沢田研二 「強いHEART」
from『愛まで待てない』、1996
1. 愛しい勇気
2. 愛まで待てない
3. 強いHEART
4. 恋して破れて美しく
5. 嘆きの天使
6. キスまでが遠い
7. MOON NOUVEAU
8. 子猫ちゃん
9. 30th Anniversary Club Soda
10. いつか君は
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緊急事態宣言が明けました。
各業界業種の対応は様々かと思いますが、YOKO君の情報によれば仲間いきつけの音楽スタジオが営業を再開したとか。
僕の勤務先も今週からほぼ通常モード。自粛期間の空白を取り戻さんとばかりの、特に関西の問屋さん、お店さんの元気、活気を感じられるのは嬉しいことです。
もちろん油断は大敵。第二波の心配もありますし引き続き気をつけて生活してゆくことは当然です。特に僕などは元々身体が強くはありませんから・・・。
気をつけることも山積み、ギアを入れ直して改めてとりかかる仕事も山積み。
それでもまずは、今頑張れる環境に置かれている者から率先して頑張っていかなくては、と思っています。
それでは『元気の出るジュリー・ナンバー』更新シリーズもひとまずあと2曲となりました。
今回と次回は「歌詞に勇気を貰える名曲」のテーマでお題を選んでみました。今日はアルバム『愛まで待てない』から、ジュリー作詞・玉置浩二さん作曲の「強いHEART」を採り上げます。
2009年の『Pleasure Pleasure』ツアーで生体感できていますが、是非もう一度聴きたいとその後もセトリ入りを期待し続けている名曲。
ただこの曲は歌詞解釈がとても難しくて、個人的にはここでの「君」を同性の友人、もしかするとタイガースのメンバーを思って書いたのかなぁとも考えていますが(TEA FOR THREE始動への繋がりも合わせて)まったく自信はありません。
戻れない 底抜けの軽さ に ♪
G A F#m7 Bm
この「底抜けの軽さ」をストンと解釈できれば詞の全体像も掴めるはず、とは思っているのですが・・・。
いずれにしても「強いHEART」がプライヴェート色の濃さと同時に、ジュリーの矜持を解放させたような強力なメッセージ・ソングであることは確か。明るい内容の歌とも思えないのに勇気が沸く、憧れ続けられる・・・僕にとってはそんな名曲です。
今日は考察というより「僕はこんなふうに聴いています」という内容ですが、よろしくおつき合いください。
前回、『キネマの神様』主演決定のニュースで友人や職場の同僚からジュリーの話題を振られ良い気分で過ごしている、と書きました。
ジュリーのことがそんなふうに周囲で話題となるのは、一昨年のさいたまアリーナの件以来なんですけど、あの時は「良い気分」とはいかなかったんですよね。
話す相手に逐一ジュリーの普段の志や事情を説明することに躍起になったものです。
何より僕自身があの件をうまく受け止めきれていなかった・・・ジュリーが会見で語った「意地」のフレーズが引っかかってしまったりね。
修行が足りません・・・あの時僕はジュリーの言う「意地」を「プライド」と混同していました。
ジュリーは矜持のためならプライドなんて捨てられる人だと思っていたので(ジュリワンで出演した『songs』の時にそのあたりを色々と考えたことがあります)、「あれっ、ジュリーがプライドを保とうとしたってこと?おかしいなぁ」と勘違いし、まぁ悩んだわけです。
今はそうではありません。「プライド」とは対世間であり「意地」とは対自分自身。ジュリーはそんなふうに言葉を使い分けているのだ、と思い当たりましたから。
そして、「意地」を他のフレーズに置き換えるとするならば、それが「強いHEART」ではないでしょうか。
壊れない 掛け替えのないもの
G A F#m7 Bm
強い HEART
Gm A
プライド捨てたっ て 失くすものはない ♪
G A F#m7 Bm G A D
この歌では「強いHEART」と「プライド」の両フレーズは対比的に書かれています。
「世間がどうやかましかろうと、自分の矜持を譲らなければそれでよい」と解釈するのは僕が凡庸だからかもしれないけど、そう思えることで勇気が出ます。
アルバム『愛まで待てない』初っ端3曲の畳みかけは、その意味で最強の並びと感じています。
「世間」と言えば思い出すのは、さいたまアリーナの件について多くの著名人が色々な発言をしていたこと。
あの時こそ、(これは発言の有る無しに関わらず、ですが)いざという時にジュリーを理解しジュリーの側に立つ人が明快になったかもしれませんね。
当然ながらタイガースのメンバー(サリーさんとピーさんの発信は僕もネットで確認しました)、加えて嬉しかったのは、あの直後に玉置浩二さんがステージで突発的に「君をのせて」を歌ってくれた、との情報でした。
玉置さんのジュリーへの楽曲提供は今日お題の「強いHEART」1曲のみですが、この名曲隅々にまで溢れるジュリーへのリスペクトは、ずっと変わらずその胸にあったのだなぁ、と。
ジュリーと玉置さんって、活動が離れていても共鳴し合える関係のように思えるんですよね。
作曲家としての玉置さんはもう「天才!」としか言いようがないです。
何故こんなふうにコードが繋がるのか、何故こんなふうにメロディーが載るのか・・・凡人には到底考え及ばぬ独創性、それでいてなおかつキャッチーな大衆性も合わせ持つという。
僕が玉置さんの曲で「強いHEART」と同じくらい凄いと思うのは、84年に小林麻美さんに提供している「哀しみのスパイ」(作詞は松任谷由美さん!)。
Aメロ途中に「Dm7→G7→C」という進行が登場します。これ、キーがイ短調(或いはハ長調)の曲ならば王道中の王道、しかしこの曲はホ短調なのです。
Emをボ~ンと鳴らしてから作曲を開始して、何故この進行をいきなりブッ込めるのか・・・考えられません。
ジュリーの「強いHEART」の場合は、クリシェ・ラインの繋ぎ方が凄まじい。
お互いに 時間をかけ て
Bm Bm(onA) Bm(onG) F#m
今はもう 変わらずにい て ♪
Em Em7(onD) C#m7-5 F#7
(↑歌詞は3番。個人的に一番好きな箇所です)
進行の中に「シ→ラ→ソ→ファ#→ミ→レ→ド#」と下降する1本のぶっとい線があって、和音が支配されているんですけど、歌メロにはそんな制約は微塵も感じられない・・・何故こうなる?と感嘆しつつも和音とメロディーを重ねて追うだけで大変です。
あと、小節の頭に向かってメロディーがグイグイ来る感覚。きっと理屈ではないんですね。
ほら、学生時代に「勉強しないのにメチャクチャ勉強ができる人」っていたじゃないですか。玉置さんの作曲はそんなふうに「神童」的なんですよ。
ジュリーには名だたる作曲家が数えきれないほどの名曲を提供していますが、コード進行とメロディーだけで「こりゃとんでもない。凡人には絶対作れない!」とある種「得体の知れなさ」まで感じるほど畏怖させられるのは玉置さんの「強いHEART」とミッキー吉野さんの「未来地図」の2曲だけ。
みなさま、試しにこの2曲を続けて聴いてみてください。編曲者はそれぞれ大村憲司さん、白井良明さんと異なるのに雰囲気がよく似ていませんか?
これは作曲者の強さと密度に引っ張られているんですよ(とは言え「強いHEART」の大村さんのアレンジの素晴らしさも只事ではありませんが)。
もちろん玉置さんは作曲のみならずヴォーカル、ギターも素晴らしいです。
僕がリアルタイムで観て忘れられない映像は、第27回レコード大賞「作曲賞」の受賞シーンです。受賞者は井上陽水さんで、当時既に大ブレイクを果たしていた安全地帯がバックを務めたという豪華なパフォーマンス(安全地帯が陽水さんのツアー・バンドのキャリアを持つことは有名なのでご存知のかたも多いでしょう)。
陽水さんと玉置さんが横並びになって「飾りじゃないのよ涙は」を綺麗に、そして豪快にハモるわけです。
「ワインレッドの心」をベストテンでよく観ていた時には当然玉置さんのヴォーカルは凄いなぁと感じていたけれど、ギターは弾いてるんだか弾いてないんだかよく分からなかった・・・ところがその「飾りじゃないのよ涙は」での玉置さんのストロークの情熱的なことよ・・・。
「魂入れて弾く、とはこういうことか。玉置さんギターも凄ぇ!」と衝撃を受けたものでした。
「強いHEART」の玉置さんのプリプロ音源はギターの弾き語りだったのでしょうが、叶うならばそちらも一度聴いてみたいものです。
たぶん最終的なジュリーの音源よりもバラード色が強かったんじゃないかなぁ・・・。独特の粘りがある玉置さんのヴォーカルと、あまりに個性的な作曲手法をギターの鳴りに置き換えて想像するとね。
最高音が高い「ラ」の音まで跳ね上がるのも、玉置さんの作曲段階からそうだったのでしょう。
ジュリーも意地とリスペクトを以って見事応えています。この場合の「意地」も当然素敵な意味ですよ!
僕はアルバム『愛まで待てない』からは「愛しい勇気」「愛まで待てない」「強いHEART」「嘆きの天使」「30th Anniversary Club Soda」の5曲を生体感できています。
『Pleasure Pleasure』ツアーの「強いHEART」は柴山さんがバッキング、リードが下山さんだったなぁ。
アルバム収録曲10曲のうち半分の5曲ですから、これはなかなかのセトリ率(『サーモスタットな夏』の10曲中6曲には及びませんが)。
今後残る5曲を聴く機会はあるでしょうか・・・楽しみにその時を待ちたいものです。
それでは次回、5月内になんとかあと1曲・・・GRACE姉さん作詞のナンバーを書きたいと思います。
今週からいきなり忙しくなりました。
まだ油断はできませんが、思いもかけない休日で時間の余裕があった日々もどうやらひと区切り。
それでも忙しいというのは有り難いことです。「大切な普通」が戻ってこようとしているのですから。
・・・って、これは次回お題の予告になってしまっていますが、お題を計画的にピックアップした更新予定としては「狙い通り」なタイミングの曲ではあります。
長かったようであっという間だった5月の締めくくり記事、あと3日で更新間に合うかな・・・。
なんとか頑張ります(笑)。
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コメント
こんにちは。次の更新前に、ごめんなさい。
ご指南ありがとうございます!
2曲を続けてヘッドホンで聞きなおしました。
オリエンタルで、日本のロックで、
気持ちよさと厚みや陰影があるというか。
あるところでは、ギターと歌はまるで別のメロディを同時に歌いながら、ぴたりと合っているような?
柴山さんとふたりのライブが作る音楽もそういうもの?
歌詞だけを読むと、暗くて重くてギリギリの状況ですよね。
「プロティアン」その場に柔軟に適応して変わり身の上手いプロメテウスに対して、
それでも最後の最後まで手放せない自分らしさ、矜持、自分の核のような真実でどうしようもない甲斐性、prideというよりdignityというのでしょうか、強いHEARTが残るはずだよ、といわれたように感じました。阪神淡路大震災のあと、世紀末モードでもあったでしょうか。
でも曲はすごく気持ちいい!
「未来地図」の記事も読ませていただきました。
こちらも歌詞はきわどく、凝っているのに気持ちいい音楽。
ミッキー吉野さんの2015年の本で、ジュリーの注釈が
「沢田研二 60年代半ばから活動する日本を代表するロックシンガー」とあってうれしかったです。
新参者のジュリー後追いのわたしは、昔妹と聞きまくったタケカワさんの英語の曲を、ミッキー吉野グループと、比叡山でジュリーが歌った音源を聞いたときには、すごく感動しました。
浅野さんの訃報の前、塾年ゴダイゴや依知川さんと浅野さんのライブに、そのうちきっと行こうね、と妹と話していたところでした。 合掌。
幻のツアーの準備はかなり進んでいたのか、スタジオ録音で再現はどうかな、とか考えましたが、コロナの前後では選曲も変わるはず。「Help!」の叫びはもっと強くなるでしょうね。
投稿: piano | 2020年5月31日 (日) 08時31分
piano様
ありがとうございます!
目からウロコのコメントを頂きました。なるほどこれは「祈り歌」の可能性がありましたか~!
僕は『ジュリー祭り』以前の曲については後追いのため、リリース当時の世の中の状況と楽曲をリンクさせることができません。そこで特にジュリー自作詞の歌の解釈ができずにいること、よくあるのです。
改めて考えれば、ジュリーほどの人があの阪神・淡路大震災を自身の創作に反映させない筈がなく・・・翌87年リリースのこのアルバム、自作詞の「強いHEART」。僕がその点注意できなかったのは迂闊でした。
歌詞解釈、大きく進んだ気がします。ありがとうございます!
ジュリーはきっと、今年のこのコロナ禍のことも歌にするでしょうね。
浅野さんの訃報は本当に残念でした。あまりにも早過ぎます・・・。
投稿: DYNAMITE | 2020年5月31日 (日) 18時21分
DY様 こんばんは。
「強い」の意味はいろいろですが。
易きに流されない意思かな?
この曲を聴いてなぜか改めて聴きたくなったのが「違いのわかる男」
GRACEさんの詞ですが、ジュリーのことをよくわかっているな、と思いました。
「強く見える」のと「本当に強い「」のは似てるようで本質的に違うんでしょう。
「違いのわかる男」・・・そういえば過去の伝授にあったっけ?と思ったら・・・ありましたよ。まだ私がコメに参加してなかった時。
10年以上前でした。時間があったら今からコメしていいですか?
投稿: nekomodoki | 2020年6月 2日 (火) 22時36分
nekomodoki様
ありがとうございます!
「易きに流されない意思」確かにそうですね。凡人が持つにはとても難しい強さです。
ジュリーもやすやすとその境地に、ということはなかったと想像しますが、若い頃から「そうあるべき」と志を持っていたことは色々な発言からうかがえます。やはり特別な人ですね。
「違いのわかる男」は大好きな曲です。
記事を書いたのは『ジュリー祭り』直後の「未聴のアルバム怒涛の大人買い期」の頃で、考察も何もない内容でしたが、懐かしいです。コメントお待ちしていますよ~。
投稿: DYNAMITE | 2020年6月 3日 (水) 09時25分
DY様
こんばんは。またまたとんでもない忘れた頃のコメント、お許しを。
お題曲、90年代ジュリーのベストトラックとも思える大好きな曲です。コード進行は何となく凝っていそうだなとは思っていましたが、伝授を拝読しとんでもなく音楽的に高度な作品だと知りました。ありがとうございます。
歌メロはもちろん素晴らしいですが、イントロ、それに短い間奏部も秀逸です。あと、なぜだかドラムスが何とも言えない心地良さなんですよね。
歌詞は深すぎて凡人の私にはちょっとムツカシイんですが、メロディーと完全にマッチしていて、それはそれで必然的な詞・曲の組み合わせですよね。
投稿: ねこ仮面 | 2020年11月11日 (水) 17時34分
ねこ仮面様
ありがとうございます!
そうそう、この決して長くない、そっと差し出すような間奏が良いんですよね~。
僕は鉄人バンドで生体感しているせいか、間奏では下山さんのストラトを思い出します。
玉置浩二さんと言えば、今年末に他歌手への過去提供曲のセルフカバー・アルバム発売が決まっています。
ただ、まだ収録曲目がリリースされていないんですよ。
玉置さんは以前にもセルフカバーのアルバムを出されていましたが、その時は「強いHEART」の収録はありませんでした。
今回こそ、と期待しています。
投稿: DYNAMITE | 2020年11月13日 (金) 18時18分