沢田研二 「想い出をつくるために愛するのではない」
from『LOVE~愛とは不幸をおそれないこと』、1978
1. TWO
2. 24時間のバラード
3. アメリカン・バラエティ
4. サンセット広場
5. 想い出をつくるために愛するのではない
6. 赤と黒
7. 雨だれの挽歌
8. 居酒屋
9. 薔薇の門
10. LOVE(抱きしめたい)
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今日は阿久悠さんのことをたくさん書きたいと思っていますが、タイミング良くTV番組の情報が。
BSプレミアムで放映の『ザ・プロファイラー』が、3月2日に阿久さんの特集を組んでくれるようですね(こちら)。「時の過ぎゆくままに」「勝手にしやがれ」の話題は(あわよくば映像も)期待できるのではないでしょうか。
是非観てみたいと思います。
阿久=大野=ジュリーのトライアングル黄金期の名曲群・・・みなさまが敢えてその中から「個人的ナンバーワン」を挙げるとすればどの曲ですか?
僕はね、ハッキリしています。
アルバム『LOVE~愛とは不幸をおそれないこと』の中で一番好きな曲であり、すべての阿久さんの作詞作品の中で一番好きな曲をとうとう書く時が来ました。
「想い出をつくるために愛するのではない」、伝授!
真冬に聴くこのアルバムは格別の素晴らしさですが、その最大の魅力は何と言っても「ここまでやるか!」という阿久さんの詞です。
「TWO」も「24時間のバラード」も「アメリカン・バラエティ」も「サンセット広場」も「赤と黒」も「雨だれの挽歌」も「居酒屋」も「薔薇の門」も凄まじいと思う・・・でもやっぱり一番凄いのは「想い出をつくるために愛するのではない」ではないかと僕は思います。
てか、大トリ収録のシングル曲「LOVE(抱きしめたい)」・・・ジュリー・シングルの中でも最強に主人公のダメージ度が高い曲が普通のラヴソングに聴こえてしまうアルバムってどれほどなの?という話。
型破りなまでに斬新かつ挑発的でありながら、完全に大衆に受け入れられ音楽界で圧倒的な支持を得た、というのが阿久さんの詞の凄さです。
「タブー知らず」なその言葉選びが分かりやすく説明できる、ジュリー・ナンバー以外の阿久さんの楽曲をまずここでご紹介しましょう。
1974年に放映された「特撮ヒーロー」子供番組の主題歌ですので、当時小学生男子だった僕と同じ世代の男性ならほとんど知っているはずですが、多くの女性ジュリーファンはご存知ないでしょうか・・・ズバリ『スーパーロボット マッハバロン』の主題歌です(こちら)。
阿久さんの歌詞云々の前に、みなさまはこの歪みまくったエレキギターや、ドラムス鬼のキック連打、ハードなヴォーカル・スタイル、ロックンロールな曲調、グラム・ロックなアレンジにまず驚かれたかと思います。作曲は誰あろう、井上忠夫(大輔)さんです!
で、阿久さんの歌詞、と言うか言葉の選び方がね・・・強烈過ぎませんか?
(悪の天才が)世界征服を夢見たときに
ですよ!
蹂躙されて黙っているか?
ですよ!
こんなフレーズを当時の子供たちは普通に覚えて、歌っていたわけです。「蹂躙」なる言葉の意味を分かっていたかはともかくとして。
さらに話が逸れますが・・・僕は「パチソン」フェチです。
「パチソン」・・・これも昭和の素晴らしい文化のひとつで、当時、子供向けの特撮やアニメなどのテレビ番組幾多の主題歌を、名もないバンドが耳コピで演奏、歌唱しレコーディングしたものを、怪しげなイラストが描かれたレコード、或いはカセットテープに編集されて全国各地のスーパーやデパートで安価で叩き売られている、ということがあったのです。
もちろん「本物」とは違うヴァージョンですから、何も知らずにお母さんが買ってきたレコードを聴いて子供たちは「なんか違う~」と思いながらも楽しんでいたのですね。原曲と比べるとヴォーカルのメロディーがおかしな抑揚になっていたり、ここぞとばかりにバンドが好き放題なアレンジ解釈の主張をしていたりと、バンドの数だけ怪作、迷作が多く生み出されています。
ちなみに僕も母に買って貰った『あつまれ!テレビまんが』というパチソンLPを持っていました(今も実家にあるかどうかは未確認)。すべて「ファットロマンサーズ」なるバンドの演奏。「マジンガーZ」「アイアンキング」「デビルマンのうた」が特に凄いですが、その醍醐味を理解したのは高校生になってからでした。
そんな中、パチソン・マニアの間で「永久保存版」と言われているのが『マッハバロン』のそれです。
僕がこのパチソン・ヴァージョンの存在を知ったのはほんの数年前のことで、たまたまYou Tubeで見つけて聴いた時にはひっくり返りました。
酔っ払って風呂場にカラオケ・セットを持ち込んで歌ったかのようなリード・ヴォーカル、最初のカウント出したメンバーの遅すぎたテンポを信じられないほど忠実にキープする演奏、あまりに陽気なアレンジ解釈のキーボードも凄いんだけど、まぁとにかくここは、歌詞に注意して聴いてみてくださいよ(こちら)。
耳コピが招いた大惨事。
そりゃあ、世界征服を夢見る悪の天才が突然チューニングを始めたら僕も黙っちゃいないけどさ・・・。
でもね、これは逆に阿久さんの凄さを物語っているとも言えるんです。「あの阿久悠さんが書いた詞だよ。子供番組の主題歌だからと言ってナメていたら大変なことになるよ」という実例なのですから。
同じことは、『LOVE~愛とは不幸をおそれないこと』というアルバム、「想い出をつくるために愛するのではない」という名曲についても言えます。プロフェッショナルが心血注いだ歌謡曲をナメてはいかん、と。
僕は次回更新で本格的な「懺悔」モードの記事を1本書くつもりでいます。と言うのも、数年前までの僕はやたらと「ロック」を振りかざしてずいぶん不遜、傲慢な文章をこのブログで書いていました。さらにそれ以前となると、ハッキリ「歌謡曲」なるジャンルを「ロック」から2、3段下に見ていたと思います。
それを翻したのがジュリーの『今度は、華麗な宴にどうぞ』との出逢いであり、トドメが『LOVE~愛とは不幸をおそれないこと』でした。
阿久さんの詞だけとっても、これはロック以上にロックではないか、と。でも、世のジャンル・カテゴライズは「歌謡曲」。それで良い、それが良いのです・・・最強の歌謡曲、ここにあり!です。
阿久さんはこの曲で「2年3ヵ月つきあってきた彼女と別れた」と、要約するならば1行で済むシチュエーションをどこまで拡げられるか、というテーマに挑戦しているように思われます。
まぁ阿久さんが書いたのですからこの物語の中の主人公と彼女の関係はかなり特殊で禁断的なものではあるのでしょうがそれはさておき、「情景」を映し出す言葉も、「気持ち」を表す言葉も神出鬼没、縦横無尽に散りばめられ、濃縮され繋げられて、まるで映画を1本観ているかのような名篇。
夏の日の帽子 くるくると風に舞った
Am G
まぶしさを失い 落ちて行く夕陽は
F Em
生きることを恥じている
Dm E7 Am Am9
妥協なく畳みかけられる阿久さんの言葉。
真冬の情景に「夏の日の帽子」を登場させる手法は、同アルバム収録の「雨だれの挽歌」でも「あなたの肌の熱さ」から真冬の凍える寒さを描いた阿久さんならではの神技です。
「想い出をつくるために愛するのではない」と「雨だれの挽歌」は主人公の置かれた状況がよく似ていて、「ホテル」が共通のフレーズなのですが、当然ながら別の物語でホテルの場所も違いますね。「雨だれの挽歌」は外に出ればすぐメトロの駅まで歩いていけますから「都会」でしょう。一方「想い出をつくるために愛するのではない」は窓から冬の海が一望できる「地方」・・・おそらく、夏には旅客で賑わう観光地なんだけど冬は閑散としている「○○岬」といったところでしょうか。
で、主人公は1人ホテルの部屋で夕刻から夜にかけてを過ごしていますが、「昨日」の時点・・・いや、当日のお昼までは彼女と一緒だった、と想像できます。
別れの直後にイーグルスを聴きながら5杯目のウイスキーを飲む主人公。とは言っても聴いているイーグルス・ナンバーは「ホテル・カリフォルニア」ではなさそうです。「呪われた夜」「駆け足の人生」あたりかな。
そして
想い出をつくるために
Am Dm
愛するのではないのです ♪
Am Em Am
阿久さん、容赦無し!
久世さんにしても阿久さんにしても、ジュリーを愛する天才って、美しいジュリーをトコトン痛めつけ傷つけることで心身が燃え上がったりするのでしょうか。
そして、主人公のダメージを「これでもか!」と追い込んでいるのは、アレンジと演奏も同様です。
『LOVE~愛とは不幸をおそれないこと』には、羽田健太郎さんをはじめとする天才肌ミュージシャンの演奏だからこその素晴らしさがあって、スコアに忠実でありながらそれ以上と言うのか、「どういう曲である」ということを踏まえて音が出ているように思えます。
特にチェロが凄い!情念、恩讐すら感じます。
そして船山基紀さんのアレンジ。一番最後のダメ押しリフレインで、各楽器が音量と手数を下げ、サ~ッと後方に退いていきますよね。とり残され、徹底的な孤独を強いられるジュリーのヴォーカルが、主人公のダメージをダイレクトに伝えてきます。
でも。
この恩讐じみたダメージ・ソングにあって、ジュリーのヴォーカルと大野さんのメロディーだけは「ノーマル」。それはまるで悪戯を企み盛り上がっている仲間連中を無言で手助けしているような・・・それでいてジュリーと大野さん無くしてその企みは成就しないという確信を持った「余裕」とも言えます。
「受け入れている」のではない、「突き抜けたノーマルの余裕」だと僕には思えるのです。
ジュリーのヴォーカルも大野さんのメロディーもひたすらに美しく気高く、俯瞰力に満ちています。このアンバランスこそが「想い出をつくるために愛するのではない」、ひいてはアルバム『LOVE~愛とは不幸をおそれないこと~』の個性であり魅力ではないでしょうか。
こんな歌、「70年代歌謡曲の王者」ジュリー以外で成立するでしょうか?少なくとも並の歌手では阿久さんに飲み込まれてしまうでしょう。
正に、「狂乱の70年代」と格闘してきた阿久さんが、ジュリーという奇跡のようにノーマルな天才の歌で「時代」を映し出した名曲なのだと思います。
アルバム『LOVE~愛とは不幸をおそれないこと』は、僕の周囲のJ先輩やJ友さん達の間でハッキリ好みが分かれる作品のようです。
「好みでない」と仰る方々から多く聞かれるのが「くどい」というご感想。う~ん、確かに「くどい」です。また、「ド歌謡曲」と評する方々もいらっしゃいます。うん、確かにそれはその通り。
でも僕は個人的に、突出したもの、やり過ぎたもの、突き抜けたものが大好きです。
ジュリーの幾多の名盤の中で、『LOVE~愛とは不幸をおそれないこと』の「突き抜け度」は最高級だと思います。昭和の偉大な「歌謡曲」が産み落とした形見のような1枚ではないか、とも思っています。大好物です。
ただ・・・ジュリー本人がこのアルバムをどう思っているかはまた別の話で。
たぶん、好きではないでしょうね(笑)。
このアルバムから、「LOVE(抱きしめたい)」以外の曲をこの先のジュリーLIVE・セットリストで体感するというのは、夢のまた夢でしょうか・・・。
それでは、オマケです!
今日は、記事お題収録アルバム『LOVE~愛とは不幸をおそれないこと』リリースと時期こそ異なりますが、同じ78年の資料ということで・・・いつもお世話になっている先輩に以前お借りしてスキャンさせて頂いた、『JULIE ON STAGE '78』パンフレットからどうぞ~。
77年末に日本レコード大賞を見事受賞し、明けてのお正月LIVEですよね。有名な「もろた節」を披露してくれたのは、このツアーだったのでしょうか。
さて次回更新は・・・。
今月はここまで「3日に1曲」を自分に課して頑張ってきましたが、2月は勤務先の決算月ということで月末から翌3月頭までは帰宅も遅く、下書きに集中する時間がとれません。ですので1週間ほど更新間隔を空けることになるかと思います。
来月3月11日には待望の新譜『ISONOMIA/揺るぎない優しさ』が発売となります。それまでの3月上旬、溜まりに溜まっているみなさまからのリクエストの中から3曲のお題を選び、この機に書かせて頂くつもりです。
まず次回は、今日の本文中で少し触れました通り、ちょっと「懺悔」モードの記事となります。
2010年に僕のブログの至らなさや欠点について親身にアドバイスしてくださったJ先輩が、その時宿題のようにリクエストしてくださった曲を遂に書こうと決意。
「今なら話せる」・・・あの頃の自分を振り返って。
と、思わず歌詞フレーズのヒントを書いてしまいましたが、次回、PYGのお題でお会いしましょう!
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