沢田研二 「砂丘でダイヤ」
~from「忘却の天才」、2002
「ブルース」と言いますと、多くのみなさまが短調のコブシの効いた切ない曲を想像なさるでしょうが、いわゆるロック界で「ブルース」(ピーター・バラカンさんは頑なに「ブルーズ」と濁ります)と言えば、1小節に8分音符の3連符4つ並びの武骨な7th・コードスケールのナンバーを指します。
リズムのニュアンスは”ロッカ・バラード”と近いものがありますので、「おまえがパラダイス」の記事も参照して頂ければ。
ブルース・ロックの楽曲は、ハッキリ言って歌い手を選びます。生半可な歌唱表現力では、どんなに優れた詞曲のブルースであっても、無残なゴミ曲と化してしまうんです。
ズバリ、僕では無理です。
じゃあジュリーはどうか、と言いますと・・・これがもう、ブルースを歌うべくして生まれたのではないか、というくらいの適性があるんですね~。
しかし若い頃のジュリーは、そのあまりに美しい声に多くの人が耳を奪われ、泥臭いブルースナンバーのヴォーカルにジュリーを起用する事は、なかなか発想し辛かったのでしょう。
例えばですね。タイガースのアルバム「自由と憧れと友情」収録の「世界はまわる」というブルースロック・ナンバー。
派手なリードギターをフューチャーし、サリーのトボケたヴォーカルもあって愉快な佳曲ですね。これはこれで相当良いですが、もしジュリーが歌っていたら・・・と考えてみてください。
ヴォーカルが、楽曲のすべてを支配してしまったでしょう。リードギターはとてつもなくハードに聴こえるでしょうし、ベースはアグレッシブな生き物のように耳に残ったはず。
優れたヴォーカリストにはバックの演奏を昇華させる力がありますが、それが最も形に現れやすいのが「ブルース」というジャンルなのです。
今日は、ヴォーカリストとして円熟期に入ったジュリーの、ド迫力なブルース・ナンバーを採り上げたいと思います。
先日「ス・ト・リ・ッ・パ・ー」楽譜付写真集を譲ってくださったnekomodoki様より、「姉のリクエストです」とご依頼を頂きました。
「送料はこのリクエストで」と仰られては、何を置いても速やかに書かねばなりません。語り甲斐のある楽曲を指定して下さり、僕も大変嬉しく思っております。
アルバム「忘却の天才」より、「砂丘でダイヤ」・伝授!
作詞・覚和歌子、作曲・沢田研二
・・・これはある意味黄金コンビなんじゃないですか?
ちょっと言葉の意味は違いますけど、相思相愛のお二人。
♪ いいんだ笑って、思いっきり
煤けたジャケット、虚ろな目
ふられた男は、こうでなけりゃ ♪
ジュリーが”フラれた直後のダメ男”を歌うと、何故こうもカッコイイのか!
「どうして朝」とかもそうだよねぇ。
もちろん覚さんの詞(「どうして朝」は岡田冨美子さん)の豪快な作詞表現も要因としてありますけど、ジュリーの潔いヴォーカルのなせる業でしょう、このカッコ良さというのは。
こんなにガツンと歌っているにも関わらず、まったく押しつけがましくないんです。
LIVEで聴いたら卒倒モノでしょう。「歌門来福」・・・微々たる可能性ながら、期待しちゃうなぁ。
この曲は詞先のような気がします。
他の作曲家さんなら、メロ作って覚さんに依頼という流れでしょうけど、このナンバーはまず詞があって、ジュリーが「俺が自分で曲つける!」と意気込んだパターンなのでは?
根拠は、ブリッジ部の譜割りです。
♪ ひとつダメな時は
何もかもがすべる~~ a-ha ha ha ha♪
ココ!
分かるかなぁ?
通常、ロックやポップスってのは、小節4つ(あるいは2つ)の偶数でひとくくりに作曲するのが自然です。
ところがこの部分は「3小節+4小節」。奇数なんですよ。
歌詞に合わせた曲作りだと思われます。
これがもし曲先だと
♪ ひとつダメな時は~~ あ、はぁ、あんあ、あぁ
何もかもがすべる~~ あ、はぁ、あんあ、あぁ♪
てな風に歌メロが載っていた可能性が高いワケで、いきなりマヌケな曲になります。そりゃフラれるわ!みたいな感じ。
あと、このブリッジ部分はブルース進行ではなく、ちょっと泣き系のコードで展開されています。
この曲はイ長調なので原則として「ド」「ファ」「ソ」の音に#がつきますが、1箇所だけジュリー作曲ならではの面白い箇所があって
ド#・ミ・ソ#(ひとつ♪)→レ・ファ#・ラ(だめな♪)→ド#・ミ・ソ#(ときは♪)→ファ#・ラ・ド#(なにも♪)ファ#・ラ・ド#・ミ(かもが♪)→ソ[ナチュラル]・シ・レ(すべる~♪)→ミ・ソ#・シ
この「ソ」の音がナチュラルするソ・シ・レの和音(G)を経てから、ドミナントのミ・ソ#・シ(E)へと辿り着くのが、なんともルーズな雰囲気を醸し出していて良いんですよ~。
直球のブルース進行ではなく、こうした仕かけを入れることで曲が刺激的に聴こえますし、伊豆田さんの甘いコーラスも自然に溶けこんでいけるのですね。
ヴォーカルがスゴいと、その分演奏も盛り上がるのがブルースナンバーの醍醐味。
「爛漫甲申独唱会」DVDの記事でご紹介したように、LIVEでGRACE姉さんの「ぬお~」が出たり、ブルースのリズムは、腕に覚えのあるドラマーさんの大好物なんですよ。
洋楽の例ですと、レッド・ツェッペリンのファーストアルバムとか、全9曲のうち4曲までもが強いブルース色を持っているのは、明らかに演奏してて気持ちが良かったからだと思います。特に、ボンゾさんがね。
さて、ジュリーはこの「砂丘でダイヤ」以降、ここまで明確なブルースナンバーはずっとリリースしていません。
そろそろ来るんじゃないかなぁ、と思っておる次第なのです。
今の声でブルース歌ったら、スゴイ事になるよきっと!
来年も新譜が出ることを期待しましょ~。
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