沢田研二 「頑張んべえよ」
from『Help!Help!Help!Help!』、2020
1. Help!Help!Help!Help!
2. 頑張んべえよ
-------------------
こんにちは。
勤務先での交代制週休3日実施により、今週は今日から3連休のDYNAMITEです。
みなさま、その後お変わりありませんか?
先日の元プロ野球選手の片岡篤史さん(日本ハム→阪神)感染の動画があまりにもショッキングで、僕は一層コロナが怖くなりました。
片岡さんは、さわやかな語り口と人望、PL学園時代の人脈を生かした自身のYou Tubeチャンネルを開設されていて、ファンにはご自身の感染をそのチャンネルで知らせてくださったのですが・・・普段の俊敏な動作や軽快におしゃべりする片岡さんを知るファンにとっては信じられないお姿の動画に衝撃を受けました。
ひとこと、ひとこと喋ることすらこれほど苦しくなってしまうのか、と・・・。
片岡さんは敢えて、弱った身体の自らを隠さず僕らに伝えることで、コロナの怖さをリアルに教えてくださったのだと思います。
「敢えて」「隠さずに」伝える。
はからずもそれは、僕が今日このお題で書こうとしていたテーマと合致していました。
片岡さんの1日も早いご回復、復帰を祈願しつつ、今日は下書き無しの一気更新です。
お題は2020年ジュリーの新譜2曲目収録「頑張んべえよ」。よろしくお願い申し上げます!
エラリー・クイーン風に例えるなら・・・2012年の新譜ヴォーカルが『Aの決意』だったすれば、今年2020年の新譜ヴォーカルは『Bの覚悟』といったところでしょうか。
(ご存知のかたもいらっしゃるでしょう。『A』とはアルファベットの音階表記で「ラ」の音を指し、『B』は同じく「シ」の音を指します)
いかにジュリーが超人級の喉の持ち主とはいっても、年齢を重ねるに連れ徐々に高音を出せなくなってくるのは人間の摂理。
僕がライヴに通うようになって以降、オクターブ上の高い「ソ」の音をおおよその基準として、ジュリーはキーを下げて歌う曲も多くなってきています。
近年はライヴDVDやCDの発売も無く、絶対音感を持たない僕がキーの変更に気づけるのは、実際のライヴ現地で柴山さんのフォームを見たり(これは過去に採譜をしてオリジナル・キーを把握している曲に限りますが、最近だとニ長調のオリジナルを1音下げのハ長調で弾いた「A・C・B」などがそうです)、ギター・チェンジのタイミングだったり(昨年の新曲「根腐れPolitician」のキーは変イ長調=嬰ト長調ですが、柴山さんは昨年も今年のお正月もイ長調のフォームで演奏しました。すなわちギター自体のチューニングが半音下げとなっているわけで、「根腐れPolitician」で使用するテレキャスで他の曲を演奏している場合、その曲は見た目のフォームより半音低く歌われていることになり、これが「テレキャスからテレキャスへのチェンジの謎」の解答です)の2パターンありますが、とにかく過去曲のキーを下げて歌う頻度は上がっている・・・これは決してジュリーの評価を貶めるものではなく、高齢の歌手にとって至極当然のことと言えます。
逆に言えば、ネット記事などでジュリーファン以外の不特定多数にも発信をする立場のプロのライターさんが、綿密な考証をせぬまま「セットリスト全曲をオリジナル・キーで歌った」ととれるようなライブ評を書いてしまうのは、ジュリーの言う「褒め殺し」に当たるのではないでしょうか。
是非そこは「君をのせて」のような高いキーの曲を今も楽々とオリジナル・キーで歌い続けている」という特記的な採り上げ方に変えて頂きたく・・・自戒も込め、この点はハッキリ喚起しておきたいです。
そんなジュリーが、それでも敢えて「やってやろうじゃないの!」とばかりに自らの高音発声の限界に挑むことがあります。
まず2012年。
前年の東日本大震災を受けて『PRAY FOREAST JAPAN』をコンセプトに創作を始めたジュリーは、鉄人バンド4人に託した収録曲中「F.A.P.P.」「カガヤケイノチ」の2曲で、高い「ラ」の音を見事歌いきりました。
当時64歳の男声としては考えられない高音で、これが過去の曲であればキーを下げるところ、限界に挑みなおかつ超えることで、自身の声それ自体のメッセージを新曲に吹き込んだのです。
そして2020年。
誰も予測できなかったコロナ禍の跫音の中リリースされた新譜2曲目「頑張んべえよ」で、「まさか」の高い「シ」の音を歌うジュリーに新たな志を見ました。しかも今度は自作曲。
意図を込めたメロディーであることは明白なのです。
そこで、「頑張んべえよ」の詞のテーマを改めて考えてみましょう。
リリース前に先にタイトルのみ知った時は、被災地へのメッセージかなと考えましたが予想は外れ。なるほど「頑張る」はジュリー自身の覚悟を指していましたか。
昨年のCDタイトルチューン「SHOUT!」に続き、自らがゆく歌人生をテーマとした新曲となりましたね。
そこで、「ロックする覚悟」を高い「シ」の音を歌うことで表明したのではないか・・・僕の第一感です。
キレイに出なくて良いのだ、たとえ無様でも限界に懸命に挑む姿勢、それが本当はカッコ良いロックなのだと。
念のため言っておきます。高い「シ」の音なんて男性が普通に出せるもんじゃないです。
これは年齢を問わずそうなんですけど、70歳を超えていればなおさらのこと。将棋界の表現で言えば、いかなジュリーと言えど「10番やって1発入るかどうか」の発声でしょう。しかもそれは上下する音階の中で一瞬(1音)だけ挿し込んだ場合に辛うじて、という感じのはず。
ところがジュリーは、今回この高音を連続させるメロディーを自らにぶつけてきました。
サビ最後のキメ部・・・1番「頑張んべえよ♪」と、2番「ROCKは死ねねえ♪」の箇所です。
「なんとか出せる」限界が「ラ」とすれば、ジュリーをもってしても「ギリギリ出せない」高音が「シ」。
今年はそれを敢えて歌ってやろうと。
実際、CD音源ではジュリーが絞り出すように歌い、それでも微妙にフラットしているテイクがそのまま採用されています。
ギリギリ出ないところを隠さず曝け出して立ち向かう、それがジュリーのロックなのだ、と。
今後、ジュリーにあまり詳しくない音楽家さんの批評で「凄まじい迫力のヴォーカルなんだけど最高音に無理がある。キーを下げて録音した方がよりよかったのではないか」と指摘される場合があるかもしれません。
しかし少なくともこの曲についてそれは完全に見当違いでしょう。
ジュリーは2番Aメロで
恩返しなんか死ぬまでできねえ
E
ROCKやってりゃ背負い 続けんぜ ♪
E B
こう歌いますが、ジュリーにとって「恩返し」が歌い続けることであるならば、これは「死ぬまで歌う」決意と言い換えてよいのではないでしょうか。
「ボーイ」と問いかける表現がまたカッコ良くて、いかにもロック的な挑発なんですよね。
71歳の自らをも、まだまだヤンチャ盛りの「ボーイ」に含めての自戒と鼓舞・・・そんな解釈もアリかも。
それにしても今年、ジュリーのこの力強い挑戦、覚悟がこれほど身に迫るメッセージとして受け止められるような春になろうとは・・・。
緊急事態宣言を受け個々の暮らしの中で我慢していること、やりきれないこと、皆たくさんありますよね。先行きが見えないというのが一番の不安です。
僕の勤務先の業績だって、前年比など算出するのも嫌になるほど厳しい状況。でも、もっともっと苦しい状況下にいる人達のことを考えても弱音は言えない。耐えなければいけない。立ち向かわなければいけない。頑張るしかない・・・。
今は「頑張んべえよ」で高い「シ」の音を果敢に絞り出すジュリーの歌を、僕らへのエールと思いたいです。
では、ジュリーの作曲についてもう少し踏み込んでみましょう。
「E」「A」「B」のスリーコードはロックの基本です。前回記事に書いた通り「E」がキー(ホ長調)というのが肝。
そんな中、冒頭のメロディーがまず面白くて、トニックの「E」を引っ張れるだけ引っ張る間に(4小節)音階をじりじりと上昇させ、高みに達したところで最初のコード・チェンジがドミナントにズバッと突っ込んで来るという。
依知川さんが同じ手法で作曲した「インチキ小町」の出だしを連想されたファンも多いのではないですか?
「頑張んべえよ」の場合はそのドミナント部で凄まじいロングトーンのヴォーカルが炸裂します。先述のメロディー最高音と同じく、僕はこれもまた「限界への挑戦」がコンセプトと見ました。
きっとステージではどんなに声が掠れようとも、観ているお客さんが固唾を飲み「大丈夫かな」と心配になるほどジュリーはこのロングトーンを持続させるでしょう。
あと、Bメロに顕著ですがジュリーの滑舌の素晴らしさは年齢を重ねても衰え知らず。
Aメロのド迫力のロングトーンとBメロの畳みかける語感、そしてサビの「シ」の絶唱を組み合わせた自作の新曲は正にロックと言うにふさわしく、コード展開がシンプルなだけに、「ロック・ヴォーカリストが作った野心作」だと感じます。
柴山さんの演奏は、コード・リフ風のイントロをはじめジュリーの作曲ありきの構成で、全体的にはシンプル。
ただBメロ部が変化球で、僕は「Uncle Donald」での演奏を想起しました。
手数なら「Help!Help!Help!Help!」、グルーヴならこちらでしょうか。ヴォーカル最高音部直前のカッティングもファンキーですね。
ジュリーの全国ツアーが予定通りに開催されるかどうかはまだ分かっていません。
前回書いた通り、僕はたとえ予定通りの開催であっても初日の参加は自粛するつもりです。YOKO君達と行くことになっている6月の川口リリアはどうなるかなぁ。劇的な終息という僅かな可能性に縋りたいですが・・・。
いやいや、最後に愚痴っぽくなってしまいました。申し訳ありません。
とにかく今は大事な時期。
『自宅でジュリーの歌を聴こう!月間』として、僕にできることをまだまだ頑張ってまいります。
次回は4月20日更新の予定です。お題は毎年この日の決め事でワイルドワンズですが、併せて「ジュリーのあの名曲も同時考察」という内容で考えています。
・・・と書けば、ワンズのお題曲が分かった方もいらっしゃるかな?
どうぞお楽しみに。
| 固定リンク
「『Help!Help!Help!Help!』」カテゴリの記事
- 沢田研二 「頑張んべえよ」(2020.04.17)
- 沢田研二 「Help!Help!Help!Help!」(2020.04.11)
コメント
DY様
大変、ご無沙汰してます
今回の新譜、2曲とも王道ロックで大好きです
お題曲のサビの最後のキメ部の感想は初聴からDY様と全く同じ感想でした
『HELP・・・』の方は、コロナ禍が拡大している今、聴くと、コロナに対する政治家の対応など内包しているようにも思えます。『ヤマトより・・・』がライブでジュリーの祈り歌の一つに昇華したのと同じ印象です。
またジュリーのライブ会場で皆さんでロックを楽しめる日々が帰って来ることを願って、お互い頑張りましょう‼️
投稿: Mr.K1968 | 2020年4月18日 (土) 10時01分
Mr.K1968様
ありがとうございます!
関西も大変な状況ですね・・・。
「Help!Help!Help!Help!」の方は仰る通り現在のコロナ禍とそれをとりまく欲望、絶望を想起させるんですよね。作曲は遅くとも昨年秋のはずですが、本当に不思議なことです。
やはりジュリーという歌手は、自らの意志以外にもそういう宿命的なところがあるのでしょうか。
「頑張んべえよ」は今年この先まだまだ僕らの力になってくれそうな気がしますし・・・。
「毎年ジュリーのLIVEに行く」というのがどれほど特別なことだったのかを痛感しています。僕は心のどこかで「当たり前」と思ってしまっていました。
気合を入れ直して・・・共に頑張っていきましょう!
投稿: DYNAMITE | 2020年4月18日 (土) 19時25分
DY様 こんばんは。
問答無用のロック。
何物にも媚びず怯まず沸き上がる思いをひたすら歌う。今これが出来るのはジュリーだけなんじゃないかな。
でもコロナ禍が全ての表現者から歌う場や演じる場をを奪おうとしています。
夏頃まではホール自体が休業という情報がチラホラ聴こえてきてるようですが。
これからどうなるんでしょう・・・。
DY様も皆様もお体大切に。
投稿: nekomodoki | 2020年4月22日 (水) 22時54分
nekomodoki様
ありがとうございます!
仰る通り、「問答無用!」なロックという感じの自作曲です。このパワーは底知れないですね。確かに誰も真似できないでしょう。
各分野そうかもしれませんが、音楽業界の状況も本当に危機的のようです。特に表現者たる主人公の人達、そしてイベンターさんですよね。
音楽発信の形態についても、今年が業界の大きな転機となってしまうかもしれません。
僕らにとって心配なのはまずジュリーです。ツアーがどうなってしまうのかという・・・振替のスケジュールを最後の最後まで検討してくれているのかなぁ。
いずれにしても大変な状況ですが、僕らは僕らにできることを地道にやってゆくしかありませんよね・・・。
幸い僕は今のところすこぶる元気です。
ブログの更新、頑張っていきたいと思います。
投稿: DYNAMITE | 2020年4月23日 (木) 08時58分
DY様
こんばんは。またまた忘れた頃のコメント、ご容赦を。
そう言われれば「インチキ小町」に通じるものありますね。私はストーンズがカバーしている「I'm Moving On」思い出しましたが。せり上がる感じ、いいですね。
ジュリーには悪いけど曲としては「Help!~」の方が好きなんですけど歌詞はこっちの方がよく響きました。震災後の曲の中では「屋久島MAY」と並んで普遍的?というか一般的?(上手く言えない)な感じですかね?
鮎川誠さんが「ロックは最後、ハッピーソングじゃなきゃね」って何かで言ってましたが(比較するみたいですみません)正にロックの核心のようなメッセージ!心地よいです。
投稿: ねこ仮面 | 2020年5月24日 (日) 22時40分
ねこ仮面様
引き続きありがとうございます!
「I'm Moving On」、言われてみますと確かに雰囲気ありますね。
ジュリーの作曲は、昔は常識に囚われない奔放型だったと思いますが、2000年代あたりから徐々にフレーズ・インパクト重視に変わってきたようです。
「頑張んべえよ」はもしかすると詞が先にあって、曲をつけながら細部整えていったのかもしれません。
鮎川さんの言葉で僕が影響されたのは、「自分はヘヴィメタルが嫌いだけど、それを好きな人の好みを否定などしない。音楽が好き、というのはそれだけで素敵なこと」という感じの発言です。
僕はかつて、否定していましたからね・・・。大いに反省させられたものでした。
投稿: DYNAMITE | 2020年5月27日 (水) 09時38分