沢田研二 「物語の終わりの朝は」
from『女たちよ』、1983
1. 藤いろの恋
2. 夕顔 はかないひと
3. おぼろ月夜だった
4. さすらって
5. 愛の旅人
6. エピソード
7. 水をへだてて
8. 二つの夜
9. ただよう小舟
10. 物語の終わりの朝は
-----------------
久しぶりのジュリー・ナンバーお題での更新、別曲の記事の下書きをのんびり進めていた最中だったのですが、またしても訃報です。
先日のシローさんの時と同様、急遽の追悼記事を書くことになってしまいました。
筒美京平さん。80才。
日本が誇る音楽界の重鎮、宝のような方です。
洋楽のエッセンスを下地にしながらも、僕ら日本人が世代を越えて親しみ歌い継ぐ国民的メロディー、数々の名曲を作曲されました。
「サザエさん」の主題歌を知らない人はいませんよね。
一般的な筒美さんのイメージは「稀代のヒット・メイカー」でしょうか。
僕が持っている筒美さんのヒストリーCD-BOX(Vol.1&2併せて8枚組!)付属の豪華ライナー・ブックには、筒美さんが作曲を手がけたシングル曲のチャート・ランキング総覧が載っています。
あらゆる歌手のあらゆるヒット曲が列挙されているだけで壮観と言う他ありませんが、この中に「沢田研二」の名前はありません。意外なほど筒美さんとジュリーの関わりは少なかったのです。
そもそもシングル曲が1作も無いのですから。
しかし、筒美さんが長きに渡り作家として活躍された中のほんの僅かな一瞬、1983年のアルバム『女たちよ』において筒美さんは収録全曲を作曲し、「年月」とか「チャート」とかいった現世の概念を越えようかというほど濃密に、ジュリーと関わっているんですよね。
(このアルバム以外は唯1曲、71年のセカンド・アルバム『JULIEⅡ』収録の清廉なワルツ小品「二人の生活」が筒美さんの作品です)。
『源氏物語』をモチーフとして完全にストーリー形式のコンセプト・アルバム『女たちよ』からは、シングル・カット曲もありません。ですから、83年といえばまだまだジュリーがテレビ番組、年末の賞レース常連の頃だったにも関わらず、このアルバムはファン以外にはまったく知られていないでしょう。
まるで、普段輝かしい陽の中で世間の視線を浴び続けている才人達(歌手・ジュリー、作詞・高橋睦郎さん、作曲・筒美さん、アレンジ・大村雅郎さん)が密かに夜に隠れて、妖しい営みを交わし合ってているような・・・。
『女たちよ』はそんな名盤なのです。
筒美さんと言えば、一度聴いたらスッと覚えてしまうようなキャッチーな曲を連想しがちです。実際、世の中が知る筒美さんの代表曲はすべてその通りです。
しかし『女たちよ』での筒美さんの作曲は、二度、三度聴いたくらいでは把握不可能。
何度も聴いてメロディーが分かりかけてきた瞬間から虜となる・・・そういうタイプの名曲ばかりです。
新規ジュリーファンにとっても、そしてもし筒美さんのキーワード検索でこの記事を読んでくださっている筒美さんのファンの方がいらして、「へぇ、このアルバムは知らなかったなぁ」とお思いであれば、そんな方々にとっても・・・『女たちよ』は超・上級篇です。
アルバムのラストを飾るのが、今日のお題曲「物語の終わりの朝は」。
忍び隠れた営みの夜が明ける朝。
偉大な才人の「生=性」とその終わり。
筒美さんの旅立ちを受けて聴いたこの曲、1番が終わってガクンとキーが下降した瞬間、僕は『源氏』の物語とはまた別のところで筒美さんの真髄を新たに感じることができたように思います。
心より、筒美さんのご冥福をお祈りいたします。
合掌。
| 固定リンク
「瀬戸口雅資のジュリー一撃伝授!」カテゴリの記事
- 沢田研二 「Rock 黄 Wind」(2023.12.31)
- 沢田研二 「コインに任せて」(2022.12.29)
- 沢田研二 「WHEN THE LIGHTS WENT OUT」(2022.05.20)
- 沢田研二 「痛み」(2022.04.08)
- 沢田研二 「護り給え」(2022.03.25)
コメント
DY様 こんにちは。
「あさきゆめみし」
本編の終章、明石の上が、出家し源氏が籠もった山を紫色の雲に覆われるのを見て源氏の入滅を確信し、(紫の上様がお迎えにこられた)と呟くシーンがありました。
源氏が最後に選ぶのは紫の上、とわかっていたのだなぁ、と。
源氏と関わった多くの女性は出家しました。
朧月夜も最後は朱雀院を選んだし、藤壺も桐壷院を追って出家した後は二度と心を動かすことは無かった。
恐ろしく遠回しな言葉を綴った手紙でしか思いを届けることが出来なかった時代ですから、あれこれ気に病む時間が長かったのでしょうね。
でももやもやしていたことがある時突然クリアになる瞬間がある。
良くも悪くも真実が見えた時、物語は終わり、そしてまた始まる・・・かな?
投稿: nekomodoki | 2020年10月18日 (日) 12時07分
nekomodoki様
ありがとうございます!
僕は『女たちよ』はジュリー・アルバムの中でも最初から数えた方が早いほど好きですが、この最後の1曲「物語の終わりの朝は」はなかなか消化しきれずにいました。
僕自身にコンセプト元の『源氏物語』の知識がまだ足りないせいもあったのでしょうが、今回筒美さんの旅立ちを受けてアルバムを通して聴いた時、何故この曲がラスト収録なのか、をメロディーやアレンジも含め突然腑に落ちた感じです。
仰るように、気の遠くなるような手段でしか自分の思いを伝えられなかった時代、出家して後、心を動かされることのなくなった女たち・・・そこまでにいたる過程。
クリアになった瞬間に物語が終わる、というコメントは正にその通りで、なるほどなぁと思いました。
このアルバムが完全に高橋睦郎さんの詞ありき、で製作されたというのはとてつもなく大きなポイントなのですね。
見事メロディーをつけた筒美さんの手腕に改めて感動するばかりです。
投稿: DYNAMITE | 2020年10月19日 (月) 13時10分
DY様
こんばんは。『女たちよ』はリリースが秋だったので毎年この時期必ず何度か聴きます。ポリドール時代、ジュリーのアルバムは下半期にリリースされたものが大半なのに私には何故か「秋ジュリー」として脳ミソに刷り込まれているお気に入りアルバムです。
私、「源氏物語」は本当に疎くてnekomodokiさんのコメント拝読して「ああ、なるほど!」とお題曲の歌詞に納得がいった次第です。
アルバム最大の謎は、ギタリスト3人クレジットされていますが、そんなにギターのパートあるのかな~?です(笑)
投稿: ねこ仮面 | 2020年11月10日 (火) 21時26分
ねこ仮面様
ありがとうございます!
僕もnekomodoki様のコメントで「なるほど」と思った1人です。
源氏物語の終章を今一度読んでみる必要がありそうです。
このアルバム、ギター結構入ってますよ~。
ただし、物凄い使い方もしていますけどね。やはり83年と言うあの時代独特のものであり、『MIS CAST』からも続く、特に際立つ音楽性の挑戦が感じられるジュリー・アルバムだったんだなぁと思います。
いずれ他収録曲のお題記事で、このアルバムの演奏についても掘り下げてみたいものです。
投稿: DYNAMITE | 2020年11月11日 (水) 12時54分