沢田研二 「愛の神話・祝祭という名のお前」
from『act#4 SALVADOR DALI』、1992
1. スペイン・愛の記憶
2. 愛の神話・祝祭という名のお前
3. ガラの私
4. VERDE ~みどり~
5. 眠りよ
6. 愛はもう
7. 黒い天使
8. 恋のアランフェス
9. 白のタンゴ
10. 誕生にあたっての別れの歌
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6月25日です。
ジュリー69歳のお誕生日です。おめでとうございます!
↑ 近年恒例、「ありがとう」と言ってそうな若き日のジュリーのショットを今年も貼っております。これは・・・50年前くらいですか?
ジュリーファンにとっては、年に一度の祝祭日ですな~。全国各地でお祝いムードに包まれ「おめでとう」の声が飛び交う宴が催されていることでしょう。
僕は今日はこれから、男性タイガースファンの先輩であるYOUさんのLIVEに出かけます。ジュリーの歌を演奏してくれるわけではないみたいだけど、何と言ってもこの日付ですから、YOUさんお馴染みの長~いMCの内容には期待しています。
出かける前にこのブログでも、ジュリー誕生月に開催中の”act月間2017”の締めくくりお題としまして、今日はとてもおめでたい祝祭の名曲を採り上げ、ジュリー69歳のお誕生日に捧げたいと思います。
現時点で『actCD大全集』全discの中で個人的に最も好きな作品『SALVADOR DALI』から、「愛の神話・祝祭という名のお前」です。僭越ながら伝授!
僕がactナンバーで特に惹かれている曲は、まず『EDIT PIAF』収録のジュリー作詞・作曲作品である「エディットへ」。カバー曲だと『BORIS VIAN』収録の「俺はスノッブ」、或いは『SHAKESPERE』収録の「私は言葉だ」。
そして・・・actと言えばこの黄金コンビ、加藤直さん作詞、cobaさん作曲のオリジナル・ナンバーとなりますと、「とても1曲に決められない!」というくらい拮抗して惚れ込んでいる名曲が5曲。『BORIS VIAN』の「墓に唾をかけろ」、『NINO ROTA』の「SARA」、『BUSTER KEATON』の「another 1」、『ELVIS PRESLEY』の「無限のタブロー」、さらには今日のお題曲『SALVADOR DALI』の「愛の神話・祝祭という名のお前」です。
ちょっと前に放映された阿久悠さんの特集番組で、どなただったか忘れてしまいましたが、阿久悠さんの作詞を「狂気の伝達である」と語っていた方がいらっしゃいました。「狂気」と言うと少し怖い表現ですが、要はまず阿久悠さんがブッ飛んだ詞を書く、それを読んだ作曲家が「スパーク」してメロディーを作る、それがまた歌い手にも「スパーク」して伝達してゆく、ということ。
詞曲いずれが先にせよ、加藤さんとcobaさんのactナンバーには、かつての阿久=大野コンビが魅せてくれた「スパーク」の伝達と同じパワーを僕は感じます。
特にこの「愛の神話・祝祭という名のお前」。突き抜け、振り切った歌詞。短調の明快なメロディーでグイグイと容赦なく攻めてくる曲想。これはあの「勝手にしやがれ」とも共通しています。
単純にうわべだけの「スパーク」で詞曲によりかかってしまうレベルの歌手では、逆に作詞者・作曲者の「スパーク」は聴き手に伝わらないと思うのですよ。
「勝手にしやがれ」もそうですけど、ジュリーはそんなスパークの高熱を程好い温度までに冷ましてから自分に引き込む俯瞰力があり、耳あたり良く伝える驚異の才能の持ち主。「どんなことを歌っている」とか、「曲の進行はこういう理屈になっている」とか以前に、得体も知れず伝わってくるその歌声は驚くほどポップで大衆性があって、ハチャメチャにスパークしている楽曲の根本がとても分かりやすい形で耳に、心に入り込んできます。
「愛の神話・祝祭という名のお前」は、言うなれば「お前は俺のすべて」という歌ですよね。
私の子供 私の 母親
Cm Fm7 B♭7 E♭maj7
私の 恋人 私の女神 私のガラ ♪
A♭maj7 Fm7 Dm7-5 G7 Cm
この情熱・狂乱のサビを歌手が押しつけがましく詞曲のスパーク温度をさらに上げて、沸騰して歌ったらかえって興ざめしそう。その点、ジュリーの歌、発声の温度は絶妙です。それがジュリー流、天性の「スパーク」。
語尾を子音と母音の2段階に分ける、色っぽくメロディーに絡んいるようでもあり突き放しているようでもあるジュリー独特の鼻濁音の発声を聴いていると、これはもうジュリー以外の人には歌えないだろう、ここまで伝えられないだろうと聴き手の方が興奮してスパークしてしまうという(笑)。
「これが天下の沢田研二じゃ、皆頭が高い!」と全世界に勝手に叫びたくなる名曲・・・ということで僕の中では「愛の神話・祝祭という名のお前」は、「勝手にしやがれ」と同格です。
ただ、考察記事を書こうというからにはここでちょっと興奮を抑えまして、なけなしの俯瞰力を総動員して程好い温度のスパーク伝授をしなければなりません。
ここからは楽曲の魅力を冷静に探っていきましょう。
祝祭という名のガラ
A♭ Cm
まといつく緑の故郷 ♪
A♭ Cm
実は、この曲を知るまで僕は「gala」という英単語を知らなかった(或いは忘れてしまっていた)のです。
改めて辞書を引いてみますと
ダリの奥さんであるガラについては昨年「眠りよ」の記事中で書きましたのでここでは割愛しますが、「ガラ=祝祭」の発想から加藤さんがビシッとキメたタイトルが「愛の神話・祝祭という名のお前」。
ジュリーという歌手が歌えばこのタイトルが「大上段」にはならないんですよね。歌の主人公(ダリ)の誇り高き断言であり、真理となるのです。
にしてもこの加藤さんの名篇、よくぞここまでメロディーにもお芝居の題材にも「嵌った」ものです。
舞台はスペイン、スペインと言えばフラメンコ。フラメンコは「情熱の音楽」であるとよく言われていて、メインの楽器であるギター演奏にしてもそうなのですが、その「情熱」を表現するためには逆に演じ手が「クール」であることが肝要だとされます。
淫らな官能、狂おしい求愛をして「愛の神話・祝祭という名のお前」という加藤さんの詞はとてつもなくクールであり、ジュリーの歌も同様です。
この曲に表れているのは、加藤さん、cobaさん、ジュリーによる「クールにスパークする狂気の伝達」ではないでしょうか。cobaさんのメロディーも、こんなに情熱的な曲なのに俯瞰力が物凄い。
はじめにカダケス 永遠の私の海
Fm7 G7 Cm
それから熱烈 旅に誘う私の舟 ♪
Fm7 G7 Cm
キーはハ短調。
メロディー、コード進行は短調ポップスの王道です。大げさな部分、トリッキーな部分は無いんですよ。サビはモロに「枯葉」進行だったりします。
ただし、「ここはまぁこんな感じでいいや」という妥協や迎合は一切ありません。
王道にしてオリジナル、一分の隙もなく練りこまれた各ヴァースの繋ぎ目と展開。そのプロフェッショナルな俯瞰力が「情熱の音楽」へと昇華されます。
「クールなスパーク」とは決して「おとなしい」ということではありません。詞も曲も、ジュリーの歌そして演奏もすごくテンション高いですよね。
それはcobaさんのアコーディオンからギターへとリレーする間奏を聴けば誰しも感じられるでしょう。
『SALVADOR DALI』全編の演奏でcobaさんのアコーディオンと並び特筆すべきは、2本のギターのアンサンブル。スペインが舞台ということで採り入れられているフラメンコ・ギターです。
収録曲中多くの曲で登場する、じゃかじゃかとかき鳴らすように弾く奏法は、普通のアコギとは違い「ストローク」ではなく「ラスゲアード」なる呼称があります。これ、右手の爪で弾くらしいんですよ(僕には無理。指弾きはできるんですが、爪はなんだか怖くて・・・)。
ロック奏法においても僕の好きなギタリストの1人であるウィルコ・ジョンソンのように「爪弾き」の名手はいるんですけど、やっぱりフラメンコのラスゲアードというのは独特。「愛の神話・祝祭という名のお前」では、お馴染みトレモロ奏法と共にフラメンコ特有のラスゲアードを堪能することができます。
そこに噛みこむアコーディオン、バリージョ・・・「眠りよ」の記事でも書いたのですが、新規ファンの僕が遡って聴くと、『SALVADOR DALI』の演奏の魅力は「よくぞベースレスでここまで」という、言わば鉄人バンドのフラメンコ版という感じのcobaさんの素晴らしいアレンジあらばこそ。パターン的に特化した、ある意味「偏って」いるのにこれほどジュリーの歌とマッチするとは・・・ジュリー、cobaさん双方畏るべし!なのです。
そうそう、フラメンコって演奏の最中に時々シャウトと言うか、「かけ声」が入るじゃないですか。
「愛の神話・祝祭という名のお前」の間奏でも、よ~く聴くと「や~!」みたいなオフマイクの声が入っていて、僕はそういう「忘我の発声」みたいなニュアンスがメチャクチャ好きです。
CD1曲目「スペイン・愛の記憶」ではそんな声がハッキリ聴こえて、僕は当初それらを「間奏を盛り立てるジュリーの声」だと思ったのですが(いや、曲によっては実際そうかもしれませんが)、「VERDE ~みどり~」で伴奏がタップのみになりジュリーが歌う箇所でもかけ声が聴こえてきますから、「あぁ、これはバンドが”情熱のフラメンコ”を体現しているんだな」と気がついた次第。
ま~しかし、この曲は何と言ってもジュリーのヴォーカルなのですな~。
今回改めて『SALVADOR DALI』のCDを通して聴いて、やっぱり僕はactCD大全集のディスクの中ではこの作品が一番好きかなぁ、と思いました。
act全編に言えることなんでしょうけど、ジュリーの凄さは先程から書いている「俯瞰力」に加えてその驚嘆すべき「吸収力」「進歩力」に尽きると思います。新たな歌、新たなジャンルに挑むたびに、その楽曲の進行であったりアレンジであったり、とにかく「優れて特化している面」を軽々と吸収、会得してさらにまた次の新しい段階へと進んでゆく、年齢など関係ない成長。現在2017年も未だに続いているジュリーの特性・・・『SALVADOR DALI』はそんなジュリーの素晴らしい特性が実感し易い作品ではないかと思うのです。
フラメンコという良い意味で偏ったジャンルのアレンジ、独特のメロディー、官能の表現、ベースレスのアレンジ・・・ジュリーはそのすべてに悠々と対応し、歌手としてどんどん高みに昇っていきます。
ちょっと話が逸れるようですが・・・将棋界の新たなスーパースター・藤井聡太四段の大活躍については一般のニュースでも大きく採り上げられていますからみなさまもご存知でしょう。
彼に敗戦したあるベテラン棋士がこんなことを言っています。「今の藤井四段は、漫画のヒーローを見ているようだ」と。
どういうことかと言うと、史上最年少記録でプロ棋士に昇段した藤井四段は、直前の三段リーグ戦(将棋界では三段までが修行中の「奨励会員」で、四段以上がプロ棋士)を13勝5敗の成績で通過し四段に昇段しています。これは過酷な三段リーグにあって当然素晴らしい成績ではありますけど、その当時彼はまだプロではない奨励会員(三段)を相手に5敗している、ということでもあるわけですね。
それが一転、プロデビュー後の圧倒的な連勝劇(明日、歴代新記録の29連勝に挑戦します。ここまで来たら偉大な記録更新を見てみたいですが、相手の増田四段もかなりの強敵です)。
先述の棋士に言わせると、若き(というかまだ中学生なんですけど)藤井四段はプロデビュー後、対局相手の強い部分、優れている部分を易々と吸収し、次の対局までに信じられないほど強さを増していて、そんな状況が対局ごとにず~~っと続いている、と。
将棋の棋戦というのは勝ち続ければ続けるほど相手が強くなっていくわけですから、これを少年ジャンプの漫画で例えるならば、黄瀬涼太のパーフェクト・コピーが時間無制限で持続し、しかもコピー元の本家を凌ぐ強さを身につけ続けているということ(『黒子のバスケ』を知らない方々にはまったく分からない例えで申し訳ありません)。その棋士の言葉に説得力があるのは、連勝中の藤井四段と別棋戦で2度対戦して敗れている棋士だからです。1度目の対戦と2度目の対戦で、藤井四段の短期間での進化、成長を身をもって体感したのですね。
ジュリーの歌人生(これまでの道のり)って、正にそんな感じだと思うのですよ。
その中でもactシリーズ、特に『SALVADOR DALI』でのジャンプ・アップは驚異的。
「愛の神話・祝祭という名のお前」については、前後の年によく似た曲調、”短調のメロディーでバシバシ攻める”情熱系の名曲をジュリーは歌っています。91年の「涙が満月を曇らせる」、93年の「そのキスが欲しい」。いずれも大変な名曲ですが、ジュリーの歌の表現、柔軟性は、この3曲で年々グ~ッと右肩上がりでしょ?
ジュリーはデビューから50年、休まずそんな進化を続けているんだろうなぁと思える、その分かり易い楽曲例として「愛の神話・祝祭という名のお前」は本当に貴重なテイクだと僕は考えます。
個人的にこの曲のジュリーのヴォーカルで一番痺れるのは、サビのダメ押し部。嬰ハ短調への半音上がりの転調間際の声の伸ばし方です。
これもかつて歌った「スマイル・フォー・ミー」であったり「君をのせて」であったり「あなたへの愛」であったり・・・ずっと以前から「サビのダメ押し転調」曲を歌い吸収し続けてきたジュリーが、『SALVADOR DALI』の世界観を受けて応用し進化を遂げてこういうヴォーカルになっているわけで。
信じられないほどに素晴らしい、としか言えません。
今日で69歳となったジュリー。来年の古希イヤー、さらにその後・・・僕らはまだまだジュリーの底知れぬ進化を楽しむことができそうですね。
「男子3日会わざれば刮目して見よ」と言いますけど、まずは7月からの全国ツアー。チケット到着を心待ちにしながら、刮目して初日・NHKホールに参加したい、と意気込んでいる今日この頃です。
チケット到着が待ち遠しい!
それでは次回更新は・・・。
少し間隔が開きますが、いよいよジュリーのデビュー50周年記念全国ツアーが開幕する7月ということで、セットリスト予想シリーズに突入します。じっくりと3曲に絞って書こうと思っていて、お題も決めています。
拙ブログのセトリ予想と言えば、本人は当てる気満々で書いているのに蓋を開けたらてんで見当外れ、という”恒例・全然当たらないセットリスト予想”を毎回掲げています。ただし今回はちょっと路線が違うんです。
なにせ、ジュリー本人が「シングルばかり50曲歌う」と宣言しているのです。まだ記事未執筆のジュリー・シングルも数少なくなってきていますが、今回例えばその中から「愛の逃亡者」「6番目のユ・ウ・ウ・ツ」「背中まで45分」「アリフ・ライラ・ウィ・ライラ」「STEPPIN' STONES」「愛まで待てない」・・・これらのうち3曲選べば、全お題的中が濃厚なんですよ。
でもね。
そんなの、僕のブログらしくないじゃないですか!
ここはひとつ、「う~ん、その曲は50曲の中に入ってくるかどうか・・・」というギリギリのラインにいるシングルを厳選して3曲書いてみようかと。
もちろん僕的に「可能性はある」と考える曲であり、「是非生で聴いてみたい」という曲達です。
ですから、個人的には「これはまぁやらんだろう」と考えている「MEMORIES」とか「Stranger -Only Tonight」などは逆に書きません(もちろん、その2曲も万一セトリ入りしたらサプライズで嬉しいですよ!)。
あくまで、お読みくださるみなさまも一緒に「う~ん、ジュリーが選ぶ50曲の中に入るかって言うと、さてどうかなぁ?」と悩みつつ期待も持たせられる、といった感じの3曲で勝負を賭けます。題して
”全力で外しにいったのに当たっちゃった!パターンを期待するセットリスト予想”シリーズ(←長いよ)。
渾身の厳選シングル3曲、どうぞお楽しみに!
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