沢田研二 「未来地図」
from『俺たち最高』、2006
1. 涙のhappy new year
2. 俺たち最高
3. Caress
4. 勇気凛々
5. 桜舞う
6. weeping swallow
7. 遠い夏
8. now here man
9. Aurora
10. 未来地図
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澤會さんのサイト更新で、夏からの全国ツアー・熊本公演が中止となってしまったことを知りました。
会館が使えない状態となり、日程までに復旧のメドが立たないとのこと・・・仕方ない事情とはいえ、絶句です。本当に、熊本のジュリーファンのみなさまには、おかけする言葉が見つかりません。
地震で辛い怖い思いをされて、今もそれは続いていて、それでも「ツアーでジュリーに逢える」とお気持ちを奮い立たせていらしたに違いないのです・・・。
ジュリーは「来年こそ必ず」と考えているはずですが、今熊本のファンは悲しみに暮れていらっしゃるでしょう。ここへきて再び「こんな時にブログなんて書いていて良いのか」と、僕の頭も堂々巡ります。
できることを、いつもより頑張ってやるんだ・・・自分にそう言い聞かせるしかありません。
今日は「未来」がテーマのジュリー・ナンバーを採り上げることになりました。頑張りたいと思います。
後追いファン独特のものなのか、僕の個人的な感覚なのか分かりませんが、2000年代のジュリー・ナンバーを聴いていると、作詞がジュリーなのか覚和歌子さんなのかそれともGRACE姉さんなのか混乱して分からなくなっている時が多いです。
覚さんの詞はおそらくアルバム『Beautiful World』あたりから、GRACE姉さんはジュリーの曲の作詞をするようになってすぐの頃から、それぞれがジュリー本人からのサジェスチョンや、アルバム制作段階での打ち合わせもありつつ、ジュリーの生き方、感じ方とシンクロする作詞作品が多くなってきたのでしょう。
ジュリーも含めて3人の作詞に共通して、「大地」(=母)や「天空」(=父)をも含めた「自然への畏怖」という考え方があるように僕には思われます。
さて先日、カミさんと根津の町をぶらっと歩いていて出逢ったのが、雑貨『Sun & Rain』さん。
アメリカはアリゾナの砂漠に暮らす先住民「ホピ族」の工芸品の陳列、販売をされているお店です。
ホピ族について個人的には「平和を祈る」役割を伝承し続けている部族、という点で無性に惹かれました(深く知ればもっと他にも色々あるのでしょうけど)。
”カチーナ”と呼ばれる精霊の人形が所狭しと飾られている店内の様子は圧巻のひと言です。
お店のお姉さんは、ホピ族の生活やカチーナの逸話などを詳しくお話してくださったばかりか、店内のカチーナの撮影も許可してくださいました。「是非広めてください」とのことです。
カチーナは一見愛くるしい外見がまず魅力ですが、配色、飾り、役割などにもそれぞれ揺るぎない決まりがあり、一体一体が本当に貴重なものらしいです。
僕は「決断、行動の際に勇気を与えてくれる」という、イーグルのカチーナに強く惹かれました。
貴重なものですから当然お値段もそれなりで、僕の懐ではさすがに購入することができませんでした。でもそれは、僕自身にまだこのカチーナを所有するだけの格が備わっていない、ということなのだと思います。
再び出逢えることができるかどうか分からないこの一体・・・名残惜しいですが、将来僕がふさわしい器量を持つことがあったとしたら、その時にはまた別のカチーナとの出逢いもあるのかもしれません。
で、何が言いたかったのかというと・・・。
お店のお姉さんからホピ族の生き方、考え方、カチーナに込められた「役割」を伺うにつけ、いくつものジュリー・ナンバーの歌詞を想起させられたんです。
ホピ族によれば、今僕ら人類は「4度目の世界」を生きているのだそうです(1度目から3度目までの世界は、「自然破壊」や「戦争」によって滅んでいます)。
その4度目の世界も危機に瀕する今、僕らが立ち返るべきこと・・・「前の世界に蒔かれた種を食べて生きている」という考え方には、ジュリーの名曲達の歌詞に思い当たるところがありました。
覚さんなら「約束の地」。
ジュリーなら「護られているI love you」。
そしてGRACE姉さんなら・・・。
4度目の世界が、ゆるやかな平和を伴って5度目の世界へと引き継がれてゆく。
誰しもが切望する未来でしょう。その未来のために平凡なる僕らができることは、人間の一番根っこの「愛する」本能を解き放つこと・・・。
そんなふうに感じさせてくれる名曲。今日はアルバム『俺たち最高』から、GRACE姉さん作詞、ミッキー吉野さん作曲の「未来地図」を採り上げたいと思います。
伝授!
アルバムの中で抜きん出て好きな1曲、であるばかりか「日替わり・ジュリーで一番好きな曲」の常連でもあり、本当に大好きなパワー・ポップ・ナンバーです。
常連曲の中にはアルバム『いくつかの場面』収録の「U.F.O.」もありますし、僕はミッキー吉野さんの曲が好みなのでしょうね。以前、常連曲の中に同じ作曲家の作品が複数あるのは堯之さんだけ、と書いたことがありましたが、ミッキーさんもそうでした(汗)。
今までこの曲を記事に書けていなかった理由はただひとつ・・・採譜作業にビビっていたからです。
ミッキーさんの作る曲は本当に才気走っていて、僕の実力では到底太刀打ちできないだろう、と。今回意を決してチャレンジしてみましたが、やっぱり難しかった・・・。
何とか曲に合わせて弾いて違和感の無いところまではコードを起こしましたが、本当はもっと細かいテンション・コードが随所に散りばめられているはずなのです。
そのあたりは何とかご容赦頂くとしまして、まずはミッキーさんのメロディーと同じくらいに入れ込んでしまっているGRACE姉さんの詞について書いていきましょう。
いかにも女性らしい、GRACE姉さんらしいピュアな感性による潔いメッセージ。それが「未来地図」を”スピリチュアルな名曲”へと昇華させています。
きっと運命 なんかじゃない
Cm7 Dm7 Gm7
兆し感じ た ふたりが
Cm7 Dm7 Gm7
互いの 糸 たぐり寄せて
Cm7 Dm7 Gm7
描き出す 未来地図を Ah・・・ ♪
Cm7 Dm7 Gsus4 Gm7 D7+9
この「運命なんかじゃない♪」、或いは後の「神のせいにはしない♪」という表現。これは決して運命や神の否定とは言い切れないんですよね。
それがたとえ人智を超えた畏怖すべき存在によって決められていた運命だとしても、自分の意思で探し、求め、営んでゆく愛への確信、手応えでしょうか。
「未来」というのは単に恋人達のこれからの人生にとどまらず、世代レベル、伝説レベルにまで及ぶ「次の世界への種」を思わせます。だって
魂より もっと深く
Cm7 Dm7 Gm7
溶け合おう 果てるまで ♪
Cm7 Dm7 Gm7
なのですから。
種を蒔く歌なのですよ・・・ジュリーの大好きな「エロック」が基本にありつつ、この詞で2人が描こうとしている地図は、既存既知の場所ではないわけですね。
「畏れるべきもの」の聖域を感じます。
一方でミッキーさんの作曲は、理知的なんだなぁ・・・。音は幻想的なんだけど。
同じ進行が繰り返されている箇所であっても載ってるメロディーが微妙に違って、どうやったらこの進行にこのメロが載せられるのか、とため息が出るばかり。
サビ最後の「sus4→トニック」の進行にオリエンタルなシンセのフレーズを差し込むのは、作曲段階からのアイデアだと考えられます。ゴダイゴっぽいですよね。
驚くべきは、これほど多彩なメロディーが乱舞しているのに、音域自体にさほどの高低幅は無いのです。最低音が「ド」で、最高音が高い「ファ」の音。
以前音楽仲間とカラオケに行った時、DAMだったかJOY SOUNDだったか・・・この曲を見つけて歌ってみたことがあります。当然僕がジュリーのようには歌えるわけはないのですが、力むことなく歌っていられる音階が自然に連なっていく感覚に感動させられたものでした。
(そうそう、カラオケと言えば先日、牛田小学校の先輩でいらっしゃるsaba様から公開質問を頂きましたが笑、さすがに僕は「6番目のユ・ウ・ウ・ツ」のカラオケで唇舐めはやったことがありません。でもYOKO君は、カラオケどころかLIVE会場で、「ユ・ウ・ウ・ツ」と「ダーリング」の時にはジュリーと一緒にペロッとやっていますよ)
「未来地図」は、そんな音域の中に自由度の高い音の抑揚がギュッと詰まっているのが凄い。
神の せいには しない
Gm7 F6 E♭maj7 Dm7
ふたりが 互い導い た
Gm7 F6 E♭maj7 Dm7
求め合う時が尽きてしまう まで
D7 Gm7 F6 E♭maj7 Dm7
魂の 欲望 忠実に
Gm7 F6 E♭maj7
Oh! I love you so ♪
Cm7 F
このあたり、歌詞の深さも相俟って、70年代初めのカウンター・カルチャーの匂いが漂っています。
白井さんのアレンジがまた素晴らしく・・・僕がここで書いておきたいポイントは2つ。
まずはギター。
白井さんはこの曲で、単音よりもキレッキレの複音カッティングを全面に押し出しています。
これはミッキーさんの楽曲だからこそのアイデアで、白井さんはゴダイゴの浅野孝巳さんの演奏スタイルを意識しているのではないでしょうか。
ゴダイゴの演奏は、ミッキーさんのシンセサイザー・フレーズと浅野さんのカッティングが特徴的です。僕はTVドラマ『西遊記』ドンピシャの世代なんですけど(だから、その後のタイガース同窓会の時、ジュリー以外に既に顔を知っていたのが唯一シローでした)、主題歌「モンキー・マジック」をバックにしたオープニング・キャッチで、堺正章さん演じる悟空のクレジットの瞬間に流れるギター・カッティングは子供心にも強烈なインパクトを感じていました。
「未来地図」のカッティングに、このインパクトとよく似た懐かしくも刺激的な雰囲気があるのです。
もうひとつは、ハンドクラップ(シンセで出している手拍子の音)の導入。
リズムを打つ拍は、「うん、たた、ん、たた!」という「シー・シー・シー」や「OH!ギャル」とまったく同じで、「未来地図」の場合は譜面で表記しますと
こうなります。
「未来地図」ではこのハンドクラップのフレーズをイントロから単独の音で配置しています。そうすると、最初の「うん」(4分休符)が隠れてしまうのですね。
すなわち聴き手はイントロで
このようなリズムが鳴っていると錯覚し、3小節の頭から他の楽器が噛んできて初めて「おっとっと!」と脳内でリズムを修正することになります。
この瞬間がスリリング!
以上2点とも本当に細かい工夫ではありますが、僕は白井さんのこうした仕掛けも大好物です。
・・・と、駆け足で書いてきましたが、いかがでしょうか。
この曲はジュリーファンの間でもあまり語られることの少ない気がします。「大好き!」と仰る方はどのくらいいらっしゃるのかな。
詞のテーマなどはジュリーの好みだと思いますが、リリース年の2006年以降はツアー・セットリストに加わることもなくここまで来ているようです。
毎年の新曲を4曲に止めていることについてジュリーは常々「まだ(ツアーで)1度しか歌っていない曲もある」と言ってくれていて、これからは「未来地図」のような隠れた(?)名曲にも少しずつ歌う機会が訪れるのかな、と期待してしまいます。
この曲などは、依知川さんのベースが入ることで劇的に雰囲気が変わると思いますしね。
広く無限の世界の中では本当にちっぽけな人の営み・・・それこそが愛おしい。その小さな営みに注ぎ込まれる命あるものの意志の尊さを感じさせてくれる「未来地図」は、今のジュリーの生き方、考え方に僕がリンクを感じている部分も多く、是非歌ってほしい1曲として、この先のLIVE体感を切望しています。
2006年のツアーはDVDが無いので、この名曲をジュリーがどんな表情で、どんな雰囲気で歌っていたのか、新規ファンの僕にはまったく分からないのです・・・。
それでは、オマケです!
僕の手元には現時点で2006年の資料がたったひとつしか無く、今日はそちらをご紹介。
おそらくカミさんが九州在住の先輩に以前授かっていたものだと思いますが・・・2006年全国ツアー『俺たち最高』春日公演のフライヤーです。
九州の震災に遭われ今なお大変な苦労をされているジュリーファンのみなさまの中にも、2006年のこの公演に駆けつけていた人は多いのではないでしょうか。
この年のジュリーは、「ひとりぼっちのバラード」を歌っていますね。素敵なセットリストです。
ジュリーLIVEの思い出に浸れる平穏な日々が、九州のみなさまに1日でも早く訪れますように。
今回「未来地図」を記事を書いて、これからしばらくの間、ジュリーの歴史を彩ってきた様々な女性作詞家の名篇を、時代を駆けて旅したい気持ちになりました。
次から次へと大好きなジュリー・ナンバーが頭に浮かんできます。70年代、80年代、90年代、2000年代・・・さぁ、どの時代のどの曲を書きましょうか。
いずれにしても、できる限り早く更新します!
最後に。
先日、ゴダイゴ40周年のメモリアル・コンサートがあったのだそうですね。ミッキーさんはじめ、メンバーみなさんとてもお元気だったとか。
アンコール大トリが「Celebration」だったと聞きました。
僕が初めて自分で買ったシングル・レコード、『ガンダーラ』のB面曲です。懐かしいなぁ・・・。
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コメント
すみません、公開質問をしたつもりはなかったのですが、
お答えいただき、ありがとうございます。
じつは気になって気になって(笑)
そして今頃ですが、新譜4曲の伝授ありがとうございます。
伝授を読んだあと、それまでさんざん聴いていた曲たちなのに、
またあらためて新鮮に聴くことが出来ました。
で、お題曲!私、大好きですよ~。
「未来地図」というタイトルも好き。
この歌を歌うジュリーからは私、
エロよりもプラトニックな愛の世界を感じていました。
いま聴いたら、どう感じるのかしらん。
今年のセットリストにはいってくれれば嬉しいですよね~。
投稿: saba | 2016年5月 5日 (木) 00時36分
DY様
おはようございます。「Celebration」、聴いたことあります。うちにシングル盤があったのかも知れません。弟が買ったのかな?
お題曲、ベースレスになった最初のアルバム収録ですね。前のツアーから依知川さん抜けて何となく覚悟はしてましたが、抵抗ありましたね、全曲ベース無しって。まあ、次の2枚はドラムスまで無くなりましたけど。でも勝手なものでベースあんまり主張し過ぎなのも好きじゃないんですが。
ミッキー吉野さんって西遊記とかジュリーの「U.F.O.」で鳴ってるあの独特なシンセサイザーのイメージ、バリバリにプログレッシヴな作風かと思いますが(私の思い込み?)、ジュリーに提供楽曲はメロディーに全く無理のないわかりやすいいい曲ばかりですね。個人的には『比叡山フリー・コンサート』の「夢のつづき」が一番好きです。お題曲の話は何処へ……?
投稿: ねこ仮面 | 2016年5月 5日 (木) 09時00分
DY様 こんばんは。
覚さんとJULIEとGRACEさんの歌詞って、よく混同してしまいそうになるんですが、微妙に違うのが人の内面へのアプローチのやり方かな?という気がします。
俯瞰的に見るか、等身大の目線で見るか、カオスにどっぷり浸かって求めあうか。
ミッキー吉野さんのシュールなサウンドとの食べ合わせ(笑)で当時は消化不良気味でした。
もちろん今はおいしく完食できますので、早くもう一度聴きたいです。
投稿: nekomodoki | 2016年5月 5日 (木) 21時57分
saba様
ありがとうございます!
おぉ、この曲ご贔屓ですか!嬉しいです~。
なるほど、プラトニックな感じ…分かるような気がします。清潔に歌う、なめらかに歌うステージのジュリーを想像できます。
なんとか僕も一度生で体感したい…。
新譜については…今年はジュリーの新曲がきっかけで思ってもいなかったsaba様とのご縁を知ることができ、特に4曲目の記事は楽しく書けました。ジュリーの新曲がこのテーマになってから、「楽しく書く」ことは今年が初めてだったかもしれません。「犀か象」も楽しかった!
あ、今後もどんどん後輩をいじって頂いて結構でございます~。
☆
すみません、一度お返事切ります。
投稿: DYNAMITE | 2016年5月 5日 (木) 22時09分
お返事大変遅くなりました!
☆
ねこ仮面様
ありがとうございます!
僕も最初はこの『俺たち最高』のベースレス・サウンドには違和感がありました。でも鉄人バンドとのLIVEを何度も聴いているうち、CDのベースレスも気にならなくなっていき、2012年以降は「これしかない」とまで思うようになったのですが、今年からまたサウンドが変わり、その点では再度の戸惑いもまだありますよ。
夏のツアーが払拭してくれると確信していますが。
僕が自分の小遣いでレコードを求めるようになったのは小学校6年と比較的遅く、弟と手分けしゴダイゴやツイストのシングルを買っていました。
シングルですから計2曲…B面もよく聴いて覚えるのです。「Celebration」も僕にとってはそうした1曲でした。
ジュリーで同じことを体感されている先輩方が羨ましい…ジュリーのシングルB面はあの通りの名曲の宝庫ですからね。
☆
nekomodoki様
ありがとうございます!
この3人の作詞作品がシンクロしまくりになるのは2001年の『新しい想い出~』以降だと僕は感じています。
『新しい想い出~』では、「大切な普通」「愛だけが世界基準」あたりは未だにクレジットを確認し直すことがありますね(汗)。
なるほど内面へのアプローチですか。
覚さんが一番思いきりが良いかな?GRACE姉さんは自らを鼓舞する感じ、ジュリーは俯瞰する感じかなぁ。いやいやそれもゴッチャになってきそうです~。
ミッキーさんのジュリー提供曲の中では「勇気凛々」が最も今後のセットリスト入り有力と見ていますが、「未来地図」もいつかきっと、とこの先思い続けていくことになりそうです。
「UFO」はさすがに無理、と潔くあきらめていますが(笑)。
投稿: DYNAMITE | 2016年5月 7日 (土) 09時11分