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2021年6月

2021年6月25日 (金)

沢田研二 「淋しいのは君だけじゃない」

from『act#7 BUSTER KEATON』、1995

Buster1

1. another 1
2. ボクはスモークマン
3. あくび・デインジャラス
4. ストーン・フェイス
5. サマータイム
6. グレート・スピーカー
7. 青いカナリア
8. 淋しいのは君だけじゃない
9. チャップリンなんか知らないよ
10. 無題
11. another 2

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今年もやってきました、6月25日。
ジュリー、73歳のお誕生日おめでとうございます!

7401nitigeki12

↑ 毎年恒例・記事お題とはまったく関係ない、若ジュリーの「ありがとう」と言ってそうなショット。
 今年の出典は74年1月『沢田研二ショー』パンフレットより。
 
今日帰宅すると、『BALLADE』追加公演のお知らせハガキが届いていました。
(関東圏の我が家にはたぶん昨日到着していたんだと思うけど、昨日はポストを見ていなかったのです)

先のフォーラムMCで「秋の予定」を話してくれた際にはまだ確定ではなかったのか言及されなかった宮城、長野、新潟の地方公演もあり、さらには久々の神奈川県民ホールも。
ジュリーの誕生日とともにお知らせを受け取られた(言及のあった博多を含めた)各該当地のファンのみなさまの喜びが想像できるようです。
ジュリー、粋なことをしますねぇ。

ただ個人的には、渋谷公会堂(LINE CUBE SHIBUYA)が月末の平日月曜日というのはキツイ・・・。
その日は早退ができそうもなく、僕の参加はツアー千穐楽、11月のフォーラム1本となりそうです。

ともあれ、とても嬉しい6月25日のジュリーからのお便りでした。

さて拙ブログで近年、ジュリー誕生月の6月に集中更新するパターンが多い『act』ナンバーお題記事。
今年はこの25日の1本のみとなってしまいましたが、ジュリー73歳の誕生日に『BUSTER KEATON』から「淋しいのは君だけじゃない」の記事を捧げ、お祝いに代えたいと思います。

Buster3


僕は数年前からエルヴィス・プレスリーの音源の勉強を始めており、ようやくプレスリー・ナンバーの知識も楽曲数3桁に迫るところまで来ました。

勉強開始のきっかけは、『act-CD大全集』各作品の中でも上位級に気に入った『ELVIS PRESLEY』収載曲のオリジナル・ヴァージョンに興味を持ったからです。
それまで僕はプレスリーについて「本当に有名な曲をいくつか、なんとか知っている」程度でしかなかったのです。「ハートブレイク・ホテル」とか「ラヴ・ミー・テンダー」とかね。
これではイカンとまず購入したのが豪華3枚組のベスト盤。act『ELVIS PRESLEY』で知った楽曲が次から次へと飛び出し、初聴から楽しんだことを覚えています。
まずジュリーのカバーで曲を知り、それからオリジナルを聴く・・・このパターンも良いものですね。

そんな3枚組ベスト盤の中で「えっ、これもプレスリーだったのか!」と驚きを以って遅まきながらの把握となったのが、「Are You Lonesome Tonight?」=邦題「今夜はひとりかい?」なるワルツ・バラード。
そう、これが本日のお題「淋しいのは君だけじゃない」の原曲というわけです。

Areyoulonesometonight

↑ 『ELVIS PRESLEY/GUITAR CHORD SONGBOOK』より

プレスリーの有名なヒット曲のひとつとしてよく知られているらしいですが、不勉強だった僕はCD『BUSTER KEATON』を聴いただけでは、この曲をプレスリーと結びつけることができませんでした。
調べますとなかなか面白い逸話を持つ曲のようで。
「今夜ひとりで淋しくしてるの?」と問いかける色男にして「キング」なエルヴィスの「語り」も含んだバラードに、一般リスナーばかりか業界の強者達すらメロメロにされたらしく・・・この曲のアンサー・ソングのような内容の歌を何人かの女性シンガーがこぞって歌ったのだとか(「淋しいに決まってるわよ!」みたいな感じ?)。
僕はこういう話、好きですねぇ。
歌がさらに歌を生む、という・・・ジュリー(最初はタローさん)の「Long Good-by」と、ピーさんの「道」もそうした関係にありますし。

97年の『ELVIS PRESLEY』に先駆けて95年の『BUSTER KEATON』、プレスリーも好きなリアルタイムのジュリーファンの先輩方は、ジュリーが「今夜はひとりかい?」を採り上げてくれて「わあ~」と感激されたでしょう。
また『BUSTER KEATON』では、全盛期にプレスリーと人気を2分したと聞くパット・ブーンのカバーである「あくび・デインジャラス」が歌われているのも面白い選曲だったんだなぁと思ったりします。

「淋しいのは君だけじゃない」は、日本語詞もジュリー自身です。
以前「VERDE~みどり」(『SALVADOR DALI』)の記事でも書いたように、原詞のフレーズやコンセプトをうまく採り入れつつ、actのテーマ人物の背景をキチンと反映させてくるのがジュリーのact自作詞群の魅力。

「淋しいのは君だけじゃない」 でのキートン像として、詞中で語りかける「君」があたかも自分の分身のような存在であることを感じさせてくれます。
ちょっと強引なようですけど、今改めてこの日本語詞を読んで思い出すのは、『BALLADE』に向けて僕が”全然当たらないセットリスト予想”シリーズで採り上げた「悲しくなると」でした。
「さびしさが逢いにきてくれる」という若き日のジュリー独特の感性が、「淋しいのは君だけじゃない」にも生かされているように感じるのです。
孤独(空白)の夜のひとり語り、ですね。

また、僕が初めてプレスリーの「今夜はひとりかい?」を聴いて歌詞を読んだ時、「おやっ?」と考えたことがありまして。
原詞で描かれているシチュエーションが、ジュリー83年の自作詞ナンバー「BURNING SEXY SILENT NIGHT」とかなり似ているなぁ、と。
ジュリーは世代的にこの曲をよく知っていたでしょう。もしかするとオマージュ元だったのかな?

楽曲自体の聴きどころはやはり「語り」のヴァースがあること。
プレスリーの方は丸々ワンコーラス語りに当てています(楽器のソロが無いシンプルなアレンジです)が、ジュリーはおよそその半分に限られ、なればこそ貴重。
トロンボーンのソロをある程度聴かせてから満を持して語り出す(その間、ソロがサックスに引き継がれる)、というのがニクイではありませんか。

『BUSTER KEATON』のホーンはトロンボーン×サックスという編成です。
ここにトランペットが加われば王道のホーン・セクションなんですけど、それが無い。必然、通常「縁の下の力持ち」的な役割のトロンボーンが主を張るパターンが多々あり、これが新鮮なんですよね。
トロンボーン独特のスライド感と落ち着いた音色が、「動き回る」サックスとよく対比されているようなアレンジ。「淋しいのは君だけじゃない」では双方のソロのリレーがありますから、なおさらその対比が際立ち、そこにジュリーの「語り」が加わるのが素晴らしい!
ちなみにキーは「今夜はひとりかい?」も「淋しいのは君だけじゃない」も同じハ長調です。1音上げてニ長調で歌った方がジュリーのキーには合っているかなぁ、と思いますが、ホーン・プレオヤーにとってはハ長調の方がありがたいでしょう。

さらに言うと、ホーンの陰でベースと共にリズムを支えているのが柴山さんのギターなのです。
これでビッグバンド・スタイルの雰囲気も楽しめる、という(ビッグバンドにおいてはギター或いはピアノが「リズム・セクション」に分類されます)。

多忙のため舞台演奏から外れざるを得なかったcobaさん不在のactで登板した柴山さん。
演奏の「重鎮」的な役割を果たし、ジュリーも頼もしかったのではないでしょうか。

ヴォーカルについては、「語り」はもちろんジュリーの歌そのものの「憑依力」が格別な1篇。
僕はよく「actシリーズでのワルツ率の高さ」を書きますけど、やっぱりジュリーが歌うワルツは良いですねぇ。
以前ジュリーは『EDIT PIAF』で歌ったワルツ・ナンバー「群衆」について「歌っていると興奮してくるんですよ!」と語ったことがありました。あの曲の場合はテンポやメロディーの抑揚の要素もあるかと思いますが、やっぱりワルツや3連符とジュリー・ヴォーカルの相性の良さはタイガース時代から継続してある、と思います。

加えて「生」の高揚感でしょうか。actの音源は生のステージですからね。
思えば『BALLADE』初日東京公演でのMC、「生がイイ」はファンの僕らとしても実感の言葉でした。
セットリストにワルツは無かったですけどね・・・。
(僕の予想は今回も大外れ。でも「3連」含めれば「渚のラブレター」と「ハートの青さなら 空にさえ負けない」がありましたよ!))。

95年はジュリー節目の年でした。
新譜を自らプロデュース、それはその後ずっと継続されています。
そんな年にactで演じたのがキートンだったというのも何か暗示的。そこで、どのような狙いでこのプレスリー・ナンバーが採り上げられたのか・・・そもそもプレスリーとキートンの関連は?
映像を観れば何か分かるのかなぁ。

ジュリー、プレスリー双方のヴァージョンともに興味尽きない名曲です。


それでは次回更新は7月4日の予定です。
この日はかつて大変お世話になり仲良くさせて頂いていたタイガース・ファンの先輩の命日で、先輩が旅立たれてからは毎年タイガースの曲を書く日と決めていますが、今年も昨年に続き不朽のライヴ盤『ザ・タイガース/サウンズ・イン・コロシアム』から洋楽カバー曲を採り上げたいと思っています。

あの名盤の中に「今年書くならこれしかないだろう」という1曲があるんですよね。
頑張りたいと思います。

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2021年6月19日 (土)

沢田研二 「TOKIO」

from『TOKIO』、1979

Tokio_20210618223301

1. TOKIO
2. MITSUKO
3. ロンリー・ウルフ
4. KNOCK TURN
5. ミュータント
6. DEAR
7. コインに任せて
8. 捨てぜりふ
9. アムネジア
10. 夢を語れる相手がいれば
11. TOKIO(REPRISE)

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さぁ、今日はジュリー1年4ヶ月ぶりのLIVE『BALLADE』セットリストから1曲選んでのお題です。

『BALLADE』セトリはすべて過去にお題執筆済、「2度目の記事を書く」ということで一応『過去記事懺悔やり直し伝授!』のカテゴリーをつけましたが、今日は「やり直し」と言うより、『BALLADE』初日東京公演でお客さん誰もが「ええっ?!」とド肝を抜いた「TOKIO」の斬新なヴァージョンを体感し、個人的に色々と考えさせられたことを書いていく、という内容です。
よろしくおつき合いください。


いや~、それにしてもまずジュリー、ブランクなんて言葉は脳裏をかすめもしないほどの素晴らしいヴォーカル、ステージでした。
いかな強い喉の持ち主と言えどもまったく何もせずにこの期間を過ごしていたらあれほどの声が出せるわけはなく、継続的に稽古を重ねていたのでしょう。あとは「歌いたい」という渇望が大きなエネルギーになるという・・・やはり「気持ち」の部分は大きかったのかな。
これぞジュリー、言うまでもなく惚れ直しました。

さて、お題の「TOKIO」です。
驚愕のギター・アレンジ、まるで呪詛を吐き出すかのような意表を突くジュリーのヴォーカル。
「スロー・ヴァージョン」「バラード・ヴァージョン」と捉え評する方々が多かったようで、それはごく自然な表現かとは思います。
ただ僕はスコアをやりますから日頃からBPMには敏感で、今回のヴァージョンがオリジナルと比べてさほどテンポを落としていないことはすぐに分かりました(もちろん遅くはなっています。しかしそれは「スローにした」と言うよりは8ビートを16ビートに転換させた影響です)。
加えて「バラード」とも感じませんでした。
過激なパンク・ロック解釈(これは僕のジュリー道の師匠が同じことを仰っていた、と後で知りました)による「ラジカル・ヴァージョン」の「TOKIO」、と僕はそう呼ぶことにしましょう。

まぁ、そうは言っても僕の場合は偉そうなことも言えないのです。なにせ現地においてはこのヴァージョンを「凄い!」と感嘆する以前に、違和感の方が大きくて。

アレンジも意表を突くものでしたが、何よりジュリーのあの「歌い方」に対してそう感じてしまったのかなぁ、と今にして思っています。
僕が『ジュリー祭り』以降LIVEに通うようになって以来ずっと、「TOKIO」は「気になるお前」と並びジュリー「陽」のヴォーカルの代表のような曲でしたから。
ですから僕などより長くファンを続けていらっしゃる先輩方はもしかしたら僕以上の違和感があったのではないか、とも想像します。

とは言えアレンジにもそりゃあビックリです。
今回、事前にセットリストを把握し参加された名古屋、大阪のみなさまはともかく、初日の東京公演のお客さんでこの曲のイントロを聴きすぐに「TOKIOだ!」と分かった人は皆無だったでしょう。
僕はてっきり「限 界 臨 界」だと思いました。客席にいらしたと聞くGRACE姉さん(「限 界 臨 界」 の作曲者)もそうだったんじゃないかなぁ。
柴山さんが小刻みに鳴らす荒々しいコード・クリシェのストロークは、いざジュリーの歌が始まるまでは、僕らがよく知っているあの陽気で輝かしい「TOKIO」の降臨をまったく感じさせませんでした。

何故ジュリーは今回、「TOKIO」をあんなふうに歌ったんだろう、柴山さんにあんなふうに弾いて貰ったのだろう・・・自分がジュリーの意図を汲み取れずにいるのがもどかしく、LIVE後は数日そのことばかり考えました。
そうすると、これは多くのみなさまが僕などより全然速く気づかれているように、やっぱり今年の東京五輪開催の問題に行き着くしかないんですよね。

開幕までほぼ1ヶ月にまで迫った東京五輪。
いまだ開催に賛否あれど、当然ながらオリンピック&パラリンピック、スポーツの祭典自体に罪は無し。代表選手に選ばれたアスリートも皆さんにもまったく罪は無し。そして「東京」にも罪は無いわけです。

しかしこのコロナ禍での開催に散々振り回される人達がいるように、東京=「TOKIO」という街もまた振り回され苦しんでいる、かつてジュリーの歌とともに「スーパーシティ」の名と栄光、未来、希望のシンボルを欲しいままにし80年代の幕を開けた「TOKIO」(アルバムは79年11月リリースながら、シングル盤TOKIOのリリースは翌80年元旦)、が40数年後の今、苦しみもがいている・・・。
ジュリーは今年「TOKIO」を歌うと決めた時そんな思いを抱き、あの衝撃的な発声、アレンジに至ったのではないでしょうか。

先の17日の菅さんの「表明」から、どうやら東京五輪予定通りの開催は動かないようです。
ただあの表明自体が「今頃ようやく」だったというのが実感。支持不支持や開催への賛否は置き、安倍さんが総理だったら「私の責任において開催する」くらいのことは遅くとも春には言っていたでしょう(それが良いかどうかは別の問題として)。
表明に対して開催反対のデモが都庁前で決行されるとのニュースもあり、1ヶ月前の時点でまだ
「結局やるのか、やめるのか?」
という丁々発止の現況はいかにも異常です。

例えば。
みなさまのお部屋や職場等にあるカレンダーは、昨年末か今年の初めに用意されたものですか?
もしそうであれば、7月の19日は「海の日」の祝日になっていますよね。まぁご存知の方々が多いかと思いますが、実際には(五輪が開催されるなら)この日は祝日ではありません。
開幕に併せて「海の日」は22日に移動、また翌23日は10月11日の「スポーツの日」が移動してきて、土日含め22~25日が4連休となります。
当然10月11日は平日となり、加えて8月11日の「山の日」が今度は閉会式に併せ8月8日の日曜日に移動、9日の月曜日が振替休日です。
なんだかややこしいですね。

とは言え一度把握してしまえば僕らサラリーマンもその通り動くわけですが、問題はこのことがほとんどメディアでの報道、注意喚起も無く(もちろん皆無ではありませんが)、現時点で「知らない」人達が世に少なからずいらっしゃる、ということです。

先日勤務先でこのようなことがありました。
配送、荷受けに常時使用しているトラックに大掛かりなメンテナンスが必要となり、いつもお世話になっている某社さん(ブルーバードのトコね)と相談、平日には使用しなければいけないけどメンテの作業には3日かかるので、土日祝日が並んでいるところでスケジュールを組みましょう」という話になりました。
そこで先方さんが出してきた日付が7月17~19日で。
こちらとしては当然
「19日は祝日ではないですよ」
「えっ、そうなんですか?」
なんてやりとりが、実際あったのです。

僕はまだガラケーなので(汗)確認できないんですけど、スマホのカレンダーも現状19日が「海の日」のままなのだとか・・・。
このままで行くと、リモートワークでもなく普通に通勤されている人達が来月19日を祝日と思い込んだまま出勤せず、日本全国各地でちょっとした騒動が頻発することも充分考えられます。
瑣末な問題かもしれませんけど、異常は異常だと僕などは思ってしまいます。

それでは僕自身が今年の五輪開催に賛か否か、と言われると・・・これが微妙。
「さすがにやらない方がよいのでは」とは思いつつ、僕はまず選手の気持ちを考えてしまいます。
サイレント・マジョリティーどころか明白な「反対多数」の世相を彼等が知らない筈はなく、心中相当苦しんでいらっしゃるのでは・・・。
主役たる選手にとっては、ジュリーの「祈り歌」で言えば「涙まみれFIRE FIGHTER」と「頑張んべぇよ」を掛け合わせたような状況かもしれない、とも思ったり。

ですから僕はいざ東京五輪が「開催」となればサニーサイドに切り替えて、日本はもちろん各国の選手を応援しますし、大会の無事の成功を祈ります。
「あなた自身や家族が感染してもそう言えるのか」と指摘されれば反論などできませんが・・・。

ただ1点。
「五輪開催反対は感情論」と切り捨て的な発言をした推進派の某政府高官には物申しておきたい。
「感情論」も正当な主張です。
今から30年数年ほど前、深夜の討論番組で「原発」が議題となった時、スタジオに参列されていた原発招致先の住民にして招致反対のみなさんの「経済や原子力の理屈は分からないけれど、なんだか怖い」との発言に対し、「頭の良い」某パネリストが「それは感情論だ」と一蹴したことがありました。「お話にならない」と議論を切って捨てたわけです(原発というのは「安心、安全」なのですよ、とすら言わなかった)。
結果どうであったか。
10年前のあの事故でそんなことを思い出した僕は、「畏怖」の感情というものは軽視してはならない、と強く思い知らされました。これはジュリーの「祈り歌」の根幹テーマのひとつでもある、と思っています。
強行とは言え「開催なら五輪を応援」と書いたばかりで本末転倒ながら、開催反対のみなさまが理屈よりむしろ「怖い」という感情で仰っているのならば、僕は大いにそこは共感できるのです。

あぁ、今回は純粋な楽曲考察とは関係無いことばかり書いてしまったようです。申し訳ありません。
でもこれが僕にとっての「TOKIO」ラジカル・ヴァージョンの感想なんだよなぁ・・・。

思えばまだコロナ禍の予兆無く、皆が当たり前のように日常を送っていたほんの数年前・・・2020年東京五輪開催へのカウントダウンの中、ジュリーの「TOKIO」をテーマ・ソングに!という話はファンのみならず一般メディアでも語られていましたよね。
詞曲アレンジ演奏、そしてヴォーカル。本当に「これぞ」というくらいふさわしい、完全無欠のスーパーシティー「東京」を歌ったヒット・チューンですから。もしかすると組織委レベルでそんなアイデアもあったかもしれません(ジュリーが承諾するはずないんだけど)。

1年遅れのオリンピック・イヤーとなる(なるであろう)2021年、ジュリーは開幕に先駆けた今回のステージでその「TOKIO」を歌いました。
苦しみ、痛み、怒り、迷い、躊躇いを吐き出すようなアレンジとヴォーカルで。

これが今年強行される五輪の「テーマソング」、今の「東京」へのジュリーの回答であったのかなぁ、と僕は考えますがいかがでしょうか。


最後に、「TOKIO」以外の『BALLADE』セットリストもいくつか振り返っておきましょう。

まず個人的に今回最も感動したのが「いくつかの場面」。アンコール前、本割の大トリでしたね。
セトリ常連でこれまで何度もLIVE体感できている名曲ですが、ジュリーのヴォーカルは過去幾多の熱唱を凌ぐ素晴らしさだったと思います。
Aメロの高音部も自然な発声で、ジュリーの底力を改めて思い知らされたということもありますが、やはり「天国へと旅立たれた方への思い」を強く感じました。
ジュリーのそうした思いはセトリ前半「海にむけて」「あの日は雨」「コバルトの季節の中で」と続いたあたりで既にハッキリ伝わってきていて、その上で最終盤にこの曲の熱唱だったのです。
1年4カ月、ジュリーがLIVEから離れざるを得なかった期間だけでも、志村さん、シローさん、ポンタさんと、ジュリーにとって大切な人達が旅立たれてしまいました。
思いは溢れ、歌に魂が宿り、圧倒されるほどでした。

「届かない花々」も凄かった。
ギター1本体制となってからは初のセトリ入りで、「ラヴ&ピース」のヴォーカルがダイレクトに突き刺さってきたことも大きいでしょう。
この曲は過去、ジュリー堕ち後ごく初期に書いた僕の考察があまりにも浅いので(「花々」の意味すら理解できていません汗)、いつか書き直さなければなりません。

LIVE前はてっきり「バラードづくし」になると思い込んでいましたから、「根腐れPolitician」のイントロが来た時は「これをやるのか!」と思いました

このヴォーカルがまた凄くて、ジョー・ストラマー或いはザ・ジャム時代のポール・ウェラーのような
「後先考えずに過激なフレーズを吐き出しているようで、実は根底で冷静かつ明快なロジックを持つ」
ヴォーカルだと感じました。
僕が好むパンク・ロックはそうした類のものです。
ただ僕がジュリーの発声にパンクを感じ取ったのはおそらく今回が初めてのことで、まさかそれがあの「TOKIO」に繋がってくるとは夢想だにしていませんでしたが。

あと、柴山さんのギターにももちろん触れておかねば。

今回個人的な柴山さんのベスト・プレイは、断然「三年想いよ」です。
表現の幅がまず素晴らしい。
この曲では、アルベジオ、軽くミュートさせたパワー・コードのダウン・ピッキング、思いきり振り下ろすストローク、そしてソロとヴァースによって奏法を変えてきます。バンド・サウンドならいざ知らず、ギター1本の伴奏でそれぞれのヴァースが見事に繋がり、しかもテンポは一切乱れません。
ソロの箇所なんかはもうちょっと「次へ、次へ」と急いても不思議はなさそうですが、さすがですねぇ。
これは決して「超絶」なプレイではないんです。「堅実」であり「細心」の名演。
人柄であったり、ジュリーへの信頼であったり、そうしたものが演奏に出ちゃってる、としか思えない素晴らしさなのですよ。

唯一アコギを使用した「あの日は雨」も良かった。
こちらはイントロ1発と言うか、やはりこの体制になってからは(たとえフレーズ自体が同じであっても)「冒頭からCDと同じ音色」で「おおっ!」と反応することが珍しくなってきている中で貴重な演奏をしてくれたと思います。
オブリガートは最小限、オリジナルのアコギパートに忠実な伴奏。こういうのもまた、良いものです。

ギター1本での体感が2度目、3度目という曲もいくつかあり、これまでと比較すると今回柴山さんは低音(ベースライン)をさらに押し出すようになったと感じました。
例えば「雨だれの挽歌」のイントロ。ここはギター・コードのルートがそのままベースではなくクリシェ・ラインになっているので、その効果は絶大だったと思います。

それにしても柴山さん、ツアーを重ねる度に手数(正確には「再現する楽器パートの数)が増えていって、この先どこまで行ってしまうのかと驚嘆するばかりです。



1年4ヶ月ぶりのLIVE、緊急事態宣言下・・・。
特に初日の東京国際フォーラム公演はジュリーとファン双方の特別な思いはもとより、特殊な状況が僕らを取り巻いたLIVEでした。
フォーラム横の広いスペースいっぱいに拡がった入場待ちの折り返し列。迫る開演時刻。
いつもは「ジュリーのLIVEは慣れっこよ」といった感じの頼もしげな表情で入場口に向かう先輩のみなさまが、この日の長蛇の列にあっては不安げな様子。
それは、『ジュリー祭り』堕ちの後追いファンの僕が初めて目にする光景でした。

でも、ジュリーと共に歩んできた長年のファンにとってこういうことは、何10年に一度か分からないけれど、きっと今までもあったんですよね?
不安を抱えたままジュリーに逢いに行って、LIVE後は一転安心して帰路に着いたことが。

僕としては、『ジュリー祭り』以来の「ヒヨッコ実感」のLIVEだったのかもしれないなぁ。

ジュリーは、今秋のツアー予定も知らせてくれました。
まだまだ全国津々浦々というわけにはいかないけれど、今度は地方の博多公演が予定されている模様。九州のファンのみなさま、朗報でしたね。
北海道、東北、北陸、中部、中国、四国・・・これから少しずつ、なのでしょう。

まずは次なるジュリーからの便りを、楽しみに待ちたいと思います。


それでは次回更新は、6月25日。この日だけは何としても更新せねばなりません。
近年拙ブログはジュリー誕生月の6月を「act月間」とするパターンが多かったのですが、今年は2つのLIVEのことを書かせて頂いたので、それは叶いませんでした。
でもせっかくだから、25日だけでもactのお題にしようかな、と考えていますよ~。

それではまた来週!

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2021年6月12日 (土)

瞳みのる 「ロード246」

from『ロード246』、2020

Road246

1. ロード246
2. 失うものは何もない

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6月です。
早いもので、気づけば今年ももう半分が過ぎようとしているんですね・・・。

今月の拙ブログは今日と次回、5月に開催された2つのLIVE(5.16四谷LOTUS『PEEが奏でる「四谷左門町LIVE2021」』&5.28東京国際フォーラムA『BALLADE』)について、それぞれのセットリストから1曲記事お題を選んで更新していきます。
まず今日はピーさんのLIVEから!

ザ・タイガースゆかりの地、四谷左門町のライヴハウス「LOTUS」さんを舞台とする『PEEが奏でる「四谷左門町LIVE2021」』が、主催者であるYOUさんの多大な尽力により今年も大成功に終わりました。
昨年に続きスタッフとしてお手伝いさせて頂いた僕にも、またひとつ大切な想い出が増えました。

新型コロナウィルス感染防止対策は昨年の同LIVEで実績もあり、当然今年も万全を尽くしての開催。
バンドメンバーやスタッフの意識はもちろんのこと、参加のお客さんには今年もYOUさんから事前に注意事項を伝達、すべてのお客さんの気持ちのよいご協力があっての成功です。
YOUさんは今年は「変異株」の潜伏期間も考慮、3週間経過の時点ですべての関係人員、お客さんの健康状態を確認し、めでたく先週日曜日『大勝利宣言』の運びとなりました。

LIVEの全容、ピーさんのパワフルな演奏、熱唱についてみなさまには上記リンクのYOUさんのブログ記事でご案内がある「無期限アーカイブ」をご購入の上実際に観て頂くことをお勧めするとして、僕はスタッフ参加の目線から、LIVE当日や事前リハーサルでのピーさん達の奮闘、ちょっとしたウラ話等を中心に書かせて頂きたいと思います。
今年も長くなりますがよろしくおつき合いください。


僕は昨年同様スタッフ参加でしたが、今回はホール換気やお客さん誘導の任務からは外れ、最初から最後までステージに近い客席最端につきっきりで

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このような機材と格闘しておりました。

「ゆうさんバンド」は昨年とはメンバーを一新、今年も個性豊かなプレイヤーが揃った中で唯一の問題点が、コーラス担当メンバーの不足でした。
ザ・タイガースの曲を再現するには、YOUさん&ニューフェイスの「たけ」さん以外にもう1人どうしてもコーラス・パートが必要。そこでYOUさんが購入したヴォイス・エフェクターを僕が操作することになったのでした。

僕も初めて扱う機材でしたがこれが面白い!
YOUさんのマイクと接続させると、入力されたYOUさんの声を瞬時多様に増幅させることができます。
曲のキーを設定した上で3度、5度のハーモニーを作るのはもちろん、オクターブ下の声を作りつつ入力元のYOUさんの地声だけ消す、というアクロバティックな操作も可能。
現地や配信でご参加のみなさまは、今年もセットリスト入りした「怒りの鐘を鳴らせ」でサリーさんばりの低音コーラスに気づかれたと思いますが、あれはYOUさんの声をオクターブ変換しているんですよ~。

本来こうした作業はライヴハウスのPAさんに担当して頂くのがベストとは言え、セトリ各曲のキーと転調箇所、コーラスが入るタイミングをあらかじめ把握しておく必要があるということで、僕に役目が回ってきたのです。
コーラスのヴァリエーションが多く転調もある「怒りの鐘を鳴らせ」は特に大変でしたが、何とか当日の任務は遂行できました。
ただ、最後の最後(午前開催の公開リハ含めて3ステージ目)にこの日1日の感動、余韻に浸るあまり「ラヴ・ラヴ・ラヴ」の転調をうっかりしてキー変更を遅らせてしまったのが唯一、痛恨のミス。
リベンジの機会を待ちたいと思います。


さて、昨年コロナ禍のため開催直前に無念の不参加を決断されたピーファンのお客さんが多くいらしたことを受け、今年はそんなみなさまに「再度の機会を」とのコンセプトに立った『左門町LIVE2021』。
ピーさんとYOUさんが話し合い、基本的には昨年のセットリストを踏襲する形となりました(昨年のセトリについては、こちらをご参照ください)。
目玉が「My Way~いつも心のあるがままに」(みなさまご存知のあの有名曲に、ピーさんが自身の人生を辿った13番にも及ぶ日本語詞をつけた大長篇ナンバー)であることもそのまま引き継がれました。

そんな中、今年新たにメンバー皆でリハを重ねセットリスト入りした曲もいくつかあります。
この記事では、それら「新セトリ演目」の紹介をメインに書いてゆくことにしましょう。

「LOVE(抱きしめたい)」
(沢田研二)

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↑ ピアノ弾き語り『沢田研二/ベスト・アルバム』より

YOUさんの選曲。
YOUさんはご自身の還暦企画LIVEでこの曲をカバーしたことがあり、その経験も今回のサプライズ選曲にひと役買っていたかもしれません。

ただピーさん曰く「当時まったく知らなかった歌」だったのだそうです。
「バラードなのに歌うのに凄くパワーが要る。沢田はさすが」とのことで、事前スタジオ・リハーサルでは特に演奏回数を費やした1曲です。
ヴォーカルの難易度に加え、何と言ってもピーさんはドラム叩き語りですからね。
昨年の「時の過ぎゆくままに」もそうでしたが、ピーさんはたとえバラードでも要所要所で凄まじい打点のフィルを繰り出します。74歳にして年々ドラムの音量が上がってゆくのは一体どういうことなのか・・・通常の人類の理屈では説明がつきません(笑)。
ちなみにピーさん、5月末に迫っていたジュリーの『BALLADE』東京公演について「皆で行くよ!」とリハの合間にお話してくださり、「この曲やるんじゃないかな?」とも予想されていましたがそれは当たりませんでした。
今回ご自身で歌ってみて、「本家の歌を生で聴いてみたい」と思われたのでしょうね。

LIVE当日は、特殊なチューニングのギターに持ち替えたYOUさんのアルペジオや、シンセサイザーの「せいこ」さんが弾くオリジナルに忠実なメロディーも光りました。
また、ちょうどアーカイブ配信された3ステージ目ではピーさんのヴォーカルの拍がずれてしまい「仕切りなおし」があったり。
こうしたハプニングも生LIVEならでは、貴重なシーンだったなぁと思います。

「ブラック・サンド・ビーチ」
(加山雄三withランチャーズ)

Blacksandbeach

↑ バンドスコア『ベンチャーズ/スーパー・ベスト』より

YOUさんの選曲。
昨年同様、タイガース・ナンバー以外に「ピーさんにゆかりのある意外なセットリスト曲」を採り上げるYOUさんのコンセプト、今年ご指名の名曲がこれです。

恥ずかしながら僕はこれ、ベンチャーズのオリジナルだとばかり思い込んでいました。実際は加山雄三さんの作曲作品(作曲クレジットは加山さんのペンネーム、弾厚作)だったのですね。
加山さんがピーさんの「大学の先輩」であることにYOUさんは着目したのでした。

今年の「ゆうさんバンド」はギター1本体制。僕は最初のスタジオ・リハの前までは「本当にギター1本で大丈夫なんだろうか」と心配していたのですが、YOUさんのギターと新メンバー「かまちゃん」のベース演奏を聴きまったくの杞憂であったと思い知りました。
この曲をスリーピースで再現した「ゆうさんバンド」に脱帽です。

「久々のインストゥルメンタル演奏」(ファニーズ以来?)に燃えたピーさんのスネアも心地よく、お客さんも「ご存知の曲」だったと見えて特に本番での盛り上がりを見せた1曲でした。

「エニーバディズ・アンサー」
(グランド・ファンク・レイルロード)

Anybodysanswer

YOUさんの選曲。
リアルタイムのタイガースファンなら、71年1.24武道館を思い出されるであろう洋楽カバー曲。

「ピーさんが50年ぶりにこの曲のドラムを叩く!」
というサプライズがYOUさんの狙いでした。
しかし今回YOUさんがこの選曲をピーさんに伝えたところ、ピーさんは「(かつて演奏したことを)まったく覚えてない」という衝撃の事実が判明。
「え~っ?!」と驚くみなさまの声が聞こえてきそうですが、ピーさんによればあのコンサートは
「とにかく間違えないようにしなきゃ。皆に迷惑をかけないようにしなきゃ」
という思いで頭がいっぱいで、楽曲自体を吟味する余裕は無かったのだそうです。当時ピーさんには「ドラム演奏はこれが最後」との決意があったわけですしねぇ。
あの1.24武道館に向けてはタイガース・メンバー揃ってのリハーサルも事前に行われたのだそうですが、それでも時間も余裕も無く、ただただ必死のステージだったのだ、と。

お話の内容もさることながら、50年前にはタイガースの「た」の字も知らなかった一般人の僕が、他でもないピーさん本人からそんなお話を伺っている状況というのも、本当に不思議な心もちがしました。

この「エニーバディズ・アンサー」とセトリ次曲「ハートブレイカー」の2曲はメドレー形式の演奏(キーが同じロ短調、コード進行もよく似ているので、「2つでひとつ」の組曲のような効果が得られます)で、リード・ヴォーカルは新メンバーの「たけ」さんが担当、ピーさんはマイクから離れドラムに専念します。
とは言えピーさんはあのパワフルにして妥協一切無しの熱演です。スタジオリハでもこの2曲を叩き終えた直後はグッタリの様子。
それでも本番当日の3ステージはリハ以上の演奏を魅せてくれるのですから本当に凄いですよ。

あと、最初のスタジオ・リハで初めて聴いた「たけ」さんのリード・ヴォーカルには驚かされました。
ただでさえ高音のメロディーを、ファルセットでもないのに通常のオクターブ上で歌うのですから。
聞けばこれは「ミックス・ヴォイス」なるテクニックなのだそうで、「まず喉の奥で裏声を出して、それを前に持ってきて地声と混ぜ合わせて発声するんですよ」と「たけ」さんが解説してくださいましたが、そんなの普通の人にはできませんから!
さすがは普段X-JAPANコピーバンドのヴォーカリストとして活躍されている方です。
今回グランド・ファンク・レイルロードのハードな2曲が採り上げられるにあたり、「たけ」さんの貢献はとても大きかったのではないでしょうか。

「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」
(フランク・シナトラ)

Flymetothemoon


ピーさんの選曲。
「誰もが知るスタンダード・ナンバーに新たな日本語詞をつけてLIVEで披露する」というのは近年のピーさんの活動の柱のひとつ。昨年の「ダニー・ボーイ」と入れ替える形で今年はこの有名曲がセットリスト入りです。

ピーさんの日本語詞は基本、原曲のコンセプト重視で「わかりやすく歌心を紐解く」スタイル。
そこにはなかなか苦労もあるようで
「日本語訳って、メロディーに載せる文字数が原詞と比べて少なくなってしまうから大変なんだ」
と仰っていました。
例えばこの歌の原詞には
「Let me see what spring is like onJupiter and Mars♪」
なるくだりがあります。
ピーさん曰く「日本語だと、とても木星だ火星だと言ってられないんだよね」と。
「中国語の場合は少ない文字数で色々な意味を表現できるのに、日本語だとそうはいかない」とのことですが、そんな上記箇所に「見せてよ輝く星達を♪」と日本語ならではの表現を当てたピーさんの「訳」は光ります。

ちなみに当初バンドはこの曲をオリジナル・キーのイ短調で演奏していましたが、ピーさんの希望で最終リハから1音上げのロ短調へと変更。
昨年の「ダニー・ボーイ」でも並行調の理屈で言えばまったく同じ経緯があり、ヴォーカリストとしてのピーさんのキーの高さを証明する1曲となりました。

この「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」以降のセットリスト終盤はピーさんがスタンディングのヴォーカルに専念し、ドラムスは昨年に引き続きメンバー入りした「けん」さんが担当します。
普段はメタル・バンドでハード志向の演奏をされている「けん」さんですが、この穏やかなジャズ・スタンダードも難なく叩き、「歌心」の適性を発揮。YOUさん曰く「任せて安心」の腕効きドラマーさんです。

そうそう、今年もセトリ入りした定番の「ラヴ・ラヴ・ラヴ」は、「けん」さんのドラムスが昨年とは変わっているんですよ。タイガース・ファンならお馴染みの、あのキックの連打を今年は披露してくれたのです。
実はこれはスタジオ・リハの時に僕が「やって欲しい」と提案したのでした。
「俺があれをやると、本当にメタルみたいになってうるさくなっちゃうから」と遠慮する「けん」さんを、「タイガース・ファンのお客さんなら、この曲が単に静かなバラードではないと知っていますから大丈夫ですよ」と説得。
隣で話を聞いていたピーさんも「遠慮なく大暴れしてください」と言ってくださり、LIVE当日の入魂のキック連打実現に至りました。

そんなやりとりの中、ピーさんはタイガース時代の演奏体験を思い出されたのか
「(「ラヴ・ラヴ・ラヴ」では)こっちが必死になって手数足数繰り出してるのに、カメラは沢田しか映さないんだよなぁ」
とひとボヤき。
でも芸能界復帰後、二十二世紀バンドとのLIVEやそして今回の左門町LIVEでも、ピーさんは当時とそっくり逆の立場になられたわけですが(笑)。

「ロード246」
(瞳みのる)

Road246_20210612143701

ピーさんの選曲。
CDのカップリング曲で昨年セトリ入りしていた「失うものは何もない」も候補に挙がっていたそうですが、最終的にピーさんがこちらを選びました。

1月の二十二世紀バンドとのLIVEで披露されている新曲、ゆうさんバンドでは初の演奏となります。
今日の記事タイトルでこの曲を押し出したのは、今回LIVEをお手伝いさせて頂く過程で劇的に楽曲解釈が変化した、個人的にも重要な1曲だからです。

CDのリリース後すぐに購入して聴いた僕の「ロード246」の当初の印象は、「ビートが効いたメジャー進行で、ウキウキと楽しい曲」というものでした。
実際、今もそう感じていらっしゃるピーファンのかたも多いと思います。明るいメロディーに加え、演奏もアレンジもポップですからね。

ところが。
左門町LIVEのセットリストが決まり、今年もまず僕がバンドメンバー用の採譜作業をするところから準備が始まったのですが・・・いざ歌詞を書き起こしていて
「あれっ?」
と。例えば

僕は もう この街なんかに
   Dm                Am

何も 求めるものはないと ♪
   B♭                     C

といったように、陽気なメロディーとは乖離する悲観的、否定的な表現が随所に登場します。

「これは一体どういう心境を描いた詞なんだろう?」
との疑問が解けぬまま僕は採譜を済ませ、そのままスタジオリハに突入。ピーさんが合流した最初のリハで、いざ「ロード246」を合わせてみましょう、となった際、YOUさんが笑いながら
1月24日の夜の歌ですね
と言ったので、僕は思わず「えっ、そうなんですか?」と話に食いついてしまいました。

元々この曲は
「国道246号を辿っていくと、偶然にもザ・タイガースゆかりの地が点在している」
ことに着目したピーさんが、タイガース回顧の巡礼ソングのようなアイデアから製作スタートしたものです(246号とタイガース&ピーさん個人ゆかりの地との関係は、ピーさんが昨年こちらのブログ記事で詳しく書いてくださっています)。
とっかかりとしては、タイガース時代のレパートリーでもあったスタンダートR&B「ルート66」へのオマージュもあったかもしれません。

しかしピーさん曰く
「そんなつもりは全然無かった」
のに、完成した詞にはあの1.24武道館が終わり、坂田さんの運転するトラックで一夜かけて京都へと帰っていった時のピーさんの思いが描かれたのでした。
「考えてみたら、あの夜僕は246号を走ってるんだよ。身体に沁みついていたものが自分でも意識しないまま(詞に)出ちゃったんだねぇ」
とピーさんがしみじみ話してくださったのは、その日のリハの休憩(換気)時のことです。
目からウロコ、というにはあまりに衝撃的な、僕の中での楽曲解釈の変化でした。

そうして改めて歌詞を読むと、ピーさんの思いは1.24から膨らんで、タイガース・デビュー時のご自身のキャラクター設定への改悟にも及んでいるような・・・まぁこれは僕の深読みが過ぎるかもしれませんが。
ただ重要なのは、ピーさんがそうした思いを自然に創作に込められるまでになった、という事実でしょう。
今はもう「愛に出逢えて」いるということです。

ですから「ロード246」は「道」以上に俯瞰力の高い名篇と言えましょうし、KAZUさんがこの詞にポップなビート系のメロディーを載せてきたのも結果バッチリ噛み合っている、と僕は考えます。
テンポを落として唐突に終えるアレンジも「過去」から「現在」に立ち返るようで、象徴的なんですよね。

ちなみにピーさんの自作詞が何度も何度も改稿され完成してゆく、ということを昨年も書きましたが、どうやら「ロード246」も例外ではなかったようです。
CDをお持ちのみなさまならお気づきでしょう、付属の歌詞カードと実際の音源とでは、ピーさんの歌詞に違いがあるんですよね。例えば

大の橋 三の茶屋 ♪
F

の箇所は、歌詞カードだと「三の茶屋 駒の沢」となっています。
本当に歌入れ直前の改稿だったのでしょう。

当日のステージでは、「けん」さん&「かまちゃん」の小気味良いビートもさることながら、YOUさんが披露した「ボトルネックを使わずにスライド・ギターの音を出す」というウルトラC演奏が印象に残ります。ギター1本体制による産物なのですが、これは難易度高いです!


ということで、今年新たにセットリスト入りした演目を紹介させて頂きました。

昨年に続き演奏された他の曲も、昨年とは違った味わいや見どころ、聴きどころがあります。是非みなさま「無期限アーカーブ」を購入し楽しんでみてください。
出来たてホヤホヤのピーさんの新曲の一部がカラオケ歌唱でいち早くお客さんに届けられるシーンを含む、ピーさんとYOUさんのトークコーナーも必見です。
この日披露されたのは1曲のみですが、昨年からのピーさんの新曲ラッシュはとどまるところを知らず、完成している、或いは製作真っ只中という新曲がまだまだ控えています。LIVE準備期間中に僕が歌詞を読ませて頂けたものだけでも、その気になればすぐにアルバム1枚リリースできるくらいの曲数。
今年もたくさんの新曲がファンに届けられること、間違いありません。

あとトークコーナーでは、終演後ピーさんが
「配信されているのをウッカリしていた。大丈夫かなぁ」
と苦笑されたほどの「ここだけの話」が飛び出したりもしました。
大丈夫、アーカイブを観た人全員がその胸に秘めておけばよいのです(笑)。


最後に。

『PEEが奏でる「四谷左門町LIVE」2021』
全演目

1.世界はまわる
2.素晴しい旅行
3.散りゆく青春
4.割れた地球
5.怒りの鐘を鳴らせ
6.美しき愛の掟
7.LOVE(抱きしめたい)
8.ブラック・サンド・ビーチ
9.どうにかなるさ
10.エニーバディズ・アンサー
11.ハートブレイカー

~トークコーナー~

12.フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
13.ロード246
14.明月荘ブルース
15.My Way~いつも心のあるがままに~
16.ラヴ・ラヴ・ラヴ

~アンコール~
17.Lock Down

バンドメンバーのみなさま、入魂の演奏をありがとうございました。

本来クラシック一筋の演奏者ながら、リハを重ねる度にバンドに寄ってくれて、最後には大長編「My Way」のスコアを自作までして「ロック」のスタイルにチャレンジした、シンセサイザーの「せいこ」さん。

ギター1本体制のアンサンブルを堅実に支え、本番でのちょっとしたアクシデントも真っ先に対応、柔軟にして縁の下の力持ちの大奮闘を見せてくれたベースの「かまちゃん」。

ド肝を抜くミックス・ボイスのみならず、コーラスの高音パートやリード・タンバリンでステージを盛り上げてくれたヴォーカル&コーラスの「たけ」さん。

ピーさんのドラムセット横に待機し、何かあれば的確なサポートを完遂、自らスティックを握って以降は抜群の安定感と根っからのバンドマン・テンションで昨年に続き大活躍したドラムスの「けん」さん。

今年の僕は役得でみなさんの演奏を本番でも間近で体感することができ、感動をたくさん頂きました。

そして、ピーさんとYOUさん。
終演後は本当に疲労困憊でいらしたに違いありません。それでもお2人は最後まで笑顔を消すことはなく、この日お客さんはもちろん、スタッフの僕にとっても素敵な想い出がまた増えました。

ピーさんのドラムスの進化は当然ながら、僕が今回身を持って知ったのがそのヴォーカル・センスです。
実は今年はメンバーが一新されアンサンブルが未知数だったこともあり、4月の第1回のスタジオ・リハはピーさんを除くバンドメンバーだけで行いました。ただリード・ヴォーカルが不在だとメンバーが演奏中に迷子になってしまうことも考えられ、僕がYOUさんから「仮ヴォーカル」を依頼されたのです。
僕は歌は本当にダメですから「え~っ?」とは思ったのですが、他ならぬYOUさんにお願いされたらそんなん命令と同じですよ(笑)。
優しいYOUさんが「鼻歌程度で良いですよ」と言ってくださったのに僕は大いに張り切り、前日1日かけて練習しリハに臨みましたが・・・。
語尾が安定しないとか、「ラヴ・ラヴ・ラヴ」転調後の高音が出ない、とかいう技術的なことよりも「歌への思いがまったく声に乗らない」状況に我ながら愕然。
歌詞の意味も考えて懸命に思いを込めようと歌っているのに、それが声に反映されないんですよね。
僕が歌う「怒りの鐘を鳴らせ」や「明月荘ブルース」の何と情けないことよ・・・(涙)。

ところがピーさんはそこが違います。
タイガース・ナンバーや自作オリジナルはもちろん、カバー曲で「まったく初めて歌った」という「LOVE(抱きしめたい)」でも、当たり前のように歌心が声に乗るんです。これは持って生まれたセンスとしか言えません。
特にバンド・スタイルの生歌でこそ、そのセンスが顕著に表れます。ピーさんの歌は、ステージを重ねるごとにこれからもさらに進化してゆくでしょう。

また、ピーさんはこの日の3ステージいずれも「コロナなんかに負けないで」とお客さんにメッセージを送ってくれました。
でもそれを変に気負うでもなく過剰に語気強めるでもなく、サラリと口にされていたのがとても印象的で。
日々の暮らしの中で自ら思い巡らせていることを、ごく自然に僕らに語ってくれた・・・これこそがピーさんの人柄であり魅力です。

YOUさんはピーさん以上に疲れたでしょう。
何と言っても企画から広報、チケット販売の応対、ライヴハウスとの打ち合わせに始まり、注意事項草案、レジュメ作成、当日のステージ進行、メンバーを纏めるリーダーの役割すべて担った上で、ギター1本体制バンドのギタリストとして丸1日の長丁場を駆けたのですから。

僕は最初のスタジオ・リハでYOUさんの演奏を聴いた時、この時点で既に尋常ではない稽古量を積み上げているとすぐに分かりました。
いったん目標を立てたらストイックなまでに全力で取り組む、というYOUさんの実行力は既に知っていたとは言え、改めて「凄い人だ」と思い知った次第です。
本当にお疲れさまでした。最大のリスペクトを捧げ、今日の記事を終えたいと思います。



では次回更新は、今度はジュリーのLIVE。
『BALLADE』セットリストから1曲選んでの記事タイトルです。どの曲にするかはもう決めています。

「衝撃度」という意味では今回のセトリで頭抜けていたんじゃないか、と考えている曲。
有名曲、定番曲であるにも関わらずLIVE当日の僕は、「このヴァージョンは一体・・・?」との違和感に終わってしまったのが悔しく、その後色々と考え抜きましたから、そうしたことをメインに書いてゆき、LIVE全体の感想まで補完できれば、と思っています。

そでれはまた来週!(たぶん)

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