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2021年8月

2021年8月25日 (水)

THE ROLLING STONES 「ダンデライオン(たんぽぽ)」

Throughthepast

ダンデライオンは嘘をつかない
そしていつも俺たちに賢明な道をしめしてくれる
さて、この曲は明るい方がいい?
それとも悲しい方がいいかな?
ダンデライオンに任せてキメてもらお

↑「ダンデライオン」サビ部より(意訳:DYNAMITE)

Dandelion

風が吹けば飛んでいってしまいそうな、たんぽぽのような痩身の男は、実は途方もない鉄人であり賢人であった。チャーリー・ワッツ逝く・・・享年80才。

チャーリーがドラマーでなかったら、ストーンズはとうにバラバラになっていたんじゃないか、と思うことがある。

ストーンズファンは、たとえミック派でもキース派でも、ブライアン派、ミック・テイラー派、ロニー派、みんなチャーリーのことが大好きだった。信頼していた。
サイケデリックな「ダンデライオン」も、カントリーな「デッド・フラワーズ」も、ファンクな「ホット・スタッフ」も、レゲエな「ユー・ドント・ハフ・トゥ・ミーン・イット」も、チャーリーはどんなタイプの曲であっても泰然といつものようにスネアのフィルを繰り出し表情をつけて、「ストーンズ・ナンバー」として楽曲を成立させた。

210825_01

↑ 自分はストーンズのスコアをこんなに持っていたのか、と今さらながらに・・・。


ストーンズを愛する全世界の人が今、大きな哀しみの中にある。
残されたメンバーはその哀しみを胸に、これからもストーンズの活動を続けてくれるだろう。

ただ。
チャーリーを失ったこの先、僕らは真に「ストーンズの音」をリアルタイムで体感することは叶わない。

合掌。

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2021年8月 8日 (日)

沢田研二 「8月のリグレット」

from『NON POLICY』、1984

Nonpolicy

1. ナンセンス
2. 8月のリグレット
3. 真夏のconversation
4. SMILE
5. ミラーボール・ドリーマー
6. シルクの夜
7. すべてはこの夜に
8. 眠れ巴里
9. ノン ポリシー
10. 渡り鳥 はぐれ鳥

---------------

暑いですな・・・。
酷暑、猛暑、炎暑など様々な言い方をしますが、先日更新されたピーさんのブログ記事で、ピーさんオリジナルの「蛮暑」との新語がありまして。
いや正に!
地上の人間や生物達が天の熱に蹂躪されほどの暑さ。「蛮暑」はズバリの表現、さすがはピーさん、漢文の専門家でいらっしゃいます。

毎年思うのですが、8月って(特にここ数年は)グッタリするほど暑いのに、毎日のように陽が短くなっていくのが実感できてなんだか寂しい月なんですよね。
たぶん子供の頃の「夏休みがどんどん過ぎていってしまう」感覚が染み付いてるんじゃないかな。

ですから「夏の歌」も「さぁ夏だ!」と盛り上がる7月っぽい歌と、「もう夏も終わり」な哀愁漂う8月っぽい歌とでは全然違う気がします。
僕がジュリー・ナンバーで7月っぽいと感じるのは「サーモスタットな夏」とか「RED SUMMER」とか。
では「8月っぽい」となれば、今日のお題がズバリ「8月のリグレット」。お盆が近づいてきて、夏休みも折り返しが見えて「もっとああすれば良かった、こうすれば良かった」と「夏の後悔」に囚われた少年時代の記憶とリンクしまくる名曲です。

たまには”季節に合わせたお題シリーズ”をやらなくちゃ、ということでアルバム『NON POLICY』から。
くれぐれも涼しいお部屋にて、今日もよろしくおつき合いください。


僕はポリドール期のジュリー・アルバムを、本格ジュリー堕ち(『ジュリー祭り』参加時)以前にすべて聴きました(2005年のリマスター一斉再発の時に大人買い)が、『NON POLICY』の評価は当初高くありませんでした。
「名盤」と思えるようになったのは2011年くらいでしたか(ジュリー道の師匠からの指南も大きかった)。それまでは「シルクの夜」や「眠れ巴里」、そして「渡り鳥 はぐれ鳥」の素晴らしさに気づけていなかったのですから、我ながら呆れます。

ただ初聴一発で大好きになった曲が3曲あって、それが「ナンセンス」「8月のリグレット」「すべてはこの夜に」。
この3曲の共通点はいずれも「ピアノ・ロック」であったこと。80年代邦楽ロックの一大ブームとも言えるサウンドでありアレンジです。
高校時代に佐野元春さんをよく聴いていた僕は『NON POLICY』でまず、佐野さん作曲の「すべてはこの夜に」は当然のこと、「ナンセンス」「8月のリグレット」のアレンジに、少年時代に愛聴した佐野さんの「ピアノ・ロック」なエッセンスを感じとりました(ちなみに『A WONDERFUL TIME.』収録の「PAPER DREAM」や、ブルーバードCM曲の「素敵な気分になってくれ」についてもまったく同じ感触が僕にはあります)。
70年代までならおおむねサイド・ギターが受け持つであろうアレンジ・パートを複音のピアノが担当する、という・・・例えば「8月のリグレット」の0’24”~0’25”あたりのピアノにご注目ください。佐野さんのファンでこのフレージングに惹かれない人はいないでしょう。

この手法は実際には70年代からあって、海の向こうではビリー・ジョエル、エルトン・ジョン、或いはストーンズにおけるニッキー・ホプキンス参加曲であったり、特に僕の好みだとアトラクションズ(エルヴィス・コステロのバンド)とか、「ピアノの連打でロックする」ことは当時勢いを増していたハード・ロックへのアンチテーゼでもあったのかなぁと思っています。
ジュリーもアルバム『愛の逃亡者』をはじめ、他にも井上バンドの演奏で大野さんのピアノにそれっぽい曲はいくつかありました。
それでも邦楽において「ピアノ・ロック」を一躍メジャーにした、世間の認知を広く得た最初のソロ・アーティストは誰かと言えば、これが「8月のリグレット」作曲者の原田真二さんだったと思うんですよ。
容姿的にもカッコイイ男性シンガーがピアノを弾きながらロックを歌う、というね。
原田さんのデビューは70年代も後半になりますから決してそのスタイルの「先駆者」とは言えませんが、テレビの歌番組で普通にそうした楽曲を一般ピープルに知らしめたのは、原田さんが最初じゃないかなぁ。
少なくとも僕にとってはそうでした。

原田さんの作る曲はいかにも日本人離れな感じで、カッチリしていて、曲中どこかに必ず「おっ!」と耳惹かれる極上にキャッチーな進行が織り込まれているというのが僕の印象です。
パターン自体は王道であっても、メロディーの単独性、ヴァースの配置が個性的だと思うんですよね。
「8月のリグレット」で言うと

カーブにちぎれた
F          F#dim

蒼 いフラッシュライト ♪
Gm  F               E♭

のテンションの挿し込み方だったり

行く先はない 狂っ た砂時計 ♪
Gm  Gmmaj7 Gm7  Em7-5 E♭(onF)

のクリシェ・ラインの美しさだったり。
これがジュリー・ヴォーカルとの相性抜群です。

原田さんのジュリーへの提供曲はこの『NON POLICY』収録2曲のみですよね?
以前アルバム収録曲お題記事のどれかで書いたはずですが、『NON POLICY』のジュリーは曲の随所で「おぅ・・・」と喘ぐようなプチ・シャウトを結構な頻度で入れてきます。これがまた原田さんの曲と合うのです。
もっともっとジュリーと組んでも良かった作家さんだと思うのですが・・・。

ちなみにアルバム1曲目の「ナンセンス」にも「8月のリグレット」上記箇所と似たクリシェが登場します。

おれの  気紛れだから
      Gm   Gmmaj7   Gm7

ハートを痛めるなんて ナンセンスだよ ♪
Em7-5        Cm    F7  B♭            D7

これが僕の中の原田さんのイメージにとても近く、僕はアルバム購入から数年間「ナンセンス」を原田さん作曲作品と勘違いしていました(歌詞カード該当ページのクレジットを、横ではなく縦に認識してました汗)。
いずれにしても、「ナンセンス」がト短調、「8月のリグレット」が変ロ長調とこの2曲は並行調の関係にありますし、アルバム冒頭2曲流れは最高に心地よいです。

「8月のリグレット」は井上鑑さんのアレンジも素晴らしく、シングルでも行けたんじゃないか、と思うほどの完成度。
ただ1点個人的に引っかかるのはYMOばりのサンプリング音で、もちろん曲によってそれは効果絶大、実際僕はYMO「アブソリュート・エゴ・ダンス」(音色やタッチは「8月のリグレットとほぼ同じ)とか大好きなのですが、これ「8月のリグレット」に限っては不釣合いだったんじゃないか、と思うんだよなぁ。
まぁそれも含めてアルバム『NON POLICY』特有の雰囲気なんですけど。

僕は『NON POLICY』からは現時点で「すべてはこの夜に」唯1曲しかLIVE生体感できていません。
先日「言葉にできない僕の気持ち」の記事を書いた際に『サーモスタットな夏』ツアーDVDを観返し、「渡り鳥 はぐれ鳥」でのジュリー圧巻のパフォーマンス、泰輝さん狂乱のダンスを久々に堪能、「いいなぁ、いいなぁ」と思いましたよ。
僕が『NON POLICY』から次にLIVEで出逢うとしたらこの曲でしょうね。

あとは『ジュリーマニア』で採り上げられていたタイトルチューン「ノンポリシー」も可能性あり。
ジュリー自身の作曲作品ということで「眠れ巴里」のサプライズ降臨も考えられます。
残りの曲は「8月のリグレット」含めてなかなか難しいのかな~。どのジュリー・アルバムについて語っても「一度でよいので是非生で聴いてみたい!」というのは、キリのない話ではありますけどね。


最後に。
リアルタイムのジュリーファンの先輩方は『NON POLICY』をLPレコードで聴かれたのですよね?
僕がポール・マッカートニーの新譜購入体験で思い起こすに、86年の『プレス・トゥ・プレイ』はCDでしたがその前作、84年の『ヤァ!ブロード・ストリート』はレコードでした。ですから84年の『NON POLICY』もみなさまレコードでお持ちだったんじゃないか、と想像する次第。

そこで、このブログを特にジュリーファンでない音楽愛好家の方々がどのくらい見つけてくださっているのか分からないのですが・・・。
今、日本のみならずアジア各地で空前の和製「シティーポップ」ブームが到来しています。
例えば中古CD・レコード店の雄であるディスクユニオンさんは、今年に入ってまず渋谷に全国最大規模の新規店をオープン、続いて先月には新宿にワンエリア一気4店をオープンさせました。いずれにも僕は一度開店早々お邪魔する機会を得ましたが、お客さんの様子を見ていますと目玉は明らかにシティー・ポップやそれに順ずるJ-POP系をこれでもか、と揃えたレコード商品なのですね。
もちろん今日のお題「8月のリグレット」作曲者の原田真二さんや、大滝詠一さん、佐野元春さん、伊藤銀次さん、大沢誉志幸さん、NOBODYさん等ジュリーと縁の深いアーティストのレコードも人気のようです。

そこで、もし「シティポップのレコード収集」に打ち込んでいる最中の一般の方がこの記事を読んでいらっしゃいましたら、我らがジュリーの80年代前半のアルバムを是非聴いて頂きたいなぁ、と思うのです。
シティーポップ王道を求めておられる方には、特に『A WONDERFUL TIME.』『NON POLICY』の2枚を自信をもってお勧めいたします!

騙されたと思って、手始めに「8月のリグレット」1曲だけでもYou Tubeで聴いてみてください。
『NON POLICY』のレコードが欲しくなるはずですよ~。

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2021年8月 1日 (日)

ザ・タイガース 「涙のシャポー」

from『THE TIGERS CD-BOX』
disc-5『LEGEND OF THE TIGERS』

Tigersbox

1. タイガースのテーマ
2. スキニー・ミニー
3. 白いブーツの女の子
4. 愛するアニタ
5. 南の国のカーニバル
6. 涙のシャポー
7. 涙のシャポー(別テイク)
8. 傷だらけの心
9. 730日目の朝
10. 坊や祈っておくれ
11. Lovin' Life
12. 誰もとめはしない
13. 夢のファンタジア
14. ハーフ&ハーフ
15. 遠い旅人
16. タイガースの子守唄
17. あなたの世界
18. ヘイ・ジュード~レット・イット・ビー
19. 明治チョコレートのテーマ
20. あわて者のサンタ
21. 聖夜
22. デイ・トリッパー
23. アイム・ダウン
24. 雨のレクイエム
25. ギミー・シェルター

---------------

ワクチン接種の予約が決まりません(涙)。
先日ようやく自治体から案内が来たのでやれやれ一歩前進、と思ったのもつかの間、その後の予約争奪戦に出遅れたみたいで・・・想定外ですよ、ジュリーのチケットじゃないんだから!

近隣自治体で同世代の同僚達とも話をしたところ、やはり軒並み年内は無理で、現時点ではどうにもこうにもならない状況です。
各地自治体によって差はあるのでしょうけど(対象病院の数にもよるのか、都内在住の人はスムーズに予約できるっぽい)、聞けば「1回目は打てたけど2回目の予約ができない」という人も続出しているとか?
「秋までには希望する人全員の接種を終える見込み」と国は言っていたのに、全然無理じゃん・・・。
どうしたものか。

ひとまず気をとり直しまして。
現在プロ野球は夏休み期間となっていますが・・・阪神、大丈夫なのかいな、という話から。

拙ブログでは以前より「次に阪神がリーグ優勝した年に「Rock 黄 Wind」の記事を書く!」と宣言しておりまして、まぁそうは言いつつも実際は「もう僕が生きている間は実現しないんじゃないか」と弱気に思っていたわけです。
それが今年、セパ交流戦が終わる頃までは予想外にも絶好調だった阪神。「遂に時は来た!間違いなく今年はブッチギリで優勝だ!」と確信するほどでした。
それが梅雨に入ったあたりからどんどん様子がおかしくなってきて、僕の勝手なトラウマ法則「阪神はシーズン終盤に巨人、ヤクルトと競る展開になると優勝できない」が現実味を帯びてまいりました。
でも今年はなんとか凌ぎきって欲しい!
ほら、拙ブログでは毎年自分の誕生日(12月20日)に「ジュリーが自分と同じ年齢の年にどんな歌を歌っていたか」をテーマにお題を選んで書いてるじゃないですか。今年僕は55歳になるので、ちょうどアルバム『明日は晴れる』の年なんですよ。
ならばその日に「Rock 黄 Wind」を書いて、自分の誕生日と阪神優勝を同時に祝う!という計画を夏前にはもう立てていたのです。
実現なるや、ならざるや・・・?

で、その日に備えシングル盤『明日は晴れる』を購入したいと探していますが、未だ見つかりません。
確かB面の「Rock 黄 Wind」はアルバムとはヴァージョンが違うんじゃなかったでしたっけ?
そのあたりを実物で確認したくてね・・・。

僕はジュリー・ナンバーはもちろん他に好きな洋楽とかでも「ヴァージョン違いフェチ」なのですな。
例えばジュリーの「サムライ」みたいにシングルとアルバムとでは「全っ然違う!」もの、「ヤマトより愛をこめて」みたいに「一部違うもの」、果ては「ポラロイドGIRL」みたいに音源トラックはすべて同じでもミックスが違うもの・・・すべて違いを把握したい、というタイプです。

そこで今日のお題はザ・タイガース。5枚組CD-BOXのdisc-5、『LEGEND OF THE TIGERS』から「涙のシャポー」を採り上げます。
収録された2つの異なるヴァージョン、しかも(当時)お蔵入りの曲なのにヴァージョン違いが聴ける、というのは贅沢にしてとても珍しいパターンですよね。
それでは今日もよろしくおつき合いください。


僕は後追いファンですから、タイガースそれぞれの楽曲やアルバムの時系列が今でも脳内で混沌としている状況(例えば、「廃虚の鳩」が『ヒューマン・ルネッサンス』からのファースト・シングル・カットだと思い込んでいましたがリリース順はまったく逆で、実際は先行シングルだったりとか)。
特に68年後半というのは彼等のレコーディング音源製作が最も充実し、各メンバーのエネルギーも怒涛に満ち溢れていた時期だったと思いますから、幻のシングル『涙のシャポー』も含めここで当時のシングル絡みの楽曲群を中心にきちんと時系列に把握し直してみることにします。

7月25日「ノアの箱舟」(「廃虚の鳩」原題)録音
7月31日「光ある世界」録音
9月19日「青い鳥」(アルバム・ヴァージョン)録音
10月3日「傷だらけの心」録音
10月3~4日「涙のシャッポ」(「涙のシャポー」原題)録音
10月5日 シングル『廃虚の鳩/光ある世界』リリース
10月14日「涙のシャポー」再録音
10月14日「僕のアイドル」(「ジンジン・バンバン」原題)録音
10月16日「青い鳥」(シングル・ヴァージョン)録音
11月5日 シングル『涙のシャポー/傷だらけの心』リリース予定→中止
12月1日 シングル『青い鳥/ジンジン・バンバン』リリース
12月5日 アルバム『ヒューマン・ルネッサンス』リリース
(参考資料は『THE TIGERS CD-BOX』付属、高柳和富さん渾身の解説より。上日付はいずれも1968年)


いやぁ、これだけでも結構な情報量です。
少なくとも10月14日の「涙のシャポー」再録音の時点では「より洗練された仕上がりで次シングルに!」とメンバー、スタッフ一丸となっていたはず。
となれば同日録音の「ジンジン・バンバン」はもしかすると「傷だらけの心」に代わるB面候補曲として録音されたのかもしれず・・・。
う~む、かえって謎が増えたような(笑)。

結局「涙のシャポー」は楽曲として申し分ない出来映えであったにも関わらず、次シングルの座を「青い鳥」に譲りお蔵入りすることになります。何故そのような経緯となったのでしょうか。
想像するに、GSブームの中で絶対的なセールス・リーダーとなっていたタイガースは、特にこの頃「常に新しい」姿を求められていて、シングル曲も「それまでの彼等には無かった試み」が楽曲に反映されることが必要だと考えられたのではないでしょうか。
「涙のシャポー」は素晴らしい名曲ですが、雰囲気的に詞曲とも「初期タイガースに戻った」ような内容、仕上がりです。10月14日の再録音の2日後に「青い鳥」シングル・ヴァージョンがレコーディングされていますから、14日録音終了早々に「シングル戦略の見直し」の検討があったと推測できます。

先述した高柳さんの解説で『ヒューマン・ルネッサンス』収録の方の「青い鳥」への寄稿文中に大きなヒントがある、と思います。
当時タイガースはメディア等から「人気先行型、実力不足」と揶揄されることもあったのだそうです。
その要因として、先輩格のスパイダース、ブルー・コメッツ、ワイルドワンズと違って「メンバーのオリジナル曲が無い」点が指摘されていた、と。

世紀の名盤『ヒューマン・ルネッサンス』製作過程にあったメンバーやスタッフとしては「年内には世間がひっくり返るようなアルバム・リリースが控えているのに、何ワケの分からんことを言ってやがる」との思いがあった・・・容易に想像できますよね。
「だったら、アルバムの前に”森本太郎作詞・作曲”の「青い鳥」をシングルにしてそういう連中を黙らせてやろう!」と、タイガース初の「メンバー・オリジナルの大ヒット・シングル」が仕込まれた、そんな流れだったんじゃないかなぁ。

しかし「涙のシャポー」は、お蔵入りしたのが信じられないほどの名曲であることは確かで、今2つものレコーディング・ヴァージョンが無事残され、後年とは言えファンの手元に届けられている幸せを改めて感じます。

それでは拙ブログ恒例の「ヴァージョン比べ」について書いていきましょう。
僕はまったく予備知識無く2つのヴァージョンをこの5枚組BOXでいきなり聴きました。
『LEGEND OF THE TIGERS』では2テイクとも「涙のシャポー」の同タイトルとなっていて区別し辛いので、ここではバラード調のファースト・テイクを「ヴァージョン1」、テンポを速めたセカンド・テイクを「ヴァージョン2」と表記することにします。

キーはいずれのヴァージョンもヘ短調。
キャッチーなメロディー、半音下降のクリシェを楽器以上の表現でリードするトッポさんのコーラス。
曲は僕も一発で気に入りましたが、さてみなさまは、どちらのヴァージョンがお好きですか?

解説で高柳さんが書かれているように、スッキリして「シングル向き」なのは「ヴァージョン2」の方です。
メンバーのコーラス・ワークを前面に、との狙いが明快ですよね。初聴時、「ヴァージョン1」ではまったくそんな風に思わなかったのに、「ヴァージョン2」を聴いてストーンズの「シーズ・ア・レインボー」を想起したことをよく覚えています。
テンポと、あとはストリングスの華やかなアレンジの進化がそう思わせたのでしょう。

でも僕の好みは「ヴァージョン1」です。こちらの方がバンドとしてのタイガースらしい、と感じるんですよ。
イントロにしても
「ドシ♭ラ♭~、ラ♭ソファミ♭レ♭ドシ♭~♪」
をリード・ギターが弾きますし、先述のトッポさんのコーラスも「ヴァージョン1」のインパクトの方が強いように思います(「ヴァージョン2」ではコーラスに深めのディレイがかかっていてキラキラ感は増しているけど、個人的にトッポさんの声は「素」の高音が魅力、と思います)。
あと、「ヴァージョン2」のミックスって、ストリングスは大きいのにバンドの音が小さすぎる~。
ストリングスの低音が強いのでベースは存在が分かりにくくなっている上、歌メロ部のドラムスもほとんど聴こえないという・・・。

逆に、例えば「ヴァージョン1」の0’56”あたりを聴いてみてください。
これはミキサー泣かせ。フェーダーの赤ランプ「点灯」状態(「点滅」ではない笑)の豪快なフィルです。

或いは「ヴァージョン1」1'14"~15”での4分音符3打点。ここは他楽器が休みですから、普通はオシャレに手数を出しがち。事実「ヴァージョン2」の同箇所(1’08”~09”)ではそうしています。
でも僕は「ヴァージョン1」の「ドカ~ン!」「ドカ~ン!」「ドカ~ン!」というシンプルな3打が好き。
素晴らしい意味で「隙間を怖れない」演奏で、その豪打に「バラード」の概念すら吹き飛びます。これこそがタイガースらしさ、ではないでしょうか。

それを踏まえた上で、もちろん「ヴァージョン2」の方も名篇だとは思います。
高柳さんが仰るように、全体像をスッキリさせたことでタイガースが誇るコーラス・ワークの魅力が伝わり易くなりました。
そして何より、ジュリーのリード・ヴォーカルは「ヴァージョン2」の方が洗練されているんですね。
特に低音部が優しく発声されていて、なるほどジュリーは「歌の経験値を重ねれば重ねるほどよくなる」と。
当年の10月3日から10日間ほど、ジュリーは何度も何度も「涙のシャポー」を歌ったはずです。

素晴らしい2つのヴァージョンがお蔵入りしたのは(当時)本当に残念な、それでもやむを得ないタイガース史の出来事だったのでしょう。
『ヒューマン・ルネッサンス』リリース後すぐに彼らはニュー・アルバムのレコーディングに着手しています。
「悪魔の子供」「10時30分」「エンジェル」(「友情」原題)「さざ波」「坊や祈っておくれ」などの曲が収録される予定だったとのことで、製作・リリースが順調に進めば、「涙のシャポー」もアルバム収録にスライドされていた可能性も考えられます。
トッポさんの脱退がありアルバム製作が頓挫してしまった・・・後追いファンの僕からするとそれが一番残念なことだった、と考えてしまいます。

幻のオリジナル・アルバム・・・未知の1枚を、不完全でもよいので一度纏った形で聴いてみたいものです。


さて、明日からこちら関東3県(関西では大阪府も)で緊急事態宣言が発令となります。
法案ができた頃は、「ここぞという時に使う伝家の宝刀」などと言っていたのが、最早錆びきってしまっているような・・・もちろん仕事にも影響がありますし、感染の拡大はそれ以上に怖いですし、溜息しか出ません。

映画『キネマの神様』は無事に観られるかなぁ。
お盆休みに観に行く予定でいますが、この現状ではどうしたものやら、悩んでしまいます。
ただただ、無事を祈るばかりの夏ですね・・・。

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