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2018年12月 8日 (土)

スージー鈴木 『イントロの法則 80's』

12月ということで、仕事もプライヴェートも年末に向けて予定が立て込んでおりますが・・・まずその第1弾、先の木曜日の仕事関係の飲み会で不肖DYNAMITE、久々にやらかしてしまいました。
いつもよりペースも量も飛ばし気味だな、という感覚はあったんですけどまぁ大丈夫だろう、と思っていて。さぁお開き、と立ち上がって数歩歩いてトイレを済ませたらいきなり酔いが回り、見事「ドカ~ン!」という感じでね、ブッ倒れて顔から流血。
その後、お店で小1時間ほど休ませて貰ってようやく普通に歩けるようになったという・・・少しの無理も効かなくなってきる年齢なのだ、と痛感した次第です。
みなさまも今月は忘年会のご予定などありましょうが、くれぐれもペースを乱さぬよう気をつけましょう!


さて今日は「本」のレビュー、と言うかこれからお読みになるみなさまのために内容のネタバレは極力控えますので、「オススメ」記事と捉えて頂けたら幸いです。
採り上げますは、いつも的確な表現と熱い研究心でジュリーについても頻繁に発信をしてくださっているスージー鈴木さんの最新著『イントロの法則 80's』。
早速本題へ!

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スージーさんは素晴らしい「言葉遣い師」であり、しかもそのフレーズや言い回しが悉く明快で、ポップです。
楽曲やアーティストの考察において適当な伝聞はまったく無いですし、主観を述べる際にも絶対に「ひとりよがり」にはせず、一般に分かり易い記述を徹底していらっしゃる。あくまでも自らの血肉とされた考察・検証から成る簡潔な言葉と文章こそ究極のプロフェッショナル・・・僕のような素人とはその点大きく違います。

例えば僕は以前このブログで先輩方に「シティ・ポップ」の定義を尋ねられて悪戦苦闘、とても分かりにくい文章をこねくり回した経験があります。
スージーさんはそのシティ・ポップを「田舎、ヤンキーが仮想敵」の音楽と例えられました(『1984年の歌謡曲』より)。これは別に田舎や若者をバカにしているとかそういうことではなくて、緻密なアレンジに飾られた無機質なまでにクールな都会性とアダルト色をムーヴメントの由来から掘り下げ導かれた表現であり、時代背景まで加味した本質の言葉なのです。
そんなスージーさんの「本質を突く」スタイルはジュリーを語る寄稿でも等しく発揮され、それ故多くのジュリーファンからの熱烈な支持を得るのでしょう。

僕が初めてスージーさんを知ったのもやはりジュリー絡みの発信で2010年のことだったと思いますが、その後の2013年にスージーさんが放った強烈なまでに感動的な一文を拝見した瞬間から、僕は完全にスージーさんに惚れ込んでしまいました。
それは、ジュリーのことをロクに知りもしないであろう人が書いた某三文記事をスージーさんが正に「一喝」する内容で、今でも一字一句記憶しています。

「沢田研二はもう、あなた方マスコミが浮き沈みを論ずる地平にいないのだ。勉強して出直して欲しい」

僕も含めて多くのジュリーファンがその三文記事には憤慨しつつも、あまりの低俗さに反応のしようもなく唇を噛みしめていたところに、このスージーさんの見事な一喝があり胸のすく思いがしたものでした。プロのライターの手にかかれば相手のレベルがどうあれこれほど簡潔爽快に一刀両断できるものなんだなぁ、と。

以来スージーさんは僕の憧れの人となりました。
また、その言葉の素晴らしさ以外のところで何故僕がこうもスージーさんの文章やその奥に垣間見える生活感、時代背景に共鳴するのか・・・理由はスージーさんのプロフィールを知った時に氷解しました。僕とは1966年生まれの同い年で、いわゆる「丙午のタメ」。加えて何と大学の同窓。かつて知らず知らずキャンバスですれ違っていたことは確実にあるとして、中古レコード店『タイム』で掘り出し物を漁っていたり、『ムトウ』で弦やピックを買っていたり、終電を逃して喫茶『白ゆり』で仲間と音楽を語らいながら一夜を明かしたりしていた時、すぐ近くに居合わせてまったく同じように過ごしていた見知らぬ青年が実は若き日のスージーさんだった、という可能性は充分にあります。
つまり、テレビから流れてくるヒット曲をどの年齢で、どんな環境で耳にしていたかという「原風景」がスージーさんと僕とでは完全に重なるのですね。
ですから、もちろんスージーさんは僕にとって雲の上の存在ではあるけれど、万一酒席を共にしたら相当盛り上がる自信があります(笑)。

それはさておき、「ジュリー堕ち」以降僕の中では「歌謡曲復権」のマイムーヴが起こり、この数年スージーさんの発信や著作には多くを学ぶこととなりました。
『1979年の歌謡曲』『1984年の歌謡曲』の2冊も名著でしたが、今回ご紹介する最新著『イントロの法則 '80s』についてブログでレビューまで書こうと思い立ったのは、何と言ってもジュリー・ナンバー2曲の考察がとても面白く、ジュリーファンのみなさまにも読んで頂きたい、との気持ちを強く持ったからに他なりません。

採り上げられているのは、まず「80年代」の括りならば万人納得の「TOKIO」。
シングル盤『TOKIO』が80年代の幕開けとする位置づけは当然ですから、スージーさんもこの名著の冒頭を飾る1曲として抜擢。気合が筆から滲み出ているようです。あのイントロをパンクの「キワモノ」性と重ねるスージーさんの考察には目からウロコでした。
そしてもう1曲は、この本のコンセプトが「イントロ」に特化した考察であるからこそ選ばれたであろう「”おまえにチェック・イン”」です。
伝説のコーラス・ワークによるイントロ・インパクト・・・伊藤銀次さんから直接お話を聞いていらっしゃるスージーさんとしては、外すことのできない曲だったのでしょう。考えてみれば、冒頭いきなり擬音コーラス(或いはスキャット)からスタートするヒット曲って邦楽だとなかなか無いんですよね~。
このジュリーの2曲の項だけでも一読の価値あり、と自信を持ってお勧めできます。

収載された他歌手(バンド)の曲もすべて「有名な曲」ばかりが採り上げられています(全40曲)から、世代の異なるみなさまもご存知の曲が多いのではないかと思います(世代的に僕は全曲知っていましたが)。
例えば「時の流れに身をまかせ」(テレサ・テンさん)。もしみなさまの中に今年の人見豊先生の講義を聞いた方がいらっしゃったら、スージーさんの考察に人見先生の歌詞解釈を重ねることができるでしょう。
また、「ルビーの指輪」(寺尾聰さん)のイントロ・リフが曲中で何度登場するか、とカウントしてみる感覚などは、畏れながら他人とは思えなかったりします(笑)。
本のラストを飾る曲は「君は天然色」(大滝詠一さん)。何故この曲がラスト収載なのかは、スージーさんのリスペクト溢れる大滝さんへの思いと追悼の文章を読めば分かります。

などなど、数々の名曲群のイントロにどんな仕掛けや手管が潜んでいるのか・・・スージーさんならではの考察、本当に面白いですよ~。

最後に。
スージーさんには是非今度は80年代の「アルバム」考察本を、と期待しています。
スージーさんならジュリーはまず『S/T/R/I/P/P/E/R』で決まりでしょうが、ここはもう1枚奮発して何か「隠れた名盤」を・・・例えば『NON POLICY』なんてどうでしょう?スージーさんがこのアルバムを語るとすれば、アレンジの井上鑑さんを絡めて「ジュリー流シティ・ポップ」を掘り下げてくださるはず。

他歌手、バンドでは寺尾さんの『Reflections』、大滝さんの『A LONG VACATION』はマスト。
そしてスージーさんが最も得意とするサザンオールスターズからは、『NUDE MAN』を希望します。
「アルバム解説」となれば、世間一般には有名とは言えないシングル・ナンバー以外の収録曲、ヴァージョンなども語られるということ・・・以前スージーさんがラジオで「親鶏」のお話をされていたことがありましたが、僕にとって「夏をあきらめて」は桑田さんが歌う『NUDE MAN』収録のサザン・ヴァージョンが親鶏なのです。
研ナオコさんが歌って大ヒットしたヴァージョンももちろん素晴らしいですけど、もしサザンがこの曲を『NUDE MAN』からのシングルとして切っていたら、記録的なスーパー・ヒットとなっていたんじゃないか、と僕は今でも思っていますが、スージーさんはどのようにお考えなのか・・・とても興味深いです。

それに、僕はどちらかと言うと若い頃は洋楽志向のリスナーでしたから、未だ出逢えていない邦楽の名盤がたくさん残されているはずで、それをスージーさんに教えて頂きたい!との気持ちがあります。

今はちょっと興味を持った対象楽曲を簡単にネット検索できて、簡単に流し聴きできてしまう時代ではありますが、「便利さ」は「脆さ」と紙一重と知るべし、です。この場合の「脆さ」とは、伝え手と受け手の信頼関係に表れてしまう、と自戒すべきでしょう。
それこそ80年代には、僕らは洋楽であれ邦楽であれ「次は誰の何を聴いてみようか」と必死になって自分の嗜好に合う音楽の情報を仕入れたものです。
そんな時頼りになるのは、自分が信頼している人が纏めてくれたディスコグラフィー的な要素を含む本でした。僕もスージーさんと同じく10代で渋谷陽一さんの『ロック・ミュージック進化論』を読んで目覚めた世代・・・スージーさんの感性と考察を信頼していますから。
いずれにしても、スージーさんの次作が楽しみです!

音楽というのは別に理屈など知らずとも楽しめるものです。むしろ知らずに聴く方が良い場合もありましょう。でも、少しだけでもコードやリフの凡例や類似パターンの知識を自分の引き出しに入れてから改めて聴いた時、「よく知っている」つもりだったあんな曲、こんな曲が劇的なまでに新鮮に変化して聴こえる、感じとれるということがあります。
とは言えやみくもに理論を勉強しようなどと考え悩む必要はまったくありません。
気軽に読めて、これまで知らなかったことを分かり易く伝えてくれる格好の1冊がここにあります。

この年末年始少しゆっくりしたいな、という時間のお供に、スージーさんの『イントロの法則 80's』、みなさまも是非一読されてはいかがでしょうか・・・。


それでは、僕は明日いよいよ瞳みのる&二十二世紀バンドの四谷公演に参加します。
一方ジュリーは・・・関西シリーズ、昨年非常に評判の良かった三田の公演ですね。
今年一番の寒さになるということなので、お互い万全の準備で出かけましょう!
レポupまで、しばしお時間くださいね。

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瀬戸口雅資の乱れ撃ち一発伝授!」カテゴリの記事

コメント

沢田研二をめぐる瀬戸口さんとスージー鈴木氏との対談、私が(音楽)雑誌の編集者なら、ぜったいに実現させたい企画です。

投稿: 小林一郎 | 2018年12月 8日 (土) 22時14分

小林一郎様

ありがとうございます!

大変ご無沙汰をしております。過分なお言葉に畏れ入るばかりです。

小林様のサイトにも久しぶりにお邪魔させて頂き最新の編集後記を拝読しましたが、確かに『ロッキング・オン』のツェッペリン総特集に渋谷さんの寄稿が無いというのは、体調面が心配ですね・・・。

僕はこれから瞳さんのLIVEに行って参ります。どんなタイガース・ナンバーが飛び出すか、楽しみです!

投稿: DYNAMITE | 2018年12月 9日 (日) 11時33分

こんばんは。
コメントご無沙汰です。いつもありがとうございます。

スージーさんと同窓ということは、私はお二人の一年後輩(学部は違いますが)ということになりますね。なんだか一気に身近な方に思えて嬉しいです(///∇///)

先日なんと!サークルの先輩が大学時代にスージーさんと仲良かったということがにわかりました!!当時のメンバーのたまり場だった先輩のアパートにもお顔出されてたとのこと。びっくりでした。

スージーさんは『ボヘミアン・ラプソディー』に関する考察も書かれてましたが、記事に対するSNSでのコメントが残念でした。
私みたいな音楽のことあまり知らない者にとっても、わかりやすい文章なのに、言葉尻だけとってあげつらうのには辟易しました(T-T)
想いや考えを伝えるのってホント難しいですね…。


この本、是非読んでみたいです。

投稿: ようこ | 2018年12月12日 (水) 23時08分

ようこ様

ありがとうございます!

おぉ、そうでしたか!
僕も一文でしたからスージーさんと学部は違うのです。ただ、サークルのラウンジが本キャンの方で、大学生活トータルですと、文キャンよりスージーさんのいる本キャンをうろついていた時間の方が多かったと思います(汗)。

スージーさんはたとえマニアックな題材であっても、それを「大衆性」にまで突き詰め分かり易い文章を書かれます。ようこ様がご覧になったコメントは偏狭な類のものでしょうから、相当的外れだったのでしょうね。

『イントロの法則 80's』、本当に面白いですよ~。
ようこ様は同世代ですから、採り上げられているほとんどの曲をご存知のはずです。是非お読みください!

投稿: DYNAMITE | 2018年12月13日 (木) 09時24分

DY様 こんばんは。

デパートの書店で見かけたので購入しました。

「TOKIO」1980年1月1日発売
・・・私、いつ購入したんだ?
あの当時デパートもレコードショップも元旦はやってなかったような・・・。
大晦日にフラゲしたんだっけ?
「TOKIO」
「この上無くうさんくさい沢田研二が日本の歴史上最もうさんくさい80年代を連れてきた」
スージーさん、最高です。

今日いつものヤクルトさんと世間話してたら唐突にジュリーの話題を振ってきて(ジュリーのファンだとは言ってない)
世間一般の情報に基づく感じでしたが、「声、全然変わってないねー。」YOU TUBEでも見てるのかな?
ライブはもっと面白いよ、と言ったら興味をお持ちになったようなので今度マジに誘ってみます。

投稿: nekomodoki | 2018年12月16日 (日) 01時50分

nekomodoki様

ありがとうございます!
お返事お待たせしてしまい申し訳ありません。

「TOKIO」をそれ以前のジュリー・シングルと比較し、80年代の特性と併せ「うさんくさいキワモノ」と評したスージーさんは只者ではありませんね。これは「突き抜けられる才を持つ」と同義で、まずジュリーがその1番手として時代をリードしたのだ、と。
正にジュリーが「80年代を連れてきた」んですねぇ。

そうそう、ジュリーのシングルって元旦発売が結構あるじゃないですか。先輩方がどのように購入していたのか、以前から興味があったんですよ。
お年玉を貰ってから、お店が開く日までじっと我慢、というパターンをまず考えましたが、大晦日のフラゲもありえそうですね!

投稿: DYNAMITE | 2018年12月18日 (火) 09時28分

DYNAMITE様、はじめまして!

先日、私もこの本を買って読み始めたところです。DYNAMITE様のこの文章を読み、「おっ!」反応し思わずコメントをしてしまいました。

スージー鈴木氏の文章は、分析的で理屈っぽい割には、表現がしっくりくる感じがいつもしていました。単に「私の感覚と合うんだなぁ」と思っていたのですが、プロフィールを見たと言う件で私もプロフィールを見てみました。なんと!高校が同じでした!

そう思って本をよんでみると、なんかうちの高校の男子に共通するものが…(笑)
上手いこと言うな~な感じ、ちょっと理屈言いたい感じ…などなど高校時代の同級生たちの事が思い出されて微笑んでしまいました。

つまらない私事ですが、気づかせて下さったDYNAMITE様にお伝えしたくなってしまいました。どうでもいいお話で失礼しました。

ついでにもう一つ。先日の佐野元春さんはロッキンクリスマスで「彼女はデリケート」を歌ってくれました。期せずしてジュリーと両方聞けるなんてラッキー!でしたよ。二人は魂の色が似ているように思います。

長文失礼しました。

投稿: ミモザ | 2018年12月25日 (火) 02時16分

ミモザ様

はじめまして。コメントどうもありがとうございます!

おぉ、そうでしたか~。
言われてみますとスージーさんの文章には、素敵な意味でのヤンチャな感じがあって、でもそれは未熟というものではなく、純粋な少年性を保ったライターさんなんですよね。
それはやはり、音楽やスポーツへの愛情が成しえていることだと思います。「好き」を突き詰めてゆくのは素晴らしいことなのだ、と改めて思いました。

佐野さん、「彼女はデリケート」歌いましたか!
佐野さんのヴァージョンはモータウン・ビートで、ジュリーのヴァージョンとはまた違った魅力がありますよね。僕は佐野さんは『NO DAMAGE』がリアルタイムの出逢いでしたから、思い入れの深い1曲です。

これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。

投稿: DYNAMITE | 2018年12月26日 (水) 16時49分

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