沢田研二 「いい風よ吹け」
from『いい風よ吹け』、1999
1. インチキ小町
2. 真夏・白昼夢
3. 鼓動
4. 無邪気な酔っぱらい
5. いい風よ吹け
6. 奇跡
7. 蜜月
8. ティキティキ物語
9. いとしの惑星
10. お気楽が極楽
11. 涙と微笑み
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12月3日です。
東京ドーム組の『ジュリー祭り』参加ファンにとっては、あの幸せな空間を思い出す記念日。
加えて僕にとっては、それが初のジュリー生体感→本格堕ちしたという重要な日付でもあります(ついでに言えば結婚記念日だったり)。
毎年『ジュリー祭り』セットリストからお題を選び更新していますが、今年はせっかくですから現在の全国ツアー『まだまだ一生懸命』でも歌われている曲を、と考え「いい風よ吹け」に決めました。
ここ数年同様、『過去記事懺悔やり直し伝授!』のカテゴリーで「2度目の記事」を書くことになります。
よろしくおつきあいくださいませ~。
①思へばこの世は常の住処ならず
僕が初めて「いい風よ吹け」をしっかり聴いたのは、言うまでもない『ジュリー祭り』でのジュリーの生歌。
その後アルバムを購入し、すぐに詞曲とも大好きになりました。
ジュリー本格堕ちが遅れた僕は、おもに90年代後半以降のアルバムを後追いで聴く度に、ジュリー自作詞の進化に驚かされ、魅了されていったものです。
「いい風よ吹け」もそんな名篇のひとつで、大好きな曲だからこそヒヨッコ状態のまま早々に「考察」とは程遠いお題記事を書いてしまいました。
「やり直し」のこの機に何より書きたいのが、ジュリーの自作詞のことなのです。
「いいい風よ吹け」の詞について僕は初聴時からしばらくの間「ピロートーク」としてのみ捉えていました。
もちろんその要素がこの詞にあることは間違いないにせよ、肝心の「ジュリーの死生観」を見出すまでには時間がかかり・・・他のジュリー作詞作品とのリンクや、鉄人バンドの演奏で何度もLIVE生体感するうちようやく詞の本質が見えてきたのですよ。
そんなわけで「さぁ書くぞ!」と久々にCD『いい風よ吹け』の歌詞カードを取り出し、まず絶句。
文字がほとんど読めない・・・色合いのせいもありましょうが、少し前まではこのくらいのフォントなら楽に読めていたはずなのに、恐るべしは50代の老眼進行速度ですな~(泣)。
やむを得ず拡大鏡を駆使しつつ書いています(笑)。
僕は戦国武将マニアということもあり
思へばこの世は常の住処ならず
草葉に置く白露、水に映る月よりなほあやし
と歌われる『敦盛』の詩がとても好きです。
この詩そのままの通りの人生を駆けぬけたような織田信長を敬愛する一方、最後まで「生」に未練を持ち続けた豊臣秀吉も、健啖長くしてすべてを手中とし大往生した徳川家康もそれぞれ大好きで(来年の大河はメチャクチャ楽しみ!)、まぁその中でも僕の死生観は秀吉に近いのかな。死ぬことがすごく怖いし、少なくとも矍鑠として過ごせる時間は残りあと僅かでしょう。
ではジュリーは?
『ジュリー祭り』で掲げた「人間60年」は『敦盛』の「人間50年」へのオマージュでもあったわけですが、とにかく「永遠の命」など無いという当然の理にしっかり向き合いながらも強く生きる、健康に70代を駆けている、80代そしてその先まで考えていそうなジュリーの生き様には感嘆するばかり。
それは、映画『土を喰らう十二ヵ月』を観たばかりのタイミングの今だからなおさら考えさせられるわけで。
「この映画にピッタリ」とのジュリーの言葉があって主題歌となった「いつか君は」。もしかしたらジュリーの死生観は覚さんのこの詞を歌った頃から確立されていったのかもしれません(数年遡っての「約束の地」も重要ですけど)。
そこから後の自作詞曲「いい風よ吹け」「桜舞う」「護られている I love you」あたりにコンセプトが引き継がれていったんじゃないかなぁ。
僕は『敦盛』の境地には到底及びません。
ジュリーのようにこの世の理と強い心で向き合うこともできないし、ツトムさんのように潔く意を決することもできません。
「明日も、明後日も」と時間に頼って物事を考えてしまうタイプなのですね。
青い空飛んで行く鳥が
F
羨ましくはなくて
Dm Am7
辛いだろうと思う
Dm Gm
そっといい風よ 吹け ♪
B♭6 B♭(onC) F
この世に宿るすべての生命にとって、小さな力を尽くしこの世を生き抜くことは厳しく辛い苦行。
それをやり遂げた先に穏やかな来世(常の住処)があるのだ、だから自分や身近な人を含めすべての生命の営みは愛おしい、とそんなふうに思えればよいのだけれど(ツトムさんの言葉で言えば、「その日1日を過ごせれば充分」と)、凡庸たる身にはなかなか難しいことです。
先日、ジュリー道の師匠が「いい風よ吹け」について、「ジュリーもこんな詞を書くようになったのね」と感激したという思い出を話してくださいましたが、ジュリーがこの名曲をリリースしたのは現在の僕より全然年下なんですよねぇ。
特別な才能、経験をしてきたジュリーは死生観ひとつとってもモノが違うんだなぁ、と感じ入るばかりです。
ジュリーは先のフォーラム公演MCで、『月を喰らう十二ヵ月』のワンシーンについて
「あれは僕が言ってるんじゃなくて、僕はツトムを演じているんですよ」
と話してくれたけれど、ファンから見ればジュリーとツトムさんって、やっぱりリンクしますよ。
「いい男ね~」と言われたら「せやろ」と応えそうなジュリーだと思ってしまう・・・おっと、こういう話は次回記事で書くつもりだったんだっけ。
今日のところはここまでで(笑)。
で、今ちょうど次項に向けて『ジュリー祭り』DVDの「いい風よ吹け」を観ているのですが、やっぱりこの日最終盤のジュリーには神々しい何かが降りてきていますね。
歌詞を思い出しながら歌っている感じがまったくしない・・・無心の状態で唇から歌声が自然に流れこぼれてゆく様子がひしひしと伝わってきます。
そんな映像に見とれつつ、今年もまた『ジュリー祭り』のあの日に思いを馳せている次第です。
②七福神(仮)と鉄人バンド、演奏聴き比べ
僕はツアー初日に「いい風よ吹け」を聴いた時、大好きな名曲久々の降臨(ギター1本体制では歌われていません)に感動したものの、どちらかと言うと鉄人バンドの演奏を懐かしく思う複雑な気持ちの方が大きかったのです。
それが先日のフォーラムで七福神(仮)ヴァージョン2度目の体感を経て、「うん、甲乙つけ難い。どちらのバンド演奏も素晴らしいじゃないか」と。
そこで今日はこの機に「いい風よ吹け」を演奏する七福神(仮)と鉄人バンド、それぞれの特色、魅力について書いておきたいと思います。
まず鉄人バンド。
「必要最低限」の音数でオリジナルCD音源を再現する、研ぎ澄まされた演奏です。
柴山さんがエレキ、下山さんがアコギ、そして泰輝さんはベースラインとムーグ。GRACE姉さんのドラムス(この曲では、高い音色のスネアと、要所で挿し込まれるフロアタムの対比がとても好きでした。鉄人バンドの演奏に思い入れのある僕が、今回のツアー初日段階の感想として「いい風よ吹け」にちょっとした違和感を覚えたのは、ギターよりむしろスネアの感触だったのです)も合わせ、4人の音がどれも聴きとり易くスッと身体に入りこんできます。
あくまでジュリーのヴォーカルがメインであり黒子に徹するアンサンブルを志しているにも関わらず、幾多の名演の中でも「鉄人バンドの音」が特に心に残る演奏曲のひとつに仕上がっているんですよね。
個人的に推していたのが、下山さんのアコギです。
「F」のアルペジオ・バリエーションをここまで・・・という。これが「C」とか「G」「D」あたり、或いはカポ・プレイなら難易度は普通なのですが。
面白いことにその演奏、僕の初体感となった『ジュリー祭り』では下山さん大苦戦なのですな。
セトリ80曲の79曲目、後に下山さんはラジオで「ほとんど指が動かない状態だった」と語っていました。
1本ずつ弾かなければいけない箇所で3本同時弾きのコードに切り替えたり、涼しい顔で対応はしていますが内心では「ええい!頑張れ俺の指!」と歯をくいしばっていたはず。
だからこそこの映像、この演奏は貴重です。
あとは柴山さん。
CD音源のサスティン・リードを再現します。
今でも(今ツアーでも)柴山さんは「いい風よ吹け」になると白のフェルナンデスにチェンジ。ずいぶん前にその点について、しょあ様に「あのギターは何?」と尋ねられ、「世界のカブトムシ図鑑に載ってそうなギターですよね~(ヘラクレスオオカブト、胴体が白いのです笑)」とワケの分からない答え方をしてしまったのも懐かしい思い出。
その後の調べで、あのフェルナンデスは1度音を出せば弦の振動を止めない限り永遠に音が伸び続ける設定であることが分かりました。
柴山さんの「1曲入魂」を象徴する演奏でしょう。
ちなみに『ジュリー祭り』80曲目の「愛まで待てない」では今度は柴山さんが大苦戦・・・これまた貴重です!
では、七福神(仮)はどうでしょうか。
人数、編成の違いにより音数が多く、とても豪華、きらびやかな演奏です。
そのぶん柴山さんのフェルナンデスの音が埋もれて聴きとりにくくなっているのですが、こちらのアンサンブルもやはり素晴らしいと思います。
高見さんがアルペジオではなく、エレキを持ってオリジナル音源とは異なる新たなアレンジ解釈をしているのがまず目立ちます。
Aメロの小節の頭でワウの効いた複音を鳴らしますが、ワウ独特のうねりや余韻は、樋口さん作曲の「いい風よ吹け」楽曲自体が持つ浮遊感と合致します。
ただ、鉄人バンドでの下山さんのアルペジオ演奏の中でも、薬指で弾いていたクリシェの音階は「いい風よ吹け」には不可欠のもの。
ギターの代わりにその音階を担当するのが斉藤さんのキーボードで、それを含め斉藤さんはここではピアノ系、シンセ系、ムーグと八面六臂の大活躍なのです。
平石さんの重めのスネアもフォーラムでは「なるほど、ベースありのフルバンド・スタイルだととても合うんだな、と思いましたし、七福神(仮)の場合は音数をオリジナル以上に増やすことで、厚みのあるバラード・アンサンブルを志しているのですね。
そして素晴らしいのがコーラス・ワークです。
鉄人バンドは、この曲では泰輝さんがコーラス・パートを一手に受け持っていました(箇所によってGRACE姉さんがハモっていたかなぁ?少なくとも柴山さん、下山さんがこの曲でコーラスをとっていた記憶はありません)。
それが七福神(仮)には、すわさん、山崎さんのコーラス隊がいますし、加えて依知川さんがコーラスの名手。
シンプルに適役人数の多さが強みで、「いい風よ吹け」では特に「tu,tu,tu...」のハミングが心地よいです。
ともあれ七福神(仮)は今ツアーに限らずこの先何度も「いい風よ吹け」演奏の機会があるでしょう。
どんな進化をこれから魅せてくれるのか・・・。
楽しみにしています。
③目立たないけど、しみじみと良い名盤!
最後にアルバム『いい風よ吹け』について少し。
この名盤を購入したのは、先述の通り『ジュリー祭り』後の怒涛の大人買い期。
短期間で大量の音源を聴いていった僕は、このアルバムに限らず初聴時からその真髄を掴むことはなかなか難しく、とにかく「知らない曲を頭に詰め込む」作業に必死だったなぁと思い返します。
『いい風よ吹け』は当初、「イイんだけど、全体としてはちょっと地味な1枚」と思っていました。
後追いファンの宿命で僕はそれぞれのアルバムを聴いた順序も年代バラバラなんですけど、それでも「もし自分がずっと毎年新譜購入していたら」と想像した時も、『サーモスタットな夏』→『第六感』と来て『いい風よ吹け』・・・たぶん同じような感想を持ったんじゃないかな。
ところがこれが、聴く度にどんどん嵌る。
購入後しばらくの間「苦手」としていた「お気楽が極楽」も、LIVE生体感した瞬間から大好きになりましたし。
ジュリー、覚和歌子さん、GRACE姉さん3人の作詞作品がアルバム内でシンクロする不思議な魅力が続く数年も、この『いい風よ吹け』が始まり。
詞について考えることが好きな僕のようなリスナーにとって、その意味でも重要な名盤と言えるのです。
僕がこれまでLIVE生体感できている収録曲は、「鼓動」「いい風よ吹け」「奇跡」「蜜月」「いとしの惑星」「お気楽が極楽」の計6曲。
「いつ来るか、いつ来るか」と待ち構えている、大好きな「インチキ小町」がまだです。これは依知川さんの作曲作品ですし、近い将来きっと・・・とは思っていますが。
あと「真夏・白昼夢」「無邪気な酔っ払い」「ティキティキ物語」の3曲がいかにもジュリー好みで毎回ツアーの度に期待大。残るラスト収録「涙と微笑み」は大好きなんですけど、今後のセトリ入りとなると難しそう・・・というのが僕の感触です。
みなさまはいかがでしょうか。
それでは次回更新は、映画『土を喰らう十二ヵ月』の感想も併せて「いつか君は」をお題に採り上げます。
僕が映画館に行けたのは結局フォーラムより後になってしまって(その週の土曜日)、実際に観てから「あぁ、あの話はあのシーンのことだったのか」とジュリーのMCを思い返す、という順序になりました。
更新までしばしお待ちを~。
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コメント
DY様 こんにちは。
♪青い空~
一番の高みに上り詰めた感激と高揚、そしてその怖さと挫折も知り尽くしているジュリーだからこその歌だなぁ、と思いながら聴いてました。
今その高みで必死に翼をはためかせている若い鳥たちに
「失速しても諦めなければ風は又吹くから」
とささやきかけているようです。
「ジュリー祭り」
ジュリーが時間が経つほど声の調子が良くなるのを見てバンドも
(こんなに長時間平気でやれるもんなんだな)と能天気に眺めてましたが、下山さんが」あとで
(俺、今何やってんの?指動いてんの?)
という状態だったと何かで読んで、
あー、やっぱスゴイ大変だったんだ。それでも観客にそれを」感じさせないってさすがプロ!
でもわかる人にはその大変さが見ててわかるんですね。
投稿: nekomodoki | 2022年12月 4日 (日) 09時58分
nekomodoki様
ありがとうございます!
『ジュリー祭り』最後の2曲は本当に、鉄人バンドそれぞれが力を振り絞っているのがよく分かるのです。
ただ、最後の最後になってもジュリーが何かが降りてきたように自然な素晴らしい歌声、調子を上げていきてるので、メンバーは「凄いなぁ」と思いながら「沢田さんは凄い。よ~し自分も」と考えていたと思います。
「いい風よ吹け」はやはり長年のジュリーの軌跡をよく知っている先輩方にはグッとくるでしょうね・・・辛い時期も共にされてきた、というだけでなくて。
生き抜こうとする命の辛さ、愛おしさ。でもそこにやわらかな風が吹けば少し楽に羽ばたける、という歌ですね。
「LUCKY/一生懸命」で歌われる「風が変わった」と同じ意味あいの「風」ではないでしょうか。
投稿: DYNAMITE | 2022年12月 6日 (火) 09時12分