沢田研二 「SHOUT!」
from『SHOUT!』、2019
1. 根腐れpolitician
2. SHOUT!
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またしても腰を痛めてしまいました。
休む間もない日常に季節の変わり目恒例の風邪もやってきて、かなりヘロヘロなDYNAMITEです。そういえば去年もジュリーのツアー初日チケットが届いた頃に重度のギックリ腰を発症して、結局コルセット装着状態で武道館に行ったんだったっけ・・・。
まぁ今回はさほど重症には至らず、生活に支障ないレベルで耐えられているのでホッとしてはいますが。
さぁ今日は今年のジュリーの新譜2曲目「SHOUT!」の考察記事です。
実は僕はこの曲、巷の多くのファンのみなさまとほぼ同じ解釈と、それとは違う2つ目の解釈を持っています。
枕もそこそこに・・・頑張って書いていきます!
①健やかな赤い旗
まず最初に、多くのファンが楽曲解釈としているであろう、ジュリーがこの歌に託した「パーソナルなSHOUT」を探ってみましょう。
ジュリーのような特別な人でなくとも、日常生活で思わず「うわあ~っ!」と叫びたくなる瞬間というのは誰しもあって、例えば何気ない1人の時間の中で自分の過去の失敗、恥ずかしかったこと後悔したこと、或いは「意地を通して」しまったこと・・・そんな体験をふと思い出し、照れ隠しのような「いや、あれでよかったんだ」と自らを落ち着かせるかのような気持ちで「くっそ~!」とか「ちくしょう!」とか声に出してしまったこと、ありませんか?
少なくとも男性ならきっとある、と思うのですが。
ただ、僕のような者は上記のような汚らしい言葉で、ある意味自分自身を誤魔化そうとするところ、ジュリーは堂々とそれを歌にする。歌でシャウトする、ということができるわけです。
で、この歌でのジュリーのそんな「過去の体験」が、記憶に新しい昨年10月、さいたまスーパーアリーナ公演中止とその後の世間の反響であることは明白です。
あの件について僕としては、仕事絡みで「是非」とお誘いして市販のチケットで来場してくれた人達がいましたし、ジュリーファンにも茨城や群馬といった関東圏でも遠方の方々だけでなく、東海、関西そして九州・・・はるばる遠征の多くのみなさまと僕は当日リアルタイムでお話したりメールで状況を確認し合ったりしていましたから、「決行して欲しかった」と思いました。その気持ちはジュリーの会見後もくすぶり続けました。
一方ジュリーの判断、問題提起そのものについては尊重したい、支持したいとも当然思っていて、気持ちがせめぎあう感じでしたね。
それがこの「SHOUT!」を聴くと晴れ晴れとなる感覚。やっぱりジュリーって、「歌で伝える」人なのだなぁと。
どんな批評よりも真に伝わる歌。
僕の「SHOUT!」第一感です。
僕はあの時現場でまず「ジュリーが世間から袋叩きに遭ってしまう」事態を想像し、とても心配しました。
昨今のメディアはこういう事が起こると寄ってたかって吊るし上げる、悪意の砲火を浴びせる・・・何度も見せられてきました。そんな嫌な目にジュリーが晒されてしまうのか、と僕は思いました。
ところがその後、ファンばかりでなく著名人の多くから擁護が相次ぎ、「いつもの調子で」やってやろうと食いついてきた軽薄なメディアが戸惑いの挙句、(一部を除き)ジュリー関連の報道のアプローチを当初とは変えてくる、という不思議な推移を辿ることに。(ジュリーをよく知らない人にとっては)思いもかけぬところでその偉大なキャリアと力、人脈、支持層を示された形です。
あの件以後、ツアー各会場は集客も絶好調。
ファンの熱気と「これはのんびりしていられないぞ」と取り組んだイベンターの努力。双方の「目覚め」は凄まじく、1月の武道館3daysも大盛況に終わったことは最早周知の事実です。
「災い転じて」ではないけれど、この成功に並の人なら有頂天となるところ、ジュリーは(この件以後に僕の参加した)大宮でも武道館でも「ごめんなさい」とステージからお客さんに謝り続けました。ジュリーは自戒を込めて敢えてこの1件を自らの失態と位置づけ、この先忘れ得ぬ、背負ってゆく出来事と決めたようです。
ジュリーはMCで「さいたまスーパーアリーナ公演のリベンジ」実現の決意をも語ってくれました。
また、僕は直接聞いてはいませんがその際に「情熱の赤い旗を掲げて」と意気込みを表現したことがあったそうですね。「赤い旗」って何だろう?と最近まで思っていたのが、「SHOUT」を聴けばそれがジュリーの「たぎる血潮」であることが分かります。
A E
たぎる血潮が ヤイヤイヤイ 溢れてる
B A B
お天道様に 拳だし SHOUT! SHOUT!
まだまだ滾っている、まだまだ歌う、叫ぶ、との力強い宣言。
とても前向きな「意思表明」ソング。僕らにはそれが伝わります。何より、歌詞中の「みんな」が僕らファンのことと思えますから、こちらも気合が入ろうというもの。みなさまも同じ気持ちですよね?
深く考えずに、ジュリーと一緒にシャウトすればよい・・・そういう歌だと思います。ジュリーが信じたものを実感できれば、理屈なんていらない。
ただ、この記事では敢えてそこをもうひとつ突っ込んで、平成の最後にジュリーが放った「社会に対してのSHOUT」まで考えてみたいんです。
次チャプターではその点を掘り下げていきましょう。
②人それぞれの「歌=シャウト」
ここでは、拙ブログ得意の深読み(と言うか「考え過ぎ」とよく言われます汗)による楽曲解釈を書くことになりますがご容赦ください。
僕は今年の新譜をアマゾンさんで予約していましたが発売日には届かず結局ショップで購入しました。3月末になってからのことで、かなり聴くのが遅れました(てか、到着次第YOKO君に引き取って貰うことになっているアマゾンさんの予約分、未だに届かんのですよ・・・)。
昨年末から続く個人的に慌しい日々の中で「ジュリーの新曲すらじっくり聴く余裕がない」状況と思い込み、無理に時間を作ってショップを巡ることまではせず・・・しかし実際に「SHOUT!」を聴いて、「もっと早く買い求めれば良かった」と思った次第です。
これは、忙殺されて時間がなくある意味「弱っている」時にこそ聴くべき歌なのだなぁとも思いました。
「忙しい」という漢字は「心を亡くす」と書きます。
「慌しい」も同様。しかしそんな時
E B E
OH OH OH OH! OH OH OH OH!
発声するのは「OH」だけ。覚え易いメロディー。「みんなも歌って!」と誘ってくれるコーラス。
このサビを一緒に歌っていると、平穏な「心」を取り戻す感覚が沸きます。ジュリーのパーソナルな歌である以上に、様々な状況の中で今を懸命に生きている聴き手それぞれにシンプルに元気を注入してくれる歌・・・僕はそう思ったのですがいかがでしょうか。
「SHOUT!」クレジット最大の目玉は何と言っても超豪華なコーラス隊。音楽劇ほぼ全メンバーに加えて、ご存知依知川さん、GRACE姉さんも。
これはさいたまアリーナの1件で世間の矢面に立たされたジュリーの最も近しい「味方」が大集結して新曲をサポートしたのだ、と考えることはもちろんできます。ただ、何故「SHOUT!」というジュリー作詞・作曲による書き下ろしナンバーに「合唱」スタイルのコーラスが必要だったのか、と突き詰めると、もっと深いジュリーの意図、コンセプトが見えてくる気がするのです。
少し時を遡って、ジュリーが「我が窮状」に合唱隊を採用したのは何故か・・・これは「声を集めて」ということだったでしょう。では今回は?
僕は今年の新譜タイトルが解禁された時、「SHOUT!」のフレーズから70年代ジュリー自作のナンバー「叫び」を連想しました。結果、「意思表明」の歌であることは共通していますし、「叫び」の詞にある「自分のために歌いたい」のフレーズもまた「SHOUT!」に引き継がれているように最初は思えました。「歌を枕に」この先も駆けてゆくと。
ただしジュリーは2012年以降の新譜リリースについて「これからは被災地のこと(広義には『PRAY FOR JAPAN』)しか歌にしない」と言っています。
ならば「SHOUT!」にもそれはある、ジュリーがこのタイトルで「被災地の叫び」に思い至らなかったはずがない、と思うのです。
ジュリーはこの先もずっと「祈り歌」を歌い続けてゆくことをこの新曲「SHOUT!」に載せ意思表明していて、それは「自分のために歌う」ということと何ら乖離しない、同義なのではないでしょうか。
病気と闘っている人や、理不尽な物言いに傷つきながらも必死に生きている人。或いは新たなことに挑戦している人、困難に立ち向かっている人、なかなか見出せない「光」や「未来」(これはアンチテーゼ的に1曲目「根腐れpolitician」の歌詞フレーズでもあります)を求め懸命にあがいている人。さらには、低レベルな話ながら最近ちょっとお疲れ気味、という僕のような者。
その人それぞれに「SHOUT」はあって、だから今のジュリーが作ったこの曲はやはり「民衆の歌」でもあろうと僕は考えたいです。集ったコーラス隊1人1人の声が、「民」に成り代わってくれている・・・ジュリーの合唱形式採用の理由はそこじゃないだろうか、と。
ジュリーは僕らのような凡人とはレベルが違う眩いスーパースターでありながら、時々ふと「僕らと同じ目線に立ってくれている」と感じさせてくれることがあります。
後追いファンの僕には『ジュリー祭り』のMCが最初のそんな瞬間でした。あの日僕が歌手・ジュリーとともに人間・ジュリーに堕ちたことは間違いありません。
近年の「祈り歌」の歌詞アプローチはファンの間でも賛否あるらしいのだけれど(僕には「賛」しかありませんが)、被災地の目線に立つ、さらには民の目線に立つ、ということをここまで徹底し継続してくれる歌手がジュリー以外世界の何処にいるでしょう。
最近この国では、凡庸な民たる僕らからすると信じ難い、呆然とするしかないpolitician達の失言が相次ぐ世の中です。彼等は誰かに指摘されるまでそれが「心無い、酷い言葉」だと気づけない。軽いジョークで場を笑わせようとしたに過ぎないという・・・すなわち目線自体がもう民衆とはかけ離れているのです。自覚すらできない「根腐れ」状態と言われてもこれは仕方ない。
昨年のさいたまスーパーアリーナの1件はジュリーにとって、自らの姿勢と目線を今一度踏みしめ直す意味で、新曲題材たり得たかもしれません。
改めて「自分はこの道をやり通す」との宣言。
5月からの全国ツアーで、ジュリーは「SHOUT!」のサビのコーラスをお客さんにも歌わせてくれるでしょう。そこで、お客さんそれぞれの「シャウト」が1人1人にあってよいし、それを歌声に発することで逆に余計な自我が鎮まり穏やかになれるんじゃないかなぁ。
僕らのシャウトをステージのジュリーに届けたい、と思っています。
でも楽曲解釈としては深読みが過ぎるかな?(汗)
③摩訶不思議なスリー・コード・ロック!
昨年の『OLD GUYS ROCK』収録「屋久島MAY」もジュリーの作曲作品でしたが、これは2003年の時点でメロディーが出来上がっていた(シングル盤でのボーナス的トラックだったそうです)ので、「リメイク」リリースといったところ。
今年の「SHOUT!」は2010年のアルバム『JULIE with THE WILD ONES』以来のジュリー自身による純粋な書き下ろし作曲作品リリースとなりました。
僕は新譜発売前に書いた「叫び」の記事中で、この「SHOUT!」の曲調も色々と予想したのですが、「スリー・コードのロック」という部分のみ的中。
あと、「キーはホ長調」も完全ではないけれど当たりました。この「完全ではない」ところが正に、ジュリーはやっぱり独特の作曲感覚を持っているな、と改めて思い知ることとなりました。
解説しましょう。
最終的には柴山さんがギター・アレンジで「7th」「sus4」のコードを採り入れたり、イントロ及びエンディングで「C→B」というコード・リフを編み出したりしていますが、ジュリーが作曲したメロディーのみ抜き取ると、『SHOUT!』は「E」「A」「B」というたった3つのコードだけで構築されていることが分かります。
これはホ長調のスリー・コードです。
ですから五線譜で採譜するなら、最初から最後まで#4つの調号で通すこととなりましょう。
ところが!
この曲はどう聴いてもAメロだけロ長調。歌メロ冒頭からのコード「B」はドミナントではなく明らかにトニックです。
スリーコードのロックもジュリーにかかれば斬新な変態進行(←褒めてます!)に仕上がってしまうのですな~。柴山さんのギターがヴァースごとに弾き方を変えてくる効果も大きいです。
重厚なロック・ナンバーと言って間違いのないこの曲、しかし実はメロディーがとても美しい。Bメロのはちょっとサイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」を思わせたりとか。
曲中僕が最も好きな箇所はBメロ最後(サビのコーラス直前)「SHOUT!SHOUT!」のジュリーのヴォーカルです。少し崩し気味に歌ってから明快なサビへと向かう手法は70年代から変わらぬ作曲家・ジュリーの得意技なのです。
それにしても、1曲を通して声圧を均一に保つジュリーの才能は本当に凄まじいです。ギター1本体制となってそれが際立ち、万人に分かり易くなったと思います。
そして豪華なコーラス隊。
ジュリーはゲスト陣に「必要以上に音程にとらわれず、自由に大きな声で歌って、シャウトして」とサジェスチョンしたんじゃないかな。
フレーズ最初の「OH!」を「あおっ!」みたいな感じで叫んでいるメンバーもいますし、現場で張り切る皆の様子が目に浮かびます。「赤い旗♪」の語尾をしっかりハモっているのがさすが音楽劇チーム、とも思いました。
詞、コード進行やコーラスの手法を考え合わせるに、ジュリーはこの歌に「自由度の高さ」を込めたのではないでしょうか。
言うまでもなくこの曲は5月からの全国ツアー、タイトルチューン。是非僕らも元気に血潮滾らせてコーラス参加したいものですね。
ということで、この記事の下書きをしている間に我が家にも第1弾のチケットが到着しております。
僕はまず初日、東京国際フォーラム公演の1枚。
ジュリーの衣装や柴山さんのギターモデルは肉眼で確認できなさそうな2階席の端ブロックでしたが全然問題なし!これで、会場の誰もセットリストを知らないツアー初日の参加権利が確定したのですから。
あとは何とか都合をつけて駆けつけるのみ。
お題の「SHOUT!」はアンコール1曲目で歌われる、と予想しておきます。
みなさま、今年もジュリーのツアーをご一緒しましょう。楽しみです!
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