DYNAMITE CANDLES

2012年8月27日 (月)

鉄人バンドのインスト on『ジュリー祭り』第2部

from DVD『人間60年 ジュリー祭り』、2008

Juliematuri

disc-1
1. OVERTURE~そのキスが欲しい
2. 60th. Anniversary Club Soda
3. 確信
4. A. C. B.
5. 銀の骨
6. すべてはこの夜に
7. 銀河のロマンス
8. モナリザの微笑
9. 青い鳥
10. シーサイド・バウンド
11. 君だけに愛を
12. 花・太陽・雨
13. 君をのせて
14. 許されない愛
15. あなたへの愛
16. 追憶
17. コバルトの季節の中で
18. 巴里にひとり
19. おまえがパラダイス
20. 6番目のユ・ウ・ウ・ツ
21. 晴れのちBLUE BOY
disc-2
22. Snow Blind
23. 明星-Venus-
24. 風は知らない
25. ある青春
26. いくつかの場面
27. 単純な永遠
28. 届かない花々
29. つづくシアワセ
30. 生きてたらシアワセ
31. greenboy
32. 俺たち最高
33. 睡蓮
34. ポラロイドGIRL
35. a・b・c...i love you
36. サーモスタットな夏
37. 彼女はデリケート
38. 君のキレイのために
39. マンジャーレ!カンターレ!アモーレ!
40. さよならを待たせて
41. 世紀の片恋
42. ラヴ・ラヴ・ラヴ
disc-3
1. 不良時代
2. Long Good-by
3. 
4. 美しき愛の掟
5. 護られているI Love You
6. あたなだけでいい
7. サムライ
8. 風に押され僕は
9. 我が窮状
10. Beloved
11. やわらかな後悔
12. 海に向けて
13. 憎みきれないろくでなし
14. ウィンクでさよなら
15. ダーリング
16. TOKIO
17. Instrumental
disc-4
18. Don't be afraid to LOVE
19. 約束の地
20. ユア・レディ
21. ロマンスブルー
22. TOMO=DACHI
23. 神々たちよ護れ
24. ス・ト・リ・ッ・パ・-
25. 危険なふたり
26. ”おまえにチェック・イン”
27. 君をいま抱かせてくれ
28. ROCK' ROLL MARCH
29. カサブランカ・ダンディ
30. 勝手にしやがれ
31. 恋は邪魔もの
32. あなたに今夜はワインをふりかけ
33. 時の過ぎゆくままに
34. ヤマトより愛をこめて
35. 気になるお前
36. 朝に別れのほほえみを
37. 遠い夜明け
38. いい風よ吹け
39. 愛まで待てない

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暑いですね・・・。
話に聞けば、今年は10月まで暑さが続く可能性があるとか。一体地球はどうなっているのでしょう。これはもう、栗本薫さんの『魔界水滸伝』初っ端そのままの世界が現実に起こっていますよね・・・。

しかしそんな中、今日は暑さも吹き飛ぶ大変おめでたい日です。
本日8月27日・・・鉄人バンドの柴山和彦さんが、還暦・満60歳の
お誕生日を迎えられました!!

かつてジュリーの横で演奏してきた多くのミュージシャン・・・それぞれ素晴らしいプロフェッショナルだと思っています。ジュリーと関わったすべてのミュージシャン、すべてのバンドを僕はリスペクトしていますが、やはり鉄人バンドのメンバーというのは僕にとって特別な存在です。
何故なら、『ジュリー祭り』を機に後追いのジュリーファンとなった僕は、鉄人バンドの音でジュリーに堕ちた、と言えますし、これまで鉄人バンドのジュリーLIVEだけを生で観てきているからです。やはり生で観ているのといないのとでは、思い入れは全然違いますよね。
ジュリーwithザ・ワイルドワンズや老虎ツアーの時にも、変わらず鉄人バンドの姿がありましたから・・・。

そんな鉄人バンドのバンドマスター・柴山さんが、ジュリーから遅れること4年、無事還暦を迎える日を、1ファンとしてお祝いの発信ができるとは・・・感無量でございます。
そこで今日は『祝・柴山さん還暦記念』をコンセプトに、鉄人バンドのインストをお題に採り上げます。

選んだのは、『ジュリー祭り』第2部で演奏された、柴山さん作曲の爽快なナンバー。
これは隠れた名曲です!
『ジュリー祭り』のインストと言うとどうしてもオーバーチュア(こちらも柴山さん作曲)が目立っていますが、重厚さと軽快さとの対比はそのまま、柴山さんの作曲・編曲スタイルの幅広さを物語るものです。メロディーやコード進行については、第2部のインストの方が僕としては好みなのです。
・・・とは言っても『ジュリー祭り』参加時の僕は、恥ずかしいことにまだ鉄人バンドのインストにさしたる印象を持ってはおらず、後でDVDを鑑賞して感動させられた、というクチなんですけどね。

さて、今回は鉄人バンドのインストがお題
ということで、以前、ジュリーLIVEでのインスト復活を祈願して立ち上げたカテゴリー『DYNAMITE-CANDLE』での記事執筆となります。
このカテゴリーを考案した時のいきさつを色々と説明しますと、それだけでかなりの大長文になってしまいますから、事情をよく呑み込めない方々は、同カテゴリー第1回のこちらの記事をご参照くださいませ。

とにかく今日の記事は、拙ブログのカテゴリーで明らかに異彩を放つ・・・いわゆる”妄想系”の内容となります。
妄想ですから、登場するキャラクター設定などは、明らかなモデルはあれどもまったく架空のものとご了承願います。
しかも、ふざけた妄想の割には、たいして面白くもありません。
ただ・・・登場人物の発言中、楽曲考察部については僕が真剣に吟味、採譜、分析したことをそのまま書いております。どうかその点のみ、真面目な話とお考え頂けると嬉しいです。

それでは・・・よろしゅうございますか?
DYNAMITE-CANDLE、2本目です!

☆    ☆    ☆


暑い・・・異常に暑い。
もう何日猛暑日が続いているだろうか。

額に汗の玉を浮かばせた長髪、痩身の男が、部屋で扇風機に当たりながらDVDプレイヤーのモニター画面を胡坐の状態で見入っている。
スピーカーから「サンキュ~、トキオ~!」という、力強いシャウトが聴こえてくる。
モニターに見入る男はそのシャウトに合わせ、手にした水色のギターで、「じゃ~ん♪」と軽く「D」のローコードを鳴らした。

痩身のためか、それとも元々の体質のせいか、普段から汗をかきにくく「暑さには強い」と自負していた、その男・・・霊界の正統なる皇子という身分を捨て、下界でギタリストを生業としているプリンス・ジュンも・・・さすがに今年の暑さには参ってしまっている。
「霊界の夏は涼しかったなぁ」
と、若干ホームシック気味なプリンスなのであった。

下界では、お盆の大型連休を終えようとしているところである。
連休の初っ端に渋谷公会堂で行われた『3月8日の雲~カガヤケイノチ』ツアー前半最終日を無事に終え、プリンスも充電休暇中だ。
ただ、いくらオフとは言え、9月上旬にはツアー後半が幕を開ける。気を抜いて指の感覚を鈍らせるわけにはいかない。何でも良いから日々”ギターをいじる”こと、それが肝要だ。

ということで、この日プリンスは思い出の『ジュリー祭り』DVDを鑑賞しつつ、アンプを通していないストラトキャスターで適度にフレーズやコードを合わせながら過ごしていた。
モニターの映像はdisc-3の大詰め、「TOKIO」へと進んだところである。
バッキング・コードを合わせていくプリンス。ピックを持つ親指はちょうど付け根が上を向く格好になる。血管の浮き出たその指に、長髪の先からしたたり落ちた汗の滴が躍っている。

「・・・って!暑っちい!扇風機効かね~!!」

プリンスは遂に音を上げ、ゴロン、とギターを抱えたまま仰向けに寝転がってしまった。

と、その時である。
部屋の片隅の奥まった空間がユラユラと揺らめき、ゆるやかな振動と共に宙から小柄な老人が忽然と姿を現した。

「若っ!お久しゅうございます!」

「うわったったった!!」
不意を突かれ慌てて起き直るプリンス。突然目の前に姿を現した老人こそ、霊界の後継者達への帝王教育係として一生を捧げた、プリンスにとって唯一頭の上がらない人物・・・”爺”と呼ばれている読者諸君お馴染みの老人である。

「なんだ爺。下界に用事でも・・・?」
わざとぶっきらぼうに声をかけるのも、プリンスの爺に対する愛情の裏返しだ。長身痩躯のプリンスが立ち上がると、小柄な爺は見上げた視線に少し不満の色を浮かべながら
「用事でも、ではございませぬ・・・。この爺、お盆に入ってからずっと下界で働いておったのですぞ」
「えっ、そうなのか?」

驚くプリンスの言葉に、爺は重々しくうなずくと
「今回は中井殿の里帰りの御伴でございました。あの御仁は顔が広くてなかなか移動が大変でございましたよ・・・。中井殿の霊界への無事のお戻りを見送ったその足で、ちょっと若の様子が心配で見に参ったのです。案の定、このうだるような暑さの中を、扇風機だけで過ごされているとは・・・」

「いやぁ・・・節電しないと、と思って・・・。下界は下界で色々大変なんだよ」
頭を搔くプリンス。爺は首を振り
「若の志、分かっております。しかし何よりもまず健やかなる身体あってこそ。若のために、霊界から少しばかり保存冷気を持ってきましたゆえ・・・御免、ハッ!
爺は勢いよく跳躍すると、老人とは思えない俊敏な動きで気合もろとも肢体を激しく空中で回転させた。

ボディーを冷やさ~なくちゃ~♪ハイ、ハイ、ハイ!

歌声とともに爺の身体から放たれた冷気が次々に渦となって拡散し、部屋の隅々にまで行き渡る。たちまちプリンスの部屋は快適な気温に保たれ、空気はそのまま安定した。
「おぉ・・・久しぶりだなぁ、爺の霊力・・・」
プリンスは薄く笑って喜んだが、ふいに眉をひそめて
「しかし、以前の爺は霊力を使う時に歌など歌わなかったぞ。しかも今日はBOKE BOKE SISTERSのパートまで・・・。俺を仕込んでくれた頃の、厳かなキャラは何処へ行ってしまったのだ・・・まさか・・・」

爺は微笑んで
「はい。ご想像の通り、現在の我々のやりとりは下界の祐筆によって広く発信されております。今回は例の怪しげな男の祐筆が執筆しております故、我々のキャラもそれに順じて変化しているというわけです」

「むむむ・・・イヤだなぁ。何だかあの祐筆にかかると俺は、薄い氷の上でニヤニヤしながら危なっかしく踊っているような、とても軽いキャラになっていないか?」
プリンスは心底うんざりしたように言うと
「で、奴は今回、何についての発信をしようというのだ?」
と尋ねた。

「それそれ、それでござるよ」
爺は我が意を得たり、とうなずくと
「ズバリ、柴山殿の還暦記念でござる。亜空間をつたい若の部屋を訪ねてみれば、ちょうど若が『ジュリー祭り』のDVDを鑑賞しておられたので、この爺、しかるべき楽曲へと映像が進むまで待機してから実体化したという次第でございます」

「えっ、そんなに長いこと亜空間から俺の部屋を覗いていたのか?」
プリンスは再び驚き
「我慢強いというか意識し過ぎというか何と言うか・・・もう少し早く涼しくしてくれて良かったのに。で・・・ええっと、ってことはこれから我々が語るべきは・・・この曲かぁ~。懐かしいな!」

モニターではちょうど「TOKIO」が終了し、鉄人バンドこの公演中2度目のインストゥルメンタル・タイムが始まったところだ。

Inst2

「ドーム公演ではインストを2曲やったが、どちらも柴山さんの曲だったなぁ。あの時は沢田さんの還暦のために演奏したが・・・今年は遂に柴山さんが還暦か。早いものだな・・・」

「2大ドーム興行でそれぞれ80曲を歌った沢田殿が、”バンドは(自分より多い)82曲をやっている。鉄人です”と『奇跡元年』で言ったことで、若達の”鉄人バンド”という名称が定着したんでしたな」
「うむ。まさか正式名称になるとは思ってなかったけどな~」
プリンスは感慨深げにうなずいた。
「爺、せっかくだから、この柴山さんの名曲、コード進行を拾ってみせてみろ。爺の腕が落ちていないかどうか、俺が判断してくれようぞ」

プリンスは持っていたストラトキャスターとピックを、そのまま爺に手渡す。
ギタリストにとって、自分の愛器を易々と預けられる人物など滅多にいない。これもプリンスの爺に対する愛情の証だ。
それが分かる爺は感激し、張り切ってギターを構える。

「爺はこの曲が大好きで・・・何と言っても若の”テケテケ”が聴ける貴重なナンバーですからな!光栄なことでございます。ドームでの柴山殿作曲のインストは2曲ともに素晴らしい曲ですが、今の季節・・・夏にピッタリなのはこちら第2部の曲の方ですな・・・」
爺はモニターを凝視し、耳をすますと
「ディレイ系のエフェクターをフィーチャーしたイントロ部4小節・・・ここは、C→Am→F→G7でよろしいですな?」

「うむ。世のロック&ポップスに一番多く使われる王道の進行だな」
プリンスは、コードを鳴らす爺を優しげに見つめて
「柴山さんの作曲は、歌モノだと複雑な転調を繰り返す難易度の高い曲が多いんだが、インストになると意外とシンプルだ。声を使わない、楽器だけの表現にこだわるとそうなるんだろうし、自分以外のバンドメンバーにも見せ場を作るため、人によって広い解釈が可能な、ストレートな進行で組み立てているんじゃないかな。実際、俺も泰輝も、ソロ部は自分の得意な形でブルース系の解釈に持ちこめているしな」
「なるほど、作曲ひとつとっても、人柄なのですなぁ・・・」

Inst4

曲は、Aメロ1番のソロへと進んでいく。

Inst5_2

爺は楽しそうに
「柴山殿、ほとんどフレットを見ずに弾きますなぁ・・・。え~と、このAメロ部で若のバッキング・コードは・・・C→A7→Dm→Gでよろしいですかな?ならばこれは沢田殿の『OH!ギャル』のサビと同進行ということになりますが・・・」

「爺、現場を離れてさすがに少し鈍ったな。それでは50点しかあげられん」
「な、なんと・・・何処が問題ですかな?」
慌てる爺に、プリンスは優しく微笑みかけると
「もちろん、爺の言う通りのコード進行でバッキングをしても、柴山さんの作った主メロとは合う。しかしウチはベースレスという特殊なロック・バンドだからな。常に誰かしらがベーシストの代わりに経過音の感覚を持っていなければならん。爺、問題は2番目のコード、A7のところだ」

「A7コードが問題・・・そして経過音・・・つまりCとDmの間の音・・・。あっ!なるほど、2番目のコードはC#dimですな!」
「そうだ。この経過音のおかげで、Aメロの柴山さんのリード・ギターで奏でられる主旋律が、穏やかな波のような雰囲気になる。和音の変化による堅さが無くなるんだな」
「潮の香りがしてきそうな進行ですなぁ・・・」
「ディミニッシュ・コードは、流れるようなメロディーをさらに引き立てる効果があるからな。今回の沢田さんのツアーでも、『君をのせて』の”肩と肩をぶつけながら♪”や、『マンジャーレ!カンターレ!アモーレ!』の”歌い尽くしたい♪”のところで、俺はデミニッシュ・コードを使ってバッキングを弾いている。柴山さんのインストAメロ部も含めて、どれもメロディーの流れがちょっと似ているだろう?」

爺はしばらく思案して
「実はこの爺、以前よりこの曲のAメロ部を、何処かで聴いたことがあるような気がして、色々と調べたのでございます。マニアックな曲ではなく、世間でもかなり有名な曲で似たフレーズがあったように思えて・・・サザンロック、サーフィンエレキなどの名曲の心当たりをくまなく探してみたのですが・・・見つかりませんでした。これは爺の気のせいなのでしょうか。若はお分かりになりますかな?」

「爺、言っていることは分かるぞ。似たメロディーの有名な曲は、実際ある。しかし・・・確かにこの柴山さんの曲は潮の香りに満ちた明るく穏やかなサウンドだ。ただ、純粋に楽曲構成を考察する時、曲想の先入観に縛られてはいかん。サザンロックやサーフィンエレキにこだわらず、あらゆるジャンルに目を向けてみろ」
「むむ・・・すると70年代ロックあたりに意外な元ネタが・・・?」
「いや、もっともっと視野を広げなくてはいかんな・・・まぁいい。爺の頭に浮かんでいる”有名な曲”ってのは、たぶんこいつだよ」

http://www.youtube.com/watch?v=0JxMHZMzAcQ

爺は飛び上がった。
「な、な、なんと・・・。これは驚きました。まさか時代劇とは」

プリンスは涼しい顔で
「無論、一部メロディーの酷似は単なる偶然だ。第一、長調と短調という決定的な違いがあるんだからな。ただ、コード進行を紐解いた時、共通するフレーズの謎は解ける。『大岡越前のテーマ』はロ短調だが、イ短調に移調するとAm→A7→Dm・・・となる。はからずも、さっき爺が答えたA7→Dmがここで登場するワケだ。2曲を比べると、Dmへと移行する時のメロディーはまったくの同一フレーズとなっている。爺が混同するのも無理はないさ」

「なるほど・・・しかし、DVDで若の手元を注意して見ると、2番目のコードでは確かにC#dimのフォームになっていますな」
爺はさらに目を凝らして
「続いてEm→A7を2回繰り返し・・・1番の終わりの、せり上がる部分はDm→Em→F→Gですかな?」
「そうだ。基音がレ→ミ→ファ→ソと上昇する。ストレートな進行だな。でも、Em→A7のところは、若干風変わりとも言えるかな」

曲は2番へと進む。
1番と同じフレーズが繰り返され、爺はコードを再確認しながらうんうん、とうなずいていたが、映像でカメラが切り替わった瞬間、「あっ!」と嬌声を上げた。

Inst6

「この曲での若のアップシーン、久しぶりに見ましたぞ・・・。おっ、Gのところで若は細かい単音を入れているのですな!」

見ると、画面のプリンスの中指が宙に浮いたりフレット上に舞い戻ったり・・・と、細かく動き回るのが映し出されているところである。
プリンスは「なんだ、このくらい」と一笑すると
「アップで見て初めて気づいているようではイカンな、爺。俺は1番でも同じことをやっているぞ。音だけで気づいて欲しかったな」

「こ・・・これはしたり。とすればこのオブリガートはアドリブではなく、リハーサル段階で詰められていたものなのですな」
爺は感心してそう言うと、再び画面を振り返って
「ところで若は、Gのコードを小指を使わないフォームで押さえるのですな。今日の祐筆が事あるごとに”これは自分と同じ押さえ方だ”と喜んでおりますが・・・」
「ふん・・・それだけ年を食ってる、ということを認めているようなものだぞ。要は、巷のコードブックに指番号表記が無かった時代にギター・コードを習得した、というだけのことだろう」

Inst7

「おお・・・Em→A7以降で、柴山殿は1番のフレーズよりオクターブ高音で演奏しているのですな。この指圧・・・うねるような音の繋がり、まさに波のようですなぁ」
「うむ、これぞ柴山さんらしい奏法だな。今年の沢田さんのツアーのセットリスト曲では『F.A.P.P』や『明日は晴れる』で同じスタイルの奏法を聞かせてくれているぞ」
「それは承知しています。そう言えば今日の祐筆男、柴山殿のそのうねりに惑わされ、『F.A.P.P』や『明日は晴れる』のリードギターを、スライドだと書いていたことがありましたな。つくづく恥ずかしい男です」

曲は2番の終わりを迎える。

「なるほど、ここはC→B♭の繰り返しで纏めていますな」
「うむ。ちなみに俺はこのCとB♭については、下4弦のハイポジションで弾いている」
「ジャッ、チャラララッ!というキメ部に合わせるためですな。そしてここから、いよいよ他メンバーの見せ場となりますな~」

Inst8

いつしかプリンスも腰を下ろし、爺と同様画面を食い入るように注視し始めている。
「泰輝は、素直なコード進行にブルース音階を載せるのが好きなんだよな~。音色は違うが、”緑色のKiss Kiss Kiss”の間奏に似たフレージングになっているな」
「左手でずっと低音をカバーしているのも凄いですな・・・。そして、次は遂に若の出番ですな!」

Inst3

「素晴らしい、若のテケテケ!カッコイイですぞ!」
ちょっと変わったことをすると”カッコイイ”とか騒ぐんだからな・・・まぁ、やはり曲調から考えて、ギターソロに求められているのはコレだろう。ストレートな進行部だけに、ソロの自由度も高いな。俺もちょっとブルースっぽい音を加味してみた」
「柴山殿以外のメンバー3人の見せ場は、すべてコード進行はF7→Cで統一されておりますな。それにしても、GRACE殿のカンペは大きくて目立ちますな・・・」

Inst9

「そりゃまぁ、82曲ビッシリ書いてあるわけだから・・・」
「沢田殿はもちろんとして、若達バンドメンバーも、本当に大変なことをやってのけたものですなぁ・・・」
「沢田さんを筆頭に、バンドのメンバーも皆ある程度の年齢を重ねたからこそ逆に出来たことだ。若さと体力にまかせるだけでは不可能だっただろう。良い意味で、”抜く”感覚を持っていなければな」

パワーを緩めなくちゃ~♪ハイ、ハイ、ハイ!

思わず反応して歌ってしまった爺の身体に僅かに残っていた保存冷気が、歌につられてほとばしる。寒~い空気が部屋に漂った。

「・・・爺。毎度細かいことを言うようだが、今爺が歌った歌詞部分には、BOKE BOKE SISTERSのかけ合いコーラスは無い
「な・・・左様でございましたっけ・・・?いやいや、さすがは若。今回の沢田殿のツアーの”サーモスタットな夏”では、リードギターにコーラスに、と大活躍でございますからな!」

映像は、最後のキメ部へと移行していく。

Inst11

爺は、プリンスがアップになるシーンが嬉しくてたまらぬ様子である。目を輝かせながら
「おおっ!なるほど、ここではCのコードを8フレットの下4弦で押さえておられますな。『歌門来福』の”スマイル・フォー・ミー”のエンディングと同じフォームですな!」
と、はしゃいだ。

プリンスは照れて
「いやいや、ここも含めて、俺が大写しになるような箇所じゃないんだけどな。この曲では、もっともっとカメラが柴山さんをアップで捉えた方が良かったような気がする。Aメロの1番、2番、3番・・・それぞれ同じ進行上で柴山さんはその都度違うことをやっている、その辺りを見て欲しいところだしな・・・ただ」

プリンスはそう言って、エンディングの画面を指さした。

Inst10

「とにかく最後の最後にこの笑顔を抜いたカメラワークは見事だ。柴山さんと言えば、やっぱりコレだよ!」
「この時、56歳ですか・・・信じられない若さですな」

「沢田さんに続いて、今年は柴山さんまでが還暦になる。俺は自分の還暦など想像もつかん、と思って過ごしてきたが、今この二人の姿を見ていると、年をとるのが楽しくなってくるようだ。有難いことだな・・・」
プリンスは感慨深げにそう言うと
「爺、人生は楽しんでこそだ。爺だってまだまだだぞ・・・。そうだ、このまま俺の部屋でしばらくゆっくりしていくがよい。急いで帰らなくてもいいんだろう?」
「そうですな・・・慌てることもありますまい。しばし御厄介になりますかな」

「やった!これでしばらくは涼しいぞ!
プリンスは飛び上がって喜んだ。爺は
「それが目的ですか・・・」
と、若干しょげたようだ。

「いやいや冗談だ。よし、これから二人で、柴山さん還暦の前祝いに軍艦カレーを食べに行こう!もちろん、柴山さんの故郷・横須賀で」
「いいですなぁ・・・若と二人で食事など、いつ以来ですかな。それにしても我々のこのやりとりが、横須賀に軍艦カレーを食べに行く、などというどうしようもないオチで、祐筆の男もさぞ頭をかかえておるでしょうな・・・ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ!」

その時二人は同時に、バンドメンバーで次に還暦を迎えるプリンス・・・来たるべきその日の景色を思った。
今と変わらないメンバーでのツアーがあり、その最中に迎えるであろう、その日のことを・・・。

☆    ☆    ☆

尻切れトンボ的超適当なオチで、すみません!
連休2日を丸々使って書けば余裕で纏まるだろう、と考えていましたが甘かったです。久々のキャンドル話に、何度も煮詰まりまくりました。
しかも、結構長くなった割には全然面白くないし・・・。

まぁ、当初の目的・・・楽曲全編を通してのコード起こしは達成しました。これで、ギター弾ける人なら、下山さんが担当しているバッキング・パートはすべて音源に合わせて演奏できるはず。
そう、音源が残されている、というのは有難いことですね。
鉄人バンド、インスト集のCDとか出せばいいのに・・・とか思ってしまいます。

さて、柴山さん・・・”人間60年”おめでとうございます!
ジュリーファンになって、LIVEに行くようになって以来、多くのジュリーファンの先輩方には及ばないまでも、僕も色々な会場で柴山さんの演奏を観てきました。柴山さんとかなり近い席でのLIVE参加も、これまで数度体験してきました。

プレプレ大阪、柴山さん真正面4列目の席では、本当に笑顔と音楽愛のパワーを貰いました。実は僕はその翌日、カミさんの実家に初めての挨拶に行く、ということが決まっていました。ステージの柴山さんに「直球入魂、笑顔で行け」と背中を押されたような気がしたものでした。

ジュリワン八王子、3列目では、これぞプロフェッショナル!というギタリストの真髄を感じました。ジュリーとの信頼関係の大きさもハッキリ伝わりました。

記憶も新しい、先月のびわ湖最前列では・・・あんなに近くで渾身の演奏をしてくれたのに、僕はジュリーばかりに見入ってしまいました。でも、ふと気がつくと、変わらぬ仕事人・柴山さんの姿はすぐ目の前にありました。

僕は「好きこそものの上手なれ」という言葉を座右の銘のように大切に思っていますが、柴山さんは、その言葉を究極まで突き詰め達成したような人なのかなぁ、と感じています。
ツアー中に還暦を迎えたと言っても、これからのツアー後半、柴山さんは前半と何ら変わらぬ自然体で、いつも通りの演奏に臨むでしょう。
でも、次の八王子公演が、柴山さんが還暦を越えて初めてのジュリーLIVEであることは事実。ジュリーや他メンバーにとっても、気合の入るステージなのではないでしょうか。

八王子、僕は幸運にも上手ブロック、トチリ席のチケットを澤会さんから頂いております。
びわ湖ではジュリーに見とれてしまったけれど、今度はハッキリ柴山さんサイドのお席ですから、そのプロフェッショナルな演奏を存分に注目し楽しみながら、お祝いと感謝の気持ちを送ろうと思っています。

柴山さん・・・いつまでも、ジュリーと共にお元気で!

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オマケ画像① 『ジュリー』さん
先月、日帰り旅行で訪れた高崎にて偶然発見したお店。ママさんは間違いなく、その道の大先輩でいらっしゃるはずです。

オマケ画像② 『和(KAZU』さん
自宅からとなり駅までの道沿いにある居酒屋さん。機会があれば一度入ってみたいと思っています。

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2011年2月12日 (土)

鉄人バンドのインスト on 『僕達ほとんどいいんじゃあない』

Juliewiththewildonesdvd

お正月コンサート『Ballad and Rock'n Roll』も無事終わりました。
しかし僕の気持ちとしては、今回の記事執筆でひと区切り、というのが正直なところです。

素晴らしいセットリスト、新たなステージングの中にあって、ただひとつだけ残念に思ったのは、やはり鉄人バンドのインストが割愛されてしまったこと。
何度も書きますが、僕は多くのJ先輩、J友さんが予想した”DYNAMITEの反応”とは逆の感想を持ち、前半後に休憩をはさむ構成を支持する、という気持ちになりました。

ただ、それとインスト割愛とはワンセットで考えてはいません。ステージ後半1曲目として、是非インストの復活を!と望んでいます。
この件につきましては、『Ballad and Rock'n Roll』名古屋公演のLIVEレポートをご参照ください。

さて今回の記事が第1回目となる新たなカテゴリーでは、これまでのジュリーLIVEで演奏されたバンドのインストゥルメンタル・ナンバーを採り上げていきます。
依知川さん在籍時、或いは井上バンド。注目すべき楽曲は枚挙にいとまがありません。
今回、まずは何と言っても今のジュリーを支える鉄人バンド。
しょあ様からリクエストを頂いております、ジュリーwithザ・ワイルドワンズ『僕達ほとんどいいんじゃあない』のインストについて書かせて頂きます。

で。
本題に入る前に、ちょっと書いておきたいことがあります。
これは僕が昨年春に、ジュリー堕ち以降初めて気持ちの壁にぶつかった時に考えたことで、ブログで書こうとは考えていなかったのですが・・・『Ballad and Rock'n Roll』を体験する過程で色々と考えさせられることもあって・・・「書く日が来たのかな」と思いました。
それは僕が個人的に想像する、”ジュリーの男気”について、なんですけど。

”男気”というフレーズは、ここ数日になって突然ジュリーファンの間でクローズアップされた言葉でしょうね。
そう、一躍時の人となったピーが、ジュリーの男気を語ったのです。
後追いファンの僕も、とても嬉しく思いました。

ピーという人は、自分の意思や考え方を簡潔に、自然に話すのですね。”伝達力”がある人だと感じました。
長い年月が空いていたからこそ、ジュリーとの再会から響くものがあった・・・ピーはそれを”男気”という言葉でジュリーファンに伝えてくれました。

あぁ、話が逸れています。鉄人バンドの話でした。

僕は『ジュリー祭り』以降、ジュリーに関する作品や表現すべてを受け止め、大げさに言うと人生の糧として吸収し続けてきました。共感やリスペクト、思い入れを持ってジュリーに向き合ってきたのです。
ところが昨年春、ジュリーファンとして初めて大きな困惑に駆られることがありました。
それは、NHK『songs』にて、ジュリーwithザ・ワイルドワンズ特集の第1週で放映された「涙がこぼれちゃう」を観た瞬間。
番組の大トリで放映された「涙がこぼれちゃう」は、ヴォーカル、演奏ともに、CD音源がそのまま使用されたものでした・・・。

「渚でシャララ」も同様でしたが、これは微笑ましく観ていられました。
ダンスがメインになることは予想していましたからね。

しかし、「涙がこぼれちゃう」までもがCD音源そのままだったことには、相当ショックを受けました。
それまで、多くの過去のジュリーのTV映像をネットで観ていて「この時代に専属バンドの生演奏!それだけでジュリーがいかにロックしていたかが解る」
というファンとしての誇りを得ていた僕にとって、その日の放映のあり方は到底受け入れられるものではなかったのです。

「何故だ、どうしてなんだ。ジュリー、加瀬さん・・・」
そう思うばかりでした。

「ヤバい、どうしよう」
と言いながら見事なまでにショげこんでいる僕を、カミさんは呆れて見ていましたけどね・・・。「どうしよう」というのはつまり、ジュリーに対して否定的な気持ちを持ってしまった自分に、うろたえていたというわけです。

僕はその頃、アルバム『ジュリーwithザ・ワイルドワンズ』収録曲を順にブログで採り上げて記事更新していて、「僕達ほとんどいいんじゃあない」執筆直後にそんなことがあり、コメントでヤケ気味の発言をしたりして・・・多くの方に心配をおかけしてしまいました。
記事の更新意欲もなくなっていました。

立ち直る直接のきっかけになったのは、吉田Qさまのブログを拝見したことです。
「つまらん事で落ち込んでいないで、早く俺の曲(いつかの”熱視線ギャル”)の記事を書けい!」
というメッセージを間接的に頂いたのです。

単純な僕はたちまち元気になり
「よし、もう一度よく考えてみよう。ジュリーのすることには必ず意味があるはずだ!」
と、気持ちをリセットすることができました。


以下は、僕の個人的な推測になりますが・・・。

まず考えたのは、放映の映像収録時点では、まだワイルドワンズと鉄人バンド合わせてのセッションには至っていなかっただろうし、演奏に関してはCD音源を使用せざるを得ない状況だったのだろう、ということ。

で、ジュリーほどの人なら
「演奏はアリもので止むを得ないにしても、ヴォーカルは生の音声で」
という主張は簡単にできたでしょうし、実現可能だったはず。
でもジュリーは、それをしなかった。
何故か?

そう考えた時、ハッと思い当たりました。

もしも
”ヴォーカルが生、にもかかわらず演奏がCD音源”
という映像がTVで流れたとしたら、心無い世間の中傷にさらされたのは、ワイルドワンズや鉄人バンドのメンバーになっていたのではないか、と・・・。
「エア演奏」とか言われたり・・・。
ジュリーにとって、それは我慢できることではないはずです。

ジュリーは、特に鉄人バンドに対して
「メンバーにそんな思いをさせるくらいなら、俺が全部かぶってやる」
と考えたのではないでしょうか。

そうだ、ジュリーは今までもそうしてきた・・・。
大切な人、大切な仲間を護るために、自らが矢面に立ち、一切の弁解もしない。
人を「護る」ということは、その人のために矢面に立ち、自らを差し出すということ。
ジュリーにはそんな矜持があるのでは、と思います。

『songs』放映後、ファンでない人が少なからずジュリーの「涙がこぼれちゃう」ヴォーカルの放映手段を、非難したと聞いています。
しかしジュリーは、自らがそう言われることで、完璧なまでにバンドを護ったとは言えないでしょうか。
僕はそう思いました。
やっぱりジュリーは男の中の男・・・男の手本だ、と思いました。

僕はすっかり心が晴れ、翌週放映の1曲目で「プロフィール」がやはりCD音源で流れてもまったく動揺しませんでした。
しかも、流れているのは確かにCDの音だけれど、現場ではジュリーが実際に歌い、バンドも音を出している・・・そう確信することもできました。

そんな経緯もあって・・・今年のお正月コンサート『Ballad and Rock'n Roll』で鉄人バンドのインストが割愛されてしまったことも、ジュリーが公にしない大きな理由があるのだと、僕には思えます。
それが何かは解りませんが、ジュリーの決めた事に意味の無い事などないはずだ、と考えるからです。

・・・と、ここまで随分枕が長くなりましたが、これまで数人の先輩方にしか話さず心にしまっていた個人的な思いを、この機に書かせて頂きました。

さぁ、本題です。
今まで生で体験した鉄人バンドのインストの中で、圧倒的に好きになった曲のリクエストを頂いたこと、そしてその曲がDVDという形でいつでもみなさまが鑑賞できること・・・とても嬉しく思っています。
ジュリーwithザ・ワイルドワンズ『僕達ほとんどいいんじゃあない』ツアーから、鉄人バンドの素晴らしいインストゥルメンタル・ナンバー、「情熱の渚」・・・伝授です!

まず断っておかねばなりませんが、「情熱の渚」(続くスローテンポのナンバーは「マーメイド・ドリーム」)というのは、今回リクエストをくださったしょあ様が以前につけた仮題です。
正式なタイトルがついているとの情報もありますが、残念ながらDVDにはクレジットがありませんでした。

しかし「情熱の渚」とは・・・何と素敵で、この楽曲にふさわしい仮題でしょうか。何と言っても、ジュリーwithザ・ワイルドワンズのコンセプトにピタリと合致しています。

インストの作曲構成やアレンジそれ自体が、言ってみれば”ワイルドワンズ仕様”を目指していることは明白ですから、やはりタイトルもそれに見合ったコンセプトであるべき。
そう考えると、「情熱の渚」・・・僕はこの仮題をとても気に入っています。

そうそう、リクエストをくださったしょあ様には、1月23日の渋谷『Ballad and Rock'n Roll』ファイナルでお会いすることができて、有難くもおみやげを頂いていたんだっけ。
どれどれ・・・。

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”DYNAMITE CANDLES”

ダイナマイト・キャンドル?
あぁ、ローソクですかぁ。ダイナマイトという名の、10本入りのローソクのケースです。さすが、洒落てますねぇ・・・。

ローソクと言えば、僕が幼少時代に読み漁った作家、江戸川乱歩にこんな逸話があります。
普通に明るい電灯の下で原稿を書くとどうも気が入らず、敢えてローソク1本を灯して作品の雰囲気を盛り上げて執筆した、という・・・。
確か、相原コージさんの漫画でその話を知ったんだったなぁ。
ローソク1本の光によって、あの魑魅魍魎の耽美世界が生まれたのか・・・解るような気もしますねぇ。

この”DYNAMITE CANDLES”にも、そういう力があるのでしょうか。
他ならぬしょあ様が授けてくださったものです。何か、特別な効果があるに違いありません。

よし、試してみよう。
乱歩ばりに、ローソク1本で記事執筆してみるんだ。
電灯を落とし、キャンドルに灯をつけて・・・。

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DYNAMITE-CANDLES (1本目)

☆    ☆    ☆

「爺・・・爺・・・!俺だ。今帰ったぞ!」

時に忘れられたロストワールド。或いは、超五次元のハイパー空間か。
人智遠く及ばぬ大霊界。
その片隅、人間界との唯一の連結空間を擁した小さな執事部屋で、いそいそとアナログDVD機をセットしている老人が一人。その横で今、ゆらゆらと空気がゆらめき、黒ずくめの衣服を身に纏った痩身の男が姿を現した。
一見、50代前半の人間にしか見えないが、彼こそ、この霊界の正統な皇子・・・プリンス・ジュンであった。

彼が高貴な地位を捨て、人間界で生きていくことを決断した一大イベント『ジュリー祭り』から、早くも2年の月日が流れ過ぎていた。

「わっ・・・若!一体どうしたのです、突然のお帰りで・・・。ようやくこの霊界にお戻りなる決心がつきましたか!?」
爺と呼ばれた老人・・・プリンスの教育係として一生を捧げた小柄な老人は、いささか慌てながらも、嬉しさからか顔をクシャクシャにして、かつての「皇子」を出迎えた。

時は、人間界で言うところの2010年12月24日。

「いやいや、霊界の皇子なぞに戻る気はないが・・・クリスマス・イヴに爺の顔が見たくなってな。年が明けたら早速沢田さんのツアーがあるし、しばらく忙しくなるからなぁ」
痩身の”プリンス=若”は、よっこらしょ、と胡坐を組むと、ポンポン、と爺の肩を優しく叩くのであった。

爺はいっそう表情を緩めて
「左様でございますか!しかし大丈夫なのですか・・・。いきなり人間界からいなくなって、騒ぎになりませんかな?」

「平気だよ、今日1日だけだし。人間界には、俺はノロウィルスで隔離された、と触れ回ってもらってあるから」
「またそのような事を言って・・・。若には夏のジュリワン・ツアーで大変な前科がありますからな!人間どもが本気で心配するでしょうに・・・」
爺はそう言ってため息をついた。

「まぁまぁ・・・。その分信憑性もあるだろう?万が一にでも、霊界に行き来していることがバレたら大変だからな」
プリンスは暢気に応えると、ふと爺の手元に目を止めて
「あれ?爺、何かいやらしいDVDでも観るトコだったか?お邪魔したかな・・・」
「な・・・何ということを申されます!」
爺は真っ赤になって大声を出した。

「これはですな・・・今しがた特別に取り寄せた、本日下界で先行発売となったLIVE映像作品ですぞ!これを観ながら、大事な時に病に倒れた若に対する、己の教育不行き届きを反省しようと考えておったところです!
丁度いい、若もこれから爺と一緒に観ようではありませんか?」

今度はプリンスが慌てて
「も、もしやそれは・・・?」
「さよう。若が病で欠席なさったジュリーwithザ・ワイルドワンズのLIVEツアー『僕達ほとんどいいんじゃない』のDVDです!」

「爺、『いいんじゃない』ではなく、『いいんじゃあない』だ」

「細かいことを申されますな!」
遂に爺のカミナリが落ちた。霊界の厳かな空気が、ビリビリと振動する。
「このツアーが開催されている間、若の教育係として、不肖この爺がどれほど苦しんだと思っておられます?沢田殿や加瀬殿、柴山殿たちにもどれほど申し訳なく思ったか・・・」

「す、すまん、爺。もう決してあのような事はない・・・誓って。そうだ、お詫びというつもりではないが、これからそのDVDを一緒に観ながら、俺がもしジュリワン・ツアーに参加していたらどんな風にギターを弾いたか、爺に語ってくれようぞ」
プリンスは珍しくしおらしい表情になる。下界、霊界問わず、彼がこのような表情を見せるのは、他ならぬ、この爺に対してだけだ。

それがよく分かる爺は、感動で涙を浮かべると
「それは・・・この爺などに勿体無きお言葉・・・。爺は嬉しゅうございます。さすれば・・・この曲を」

爺はゆったりとDVDをセットし、チャプターを確認すると、真ん中より少し前の”チャプター15”のところで映像を頭出しにした。

まずドラムスにスポットが当たり、次いでキーボード。
鉄人バンドのインストである。

「うむ、爺ならばそう来ると思っていたぞ」
プリンスは目を細めながらうなずいた。
ギターが絡んでアームの音色を残したイントロが終わり、画面ではAメロが始まった。

Jounagi6

「まずこの1番の部分だが・・・。本来ならばここは俺がリードギターを弾く場面になっていただろうな」
「ええっ?そうなのですか!いかにも柴山殿のパート、といった感じですが・・・」
爺はいきなり驚く。

「いや、ここは俺がリードを弾いて、柴山さんがサポートに回るのが自然だ。何故なら、柴山さんにピッタリのアレンジがあるからだよ」
プリンスは我が意得たり、と解説する。
「俺がリードギターを弾く後ろで、柴山さんはピッキング・スクラッチでフォローする。どうだ、この曲にピッタリのアレンジアイデアだろう?」

「若・・・若。私は良いのですが、なるべく専門用語ではなく、もっと一般の衆にも分かり易い言葉で説明してくださいませぬか?」

爺の言葉に、プリンスは首を捻った。
「何故だ?」
「実は、我々のこのやりとりは、下界の人間が文章化し沢田殿のファンの間に広く発信される予定なのでございます・・・」

プリンスは膝を叩いて
「あぁ・・・聞いたことがある。霊界での俺と爺の会話の様子を下界に伝達する、優秀な女性祐筆がいるらしいな」
「いえ・・・確かにそうなのですが・・・。実はあの優秀な女性祐筆は現在筆を休めておりまして、今回の我々の様子は、残念ながら若輩の男が代わりに書いておりまする」

「男・・・なのか?イヤだなぁ。若いのか?」

「若い、とは言い難いですが・・・40過ぎの、沢田殿のファンの男だと聞いております」
「40過ぎか・・・若造だな。まだまだ沢田さんやワイルドワンズの境地など及びもつかない年齢ではないか」
「♪俺達、老人!」

「じ、爺!いつから人前で歌など歌うキャラになった?」

爺は悲しげに首を振ると
「ですから、今回は祐筆が代わっているのですよ・・・。必然的に我々のキャラも変化しております。私とて、好き好んでこんなキャラになっているわけではありません。今回は仕方無いでしょう・・・若もこの際、存分にハメをお外しなさいませ」

「うぅ・・・大丈夫かなぁ」
「観念なさいませ。ささ、解説の続きを・・・」

「う、うむ・・・え~と、ピッキング・スクラッチだったな。これはまぁ文字通り、ピックでエレキギターの弦を”ひっかく”という奏法だな」
「加瀬殿がこのツアー、「TOKIO」の間奏部にて宇宙遊泳のS.E.で応用されておりましたな」
「そう、アレだ。”きゅっ、きゅっ”という音だな。ベンチャーズに代表されるサーフィン・エレキ・サウンドで、ひいてはワイルドワンズのサウンドにも合致する音だ。このインストでは、3人体制だとそこまで網羅できないが、俺が加わって4人体制なら、曲にふさわしいアレンジだと思う。そうなったら、ピッキング・スクラッチは間違いなく柴山さんのパートになっただろう」
「なるほど・・・実現していれば、”きゅっ、きゅっ”なるフレーズが流行語大賞の上位にランクインしたかも知れませぬな。若の病のせいで惜しいことを・・・」
「言うな・・・爺」

プリンスはしばし頭を抱えていたが、気を取り直して解説を続ける。

「2番は、1番と同じメロディーを高い位置でミュート奏法・・・え~と、ミュートってのは弦に軽く触れて硬い音を出す奏法で・・・」
「ベンチャーズで有名になった、テケテケ・サウンドというヤツですな」
「そうそう、これはやはり柴山さんの出番だな」
「若はどうなさいます?」
「そうだな・・・普通に考えればコード・バッキングだが、キーボードが絶妙の刻みを入れているから、ギターコードは却ってミュート・リードの邪魔になるかもしれない」

Jounagi5

「泰輝殿のオルガン・カッティングは素晴らしいですなぁ・・・」
「俺は2番1回し目は休んで、2回し目からメロディーをハモって単音を弾くのが良いだろうな」
「ほう!若のテケテケが聴けたかもしれないのですな!まったくもって惜しいことを・・・」
「だから・・・言うなって」

画面の演奏は、ドラムソロへと移った。

Jounagi2

「GRACE嬢のドラムも素晴らしいですな・・・若は、この曲のドラムスについてはいかが思われます?」
「楽曲にセンス良く合わせているな・・・。例えばAメロで、弱拍・・・え~と、”うんた、うん、た”という、裏の拍にもアクセントがついてくるだろう?これがサーフィン・エレキ・ナンバーでのドラムノリなんだ。沢田さんの過去の曲だと、「サーモスタットな夏」などもそうだが・・・爺、気がついているか?ジュリーwithザ・ワイルドワンズのアルバム収録曲に、このインストAメロとまったく同じ構成のドラムスが採用されている曲があるんだぞ」

「若・・・。爺の耳をあなどってはなりません。それは、「いつかの”熱視線ギャル”」のBメロでございましょう」
「その通り。♪満員電車で♪から始まる部分だな。テンポもほぼ同じ。このドラムパターンこそ、ジュリーwithザ・ワイルドワンズにピッタリの奏法なんだ」

画面は、オルガン・ソロへ。

Jounagi1

「俺はここでようやくカッティングだな。柴山さんが4~6弦で突き放し気味にバッキングしているから、俺はAメロでの泰輝のオルガンフレーズと同じリズムで、細かいカッティングをやれば完璧だろう」

曲はやがてフィナーレを迎え、「マーメイド・ドリーム」へと移行していく。

Jounagi3

「あと重要なのは、このインストのキーがAmだったということかな。Amのペンタトニック・スケールは、すべてのリードギタリストが完璧に身体で覚えこんでいる。だから、柴山さんもほとんどフレットを見ずに弾いていただろう?」

Jounagi4

「確かに・・・。若の不在をものともせず、よくぞ柴山殿達はたった3人で、ここまで完成度の高い演奏をなさいましたな・・・」
「め、面目ない・・・」

「若が参加なさっていれば、柴山殿がステージ上手におられたはずですからな。やはり下手に柴山殿がおられるのは、違和感がございまする」
「い、いや・・・たぶんジュリワンの場合は、俺が参加していても、ギターの立ち位置は沢田さんのソロツアーとは逆になっていたと思う・・・」
「えっ、そうなのですか・・・一体何故・・・あっ、分かりましたぞ!若はNHKの放送収録で、ベースの島殿に絡まれるのを大層恥ずかしがっておられましたからな!島殿から逃げるおつもりだったのですな!」
「違う違う!俺がステージ下手にいたら、下手に島さんと俺、上手に加瀬さんと柴山さん・・・ステージ全体から見ると、人員配置が凸凹になってしまうから・・・」
「遠近法の問題ですか・・・まぁ、そういうことにしておきましょう」

爺はひとしきり笑い、やがて真剣な面持ちになった。
「若、もう2度とこのような・・・ツアー欠席などという事があってはなりませぬぞ。お正月コンサートのインストにも、爺は期待しております故・・・」
「あ・・・そのことだが、爺。実は今度のツアーでは、バンドのインストはやらないんだ」

「な、なんですと!」
爺は飛び上がらんばかりに驚いた。
「一体どうして・・・?」

「沢田さんは多くは語らないが、何か考えがあるんだろう。俺達は沢田さんについていくだけだ。これまでインストを演っていた前半と後半の間に、10分間の休憩が入るらしい」
「そうですか・・・。今までとは構成が変わって、若も気持ちの切り替えが大変でしょうな。その10分間、心して集中なさいませ」
「いや・・・普通におしっこ行くと思うけど・・・」
「おしっ・・・!こ、これ!何ということを申されます!今は下界に身を置くとは言え、若は高貴な霊界の皇子・・・そのようなはしたないお言葉を発せられるとは!」

「だってぇ・・・」

「おぉ、若の”だってぇ・・・”が出ましたな。今回代役の祐筆男、本家をまんまとパクリましたか・・・ってそういう事じゃなくて!」
「いやいや面目ない。俺はさほど用が近い方でもないんだが・・・『Pleasure Pleasure』ツアーの大阪で、アンコール前の沢田さんのMCの時に、油断してたら最後の最後にしたくなってな・・・。メンバー紹介に間に合わなかったことがあったもんだからさ」
「まったく・・・どれほど大量の用を足しておられたのですか・・・。爺は情けのうございます・・・」

「さて」
プリンスはおもむろに立ち上がった。

「急に訪れてすまなかったな、爺。俺は下界に戻る」
「なんと!」
爺は慌てふためいた。
「1日おられるのではなかったのですか?つもる話はこれからだというのに・・・」
爺の大きな瞳からは、みるみる涙が溢れ出した。
「溢れるなみ~だ~♪」

「・・・爺、その突然歌い出すキャラは、やっぱりどうかと思うぞ」
プリンスは薄く微笑んだ。

「俺はさっき、顔を見に来た、と言ったが・・・どうやら本心は、爺に甘えたかっただけのようだ。爺と一緒にジュリワンのインスト映像を観て、喝が入ったぞ。正月の沢田さんのツアーのセットリストはもう決まっている。かなり渋い選曲だ。俺がリードギターを担当する曲も多いんだ。帰って少しでも練習しておかねばな」

「さようでございますか・・・そういう事でしたら爺も引き止めはいたしませぬ。ただ・・・爺はいつでも、若を待っております。それだけはどうか心にとめておいてくださいませ・・・」
「うむ」

プリンスは目を閉じ、一瞬意識を集中させると
「さらばだ、爺!・・・ハッ!」
と、勢いよく跳躍し、3回転ジャンプを決め・・・上体から順に、その姿をかき消して行った。下界に戻ったのだ。
一陣の風が、爺の頬を撫でる。

「お見事なジャンプですぞ・・・若・・・」

涙で濡れた爺の瞳には、プリンスが姿を完全に消し去る直前の、まさにその瞬間に映った赤い靴の残像が、いつまでも残っているのだった・・・。

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はっ!
今、ローソクが消えたようです。
何を書いていたんだっけ、僕は・・・。

などと、小芝居を打つのはこのくらいにしまして(汗)、舞台裏を明かしますと。
僕は今回のインストの記事を、鉄人バンドのファンのみなさまに捧げよう、と思っていました。
ですから、お題のジュリワンツアーのインスト「情熱の渚」を、普通に従来のスタイルで記事執筆すると、下山さんについて何も書けないというのが引っかかってしまって・・・。
それで、こんな変化球記事のアイデアを思いついたわけです。

まるで図ったように、”DYNAMITE-CANDLES”という格好の小道具を授かったことも、このアイデアに拍車をかけました。

しょあ様には
「しょあ様がブログをお休みしている間、爺とプリンスのキャラを僕に預けていただけませんか?」
とお願いしました。

しょあ様は「なんちゅうことを・・・」と呆れ笑いながらも、快諾して下さいました。同時に「でも、DYさんが爺の話なんか書いて・・・大丈夫?」
と心配もして下さいました。
この「大丈夫?」に色々な意味が込められていることが、僕には分かるような気がするわけです。
でも・・・僕が今回のような爺とプリンスの物語を書くことで、僕のブログの方が矢面に立つのならば、それは本望。

面白く書けたかどうかは、また別の話ですが・・・(汗)。
まぁ、本家祐筆の代理ですからね。至らない点も多々ございましょう。

この記事を読んでしょあ様が
「キャラがなっとらん!やはり自分が書かねば!」
と思ってくださるか、はたまた
「うぅ・・・やっぱり自分も書きたい・・・」
と思ってくださるか。
いずれにしても、僕の思う壺ということで・・・。

でも、慌てずにいましょう。
DYNAMITE-CANDLES・・・このローソクは、あと9本も残されているのですから。
少なくともすべて使い切る前には、戻ってきてくださるかな・・・。

さて。
次回記事からしばらくは、本来の執筆スタイルに戻し、まずは今年のお正月コンサート”『Ballad and Rock'n Roll』セットリストおさらいシリーズ”に取り組む予定です。

この機にブログのお題として採り上げたい、と考えているナンバーは、3曲。
どうぞよろしくお願い申しあげます!

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