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2017年4月 8日 (土)

沢田研二 「噂のモニター」

from『彼は眠れない』、1989

Karehanemurenai

1. ポラロイドGIRL
2. 彼は眠れない
3. 噂のモニター
4. KI・MA・GU・RE
5. 僕は泣く
6. 堕天使の羽音
7. 静かなまぼろし
8. むくわれない水曜日
9. 君がいる窓
10. Tell Me...blue
11. DOWN
12. DAYS
13. ルナ

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先月「揺るぎない優しさ」の記事で写真添付しました会社倉庫近くの公演の桜は、先の木曜日に再び通りかかるとこのような感じになっていました。


1704060823

満開の桜を仰ぎ、「この国も、世界のどの国の人々も平和であれ」と祈るばかりです・・・。


さて、みなさまもそろそろ今年の全国ツアー後半の参加会場が決まった頃でしょうか。
僕は当初「夏からのツアーはとにかく数多く行く!」と意気込んでいて、3月に全公演日程のインフォを手にした時には、最終月の来年1月のNHKホールはすべて参加したいと考えていました。
しかし今回改めてインフォと払込票を眺めていて、「NHKホールは全部平日、全部第2希望を記入するのか~」と。そうしているとふと目に入ったのが
「1/14(日)熊本」
の文字。
ジュリーが九州に「あけましておめでとう!」と歌いに行くのはいつ以来なのでしょうか。このスケジュールにジュリーの熊本への思いを感じないわけにはいきません。
会場は、未だ改修工事中と聞くお馴染みの市民会館ではなく県立劇場となりましたが、ジュリーはこのお正月熊本公演に並々ならぬ気持ちで臨むでしょう。
考えれば考えるほど、「九州人である僕がこのタイミングを逃してよいのか」という思いが強くなってきました。カミさんも一緒に、そしていつもお世話になっているみゆきママ様も同行してくださることとなり・・・僕は年明けのNHKホール参加をサッパリと諦め、その代わり熊本公演に遠征する決意を固めました。
まだまだ先の話ですが・・・九州の先輩方、どうぞよろしくお願い申し上げます。

それでは本題です。
矢継ぎ早に更新しております『この曲のこの演奏にシビレる!』シリーズ、今日は第3弾の『アコギ編』。
採り上げるのはアルバム『彼は眠れない』から、個人的には収録曲中「Tell Me...blue」と甲乙つけ難い、最も好きな曲である「噂のモニター」です。
今回もチャプターに分けたコンパクトな文量を心がけてまいります。伝授!


①「噂のモニター」あれこれ

とは言っても新規ファンの僕はこの曲について特に逸話を何も知らないんですが・・・(汗)。

リリースされた89年は写真週刊誌全盛期だったでしょうか。アルバム『彼は眠れない』『単純な永遠』の作詞家陣には偶然なのかどうか、「スーパースターの孤独と苦悩」をコンセプトとするような名篇が多く、それをして僕はベルリン時代のデヴィッド・ボウイとの共通点としています。「世間」や「社会」といった要素に冷ややかな視点があり、敵視と紙一重のユーモアも感じられるのです。
サエキけんぞうさんの「噂のモニター」はその顕著な例と言えましょう。
ただ、当時こうした「誰かに見張られている」テーマというはごくごく一部の「有名人」にしかリアリズムを持たなかったかもしれません。

30年近い時が経ち、一般人である僕らの間で「監視社会」への危惧が語られ始める時代となりました。
この機に、「噂のモニター」を「現実感のない物語」ではなく「自分の身にも起こりうる、監視社会を題材とした」曲と捉え、ジュリーファンそれぞれがその状況を想像しながら聴いてみるのもアリではないでしょうか。

②楽曲全体の考察

「孤独という名の狂気」スレスレのトリッキーな歌詞、ブルース進行を土台に展開、進化するメロディーと構成、そしてジュリーのヴォーカル・・・僕はこの「噂のモニター」と、次作『単純な永遠』収録の「気にしてない」によく似たイメージを持っています。
いずれも「日替わり・ジュリーで一番好きな曲」の常連。単に僕の好みなのかもしれませんが、まず楽曲として詞曲アレンジすべてが文句なくカッコ良い上、こういうタイプの曲こそがジュリーの魅力を最も引き出すんじゃないかなぁ。

王道の進行であれば本来は

俺の体を切り刻む噂 熱い体を切り刻む噂
F#                           B7                     F#

すじ書き通り流せよ
C#7            B7

おまえのねらいはわかっているさ ♪
C#7                   B7              F#

とコードを載せればF#(嬰ヘ長調)のブルース。実際、歌メロはこの王道進行にも載るのです。
しかし建さんは大胆に捻って

すじ書き通り流せよ
C#7            E

おまえのねらいはわかっているさ ♪
A                       E                F#

としました。
よりシャープに、尖った雰囲気になります。「おとしどころ」を事前に決めてスクープする「モニター」達への皮肉を込めたサエキさんの詞とも噛み合っていますね。

アレンジは、左右に分かれてミックスされたアコギ2トラックを土台にエレキギターが3トラック、そしてストリングス。
アルバム『彼は眠れない』は楽曲ごとのクレジットがありません。それぞれの曲で誰がギターを誰が弾いているのかは謎なんですが、ブッとい狂乱のリード・ギターは下山さんのような気がするなぁ。下山さん、今でもこんな感じの空間系のエフェクトかけますから。LIVEでの「そのキスが欲しい」もそうでした。
あ、パッと聴きだと「ベース?」のように聴こえる薄い単音(最高に渋い!)は、エレキをミュート気味に弾いているトラックのようです。こちらは佐橋さんのように思える・・・結局僕の耳では分からないんですよね。

ロックなコード進行にストリングスを「カマす」攻撃的な手法は、ビートルズの「アイ・アム・ザ・ウォルラス」以降流行し今では定番化しています。
そんなストリングスを間奏のソロ・パートとして押し出すアレンジを僕は佐野元春さんの「愛はシステム」で学びました。佐野さんのこの曲をご存知の方は、そう言えば「噂のモニター」と「愛はシステム」ってなんとなく似てるな、と思ってくださるはず。いずれもブルース進行を採り入れた曲です。

そしてジュリーのヴォーカル。
曲全体を通して完璧にカッコ良い中で僕が特に惹かれるのは、1番での「うわさ♪」の発声です。
先述の「気にしてない」にも共通して見られる、ファルセットではない「別の喉を使った」ような裏声スレスレで吐き捨てる表現力は、正に「ロック」としか言いようがありません。これはジュリー天性の資質らしく、「叫ぶように囁く」スタイルはタイガースの「誰れかがいるはず」にまで遡ることができます。
「噂のモニター」は、もしかしたら多くのジュリーファンの間では「ちょっと風変わりな曲」として愛されているパターンの名曲かもしれません。それは正しい解釈ではあるんですけど、実は「ロッカー」的には「ポラロイドGIRL」や「DOWN」以上にジュリーの魅力が明快に分かり易い曲と言えます(タイトルチューンの「彼は眠れない」もそうですが)。
もしみなさまの周囲に普段ロックを聴いている若いお兄さんがいたら、是非この曲を聴かせてあげてください。見事に釣れると思いますよ~。

③キレッキレのツイン・アコギを聴けい!

いや、わざわざ僕が「聴けい!」などと言わずとも、この曲では誰しもがアコギに耳がいくはずです。曲が始まってしばらくの間は、「ド#ミド#ミファ#♪」というエレキのリフ以外、アコギしか鳴っていませんから。

アコギは良いですよ~。1本あればアンプが無くても誰でも鳴らすことができます。簡単なコードのフォームをいくつか覚えれば、「花咲く~娘~たちは~♪」と弾き語るまでに1日とかかりません。
最初の頃は指に弦の跡がついて痛いですが、次第に指がギターに鳴れていきます。

「卑怯者」の記事で、僕が初めて演奏を始めたのはドラムだと書きましたけど、学校以外・・・つまり自宅で最初に手にした楽器はアコギです。中学生の時、父親が母親の誕生日にプレゼントした「YAMAKI」というメーカーのアコギと教則本を横取りしたのでした。
それこそ1日中弾いても飽きず、教則本に掲載されていた「小さな日記」「マルセリーノの歌」「太陽がいっぱい」などの練習曲をマスター、ギターと同時に自然にスコアの読み方も深めていきました。

さて、エキゾティクスの時は「俺のベースを聴け!」的な主張が強かった建さん、EMI期のジュリー・プロデュースを任される頃にはアレンジャーの才能が開花していて、「楽曲全体の音」作りに心血を注ぐことに。
自ら作曲した「噂のモニター」では何とベースレス、2本のアコギを押し出したアレンジを施します(先に書いた通り、レコーディング音源のアコギは誰の演奏なのか分かりません。ただただキレッキレのストロークに圧倒されるばかりです)。

建さんがベースのみならずギターも弾けることはずいぶん前から知っていました。僕はLOSER(初期)時代の泉谷しげるさんのLIVEを生で観ていますからね。
泉谷さん、チャボさん、下山さん、そして建さんの弦楽器隊4人が全員アコギを持って横並びとなり、「アコギってこんなにロックなんだぜ!」と魅せつけてくれた名曲「野良犬」の演奏シーンを今でもよく覚えています。『イカ天』審査員としてたびたび発言していたように、建さんは「ロックなアコギ・ストローク」が大好きなのですよ(「風来坊」「THE WEED」といったバンドのアコギを絶賛していました。建さんは決して「辛口」だけの審査員ではなかったのです)。
「噂のモニター」のストロークでは、ギターの「いろはの”い”」とも言うべき「ブラッシング」という基本のテクニック・・・ギターを覚えたばかりの初心者が一番早く身につける技術かと思いますが、この基本中の基本テクニックを真のプロフェッショナルが駆使すればこうなるのだ、と思い知らせてくれます。

擬音で表現すると「じゃ~、つく、じゃ~、つく♪」と鳴っている「つく」の部分がブラッシング。リズム・ストロークに右手の腹の部分でミュートした音を適所に織り交ぜ、パーカッションのような効果を出すテクニックです。
これを僕のような素人がやると、まずミュート音の「圧」が違いますし、ブラッシング箇所のリズムが甘くなる・・・プロはそこを「正確かつエモーショナル」にリズム打ちするから「キレッキレ」に聴こえるわけです。
「噂のモニター」のアコギ・ストロークは、プロの演奏の中でも極上と言えるほどの切れ味。だからこそ、Tレックス直系のエレキのさりげないカッティングがあれほど効いてくるし、印象に残るんですよね~。

ただね、「謎」がここにもひとつ。
この曲のキーは嬰ヘ長調(F#)で間違いないんですけど、普通に「F#→B7・・・」と和音通りに弾いても、この曲でのアコギの響きにはならないんです(僕の技術不足はひとまず置いといて、の話)。
おそらく変則チューニングなんだと思う!
「1音半下げ」のユルユル・チューニングの「A」で弾いてる、と言われても驚きませんが実際はどうなのでしょうか。普段から幾多のジュリー・ナンバーの名曲で僕がブチ当たっている大きな「謎」のひとつです・・・。

最後に。
今年の全国ツアーでアルバム『彼は眠れない』から歌われるシングル、「ポラロイドGIRL」は鉄板でしょう。でも、もう1枚のシングル「DOWN」は?
僕はまだ生でこの曲を聴いたことがないのですよ。
次作『単純な永遠』収録の「世界はUp & Fall」と共に、セットリスト入りを切望しています。


それでは、オマケです!
今日は、昨年書いた「僕は泣く」の記事のオマケコーナーの続きとなります。89年繋がりということで『KURT WEILL』のパンフレットから数枚どうぞ~。


Kurtweill03

Kurtweill09

Kurtweill11

では次回、『この曲のこの演奏にシビレる』シリーズ第4弾は『エレキギター編』です。
鉄人バンドの音で本格ジュリー堕ちした僕にとって「ジュリーのバンドのギタリスト」と言えば、そりゃあ柴山さんと下山さんです。ただ、ここはひとつ自分の原点に立ち返ってみよう、と。

僕は本来どんな音楽に憧れて自らも演奏人を志したのか・・・これまで何度も書いていますが、僕が流行歌よりも、ビートルズよりも早く目覚めた「音楽」は、『太陽にほえろ!』のサウンドトラックでした。
両手にも満たない年齢の頃に、それとは知らず注入された井上バンドの音。
あの『太陽にほえろ!』の音楽が最も近しい仕上がりで反映されているジュリー・アルバムは、間違いなく『JULIEⅣ~今僕は倖せです』でしょう。
次回はこの名盤の中から、僕なりに「堯之さんのギターならこの1曲!」と考える大好きなジュリー・ナンバーをお届けしたいと思います。

更新頻度が早過ぎて申し訳ないのですが、とりあえずあと2曲ぶんはこのペースで突っ走りますよ~。

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コメント

DY様 こんばんは。

「叫ぶように囁く」
そこなんですよねぇ。やられちゃうのは(笑)
「噂」が独り歩きしてもはや別人格になっちゃってる自分をしらーっと眺めているような浮遊感。

「泉谷しげる&LOSER」
ライヴ観たことはありませんが、TUBEでは時々見ます。
一番印象に残っているのは泉谷さん、下山さんら4人が一列に並び、着流し姿でアコギの競演をしている映像です。確か「野良犬」だったと思います。(大分前でLOSERについてあまり知識がなかった頃のことなので自信ありません)
とにかくカッコ良かった!

投稿: nekomodoki | 2017年4月13日 (木) 01時38分

nekomodoki様

ありがとうございます!

「誰れかがいるはず」「四月の雪」「噂のモニター」・・・曲調がまったく違うのに、ジュリー独特の、ファルセットとも言えないハスキーで不思議な発声。やはりnekomodoki様はじめ先輩方も、その時その時でジュリーの「叫ぶように囁く」ヴォーカルにヤラれちゃっていたのですね~。

詳しいことは分からないのですが、nekomodoki様がご覧になった着流し横並びの泉谷さんのステージ映像は、LOSERではなく「下郎」の「野良犬」かもしれません。
僕は『吼えるバラッド』以降の泉谷さんはアルバムをじっくり聴けていませんが、そろそろ勉強してみようかと思っています。

投稿: DYNAMITE | 2017年4月13日 (木) 11時41分

DY様 こんばんは。

そうでした。下郎です。
コラボユニットなんですか?
Tube見たらアコギ3人アコーディオン1人並んでました。
下山さん、「下下淳之介」って…。

投稿: nekomodmki | 2017年4月14日 (金) 01時07分

nekomodoki様

ありがとうございます!

あぁ、やはりそうでしたか~。
正式に泉谷さんのバンド、だと思います。下郎、僕もそろそろ勉強せねば・・・。

投稿: DYNAMITE | 2017年4月14日 (金) 16時02分

DY様
 こんにちは。あと1時間足らずで皐月賞発走、私はサトノアレスに託します。
 お題曲、さほど好きではない『彼は眠れない』の中ではお気に入り上位の曲です。あとはタイトルソングと「DAYS」でしょうか。RCサクセションの大ファンの私ですが「KI・MA・GU・RE」はビミューかな。アルバムがあまり好きではないのは豪華すぎるアレンジ、時代に寄り過ぎた作家陣起用、それと音が良過ぎて疲れる、みたいな単にわがままな理由なんですけど。
 「噂のモニター」は何で好きなんでしょう?アコギもいいですがストリングスもいい味出していますね。次作の「PLANET」に共通する、何て言うんでしょう、ちょっとほっとするように私には感じられるのかもしれません。でも歌詞読むとあまりほっとはしませんねぇ(笑)。
 何年か前に演奏されましたね、いつだったかな?イントロのアコギパートは下山さんがエレキで弾いていて、それはそれでカッコ良くてやっぱり「キレッキレ」だったのを思い出しました。

投稿: ねこ仮面 | 2017年4月16日 (日) 15時13分

ねこ仮面様

ありがとうございます!
お返事遅れてすみませんでした。

皐月賞荒れましたねぇ・・・サトノは残念でした。
ねこ仮面様は1、2着馬がヒモで買っていらしたのでは・・・?

下山さんが激しいストローク、カッティングを魅せてくれるのは『1999正月コンサート』ですね。僕は当然生体感ではなくDVDでしか観れていませんが、オリジナルとは雰囲気がまったく変わり、これもまた名演ですね。柴山さんのオブリガートも効いています。

でも、この先ジュリーが歌ってくれるかと言うと・・・可能性はあまり高くはないのでしょうか。
ベースレスの鉄人バンドで是非生で一度聴きたい、と思い続けていた1曲なのですが・・・。

投稿: DYNAMITE | 2017年4月18日 (火) 12時16分

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