『Help!Help!Help!Help!』

2020年4月17日 (金)

沢田研二 「頑張んべえよ」

from『Help!Help!Help!Help!』、2020

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1. Help!Help!Help!Help!
2. 頑張んべえよ

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こんにちは。
勤務先での交代制週休3日実施により、今週は今日から3連休のDYNAMITEです。

みなさま、その後お変わりありませんか?
先日の元プロ野球選手の片岡篤史さん(日本ハム→阪神)感染の動画があまりにもショッキングで、僕は一層コロナが怖くなりました。
片岡さんは、さわやかな語り口と人望、PL学園時代の人脈を生かした自身のYou Tubeチャンネルを開設されていて、ファンにはご自身の感染をそのチャンネルで知らせてくださったのですが・・・普段の俊敏な動作や軽快におしゃべりする片岡さんを知るファンにとっては信じられないお姿の動画に衝撃を受けました。
ひとこと、ひとこと喋ることすらこれほど苦しくなってしまうのか、と・・・。
片岡さんは敢えて、弱った身体の自らを隠さず僕らに伝えることで、コロナの怖さをリアルに教えてくださったのだと思います。

「敢えて」「隠さずに」伝える。
はからずもそれは、僕が今日このお題で書こうとしていたテーマと合致していました。

片岡さんの1日も早いご回復、復帰を祈願しつつ、今日は下書き無しの一気更新です。
お題は2020年ジュリーの新譜2曲目収録「頑張んべえよ」。よろしくお願い申し上げます!


エラリー・クイーン風に例えるなら・・・2012年の新譜ヴォーカルが『Aの決意』だったすれば、今年2020年の新譜ヴォーカルは『Bの覚悟』といったところでしょうか。
(ご存知のかたもいらっしゃるでしょう。『A』とはアルファベットの音階表記で「ラ」の音を指し、『B』は同じく「シ」の音を指します)

いかにジュリーが超人級の喉の持ち主とはいっても、年齢を重ねるに連れ徐々に高音を出せなくなってくるのは人間の摂理。
僕がライヴに通うようになって以降、オクターブ上の高い「ソ」の音をおおよその基準として、ジュリーはキーを下げて歌う曲も多くなってきています。

近年はライヴDVDやCDの発売も無く、絶対音感を持たない僕がキーの変更に気づけるのは、実際のライヴ現地で柴山さんのフォームを見たり(これは過去に採譜をしてオリジナル・キーを把握している曲に限りますが、最近だとニ長調のオリジナルを1音下げのハ長調で弾いた「A・C・B」などがそうです)、ギター・チェンジのタイミングだったり(昨年の新曲「根腐れPolitician」のキーは変イ長調=嬰ト長調ですが、柴山さんは昨年も今年のお正月もイ長調のフォームで演奏しました。すなわちギター自体のチューニングが半音下げとなっているわけで、「根腐れPolitician」で使用するテレキャスで他の曲を演奏している場合、その曲は見た目のフォームより半音低く歌われていることになり、これが「テレキャスからテレキャスへのチェンジの謎」の解答です)の2パターンありますが、とにかく過去曲のキーを下げて歌う頻度は上がっている・・・これは決してジュリーの評価を貶めるものではなく、高齢の歌手にとって至極当然のことと言えます。

逆に言えば、ネット記事などでジュリーファン以外の不特定多数にも発信をする立場のプロのライターさんが、綿密な考証をせぬまま「セットリスト全曲をオリジナル・キーで歌った」ととれるようなライブ評を書いてしまうのは、ジュリーの言う「褒め殺し」に当たるのではないでしょうか。
是非そこは「君をのせて」のような高いキーの曲を今も楽々とオリジナル・キーで歌い続けている」という特記的な採り上げ方に変えて頂きたく・・・自戒も込め、この点はハッキリ喚起しておきたいです。

そんなジュリーが、それでも敢えて「やってやろうじゃないの!」とばかりに自らの高音発声の限界に挑むことがあります。

まず2012年。
前年の東日本大震災を受けて『PRAY FOREAST JAPAN』をコンセプトに創作を始めたジュリーは、鉄人バンド4人に託した収録曲中「F.A.P.P.」「カガヤケイノチ」の2曲で、高い「ラ」の音を見事歌いきりました。
当時64歳の男声としては考えられない高音で、これが過去の曲であればキーを下げるところ、限界に挑みなおかつ超えることで、自身の声それ自体のメッセージを新曲に吹き込んだのです。

そして2020年。
誰も予測できなかったコロナ禍の跫音の中リリースされた新譜2曲目「頑張んべえよ」で、「まさか」の高い「シ」の音を歌うジュリーに新たな志を見ました。しかも今度は自作曲。
意図を込めたメロディーであることは明白なのです。

そこで、「頑張んべえよ」の詞のテーマを改めて考えてみましょう。
リリース前に先にタイトルのみ知った時は、被災地へのメッセージかなと考えましたが予想は外れ。なるほど「頑張る」はジュリー自身の覚悟を指していましたか。
昨年のCDタイトルチューン「SHOUT!」に続き、自らがゆく歌人生をテーマとした新曲となりましたね。

そこで、「ロックする覚悟」を高い「シ」の音を歌うことで表明したのではないか・・・僕の第一感です。
キレイに出なくて良いのだ、たとえ無様でも限界に懸命に挑む姿勢、それが本当はカッコ良いロックなのだと。

念のため言っておきます。高い「シ」の音なんて男性が普通に出せるもんじゃないです。
これは年齢を問わずそうなんですけど、70歳を超えていればなおさらのこと。将棋界の表現で言えば、いかなジュリーと言えど「10番やって1発入るかどうか」の発声でしょう。しかもそれは上下する音階の中で一瞬(1音)だけ挿し込んだ場合に辛うじて、という感じのはず。
ところがジュリーは、今回この高音を連続させるメロディーを自らにぶつけてきました。
サビ最後のキメ部・・・1番「頑張んべえよ♪」と、2番「ROCKは死ねねえ♪」の箇所です。

「なんとか出せる」限界が「ラ」とすれば、ジュリーをもってしても「ギリギリ出せない」高音が「シ」。
今年はそれを敢えて歌ってやろうと。
実際、CD音源ではジュリーが絞り出すように歌い、それでも微妙にフラットしているテイクがそのまま採用されています。
ギリギリ出ないところを隠さず曝け出して立ち向かう、それがジュリーのロックなのだ、と。
今後、ジュリーにあまり詳しくない音楽家さんの批評で「凄まじい迫力のヴォーカルなんだけど最高音に無理がある。キーを下げて録音した方がよりよかったのではないか」と指摘される場合があるかもしれません。
しかし少なくともこの曲についてそれは完全に見当違いでしょう。

ジュリーは2番Aメロで

恩返しなんか死ぬまでできねえ
E

ROCKやってりゃ背負い 続けんぜ ♪
E                                       B

こう歌いますが、ジュリーにとって「恩返し」が歌い続けることであるならば、これは「死ぬまで歌う」決意と言い換えてよいのではないでしょうか。
「ボーイ」と問いかける表現がまたカッコ良くて、いかにもロック的な挑発なんですよね。
71歳の自らをも、まだまだヤンチャ盛りの「ボーイ」に含めての自戒と鼓舞・・・そんな解釈もアリかも。

それにしても今年、ジュリーのこの力強い挑戦、覚悟がこれほど身に迫るメッセージとして受け止められるような春になろうとは・・・。
緊急事態宣言を受け個々の暮らしの中で我慢していること、やりきれないこと、皆たくさんありますよね。先行きが見えないというのが一番の不安です。
僕の勤務先の業績だって、前年比など算出するのも嫌になるほど厳しい状況。でも、もっともっと苦しい状況下にいる人達のことを考えても弱音は言えない。耐えなければいけない。立ち向かわなければいけない。頑張るしかない・・・。
今は「頑張んべえよ」で高い「シ」の音を果敢に絞り出すジュリーの歌を、僕らへのエールと思いたいです。

では、ジュリーの作曲についてもう少し踏み込んでみましょう。
「E」「A」「B」のスリーコードはロックの基本です。前回記事に書いた通り「E」がキー(ホ長調)というのが肝。

そんな中、冒頭のメロディーがまず面白くて、トニックの「E」を引っ張れるだけ引っ張る間に(4小節)音階をじりじりと上昇させ、高みに達したところで最初のコード・チェンジがドミナントにズバッと突っ込んで来るという。
依知川さんが同じ手法で作曲した「インチキ小町」の出だしを連想されたファンも多いのではないですか?
「頑張んべえよ」の場合はそのドミナント部で凄まじいロングトーンのヴォーカルが炸裂します。先述のメロディー最高音と同じく、僕はこれもまた「限界への挑戦」がコンセプトと見ました。
きっとステージではどんなに声が掠れようとも、観ているお客さんが固唾を飲み「大丈夫かな」と心配になるほどジュリーはこのロングトーンを持続させるでしょう。

あと、Bメロに顕著ですがジュリーの滑舌の素晴らしさは年齢を重ねても衰え知らず。
Aメロのド迫力のロングトーンとBメロの畳みかける語感、そしてサビの「シ」の絶唱を組み合わせた自作の新曲は正にロックと言うにふさわしく、コード展開がシンプルなだけに、「ロック・ヴォーカリストが作った野心作」だと感じます。

柴山さんの演奏は、コード・リフ風のイントロをはじめジュリーの作曲ありきの構成で、全体的にはシンプル。
ただBメロ部が変化球で、僕は「Uncle Donald」での演奏を想起しました。
手数なら「Help!Help!Help!Help!」、グルーヴならこちらでしょうか。ヴォーカル最高音部直前のカッティングもファンキーですね。


ジュリーの全国ツアーが予定通りに開催されるかどうかはまだ分かっていません。
前回書いた通り、僕はたとえ予定通りの開催であっても初日の参加は自粛するつもりです。YOKO君達と行くことになっている6月の川口リリアはどうなるかなぁ。劇的な終息という僅かな可能性に縋りたいですが・・・。
いやいや、最後に愚痴っぽくなってしまいました。申し訳ありません。

とにかく今は大事な時期。
『自宅でジュリーの歌を聴こう!月間』として、僕にできることをまだまだ頑張ってまいります。
次回は4月20日更新の予定です。お題は毎年この日の決め事でワイルドワンズですが、併せて「ジュリーのあの名曲も同時考察」という内容で考えています。
・・・と書けば、ワンズのお題曲が分かった方もいらっしゃるかな?
どうぞお楽しみに。

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2020年4月11日 (土)

沢田研二 「Help!Help!Help!Help!」

from『Help!Help!Help!Help!』、2020

Helphelphelphelp 

1. Help!Help!Help!Help!
2. 頑張んべえよ

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まるでジュリーの新曲の歌詞「地球規模危機」が予言であったかのように、世界は大変な状況です。
日本でも遂に7都府県で緊急事態宣言が出されました。桜咲く季節にこれほど気が滅入るのは、母親を亡くした年以来かもしれません。

みなさま、お変わりありませんか?

僕は現時点で身体は元気です。
ただでさえ季節の変わり目には風邪をひいてしまう体質なので
、徹底的な手洗い、うがいを敢行しています。今後も油断はできませんね。

反して仕事の方は本当に難儀
しています。
巷で叫ばれている中小企業への深刻な経済的打撃を日々実感。加えて、僕
の仕事は末端とは言え音楽関係で、各イベントの中止(現場の物販売上がゼロ)、楽器店や書店の臨時休業など業界全体の現況を把握していればこそ、例えばプライヴェートであっても社員がアーティスト・ライヴなどの密集・密閉空間に身を置こうとするのはご法度です。
5月までに劇的な終息を見ない限り、僕はたとえジュリーの全
国ツアーが予定通り決行となりチケットが送られてきたとしても、初日の国際フォーラム公演への参加は(下手すると友人3人を誘っている川口リリア公演についても)自粛自重せざるを得ません。そうなったら本当に無念と言う他なく・・・今はただただ、一刻も早く平穏な日常が戻ってくるのを願うばかりなのです。
ジュリーは今その「劇的な
終息」に賭けてスケジュールを睨んでいることでしょう。そのためにも「当面の1ヶ月」は大切な期間です。

僕などはまだ普通に仕事ができているだけ恵まれていると考えなければなりませ
ん。
今はとにかくじっと我慢、グッと踏ん張るしかなく、そんな中でも自分に何
かできることがあるとすれば、このブログの更新しかない・・・仕事のバタバタと父親の重大な病の発覚、さらにはプライヴェートでのとある重要な任務(こちらはとても胸踊る楽しい案件だったのですが)などが重なりあっという間にひと月以上の更新間隔が開いてしまいましたが、緊急事態宣言を受け勤務先でも毎日の業務時間短縮、交代での週休3日制が実施となり、ひとまず時間の余裕はできました。

拙ブログでは当面の間『自宅でジュリ
ーの歌を聴こう!月間』を銘打ち、みなさまが外出を控え過ごす時間のお供となるよう、更新に励む決意です。
よろしくお願い申し上げます!


今日は遅まきながらジュ
リーの新譜お題記事にて更新です。
今年も柴山さんのギター1本(リリース・アーティ
スト・クレジットは遂にジュリーと柴山さんの連名!)の伴奏による2曲入りの新譜リリース。
今回は2つほど特記すべきポイントがあります。
ひとつは収録曲のキーをホ長調で揃え
てきたこと。
2つ目はジュリー現在の声域リミットを超えたメロディー音域の採用です
。2つ目については次回「頑張んべえよ」の記事お題で書くことになりますので、今日「Help!Help!Help!Help!」のお題にあたり、まずホ長調というキーの話から書いてみたいと思います。

通常「キー」とは調号を指す言葉で、「キーが高い」「低い」というのはあくまで相対的な表現。ホ長調の場合「譜面にした時にト音記号の隣に4つの#がつきますよ」という理屈となります(ド、レ、ファ、ソ)。
いや、今のロッカーは「ホ長調」なんて言わないか・・・
シンプルに「Eのキー」と言うでしょう。

僕は60年代のエレキギター・ブームを知
りません。でもギターをやっていれば、当時のイノセントな不良少年がエレキを持って「バ~ン!」とEのコードを弾いただけでロッカーたりえた、というシーンは想像し易い。
ギターの構成上、通常チューニングで最下の開放弦である「ミ」がルート音のE
メジャー・コードは、和音一発でロックを体現できます。
そのEコードをトニックとす
るキーがホ長調。「E」こそ由緒正しきロックのキーなのです。

ジュリーはそのメッセージ・アプ
ローチのみならずエレキギター1本で鳴らすEコードを以って、「ロックへの原点回帰」を表したいのではないでしょうか。
今年の新譜製作にあたりジュリーが柴山さんに「新
曲はEで作って!俺の(自作曲)もEだから」とリクエストした可能性すら僕は考えてしまいます。それほど今回の「Eのキーで2曲並び」はインパクトがありました。

では、楽曲として「Help!Hepl!Help!Help!」自体のインパクトやメッセージについて。
発売日から数日遅れて購入した新譜、まずこの1曲目のCDタイトルチューンを聴き終えての僕の感想はただひと言「うらやましい!」と。
何がって、もちろん昨年の全国ツアー・ファイナル・東京国際フォーラム公演で満員のお客さんがジュリー指導のもと「レコーディング」参加されたと聞く、コーラス・パートのことですよ~。
これはレコーディング作品嗜好の強い僕としては、『ジュリー祭り』の合唱隊以上にうらやましい!
最高にリスペクトするアーティストの新曲のヴォーカルの上に自分の声が重ねられているなんてね、一生の、しかも形に残る宝物。
この記事を読んでくださるみなさまの中にも、「自分もその場にいた!」というかたはいらっしゃるでしょう。
是非、永遠に自慢し続けてください(笑)。

当然2曲目「頑張んべえよ」も同様にうらやましく感じましたが、シャウト・スタイルがビシッと嵌る「Help!」なるフレーズ、せり上がるような裏打ちのリズム割りでジュリーと重なる「声」の完成度、説得力・・・叶わぬ思いで言わせて貰うと、個人的には「Help!Help!Help!Help!」1曲だけでも参加したかったなぁ。
みなさま、見事なコーラスでございました。
ノン・クレジットってのがまた良いじゃないですか。「とっておきの切り札・シークレット出演」みたいな感じで。

さて、「Help!」と言えば僕はまずあの有名なビートルズ・ナンバー「ヘルプ!」を連想します。
リリースは1965年。当時ビートルズは、前年(64年)の1作目の主演映画『ビートルズがやってくる!ヤァ!ヤァ!ヤァ!』(原題『A Hard Day's Night』)を大成功させ、矢継ぎ早に2作目の映画も企画されてました(ザ・タイガースも同じ道を歩みましたね)。
当初主題曲の候補だったのは「エイト・ディズ・ア・ウィーク」だったのですが、「もっとインパクトのあるタイトルを」という話を受けてジョン・レノンが書き下ろした曲が「ヘルプ!」だと言われています(細かなところまでは真偽不明のようです)。タイトル・インパクトとしてこれ以上無いアイデアでしょう。
それから実に55年の時を経たジュリーの新曲タイトルが「Help!×4」というわけですから、鮮烈さ、衝撃はもちろんのこと、感慨深さもあります。

メッセージは当然ながら現在のコロナ禍の予言ではなく、環境問題も含めた昨今の世界情勢を憂いたもの。
ここ数年でジュリーは『PRAY FOR JAPAN』からさらに『PRAY FOR THE EARTH』へテーマを進めたと感じています。タイガースの『ヒューマン・ルネッサンス』で言うならば、地球は既にレコードB面途中まで聴いてしまっている状態なのだ、と。
ジュリーがこのテーマを歌い続けるのは、なんとか針を戻そうとする一心からでしょう。

歌詞中で僕が重視したいのは、1番に登場する「失われた善」というフレーズです。
「善」の対義語は「悪」。ならば「失われた善」とは「まかり通る悪」と置き換えることもできます。

実は僕は社会的な考え方が似た友人より異なる友人の方が多くて、何故か会話のテンポが合い、議論しても発展があると言うか・・・不思議なことなんですけど。
中でも大学時代からの親友とは政治の話も長年してきていて、お互いが「自分はごく真っ当な考え方のつもり」なのに、彼からは僕が左寄りに見え、僕からは逆に彼が右寄りに見えるということが起こります。
そして最終的に行きつくのは、人間の根本を「性善」に立つか(僕)「性悪」に立つか(友人)のせめぎ合い。
僕は右だとか左だとかのイデオロギー分けは好きじゃないんだけど、案外世で言う「左右」は善悪の捉え方の違いに根差すんじゃないかなぁ。

ただしそうなると議論的には僕の分が悪い。何故なら、「じゃあオマエは自分のことを完全に「善」だと言えるのか?」と問われた時、決してそんなことはないですから。
でも、「善」「悪」というのは極論に立った状態で判断をくだすべきものではない、と思うんですよね。

つい先日、中山七里さんの『護られなかった者たちへ』というミステリー小説を読み、改めて「善悪の定義」について突き詰めさせられ考える機会を得ました。

話が逸れますが『護られなかった者たちへ』は大変な傑作でした。
僕の場合はミステリー好きとは言ってもかなり偏っていて、幼少から読んでいる乱歩、正史がベースというのはともかく、一番本を読んだ20代の時期にリアルタイムで「平成新本格」の波をまともに受けるという特殊な経過を辿っています。
そのためミステリーは「謎解き」が第一、「ああっ、そうだったのか!と言わせて欲しい」と思いながら読むジャンルでなければならない、と考えるタイプです。
『護られなかった者たちへ』は、あらすじ案内だけ見るといかにもリアリズム系という印象で普段なら手をつけないところだったのですが、ちょうどこの原作の映画化のニュースがあり、カミさんが特に贔屓にしている俳優さんが2人揃って出演とのことで、「じゃあ、まぁ読んでみるか。俺がストーリー説明したる!」と読み始めた次第。
期待は素晴らしい意味で裏切られました。
例えば島田荘司さんの『奇想、天を動かす』が好きな人であっても、綾辻行人さんの『十角館の殺人』が好きな人であっても双方に自信を持ってお勧めできます。
ちなみに結局カミさんにストーリー説明はしていません。「いいから、自分でも読みなさい!」と言っているのですが・・・今のところ読み始める気配無し(笑)。


法的な善悪と性根の善悪は別物のように感じます。
ジュリーが歌う「善」はおそらく性根のことで、「糸車のレチタティーボ」や「我が窮状」に登場する「信じよう」のフレーズを考えるに、ジュリーも基本「性善」に立って考える人なのかなぁと勝手に思うのですが、だからこそ今回「Help!Help!Help!Help!」で「失われた善」と歌わざるを得なかったのはとてつもなく重い・・・。
直前の「捩れゆく脳」とは善悪の感覚が麻痺してゆく過程や様子を指し、ジュリーには今世界中がそんな状況へと進んでいるように見えるのではないでしょうか。
本当に怖いメッセージです。
しかしそんな鬼気迫る歌詞を歌いながらも、特に2番の

地球上の欲望 絶望 止まれ!
E           A  B   A   B        E

この「絶望」の「ぜ」の発音に極上の色気すらあるという・・・2番では救いの状況も示唆しているだけに、聴き手はその声に悲観ではなく励まされます。
これがジュリーなのですねぇ。
現在のコロナ禍の状況で、僕らには「善」の底力が問われているかもしれません。「失う」ことのないよう、及ばずながら僕も肝に銘じたいと思っています。

最後に、柴山さんの作曲と演奏について。
伴奏含め転調はありませんが、一時的に「レ」「ソ」の音をナチュラルさせる箇所があります。「E」のキーで「D」や「G」を組み込んでいるためで、これは60年代に入ってからの尖ったロックの王道でもあります。
原点回帰のアプローチ、ジュリーと息はピタリですね。

ギター1本体制になってからの柴山さんは、ブラッシング音を打楽器のように見立てたアレンジに取り組んでいるようです。
過去ナンバーのステージ再現もそれは同様で、昨年の「憂鬱なパルス」あたりが明快でした。

近年の新曲が「曲先」の作業であることはジュリーも明言していますが、その点「Help!Help!Help!Help!」で興味深いのは、お客さんと一緒に歌う(叫ぶ)あのうらやましいタイトル・フレーズ部が果たして柴山さんのデモ段階でどうなっていたのか?という。
通常、デモでは作曲者が適当な英語かハミングなどでガイドメロディーを入れるところ、この部分ではガイドは無く柴山さんはギターのアクセントのみをリフ風に入れており、そこにジュリーが乗っかって「Help!」のフレーズを当てた・・・これがまず第一の想像です。

第二は僕が個人的に萌えてしまう推測(妄想)で、柴山さんはこの新曲に、「ROCK'N ROLL MARCH」のような景気のよい会場参加型のシャウト連呼を採り入れようと考え、デモではその箇所で「ヘイ!ヘイ!ヘイ!ヘイ!」と叫んでおいた。柴山さんのことですからとても奥ゆかしく、ね。その奥ゆかしい「ヘイ!」がジュリーには一瞬「ヘルプ!」に聴こえ、そこから作詞のアイデアが膨らんでいった・・・。
どうです?
2人の「共作」感が増して、萌える妄想でしょ?

ロック史において、共作段階での「空耳」からアイデアを得たタイトルの名曲っていくつか例があるんですよ。
僕のお気に入りの洋楽だと、デヴィッド・ボウイがジョン・レノンと共作した「フェイム」とか、クリーム時代にエリック・クラプトンがジョージ・ハリスンと共作した「バッジ」とかね。
ジュリーと柴山さんの「Help!Help!Help!Help!」では、実際のところどうだったのでしょうか。


それでは次回更新は当然、新譜2曲目「頑張んべえよ」のお題記事となります。
これはもう、ジュリーが敢えて高い「シ」の音を自作曲で採用した志について、多くを書くことになるでしょう。

『自宅でジュリーの歌を聴こう!月間』ということで、頑張ってできる限り早く更新します。
みなさま共にこの難局を乗り越えていきましょう!

(付記)
志村けんさんの訃報、本当に悲しくとても残念です。
僕は「ドリフ」と言えば志村さん、ドンピシャの世代です。小学校までは『全員集合』を毎週観ていましたし、人形劇『飛べ!孫悟空』も強烈に印象に残っています(小林旭さんのCM曲も)。ジュリーとの関わりが特別深かったのを知ったのは『ジュリー祭り』以降に勉強してからでした。
心より、志村さんのご冥福をお祈り申し上げます。

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