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2022年4月 8日 (金)

沢田研二 「痛み」

from『TRUE BLUE』、1988

Trueblue

1. TRUE BLUE
2. 強くなって
3. 笑ってやるハッ!ハッ !!
4. 旅芸人
5. EDEN
6. WALL IN NIGHT
7. 風の中
8. 痛み

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僕は今年も5月15日に開催が決まっているピーさんの四谷左門町LIVE(年長のタイガースファンの友人であるYOUさんが毎年主催)をお手伝いするので、今かなり忙しくしています。
例の尿管結石騒動で準備作業中断期間もあったため、現在急ピッチで追い込みをかけているのですが・・・。

ウクライナの惨状、そして当たり前のように侵略、虐殺がまかり通っている酷い現状をニュースで見聞きするうち、やはりこの曲は今採り上げなければ、との思いに駆られました。
急遽、更新いたします。


「80年代ジュリーの祈り歌アルバム」と言ってもよい名盤『TRUE BLUE』。

確か『OLD GUYS ROCK』ツアーの和光市公演で、開演前にたまたま近くの席の先輩お2人がこのアルバムについて「当時はピンと来なかったけど、今聴くとすごくいい」とお話されているのを耳にしました。
僕はリアルタイムのファンではないけれど、その先輩方のお話がよく分かるような気がします。

『ジュリー祭り』後、怒涛のように未聴のジュリー・アルバムを聴いていった僕も、当初『TRUE BLUE』は地味な印象が拭えずほとんどリピートしていませんでした。遅ればせながら再評価し大好きな1枚となったのは、ジュリーが『PRAY FOR EAST JAPAN』の歌作りにシフトしてからのことです。
『TRUE BLUE』って、近年のジュリーの創作姿勢と不思議にリンクする名盤なんですよね。

お題の「痛み」はジュリー自身ではなく松本一起さんの作詞ですが(作曲は篠原信彦さん)、以前「WALL IN NIGHT」の記事に書いたように、僕には『TRUE BLUE』ラスト収録の3曲(「WALL IN NIGHT」「風の中」「痛み」)には共通のコンセプトがあるように思え、特にジュリーの「祈り」を強く感じます。

とは言え、歌について感じること、歌詞解釈はその時々で違っていて。
例えば「WALL IN NIGHT」の記事を書いた時僕は『PRAY FOR JAPAN』と結びつけるようにして上記3曲の流れを聴いていました。
それが今は・・・。
僕には「痛み」がまるで独裁者を糾弾し憐れむような歌のように聴こえています。

人は欲望だけ追いかけて
   C  D        G         E7

人は自分のため武器を持つ
   C     D        G         Em

誰一人として他人の幸せ
     C       D       G   Em

奪う事なんてできないのに何故
     C       D         G         E7

僕は普段、文中で歌詞引用する際は最後に「♪」をつけるのですが、2012年以降のジュリー・ナンバーにはそれを躊躇われる歌が多くなってきました。
今回の「痛み」でも同じ感覚を持ったのは、それがジュリーの「祈り歌」の特性だからかもしれません。

以前「un democratic love」の記事を書いた時に僕は「反日」の謗りを受けた経験があります。
これは本当に遺憾も甚だしいのですよ。自分の愛国心は相当なものだ、と自覚していますから。
同性の友人に政治的な考え方が違う人が多く、それでも親しく時に彼等と闊達に議論ができるのは、大げさに言えばお互いの「憂国の士たらん」とする志を認め合っているからです。

ただし僕は愛国であっても、「選民思想」を持ったことはありません。
日本民族が他民族より優れているとか、特別に選ばれた民族であるとは思っていません。我が国の歴史を重んじ誇りを持つことと、倨傲・大風な優越感に取り憑かれることはまったく別、という考えです。

どの国どの民族であっても、「我が民族は特別だ」との思想は結局それを掲げる個人の「自分は特別だ」に帰結する危険が高い・・・もちろんそれも人にはよるでょうが、選民思想というのは結局個人のコンプレックスから来るものなのだろう、と思っています。
いえ、コンプレックスを持つこと自体は悪いことではありません。
プーチンは身体が小さい方だったからこそ柔道に打ち込み「柔よく剛を制す」を会得したと言います。
そこまでは良い、むしろ素晴らしい。

しかし権力者となり長期政権の保身に走り選民思想を掲げる独裁者となった今。

此の世に一人で生まれてきたけど
        C       D         G         Em

誰でも一人で生きてはゆけない
      C      D         G         Em

「自分は特別」に帰結した者は「最終的には自ら以外を殲滅してしまい世界にたった1人とり残される」愚かな運命の歩みに気づけないのでしょうか。

夜明けを忘れて
G

世界は幕切れに向かう
G                  D7

そうなる前に、今すぐ戦争を止めること。
彼がウクライナ、ロシア双方の民の痛みを知り、引き返すための選択肢はそれしかありません。


最後に、「痛み」の音楽面について少し。
ト長調の王道進行によるバラード。このメロディーならばラヴ・ソングとの相性の良さを考えますが、そこに意外や痛烈な詞が載せてくる手法、これまたジュリー近年の「祈り歌」との共通点と言えるかなぁ。
アルバムがジュリーのセルフ・プロデュースですから、そのあたりの狙いも松本さんと打ち合わせがあったのかもしれませんね。

僕はよくジュリーナンバーの「詞曲の乖離」パターンでの逆説的な素晴らしさを書くことがありますけど、そもそもこの手法は歌い手の力量が無いと成立しないと思っています。

「痛み」に限らずアルバム『TRUE BLUE』を通してのジュリー・ヴォーカル・・・聴くたびに、後追いファンの僕は前作『告白-CONFESSION』から後作『彼は眠れない』までの3枚がたった3年(1年おき)にリリースされているという事実に驚かされます。

佐野元春さんが確立し大沢誉志幸さんなど幾多のヴォーカリストも踏襲、和製ロック界を席巻していた「ら行」「た行」のイングリッシュライクな発音・発声に挑んだ『告白 CONFESSION-』。
イカ天ブームに沸くセールス戦略の最中、吉田建さんをプロデュースに迎え「本物の実力」で切り込み多彩な表現を駆使した『彼は眠れない』。

その2枚の間にあって、まるでロックなテクニックに一切執着など無いかのような「歌」声でリリースされた『TRUE BLUE』の存在は光ります。
もちろん前後2枚でのジュリーのヴォーカル・テクニックは素晴らしい。しかし、じゃあジュリーの声や歌の本質の姿は?と問われれば、『TRUE BLUE』のヴォーカルの方だと思うんですね。

「痛み」のメッセージは、そんなジュリーの声で届けられるのです。
このヴォーカルでなかったら、コーダ部で大胆にバンドのインストに転換させたり、エンディングにS.E.を配するアレンジ・アイデアも単に奇をてらったように聴こえてしまうかもしれません。


間違いなくウクライナのことが関連していると思いますが、アクセス解析を見ると拙ブログでは先月から「脱走兵」(act『BORIS VIAN』)の記事が、特にジュリーファンではない一般の方々からも多く検索され読まれているようです。
世にある様々な反戦歌が今、再評価、再認識される動き・・・その一例なのでしょう。

ブログに来訪してくださった一般のみなさまにも、この機にジュリーの「痛み」という歌を知って頂ければ・・・と、切に思っています。

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瀬戸口雅資のジュリー一撃伝授!」カテゴリの記事

コメント

DY様
回復おめでとうございます。
そして、大好きなCO-CoLOの曲を続けて解説してくださいまして、ありがとうございます。
この曲は、88年4月のライヴでは本編ラストで演奏された、と記憶しております。
ただ、私の記憶では、後半のインスト部分がCDとは全く違っていたように思います。
もっと明るく楽しい感じで、ジュリーもノリノリで踊っていたと思うのですが、記憶違いかもしれません。

この日のライヴで2曲目に演奏された、30年以上ずっと気になっていた曲は、どうやら「黙示録」という未発表曲らしいです。
「目の前で、仲間が死んでゆく」、「いつの日かまた会える、あの世とやらで」という歌詞が今でも強烈にココロに残っています。
すいません、つい長々と失礼しました。

投稿: 治之祐 | 2022年4月 9日 (土) 08時54分

治之祐様

ありがとうございます!

以前伺ったことのある謎のナンバー、「黙示録」なるタイトルでしたか。
断片的に歌詞を教えて頂いただけでも、強烈な印象を残す歌であったことが分かります。今の状況下であればなおさらです。

前作『告白~』にバンドのインスト「FADE IN...」が収録されていたり、CO-CoLOのアルバムは独特のアプローチがありますね。「痛み」のコーダ・インストも前作のそのあたりを受け継いだアイデアだったのでしょうか。

今後のLIVEで少しずつでもCO-CoLO期のナンバーが採り上げられ歌われていくことを期待しています。

投稿: DYNAMITE | 2022年4月12日 (火) 09時09分

DY様 こんばんは。

痛み思い出してもう一度
愛の女神たちに膝まづけ

殺し合いをさせるために子供を産む母親はいません。

「黙示録」でしたか。
多分ライブで聴きました。
歌詞が強烈に印象に残ってましたが、曲名も出処も不明、ネットもパソコンも無くて確認しようがありませんでした。

投稿: nekomodoki | 2022年4月13日 (水) 21時59分

nekomodoki様

ありがとうございます!

「黙示録」・・・実際にLIVE体感していらっしゃる先輩方が羨ましい限りです。

やはり中東の様子を実際に見て、ジュリーに思うところがあったのかなぁ、と後追いファンの僕は思うのですが、考えてみればその時々のLIVE限定での「謎の曲」を歌うって、ジュリーらしい発信だと思うんです。
数年前もありましたよね。「沖縄のことかな?」と思わせる謎の歌。
その後、何かつきとめたジュリーファンはいらっしゃるのかなぁ?

次のツアーでジュリーが突然そんなふうに謎の歌を歌うことを妄想します。
ツアーの情報、まだかなぁ。

投稿: DYNAMITE | 2022年4月15日 (金) 10時11分

DY様

黙示録
どうやら
nobodyのSummer's gone と
曲は同じだと思います

サビ部分が聞き覚えあります

答えてくれ
人はなぜ
お前の様に
何時か皆んな死んでゆく
訳を〜

街に出れば
むせかえる
ミラージュの街〜
俺の中で
走り出す
お前〜

サビ部分だけです
ゴメンナサイ

投稿: ぷー | 2023年11月18日 (土) 15時58分

DY様

ご無沙汰です。
お仕事お忙しそうで何よりですが、無理しない程度で頑張ってください。

ぷー様

ありがとうございます。
そう、この曲です。
間違い無いです。
歌詞が全く違いますが。
ぷー様が書き起こされているのが、ジュリーが歌っていた歌詞です。
CO-CoLOバージョンの作詞は、ジュリー本人かもしれませんね。

投稿: 治之助 | 2023年12月 3日 (日) 08時25分

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