シローとブレッド&バター 「野生の馬」
from『ムーンライト』、1972
1. いつから
2. 野生の馬
3. 舟
4. 雲
5. Happiness
6. 公園
7. なにもかも
8. 空いっぱい
9. Sugar In My Tea
10. やすらぎ
11. MOONLIGHT
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あっという間に大晦日です。
僕は29日から冬休みに入り、晴れて暖かかった一昨日に窓拭き等の大掃除を済ませて、昨日は近場に買い出しと食事。
いかにも連休を過ごしているなぁと実感し、年末モードに浸っています。
2020年は本当に色々なことがあり過ぎて大変な一年でした。ジュリーファンとしても思いのかけない出来事が起こり重なり、「辛抱元年」となりました。
そんな中で8月、シローさんが天国に旅立たれました。
メンバー全員が健在!とタイガースファンが長年当たり前のように誇らしく思っていたのに、メンバー中一番若いシローさんが行ってしまった・・・大きなショックでした。
僕は”ヴォーカリスト”シローさんについては完全に後追いで、「ザ・タイガース」と「サリー&シロー」でしか勉強できぬままこんなことになってしまい、「シローとブレッド&バター」のリマスター・アルバム購入は、シローさんの旅立ちを受けて、という形になってしまいました。
今日はアルバムの中から有名な(と言っても僕自身は今年初めてじっくり音源を聴いた曲なのですが)「野生の馬」をお題に、改めてシローさんを送り、2020年を締めくくりたいと思います。
アルバム『ムーンライト』は大変な名盤でした。
僕は「ブレッド&バター」の作品はこれがまったくの初体感。「フォーク」だと聴いていた彼らの曲は、少なくともこのアルバムではとてつもない「ロック」でした。
まぁこの頃はメインのギターがアコースティックなら「フォーク」とジャンル分けされていたのかな。
でも『ムーンライト』全体の音作りは、サリー&シローの『トラ70619』に近いんですよ。
例えばジミ・ヘンドリックス「風の中のマリー」を思い出したり(「雲」)、ビートルズの「ジュリア」を思い出したり(「公園」)と、僕の好きなロック・ナンバーと重なる魅力を持つ名曲が多く収録されていました。
日本のロック史でこのアルバムの”はっぴいえんど”との共鳴を語る人は今までいなかったのか、それとも僕が不勉強なだけだったのか。いやはや未知なる名盤があったものです。もっと早く知るべきでしたが・・・。
これは「シローとブレッド&バター」名義、唯一のアルバムなのだそうです。
シローさんとブレッド&バターが何故結びついたのか、岡村詩野さんは付属のライナーで「正直今も明確には分からない」としながらも、当時はちょうどヒッピーの理想主義が終焉を迎えていた時期で、アメリカで様々なロックを体得したシローさんがザ・タイガースに加入の末、そうした理想、幻想が崩壊してゆくことを体験し、「癒し」のようなブレッド&バターのウエスト・コースト的音楽性に惹かれたのではないか、と推測されています。
ただ、『ムーンライト』でのシローさんはあくまで「ゲスト」のような立ち位置。
シローさんがまったく参加していない歌もいくつかあり、僕は実際そうした純粋な「ブレッド&バター」ナンバーの方で彼等の才能の再発見に驚き、大いに好きになった曲もその中にあるのですが、アルバムを通して聴くほどに「野生の馬」が光輝くように「主役」の存在を増してゆき、なるほどこれは名曲に違いない、と確信しました。
シローさんとブレッド&バターの結びつきについて僕は、腕利きのサポート・ミュージシャンの人脈も絡んでいたのでは、と想像します。
と言うのは、先述の通り『ムーンライト』は『トラ70619』と音作り、アレンジの印象がとても似通っていて、いくつかの楽器についてはミュージシャンが重複しているとしか思えないんです。
『トラ70619』 は演奏クレジットが不明でしたが、『ムーンライト』は楽曲ごとに明記があります。
僕が特に注視したいのは、「野生の馬」でも名を連ねるアコースティック・ギターの石川鷹彦さん。
みなさま、もし「野生の馬」の音源をお持ちでしたら、是非アコギの鳴りをサリー&シローの「花咲く星」のそれと比べてみてください。同一者の演奏としか聴こえないではありませんか!
石川さんはじめ当時の重要なロック・パーソンが、ブレッド&バターに”ヴォーカリスト”シローさんを推薦したとしても不思議ではない、と思えます。
さて、昨年僕の勤務先が引っ越しをした際に発掘し整理しておいた貴重な資料本の中に、このようなスコアもあったことを思い出し、今回手にとってみました。
アルバム『ムーンライト』からは当然、「野生の馬」が収載されています。
何も考えずに 自然の中で
E♭ B♭ E♭ B♭
風を切って走る
E♭ D7 C7 F7
まるで野 生の 馬 さ ♪
B♭ Cm7 E♭ B♭
(スコアは何故かロ長調の採譜ですが、ここではオリジナル音源のキーに準じ変ロ長調で表記しました)
朴訥で志の高い詞。4拍子の進行の中に2拍、3拍の小節が混在しながら、まったく違和感なく耳に溶け入ってくる美しいメロディー。
こんな名曲が普通にヒットし、皆に歌われていた・・・つくづく良い時代ですねぇ。
歌詞は、リリース時の世相と言うか社会性を反映し、「自由」を表現したものだったでしょう。
ただ今年初めて真剣に「野生の馬」を聴いた後追いの僕には、シローさんが歌う自らの「旅立ち」の歌にしか聴こえなくてね・・・。
もちろんザ・タイガース解散後のシローさんの歌ですから、「旅立ち」の解釈は当時もあったかもしれません。しかし今聴こえるシローさんのこの歌の「旅立ち」にはもっと特別な「天国へ」の意味まで考えざるを得ないです。
ちなみに僕が今日書いている(聴いている)「野生の馬」はアルバム『ムーンライト』のヴァージョンです。シングルはヴァージョンが違うのだそうで、残念ながらそちらはまだ聴けていません。
「野生の馬」という曲タイトルだけは僕もずっと以前から知っていて、これはローリング・ストーンズの「ワイルド・ホース」から拝借したのだろうと安易に考えました。
ところが今回調べてみると、アルバム『ムーンライト』のリリースは72年ですが、「野生の馬」シングル盤は71年4月10日にリリースされているのですね。
対してストーンズの「ワイルド・ホース」(『スティッキー・フィンガース』)は71年4月23日。
浅はかな考えを改めねばならないことは、明白です。
洋楽好きだったシローさんに、ストーンズはどういう風に聴こえていたのかな。
「『野生の馬』はワイが先やで!」
と、そんな声が聞こえてきそうです。
シローさんが旅立たれた2020年も、色々なことが未だ続きつつ残り僅か数時間となりました。
来年こそは良い年にしたいけれど、前途多難は間違いない・・・まずしっかりと志を持ち行動してゆくこと、それがジュリーのLIVE活動再開にも繋がると信じます。
今年も拙ブログへのご訪問、有難うございました。
みなさまよいお年をお迎えください。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
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