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2021年7月17日 (土)

沢田研二 「私生活のない女」

from『架空のオペラ』、1985

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1. 
2. はるかに遠い夢
3. 灰とダイヤモンド
4. 君が泣くのを見た
5. 吟遊詩人
6. 砂漠のバレリーナ
7. 影--ルーマニアン・ナイト
8. 私生活のない女
9. 絹の部屋

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各地で豪雨の被害が相次いでいます。
僕の故郷鹿児島でも、ジュリーが「みんな入ろ」で歌った「せんちゃん」立地の薩摩川内を中心に、川内川流域で甚大な被害が出てしまいました。
これ以上のことが起きないよう祈ります・・・。


さて、バタバタして少し更新間隔が開きました。
今日は休日。しかしこちら関東圏では「危険な暑さになる」との予報が出ていましたし、外出は控えてこの記事を書いています。
やっぱり更新が少ないというのは自分でも淋しいですから、時に短めの文量であってもなるべく間隔を開けずに当面頑張っていきたいものです。

今日はアルバム『架空のオペラ』から「私生活のない女」をお題に選びました。少し前から「書こう」と色々と考えていたお題です。
85年というのはジュリーにとっても特別な年(独立がありましたからね)ですが、実は大野さんの作曲スタイルにも大きな変化があった時期で、今日はそのあたりをメインに考察してみたいと思います。
よろしくお願い申し上げます。

コロナ禍の影響で、先の『BAKKADE』3大都市公演が「1年4ヶ月ぶり」のLIVEとなったジュリー。
タイガース時代からの百戦錬磨のジュリーファンの先輩方にとっても、ここまで長期「ジュリーに逢う」ことができなかったのは初めての経験だったそうで、会場の雰囲気は歓喜に満ちていましたね。

で、そこまで長くはないけれど過去にジュリーが「LIVEを休む」ことがあった・・・と、新規ファンの僕は現時点でジュリー2度の休止期間を認識しています。
1度目は3月に書いた「熱いまなざし」の記事で触れた76年。そして2度目が85年です。
85年当時のジュリーには「休むことは罪だと思うけれど、戻ってきた時には”さすが休んだだけのことはある”と言われたい」という思いがあったようです。
参照資料として、以前に福岡の先輩から授かりました雑誌記事を添付しておきましょう。

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後追いファンの僕などからすると一瞬
「カンヌには仕事絡みで行っているわけだしジュリー全然休んでないじゃん!」
と思ってしまいますが、ここでジュリーの言う「休む」とはテレビ含めたステージ・・・「歌」のことなんですよね?

その後、新生ジュリーが「戻って」きたのが、泥まみれになりながら「指」を歌ったあの映像で合ってるのかな。その前にLIVE復帰があったんでしたっけ?
このあたりが僕にはまだ把握できていません。

そして、心機一転のニューアルバム『架空のオペラ』でジュリーが作曲を託したのが大野さんであったという(先行シングルにして自作の「灰とダイモンド」以外の全8曲)、ここにジュリーの「歌」への決意が見てとれます。
声との相性を重視したとのことですが、そこにはセールス絶頂期を思い起こしたり、遡ってのPYG→井上バンド、さらに以前のGS期のエッセンスを求めての大野さんの起用でもあったでしょう。

ただ、もちろん大野さんは70年代と変わらぬ素晴らしいメロディーでジュリーの期待に応える一方、自身の製作アプローチの変化、進化も存分に投入してきました。
結果『架空のオペラ』は、メロディーやコード進行については70年代ジュリー・ナンバーを受け継ぎつつ、アレンジ、演奏については大野さんの新たな表現も前面に出た異色作、「他に似たアルバムが無い」貴重なジュリー名盤となったのです。

ジュリー絡みの知識は完全に後追いの僕ですが、この頃の大野さんの変化はリアルタイムで追えています。
言うまでもなく『太陽にほえろ!』サウンドトラック(番組の音楽クレジットは「井上堯之バンド」→「フリーウェイズ」→「大野克夫バンド」と変遷しますが作曲はすべて大野さん)で。

僕は高校進学後バンドに熱中したこともありほとんどテレビを観なくなった中で『太陽にほえろ!』は時々観ていて、特に殉職篇や新人刑事着任篇は必ず観るようにしていました。サウンドトラックもずっと追いかけていましたから、新人刑事着任篇では新たなレギュラーのテーマ曲(=大野さんの新曲)のお披露目も大きな楽しみのひとつでしたね。
華麗な王道メロディーの作曲自体はそのままに、大野さんの劇的なアレンジ・アプローチの変化が突如訪れたのが84年11月、新任のマイコン刑事(石原良純さん)のテーマです。
素人でもそれと分かる「テクノ風」なニュー・ロマンティック、大胆なサンプリング・エフェクトの導入。

まぁこの曲の時点では「マイコン」なるニックネームにちなんで敢えてそういうアレンジにしたのかな、と考えられたものの、86年の橘警部(渡哲也さん)&DJ刑事(西山浩司さん)着任篇において、いきなりメインテーマ(誰もが知る「ミドラ~♪」ってアレね)のアレンジまでもが激変(「メイン・テーマ’86」)。
とにかく全編チャカポコ、チャカポコな感じで、いわゆる「シンセ~!」な仕上がり。
さすがの僕も当初これには戸惑って「ちょっとやり過ぎなのでは?」と感じていたものです。
しかしその後サントラ盤でフルサイズのヴァージョンを聴くとギター・ソロとか最高にカッコ良くて、「以前のアレンジのヴァージョンと甲乙つけ難い、これが大野さんの新境地か!」と病みつきになりました。

『架空のオペラ』はそのちょうどド真ん中の時期に製作されているわけです。
つまり『架空のオペラ』での大野さんのアレンジ、演奏はまず「マイコン刑事のテーマ」でスタートしたアプローチを引き継ぎ、さらに86年の『太陽にほえろ!』音楽改変時に大きな影響を与えている、というね。

そこで「私生活のない女」です。
『架空のオペラ』収録曲中、最も『太陽にほえろ!』サントラと一線で結びやすいのがこの曲。リアルタイムでアルバムを聴いた先輩方も、一番「打ち込み感」を覚えた曲が「私生活のない女」ではなかったですか?

まず『マイコン刑事のテーマ』で導入されたスネア以外の音での「連打」サンプリングがここで採用されています(これはほぼ同時期に『太陽にほえろ!』サントラで「デューク刑事のテーマ」にも引き継がれています)。

さらに「私生活のない女」で是非注目して頂きたいのが、1'30"で唐突に登場する半音上がりの転調。
ポップ・ミュージックにおいて半音上がり、或いは1音上がりの転調は王道手法です。ただしそのほとんどは、「最後にもうひと盛り上がり!」といった楽曲の終盤、「ダメ押し」的な箇所で転調させます。
ジュリー・ナンバーで言えば「君をのせて」とか「あなたへの愛」とかね。

それが「私生活のない女」では、歌メロ1番と2番の境目に半音上がりの転調がくるんですよ!
楽曲の真ん中に半音上がりの転調があり、前後半のキーを二分する」 という、ポップス史上稀少な構成に仕上げられたわけです。

1番(ホ短調)

ピリオドのない退屈が
Em

今日も貴方をダメにする
D

プログラム通りに その身体を過ぎていく
C                                B7

おきまりのKISS ♪
              Em

2番(ヘ短調)

危なげだったあの頃が
Fm

貴方の夜に訪れる
E♭

悪戯に愛され たわむれに愛した
D♭                          C7

夏の日の恋 ♪
            Fm

「マイコン刑事のテーマ」を皮切りにサンプリング系の製作へとシフトした大野さんはその後、ややもすると単調になりがちな打ち込みパターンにいかに楽曲中の「要所」を載せていくか・・・様々な工夫を凝らす過程でこのアイデアを考案し、「私生活のない女」で初めて採用したのではないでしょうか。

そしてそのアイデアは86年の「DJ刑事のテーマ」に明快に受け継がれたのです(1’10”あたりに半音上がりの転調があります。ちなみにこの曲では、最後の最後に半音下がって元のキーに戻るオチを追加するオチャメな大野さん!)

拙ブログではこれまで、僕の「原風景」「自覚しないまま得ていたジュリー・サウンドへの資質」として何度も『太陽にほえろ!』サントラに触れてきました。
「私生活のない女」は、激烈、華麗な名曲が並ぶ『架空のオペラ』にあって決して目立つ歌ではありませんが、大野さんのアレンジ、演奏に特化して聴くと個人的にはとても大切に思える1曲。
「隠れた名曲」だと思っています。


最後に蛇足ではありますが・・・2009年以降の「マキシ」形式を除くそれ以前のジュリー・アルバムの中、これにて『架空のオペラ』は『G.S I LOVE YOU』『ROCK'N ROLL MARCH』『S/T/R/I/P/P/E/R』に続いて「ひとまず全収録曲のお題記事を書き終えた」1枚となりました。
各過去記事のカテゴリーもアルバム・タイトルに移行することとします。

感慨深いんですよね・・・僕と同時期(『ジュリー祭り』開催年)にジュリー堕ちされた方や、ファン復活された中抜け組の方ならお分かり頂けるかと思いますが、未聴の過去のジュリー・アルバムにはとにかく廃盤状態のものが多く、それらをなんとか遡って集めていこうという過程で、当時『架空のオペラ』が「最後に残された1枚」となった方は多いのではないでしょうか。
なにせ中古で1万円越えは当たり前。僕もさすがに手が出せずにいました。
「手に入らない」となると、アルバム・タイトルから不思議な「神々しさ」さえ感じられてくるというね。

個人的には先輩のご好意で音源だけは2009年に聴けていましたが、「正規品には一生巡り逢えないのでは」と思っていました。しかしその後CoCOLO期、EMI期と併せ待望のCD復刻は成り、今ではこうしてジャケットも歌詞カードも手元にあるわけです。
まさかこんなに早く全曲の記事を書き終える日が来るとは、10数年前では考えられないことでしたね。
まぁ「灰とダイヤモンド」「吟遊詩人」「砂漠のバレリーナ」「影-ルーマニアン・ナイト」あたりはヒヨッコ時代丸出しの浅い考察しかできていませんから、機会あらば改めて書き直したいとは思っていますが。

その『架空のオペラ』、これまで僕が収録曲中LIVE体感できているのは「灰とダイヤモンド」「砂漠のバレリーナ」の2曲です。
「砂漠のバレリーナ」を生で聴いた(2010年『歌門来福』)、というだけでジュリーファンとしての格が爆上がりしたように思ったものですが、そろそろ他の曲も・・・と切望しています。
今後セトリ入りの可能性が高いのは、ラジオ『ジュリー三昧』でジュリー自身が「大好き」な歌とまで語ってくれた「君が泣くのを見た」でしょうか。
『BALLADE』追加公演ではさすがに無いでしょうが、来年以降期待したいです!


そでれは次回更新は・・・。
今日『架空のオペラ』全曲の記事をひとまず書き終えることができましたが、他に「あと残り1曲を書けば収録全曲の執筆終了!」というジュリー・アルバムが現時点で5枚ありますので、せっかくですからこの勢いでもう1枚「コンプリート」しておこうかと。

どのアルバムにするかはまだ未定。とにかく早めの更新で頑張りたいと思います。

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コメント

DY様 真夜中に失礼します。

チケット渋谷だけはさすがにまだ入手できてません。

このアルバムは肌触り、というか感触が独特に感じるんです。

すべての曲が同じ時間軸の中にあるような。
「逢魔が時」
昼から夜に転じる一瞬。

同時進行しているいくつかのドラマからその一瞬を切り取って短編集にした、というのはもちろん私の妄想です。

投稿: nekomodoki | 2021年7月19日 (月) 01時35分

nekomodoki様

ありがとうございます!

渋谷はやはり激戦なのですね。ジュリーファンは皆待っていましたからね~。
僕は行けませんが、nekomodoki様には是非参加して頂いて、ステージの様子を伺いたいものです。

なるほど、『架空のオペラ』はそれぞれに何かしら同一の時間軸やテーマを持つ短編集ですか。
確かにそんな雰囲気ありますね。『いくつかの場面』のパーソナル版みたいな感じでしょうか?

投稿: DYNAMITE | 2021年7月20日 (火) 08時54分

あきらめました  あなたのことは
もうでんわもかけない
あなたのそばには  カズさんが
いてくれるから  あんしん
今年は我慢
肺の基礎疾患あり  ワクチン接種もできない
あなたが大好きな  ライブ会場には  もうしばらく行けない
この空を50キロ飛んで  福岡サンパレスに行きたいけど
今年は我慢  皆様のブログを
読むのが楽しみ

ジュリー カズさん 関係者の皆様 会場に参加されるファンの皆様 そして参加はできないけれどジュリーを愛する日本中の皆様の安全を心から願っています❗

投稿: 澤會佐賀県支部支部長(自称) | 2021年7月20日 (火) 20時05分

澤會佐賀県支部支部長(自称)様

ありがとうございます!

そうですか・・・お察しいたします。
来年のツアーまでには、すべてのファンが何の心配もなくジュリーLIVEに参加できる日が来ることを、こちらからもお祈り申し上げます。

投稿: DYNAMITE | 2021年7月23日 (金) 09時33分

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