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2020年5月

2020年5月31日 (日)

沢田研二 「大切な普通」

from『新しい想い出2001』、2001

Atarasiiomoide_20200531000701

1. 大切な普通
2. 愛だけが世界基準
3. 心の宇宙(ソラ)
4. あの日は雨
5. 「C」
6. AZAYAKANI
7. ハートの青さなら 空にさえ負けない
8. バラード491
9. Good good day

------------------

5月をこの曲の記事で締めくくる、とずいぶん前から決めていたのに、タイムリミットが迫ってしまいました。
考察もできぬまま、駆け足の簡単な記事で更新させて頂くこと、お許しください。

アルバム『新しい想い出2001』のトップを飾るBPM速めのモータウン・ビート・ナンバー「大切な普通」。
アルバムそれ自体がジュリーの新たな方向性を示す中で、GRACE姉さんのこの詞はその後のジュリーの創作を推し量るような、「的を得た」名篇のように思います。

今年2020年、全世界で突然のコロナ禍により「大切な普通」が危機に陥る事態となりました。
ごく平凡なサラリーマンである僕の生活も4、5月の間は様変わりをし、先週の緊急事態宣言解除を受けていったんは元に戻りました。
時短業務と週休3日がしばらく続いていたので、「普通」の生活パターンに戻すことになかなか精魂を使います。その上で、引き続き身体や環境に気を配らなければなりませんから、なおさらです。

「電車がまた混みはじめてきた」のも実感。
「収束には程遠い」のも実感。

それでも「大切な普通」を取り戻すべく、頑張れる環境にある自分は頑張らないと、と思っています。

ジュリーの「大切な普通」って、冒頭からギターがギンギンに鳴っているのでハードな印象を抱かれているかもしれないけど、メロディーはかなりポップ寄りなんですよね。例えば

ツナガル ツムグ ツチカウ ツクス ♪
A                       C#

「時の過ぎゆくままに」ばりの泣きの進行。
或いは

キーワード 縛られて ♪
         A            Aaug

「夕なぎ」ばりのオーギュメントの採用。

さらに、間奏のリード・ギターに派手なエフェクトはかけられていません。

ハードなアレンジの中の優しげな本質。
何か、せわしない仕事に追われていることが何気ない平穏な日常だった、と思わせてくれるような。

でも、忙しけりゃいいってものでもないとも思う・・・そりゃあ暇よりはよいのだろうけど、この機にちょっと「普通」の在り方を皆で考え直してみたい。
身の廻りで考えても、都会ばかりに極端に人が密集していたり、そういうことを普通に感じていたのはおかしなことだったんじゃないか、とかね・・・考え始めています。

みなさまはこの2ヵ月、どんなふうに過ごし、どんなことを考えていましたか?
この期間を、せめて今後に向けての貴重な経験値にしたいものです。

明日から6月です。ジュリーの誕生月ですね。
拙ブログではこの6月、久々にactシリーズの楽曲お題に取り組もうと思っています。
5月ほど時間の余裕がなく、どのくらいの曲数書けるかは分かりませんが、ジュリーの誕生日である25日更新のお題だけはもう決めています。

日常を頑張りつつ、マイペースで更新してゆきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

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2020年5月28日 (木)

沢田研二 「強いHEART」

from『愛まで待てない』、1996

Aimadematenai

1. 愛しい勇気
2. 愛まで待てない
3. 強いHEART
4. 恋して破れて美しく
5. 嘆きの天使
6. キスまでが遠い
7. MOON NOUVEAU
8. 子猫ちゃん
9. 30th Anniversary Club Soda
10. いつか君は

-----------------

緊急事態宣言が明けました。
各業界業種の対応は様々かと思いますが、YOKO君の
情報によれば仲間いきつけの音楽スタジオが営業を再開したとか。
僕の勤務先も今週か
らほぼ通常モード。自粛期間の空白を取り戻さんとばかりの、特に関西の問屋さん、お店さんの元気、活気を感じられるのは嬉しいことです。

もちろん油断は大敵。第二波の心配もありますし引き続き気をつけて生活し
てゆくことは当然です。特に僕などは元々身体が強くはありませんから・・・。
気をつ
けることも山積み、ギアを入れ直して改めてとりかかる仕事も山積み。
それでもまずは
、今頑張れる環境に置かれている者から率先して頑張っていかなくては、と思っています。

それでは『元気の出るジュリー・ナンバー』更新シリーズもひとまずあと2曲とな
りました。
今回と次回は「歌詞に勇気を貰える名曲」の
テーマでお題を選んでみました。今日はアルバム『愛まで待てない』から、ジュリー作詞・玉置浩二さん作曲の「強いHEART」を採り上げます。

2009年の『Pleasure Plea
sure』ツアーで生体感できていますが、是非もう一度聴きたいとその後もセトリ入りを期待し続けている名曲。
ただこの曲は歌詞解釈がとても難しくて、個人的にはここでの
「君」を同性の友人、もしかするとタイガースのメンバーを思って書いたのかなぁとも考えていますが(TEA FOR THREE始動への繋がりも合わせて)まったく自信はありません。

戻れない   底抜けの軽さ に ♪
         G   A               F#m7 Bm

この「底抜けの軽さ」をストンと解釈できれば詞の全体像も掴めるは
ず、とは思っているのですが・・・。

いずれにしても「強いHEART」がプライヴェート
色の濃さと同時に、ジュリーの矜持を解放させたような強力なメッセージ・ソングであることは確か。明るい内容の歌とも思えないのに勇気が沸く、憧れ続けられる・・・僕にとってはそんな名曲です。
今日は考察というより「僕はこんなふうに聴いています」
という内容ですが、よろしくおつき合いください。


前回、『キネマの神様』主
演決定のニュースで友人や職場の同僚からジュリーの話題を振られ良い気分で過ごしている、と書きました。
ジュリーのことがそんなふうに周囲で話題となるのは、一昨年の
さいたまアリーナの件以来なんですけど、あの時は「良い気分」とはいかなかったんですよね。
話す相手に逐一ジュリーの普段の志や事情を説明することに躍起になったもの
です。

何より僕自身があの件をうまく受け止めきれていなかった・・・ジュリーが会見
で語った「意地」のフレーズが引っかかってしまったりね。
修行が足りません・・・あ
の時僕はジュリーの言う「意地」を「プライド」と混同していました。
ジュリーは矜持
のためならプライドなんて捨てられる人だと思っていたので(ジュリワンで出演した『songs』の時にそのあたりを色々と考えたことがあります)、「あれっ、ジュリーがプライドを保とうとしたってこと?おかしいなぁ」と勘違いし、まぁ悩んだわけです。
今はそうではありません。「プライド」とは対世間であり「意地」とは対自分
自身。ジュリーはそんなふうに言葉を使い分けているのだ、と思い当たりましたから。

そして、「意地」を他のフレーズに置き換えるとするならば、それが「強いHEART」ではないでしょうか。

壊れない   掛け替えのないもの
         G    A                 F#m7  Bm

強い  HEART
      Gm   A

プライド捨てたっ て    失くすものはない ♪
     G    A   F#m7  Bm         G   A          D

この歌では「強いHEART」と「プライド」の両フレーズは対比的
に書かれています。
「世間がどうやかましかろうと、自分の矜持を譲らなければそれで
よい」と解釈するのは僕が凡庸だからかもしれないけど、そう思えることで勇気が出ます。
アルバム『愛まで待てない』初っ端3曲の畳みかけは、その意味で最強の並びと感
じています。

「世間」と言えば思い出すのは、さいたまアリーナの件について多くの著
名人が色々な発言をしていたこと。
あの時こそ、(これは発言の有る無しに関わらず
、ですが)いざという時にジュリーを理解しジュリーの側に立つ人が明快になったかもしれませんね。
当然ながらタイガースのメンバー(サリーさんとピーさんの発信は僕も
ネットで確認しました)、加えて嬉しかったのは、あの直後に玉置浩二さんがステージで突発的に「君をのせて」を歌ってくれた、との情報でした。

玉置さんのジュリーへの楽
曲提供は今日お題の「強いHEART」1曲のみですが、この名曲隅々にまで溢れるジュリーへのリスペクトは、ずっと変わらずその胸にあったのだなぁ、と。
ジュリーと玉置さん
って、活動が離れていても共鳴し合える関係のように思えるんですよね。

作曲家としての玉置さんはもう「天才!」としか言いようがないです。
何故こんなふうにコードが繋がるのか、何故こんなふうにメロディーが載るのか・・・凡人には到底考え及ばぬ独創性、それでいてなおかつキャッチーな大衆性も合わせ持つという。

僕が玉置さんの曲で「強いHEART」と同じくらい凄いと思うのは、84年に小林麻美さんに提供している「哀しみのスパイ」(作詞は松任谷由美さん!)。
Aメロ途中に「Dm7→G7→C」という進行が登場します。これ、キーがイ短調(或いはハ長調)の曲ならば王道中の王道、しかしこの曲はホ短調なのです。
Emをボ~ンと鳴らしてから作曲を開始して、何故この進行をいきなりブッ込めるのか・・・考えられません。

ジュリーの「強いHEART」の場合は、クリシェ・ラインの繋ぎ方が凄まじい。

お互いに      時間をかけ    て
         Bm   Bm(onA)     Bm(onG) F#m

今はもう     変わらずにい    て ♪
         Em  Em7(onD)      C#m7-5  F#7

(↑歌詞は3番。個人的に一番好きな箇所です)

進行の中に「シ→ラ→ソ→ファ#→ミ→レ→ド#」と下降する1本のぶっとい線があって、和音が支配されているんですけど、歌メロにはそんな制約は微塵も感じられない・・・何故こうなる?と感嘆しつつも和音とメロディーを重ねて追うだけで大変です。

あと、小節の頭に向かってメロディーがグイグイ来る感覚。きっと理屈ではないんですね。
ほら、学生時代に「勉強しないのにメチャクチャ勉強ができる人」っていたじゃないですか。玉置さんの作曲はそんなふうに「神童」的なんですよ。
ジュリーには名だたる作曲家が数えきれないほどの名曲を提供していますが、コード進行とメロディーだけで「こりゃとんでもない。凡人には絶対作れない!」とある種「得体の知れなさ」まで感じるほど畏怖させられるのは玉置さんの「強いHEART」とミッキー吉野さんの「未来地図」の2曲だけ。
みなさま、試しにこの2曲を続けて聴いてみてください。編曲者はそれぞれ大村憲司さん、白井良明さんと異なるのに雰囲気がよく似ていませんか?
これは作曲者の強さと密度に引っ張られているんですよ(とは言え「強いHEART」の大村さんのアレンジの素晴らしさも只事ではありませんが)。

もちろん玉置さんは作曲のみならずヴォーカル、ギターも素晴らしいです。
僕がリアルタイムで観て忘れられない映像は、第27回レコード大賞「作曲賞」の受賞シーンです。受賞者は井上陽水さんで、当時既に大ブレイクを果たしていた安全地帯がバックを務めたという豪華なパフォーマンス(安全地帯が陽水さんのツアー・バンドのキャリアを持つことは有名なのでご存知のかたも多いでしょう)。
陽水さんと玉置さんが横並びになって「飾りじゃないのよ涙は」を綺麗に、そして豪快にハモるわけです。
「ワインレッドの心」をベストテンでよく観ていた時には当然玉置さんのヴォーカルは凄いなぁと感じていたけれど、ギターは弾いてるんだか弾いてないんだかよく分からなかった・・・ところがその「飾りじゃないのよ涙は」での玉置さんのストロークの情熱的なことよ・・・。
「魂入れて弾く、とはこういうことか。玉置さんギターも凄ぇ!」と衝撃を受けたものでした。

「強いHEART」の玉置さんのプリプロ音源はギターの弾き語りだったのでしょうが、叶うならばそちらも一度聴いてみたいものです。
たぶん最終的なジュリーの音源よりもバラード色が強かったんじゃないかなぁ・・・。独特の粘りがある玉置さんのヴォーカルと、あまりに個性的な作曲手法をギターの鳴りに置き換えて想像するとね。
最高音が高い「ラ」の音まで跳ね上がるのも、玉置さんの作曲段階からそうだったのでしょう。
ジュリーも意地とリスペクトを以って見事応えています。この場合の「意地」も当然素敵な意味ですよ!

僕はアルバム『愛まで待てない』からは「愛しい勇気」「愛まで待てない」「強いHEART」「嘆きの天使」「30th Anniversary Club Soda」の5曲を生体感できています。
『Pleasure Pleasure』ツアーの「強いHEART」は柴山さんがバッキング、リードが下山さんだったなぁ。

アルバム収録曲10曲のうち半分の5曲ですから、これはなかなかのセトリ率(『サーモスタットな夏』の10曲中6曲には及びませんが)。
今後残る5曲を聴く機会はあるでしょうか・・・楽しみにその時を待ちたいものです。


それでは次回、5月内になんとかあと1曲・・・GRACE姉さん作詞のナンバーを書きたいと思います。

今週からいきなり忙しくなりました。
まだ油断はできませんが、思いもかけない休日で時間の余裕があった日々もどうやらひと区切り。
それでも忙しいというのは有り難いことです。「大切な普通」が戻ってこようとしているのですから。
・・・って、これは次回お題の予告になってしまっていますが、お題を計画的にピックアップした更新予定としては「狙い通り」なタイミングの曲ではあります。

長かったようであっという間だった5月の締めくくり記事、あと3日で更新間に合うかな・・・。
なんとか頑張ります(笑)。

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2020年5月22日 (金)

沢田研二 「Beautiful World」

from『Beautiful World』、1992

Beautifulworld_20200522112801

1. alone
2. SOMEBODY'S CRYIN'
3. 太陽のひとりごと
4. 坂道
5. a long good-bye
6. Beautiful World
7. 懲りないスクリプト
8. SAYONARA
9. 月明かりなら眩しすぎない
10. 約束の地
11. Courage

-----------------

映画『キネマの神様』ジュリー主演決定のニュースは広く世間でも話題となり、普段ジュリーの話をしない友人からメールを貰ったり、職場でも「沢田研二凄いね」と言われたり(皆、僕がジュリーファンであることは知っています)、ファンとしてはちょっとくすぐったいような、なかなか気持ちの良い日々が続いております。
こうして明るいニュースも届けられ、大変な世の中にこれから少しずつ平穏が戻ってくるのでしょうか。
そうなることを願っています。

僕は今日はお休みを頂いております。
月末にこちらの緊急事態宣言が解除されれば、勤務先では時短業務こそそのまま続くかもしれませんが、さすがに交代制の週休3日はなくなるでしょう。
「不思議な休日」をこうしてブログ更新にあてられる日々も、あと僅かかなぁ?

さて『元気の出るジュリー・ナンバー』更新シリーズ、前回の「サンセット広場」に引き続き今日も「楽曲それ自体が既に癒し」という「ほのぼの系」の名曲がお題。
採り上げるのはアルバム『Beautiful World』表題曲「Beautiful World」です。よろしくおつき合いください。


前回の「サンセット広場」では素晴らしい意味での「詞曲不一致」の魅力について書きましたが、今度は一転、完璧な「詞曲一致」です。
少し前に「いとしの惑星」でも書いたように、覚和歌子さんの「メロディーに合った」歌詞、コンセプトやテーマの構築力は超一流で、「Beautiful World」もそんな名曲となっています。この頃は「曲先」の製作だったでしょうからなおさら凄い!
覚さんの詞が載ることで、まるでメロディーもヴォーカルもアレンジも最初から「こういう感じ」と狙って演繹法で作られたかのような仕上がりに思えてしまう・・・。
いや、もしかしたらこの曲の場合は本当にそんなこともあったのかな。
何と言ってもアルバム・タイトルなのですからね。

まずは吉田建さんの作曲とアレンジから見ていきましょうか。
いかにもベーシスト好みらしい裏ノリのリズム。穏やかなテンポで長調のレゲエ・ビート、というだけで既に「癒し系」が確定です。少し遡ると88年のアルバム『TRUE BLUE』収録の「EDEN」もそうでした。

ジュリーEMI期の建さんはプロデューサーとしての立場から、自身の作曲作品を以ってアルバム全体のバランスをとる、ということも考えていたと思います。
他収録曲が集まった時点で1枚ぶんのコンセプト・イメージを捉え、即した形で自らも作曲。
『Beautiful World』にはそれまでの3作とは一変して穏やかな作風のナンバーが集まっていて、「じゃあ(自分の曲の)リズムはこうだ!」という感じでしょうか。
建さんがもう1曲提供したハーフタイム・シャッフルの「a long good-bye」も併せ、「お洒落」な音のアルバムにしよう、という建さんの狙いが見えてきます。
「Beautiful World」のキーはト長調なんですけど、1番のサビ最後をマイナーに着地させるなど曲に柔らかなイメージを持たせています。これがまたアルバムのトータル・コンセプトを象徴しているように思えるのです。

そんな建さんのお洒落なメロディーに、ズバリ!の詞を載せてきた覚さん。
僕はこのアルバムを激安中古で購入したのですが(『ジュリー祭り』直後の時期で、その頃はEMI期のアルバムは廃盤状態のため高値をつけていたのでラッキーでした)、購入前は「Beautiful World」なるフレーズに、きらびやかで特別に輝かしい世界の歌なのだろう、スーパースターであるジュリーがそれをド派手に演じているのだろう、とイメージしていました。
ところが実際に聴くと全然逆で。

余計な輝きも  足りない夢もないから
C             Bm7     B7     Em          Am7

感じてほしい ♪
      B♭   D

覚さんの描く「Beautiful World」とは「何気ない日常」のことで、2人出逢っていなければそんな日常がどれほど美しく素晴らしい世界であるかを気づかずに過ごしていただろう、と歌うわけです。

It's a so Beautiful World
G                       Gmaj7

もしもふたり 出逢わなければ
              Am7               D

It's a so Beautiful World
G                       Gmaj7

こんな景色 知らないまま過ぎてたけど ♪
             Am7             D            G 

「いとしの惑星」同様に、今こんな状況になってこそ沁みる平凡、平穏の喜び。
本格ジュリー堕ちしたからこそ分かる、これは正にジュリー好みのコンセプトなのですねぇ。人生における瞬間瞬間の「特別さ」の描き方が阿久さんの時代とはこうも変わるものか、と後追いファンの僕などはしみじみ思う次第です。

・・・と、偉そうに書いてはいますが、実は今回記事を書くにあたり「エスパス」「フォルム」「シノプシス」の意味を初めてしっかり調べたんですけどね(汗)。
全部フランス語だった・・・意味はだいたいそれまで漠然と捉えていた通りだったとは言え、やはり

変わりつづけるのは フォルムだけ
G                      Gmaj7           Em7

一秒のシノプシス ♪
       C          D

このあたりの理解度は違ってきますな~。

見事な「詞曲一致」は、演奏やジュリーのヴォーカル処理にも必然影響してきます。

演奏では間奏のギターソロに注目。
「Beautiful World」にはゴリゴリのディストーションやド派手な速弾きフレーズは必要ありません。
空間系のエフェクトを施した優しい音色と音階。僕はこういうソロ、好きですねぇ。
例えば白井さんが弾いた「Pearl Harbor Love Story」や「勇気凛々」、下山さんが弾いた「エメラルド・アイズ」。僕はどうもこうした必然性あるギター・ソロに惹かれるようで、「Beautiful World」も同じ意味で名演と考えます。

で、ジュリーのヴォーカルですよ!
この時期のジュリー・ナンバーでは珍しい、ダブル・トラック(主旋律を複数のヴォーカル・トラックでユニゾン処理)が採用されています。
ジュリーの声の艶ならば、ヴォーカルはシングル・トラックの方が素敵に決まっている・・・でもこの曲は違うんです。ギター・ソロ同様に、「詞曲一致」がここでは優しさや朴訥さを求めていますから。

ダブル・トラック・ヴォーカル処理についてはジュリー・ナンバーお題でこれまで何度か書いたことがあって、おもに2つの手法があります。
別々に歌録りしたトラックを同時にミックスする方法(「人待ち顔」参照)と、単一のトラックを機材でコンマ数秒ずらして複製を作成しミックスする方法(「影 -ルーマニアン・ナイト-」参照)です。

「Beautiful World」ではジュリーの歌があまりに綺麗に、違和感なくピタリと重なっているので後者かと思いきや、実際はどうやら前者。
一番最後のサビ直前に、軽く囁くような感じでジュリーが「Yeah・・・」と声を出している箇所(3’50”あたり))だけシングルなんですよ。複製の手法ならここもダブルになるはずですから。
ジュリーの歌入れまでの万全の準備が想像されると同時に、天性の声の抑揚センスも窺い知れ、その素晴らしさが分かろうというものですね。

アルバム『Beautiful World』はEMI期の他の4枚に比べると地味で、ギンギンの作風とは言えません。
しかし長年かけて進化してきたロックのレコーディング技術の手管、収録楽曲のクオリティー、そして何より覚さんとの出逢いによりジュリーが「ささやかな日常をロックする」ことを志した最初の1枚としてとても、重要な名盤です。
それに、今のような時期にじっくり楽しむには最適のアルバムではないでしょうか。

僕はこのアルバムから今年の全国ツアー・セットリスト入りに「約束の地」を予想していましたが、2010年『歌門来福』で体感できた「SOMEBODY'S CRYIN'」を含め他収録曲サプライズ級の選曲ももちろん期待しています。
ギター1本体制でジュリーがトコトン「エレキ」の伴奏に拘るならば、「Courage」で柴山さんの神がかったアレンジが聴ける日もいずれ来るかもしれません。
楽しみは尽きませんね。


それでは次回更新は・・・6月は久々に「act月間」とする予定で、その前のこの5月中に「元気の出るジュリー・ナンバー」としてなんとか頑張ってあと2本の記事を書きたいと思っています。

今度は「歌詞に勇気づけられる」をテーマに名曲2曲を用意しました。
ジュリー自身の作詞と、もう1曲はGRACE姉さんの作詞・・・まずはジュリー作詞の方からとりかかります。
どうぞお楽しみに!

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2020年5月17日 (日)

沢田研二 「サンセット広場」

from『LOVE~愛とは不幸をおそれないこと』、1978

Love

1. TWO
2. 24時間のバラード
3. アメリカン・バラエティ
4. サンセット広場
5. 想い出をつくるために愛するのではない
6. 赤と黒
7. 雨の日の挽歌
8. 居酒屋
9. 薔薇の門
10. LOVE(抱きしめたい)

------------------

いやぁ、昨日のジュリー界は予期せぬビッグニュースに沸き立ちましたね!
映画『キネマの神様』公式サイト
志村さんのこと、今の世の中の状況のこと、色々なことがある中でとても暖かな、素敵なニュースでした。

森本千絵さんの旦那さんがこの映画のプロデューサーさんとのこと。そんな繋がりがあってジュリーにオファーがあったのだそうです。
千絵さんがご結婚されてから6年・・・2014年『三年想いよ』ツアーの大宮公演でのジュリーのMCが、「千絵さんの結婚式を振り返る」大長編だったことを思い出して、当時の自分のレポを読み返してみました(こちら←MCのトコだけ読んでね!)。

本当に、人と人の繋がりって不思議です。特にジュリーを見ているとそう思うことが多いのです。

この映画は何をおいても観るしかない!
今は大変な時期だけど、乗り越えた先の楽しみがまたひとつ増えましたね。

それでは「元気の出るジュリー・ナンバー」更新シリーズ、今回と次回の2曲は「ほのぼの系」を用意しました。
歌の内容以前に曲調やリズム、アレンジが既に癒し系という名曲です。
何も考えずにお昼にボ~ッと聴くもよし、夜のお休み前に疲れた身体をリフレッシュさせて明日の活力とするもよし・・・まず今日はアルバム『LOVE ~愛とは不幸をおそれないこと』から、「サンセット広場」を採り上げたいと思います。

濃厚な情念渦巻く異色のアルバム、僕は大好物ですが「ちょっと苦手」と仰る先輩方がいらっしゃるのも事実。
しかしながらその中にひょいと挿し込まれた肩肘張らない明るさ、軽快さを持つこの曲はアルバムの中でも好き、という方は多いのではないでしょうか。
だって、ジュリー自身がたぶんそうだから(笑)。
「アルバムの中ではこの歌が好き」と、何かのラジオ音源で聞いたのか、先輩にそう教えて頂いたのだったか・・・僕の記憶も加齢とともに怪しくはなっていますが、確かジュリーはそんなふうに言っていたのでしたね。
おつき合い頂くみなさま、今日は是非この愉快な名曲「サンセット広場」に癒されてくださいませ。


『ジュリー祭り』以前の、僕にとっては”第一次ジュリー堕ち期”となった2005年に盟友・YOKO君と競い合うようにして聴いたポリドール期の名盤の数々。
アルバムを新たに聴く度に夜な夜な彼と電話でアルバムの感想を語り合う日々だったわけですが、『LOVE ~愛とは不幸をおそれないこと』についての会話は平日深夜にまで及び、特に濃かった!
普段クールなYOKO君がこの名盤にはテンションが上がり、「トラボルタ」「トラボルタ」と連呼しながら阿久さんの詞に大ウケの様子で「イチオシ」していたのが「サンセット広場」でした。

トラボルタと言えば映画『サタデー・ナイト・フィーバー』。
僕は映画それ自体は詳しく語れません。ここで書いておきたいのは、ビージーズの「ナイト・フィーバー」などが収録されたこの映画のサントラが世界のロックに与えた影響。いわゆる「ディスコ・ミュージック」の大流行です。
キャリアのある大御所バンドもこぞって「新たな開拓」とばかりに採り入れ、その後のヒットに繋げました。
このサントラなくしてストーンズの「ミス・ユー」も、ウイングスの「グッドナイト・トゥナイト」も、キンクスの「スーパーマン」も生まれていなかったのではないでしょうか。

「サンセット広場」がディスコ・ミュージックかと言えば、まぁ広義にはそうかもしれませんが、大野さんが明確にそこを志したのは「アメリカン・バラエティ」の方でしょう。これはストーンズの「ミス・ユー」に着想を得ている、というのが僕の推測です。

「アメリカン・バラエティ」と「サンセット広場」は、アルバム曲順が繋がっているという以上に面白い関係です。
例えば阿久さんの歌詞。
サンセット広場で待ちぼうけを食っている女の子を「トラボルタ気どって」ナンパしに来る男の子には、「アメリカン・バラエティ」の主人公のイメージが重なります。
前曲で豪快に持ち上げておいて、次曲で散々なまでに落とす。
いかにも阿久さんらしい手法ではありませんか。

「サンセット広場」の歌の舞台はアメリカなのでしょうが、もし同じシチュエーションが日本で起こっていたら・・・声をかけてきた男の子はトラボルタではなく(無理なのに)ジュリーを気取って「アメリカン・バラエティ」ばりの迫り方をしたかもしれませんね。
OKすることはないよ、お嬢さん(笑)。
ジュリーは唯一無二の男。
鳩の数ほど男はいても、「ジュリーみたいな男」なんていやしないのですから。

ここでちょっと話が逸れますが・・・先日僕は「横浜銀蠅の完全再結成を楽しみにしている」と書きました(本当なら昨日東京公演が開催されていたはずでした)。
80年代当時、横浜銀蠅の中で特に女性人気が高かったのがリード・ギターのJonnyさん。Jonnyさんはソロ・デビューも果たし、弟分である嶋大輔さん、杉本哲太さんも出演したドラマ『茜さんのお弁当』主題歌、自身作詞・作曲の「ジェームス・ディーンのように」(名曲です!)は、いきなりのシングル・ヒットとなりました。
この曲、Jonnyさんは当初ジェームス・ディーンではなく「トラボルタのように」というタイトルで考えていたのを、途中で変更したのだそうです。
印象的な「ジミーのように♪」というコーラス・パートは元々『サタデー・ナイト・フィーバー』をモチーフとして「トニーのように♪」と作っていたのでしょう。

トラボルタがカッコイイ男であることは間違いありませんが、「トラボルタ」なる片仮名の語感が日本人としてはちょっと野暮ったいと言うか、会話するぶんには良いけど歌の歌詞やタイトルとするにはハードルが高そうな名前、というのはごく自然な感覚。
ただそこを平然と打ち砕いてくる・・・どんな語感にも囚われないのが阿久さんなわけで。

トラボルタ気どっても無理なのに
F            D7                 Gm 

フィーバーなんて古い言葉
B♭m             Am        Gm

マジで使って口説いてる ♪
           C              F

突如耳に飛び込んでくる「トラボルタ」のフレーズが逆に迫力の語感となり、初聴時の僕らを貫きます(YOKO君もそこにヤラレたわけです笑)。
しかも「サンセット広場」がリリースされた78年って、それこそディスコ・ブーム、フィーバー大全盛ですよね?
それなのに「フィーバー」を「ダサい」ならまだしも「古い」言葉であるとブッた斬る自由さ、過激さよ。
歌謡曲を通して時代の移ろいの速さを見つめる阿久さんならではの描写だと思います。

そんなラジカルな詞に、とびきり可愛らしいメロディーをつけてきた大野さん。
70年代後半の阿久=大野コンビ(当時はおもに「詞先」の製作だったそうですね)の素晴らしい意味での「詞曲不一致」は、鉄人バンド期の祈り歌(こちらは曲先)にも負けていませんよ~。
言葉もメロディーも、双方の身勝手さ(←絶賛しているんですよ!)に臆することなく主張しているという。

頻度はさほど高くはありませんが、大野さんは「ほのぼの系」の作曲も大得意としています。
『太陽にほえろ!』サントラにも「仲間のテーマ」のような曲があったり、ジュリー・ナンバーにも、阿久さんとの70年代三部作で探せば「ラム酒入りのオレンジ」→「女はワルだ」→「サンセット広場」がそのパターン。
もっと前だと74年の「ママとドキドキ」、あと作曲ではなく編曲ですが76年の「ロ・メロメロ」も加えることができるでしょうか。
「ブロードウェイ風」と言えばよいのかな・・・阿久さんとのコンビでアルバム全曲を任されるようになり、大野さんの「ほのぼの系」もド派手なシングル路線とは違った形で一層研ぎ澄まされていったのではないでしょうか。

結果「サンセット広場」では詞曲それぞれの個性のぶつかり合いからマジックがかかり、とても愉快な癒し系の名曲として聴き手に届けられることとなりました。
もちろん単体で聴いても名曲ですけど、ここは「アメリカン・バラエティ」~「サンセット広場」という流れを楽しむ意味でも、アルバム通して聴くことをお勧めいたします。

トラボルタを気どった男の子の動向。
ディスコからブロードウェイへのメロディー散策。
詞曲ともに味わい深さが増すと思いますよ~。

そして、「本当にイイ男はここにおるで!」と歌っているかのようなジュリー・ヴォーカルの俯瞰力も見えてくるのです。


それでは次回更新・・・今度は90年代。
リズム・アレンジに癒しの特徴を持つ「ほのぼの系」ジュリー・ナンバーがお題です。
しばしのお待ちを!


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2020年5月14日 (木)

沢田研二 「素敵な気分になってくれ」

from『JULIE CM SONG COLLECTION』

Cmcollection

SIDE-A
1. アルファ クリエーション
2. 素敵な気分になってくれ
3. 渚のラブレター
4. I DO LOVE YOU
5. I am I(俺は俺)
SIDE-B
1. あなたに今夜はワインをふりかけ
2. 愛は炎
3. 二人なら翔べるのに
4. RED SUMMER
5. 熱い想いだけ

-------------------

ゴダイゴのギタリスト、浅野孝巳さんが亡くなられました。
コロナ禍によりゴダイゴのツアーが中断されていた最中での訃報はあまりに突然で悲しく、驚いています。

小学生の時、初めて自分で買ったレコードがゴダイゴ『ガンダーラ』のシングル盤でした。続けて『モンキー・マジック』のシングル盤も買い、当時は楽器のことはまったく分からなかったけれど、Aメロで浅野さんのキレッキレのカッティング・フレーズだけが残る一瞬の箇所がとても好きになりました。

3年前の5月、浅野さんと依知川伸一さんのデュオ・ユニット『あさいち』のLIVEに行き、初めて浅野さんのギターを生で聴くことができました(その時のことは、こちらの記事で少し書いています)。
ディナー形式のイベントでしたから、浅野さんは演奏前にお客さんの食事のテーブルを回ってくださり、乾杯もしてくださいました。
幼い頃にテレビで観て憧れていたレジェンドと実際にグラスを合わせて頂けた夜・・・忘れられません。

浅野さんと言えば、「JC-120」というローランド社のギター・アンプ開発に尽力されたことも有名です。
初心者から上級者まで、使い手の技量を問わない万能な奴。スマートなボディなのに、メチャメチャ頑丈な奴。どことなくキュートなその愛称は「ジャズコ」。
貧乏学生時代に利用していた格安の音楽スタジオではマーシャルを置いていない部屋はいくつかあったけど、ジャズコはどの部屋にも必ずありました。
10代でバンドを始めてから、ずっとお世話になり続けています。

心より浅野さんのご冥福をお祈り申し上げます。



今週は今日木曜日が休みのDYNAMITEです。
本来ならば正に昨夜、ジュリーの全国ツアー『Help!Help!Help!Help!』が開幕していたはずで、余韻に浸りながら仕事に励んでいたのでしょうね・・・。

このよ
うな状況になって今つくずく思うのは、久々のお正月LIVEに1度きりとは言え無事参加できていて本当に良かったなぁ、と。
同時に、地方にお住まいの方や、それぞれの事情で参
加が叶わなかったファンのみなさまの現在の心情いかばかりか、とも想像します。
ジュ
リーのLIVEからやむを得ず遠ざかるというのは・・・中でも、もう50年から「毎年」のこととして過ごしてこられた長いファンの先輩方は本当に辛いでしょう。
せめて、とい
うには物足りないかもしれませんが、今日はまず今年のお正月LIVE『名福東阪阪東・寡黙なROCKER』・・・僕が参加した1月10日の東京国際フォーラム公演でのジュリーのMCを少しだけ振り返ることから始めたいと思います。

現在の緊急事態宣言下の毎日で僕ら
は、平時ならあまり耳にすることのない「自粛」という言葉をテレビなどでしょっちゅう聞いていますが、意味こそ違えどジュリーがはからずもお正月LIVEで「自粛」に言及しました。

その頃巷で大きな話題となっていたのは、例のゴーン氏逃亡事
件です。
「綴りは違うのかもしれないけど、名前がゴーン(GONE=行ってしまった)
ってのが・・・」
と、冗談を交えつつ色々とその話をしてくれたのですが、ジュリーが抱いた
素朴な疑問というのが

「これだけの不祥事ですよ。何でニッサンはコ
マーシャルを自粛しないの?」

と。
楽器を入れる箱に入って逃げたらしい、とのことで
「(普段から楽器運搬に関わる身として言うと)そんなところに人が入っちゃダメですよ!」と笑わせてくれたり。
で、何よりこの件については「CMのOBとして言わせて貰う
!」と力説するジュリー。
そう、ジュリーにとってもファンにとっても「ニ
ッサンと言えばブルーバードのCM!」なのですね~。

ということで今日採り上げる「元気
の出るジュリー・ナンバー」は、日本においては初期の佐野元春さんが伊藤銀次さんと共に開拓し確立させた「ピアノ・ロック」の流れを汲むバリバリのビート系「素敵な気分になってくれ」です。よろしくおつき合いください。


ジュリー出演CMは数あれど、タイガース時代の明治チョコレートは別格として、ブルーバードのCMはジュリー本人も特に思い入れが強いのではないでしょうか。
楽曲が在りもののタイアップではなく、しっかりとCM商品のコンセプトに沿って作り込まれている・・・まぁそれだけなら昭和の時代はジュリーに限らずそうした業界の熱量は高かったわけですが、加えてブルーバードの場合はシーズンごとにどんどん新曲を作っていった、というのがね。しかも名曲揃いときています。
いつだったか、大宮公演のMCでジュリーが突然「I am I(俺は俺)」の話をしてくれたこともあったなぁ。

「素敵な気分になってくれ」は一連の作品の中でもCMシリーズ自体が車の売れ行きとともに絶好調のタイミングで製作され、作曲が新星・大沢誉志幸さん、作詞がエキゾティクス期ジュリーの最重要女流作詞家である三浦徳子さん。歌うは完全にロック・シンガー覚醒を遂げたジュリーとなれば、名曲にならない方がおかしいです。

そうした製作・演者双方の時代的なテンションの高さは、以前に大分の先輩から授かった貴重な資料『快走通信 1982』からも読み取ることができます。

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ブルーバードとは「街一番のイイ男が、街一番のイイ女を乗せて走る車」ということになりましょうが、自らを指して「一番のイイ男」なんて歌うとなると「そんな気になりきっている」高揚した普通の男のストーリーとなるはず。
でもジュリーが歌えばそこは「真実」ですからね!
自分がとびきりのイイ男であることに何の疑問も無く物語が展開していくという。個人としてのジュリー本人がどう考えていたかはともかく、歌い手・ジュリーはブルーバードのCMが謳う「スーパースター」にドンピシャの男だったのですな~。
三浦さんもそこは当然心得ていて

恋する女は 世界のためにある ♪
   E♭     B♭    A♭          E♭

恋の相手の方も最高に「イイ女」であると同時に、こちら(歌い手)もそれに見合う「世界のためにある」ほどのイイ男でなければこの詞は成立しませんから。
凡庸たる身には一生かけても辿り着けない境地です。

では、大沢さんの曲はどうでしょうか。
これはジュリー、大好きな感じだと思うんです。と言うのもイントロ冒頭のリフと音階移動が、「気になるお前」や「お前は魔法使い」を連想させるんですよね(勝手に脳内で指笛とカウベルを鳴らすと「おまえのハートは札つきだ」にも相当似てるけど)。
「素敵な気分になってくれ」は、「sus4」や「add9」によるクリシェ・ラインの音をホンキー・トンクなピアノが受け持ち、さらにブラスを噛ませるアレンジがいかにも82年という時代を反映していて、ジュリーと縁深い佐野元春さんの影響も大と見ました。

メロディーとジュリーのヴォーカルで個人的に一番好きな箇所は、Aメロの出だしです。

情熱という 名前の ♪
E♭  Gm7   Cm  A♭m

「名前の」の「の~♪」のジュリーの高音がなんとも言えずクセになりませんか?
実はここ、理屈上でも聴き手にとって「引っかかりのある」一時的な転調音なのです。

この曲はキーが変ホ長調なので、メロディー中「ラ」「シ」「ミ」の3音には自然に♭がつきますが、ここでは「ソ」をフラットさせています。
コード進行としても普通なら「A♭」とするところ、大沢さんが当てたのは「A♭m」。それ自体は珍しくない手法とは言え、そこに向かってパ~ンと跳ね上がる高音を配したのが大沢さんの素晴らしさだと思います。
ただし、この音が曲中メロディー最高音というわけではなくて、例えばすぐ後のAメロ2回し目、「パーティーで♪」の「で~♪」もジュリーの高音が冴えますよね(こちらは調号に忠実な王道のメロディー)。ここがナチュラルの「ソ」の音で、音階としては1行目語尾より半音高い。
それでも僕には「ソ♭」を歌うロングトーンこそが曲中で最もジュリーの高音の魅力を引き出している、と感じられるのですが・・・いかがでしょうか。

最後に。
僕はカセット『JULIE CMソング・コレクション』を正式な形では持たず、先輩から授かった音源のみを所有する状況ですが、これは「アルバム」として考えてもなかなか聴き応えのある作品ではないでしょうか。
リリースの時期は様々なのに不思議な統一感がありますし、楽曲バランスも収録配置も素晴らしい。
お題の「素敵な気分になってくれ」の2曲目収録は曲調と合っていてズバリ!だと思いますし、A面とB面で時代背景がガラリと変わる面白さは、当時実際カセットを購入した先輩方なら実感されたことでしょう。
B面頭が「あなたに今夜はワインをふりかけ」ってのがまた、いかにも強力なアルバム構成という感じです。ここはリリース年代順を崩してきていますから、製作サイドの「狙った」配置だったんじゃないかな。

僕としてはせめてリマスターのクリアな音でのCD再発を切望しますが、難しいのでしょうかねぇ・・・。


それでは次回、次々回更新お題2曲の「元気の出るジュリー・ナンバー」は、またまた曲の雰囲気を変えてみようと思います。
ゴリゴリのビート系ではなく、「微笑ましい曲調」とでも言いましょうか。のんびり、ほのぼのと聴ける・・・ジュリーの歌声はもちろんだけど、メロディーやアレンジ、或いはリズムが既に癒し系、という2曲を用意しています。

それぞれ、70年代と90年代の名曲。まず次回は70年代の方から書いていきますよ~。
お楽しみに!

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2020年5月10日 (日)

沢田研二 「恋のジューク・ボックス」

from『愛の逃亡者』、1974

Fugitive

1. 愛の逃亡者/THE FUGITIVE
2. ゴー・スージー・ゴー/GO SUSY GO
3. ウォーキング・イン・ザ・シティ/WALKING IN THE CITY
4. サタデー・ナイト/SATURDAY NIGHT
5. 悪夢の銀行強盗/RUN WITH THE DEVIL
6. マンデー・モーニング/MONDAY MORNING
7. 恋のジューク・ボックス/JUKE BOX JIVE
8. 十代のロックンロール/WAY BACK IN THE FIFTIES
9. 傷心の日々/NOTHING BUT A HEARTACHE
10. アイ・ウォズ・ボーン・ト・ラヴ・ユー/I WAS BORN TO LOVE YOU
11. L.A. ウーマン/L. A. WOMAN
12. キャンディー/CANDY

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本当なら今日は『Peeが奏でる「四谷左門町LIVE』があり、13日の水曜日にはジュリーの全国ツアー『Help!Help!Help!Help!』が開幕し、土曜日には横浜銀蠅の完全再結成LIVEがあり・・・僕は生のビタミン・ミュージックを摂取しまくる一週間になるはずでした。
思いもかけずこういう状況になっていますが、今は我慢・・・。本当に皆で頑張ってゆくしかありません。

僕はこの期間、ブログの更新を頑張ると決めました。
『自宅でジュリーの歌を聴こう!月間』ということで様々なパターンの「元気の出るジュリー・ナンバー」を採り上げていますが、今日は再び明快なビート系に戻ります。

僕は昔から洋楽の中でも60~80年代のロックが好きで、「まぁだいたいの重要なバンド、アーティスト名は知ってる」と勝手に自負していましたが、本格ジュリー堕ち後のいわゆる「じゅり勉」の過程で、それがまったくの思い上がりであったことを痛感させられました。
みなさまも聞けば呆れるはず・・・例えば僕は本格ジュリー堕ちまでは、デイヴ・クラーク・ファイヴもミッシェル・ポルナレフもレターメンも知らなかったのですよ(恥)。

さらに、今日のお題に密接に関わってくるイギリスのバンド、ザ・ルベッツ。これまた知らなかった・・・(ただ、さすがに「シュガー・ベイビー・ラヴ」を聴いて「あぁ、この歌か!」とは思いましたけどね)。
彼等のプロデューサー、仕掛け人と言えばよいのか専属ソングライターと言えば良いのか・・・とにかくビッカートン×ワディントンにつても同様。
これから彼等のキャリアを辿り振り返ることは、僕のようなタイプのジュリーファンとしては宿命を思われますのでそこは今後も努力していきますが、今日は現時点で持つ限りのつたない知識、資料を元に、ビッカートン×ワディントン作のルベッツ・ナンバーにしてアルバム『愛の逃亡者』収録のジュリー・ナンバーでもある「恋のジューク・ボックス」をお題に採り上げます。

先輩方からの人気が高い1曲、と認識しております。
短い文量ですが、よろしくお願い申し上げます。


ザ・ルベッツはデビュー・シングル「シュガー・ベイビー・ラヴ」の大ヒットにより日本での当時の知名度も抜群だったようです。やはり僕の場合は洋楽においても「後追い」のハンデが大きいのですね。
それほど有名なバンドだったとは・・・。
複雑な事情も絡んだメンバー交代劇(何と、デビュー前にすらヴォーカリストが交代したりしています)などゴシップにも事かかなかった彼等が、74年に矢継ぎ早のサード・シングルとしてリリースしたのが「恋のジューク・ボックス」という流れだったようです。
同年にジュリーのイギリス進出アルバム『愛の逃亡者』のソングライティングを一手に担ったビッカートンさんが、フルアルバム全12曲のうちいくつかをルベッツへの提供曲と重複させたのは自然な流れであったでしょう。「恋のジューク・ボックス」はそのうちの1曲でした。

では、ジュリーとルベッツそれぞれのヴァージョン・・・当然ながらリード・ヴォーカルは異なりますが、それ以外にどのような違いがあるでしょうか。

THE RUBETTS/JUKE BOX JIVE

まず、キーが違います。
ジュリーが変ロ長調(B♭)でルベッツがイ長調(A)。これはおそらくブラスの採用に伴う移調です。
ジュリーのヴァージョンにはサックス(たぶん2本)のトラックがあり、管楽器のプレイヤーにとってはオリジナル・キーのAよりB♭の方が演奏し易いのです。
後の「バタフライ・ムーン」の時のような事件が起こってはいけませんしね。
この移調によりジュリーは本家ルベッツよりも半音高いキーで歌うことになりました。はからずしてヴォーカルの実力を彼の地で示した、ということは言えましょう。

演奏トラックの大きな違いは上記の通りブラスの有無で、ルベッツのヴァージョンではサックスの代わりにゴキゲンなピアノを効かせているのがポイント。
厚いコーラス・ワークも2つのテイクではかなり違って、ルベッツの方が多彩です。これは楽曲自体の構成にも言えて、ルベッツには「語り」をフィーチャーしたブレイクのヴァースがあるんですよね。
この「語り」はジュリーにも是非欲しかったところ。その点に限って僕はルベッツのヴァージョン推しです。

そしてヴォーカル。
先述の通り、この曲は厚めのコーラスが特徴的です。それはリード・ヴォーカルのパートでも効果を発揮していて、2つのヴァージョンいずれもAメロ部はヴォーカリストとコーラス隊がユニゾンでメロディーを歌います。結果、ヴォーカルが1人残る「Come on now♪」からの展開部の視界を良くしているわけですが、逆に言えばAメロ時点でのリード・ヴォーカリストの存在感を薄めている感も否めません。
アルバム『愛の逃亡者』を1枚通して聴くならともかく、ジュリーの「恋のジューク・ボックス」を何の予備知識も無しに単体で1曲、突然聴いてみたと想像してください。
手練れの先輩方をもってしても、Aメロ終わり間際までは「ジュリーの曲」だと気づけないでしょう。ジュリーのリード・ヴォーカルがブ厚いコーラスに完全に埋もれてしまっているからです。

ただし、Aメロすべてがヴォーカル、コーラスのユニゾンであるにも関わらず、「Aメロが終わるまでそれと気づけない」のではなく「Aメロが終わる間際まで」というのがジュリーの凄さだと僕は思っています。つまり

Come on baby, do the juke box jive
B♭                           

Just like they did in nineteen fifty five ♪
F                                       D7

「fifty five♪」の語尾。
ここで忽然とジュリーの声がハッキリ現れます。

力量あるヴォーカリストと、ソロが本職ではないコーラス隊との声の差は、母音の伸びにあるのですね。
双方とも「ふぁ~いぶ♪」と歌ってはいるのですが、コーラス隊の方は複数の人数それぞれが普通に「会話する」時の感じで発声しているため、語尾の「いぶ♪」は声量が下がります。
しかしジュリーは「ふぁ~♪」の母音「あ」に第2波の伸びをい作っているため、語尾もそれまでと均一の声量で歌われます。結果、その箇所だけはジュリー1人の声が大きく聴こえるわけです。当時のジュリーなら意図した技術ではないでしょう。天性だと思います。
これまた、はからずして証明されたジュリー・ヴォーカルの素晴らしさではないでしょうか。

「恋のジューク・ボックス」は、アルバム『愛の逃亡者』の中でもLIVEで歌われることが比較的多かったようですね。僕はまた未体感ですので、「いかにもバンド・サウンド」という感じのこの曲の魅力をまだ半分も理解できていないのでしょう。
ツアーがバンド・スタイルのうちに、可能性ある選曲として一度聴いておきたかったなぁ・・・。

最後に、75年の『YOUNG SONG』に掲載されていたルベッツのページを添付しておきます。

Jukeboxjive

何故か、ハ長調での採譜。
メジャー・セブンスとすべきところを普通にマイナーで表記するなど採譜の精度は低めですが、「恋のジューク・ボックス」がジュリーのアルバム『愛の逃亡者』とは違う形で日本によく知られていたことを示す貴重な資料。
「恋のジューク・ボックス」は特殊な例としても、70年代の歌本の洋楽コーナーにはジュリーがロックンツアーのリアルタイムでカバーしていた曲がひょいと掲載されていて、後追いファンの勉強に役立っているのです・・・。


それでは次回もビート系のお題を考えています。
今度はかなりマニアックな曲に走りますよ~。
どうぞお楽しみに!

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2020年5月 6日 (水)

沢田研二 「夕顔 はかないひと」

from『女たちよ』、1983

Onnatatiyo

1. 藤いろの恋
2. 夕顔 はかないひと
3. おぼろ月夜だった
4. さすらって
5. 愛の旅人
6. エピソード
7. 水をへだてて
8. 二つの夜
9. ただよう小舟
10. 物語の終わりの朝は

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みなさま、大型連休自宅引きこもりお疲れさまです。
また、やむを得ずお仕事などに出かけたかたもいらっしゃるかもしれません。心中お察しいたします。


やはりと言うか緊急事態宣言は延長となりました。本当なら今年の5月は楽しいLIVEの月となるはずでしたが、この状況では中止も致し方ありません。
引き続き『自宅でジュリーの歌を聴こう!月間』ということで、今日は「ジュリーの声それ自体に癒される」パターンの、元気の出るジュリー・ナンバー。採り上げるのはアルバム『女たちよ』から「夕顔 はかないひと」です。どうぞよろしくおつき合いください。


『女たちよ』は個人的には大好きな名盤で、前回採り上げた『架空のオペラ』にも勝る妖美、妖艶、屈指のヴォーカル・アルバムと思っています。
ところがこれはファンの間でも好みが分かれるらしく、「ちょっと苦手」と仰る先輩も多くいらっしゃいます。
おそらく音作りの評価だと思います。「やり過ぎ」とも言えるアレンジとプログラミングは、これまで「キャッチー」のド真ん中を駆けてきたジュリーとすれば確かに異色で、難解と言えます。
これまで何度か書いているように、僕は昔からどんなバンド、アーティストであっても「やり過ぎたコンセプト・アルバム」に惹かれる傾向があり、ジュリーのアルバムで言うと『LOVE ~愛とは不幸をおそれないこと』と、この『女たちよ』がその双璧でしょう。
ただ、大村雅朗さんのアレンジ、松武秀樹さんのプログラミングについて掘り下げるとなると、収録曲では「愛の旅人」か「二つの夜」が適材。今日は「夕顔 はかないひと」がお題ですのでその点はひとまず置き、作詞の高橋睦郎さん、作曲の筒美京平さんという究極のプロフェッショナルそれぞれが『女たちよ』制作に向けた「動機」を探り、僕がこのアルバムに惹かれる個人的な側面も加えて楽曲考察をしてゆきたいと思います。

まず僕の場合『女なちよ』は、「故郷」(鹿児島です)を懐かしむ気持ちと直結します。
このアルバムを聴くと、高校時代の恩師である末増省吾先生が当時大変な熱意を以って『源氏物語』を教えてくださったことを思い出すからです。

末増先生は僕の母校・国分高等学校をはじめ県内の学校で長きに渡り教鞭をとられましたから、もう僕のことなど覚えていらっしゃらないでしょう。直接のクラス担任でもなく、僕が一方的に慕っていた感じでしたし。
ただ、高校生時代の僕に僅かでも文才というものがあったとすれば(今はもうハッキリ駄目ですが)、それを最初に認めてくださったのは末増先生です(高校1年生の夏休み、「芥川龍之介『羅生門』の続きの話を書いてこい」という破天荒な課題に燃え、指定原稿枚数を大幅に超える大作を提出したら気に入ってくださった)。
先生は俳句・短歌についても並々ならぬ熱意をお持ちで、脇本星浪先生に師事され自らも多くの歌を詠まれました。先生から教わった「歌の極意」は凡庸たる身の僕にはなかなか難しく会得とはなりませんでしたが、僕が今でも毎年カミさんの誕生日には物ではなく歌を詠んでプレゼントとする、というイタイ趣向を続けているのは間違いなく先生の影響でしょう。

しかし末増先生と言えば何を置いても『源氏物語』でした。なにせ先生の3人の娘さんのお名前が、「あおい」さん、「むらさき」さん、「ゆうがお」さんと仰るのですから。
今でこそ「キラキラネーム」と言うんですか、かなりユニークな名前も流行っているようですが、これ昭和の話ですからね。『源氏物語』への相当な思い入れなくしてあり得ないことです。

その『源氏物語』に目を向けつつ、今日お題の「夕顔 はかないひと」を聴いていきましょう。
作中登場する女性の中でも「夕顔」は特にミステリアス、かつ悲劇の運命を辿ります。何より源氏との逢瀬は、最後まで互いの素性を明かさぬままです。

Don't きみの名は Don't 尋ねなかった
A♭          B♭      A♭         B♭         

Don't ぼくの名は Don't 教えなかった
A♭         B♭       A♭         B♭

名前など 要らなかった ♪ 
D♭          A♭         E♭

「夕暮れどきの顔」転じて「夕顔」と呼ぶ。
高橋睦郎さんが『女たちよ』に寄せた詞の中、「夕顔 はかないひと」は最も直接的、具体的に「帖」のあらすじをなぞっていると言え、「名を知らぬ人の名を連呼する」という手法で源氏の非可逆的な苦悩を描きます。
いかにも高橋さんの筆の乗りが伝わる名篇です。

福岡の先輩から授かった83年11月7日放送の『音楽夜話』のラジオ音源で、パーソナリティーの小室等さんがさかんに「あの高橋睦郎さんがこうした歌の詞を書くとは!」と、全篇の作詞が高橋さんというアルバム『女たちよ』のクレジットに驚いていました。
(その時点で小室さん自身は高橋さんから「三途川ロック」という詞を送られていたことがあったそうですが、それは「色っぽいというのとは違った」と、ジュリーの『女たちよ』が羨ましげでもありました)

小室さんの驚きに少し照れたような感じでジュリーが話したところによると、高橋さんは
「沢田研二がこれ(『源氏物語』を歌うこと)をやらないといけない!と言って、ドンドコドンドコ詞もストーリーも書いていってくれた」
のだそうです。
『源氏物語』自体へのリクペクトもさることながら、高橋さんを突き動かしたのはそれを「ジュリーの創作」とするコンセプトへの献身であり情熱だったようですね。

そう、高橋さんは生粋のジュリーファンなのです。
証明する資料がこちら。
ジュリー道の師匠格の先輩が長年大切に保管されていたものを以前お借りしてスキャンしたものです。

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何と高橋さん、1968年(6月号)の時点でこうして横尾さんとタッグを組み、ザ・タイガースのジュリーへの熱烈な想いを吐露されていたのです。
しかも掲載雑誌は『話の特集』。
この雑誌の特色をご存知の方ならば、68年にこんな記事があったというだけでもビックリでしょう。

そんな高橋さんの『女たちよ』への動機が『源氏物語』を歌い演じるジュリーへの熱い炎情だとしたら、逆に冷徹な氷のような職人技で貢献しているのが筒美京平さんの作曲。
歌謡界稀代のヒット・メイカーが「ヒット性の使命」すらとるに足らぬことと思われるほどのコンセプト。高橋さんが「ドンドコドンドコ書いた」言葉に命を吹き込みジュリーへの橋渡しを担うという、これは真のプロフェッショナルにしか為し得ない作業です。
先述の『音楽夜話』放送回でジュリーも
「(作詞・高橋睦郎さん+作曲・筒美京平さんのコンビは)凄い顔合わせでしょ?」
と語っていました。

豊穣のキャリアを誇る筒美さんと言えど、『女たちよ』10篇の作曲はかなり特殊な試みだったはず。
それだけに83年の同時期、筒美さんは他にどんなお仕事をされていたのか気になって調べてみました。
こういう時に頼りになるのが、所有の『筒美京平/HIT STORY』(CD8枚組!)。楽曲解説のライナーも充実しているのです。
すると、最も『女たちよ』製作と時期的に近い筒美さんのヒット曲は、森進一さんの名曲「モロッコ」でした。

Img726 
Img727 
(筒美さんだけでなく、上原裕さんも『女たちよ』と並行参加!)

なるほど!という感じです。
これもジュリーがラジオで語っているのですが、『女たちよ』は高橋さんの詞が当然「和」のテイストであるのに対し、筒美さんの曲はヨーロピアン・テイストなのだ、と。
加えて、まずハッキリした詞のテーマを受けての曲作り、という点も『女たちよ』と「モロッコ」の共通点。
やはり偉大な作曲家には、歴史的な「流れ」が宿命づけられるものなのでしょうか。

70年代からずっと、毎年のように必ず複数のヒット曲を世に送り続けていた筒美さんが、油の乗りきった83年という時期に『女たちよ』のようなアルバム全作曲を担っていたことは、一般的にはあまりに知られていません。
ジュリーファンでなくとも、筒美さんのファンの方々にも是非聴いて頂きたい名盤です。

一方で、このアルバムがあまり好みでないと仰るジュリーファンのみなさまには、逆に高橋さんや筒美さんの名前にこだわらず、いっそ『源氏物語』のことも頭から離し、ひたすらジュリーの声を追うようにして聴き直して頂きたいなぁと思います。
コンセプトを考えるのは、歌が好きになってからの方が良い・・・これはそういうアルバムです。
実は僕自身、そうだったんですけどね。
初聴一発で好きになる、というタイプの名盤ではないだけに、リリースからウン十年経っていきなり虜になるパターンもあり得ますよ!


さて。
今日はジュリーの名曲にあやかって、冒頭に故郷・鹿児島への想いを少しばかり書きました。
故郷は遠くにありて想うのがよい、と言いますが・・・その気になればひょいと帰省できる「平時」でそう思うのと、今のように大型連休の帰省自粛という「緊急時」で思うのとではずいぶん違うものです。

実は去る3月、故郷で独り暮らしをしている父親に重大な病が発覚しました。手術もして幸い経過は良いのですが、そんな状況でも関東に出てきている息子兄弟3人、誰もこの連休帰省できずに終わったのです。
「当たり前」な日常が本当は当たり前などでなく、代わりの効かない大切な時間であることを痛感させられた今年のゴールデン・ウィークでもありました・・・。


それでは、僕のゴールデン・ウィークは今日で終わります。明日からはひとまず木・金曜日と2日出社します。
週末までは連休継続、というかたも多いのかな。
いずれにしてもまだまだ厳しい状況が続きそうですが、お互いもうひと踏ん張りと行きましょう。

「元気の出るジュリー・ナンバー」、次回からはまたビート系に戻りたいと思います。
お題はまだ決めていません。明日明後日の通勤用に、朝どのアルバムを手に取るか、ですね。
週末くらいにお会いしましょう!(たぶん)

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2020年5月 1日 (金)

沢田研二 「はるかに遠い夢」

from『架空のオペラ』、1985

Kakuu 

1. 
2. はるかに遠い夢
3. 灰とダイヤモンド
4. 君が泣くのを見た
5. 吟遊詩人
6. 砂漠のバレリーナ
7. 影 -ルーマニアン・ナイト
8. 私生活のない女
9. 絹の部屋

--------------------

明日からゴールデンウィークですね。
僕は一昨日の祝日を普通に休み、今日金曜日は緊急事態を受けての特休を頂きましたので既に大型連休が始まっている感じですが、とにかく想定外の、大変な状況下で僕らは今年のゴールデンウィークを迎えることになりました。
この連休、我が家は夫婦とも完全自宅引き篭もりで過ごす予定です。僕はブログ更新と趣味の録音、読書。あとはお米とぎと洗いものに励もうと思います(笑)。

『自宅でジュリーの歌を聴こう!月間』(年間?)シリーズとして、様々な時代の作品から「元気の出るジュリー・ナンバー」を探して更新を頑張っている拙ブログですが、ここまで「いとしの惑星」「むくわれない水曜日」とビートものを続けて参りました。
今回と次回の2曲の雰囲気を変えまして、「たとえ悲しい内容の歌であってもジュリーの歌声そのものに癒される、元気を貰える」というタイプのしっとりした名盤、名曲に焦点を当て取り組んでいきます。
この大型連休、みなさま共に自宅でジュリーの妖美なヴォーカルに酔いしれて過ごしましょう!

まず今日は「屈指のヴォーカル・アルバム」としてほとんどのジュリーファンが推すであろう大名盤『架空のオペラ』から、まだ記事未執筆だった「はるかに遠い夢」を採り上げたいと思います。
得意の「妄想考察」を炸裂させますよ~。


独立し新たなスタートを切った85年のリリース。
アルバム『架空のオペラ』でジュリーは自身作詞・作曲(「李花幻」名義)のシングル「灰とダイヤモンド」以外の収録8曲を、「(ヴォーカルの)相性があるから」と久々に大野さんに託しました。
作詞陣には、すぐ後のCO-CoLO期のキーパーソンとなる松本一起さん、80年代歌謡界の旗手・高橋研さんという新たな出会いに加え、75年の名曲「外は吹雪」「人待ち顔」で大野さんとコンビを組んだ及川恒平さん、そして70年代末にこちらも大野さんとのコンビでソロ歌手・ジュリーの天下を牽引した阿久さんを起用。
阿久=大野コンビのジュリー・ナンバーはアルバム『TOKIO』の「夢を語れる相手がいれば」以来ということで、リアルタイムのファンの先輩方はこのクレジットに心躍ったのではないでしょうか。

阿久さんの提供は「吟遊詩人」と「はるかに遠い夢」で、いずれも素晴らしい名篇です。
ただこの2曲、阿久さんはそれぞれまったく違う角度から攻めてくるんですよね。

まず「吟遊詩人」の方では、阿久さんにとっての新たな「ジュリー像」が提示されました。
一方「はるかに遠い夢」は、ジュリー、大野さんとのトライアングルで天下を取った熱狂の70年代後半・・・まるで「はるかに遠い夢」なるタイトル自体があの時代を指しているかのような、郷愁のコンセプトとなっています。

ただしさすがは阿久さん、あの時代の手法をそのままなぞらえる、なんてことはしないのです。
そう、この詞は女性視点で描かれるんですね。

はるかに遠い夢の日を
           A♭            Cm

小さな椅子で思い出す
      A♭                 G7

あなたがいたら よく笑う
Fm7

女のままでいたでしょう ♪
Cm

かつて阿久さんは、強烈なダンディズムを以って男女の愛憎の物語を創り出し、歌い手・ジュリーを通した徹底的な男性視点を駆使しました。
そんな「男」の振る舞いやエゴイズムが、物語のもう1人の登場人物たる「相手の女性」にはどう見えていたのか。その後その女性はどのような人生を辿ったのか。
それが「はるかに遠い夢」に込められた阿久さんのコンセプトである・・・今回の僕の「妄想考察」的解釈です。

あの時代から時を経て、歌も色気もキャリアも積み上げた今のジュリー(85年ね)がそれを歌う、という阿久さんからすればドSなシチュエーションまで計算しての作詞だったんじゃないかな。
このところ僕は「セシリア」とアルバム『JULIEⅡ』を結びつけたり(「夕なぎ」の詞については、いつもお世話になっている先輩から「僕は戻った」と歌われる意味深さを、リリース時期のジュリーをとりまく状況を踏まえて正に今日、メールにてご教示頂いたばかりです)、「むくわれない水曜日」を「お嬢さんお手上げだ」の続きの物語のようだと書くなど勝手なシンクロ妄想を披露してしまいましたが、今回のは結構説得力ありますでしょ?

では「はるかに遠い夢」が具体的にどの曲の「続き」として楽しめるかと言えば・・・これは「薔薇の門」です!

えっ?
「ま~たオマエはそうやってマニアックな曲に走ろうとするんだから~。「勝手にしやがれ」とか「LOVE(抱きしめたい)」でも良いじゃないの!」
ですって?
それがそうも行かないんですよ。例えば

軽やかな足どりで
Cm                 Fm

駆けのぼる階段は
                   Cm

靴の響きもデュエットで
                            Fm

嬉しがらせていた ♪
                     Cm

この歌詞部は正に「言葉遣い師」阿久さんのセンス爆発!な表現で僕は特にお気に入りの箇所ですけど、これ舞台(女性が今もそこに住んでいる)は「洋館」ですよね。懐かしき昭和の洋館です(なんとなく南新宿とか世田谷あたりに建ってそう、と江戸川乱歩ファンの僕は想像していますが)。
「勝手にしやがれ」の舞台はアパート2階のイメージですから、これで消去となります。
さらには

あなたのいない広さだけ
Fm7

両手ではかる真似をする
Cm

お道化たあとの寂しさが
Fm7

La-Lai  La-Lai  La-Lai  La-Lai ♪
                Dm7-5            G7

この箇所も阿久さんらしくて好きだな~。
で、女性はたぶんひとり暮らしじゃないですか。旦那さんがいる様子はない・・・ですから「優しく包む人がいる」と歌われる「LOVE(抱きしめたい)」の線も消える、というわけです。
ずいぶん前にお題記事で少しだけ書いたんですけど、「薔薇の門」は僕にとって「住宅街のはずれに忽然と建てられた洋館にひとり住むワケあり女性との逢瀬」のイメージなのですよ。

でも一応、真面目な考察も書かないと(笑)。
大野さんのメロディーは相変わらずの美しさ。独特のねばり強さもあってジュリーの言う通り「ヴォーカルの相性」を感じさせてくれます。
特筆すべきは、アルバムの中で最も「打ち込み」感が強く押し出されていること。

大野さんの作品について、僕の場合ジュリーより先に『太陽にほえろ!』のサウンドタラックで洗礼を受けていたことはこれまで何度か書いてきましたが、大野さんは『架空のオペラ』制作直前にあたる84年、石原良純さん演じる「マイコン刑事」の登場を機に『太陽にほえろ!』挿入曲のアレンジ手法をガラリと変えているんです。
まず打ち込みのリズムありき、そこにどれだけ叙情的なメロディーを組み込めるか、というアプローチです。
マイコン刑事のテーマは(当時)新曲2曲が作られて、そのいずれも「はるかに遠い夢」のアレンジと密接に繋がります。
さらに86年には大胆にアレンジを変えリメイクした「太陽にほえろ!メインテーマ’86」をリリース。僕はこれこそ『架空のオペラ』を経て辿り着いた、大野さん流ミニマル・ミュージック解釈の集大成と考えています。

最後にジュリーのヴォーカルについてひと言。
もうね、永遠に身を委ねていられそうな甘美、妖艶の歌声ですねぇ。高音域の魅力という点では、アルバム内でも一、二ではないでしょうか。
今回採譜をして自分でも弾き語ってみたんですけど、ま~高い高い!
サビなんて、一瞬ならまだしも、何度も何度も高い「ソ」まで駆け上がらねばなりません。最後のリフレインあたりで息が切れてしまいます。やっぱりジュリーは凄い喉の持ち主です。
みなさまも是非この機に聴き返してみてください。


それでは、今日のオマケ・・・というわけでもないのですが、先日goma様のご提案くださいました
今こそファンそれぞれが考える、2020年全国ツアー・幻のセットリスト
休日を自宅で過ごすには最適でとても共感いたしましたので、僕もこの場を借りてやってみたいと思います。自分の特に好きな曲をただ並べるだけだとあり得ないセトリになってしまうので、近年の傾向を踏まえた「当てにいく」予想として考えてみました。

1.「ポラロイドGIRL」
(ツアーが始まってからしばらくの間は、走りまくるお客さんの手拍子テンポにジュリーがダメ出し)
2.「強いHEART
(『Pleasure Pleasure』ツアー以来久々!)
3.「追憶」
(この曲の前にMCあり・・・華麗にお辞儀をしてからの有名シングル攻勢)
4.「憎みきれないろくでなし」
(柴山さんの神技炸裂!)
5.「東京五輪ありがとう」
(柴山さん作曲作品から、今回はこれ!)
6.「Help!Help!Help!Help!」
(ようやく僕もコーラス参加できる~)
7.「頑張んべえよ」
(ロングトーンがCD以上に鬼!)
8.「一握り人の罪」
(今歌われると、リリース当時とはまた違った意味でかなり意味深な選曲)
9.「我が窮状」
(柴山さんレスポールにチェンジ)
10.「届かない花々」
(セトリ超常連のこの曲もギター1本体制では初。カッティングの間を細かなブラッシングでアレンジ)
11.「緑色のKiss Kiss Kiss」
(ジュリーの手拍子から演奏スタート!)
12.「1989」
(ギター1本のゴリゴリ感が合う)
13.「グッバイ・マリア」
(音楽劇関連から。僕は初体感!)
14.「Good good day」
(これも初体感。長年の期待叶う!)
15.「酒場でDABADA」
(初体感3連発。YOKO君はめでたく川口リリアの2階席から10年越しのダイブ実現笑)
16.「そのキスが欲しい」
(これは「歌う」と予告されていました)
17.「不良時代」
(このところ、アルバム『JULIEⅣ 今僕は倖せです』からのセトリ入りが目立ちますよね)
~アンコール~
18.「君のキレイのために」
(『奇跡元年』以来!)
19.「時の過ぎゆくままに」
(予告済みの超有名曲)
20.「約束の地」
(昨年の「さよならを待たせて」みたいな荘厳な大トリ。柴山さんレスポール)

いかがでしょうか?
「無事でありますよう」も入れたかったけど、来年の鉄板セトリとしての願望も込め、とっておきました。
みなさまそれぞれに「私の考えたセトリ」がありましたら、是非教えてくださいね。

では次回も「ジュリーの歌声に癒される」パターンの名盤からのお題で更新を予定しています。
今回の『架空のオペラ』が絶大な支持を集めているのに対し、次回採り上げるアルバムはジュリーファンの間でも好みが分かれる、いわば「問題作」のようです。
ただ僕個人としては心底惚れ込んでいる名盤です。

さぁどのアルバム、どの曲でしょうか。
連休中に書き上げるつもりです。しばしお待ちを~。

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