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2020年6月

2020年6月25日 (木)

沢田研二 「エディットへ」

from『act#6 EDITH PIAF』、1994

Edith1

1. 変わらぬ愛 ~恋人たち~
2. バラ色の人生
3. 私の兵隊さん
4. PADAM PADAM
5. 大騒ぎだね エディット
6. 王様の牢屋
7. 群衆
8. 詩人の魂
9. 青くさい春
10. MON DIEU ~私の神様~
11. 想い出の恋人たち
12. 私は後悔しない ~水に流して~
13. パリは踊る 歌う
14. エディットへ
15. 愛の讃歌
16. 世界は廻る
17. すべてが愛のために

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今年もやってきました。6月25日。
今日は全国各地でジュリーファンからのお祝いの言葉が飛び交っていることでしょう。
もちろん、ここでも叫ばせて頂きます。

ジュリー、72歳のお誕生日おめでとうございます!

Paper074

↑ 毎年恒例、「ありがとう」と言ってそうな若ジュリーのショット

今年のジュリー誕生月を『ACT月間』とした時から、今日のお題はこの曲!と決めていました。
すべてのACTナンバーの中、現時点で僕が最も好きな歌。『EDITH PIAF』から「エディットへ」です。
ジュリー自作(作詞・作曲)のこの名曲の更新で、ジュリー72歳の誕生日をお祝いしたいと思います!

Edith3

「曲」と言うより「歌」と言いたくなるバラードです。
ACTの映像を未だ観ていない僕は、「エディットへ」がどのようなシーンで歌われていたのか分かりません。あくまで『CD大全集』の音源のみで感じとった詞の内容は、(ステージ上の)リアルな現実時間からピアフの時代へと遡るようにメッセージを届ける、というもの。
レクイエムのようにも感じるし、ラブレターのようでもあります。実際の舞台はそういうシーンではないのかもしれませんが、ジュリー自身がピアフに捧げた強い思い、リスペクトがひしひしと伝わってくる詞で、ジュリーがこれほどピアフへの敬愛の念を持っていたことを、僕はこの歌で初めて知りました。

まして僕は恥ずかしながらそれまでエディット・ピアフのいう有名な歌手の生い立ちや人生、どのような人であったかなどをほとんど知らずにいて、まずジュリーの「エディットへ」を聴くことで彼女の偉大さを知った、と言っても過言ではありません。
その後勤務先のシャンソン関連スコアに添えられた解説を読んだり、You Tube等でピアフが歌う映像を見たりした時、「ジュリーの歌の通りの歌手だったんだなぁ」と思ったものでした。

全然違うようでもあり、とても似ているようでもあるジュリーとピアフ。
ただ、「エディットへ」の歌詞中の「愛」はそのまま「歌」と置き換えることができ、それは近年のジュリーの創作姿勢と重なるところが多々ある、とは思っています。

最近の2年、ジュリーは新譜マキシシングルを柴山さんの作曲作品と自作曲の2曲入りという形(作詞はすべてジュリー)でリリースしていて、自身で作曲を担った昨年の「SHOUT!」、今年の「頑張んべえよ」はいずれも自らの歌人生をテーマとした詞が載っています。
凝った進行ではなく、ロックのスリー・コードを基本軸としヴォーカル・インパクトを重視した作曲。
血肉を伝えるようなメロディーが特徴的で、これは「エディットへ」と非常に近い作曲手法です。叙情的なメロディーなのにマイナー・コードへ移行しない、或いはリズムを分解すると8分の12のロッカ・バラードであることが分かるなど、「エディットへ」でジュリーは真っ直ぐに「ロック」なベクトルに立っているのです。
ピアフのことを歌うからといって無理にシャンソンに寄せたりしなかったことが、逆に説得力をもってピアフへのリスペクトを表現し得たのではないでしょうか。

cobaさんのアレンジももちろん、ジュリーの作曲の素晴らしさに応えています。
『EDITH PIAF』でのcobaさんのアレンジはACTシリーズの中では抜きん出て複雑な変化球ですが(「王様の牢屋」を『BORIS VIAN』ヴァージョンと比較するとよく分かります)、「エディットへ」は最もドラマティックかつ俯瞰的でもあると思います。

例えば、オーソドックスにサブ・ドミナントやドミナントへコードが展開しても、ルートだけはトニック音をじっと持続させる手法。
僕は最初、Aメロ2つ目のコードを「Fsus4」でとってストロークでコピーしていましたが、響きが微妙に違う・・・。
そこで指弾きのアルペジオに切り替え、「B♭onF」に辿り着きました。
ジュリー作曲時点では普通に「B♭」だったに違いなく、近年の自作曲2作と共通する、武骨でシンプルな曲作りであることを逆算的に理解できたのです。

他にも、間奏部から緊張感のあるスネアが噛んできたり、最後のサビのリフレインで徐々にアコーディオンの刻みが増え最終的にはスネアとユニゾンするなど細かい部分での素晴らしさもありつつ、僕が曲中で最も大きなインパクトを感じたのはイントロ、間奏、後奏に登場する歌メロには無い進行部でした。
「女声コーラスのパート」と言った方が分かり易いでしょうか。歌メロとは別の独立したヴァース、つまりここでのコーラスはピアフの歌声を模していて、ジュリーのヴォーカル部とは「過去」と「現在」で時間が分かれている・・・そこまで計算されたアレンジなのかな、と。
そして、別時間故にイントロと間奏では重なることのなかった女声コーラスとジュリーの歌が最後の最後、サビの着地点でクロスするという、ここは本当に鳥肌ものです。ジュリーの時代とピアフの時代が歌の力で奇跡のように「共にある」瞬間ですね。

そんなアレンジに象徴されるように、「エディットへ」でのジュリーの詞にはピアフへのリスペクトのみならず、ジュリー自身が一流の歌手だからこそ持てるであろう「共感」を、僕ら聴き手は探らずにはいられません。
特に強烈なのは以下の歌詞部。

エディット 今の時代に
F                       B♭(onF)

生まれて   いたら
       C(onF)        F

窮屈で    厄介で 息もできない
    B♭(onF)    F          G7       C7sus4  C7

愛は 見世物にされ
F                  B♭(onF)

自由に   ならぬ
      C(onF)      F

あなたなら それでも やめない 愛を ♪
      B♭(onF)   F             G7       C7

「あなた(ピアフ)の時代」と「自分(ジュリー)の時代」。ジュリーが作詞をした「今の時代」とはひとまず『EDITH PIAF』公演のあった1994年と考えるとして、どうやら僕らはその後さらに窮屈で厄介な世の中へと流され続けているように思います。
現在2020年、ジュリーのこの詞が一層身につまされる。

先述の通り僕は「エディットへ」歌詞中の「愛」はすべて「歌」に置き換えることができると考えています。
すなわち窮屈で厄介な時代において今なお「歌は見世物にされ」ていると。そんな世に生まれていたとしてもあなたなら歌をやめないだろう、と94年のジュリーはピアフに向けて歌いました。これは正に、今現在のジュリーの覚悟そのものではないですか!

歌が「自由にならぬ」時代に徹底気的に「自由」を志す姿勢然り。だから僕は今回「エディットへ」のお題を、ジュリーが自らの歌人生をテーマとし作詞・作曲した「SHOUT!」「頑張んべぇよ」と並べて考えてみたくなったのです。

与え、裏切られ、それでも許し・・・40代にしてそんなふうにピアフの歌人生を表現できたジュリー。
自らゆく道もピアフに劣らず凄いです。

エディット・ピアフは言うまでもなく有名な歌手で、全世界に彼女のファンが数えきれないほどいらっしゃるでしょう。その中でどれくらいの人達が、ジュリーのACT『EDITH PIAF』を知っているでしょうか。ジュリーがピアフに捧げ作詞・作曲した「エディットへ」という真に愛の歌を知っているでしょうか。
少しでも多くのピアフのファンにこの歌を知って欲しい、と思っています。


ということで、4曲分と少ない曲数でしたが今年のジュリー誕生月の『ACT月間』はこれにて終了。
そして今後の予定ですが、7月4日にタイガース・ナンバーのお題で1本書いた後、すみませんが(ブログ更新の)夏休みを頂きます。
仕事では8月が本決算(コロナ禍に見舞われた今季は、当然ながら大変厳しい数字と向き合うことになりましょう)。加えてプライヴェートにおいて今年は猛烈に忙しい夏になりそうです。

秋からまた再始動いたします。とりあえずは来週、タイガースの記事でお会いしましょう。

今年はこれから厳しい暑さがやって来るようです。
みなさま体調にはくれぐれもお気をつけください。

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2020年6月21日 (日)

沢田研二 「VERDE ~みどり~」

from『act#4 SALVADOR DALI』、1992

Salvador1

1. スペイン・愛の記憶
2. 愛の神話・祝祭という名のお前
3. ガラの私
4. VERDE ~みどり~
5. 眠りよ
6. 愛はもう
7. 黒い天使
8. 恋のアランフェス
9. 白のタンゴ
10. 誕生にあたっての別れの歌

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梅雨ですな~。
ここ数日は割と涼しいですが、先週は気温が高く湿気が多く天気が安定せず・・・という日が続きました。
コロナ禍のこともあり、例年以上に体調管理に気を遣う季節となりましたね。

さて、6月の『ACT月間』更新シリーズも3曲目。
今日は『SALVADOR DALI』から、フラメンコ・ナンバーのカバーにしてジュリーの日本語詞のセンスが光る名曲「VERDE~みどり」を採り上げたいと思います。
よろしくおつき合いください。

Salvador3

現時点で『SALVADOR DALI』は、『CD大全集』の中で個人的に最も気に入っている作品です。
ジュリーの声がACTシリーズ中、抜きん出て妖艶に聴こえるのは僕だけでしょうか・・・?

最初に聴いた時、この作品のヴォーカルは「鉄人バンドで歌うジュリーに近いな」と感じたものです。
ベースレスというだけでなく、パーカッションのアレンジへの貢献度や、エレアコの音色とライヴ感。元々「アレンジフェチ」で、生のジュリーをまず鉄人バンドの演奏で知った僕にとって、『SALVADOR DALI』は特に「ジュリーの歌」をリアルに聴きとる上でとても自然な音に包まれているように思われます。
まぁ、アレンジについてはフラメンコを意識しているのですからベースレスは必然なんですけど。
収録楽曲のタイプも多彩で、中でも「愛の神話・祝祭という名のお前」そして今日のお題「VERDE~みどり」は、短調のメロディーが軽快なテンポでグイグイ押してくるあたり、いかにもジュリー・ヴォーカルの真骨頂という感じがして大好きです。

以前、「ジュリーは緑色が好き」という話を聞いたことがありました。
言われてみますとジュリーには自作詞で「greenboy」「緑色のKiss Kiss Kiss」という重要な曲があります。
「エメラルド・アイズ」も緑系。また朝水彼方さん作詞の「緑色の部屋」も名曲。あとはトッポさんのヴォーカル曲ではありますが、タイガース時代にも思索的なナンバー「緑の丘」。そして今日のお題「VERDE~みどり」・・・他にジュリー関連で緑系の曲ってあるかなぁ?

で、僕はこの「VERDE~みどり」、熱烈に「ジュリーの日本語詞」推しです。
冒頭キメの部分については「直訳」とも言ってよく、その上で語感が素晴らしいわけですが、物語的にはさすがACTシリーズ、さすがジュリーで、歌が進むに連れ「ダリ」を演じる上でのオリジナルとは異なる展開、言葉使いが堪能できます。
とにかく「驚くほど自然にメロディーに載ってる」点ではACTで採り上げられた幾多のカバー曲で(加藤直さんの詞も含めても)屈指の名篇ではないでしょうか。

その魅力を味わうためにも、まずは原曲、原詞を知っておきたいところ。
残念ながらスコアは発見できませんでしたが、とても勉強になるブログ様が見つかりました。

濱田吾愛さんの『フラメンコ・シティオ』

実は僕は不勉強にてジュリーのACTで出逢うまで「VERDE」という原曲自体を知りませんでした。
濱田さんの解説は大変詳しく分かり易く、楽曲の背景やフラメンコの特色、歴史をも学ぶことができます。
例えばこの曲をヒットさせた「ホセ・マヌエル・オルテガ・エレディア」の芸名が「マンサニータ」とのことで、これは「沢田研二」と「ジュリー」のような感じの使い分けなのかなと思いきや、調べたらそうではなく、昔はスペインの人って同姓同名がとても多かったので、本名ではなく「あだ名」で呼び合うことが通例となり慣習的に引き継がれてきているんですって。
歌手しかり、なのですねぇ。初めて知りました。

さらには「VERDE」の詞の原題が「夢遊病者のロマンセ」というのだそうで、これを知るだけでもジュリーの日本語詞への理解が深まります(特に3番のサイケデリックなフレーズ群)。
それに濱田さんの訳詞を読めば、いくつかの単語についてはジュリーもそのまま日本語詞に採用し端々に散りばめていることも分かります。

僕が凄いと思うのは、物語と情景描写が正に「シュール・レアリズム」であるにも関わらず、ジュリーの言葉の並べ方、語感、畳み掛けにより歌全体に漲る「求愛」のテンションです。
メロディーの勢いを加速させるかのようなフレーズ。日本語だからこその疾走感。
短調という共通点もありましょうが、「愛の神話・祝祭という名のお前」と同じテンションを感じます。さらにはほぼ同時期のオリジナル・アルバムに収録された「涙が満月を曇らせる」や「そのキスが欲しい」と同じような、ある意味破滅的なほど激しい「求愛」を自らのヴォーカルに託す・・・そんな日本語詞だと思うのですよ。

最も衝撃的だった箇所は最後のヴァースです。
水に身を投げた女性の動かぬ冷たい顔、その緑の髪だけが水面でゆらゆら踊っているという。
描かれる情景はシュールと言うか恐怖ですらありますが、詞も歌も強烈になまめかしい・・・ここではジュリーが2行目でメロディーを崩してきて、cobaさんのアコーディオンがすぐさま呼応し速弾きになります。
アドリブかどうかは僕には分からないものの、それがまるで野性の求愛行動のように聴こえたり。
楽器編成が少ないぶん、ドキリとさせられます。

そもそも、「情熱の音楽」と言われるフラメンコは、40代の色気でジュリーが歌い演じるには格好の題材だったと言えそうです。

濱田さんのブログによれば、原曲「VERDE」は70年代末にヒットした歌なのだそうです。
意外な感じがしました。もっと古い60年代の歌だと思っていたからです。と言うのは、「VERDE」にはいわゆる「Aメロ」「Bメロ」「サビ」の変化が無く、嬰ヘ短調の短い同一ヴァースを延々と繰り返してゆく構成なのです。
このパターンが70年代末という時期にヒットするには、まず聴きながら歌詞を追いかける面白さ、さらには主題のメロディー一発で耳を捉えるキャッチーさ、そして何より歌い手の表現力が必須です。「VERDE」にはそれが備わっていて、だからこそジュリーの日本語詞と歌もここまでの名篇、名演に成り得たのでしょう。

僕はACTシリーズの映像をまだ鑑賞できていませんが、いざ!その時が来たらまずこの『SALVADOR DALI』から見ると思います。ズバリ「VERDE~みどり」の「演じ方」に興味が大きいのです。
フラメンコと言えば、ギターメインの伴奏以外に「踊り」が重要不可欠。「VERDE~みどり」のイントロ導入を担うタップ音、或いは楽器演奏が完全に引いてヴォーカル・ソロとなる5番のヴァース途中で聴こえてくる「オ~レ!」の声(cobaさんなのかなぁ?)。
どんなふうに舞台で演じられているのか、やはり音源だけだと想像がつかないんですよね。
もちろん、ストーリーと曲がどう絡んでくるか・・・まぁそれはすべてのACT作品について言えることですが。


それでは次回は6月25日、ジュリー72歳の誕生日に更新を予定しています。
あまり日数が無いけど、こればかりは何としても間に合わせなければ・・・。

お題は、個人的にすべてのACTナンバー中、現時点で一番好きな曲を考えています。頑張ります!

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2020年6月14日 (日)

沢田研二 「愛していると言っておくれ」

from『act#9 ELVIS PRESLEY』、1997

Elvis1

1. 無限のタブロー
2. 量見
3. Don't Be Cruel
4. 夜の王国
5. 仮面の天使
6. マッド・エキジビション
7. 心からロマンス
8. 愛していると言っておくれ
9. Can't Help Falling in Love
10. アメリカに捧ぐ
11. 俺には時間がない

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こちらは今日はいくらかマシのようですが・・・この一週間は暑かったですな~。雨風も酷かったですし。

僕は水曜日に持病の腰痛(ギックリ腰)を発症しまして、とても難儀をした一週間でもありました。例年、勤務先や通勤電車で冷房が入りはじめる時期に「ピキ~ン!」とやってしまうことが多いのですが、今回は自宅で発症しましたのですぐに安静の態勢になることができ、短期間で復活しました。これが仕事中に発症すると、家に帰宅するまでに悪化して、長引くんですよね・・・。

さて『ACT月間』です。今日は『ELVIS PRESLEY』からお題を採り上げます。

僕は数年前までは”キング・オブ・ロックンロール”エルヴィス・プレスリーの楽曲について、本当に有名なナンバーをいくつか知っているのみという状態でした。
『CD大全集』でジュリーのACT『ELVIS PRESLEY』を知ってオリジナル音源にも興味が沸き、さらにジュリー道の師匠の先輩からも「プレスリーは素敵だった」とのお話(その先輩はプレスリーもリアルタイムなのですから凄い!)があって本格的な勉強を開始。豪華な3枚組ベスト盤をはじめ数タイトルのCDを購入、今はようやく「少なくともジュリーが過去にカバーした楽曲はオリジナル音源も所有している」ところまでこぎつけました(70年代のステージでよく歌われたスタンダード・ロックンロールや、ACTの別作品『BUSTER KEATON』収録「淋しいのは君だけじゃない」なども含めて)。

その先輩も仰っていたのですが、プレスリーはテレビ番組出演時などの映像を合わせて聴く場合は圧倒的に初期のナンバーが魅力的です。
後追いでモノクロの映像を観るだけで途方も無いオーラが伝わってきますし、何しろあの目つきはヤバいです。視線を動かすたびに色気がだだ漏れになってる・・・「これはとんでもない歌手が現れた」と、当時全世界が釘づけになったのでしょうね。

ただ楽曲重視タイプの僕としては、「後期」と言ってよいのかな・・・60年代末から70年代のプレスリー・ナンバーも大いに気に入りました。
セールスに初期ほどの勢いが無くなってきた中で、詞曲、アレンジ、演奏、プロデュースとそれぞれのプロフェッショナルが知恵と手管を尽くして自らのアイデアをプレスリーに捧げ、実際に彼がそれを歌うというシチュエーション。ジュリーで言うと建さんプロデュースのEMI期の5枚のような雰囲気が感じられる「後期」プレスリーと、僕はとても波長が合うのです。
中でも特に惚れ込んでいる3曲が

・「イン・ザ・ゲットー」(収録アルバム『エルヴィス・イン・メンフィス』は素晴らしい名盤!)
・「バーニング・ラブ」(70年代後半のパブ・ロック・ムーヴメントにも通じる、完璧に僕好みの1曲)
そして
・「この胸のときめきを」

これが本日のお題、ジュリーACTヴァージョン「愛していると言っておくれ」の原曲です。
せりあがる3連符のグルーヴ。「あなただけでいい」「おまえがパラダイス」の例を出すまでもなく、ジュリー・ヴォーカルとの相性の良さが最初から約束されていたかのような名曲、熱唱系のバラードなのですね。
スコアも見つかりました。

Youdonthavetosayyouloveme 

↑ 『オールディーズ・ベスト・ヒット100』より。オリジナルより1音高いト短調での採譜となっています。

僕は不勉強にて最近知った曲ですが、「この胸のときめきを」はプレスリーの代表的名シングル(70年にヒット)としてのみならず、それ以前にダスティ・スプリングフィールドが歌ったりしていて、かなり有名な曲のようです。
「枯葉」進行の三連バラードという以外に、同主音による近親移調が大きな特徴。物悲しい雰囲気で始まるメロディー(ヘ短調)がサビでド~ン!と明るく視界を開く(ヘ長調)構成は、これまたジュリーのキャリアでも「追憶」をはじめとする名曲に同パターンの例は多く、ACTで採り上げたのは大正解と言えるでしょう。

加えてジュリーはプレスリーとは得意とする声域が近いようで、「愛していると言っておくれ」はもちろん、『CD大全集』収載のプレスリー・ナンバー9曲中7曲までを同じキーで歌っています。
(例外は「Surrender」→「夜の王国」がホ短調→ニ短調の1音下げ、「Love Me Tender」→「マッド・エキジビション」がニ長調→ホ長調の1音上げ)

ACT『ELVIS PRESLEY』はジュリーの「歌い方」が本当に多彩で、「無限のタブロー」を初めて聴いた時に「ジュリー、こんな歌い方もするんだ?」と驚いたものです。朗々と・・・言葉は適当ではないのでしょうが「大げさ」に発声していますよね。
「愛していると言っておくれ」のヴォーカルもこれに近いのは、三連のリズムがそうさせているのでしょうか。
とにかく普段のオリジナル・アルバムでは聴くことのできない発声と間のとり方で、ACTシリーズならではの独特の「哀しみ」を感じるテイクです。
映像を観ずに聴くと、この歌は相当切羽詰まったシリアスな場面で歌われているのではと想像しますが、お客さんの歓声や拍手の雰囲気を考えると、「ショー」の一幕という感じもします。どんなシーンが正解なのかな?(←いい加減映像も観ろ、という話汗)

ジュリーのこの日本語詞がとても気に入っています。
原詞では、去りゆく人への恋慕を主人公の「あきらめきれない、でも受け入れざるを得ない」というスタンスで描きますが、ジュリーの場合はなかなかに往生際が悪くて、「愛している」と無理矢理言わせる。相手が言ったら言ったで「気持ちが伝わらない!」と怒る(笑)。

胸をえぐった 愛なき言葉
Fm     B♭m  E♭7   A♭

冷たい  視線  甘い 誘い ♪
D♭maj7  B♭m    Gm7-5  C7

恋人同士が危機的状況にあるのは原曲と同じではあるけれど、なんとか力技で繋ぎ止めよう、引っ張り抜こうと・・・僕にはそんなふうに聴こえるのです。

あとは語感。
先述したサビでの同主音移調に加え、この曲では最後のサビでド~ン!と1音上がりの転調が登場します。転調の箇所はジュリーの詞で言うと、「長い」までがヘ長調で、「刹那」からト長調。さぁ上がるよ!というタイミングにピッタリのフレーズです。

長い 刹那 ♪
   C7      D7

当然「訳詞」ではなくジュリー・オリジナルの日本語詞。劇中のシーンに何かヒントがあったとしても、この言葉選びはトコトン冴えていますね~。

あくまで『CD大全集』音源のみの評価として、個人的に『ELVIS PRESLEY』は10作品中4番手に好きな1枚。演奏がオーソドックスなロック・バンド・スタイルというのが波長が合う要因なのかもしれません。
素敵な女性メンバー達それぞれのこの作品以外のキャリア、その後の活躍についても機会あらば追いかけてみたいところです。

それでは次回、「ジュリーの日本語詞の語感」という点ではACT中でも屈指の名篇をお題に予定しています。
今回の「愛していると言っておくれ」とはまた違って、こちらは原詞に忠実で「訳詞」に近い箇所もあったりするんですけど、メロディーへのジュリーの言葉の載せ方がキレッキレで、しかも「求愛」の歌ですからね。ジュリーの官能ヴォーカル炸裂ですよ~。

さぁどの作品、どの曲でしょうか・・・。
ということで、また来週!

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2020年6月 6日 (土)

沢田研二 「バイ・バイ・ララバイ」

from『act#3 NINO ROTA』、1991

Nino1

1. 8 1/2
2. 時は過ぎてゆく
3. カザノヴァ
4. 天使の噂
5. 忘れ難き魅惑
6. ヴォラーレ
7. 道化師の涙
8. バイ・バイ・ララバイ
9. カビリア~夜よ
10. ジェルソミーナ
11. SARA
12. 夢の始まり
13. 8 1/2

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さぁ、ジュリーの誕生月1発目の更新です。
今年の全国ツアー中止は本当に残念ですが、『キネマの神様』主演決定のビッグニュースもありました。
とにかく今は、コロナ禍を乗り越えた先の楽しみを妄想しつつ皆で踏ん張ってゆきましょう!

拙ブログではこの6月を久々の『ACT月間』とします。
映像未鑑賞のまま『CD大全集』の音源のみで書く無謀なスタイルは今回もそのまま。至らぬ点は多々ありましょうが、そこは先輩方のコメントで補完して頂こうという他力本願(汗)。
候補各曲それぞれについて色々とテーマを考え、更新できそうな4曲のお題をピックアップしCDに編集、通勤時間に聴き込んでいます。

慌しい日々が戻ってきましたので週に一度きりの更新、しかも短めの文量にはなりそうですが、この4曲を6月内に書いていきたいと思っています。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

まず今日は『NINO LOTA』から。
とても有名な曲ですね・・・映画『太陽がいっぱい』主題曲のカバー、「バイ・バイ・ララバイ」を採り上げます!

Nino5

みなさま、今日6月6日が「何の日」かご存知ですか?
カレンダーの記載を見たことがないですし、あまり知られていないのでしょうが、「楽器の日」なんです。

楽譜業界では毎年この日にちなんで前後の期間に「音楽書祭り」というフェアを開催しています。
各出版社がそれぞれ数点のタイトルを選出、プレゼント応募要項を記したフェア用の帯をつけて全国店舗展開させるのですが、例年5月中旬から展開スタートとなるところ、今年は緊急事態宣言による全国的な店舗臨時休業の影響があり、今月に入ってようやく対象商品の流通が始まったばかり。

ちなみに、何故6月6日が楽器の日かというと

Img7311

緊急事態宣言は解除となったものの、不要不急の外出は控え自宅で過ごす、というのが皆の認識。
そんな中、「家でもできる新しい趣味を持つ」世間の動きも出てきているようで、例えば今はプラモデルの売上が伸びているのだそうです。
対して楽器や楽譜は基本的には人に教えて貰う「習い事」の面が強く、町の音楽教室なども未だ自粛中というケースも多くて苦戦しています。
でもね、ギターやウクレレ、鍵盤はしっかりしたスコアが手元にあれば、充分「独学」できるものです。
6歳の6月6日というのはともかくとして・・・この機会にみなさま、是非楽器を始めてみてはいかがでしょうか。
アコギやウクレレ、電子鍵盤は最初に格安のものを購入しても大きな問題はありませんから(ただし、エレキギターの格安ものはチューニングが合わないなどのトラブルがあり得ます)

何故こんな話をしているのか・・・実は今日のお題「バイ・バイ・ララバイ」の原曲である「太陽がいっぱい」は、僕が中学でギターを覚えた時、懸命に練習してマスターした曲のひとつなのです。
他に「マルセリーノの歌」「鉄道員」などを一緒に覚えました。今考えると、初心者がいきなり手をつけるには結構な難易度の高いスコアから始めたんですよね。

僕の場合は、父親が母親の誕生日に買ってきたアコギを横取りするという形で(母親がなかなか手にとらなかったので)ギターを始めました。
父は一緒にスタンダードな有名曲を収載した曲集も買ってきていたんですけど、そのスコアが初心者向きかどうかまでは考えなかったみたい。TAB譜表記も無い五線譜で、指弾きのアルペジオ・アレンジです。
これを素人の僕が独学で一からトライするというのは大変な試みでしたが、そこはほら、「ギターが弾けるようになれば女子にモテるであろう」という10代の少年の下心が為せるひたむきな努力ですよ(笑)。
結果、女子にモテることはなかったものの、弾けば「おおお~!」と周囲に感心されるような有名曲を弾きこなせるようになったわけです。

で、この弾き始め最初期にマスターした曲って、その後何年経とうがスラスラ弾けるんです。
ある程度弾けるようになってから覚えた曲は数年のブランクがあると「え~と、どうだったっけかな」と仕切り直すのですが、先述の3曲などは身体が覚えていて指が勝手に動くという。
懸命に一から練習する、というのは尊いこと。
これか
らそれを体得、経験を積めるみなさまが羨ましいくらいです。
楽器に興味のある方は是非この機に始めてみて下さい。苦労はしますが「極端に易し過ぎない」スコアを選ぶのが僕の個人的なお勧めです。

おっと、すみません長々と。
この機にその「太陽がいっぱい」のスコアを改めて探してみたところ、さすがは有名曲、ニーズに応じてキーもアレンジ解釈も様々なパターンが見つかりました。

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↑『映画音楽の巨匠/ニーノ・ロータの世界』より。ピアノ・ソロ、4分の3、ハ短調

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↑『魅惑のポピュラー・ギター名曲選』より。ギター・ソロ、8分の6、イ短調(TAB譜の方の初っ端のルート音採譜がいきなり間違ってる・・・!正しくは6弦ではなく5弦の開放です)

Img7355

↑『映画音楽名曲全集』より。メロ譜、4分の3、ニ短調

どうやらオリジナル・キーはニ短調のようで(僕も最初に覚えたのはニ短調でした。鍵盤やウクレレだと簡単ですが、ギターだとセーハやハイ・ポジションのフォーム率が高くて初心者には難しいキーだったのです)、ジュリーの「バイ・バイ・ララバイ」もそうです。

あくまで『CD大全集』音源のみの感想ですが、ACTシリーズ全体に共通する独特のジュリー・ヴォーカルの色気が特に際立っていると思う作品は、まず『SALVADOR DALI』、次いで『NINO ROTA』。その『NINO ROTA』の中でも「バイ・バイ・ララバイ」には「禁断の色気」とも言うべき危うい官能すら感じます。
これは原曲と映画『太陽がいっぱい』のイメージを持ちつつ加藤直さんの日本語詞を聴くからなのでしょうね。

もしも君が 今目覚めたなら
   Dm

この世  は   とても 退屈だろう
   F#dim  D7-9      Gm    C7       F

だから言わない 今さら さよならを ♪
    E♭       Dm         A7            Dm

実際のACT映像でこの曲がどんなシーンで歌われるのかを僕は知りません。しかしこの加藤さんの詞を耳にするとどうしても脳裏に浮かんでくるのは、『太陽がいっぱい』でのトムとフィリップの船上対決シーンです。
二度と動かぬ眠りについたフィリップを見つめるトム。彼の胸にあるのは果たして憎しみと妬みだけだったのだろうか、憧れや不可解な愛情がありはしなかっただろうか、と観る者を戸惑わせます。
『太陽がいっぱい』は、ホモ・セクシャルを盛り込んだとした先駆けの作品と言われることがあるのだそうで、とすればあのシーンはドラマ『七人の刑事』の「哀しきチェイサー」や映画『太陽を盗んだ男』にも引き継がれているのかなぁ、と。
僕は今週カミさんの勧めでドラマ版『火花』を毎日2話ずつ観賞し昨日全話観終えたばかりで、たとえ明快に性的な描写は無くとも、2人の魅力的な男性が登場し、それぞれの野望遂げられぬ道をひた走る物語とは、そんなふうに見えるものなのかと考えてしまったり。

僕はジュリーの「バイ・バイ・ララバイ」の声の色気にそれを感じたわけですが、感性の鈍い僕に映像無しでそこまで思わせるジュリーって・・・本人は意図しないところでやっぱり「魔性」なのでしょうか。
加えて、特にACTシリーズのジュリー・ヴォーカルはワルツと相性が良いことも再確認したのでした。


ということで今日は「自宅で過ごすことが多いこの機に楽器をはじめてみよう!」「男同士の愛憎」という本筋から逸れまくった2つのテーマで(笑)このお題を書かせて頂きました。
次回更新はもうちょっと楽曲そのものに突っ込んだ内容になるかと思います。

お題は、『CD大全集』の中でもこれまた大好物の作品『ELVIS PRESLEY』から。
この1、2年で僕はずいぶんプレスリーの曲を勉強しました。プレスリーのオリジナルも、ACTでのジュリーのカバーも大好きなナンバーをお届けいたします。
更新まで1週間ほどお待ちくださいませ。

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