです。

まずは、「
HEY!MR.MONKEY」と「彼女はデリケート」のスコアが抱き合わせで載っている見開きページ(アルバム中、最も過激なロック・チューン2曲の組み合わせ!)の、クールなジュリーのショットを2枚。

Stripper05

Stripper06

続いて、7月の大宮公演MCでも話題となった、森本千絵さんと一緒のショットを2枚。

Stripper01

Stripper02

最後に、この本の扉ページに掲載の、最高にカッコ良いジュリーのショットを。

Stripper04

この容姿で、歌も作曲も、若くしてその才を開かせる・・・天はニ物を与えまくっていますね。


さて、次回更新はジュリーの『三年想いよ』神戸公演のレポートとなります。
カミさんの実家での法事予定などもあり、帰宅するのは15日の夜になりますから、下書きにとりかかるまでには日数がかかってしまうかと思います。
前後のジュリーの各地公演の様子・・・みなさまのご感想も楽しみながら、神戸のジュリー、鉄人バンドのステージについてゆっくり書いていくことになるでしょう。
よろしくお願い申し上げます!

| | コメント (14) | トラックバック (0)

2013年5月18日 (土)

沢田研二 「CAFE ビアンカ」

from『G. S. I LOVE YOU』、1980

Gsiloveyou

1. HEY!MR.MONKEY
2. NOISE
3. 彼女はデリケート
4. 午前3時のエレベーター
5. MAYBE TONIGHT
6. CAFE ビアンカ
7. おまえがパラダイス
8. I'M IN BLUE
9. I'LL BE ON MY WAY
10. SHE SAID・・・・・・
11. THE VANITY FACTORY
12. G. S. I LOVE YOU

---------------------

今日は、つい先日J先輩からリクエストを頂いた曲をお題に採り上げます。
アレンジについて暑苦しく掘り下げる大長文となることが予想されますので、枕もそこそこにいきなり本題に入りますよ~。

アルバム『G. S. I LOVE YOU』から。
「CAFE ビアンカ」、伝授!

とにかく僕は、ビートルズネタが絡むと途端に物凄い勢いで書いてしまうんですよね・・・。
まずは、前回記事で少し触れましたが・・・今回このお題を採り上げるきっかけとなった、ジュリーと中村雅俊さんのデュエットによるビートルズ「恋におちたら」のカバー映像をもう一度おさらいしておきましょう。

https://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=pLF3FEIPBEg

本当に素晴らしい歌声だと何度も聴き惚れてしまいます。
ジュリーは、ソロ部でジョン・レノンのパート、ハモリ部でポール・マッカートニーのパートを歌っていますね。

僕にこの映像を教えてくださったJ先輩はビートルズにも詳しい方で、同じことを仰っていたのですが・・・ビートルズのオリジナル音源の「恋におちたら」では、ポールがちょっと歌に苦労している箇所があるんです。
これは60年代前半のレコーディングではある程度は仕方のないことで、今ならコーラス・パートのトラックは後録りが基本ですが、当時はリード・ヴォーカルと同時の一発録りですからね・・・。しかもこの曲の場合は歌メロのほとんどが緻密に練りこまれたハーモニーから成っていますから、なおさらです。

このようにビートルズ初期作品では、音程や歌詞や発声タイミングなど、誰かが上手く歌えても他の誰かがいまひとつ、という状態のままオッケーテイクとして採用されることもしばしば(初期ビートルズはレコーディングにじっくりと打ち込める時間も少なかったのです)。
そのパターンで一番有名なのは、「プリーズ・プリーズ・ミー」の3番。リード・ヴォーカルのジョンが豪快に歌詞を間違いますが、ポールとジョージは何事もなかったように正しい歌詞でコーラスを
(←どこかで聞いたような話ですが)・・・。「しまった間違った!」ということでジョンはすぐ後に続く「カモン、カモン・・・♪」の最初の「カモン」を笑いながら歌っています。このテイクが現在も正規音源として世界中で聴かれているのです。

僕のようなビートルズ・フリークはそういった箇所も含め「完成テイク」として曲が頭に叩きこまれています。
ただ、今回ジュリーが歌った「恋におちたら」を聴き、「あぁ、そうかそうか」と、ジュリーの歌う完璧なメロディーで改めてこのビートルズ・ナンバーの名曲を噛みしめる機会を得ました。新鮮な感覚でしたね~。
ポールってメチャクチャ音域の広いヴォーカリストで、高い「ラ」とか「シ」とか平気で出しちゃう人なんですけど、上の映像を観るとメロディーが高く跳ね上がる箇所でさすがのジュリーも「ちょっと高いな~!」と顎を動かして上向きになる恍惚っぽい表情
(←やわらかい表現にしてみました汗)で歌っているのがイイですね~。

さて、それではこの「恋におちたら」という曲のどの辺りが今回のお題「CAFE ビアンカ」と繋がると僕が考えているのかと言いますと。
この曲のオマージュ元などアレンジ作業仕上げの過程についてまず参考にしなければならないのは、伊藤銀次さんがかつて”『G. S. I LOVE YOU』制作秘話”としてブログに連載してくださっていた記事。ファンが立ち入れない音源制作過程のエピソードが満載で、本当に貴重なお話を堪能できます。
アルバム全曲をすべてについてではありませんが、いくつかの収録曲については銀次さんが当時を振り返りながらとても細やかにアレンジ解説してくれていて、その中には「CAFE ビアンカ」についての記事もありました。

「恋におちたら」についての言及までには少し時間がかかりますが、銀次さんの解説を参考にしながら「CAFE ビアンカ」のアレンジとそのオマージュ元を順を追って考察していきましょう。

「CAFE ビアンカ」のアレンジについて銀次さんは、「かまやつひろしさんの曲を聴いた瞬間に、ビートルズのティル・ゼア・ウォズ・ユーみたいな仕上がりにしたいと思った」と語っています。

Cafe3


シンコー・ミュージック刊 バンドスコア
『ウィズ・ザ・ビートルズ』より

元々はブロードウェイ・ミュージカルのナンバーだったものを、ポール・マッカートニーのヴォーカルでビートルズがカバーした曲。R&B色が強い彼等のセカンド・アルバムの中で唯一「バラード寄り」のナンバーです。
(リリース当時としても)古き良き時代の洒落た雰囲気を持つこの曲は、かまやつさん作曲段階のコード進行やメロディーの時点である程度は連想できたのかもしれませんが、アルバム全体のバランス、そしてかまやつさん作の2曲(もう1曲は「午前3時のエレベーター」)にそれぞれ違った味付けをしようとした銀次さんの切り口は、やはり素晴らしいと思います。

Cafe1


『ス・ト・リ・ッ・パ・- 沢田研二楽譜集』より

余談になりますが、このスコアで『CAFE ビアンカ』は見開き左ページに「NOISE」と抱き合わせで収載されておりまして、じゃあその見開きの右ページの方はどうなっているかというと

Cafe2

こうなっているわけです。
いやぁ、素晴らしい本が出版されていたものだなぁ、と改めて思う次第です・・・。

さて、ビートルズ・ヴァージョンの「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」と言えばアレンジの肝はガット・ギター(リード・ギター担当)とアコースティック・ギター(サイド・ギター担当)のアンサンブルと、静かに曲の抑揚を強調するボンゴですから、当然銀次さんは「CAFE ビアンカ」のアレンジでそれらの楽器を採り入れています。
で、たぶん銀次さんとしては普通に「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」のポールのようなシンプルなエレキベースを考えていたかと思いますが、アレンジを詰めていく段階で吉田建さんが「自分はウッド・ベースを弾こうかな」と申し出てくれた、と銀次さんはとても嬉しそうにブログで書いてくれています。

自分の身体に染みついているビートルズやストーンズなどの洋楽ロック・エッセンスを惜しみなく注ぎ込むことで、ジュリー・アルバムのアレンジャーという大役(銀次さんの文章からは、まぁ謙遜もありましょうが「若造が凄い仕事をやらせて頂いた」という大きな喜びと心地よいプレッシャーがあったことが窺えます)に立ち向かっていった銀次さん。
自分が提示した60年代洋楽ロックへのオマージュに、建さんのウッド・ベースがジャズの要素を加味し、一層のオシャレな雰囲気が「CAFE ビアンカ」に注入され・・・それがまたジュリーの声に凄まじく合っていた、という”魔法”が銀次さんの中で今も強く印象に残っているのではないでしょうか。
ちなみに、ストーンズの「アンダー・マイ・サム」をアレンジ・オマージュ元とした「THE VANITY FACTORY」でも、まったく同じ魔法がかかっているんですよ~。

僕がタイムリーで観ていた『イカ天』の審査員として、キチンとした音楽観をそれぞれが違った形で持ちつつ絶妙なコンビぶりを発揮していた銀次さんと建さんには、かつてこんな共同作業の経験があったんだなぁ、と・・・後追いジュリーファンの僕は今さらのようにしみじみとしてしまいます。

名前は忘れましたけど、『イカ天』に登場したあるバンドに対して、銀次さんがちょっと専門的な注文をした回があって、その時バンドのメンバーが「いや、僕らはジュリーとか好きなんで・・・」と、「分かりにくいのかなぁ」みたいな感じで言葉を返したんです。
僕はそのバンドはとても良いと思ったし、銀次さんもおそらく同様で、僅かに足りない部分のサジェスチョンとしての注文だったかと思うのですが・・・メンバーの返答を聴いて、あの温厚な銀次さんの顔色が変わりました。
「俺だってジュリー好きだよ!一緒にしないでよ!」

銀次さんが語気荒くそう言い放ったことを、当時まだまだジュリーファンではなかった僕がとても印象深く覚えていて、こうして記事中で書いているというのもね・・・何かの巡り合わせなのでしょうか。
あ、そのバンドメンバーは銀次さんの一喝に大変恐縮していましたよ。ジュリーへの愛情を示した銀次さんへのリスペクトでしょう。
今僕がそのバンドの曲を聴けたら、ジュリーファンとして何か新しく発見できることがあるかもしれないなぁ。どなたかバンド名を覚えていらっしゃらないでしょうかねぇ・・・。

と、すでに話が長くなっていますが(汗)。
銀次さんのブログには「CAFE ビアンカ」のオマージュ元の話について「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」1曲しか明記がありませんが、当然それだけではないはずなんですよ。

ビートルズへの愛情故か、若さ溢れるバイタリティー故か、ジュリーの仕事で気合に満ちていたのか・・・とにかく銀次さんはとんでもなく細かいところにまでオマージュを散りばめ、もうご本人も何処から何処まで、と、とてもすべてを語り切れなくなっていると思うんです。
その細かさについて、アルバム他収録曲で銀次さんの言及があるものを挙げると、「HEY!MR. MONKEY」のイントロが「今日の誓い」であったり(曲全体が「タックスマン」なのはすぐ分かりますが、これは細かい!)、「I'M IN BLUE」のイントロが「エニータイム・アット・オール」であったり(これは銀次さんのブログを拝見するまで僕はまったく気づけませんでした)・・・。
ならば、「CAFE ビアンカ」にもまだまだ銀次さんのビートルズ・ネタが詰まっているに違いない!と考え、今回記事を書くにあたって、この曲に秘められたビートルズ・ナンバーを僕なりに推測してみました。

そこでようやく「恋におちたら」のお話。

Cafe4


シンコー・ミュージック刊 バンドスコア
『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』より

「CAFE ビアンカ」の0’24”と1’15”に登場する、僅か1小節の和音進行がズバリ「恋におちたら」へのオマージュではないか、と。

♪ 最後の灯をつけた キャンドルライトに
  G             B7   Em         C    E7    Am  Am7

  ほほえんでいた You will be shinning ♪
     D7                 Daug         G          E♭ D7

の、「E♭→D7」の箇所ですね。
この進行に載せてガット・ギターがアルペジオで絡みます。これが「恋におちたら」の

♪ from the very  start   that  you would
              D  Em F#m    Fdim  Em7

  love me more than her ♪
  A7                       D    Gm7  A7

「Gm7→A7」・・・分かりやすく「CAFE ビアンカ」と同じト長調に移調した時「Cm7→D」となる部分をオマージュとしたものではないでしょうか。
「E♭→D7」と「Cm7→D7」では違うコード進行じゃん、と思われるかもしれませんが、「E♭」の構成音は「ミ♭・ソ・シ♭」、「Cm7」の構成音は「ド・ミ♭・ソ・シ♭」。これはもう双子みたいなものです。
かまやつさんの配した「E♭」のコードから、「恋におちたら」の僅か1小節の印象的なキメ部を連想することは、銀次さんの実力からすればたやすいことだったかもしれません。
また、そこにガット・ギター8分音符の単音アルペジオを持ってくることで、「恋におちたら」と同じアルバムに収録され、似た感じの曲想を持つビートルズ・ナンバー「アンド・アイ・ラヴ・ハー」の雰囲気までをも採り入れているように僕には思えます。

Cafe5


シンコー・ミュージック刊 バンドスコア
『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』より

「アンド・アイ・ラヴ・ハー」のアレンジの肝は、間奏のみならず歌メロ部でもアルペジオで活躍するガット・ギターと、ボサノバっぽいタイミングのリズムを刻むクラベス(日本の拍子木みたいな音が出るラテン・パーカッション)で、何とこのクラベスの音が、「CAFE ビアンカ」の中でたった1打だけ・・・0’04”に登場するのです!
全体の演奏の中で、「1箇所」ではなく「1打」ですよ。たったの1打、それだけのためにクラベスをこの曲に導入しているという・・・銀次さんの狙い、おそるべしです。ビートルズ・フリークのリスナーが無意識にこの1打音だけで右脳を刺激される、ということを銀次さんは心得ているのですね。

さらに、「シャ~イニ~ン♪」というメロディー部と和音の組み合わせに僕は「ミズリー」というビートルズ・ナンバーをも連想してしまいますが、これはかまやつさん作曲の時点で完成していたのかな・・・。

あとは、間奏のピアノです。
いかに楽曲全体を「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」のイメージに統一したとしても、ビートルズの「ティル・ゼア~」と同じように間奏をガット・ギターで・・・という選択は銀次さんには考えられなかったはずです。『イカ天』審査員時代に一番拘ったのは「歌詞が安易ではないかどうか」という姿勢。そう、ポップ・ミュージックにおける歌詞の存在は銀次さんが構築する楽曲の仕上がり上、最も重要なパーツなのです。

♪ 誰もすわる人 の いないピアノ
  G             B7  Em    C    E7  Am  Am7

  奏でていたよ You will be shinning ♪
   D7               Daug         G           E♭ D7

この詞の直後に間奏が来るなら、それはピアノ・ソロでなければならない・・・銀次さんにとっては当然の発想だったでしょう。

ビートルズ・ナンバーのピアノ・ソロと言えば、有名なのは「イン・マイ・ライフ」(演奏・ジョージ・マーティン)や「ドント・レット・ミー・ダウン」「ゲット・バック」(演奏・ビリー・プレストン)といった中後期の作品なのでしょうが、歌詞からのインスピレーションで「CAFE ビアンカ」に採用されたピアノ・ソロは、いわゆる「歌メロをそのままなぞる」というシンプルなもの。
ここで銀次さんの頭にビートルズ的な着想があったとすれば、たぶんこれです。

Cafe6


シンコー・ミュージック刊 バンドスコア
『ウィズ・ザ・ビートルズ』より

「ナット・ア・セカンド・タイム」。間奏ではサビのメロディーをそのままピアノの単音低音部で弾いています。
技術的には何てことない演奏ですが、逆にそれがいかにも50~60年代のオールディーズ、といった感じで独特の味わいがあるのです。
誰にでも弾けそうな、シンプルに歌メロをなぞるだけの演奏は、「CAFE ビアンカ」の”誰もすわる人のいないピアノ”という詞の世界に合うパターンではないでしょうか。

銀次さんのブログによれば、このピアノ・ソロはジュリーが「自分が弾く」と申し出て演奏したそうですね!
こうした逸話は僕のような新規ファンにとっては本当に貴重。不注意な僕は銀次さんのブログで知るまで、CDの演奏クレジットを完全に見逃していましたよ・・・。
歌入れを待つジュリー、作曲者のかまやつさん等アルバムに関わるメンバーがレコーディング現場に集まり、アイデアを出し合いながら楽しげに曲を仕上げていく様子が伝わってきます。
銀次さんは『G. S. I LOVE YOU』制作秘話を書き終えた後、「いずれは次作『S/T/R/I/P/P/E/R』制作秘話も」と予告してくれたのですが、忙しいのでしょうね・・・まだその記事にはとりかかれないようです。ジュリー・アルバムのアレンジには思い入れが強く、おいそれと気軽に書くことは出来ないのでしょうね。
でも、ジュリーファンは首を長くして待っていますよ!
(と、いくらこんなところに書いても銀次さんには届かないのですが泣)

さて、そのレコーディング現場で「エンディングにマージーなコードを鳴らしたい」と思いつき、銀次さんと二人でギターを抱えて(その際銀次さんは急遽柴山さんのギターを借りたとか)しっくりする和音を探した、というかまやつさん。
そのアイデアは結局かまやつさん自身の判断でお蔵入りとなったそうですが、「CAFE ビアンカ」のコード進行は、かまやつさん作曲の時点で非常に練り込まれています。

例えばこの曲には、ト長調からロ短調という珍しいパターンの転調が登場します。
調が変わる繋ぎ目の部分にどんなコードを当てているか、というのは転調曲を聴く際の醍醐味です。その点、かまやつさんはさすがですよ!

まずト長調からロ短調へと移行する箇所は

♪ もて遊んでた You will be shinning
     D7                             G           G  F#7

  時は過ぎ去って すべて消えても ♪
  Bm            Em   Bm               F#7

「F#7」はロ短調のドミナントですからこれはごく一般的なコードを採用している、とは言えるんですけど、この曲の場合は調の変化それ自体が特殊なので、「G→F#7」と半音下がりの進行で「F#7」が登場する、というのがポイントです。雰囲気がガラリと変わりますね。

凄いのは、ロ短調から再びト長調へと戻る箇所。

♪ あの日のほほえみ フロアに残る・・・ ♪
  Bm                Em   A7           D7  Daug

「A7→D7→Daug」が渋過ぎます!
この「D7→Daug」の進行はAメロひと回し目でも登場しますが、メロディーへの切り込み方は全然違います。かまやつさん、冴えまくりです。

最後になりますが・・・このところ書いているお題曲同様にやはりこの「CAFE ビアンカ」もこの先のLIVEで聴ける機会は無さそうだ、と思います(泣)。
リリース当時は、ステージでこの曲が歌われたこともあったのでしょうね・・・。

目を閉じて、今のジュリーが「CAFE ビアンカ」を歌う様子を想像してみますと・・・脳内には、冒頭で書いた「恋におちたら」の高音部で恍惚の表情(←いや、そう見えるだけなんですけど)で歌うジュリーが登場してしまいます。
「ほほ~えんで~いた♪」の辺りで、「お、ちょっと高いな!」と軽く顎を上げるようにして歌うジュリーです。
生で観てみたいですけどね・・・。

それでは次回更新ですが、せっかくですのでみなさまからリクエストを頂いていたナンバー(溜まりまくってる汗)の中で、採譜など考察がすぐにできそうな曲を見繕っていくつか続けて書きていきたいと思います。
『ジュリー祭り』参加の相方・YOKO君からも2曲ほど頼まれているんだけど、もう3年以上も書く機会を逸しています。近いうちにどちらか1曲だけでも書いておかなければ・・・。

| | コメント (12) | トラックバック (0)

2011年12月30日 (金)

沢田研二 「G. S. I LOVE YOU」

from 『G. S. I LOVE YOU』、1980

Gsiloveyou


1. HEY! MR. MONKEY
2. NOISE
3. 彼女はデリケート
4. 午前3時のエレベーター
5. MAYBE TONIGHT
6. CAFE ビアンカ
7. おまえがパラダイス
8. I'M IN BLUE
9. I'LL BE ON MY WAY
10. SHE SAID......
11. THE VANITY FACTORY
12. G. S. I LOVE YOU

-------------------------

まだ横浜レポが執筆途中ですが・・・。
今年最後の更新として、アルバム『G.S. I LOVE YOU』から、タイトルチューンのこの曲について、短い記事を書こうと思います。

急ぎ書きますから、いつものウンチク大長文記事ではありません。
その代わりに、この名曲を文字通り伝授してくださっている、このお方のブログを紹介させて頂きます。

http://ameblo.jp/ginji-ito/day-20110905.html

伊藤銀次さん。
楽曲について僕の言いたいこと、知りたかったこと、すべて書いてくださっています。

思えば今年の夏、僕が必死でタイガースの考察記事を執筆しているちょうどその頃に、銀次兄さんはアルバム『G. S. I LOVE YOU』の制作秘話をブログに連載してくれていたのですね。
そして、「最後にジュリーの作曲作品について書いて締めくくりたい」と、「G. S. I LOVE YOU」についての執筆を予告したまま、銀次さん自身が忙しくなり、多くのジュリーファン、エキゾティクスファンが待望する中で、9月に入って記事はアップされ、そしてその直後に老虎ツアーが幕を開けました。

そこで、オープニングのBGMに使用された曲が、ズバリ「G. S. I LOVE YOU」でしたね。
ジュリーが、GS(=自らのタイガース時代)を思っての選曲だったことは、間違いありません。

ちなみに老虎ツアーで、休憩明けのBGM「リトル・レッド・ルースター」は、タイガースのアシベ時代にBGMとして使用されていたそうです。「G. S. I LOVE YOU」と「リトル・レッド・ルースター」についてのジュリーの思いが、タイガースに直結しているということでしょうか・・・。

今回僕が銀次兄さんの記事に補足して書き加えたいことは、たったひとつだけ。
この曲のミックスのことです。

これまで何度か収録曲のお題記事で書いてきたように、アルバム『G. S. I LOVE YOU』のミキシングは、”疑似・疑似ステレオ”とも言うべき遊び心があり、各楽器トラックが左右どちらかのPANに完全に偏って振られています。

そんな中、右トラックのドラムスに注目して下さい。
(ドラムス・トラックは歌メロ2番、1'02"くらいから登場します)

楽曲全編通してロール・プレイなのですが、最初は右サイドから効果音のようにさりげなく噛みこんでくるのが、曲が進むに連れて次第に音量が上がり、エンディングでは中央へとミックス位置までもが移動してくるのです。
まるで最後に主役の座に踊り出るように。

ジュリーがこの曲をレコーディングした時期は、まさにタイガース再結成への動きがあった頃です。
しかし結局ピーの参加は叶わず、”再結成”ではなく、”同窓会”という形になりました。ピーのドラムスが不在のタイガースは、タイムリーなファンのみなさまにとって、完全とは言えなかったのでしょうね。

今回の老虎ツアー一番の意義は、やっぱりピーの40年ぶりの復活にあるでしょう。
タイガースへの思いも込めて「G. S. I LOVE YOU」という曲を1980年にリリースした時・・・結局その直後の企画では実現しなかったピーの復活。
それがようやく叶った2011年のツアーに、この曲をBGMとして採り上げたジュリー。

偶然にもそんなジュリーの思いや、ピーの復活を象徴するようなドラムスのミックスに、僕は今さらながら感動しています。
「あの時いなかったピーが、今回はステージに立つよ」と言わんばかりのミックスなんです。
この先老虎ツアーに参加なさるみなさまにも、是非この「G. S. I LOVE YOU」のドラムロールの音に注目して頂きたいと思います。だんだん音が大きくなり、だんだん中央に寄っていきますから・・・。

最後に蛇足ながら。
銀次兄さんがブログで「G. S. I LOVE YOU」について
「フォーク・ロックならば『Dsus4→D→Dadd9→D』のクリシェに決まってる」
と書いています。
僕はこの進行が大好きなのです。ジュリーの曲のみならず、ビートルズやストーンズ、ディランから最近の邦楽に至るまで、様々な曲で大活躍する進行です。

ビートルズなら「マザー・ネイチャーズ・サン」のアコースティック・ギター。
「チャイルド・オヴ・ザ・ムーン」という、僕がローリング・ストーンズの中で最も好きな曲にもこの進行が登場します。
邦楽だと、大瀧詠一さんのアルバム『ロング・ヴァケーション』は、この進行を応用した作曲作品の宝庫です。

そしてジュリーはまず、この「G. S. I LOVE YOU」。
銀次兄さんは、ビートルズの「悲しみはぶっとばせ」をアレンジの参考にしたようですね。
タンバリンのアクセント位置やアコースティック・ギターのストローク、2本のフルート音色などがオマージュですが、銀次兄さん指摘のコード進行も、「悲しみはぶっとばせ」に登場するものです。

Sn390160

シンコーミュージック刊 『バンドスコア/ビートルズ 4人はアイドル』より

60年代から続く、廃れることのない進行。
『G. S. I LOVE YOU』という、60年代のバンドサウンドとしての「GS」がキーワードとなるアルバムのアレンジに、伊藤銀次さんが関わった意義は本当に深いと思います・・・。

☆    ☆    ☆

さて、これで今年のブログ更新は終了です。
やっぱり横浜レポは年を越すことになってしまいました。ごめんなさい。

大変な1年でした。
痛ましいことが起こった年でしたし、そんなこともあって春から夏にかけてブログ更新を特に頑張った年でもありました。そんな中で年の後半は、老虎ツアーに大いに力を貰うことができました。

今年も、ジュリーを通じてたくさんの出逢いがありました。
あらためて、感謝するばかりです。
本当に毎年のことながら、ジュリーファンのみなさまには、大変お世話になりました。
拙ブログでは、またすぐ元旦に、恒例の”おめでたいショットシリーズ”でお会いできると思います。

それでは、どうぞみなさま、よいお年を~!

| | コメント (18) | トラックバック (0)

2011年3月 5日 (土)

沢田研二 「彼女はデリケート」

from 『G. S. I LOVE YOU』、1980

Gsiloveyou


1. HEY!MR. MONKEY
2. NOISE
3. 彼女はデリケート
4. 午前3時のエレベーター
5. MAYBE TONIGHT
6. CAFE ビアンカ
7. おまえがパラダイス
8. I'M IN BLUE
9. I'LL BE ON MY WAY
10. SHE SAID・・・・・・
11. THE VANITY FACTORY
12. G. S. I LOVE YOU

------------------------------

え~、「待たせた分だけ大長文」のDYNAMITEです。

『Ballad and Rock'n Roll』セットリスト・おさらいシリーズ、いよいよ今回が大トリでございます。
このシリーズでは、何度も繰り返しますが以下の

① 「おおっ、この曲やってくれるとは!」
② 「うわ~、こんなにイイ曲だったのか!」
③ 「くぅ~、何度聴いても盛り上がる曲だ!」


という3つの観点から、それぞれ1曲ずつを採り上げ、①「君にだけの感情」、②「耒タルベキ素敵」と書いてまいりました。
今回は③です。
「ジュリーのLIVEに行くなら何度でも聴きたい」・・・みなさまそういう曲が多くあると思いますが、この曲はその支持率も相当に高いのでは。
アルバム『G. S. I LOVE YOU』から、問答無用の疾走ロックチューン「彼女はデリケート」、伝授!

『Ballad and Rock'n Roll』では、そのセットリストの特異性から、アンコールに進行した時点で、ジュリーと鉄人バンド、そして観客すべてのが体力があり余っているという事態が起こりました。
そんなタイミングで歌われた「彼女はデリケート」・・・これまで何度もツアー・セットリストに連ねられてきたナンバーかと思いますが、会場の盛り上がりは今回のツアー、結構突出していたのではないかなぁ。
そこにいる全員が、暴れたくて仕方ないという状況でしたよね。

そんな”LIVEでは全員ノリノリ、ハジけまくり”なロックチューン「彼女はデリケート」なのですが、意外やレコーレィング音源はサイケデリック!
いえ、曲がサイケなのではありません。サイケなのはミックス処理なのです。それはアルバム『G. S. I LOVE YOU』最大の特徴とも言えます。

これは明らかに、70年代後半から80年代にかけて洋楽ロック界を席巻した「ネオ・モッズ」の連中がレコード音源で採用した”擬似・擬似ステレオ”へのオマージュでしょう。
ステレオ技術が無かった時代の音源を、後に無理矢理ステレオ処理したのが”擬似ステレオ”。普通に美しく聴きやすいステレオ技術があるのに、敢えて変テコな無理矢理ステレオ処理を模倣したのが、”擬似・擬似ステレオ”というわけ。
YOKO君は、「HEY!MR. MONKEY」から「彼女はデリケート」の流れをヘッドホンで聴くと酔っ払う、って言ってたっけな・・・。

「彼女はデリケート」で各パートのミックスを追ってみますと

・最左=ドラムス、オルガン、コーラス
・中央=ヴォーカル
・最右=ギター、ベース、コーラス

となっていて、「ちょっと左寄り」、とか「ちょっと右寄り」などという”聴きやすい”配置は一切無し!
しかも、ヴォーカルとドラムスにはディレイがかかっていて、それぞれの残響音をわざわざ手間をかけて右側へ向けPAN操作している、という変態ミックスです。

加えてヴォーカルとコーラスに、リミッターかな・・・コンプレッサー系のエフェクトがかかっていて、音が跳ね上がったり潰されたりを繰り返すという。
歌ってるのは、天下のジュリーですよ!
ジュリーのヴォーカルをこんな風にいじりまくるミックスというのは・・・今ではちょっと考えられないですねぇ。

おそらく銀次兄さんの衝動がそうさせたんじゃないかなぁ。
ネオ・モッズやパブ・ロックは「シンプルなロックの回帰」というのが確かなコンセプトとしてあって、妙に芸術化してしまったロックの流れに逆らうものでした。実験的な部分もありますが、どこか良い意味で不器用な感じが残っていて。
「アートじゃなくてロックなんだよ!」という銀次兄さんの思いが『G. S. I LOVE YOU』に集約されているように僕には思えます。

オルガンの音とか、わざとチープな音色を採用しているのは銀次さんのアイデアだと思います。
これは次作アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』にも引き継がれていますね。

ジュリーのヴォーカルは、Aメロやサビのいかにもロックなニュアンスも素晴らしいながら、マイナーコードに移行するBメロがカッコ良過ぎ。

♪ so come on 夜のサキスフォン
                 Am        F

  ひとりじゃとてもやりきれない so come on ♪
     D7                  B♭            Am

ここですね。
ちょっと押さえ気味に、震えるように歌います。
佐野さん自身も近いニュアンスでレコーディングしていますが、ジュリーのヴァージョンはAメロのドスがより効いていますから、Bメロで表現が変わったのが伝わりやすいように思います。

ちなみに「ひとりじゃとても♪」の箇所、Dm表記の譜面を多々見かける・・・。でもここはD7だと思います。
僕はあまりいばれた採譜者ではありませんし才もありませんが、この曲についてはDmだと力が抜けちゃうと思う~。

さて、今回は。
ジュリーLIVEの定番である名曲「彼女はデリケート」の作曲者・佐野元春さんの音源についても書かせてください。

このブログでは以前に一度、『ジュリーをとりまくプロフェッショナル』のカテゴリーにて佐野さんの記事を書いたことがありました。
そこで僕は、「彼女はデリケート」と「BYE BYE HANDY LOVE」が聴ける『NO DAMEGE』というCDを紹介させて頂きました。
『NO DAMEGE』は佐野さんのキャリアの中で最初のベスト盤的意味合いを持つ作品で、非常に聴き応えのある重要な1枚なのですが、もしも「彼女はデリケート」を深く知りたいとお考えの方がいらっしゃいましたら、

『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』

Ca51zs43

この作品に収録されている、『NO DAMEGE』とは別ヴァージョンの「彼女はデリケート」を、僕はこの機に強烈に推しておきたい!

クレジットには、ジュリーファンお馴染みの名前も・・・。

20110305

この『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』は、大瀧詠一さん、佐野元春さん、杉真理さんからなるトライアングル・ユニット。
3人それぞれが未発表の楽曲、未発表のヴァージョンを持ち寄った豪華な企画盤です。シングルカットされた「A面で恋をして」はご存知の方も多いでしょう。
ちなみに『Vol.2』と言うからには『1』もあるわけで、そちらは大瀧さん以外のメンバーが違っていて、山下達郎さんと伊藤銀次さんという、これまた豪華なメンバーです。

さて、このナイアガラ・ヴァージョンの「彼女はデリケート」が素晴らしいのは、佐野さんのロックな”遊び心”が炸裂する、イントロとエンディングの変化球アイデアです。

まずイントロ。
空港(かな?)の喧騒のS.E.に載せて、佐野さんのキザ~なセリフが挿入されます。
今聴いてみると相当カッコしぃ、と言うか(いや、好きなんですよ)突拍子もないことを言っておられるわけですが・・・最初に聴いた時の衝撃は忘れられませんね~。このアプローチは、それまでの邦楽ロックには無かったですからね。
ただ、何故”彼女がサンフランシスコに行くのをやめる”理由が”デリケートな女だから”なのかさっぱり分からない、という謎も残ります。
敢えて意味を追求していないのだろう、と今では思います。それが佐野さんの遊び心なのでしょう。

そしてエンディング。
僕は『Ballad and Rock'n Roll』ファイナルのレポで、「彼女はデリケート」のジュリー・ヴォーカルについて
「微妙に声がかすれているのがカッコイイ!」
と書き、ビートルズ「ツイスト・アンド・シャウト」でのジョン・レノンのヴォーカルを引き合いに出しました。
その、「ツイスト・アンド・シャウト」が、いきなりこの佐野さんの「彼女はデリケート」ナイアガラ・ヴァージョンのエンディングにて、忽然と姿を現すのです!

She's so delicate♪(デリケイ、デリケイ♪)
                 C               F            G       F

と歌っていたのが、突然同じ演奏に載せて

Shake it, shake it up baby♪(しぇけなべいべ~♪)
                              C        F               G       F

と始まっちゃうんですよ~。

別に「彼女はデリケート」と「ツイスト・アンド・シャウト」のコード進行が同じというわけではありません。
おそらく、古き良き”追っかけコーラス・ロックナンバー”の代名詞として「ツイスト・アンド・シャウト」が佐野さんの頭にあり、同じく追っかけコーラスが楽曲構成の肝となる「彼女はデリケート」に重ね合わせる、という思いつきをナイアガラ・ヴァージョンで試してみたのでしょう。
これは、”ナイアガラ・トライアングル”という特殊なユニット故に佐野さんが遊び心を全開させた、奇跡のテイクだと思います。

「彼女はデリケート」・・・佐野さんの2つのヴァージョンはいずれもジュリーのレコーディングよりも後ということで、佐野さんとしても色々といじってみたい、試してみたい、という気持ちがあったのかもしれませんね。

ジュリーヴァージョンはとにかく、速い!
しかも『G.S. I LOVE YOU』収録順の前曲「NOISE」のサイケデリックに混沌としたエンディングを受けて、イントロにも意表をつく仕掛けがあったり、ジュリーヴァージョンこそ実はなかなか一筋縄ではいかない工夫が注入されているわけですが、佐野さんヴァージョンで言うと『NO DAMEGE』の方に近いです。全体の構成がさほど変わっていませんからね。
譜面比較してみますと

Delicate1


↑ 『ス・ト・リ・ッ・パ・ー/沢田研二楽譜集』
   (新興楽譜出版社・刊)

Delicate2

↑ 『佐野元春/ギター・ソング・ブック』
   (ドレミ楽譜出版社・刊)

キーはいずれもハ長調。
やはりテンポ以外に大きな違いは見られません。
もちろん、演奏やヴォーカルについては別の話ですが。

ですので、『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』収録の佐野さん別ヴァージョンのイントロ及びエンディングのアイデアが、今聴いてもかなり新鮮に感じられます。

ところで、僕は『ジュリー祭り』以降に佐野さんの作品を聴くと、「この曲をジュリーが歌ったら・・・」と想像してしまう曲が多いのですが、『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』に収録されている「Bye Bye C-Boy」もその中のひとつです。
女性視点の歌詞、特に「お家はどこなの?」というくだりなどをジュリーならどう表現するのか。
おそらく佐野さんのヴァージョンとは相当違った聴こえ方になるんじゃないかな・・・。

最後に。
「彼女はデリケート」とは直接関係ないのですが、もう2年前になる『Pleasure Pleasure』ツアーで、ちょっと佐野さんの思い出を彷彿とさせた出来事がありましたので書いておこうと思います。

6・6渋谷。ツアー2日目ですね。
ジュリーは「いくつかの場面」を歌い終わって宙を抱きしめるポーズをしたまま動かなくなり、次曲の「時の過ぎゆくままに」のイントロもそのままの格好、ヴォーカル部直前に「ハッ!」と目を開き歌いだす、という「寝てましたネタ」を炸裂させて会場の笑いを誘っていました。
ややもすると不謹慎な感じもしてしまうこのネタ、とうとうツアーを通じて(僕が観られたのは)、6・6の1回きりだったんですけど。

で、僕の記憶は高校生の頃へと飛びます。
『VISITORS』ツアーin鹿児島。初めて佐野元春さんのLIVEに行った日のことです。
後半だったでしょうか・・・佐野さんは、大名曲「Rock'n Roll Night」を歌ってくれました。
この曲、途中で
「Good night・・・sleep tight・・・」
と囁くように歌う箇所があって、そこから急速にハードな展開を見せる構成がメチャクチャにカッコイイのですが、何と佐野さん、
「sleep tight・・・」
の後、演奏を止めて
「くぅ~、くぅ~・・・」
と寝息をたて始めてしまいました。

会場には笑いが起こりましたが、DYNAMITE少年は
「この大名曲になんでそんなフェイクが必要なんだろう?」
と戸惑ったものでした。

今は、そんな佐野さんの遊び心を懐かしく思い出します。

ジュリーしかり、佐野さんしかり。
シリアスな楽曲の中に、ひょいと表れる遊び心。
そんな照れたようなヤンチャを持ち続けるロック・アーティストは、逆に素敵な大人なんだと思います。

その「Rock'n Roll Night」が収録された佐野さんのアルバム『SOMEDAY』・・・以前にも紹介しましたが、こちらでは「I'M IN BLUE」「VANITY FACTORY」の佐野さんヴァージョンを聴くことができます。

・ジュリー・ヴァージョンと比べると、ゆったりしたテンポで長尺のポップチューンへと変貌した「I'M IN BLIE」。
・テンポアップしてよりハードになり、「UNDER MY THUMB」の面影を完全に払拭した
(←コラコラコラ)「VANITY FACTORY」。

こちらも一聴の価値あり!
この機に是非どうぞ~。

| | コメント (14) | トラックバック (0)

2010年10月13日 (水)

沢田研二 「I' M IN BLUE」

from『G. S. I LOVE YOU』、1980

Gsiloveyou


1. HEY!MR. MONKEY
2. NOISE
3. 彼女はデリケート
4. 午前3時のエレベーター
5. MAYBE TONIGHT
6. CAFE ビアンカ
7. おまえがパラダイス
8. I' M IN BLUE
9. I' LL BE ON MY WAY
10. SHE SAID・・・・・・
11. THE VANITY FACTORY
12. G. S. I LOVE YOU

---------------------------------

それでは今回より、現在絶賛敢行中のジュリー・ソロツアー『秋の大運動会~涙色の空』セットリスト・ネタバレ記事へと突入します。

ジュリーの持ち歌、600曲超。
この2年、必死でジュリ勉に励んできた僕ですが、そのすべての楽曲構成を頭に叩きこめているわけではありません。
さほど積極的に好きになれずに、アルバムを通して聴く際にしか味わう機会の無い曲、さらには、部分的に曖昧な記憶しかない楽曲も、実はかなりあったりするのです。
これまで何度も書いている通り、ジュリーのLIVEに行くと、そんな甘い認識しか持てていなかったナンバーに打ちのめされることが、必ずあります。僕がネタバレ無しのツアー初日にこだわるのは、その感覚を味わいたいがためと言っても過言ではありません。
だって、ネタバレしたら絶対予習してしまうじゃないですか・・・。本気で予習したら、当日までには好きになるに決まってるしねぇ。

一方で、”大好きなジュリーナンバー”という自覚がありつつ、未だLIVEでは未体験・・・そういった曲をいきなりガツン!とぶつけられることもまたネタバレ我慢の醍醐味です。

今日のお題は、どちらかと言うとそのタイプのナンバーってことになるのかな。
シングル・ヒットではない1アルバム収録曲にもかかわらず、僕がずいぶん昔から知っていて、聴き続けてきた楽曲。
アルバム『G. S. I LOVE YOU』から、「I' M IN BLUE」、伝授!

僕がこの曲と出逢ったのは、15の時
ビートルズから洋楽ロックに入って、「日本語のロックなんて・・・」と大きな勘違いで頭が固まろうかとしていた時期に、突然現れたのが佐野元春さんでした。
アルバム
『SOMEDAY』を同級生のM君に貸してもらったのが最初。
「Rock'n Roll Night」「Happy Man」という楽曲のコンセプトに何よりもびっくりしたわけですが、他の曲でも何曲かすごく気に入った曲があって。その中の2曲が、ジュリーへの提供楽曲だったのですね。

今考えると、とても不思議な感覚。
「I' M IN BLUE」や「VANITY FACTORY」を、15歳の僕が繰り返し聴いていた、というのがね・・・。

「日本語でこんなことが出来るんだなぁ」と衝撃を受け、佐野さんの過去のアルバムもすべて聴いて、しばらくの間佐野さんは、邦楽ロックの中で唯一の例外だと位置づけていました。
ちょうど作曲なぞ始めたのがその頃ですから、コード進行など、よく佐野さんのナンバーを手本にしたものです。

例えば「I' M IN BLUE」サビ部の

♪ Maybe I'm a loser、 baby I'm just a dreamer ♪
                       C      Caug              C6        C7

という、3つ目の構成和音が半音ずつ上昇していくコード進行の理屈を僕はこの曲で覚え、その進行が巷の多くのポップスに取り入れられていることにも、敏感に気づくようになりました。
また、dimコードの和音構成が(ルート音を別にして)3種類しか存在しない事を理解したのも「I' M IN BLUE」でした。

♪ Everyday Everynight その気持ちはいつまでも ♪
     C           F#dim       Fmaj7              Em7

この「F#dim」。
当時、ギターコード・フォームの習得途上だった僕には非常に押さえ辛いコードでした。
そこで、dimコードの特性を利用し、1フレットをセーハ、2フレットの1弦と3弦を抑える「E♭dim」で代用して弾いたものです。そのせいか、次の「Fmaj7」を普通に「F」で弾いた方がフォーム移動が自然で、今でもこの部分は「E♭maj7」→「F」と弾いています。
楽曲のアレンジ的には「Fmaj7」が正解ですが、一人で弾き語る場合は「F」で弾く方が歌い易く、おススメですよ!

この「F#dim」を果たして下山さんがどのフォームで押さえるのか・・・。
大阪ではその点を見逃してしまったので、月末の渋谷でしっかり確認してこようと思っています。

さて。
僕が佐野さんを聴いていた頃はまだLP盤の時代で、「I' M IN BLUE」はアルバム『SOMEDAY』のB面1曲目に収録されていました。
レコードをひっくり返して1曲目、というのはLP時代の重要な楽曲配置です。佐野さんのリメイクしたヴァージョンは、ジュリーのヴァージョンとは、だいぶ印象が異なり、演奏時間も長く、「ロック」と言うよりは「良質なポップス」といった感じのキラキラした仕上がりになっています。

レコーディングはジュリーの方が先だったようです。と言うよりも、ジュリーに楽曲提供した後に、佐野さんが自身のアルバムでリメイクした、という流れだったらしいですね。
「VANITY FACTORY」などは、その佐野さんのリメイク・ヴァージョンにジュリーがシャウト全開のバックコーラスで参加する、という豪華なテイク。これは是非ジュリーファンのみなさまにも聴いて頂きたいところです。

で、僕は長年親しんだ佐野さんヴァージョンのイメージが強かったせいか、アルバム『G. S. I LOVE YOU』でジュリーの「I' M IN BLUE」を初めて聴いた際、「ずいぶん短く纏めたな・・・」と思ってしまいました。
(註:佐野さんのヴァージョンは、演奏時間が4分以上あります。サビの繰り返し部が加えられていて、エンディングもフェイド・アウトでかなりの時間引っ張ります)

しかし、それぞれのヴァージョンのレコーディング経緯を知った今では、おそらくジュリーヴァージョンの方が、佐野さん作曲段階での楽曲イメージに近いのではないか、と推測できるわけです。
演奏時間の短い、畳み掛けるようなアレンジ。
これはそのまま、アルバム『G. S. I LOVE YOU』の特性にも合致するのです。

『G. S. I LOVE YOU』は、ネオ・モッズやパブ・ロック系ニューウェーヴの洋楽バンド、アーティスト達の間で流行した、いわゆる”ビートルズライク”なアルバム制作手法の影響を受けていることは間違いありません。
短い楽曲が多く収録され、それらが曲間の無音部無しに矢継ぎ早に繰り出される、というものです。

「午前3時のエレベーター」
「CAFE ビアンカ」
「I' LL BE ON MY WAY」

このあたりのアルバム収録曲は、そんな洋楽の流行に敏感だったムッシュかまやつさん、伊藤銀次さんが敢えて短い演奏時間を狙って作曲したのではないでしょうか。そして、「I' M IN BLUE」についても、加瀬さん或いは銀次さんから佐野さんに「短めのビート・ナンバーを」というリクエストがあったのかもしれません。

『G. S. I LOVE YOU』というアルバムは、誤解を恐れずに言えば「おもちゃ箱ロック」とも言うべき、過剰にプロデュース、アレンジ、そしてミキシングされた異色作です。
ジュリーのヴォーカルすら、大量のディレイがかけられたり、残響音に破天荒な後処理があったり、果ては極端な位置にミキシングされたり、とイジられ放題なのですが・・・それがヴォーカルの制約とならず、すべて飲み込んで楽しんでしまっているところに、ジュリーの凄さがかえって際立っている作品とも言えます。
これは、後の建さんプロデュースのEMI期(ロックを「演じる」というスタンス)とは似て非なる点かと考えますが、その辺りの比較はいずれ「噂のモニター」の記事に際して書こうと思っています。

いずれにしても、『G. S. I LOVE YOU』の制作スタッフがいよいよジュリーを「ロック」として推し出そうとはっきり意図した最初のアルバムではあるでしょう。『BAD TUNING』でのオールウェズによるLIVEレコーディングという手法があっという間に進化して、早くもコンセプト・アルバムへと辿り着いた・・・まるで、ビートルズを始めとする洋楽バンドが数年かけて辿った道程を、たった2年足らずでやってのけた、という印象を受けます。
僕にとってオールウェイズ時代のジュリー作品には、そんな意義を見出せたりするのです。

ジュリー版「I' M IN BLIE」は、アレンジもネオ・モッズ系の潔い疾走感が肝で、こっちに慣れてしまうと佐野さんヴァージョンはなんだか・・・遅い(笑)。
で、アレンジについては全く違うこの2つのヴァージョン、それではヴォーカルメロディーを比較した場合、どうでしょうか。

基本的にジュリーも佐野さんも同じメロディーで歌っています。
歌い方はもちろん違いますけどね。ジュリーは伸ばす感じで、佐野さんは斬る感じ。
ただ、1箇所だけ明らかに音階が異なる部分があります。
Aメロの1回し目の最後。
1番で言いますと

♪ 街灯り流れてゆく without your love ♪
    Dm7          G7 Gaug           Cmaj7

の「without your love♪」だけが、全然違うメロディーなのです。

佐野さんは「ソソ~、ミ、ミッ♪」と叩き斬るのですが。
ジュリーは「ソソ~ラ~、シ~~ドシラ♪」と抑揚をつけて上昇→下降します。

この点については、佐野さんのオリジナルメロディーはご自身のリメイクの方ではないかと思います。
ジュリーの楽曲には、レコーディングの瞬間にバックの演奏を本能的に感じてその場で新たに歌い変えているのではないか、と考えられるヴォーカルが多く見受けられますが、「I' M IN BLUE」のこの箇所もそうなんじゃないかなぁ。

コード進行の理屈で言うと、トニックに戻って着地、というのが「love♪」の部分になるのです。しかしその着地和音は単純に「C(ド・ミ・ソ)」ではなく「Cmaj7(ド・ミ・ソ・シ)」で演奏されているのですね。
ジュリーはきっと、加えられたmaj7の音(=シ)を本能的に強調し、このヴォーカルが生まれたのではないでしょうか。
ス~ッと空へ抜けていくようなメロディーで、曲の雰囲気によく合っていますよね。ジュリーの楽曲解釈の能力が如何なく発揮されたテイクなのだと、僕は思っています。

余談ですが、ジュリーwithザ・ワイルドワンズの大名曲「
涙がこぼれちゃう」についても、オリジナルのメロディーとは決定的に異なるヴォーカルニュアンスが登場する箇所があるのだそうですよ。
いつか聴き比べる機会に恵まれたいものです。

ということで、他ならぬオールウェイズ時代の楽曲を今回のツアーで聴けたことに、僕はとても満足しています。
でも、アルバム『BAD TUNING』からはまだ1曲も生で聴けてないんだよなぁ・・・。
ジュリー、そろそろ「どうして朝」とか「アンドロメダ」なんて、どう~?
今の鉄人バンドの演奏がビタッとハマる曲だと思うんだけどな~。

それでは、こんな調子でしばらくの間は『秋の大運動会~涙色の空』セットリストからのお題記事を続けていきますね。
次回はアルバム『生きてたらシアワセ』から!

| | コメント (22) | トラックバック (0)

2010年5月12日 (水)

沢田研二 「NOISE」

from『G. S. I LOVE YOU』、1980

Gsiloveyou_2 

1. HEY!MR. MONKEY
2. NOISE
3. 彼女はデリケート
4. 午前3時のエレベーター
5. MAYBE TONIGHT
6. CAFE ビアンカ
7. おまえがパラダイス
8. I'M IN BLUE
9. I'LL BE ON MY WAY
10. SHE SAID…
11. THE VANITY FACTORY
12. G. S. I LOVE YOU

--------------------------------------

はじめに・・・。
「オマエ、またか!」
とお怒りになる方も多いと思いますが、やはり正直に書きます。

僕が八王子盛り上げ隊長に立候補している事に変わりはないのですが・・・実は初日にも行くことにいたしました。
プレプレファイナル、歌門ファイナルに続き、ここまで来るともはや狼少年・・・否、狼中年の域なのではないか、と我ながら思います・・・。

今回の「僕達ほとんどいいんじゃなあい」ツアーについては本当に、運命に従うつもりでいたのです。
渋谷に落選したことを記事に書き、その後親切にチケットをお譲りくださることを申し出て頂いた先輩方にも、僕の心情を説明し「僕は八王子を盛り上げます」とのことで、なるべく普段LIVEに参加しないみなさまや、渋谷しか予定の空けられない先輩方に初日のチケットが届けられるよう配慮しまして、事実この5日間にも何件かの仲介をしてまいりました。

しかし、唯一。
「そんなうまい話はないだろうけど、ただひとつの条件ズバリのチケットにめぐり逢えたら、その時は行こう」
と考えていた、僕にとっての最神席というのが、実は頭にありました。
それは・・・他のみなさまにしてみれば「あまり良くない席」ということになるのでしょうが、1階最後列なんです。

僕が何故そのポジションに思い入れがあるか、というのは、2009年1月11日『 奇跡元年』のLIVEレポートを読んで頂ければお解かりになるかもしれません。
身長170cmの僕がジュリーファンのお姉さま方の中に入ってしまうと、どうしても頭ひとつ高くなってしまいます。スタンディングはしたい、でも後ろのお客さんがステージを見辛くなってしまう事は避けたい・・・。
これまでのジュリーLIVEは、常にその配慮をしてきたつもりです。立つには立つけれど、腕を突き上げたりする行為は、できるだけ控えてきました。
ただ1回だけ、何の遠慮もなく心のままに身体を動かし暴れまくったLIVEが、1階最後列の『奇跡元年』だったのです。

そして先日、ある先輩から「ご迷惑でなかったら」とお申し出を頂いた初日のチケットが、1階最後列でした。
ブログを執筆しているというだけでこの役得。納得のいかないファンの方々も多いと思っていますから一瞬考えましたが、行くことに決めました。
本当にありがたいことです。

でも、落選直後に心に決めたことは変わっていません。
今回八王子で同じ空間を共有することになったみなさまと力を合わせ、5月30日のステージを楽しみに待ち、大いに盛り上げて行こう!と。

考えてみますと、演奏や歌唱それ自体は、大抵ツアー初日より2日目の方が出来がイイことが多いんですよ。
初日からバシッと完璧、なんて滅多にありません。それを是正しステージ慣れして臨む2日目が良いのは、必然。
ましてや今回は初のワイルドワンズと鉄人バンドのコラボになるわけですから、なおさらですよねぇ。

今回は初っ端の渋谷が2daysではないから、”2日目”に当たるのがズバリ八王子なのです。
これはかなり期待してイイと思います。
あとは、お客さんのノリ!
僕も微力ながら何とか頑張って、会場の盛り上げに役立ちたい、と思う次第です。
LIVEレポートも、初日の様子を軽く振り返りながら、八王子を中心に書こうと決めています。
初日は他のブロガーさん達も大勢いらっしゃるようですしね。
八王子の席を生かし、島さんの演奏をじっくり観てくるつもりです(心配なのは下山さんですが・・・)。

そんな事情もありつつ、”全然当たらないセットリスト予想”シリーズは今日も続きます。
でもね、今回あたりから若干当てに行ってるかも。

お題は、アルバム『G. S. I LOVE YOU』から。
三浦=加瀬コンビの傑作群の中でも、これは最高に渋い、尖ったロック・ナンバーをお届けいたします。
「NOISE」、伝授!

これは、媚びの無い曲です。
アイドル歌手のアルバムならば収録の余地などない、歌謡曲とはかけ離れたアプローチのナンバー。
しかも、「この曲が好き!」という先輩方の何と多いことか。そこがジュリーの凄いところでもあります。

以前の『G. S. I LOVE YOU』収録曲記事にも少し書きました通り、僕はこのアルバムのミックスの特殊性に惹かれていて、アルバム1枚通して聴く意義というものを強く感じています。
各パートのミックスバランスが、「擬似・擬似ステレオ」(ダブっているのは誤植ではありませんよ~)と言うべき大胆な手法で行われているのですね。

「擬似ステレオ」というのは、60年代、まだステレオ録音技術が存在せず、モノラルでレコーディングされた楽曲を、後世に名を残すミキサーやエンジニア達が強引にステレオ・リミックスしたビートルズの初期作品を指して言う言葉です。

この独特の音の振り分けが多くのビートルズフリークのミックス嗜好を生み、80年代初期のネオ・モッズの連中は、わざとそういう古臭いミックスで作品を発表していったのでした。これらをして、「擬似・擬似ステレオ」。
そして同じ頃・・・日本でもそれを敢行したロッカーの作品が存在した!
その作品こそ、ジュリーの『G. S. I LOVE YOU』というわけです。

特にアルバムの中でも冒頭3曲の流れは、ミキサーの執念を感じるほどに徹底しています。
「HEY!MR. MONKEY」→「NOISE」→「彼女はデリケート」の、耳よりも脳に直接訴えてくるような疾走感とスリルは、そんな秘技に裏打ちされたものなんですよ~。
曲間にそれぞれトリッキーな工夫があるのも良いですね。

また、『G. S. I LOVE YOU』は各楽器のミックスだけでなく、ジュリーのヴォーカルに施されているエフェクトリターン設定にも大きな特徴があります。
ディレイ・タイムと言って、声のはねっかえりを調節する技術があるのですが、これを「あ♪」という声に施した場合の両極端な手法を2種類説明しますと

① SHORT
「あ♪
ああああっ・・・

② LONG
「あ♪・・・・・あ・・・・
あ・・・・あ・・・あ・・・

「NOISE」はじめ、『G. S. I LOVE YOU』収録曲の多くに、②の手法が使われているのがお分かりでしょうか?
しかも、残響音をわざわざ右サイドに振って(1980年の時点では、これはまだまだ手間のかかる作業ですよ。ミキシングへの情熱がなければなかなかここまではできません))目立たせています。

ジュリーのヴォーカルやバックの演奏それ自体の凄みは当然として、こういったヴォーカル&楽器のミックス手法はロック的アプローチでしかあり得ないことで、ジュリーが当時から単なるアイドル歌手ではなかったことを知らしめてくれます。
後追いの僕は、『G. S. I LOVE YOU』を30代後半で初めて聴き、その点大いに驚いたものです・・・。

この時代、ステレオレコーディング技術に何の問題もないわけですから、わざと60年代の擬似ステレオを模していることになるのですが、同じことは楽曲のアレンジについても言えるのですね。
洋楽を熱心に聴いていた方なら、『G. S. I LOVE YOU』収録曲に「あの曲に似ている!」と、多くのオマージュを見出すことでしょう。
これも、わざとそうしているのです。「どのくらい気づいてくれるかな?」という狙いなんですよ。

例えば「NOISE」は、ローリング・ストーンズの「サティスファクション」を引き合いに出されることが多いようです。
「たん・たん・たたた!」というタンバリンのリズムや、リードギターのフレーズなどから受ける印象なのでしょうが、実はこれは「サティスファクション」が有名な曲だから(ジュリー自身がよく歌っていますしね)という、線の中から点をとるくらいに過ぎなかったりします。

「NOISE」のオマージュ元は、ストーンズだけでも数曲あります。ハッキリしているものだけでも「サティスファクション」以外に2曲。
印象的な「Hey、Hey」のフレーズ連呼は「サティスファクション」だけでなく、どちらかと言うと「ひとりぼっちの世界」という楽曲からのオマージュですし、ギターは「19回目の神経衰弱」。
その他にも、明確ではありませんが、「ザ・ラスト・タイム」や「オール・ソールド・アウト」といった楽曲のエッセンスが取り入れられているようです。

ストーンズ以外ですと、キンクスの「豪邸売ります」とか。
「NOISE」はコード進行も(密かに)凝っていて、Aメロがホ長調で、Bメロ→サビでいつの間にやらイ長調に化けるんです。
Bメロの

♪ NOISE、 It's a NOISE、It's a NOISE~ ♪
    A                  D                 E7

の部分。
これはイ長調のスリーコードでして、通常最後のE7のコードがドミナントになってAに戻るはずなんですが、そのままE7で1小節引っ張って、次の小節では、ホ長調であるAメロのトニックにそのまますりかわっています。
これはレイ・ディヴィス(キンクス)の得意技なのですね。

まぁしかし、「サティスファクション」が一番解りやすいことは確かで。
このような幾つものオマージュ元の合わせ技は、作曲段階のアイデアではなく、アレンジやプロデュースによって楽曲を「いじる」やり方で練られたのではないか、と僕は推測します。
やるとなったら、あくまでも堂々と、ね。
加瀬さんと銀次兄さんのコンビなら、作業もすごく楽しかっただろうと思いますよ。

別の曲のお話になりますが、どのくらい堂々としているかと言いますと。
アルバム収録曲の中でも人気の高い「THE VANITY FACTORY」。この曲を1998年の正月コンサートでは、オマージュ元で一番有名な、これまたストーンズの「アンダー・マイ・サム」と続けて演奏する、というニクイ演出がありました。

そんな選曲をしてしまうジュリーと、冒険心溢れる策士・加瀬さんの二人が揃っているのですから、今回のジュリワンLIVEで、「NOISE」~「サティスファクション」のメドレー演奏!なんて演出も考えられなくはありませんよ~。

同じようなことは、「シー・シー・シー」の記事でも書く予定ですが。

あと、細かいことですがS.E.の時計のベルの音が僕にはツボです。
「ジリジリジリ・・・」というあの音色を選んだのは、銀次兄さんでしょうか?さすがです。
ビートルズの「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」を始め、60年代サイケデリック・ロックで、多くのバンドが使用した”トリップするS.E.”代表格の音色ですね。

さてさて。
拙ブログのアクセス数が、ジュリーwithザ・ワイルドワンズのツアー初日に大きく先立ちまして、次のキリ番(40万ヒット)を迎えることになりそうです。
ありがたいことです。

執筆内容が纏まらず、リクエストをお待たせしている方々も多いのですが、キリ番リクエストに限っては何とか頭を捻って速やかにお応えすることを、ささやかながらの自分の方針としております。
八王子のLIVEレポが終わったくらいのタイミングで、何とか。

キリ番踏まれた方、是非リクエストのコメントをくださいね~。

| | コメント (22) | トラックバック (0)

2010年3月14日 (日)

沢田研二 「I'LL BE ON MY WAY」

from『G. S. I LOVE YOU』、1980

Gsiloveyou

1. HEY!MR.MONKEY
2. NOISE
3. 彼女はデリケート
4. 午前3時のエレベーター
5. MAYBE TONIGHT
6. CAFE ビアンカ
7. おまえがパラダイス
8. I'M IN BLUE
9. I'LL BE ON MY WAY
10. SHE SAID.....
11. THE VANITY FACTORY
12. G. S. I LOVE YOU

--------------------

予定より早く、日曜日に見参いたします。
今日はスタジオだったのですが、予約が混んでいたため朝イチで入り。おかげで早く帰ってこれたのです。
今日も渋~いナンバーで行きますよ~!

てなことで。
思えば、中高生時代の僕は基本、ビートルズやストーンズを中心に洋楽ロックばかりを聴いていたのですが、日本人アーティストをまったく無視していたワケでもありません。
当時は邦楽ロック界で佐野元春さんが頭角を現してきた時期でもあり、洋楽ロックを聴く友人達は、大体並行して佐野さんも聴いていました。
もちろん僕も。
その佐野さんがまさにその時期、ジュリーに楽曲提供していた事を約20年後に知ることになろうとは、夢にも思わなかったですが。

その時は残念ながらジュリーには辿り着かなかったものの、佐野さんに関連して杉真理さんや大瀧詠一さんなどの楽曲を知りましたし、そして・・・銀次兄さんのアルバムも聴いたっけなぁ。

今日は、その伊藤銀次さん作曲のナンバーがお題です。
公約通り、三浦徳子さん作詞の「謎のフレーズ問題」(僕が一人で謎に思っているだけ説・有力)に迫りたいと思います。
アルバム『G. S. I LOVE YOU』から、良質なロック・ポップスのお手本のようなナンバー。「I'LL BE ON MY WAY」、伝授!

まずはこのナンバーの意義について。
軽やかながらどこか甘やかなアレンジ、しかもキャッチーな進行ですのでとても気づきにくい事ですが、この曲は、いわゆる「アイドル歌謡曲」では有り得ないパターンのナンバーなのです。
例えば当時、ビートルズやキンクスを崇拝する連中が掲げた”ネオ・モッズ”という旗印。
その中にふと差し込まれる、スウィートなメロディーを持つミディアムテンポの隠れた名曲。
シングルにはなり得ない地味な作りながら、アルバムの片隅でオイシイ位置をしめる小品。
これすなわち、完全な60年代洋楽直系のポップ・ロックの解釈ということ。

しかも、その曲は決してアーティストの作品の中でメインではない、というのが肝です。

頼れる脇役。「I'LL BE ON MY WAY」こそが”隠れた名曲”と呼ぶにふさわしい。
最初から、アルバムの中の地味ながらキラリと光る小品、というスタンスを目指して作られているという、これはさすが銀次兄さん。
『G. S. I LOVE YOU』全収録曲をアレンジするにあたり、自らの作曲ナンバーで仕上げに一味加えたというワケです。

ポップス王道の進行にちょっと「アレッ?」という和音を挿入するのが、銀次兄さんの計算された作曲手法で、ただ「いい曲」というのではなく、引っかかりを残そうとしているのですね。
例えば

♪やっぱりいつものキャフェに陣どる♪
   Dm7                  Fm         G7

このドミナント(G7)直前のFmの和音、少し変な感じのタメ効果があります(通常パターンだとこの位置にはFを使用するのが常道)。
であるとか

♪でももういいさ I'll be on my way~♪
   F    G7 C        E7              Am Ammaj7 Am7 Am6

のクリシェから、F→Cと以降するのは、実は「もういいさ♪」の「いいさ」の部分のコード、Cから順に、

ド→シ(E7の3番目の構成音)→ラ→ソ#→ソ→ファ#→ファ→ミ(Cの2番目の構成音)

という、1音と半音の2段クリシェの合わせ技。
和音の中の1つの音が徐々に下がっていく進行は世界共通の胸キュン進行ですが、それを敢えて目立たないスタンスの楽曲にスッと差し込むのが、ビートルズ流のロックセンスと言えます。
実は銀次兄さんは、ジュリーというアーティストを素材に、徹底したビートルズライクなアルバム制作に成功した、唯一のアレンジャーなのですね。これは、加瀬さん一人では為しえなかったことなのです。

銀次さんならば、この「I'LL BE ON MY WAY」の収録位置が”レコードB面の真ん中あたり”という事まで計算していた可能性すらありますね・・・。
Aメロの

♪朝目覚めたならぁ~あぁぁ♪

と、語尾の着地までにメロディーがブルブルと旋回するのは、杉真理さんの「NOBODY」などの楽曲を彷彿させます。
このパターンを”音感の不確かな人が作曲した際のクセのあるメロディー”という頭の堅い評価基準が日本歌謡界にはありましたが、まぁそういう方々は洋楽ロックを聴いてらっしゃらないワケだから仕方がない。
ジュリーがキチンと、銀次兄さんの作ったメロディー通りに歌っている事が何よりの答えです。

それではいよいよ、僕が「三浦徳子さんの詞の中で、これだけは意味不明」と首をひねった、「I'LL BE ON MY WAY」詞の世界について語ってまいりましょう。

文句なくカッコいいですし、ロック独特の詞です。銀次兄さんの作曲コンセプトにも合致しています。

♪悪くはないさ 俺の恋人♪

それまでには無かった新しいジュリー像(街に住む俗っぽいが何かに秀でたお兄さん)をも作り出していますよね。
この三浦さんの新路線は、アルバム「S/T/R/I/P/P/E/R」で結実することになります。

過ぎゆく時を、皆と同じように共有するジュリー。
日常に苛立ちながらも、些細な満足に身を預けるジュリー。

そんな都市物語が真骨頂の、銀次兄さんのメロディーと相性のよい詞なのですが、僕が「ん?」と引っかかってしまったのは、2番サビの最後の方。ある意味、ココがキメのフレーズ!という箇所なのですが・・・。

♪沈黙が金だぜ I'LL BE ON MY WAY♪

これは・・・何だろう。
二人の仲は周りには秘密だから、黙ってろ!ってことですかねぇ?
確かに沈黙は金なり、とは言うけど・・・なんか、歌詞の流れからすると、とても突飛なタイミングで出てくるように思えるのですが・・・。
ジュリーの詞ならね、不思議系で片付けちゃうのですが、三浦さんですからねぇ。何か意味が込められているのでしょうが、僕には解読できません(泣)。

1番の同じ箇所が
「レールのない世界へ~♪」
と、やたらカッコ良いもんですから、最後のキメ部にこの諺フレーズが出てじゅるのがどうにも違和感があるという・・・。
う~ん、どなたかが完璧にこのフレーズを解読してくださったら、「I'LL BE ON MY WAY」は晴れて僕のフェイバリット・ジュリーソングの先頭集団に仲間入りなのですが。

ジュリーのヴォーカルは、良い意味で余裕が感じられます。
以前記事に書きました「MAYBE TONIGHT」などについても言えますが、アルバム『G. S. I LOVE YOU』はそういったヴォーカルの楽曲が多く、それ故に「おまえがパラダイス」「THE VANITY FACTORY」という渾身系の2曲がとてつもなく光っているのではないでしょうか。

「Hey, Mr.Monkey」からラストの「G. S. I LOVE YOU」まで、このアルバムには楽曲間の隙間(無音時間)というものがありません。これは、ビートルズが「サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」で初めて世に送り込んだミックス手法です。
アレンジの連続性、曲順の練りこみが問われるこのミックス手法の中、加瀬さん、佐野さん、かまやつさん、鈴木キサブローさんなど名うての作家陣を嫌味なく推し立てつつ、自身の得意技を盛り込んだ「I' LL BE ON MY WAY」をオイシイ位置に組み込んだ銀次兄さんは、してやったり!の手ごたえをこのアルバムに感じたでしょうし、併せてジュリーの信頼をも勝ち取ったことでしょう。

どちらかと言うとストーンズ寄りだったジュリーが放った、ビートルズ流のコンセプト・アルバム。ネオ・モッズ、サイケデリック・ロック、メリーゴーラウンド・ロックと幅を広げ、ジュリーが本格的にロックアーティストへとシフトしたこのアルバムに、伊藤銀次さんの存在は欠かせません。
そんな銀次さんがさりげなく見せた、品の良い主張。
「I' LL BE ON MY WAY」はやはり、”キング・オブ・隠れた名曲”に違いないですね。

| | コメント (12) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧