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2020年5月22日 (金)

沢田研二 「Beautiful World」

from『Beautiful World』、1992

Beautifulworld_20200522112801

1. alone
2. SOMEBODY'S CRYIN'
3. 太陽のひとりごと
4. 坂道
5. a long good-bye
6. Beautiful World
7. 懲りないスクリプト
8. SAYONARA
9. 月明かりなら眩しすぎない
10. 約束の地
11. Courage

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映画『キネマの神様』ジュリー主演決定のニュースは広く世間でも話題となり、普段ジュリーの話をしない友人からメールを貰ったり、職場でも「沢田研二凄いね」と言われたり(皆、僕がジュリーファンであることは知っています)、ファンとしてはちょっとくすぐったいような、なかなか気持ちの良い日々が続いております。
こうして明るいニュースも届けられ、大変な世の中にこれから少しずつ平穏が戻ってくるのでしょうか。
そうなることを願っています。

僕は今日はお休みを頂いております。
月末にこちらの緊急事態宣言が解除されれば、勤務先では時短業務こそそのまま続くかもしれませんが、さすがに交代制の週休3日はなくなるでしょう。
「不思議な休日」をこうしてブログ更新にあてられる日々も、あと僅かかなぁ?

さて『元気の出るジュリー・ナンバー』更新シリーズ、前回の「サンセット広場」に引き続き今日も「楽曲それ自体が既に癒し」という「ほのぼの系」の名曲がお題。
採り上げるのはアルバム『Beautiful World』表題曲「Beautiful World」です。よろしくおつき合いください。


前回の「サンセット広場」では素晴らしい意味での「詞曲不一致」の魅力について書きましたが、今度は一転、完璧な「詞曲一致」です。
少し前に「いとしの惑星」でも書いたように、覚和歌子さんの「メロディーに合った」歌詞、コンセプトやテーマの構築力は超一流で、「Beautiful World」もそんな名曲となっています。この頃は「曲先」の製作だったでしょうからなおさら凄い!
覚さんの詞が載ることで、まるでメロディーもヴォーカルもアレンジも最初から「こういう感じ」と狙って演繹法で作られたかのような仕上がりに思えてしまう・・・。
いや、もしかしたらこの曲の場合は本当にそんなこともあったのかな。
何と言ってもアルバム・タイトルなのですからね。

まずは吉田建さんの作曲とアレンジから見ていきましょうか。
いかにもベーシスト好みらしい裏ノリのリズム。穏やかなテンポで長調のレゲエ・ビート、というだけで既に「癒し系」が確定です。少し遡ると88年のアルバム『TRUE BLUE』収録の「EDEN」もそうでした。

ジュリーEMI期の建さんはプロデューサーとしての立場から、自身の作曲作品を以ってアルバム全体のバランスをとる、ということも考えていたと思います。
他収録曲が集まった時点で1枚ぶんのコンセプト・イメージを捉え、即した形で自らも作曲。
『Beautiful World』にはそれまでの3作とは一変して穏やかな作風のナンバーが集まっていて、「じゃあ(自分の曲の)リズムはこうだ!」という感じでしょうか。
建さんがもう1曲提供したハーフタイム・シャッフルの「a long good-bye」も併せ、「お洒落」な音のアルバムにしよう、という建さんの狙いが見えてきます。
「Beautiful World」のキーはト長調なんですけど、1番のサビ最後をマイナーに着地させるなど曲に柔らかなイメージを持たせています。これがまたアルバムのトータル・コンセプトを象徴しているように思えるのです。

そんな建さんのお洒落なメロディーに、ズバリ!の詞を載せてきた覚さん。
僕はこのアルバムを激安中古で購入したのですが(『ジュリー祭り』直後の時期で、その頃はEMI期のアルバムは廃盤状態のため高値をつけていたのでラッキーでした)、購入前は「Beautiful World」なるフレーズに、きらびやかで特別に輝かしい世界の歌なのだろう、スーパースターであるジュリーがそれをド派手に演じているのだろう、とイメージしていました。
ところが実際に聴くと全然逆で。

余計な輝きも  足りない夢もないから
C             Bm7     B7     Em          Am7

感じてほしい ♪
      B♭   D

覚さんの描く「Beautiful World」とは「何気ない日常」のことで、2人出逢っていなければそんな日常がどれほど美しく素晴らしい世界であるかを気づかずに過ごしていただろう、と歌うわけです。

It's a so Beautiful World
G                       Gmaj7

もしもふたり 出逢わなければ
              Am7               D

It's a so Beautiful World
G                       Gmaj7

こんな景色 知らないまま過ぎてたけど ♪
             Am7             D            G 

「いとしの惑星」同様に、今こんな状況になってこそ沁みる平凡、平穏の喜び。
本格ジュリー堕ちしたからこそ分かる、これは正にジュリー好みのコンセプトなのですねぇ。人生における瞬間瞬間の「特別さ」の描き方が阿久さんの時代とはこうも変わるものか、と後追いファンの僕などはしみじみ思う次第です。

・・・と、偉そうに書いてはいますが、実は今回記事を書くにあたり「エスパス」「フォルム」「シノプシス」の意味を初めてしっかり調べたんですけどね(汗)。
全部フランス語だった・・・意味はだいたいそれまで漠然と捉えていた通りだったとは言え、やはり

変わりつづけるのは フォルムだけ
G                      Gmaj7           Em7

一秒のシノプシス ♪
       C          D

このあたりの理解度は違ってきますな~。

見事な「詞曲一致」は、演奏やジュリーのヴォーカル処理にも必然影響してきます。

演奏では間奏のギターソロに注目。
「Beautiful World」にはゴリゴリのディストーションやド派手な速弾きフレーズは必要ありません。
空間系のエフェクトを施した優しい音色と音階。僕はこういうソロ、好きですねぇ。
例えば白井さんが弾いた「Pearl Harbor Love Story」や「勇気凛々」、下山さんが弾いた「エメラルド・アイズ」。僕はどうもこうした必然性あるギター・ソロに惹かれるようで、「Beautiful World」も同じ意味で名演と考えます。

で、ジュリーのヴォーカルですよ!
この時期のジュリー・ナンバーでは珍しい、ダブル・トラック(主旋律を複数のヴォーカル・トラックでユニゾン処理)が採用されています。
ジュリーの声の艶ならば、ヴォーカルはシングル・トラックの方が素敵に決まっている・・・でもこの曲は違うんです。ギター・ソロ同様に、「詞曲一致」がここでは優しさや朴訥さを求めていますから。

ダブル・トラック・ヴォーカル処理についてはジュリー・ナンバーお題でこれまで何度か書いたことがあって、おもに2つの手法があります。
別々に歌録りしたトラックを同時にミックスする方法(「人待ち顔」参照)と、単一のトラックを機材でコンマ数秒ずらして複製を作成しミックスする方法(「影 -ルーマニアン・ナイト-」参照)です。

「Beautiful World」ではジュリーの歌があまりに綺麗に、違和感なくピタリと重なっているので後者かと思いきや、実際はどうやら前者。
一番最後のサビ直前に、軽く囁くような感じでジュリーが「Yeah・・・」と声を出している箇所(3’50”あたり))だけシングルなんですよ。複製の手法ならここもダブルになるはずですから。
ジュリーの歌入れまでの万全の準備が想像されると同時に、天性の声の抑揚センスも窺い知れ、その素晴らしさが分かろうというものですね。

アルバム『Beautiful World』はEMI期の他の4枚に比べると地味で、ギンギンの作風とは言えません。
しかし長年かけて進化してきたロックのレコーディング技術の手管、収録楽曲のクオリティー、そして何より覚さんとの出逢いによりジュリーが「ささやかな日常をロックする」ことを志した最初の1枚としてとても、重要な名盤です。
それに、今のような時期にじっくり楽しむには最適のアルバムではないでしょうか。

僕はこのアルバムから今年の全国ツアー・セットリスト入りに「約束の地」を予想していましたが、2010年『歌門来福』で体感できた「SOMEBODY'S CRYIN'」を含め他収録曲サプライズ級の選曲ももちろん期待しています。
ギター1本体制でジュリーがトコトン「エレキ」の伴奏に拘るならば、「Courage」で柴山さんの神がかったアレンジが聴ける日もいずれ来るかもしれません。
楽しみは尽きませんね。


それでは次回更新は・・・6月は久々に「act月間」とする予定で、その前のこの5月中に「元気の出るジュリー・ナンバー」としてなんとか頑張ってあと2本の記事を書きたいと思っています。

今度は「歌詞に勇気づけられる」をテーマに名曲2曲を用意しました。
ジュリー自身の作詞と、もう1曲はGRACE姉さんの作詞・・・まずはジュリー作詞の方からとりかかります。
どうぞお楽しみに!

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瀬戸口雅資のジュリー一撃伝授!」カテゴリの記事

コメント

初めての通信です。情報難民(pc不能力者)で、家族から貸与のiPadも長らく放置…通販と検索を覚えた頃、気がつけば、「さ」で「沢田研二」。それより先ずググろうとするとAやGやYと並んで、こちらのがDとなって出現!たぶん辞典のように、ジュリー祭りのCDの回を見ていたから。高校時代が若虎の世代、地方都市在住で、たった1度のライブ経験(校則破りまくって関門トンネル潜って県外へ)新世紀、33年ぶりに参加以来、楽しんでいます。

投稿: ジュリーの すすめ | 2020年5月23日 (土) 16時39分

初めての通信です。情報難民(pc不能力者)で、家族から貸与のiPadも長らく放置…通販と検索を覚えた頃、気がつけば、「さ」で「沢田研二」。それより先ずググろうとするとAやGやYと並んで、こちらのがDとなって出現!たぶん辞典のように、ジュリー祭りのCDの回を見ていたから。高校時代が若虎の世代、地方都市在住で、たった1度のライブ経験(校則破りまくって関門トンネル潜って県外へ)新世紀、33年ぶりに参加以来、ライブ楽しんでいます。昨夜このCDをまた聴いていたので、お便りしました。作詞者が一貫しているので、ひたすらジュリーの声に浸ります。
今はッとしました、52年前 の5月初めてのライブ、遠くの席から、ただただじいっとステージ見ていました。不思議なものです。

投稿: ジュリーの すすめ | 2020年5月23日 (土) 19時26分

p.s. 不慣れで重複して送信してしまい申し訳ありません。歳を経ていくジュリーに魅力を感じます。act月間、楽しみに待っております。できればDVDをご覧になってから教えていただきたいのですが…actを経験して完熟ジュリーへの道を辿っているような感想を抱いています。

投稿: ジュリーの すすめ | 2020年5月23日 (土) 22時47分

ジュリーのすすめ様

はじめまして。
コメントどうもありがとうございます!

52年前の初めてのLIVE、貴重なお話をありがとうございます。
1968年ということになりますか。5月とのことですから僕は当時まだ1歳です。本当にその時代限りの体験、うらやましい限りです。

思わぬ時間ができてしまったこの時期、いよいよactを何本か観る時が来たかな、と思っていましたが、緊急事態宣言が明け、いきなり仕事が忙しくなってしまいました。
また「映像を観ずにCD音源だけで考察する」という形にはなってしまいますが、6月のact月間も張り切って書きたいと思います。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!

投稿: DYNAMITE | 2020年5月26日 (火) 09時26分

DY様
早速ご返信、お忙しいなか恐縮です、ありがとうございます。半世紀も前の事で、算数間違えました1969年、51年前でした。じゅり友姉妹の真ん中ですが、GS時代のライブを経験したのは私だけで、武勇伝なんですよ。あの日、自分の人生で大切な事を学んだのだと後になって知りました。これは譲れない、と思ったら、たった一人でもやると。同世代の地方在住の方々はお分かりでしょうか。チケットが届いて大喜びで級友も知っていたのに、直前に学校が禁止令。大人は狡い、心底思いましたね。見てくれを愛する馬鹿娘たちと思ってる。長髪は不良だと決めつけてる。ジュリーのファンは連帯感が特別というのは、みんなそれぞれの思いを秘めているからかもしれません。ジュリーも20歳の誕生日は特別だったと思っています。私は自分の事情で遠ざかってしまったけど、長いジュリーマニアの方々、コアなファンの方々に敬意、じゅり勉できて感謝です。お陰さまで昨年のライブは全曲完璧に参加できました。年に一度にもかかわらず、ガッツポーズでした。誕生日の歌もバッチリ決まって、ご本人が、みんなどれだけ来てたの、って。ジュリー薬師寺にお参りされた から、きっと大丈夫です。
ACTについては、CDには持ち歌が録音されていないようなので、お願いしてしまいました。全く個人的ですみませんでした。
私が動画で見たのが何のステージかわからず、いろいろグルグルして、ACTに辿り着いたのがきっかけです。憎みきれないろくでなし、こんなアレンジ聴いたことない!でした。その後ACT大好きになってしまいました。オリジナルもカバーも大好き💕ダリは、知られざるジュリー、最後に女神って、決まりすぎです。
勝手ながら今後もよろしくお願いいたします。どうぞくれぐれもご無理なさらず、お過ごしください。

投稿: ジュリーのすすめ | 2020年5月26日 (火) 19時31分

ジュリーのすすめ様

ありがとうございます!

リアル・タイガース世代の地方在住の先輩方のお話は、よく聞かせて頂いています。
本当に「大人達」からの風当たりは強かったみたいですね・・・。

20歳の誕生日は特別、とジュリーが言っていましたか~。
当時世間に多くいた反面教師のことも含め、「自分はどのように大人になるか」と考えたのでしょうか。

仰る通りACTのCD大全集は演目すべてが収録されていませんので、いつか映像鑑賞の際に「この曲も歌っていたのか!」というACTならではのアレンジでの出逢いも大きな楽しみのひとつです(パンフレットを持っているいくつかの作品は、曲目を把握していますが)。

今のところ僕のACTフェイバリットは、作品だとダリで、曲ですとまた別作品収録の・・・こちらは今年のジュリーの誕生日にお題更新する予定でいます。楽しみにお待ちください。

投稿: DYNAMITE | 2020年5月28日 (木) 09時13分

DY様 こんばんは。

当時はサラッと心地よく聴き流してしまった歌だけど、聴き直すと素敵な歌です。
何気なく見過ごしてきた日常が誰かとの出会いによって特別な意味を持ち始める。その時それまでの出来事が走馬灯のように一瞬で脳裏を駆け巡る感覚。
そういえば、ジュリーの曲全部知っている自負があっても、あまりピンとこなかったり苦手な曲があったりしていたのですが、DY様のレクチャーで目からウロコだったり、改めて聴き直すことで当時とは全く違った風に聴こえたりすることがよくあります。

ACTシリーズ、せっかくDVDで見れるのですから、1作だけでも見てもらいたいなぁ。・・・でも止まらなくなるかな。私はビデオからDVDに焼き直してもらったので画質悪っ。

投稿: nekomodoki | 2020年5月28日 (木) 22時51分

nekomodoki様

ありがとうございます!

いえいえ、僕自身がお題記事を書く際に、それまで見過ごしていた歌の魅力に改めて気づかされる、ということの連続なのです。
その上で先輩方に、後追いの僕が知らない貴重なエピソードなど教えて頂くのでとても有り難い・・・いつしか「伝授!」などとは畏れ多くて言えない心境になりました(笑)。

ACTの映像は、もうちょっと緊急事態宣言が長引いたら数本観ていたと思いますが・・・。
ただ僕の場合まだまだCD大全集をすべて聴きこめているとは言えず、今回もまた自分の勉強を兼ねて、という感じで記事をお届けすることになりそうです。
今回も当時のこと、色々と教えてくださいませ~。

投稿: DYNAMITE | 2020年5月29日 (金) 09時01分

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