沢田研二 「真夏のconversation」
from『NON POLICY』、1984
1. ナンセンス
2. 8月のリグレット
3. 真夏のconversation
4. SMILE
5. ミラーボール・ドリーマー
6. シルクの夜
7. すべてはこの夜に
8. 眠れ巴里
9. ノンポリシー
10. 渡り鳥 はぐれ鳥
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さて今日は「ジュリー・ラヴソングの旅」シリーズに戻りますが、超久々の『ジュリー・ヴォーカル徹底分析』のカテゴリーにて更新となります。
本格ジュリー堕ち直後の2009年に張り切って開始したこのカテゴリー・・・まぁ「結局どんな記事書いてもジュリーのヴォーカルについては散々語ることになるんだから」ということで、敢えてヴォーカルをメインのテーマを絞るこのカテゴリーでの執筆は、最近とんとご無沙汰。
カテゴリー自体、このまま放置されていくことになるかなぁ、と考えていたところでした。
しかし今日のお題を選んだきっかけというのが・・・いつもお世話になっているJ先輩、momo様が以前からお会いする度に仰っておられた
「私『NON POLICY』のヴォーカルが好きなのよね・・・」
とのお言葉。
フェイバリット・ジュリー・アルバムとして『NON POLICY』『TRUE BLUE』の2枚を常に挙げていらっしゃるmomo様、日頃から「私、ちょっと好みが変わってるのかしらねぇ」と仰るのは尤もなお話で、熱心なジュリーファンにあっても、この2枚を真っ先に挙げるかたというのは確かに少数派ではあるでしょう。
ところが、「momo様がそこまで仰るのだから・・・」とマッサラな気持ちで改めて『NON POLICY』を聴いてみて、このアルバムのジュリーのヴォーカルは確かに他のどの作品とも違うようだ、と遅まきながら僕にも分かってまいりました。
それが、「渡り鳥 はぐれ鳥」の記事を書いてしばらく経ってからのことでしたね。
では、このアルバムのヴォーカルの何が、どのように特殊なのでしょうか。
今日はそのあたりを考察すべく、アルバム収録曲中唯一のダブル・トラック・ヴォーカル導入のナンバー「真夏のconversation」を採り上げ、様々な角度から曲を紐解きながら、『NON POLICY』のジュリー・ヴォーカルの特性に迫ってみたいと思います。
伝授~!
まずアルバム全体のヴォーカル処理について。
総じて、ディレイ・タイムの短い設定でエフェクトがかけられています。カラオケマイクのようなエコーではなく、「機械で声質をいじっている」ような感触。
これは一般的に、声を硬く尖らせる効果があるとされている処理で、80年代のシティ・ポップスにおける流行手法でもあります。
ジュリーの作品としては『A WONDERFUL TIME』収録の「PAPER DREAM」や「WE BEGAN TO START」あたりからハッキリとした狙いを以って採り入れられ、『女たちよ』で確立されました。
ですから、その処理自体はジュリー・ヴォーカルにとって真新しいことではありません。
やはり、ジュリーの「歌い方」にこそ注目すべきです。
1980年前後から、佐野元春さんや大沢誉志幸さんなどの若い新たな才能の台頭を受けて、「英語的な発音でのクールな日本語歌詞の歌い方」が、邦楽ポップスに大きな影響をもたらします。彼等の楽曲をいち早く採り入れているジュリーにも、当然その影響はありました。それはいたって自然な流れ。
しかし『NON POLICY』を通して聴いていくと、そうした発音での歌い方、さらに機械的なエフェクト処理・・・それら「流行」とガチンコするかのように、ジュリーが語尾の母音を狂おしくせり上げて歌うスタイルを多く織り交ぜていることに気がつきます。
このヴォーカルは、容赦なく母音を叩き斬る、いかにも洋楽直系の『S/T/R/I/P/P/E/R』の頃とは対極の、良い意味で純日本的な表現のように思えるのですが・・・いかがでしょうか。
「音」「リズム」のインパクトが強烈な『女たちよ』では、こうした歌い方はまだ抑えられていて(それが悪いわけでは決してありませんが)、ここへきての『NON POLICY』収録曲・・・特にメロディーの美しいナンバーで聴くことができるヴォーカル・スタイルは、ジュリーの歴史線上での大きな変化のひとつだと思います。
そう、「シルクの夜」あたりは言うまでもないですけど、この「真夏のconversation」も、ロック的なアプローチと共にとても美しいメロディーを擁する楽曲なのです。
例えば
押し寄せる波 明日へ続くよ
G C E7 Am
決して消えない love call さ
Dm E7 F7 E7
Everyday・・・ 君を愛してる
Dm Am
耳をすまし 聞いてみなよ
Dm B7 E7
このあたりの流れは、本当にキレイなうねりを持つメロディーですよね。
そして、「耳を♪」や「聞いてみなよ♪」の語尾の母音の粘り。ここに純歌謡曲的な(褒めています!)ニュアンスを感じるんです。
発声としては、70年代後半、大野さんの作品のジュリーを思い起こさせる・・・でも単に「あの頃の」ヴォーカルをなぞっているのではなく、80年代流行の近代的なアレンジ、エフェクト処理なども丸ごと飲み込んでのジュリーの主張、表現なのではないでしょうか。
エクスタシーの一歩手前で、聴き手を焦らしているようなヴォーカルです。
こうした「日本の歌謡曲」の素晴らしさを感じさせる歌い方が、クリス・レア作曲作品でガッチリ嵌っているのがまた凄い。まぁそれはいずれ「スマイル」の記事で改めて書くとしましょう。
次作『架空のオペラ』からのCO-CoLo期になると、焦らし続けていたエクスタシーを解き放って裸になったようなヴォーカル、という印象を受けます。
その「一歩手前」の緊張感が『NON POLICY』の特性のように僕には今感じられているのです。
また、『NON POLICY』では、ヴォーカルの隙間隙間での「合いの手」的なジュリーの「喘ぎ」がいよいよ徹底されていることも大きな特徴です。
メロディーの空白部で「アオッ!」と言ってるんですね。
『A WONDERFUL TIME』収録曲でもこの「アオッ!」が楽しめますが、まだ「曲に応じて」という段階です。
それが『NON POLICY』では全開。どの収録曲でもやってます!ロックな曲でもバラードでも、エロティックなジュリーの喘ぎを聴くことができるのです。
「真夏のconversation」で一番目立つ「アオッ!」は、ブリッジ部のラスト・・・2’30”あたり。これはジュリー、歌入れ前から「ここで炸裂させる!」とあらかじめ決めていたっぽいですね。
対して、3’15”や3’32”で登場する「アオッ!」は、歌に入り込んだジュリーが咄嗟に出した喘ぎ、といった感じ。しかも、マイクにギリギリで拾われることを意識していると思われます。ジュリー天性の勘でしょう(それを絶妙に拾い上げたミキサーさんのセンスと技量にも拍手)。
3’32”の箇所などは、ヘッドホンで聴かないとジュリーの声に気づけないかもしれません。その「聴こえるか聴こえないか」の喘ぎもまた、エロいではありませんか。
もし、「『NON POLICY』はいまひとつしっくり来ないアルバムなんだよなぁ・・・」という方がいらっしゃったら、是非このジュリーの「アオッ!」をひとつたりとも聴き逃さないようにしながら、アルバムを通して聴いてみて!
すべての「アオッ!」をチェックし終える頃にはあら不思議、『NON POLICY』のジュリー・ヴォーカルが病みつきに・・・となっている可能性大ですよ~。
冒頭で触れたように、「真夏のconversation」のヴォーカルには、ダブル・トラックが導入されています。
これは、「人待ち顔」と同じ手法です。
1度歌ったワン・トラックを複製してコンマ数秒ずらす、というミックス処理ではなく、ジュリーが2回に渡り同じヴォーカル・パートを別々に歌っているのです(ブリッジ部以外)。
試しに1’59”の、「言い続けるさ♪」のロングトーンの語尾を注意してよく聴いてみてください。明らかに、2人のジュリーがそこにいますでしょ?
で、曲中登場する「アオッ!」はすべて、どちらか一方のヴォーカル・トラック単独のもの。メロディー部はダブル・トラックの端麗な輪郭で、シャウト部は単独の生声感覚に、という狙いでしょう。
歌メロ自体ワン・トラックの他収録曲には、「アオッ!」だけをダブル・トラックで重ねるという真逆のパターンもあり(「ミラーボール・ドリーマー」)、その場合の「アオッ!」にはメロディーがあるんです。この辺りがヴォーカリスト・ジュリーの並外れた嗅覚と言えるでしょう。
特に話題に上がることはほとんど無い分野ではありますが、後録りのハーモニー・コーラス・トラックの素晴らしさ含め、ジュリーは「重ね録り」の天才です!
ということで・・・ここまでジュリーのヴォーカルについて語り倒してきました。カテゴリー的にはこれでオッケ~ですが、せっかくですから純粋に「真夏のconversation」という楽曲の魅力についても少し書きましょう。
リズムはミディアム・シャッフル。
『単純な永遠』リリース時に吉田建さんが「不安にさせよう」について、「こういうシャッフル・リズムは、ジュリーは得意中の得意!」と断言していましたが(横で話を聞いているジュリー自身は「え~、そうなのかなぁ」みたいな顔に見えますけど)、実は「真夏のconversation」のような、「短調の」ミディアム・シャッフルというのはジュリー・ナンバーとしてはかなり珍しい。「悪夢の銀行強盗」以外他にあるかな?「デビューは悪女として」は、イントロ伴奏部が長調ですし・・・。
抱きしめた その時に泣いていたね
Am F G
くちびるを かんだ君 何を想う ♪
Am F
コード進行としては短調ポップスの王道。奇をてらったところは一切ありません。
プロの作曲家の手にかかれば、そのシンプルな進行がそのまま美しいメロディーの流れに直結するんだなぁ、ということがよく分かります。
真実おくれよ 心を おくれよ
Dm Am
真夏のConversation ♪
F Em Am
トニック着地直前のドミナント・コードが「E7」ではなく「Em」というのがクールでカッコイイです。
こういうところは、エキゾティクスのアレンジ(ギターよりも鍵盤楽器の比重が高く、パーカッション装飾もシンセの打ち込み音を多用)共々、「シティ・ポップス」っぽい意識があるのかな。
で、三浦徳子さんの詞ですが・・・これは「ラヴソング」であることは間違いないとして、男女のどういうシチュエーションを切り取ったんだろう?
恋人の間に決定的なすれ違いがあって、ちょっと微妙な雰囲気の2人になっているように僕には思えます。或いは、主人公の男の方が何かやらかして、彼女を怒らせ悲しませてしまっている・・・とか?
還暦ジュリーで本格堕ちした僕としては、そんな時即座に「ごめん!」と素直になるのがジュリーのイメージではありますが、さすがにこの当時はね・・・カッコ良くくどき倒す、惚れ直させるという二枚目路線。
『NON POLICY』が面白いのは、収録曲が進むにつれて何となくそんな二枚目路線が徐々に砕けていくような感覚があるんです。
最高にクールな「ナンセンス」から始まり、最後には「ノンポリシー」「渡り鳥 はぐれ鳥」になっちゃうんですからね。その曲並びがまた最高なんですよ。
ひとつ言えるのは、僕が『NON POLICY』というアルバムを、以前よりもずっと好きになってきている、ということです(momo様もう1枚のフェイバリット『TRUE BLUE』については、まだその魅力をハッキリ掴みきれてはいないのですが汗)。
オシャレなシティ・ポップスのアルバムとして聴いていると、そんな先入観を次々に裏切られてゆく心地よさ。
クールなグレイの風景に浸っていたら、後半に進むにしたがって次第に景色が明るくなってきて、最後には完全に陽が射し、「何難しい顔で聴いてんの?」とジュリーに言われているかのようです。
その余韻でもって再び1曲目「ナンセンス」からおさらいしたくなる・・・病みつき度の高いヴォーカル・アルバム。
momo様、そしてこのアルバムを愛するみなさま・・・長らくお待たせしてしまいましたが、今ようやく断言します。
『NON POLICY』、名盤です!
それでは、今日のオマケです~!
1984年の『宝島』6月号。これは、最近お世話になっているピーファンのお姉さまが、昨年のジュリーの『Pray』ツアーの際、わざわざ僕のためにコピーしてお持ちくださった資料です。
僕はこれ、初めて見ました。ありがとうございます!
いやはや・・・この当時のツアー中に、ジュリーとエキゾティクスの間でそんな悪戯が流行っていたとは。
ワケの分からない時間に叩き起こされる柴山さん・・・なんだか想像してしまうと気の毒ですが、皆若いからそういうことも平気で、仕掛ける方も仕掛けられる方もはしゃいでいたのかなぁ。
まさか今でもこうした悪戯が?
でも今の鉄人バンドなら、叩き起こされる役は柴山さんではなく、下山さんか泰輝さんのような気がします・・・。
さて。
申し訳ありませんが・・・次回の更新まで、しばらくお時間を頂きます。
今週末にポール・マッカートニーの国立競技場初日公演に参加するので(武道館公演はチケットが高すぎ断腸の思いであきらめました・・・泣。改めて、ザ・タイガースのチケット価格がどれほど特別で、あり得ないお値段だったことかと感謝)、当分の間ポールモード、ビートルズモードに突入します。
LIVE参加後に、ポールの今回のセットリストの中から、ジュリーが歌ったことのある曲をお題に採り上げ、『ジュリーがカバーした洋楽を知ろう!』カテゴリーでひとつ記事を書こうと思っています。「レット・イット・ビー」はもう書いちゃってるけど、「ヘイ・ジュード」は必ずやるので、「ネタが1曲も無い・・・」なんて途方に暮れることはないでしょう。でもできれば「アイム・ダウン」「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」「ハロー・グッドバイ」あたりで書けることを期待していたりして。
それが終わったら吉田Qさんのファースト・アルバムの記事を書き、その後再びジュリー・ナンバーへと戻ってから、ピー先生のソロ・ツアー初日レポート執筆、という流れになりそう。
7月からの『三年想いよ』ツアーが始まるまでの間にも、こうして大きな楽しみが続くのです。
稽古に全力で打ち込んでいたのでしょう・・・最近更新が無く静かだったピーのオフィシャルサイトも、本日久々に更新されていますね。
先の週末にツアー・パンフレットの写真を撮っていたとのこと・・・そろそろチケットも発送かな?
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