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2016年5月

2016年5月28日 (土)

沢田研二 「そのキスが欲しい」

from『REALLY LOVE YA !!』、1993

Reallyloveya

1. Come On !! Come ON !!
2. 憂鬱なパルス
3. そのキスが欲しい
4. DON'T SAY IT
5. 幻の恋
6. あなたを想う以外には
7. Child
8. F. S. M
9. 勝利者
10. 夜明けに溶けても
11. AFTERMATH

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『悪名』公演もいよいよ千秋楽を迎えようとしてます。
今年も見事駆け抜けていきますね、ジュリー。

僕のような貧弱な者が感嘆するのは、今年68歳となるジュリーの体力です。
持って生まれた天賦の才能、ルックス、物事の考え方・・・その3つがあっても、あの素晴らしい体力が無ければジュリーはここまで稀有な歌人生を歩めていなかったでしょう。頭が下がります。
僕など及ぶべくもありませんが、未だいくつかの軽い身体の不調を抱えつつ・・・5月の記事テーマとして矢継ぎ早の更新を頑張ってきた”ジュリー・ナンバー女性作詞作品の旅”シリーズも、今日のお題で最終回。これにて5月の更新を締めくくりたいと思います。

大トリでご指名の女流作詞家さんは、朝水彼方さん。
ジュリーの曲を通じて初めてお名前を知った朝水さんの書く詞が僕は本当に大好きで、特に入れ込んでいる2曲が、既に記事を書き終えている「夜明けに溶けても」と「愛しい勇気」。とても前向きな、健全なパワーを貰えるんですよね・・・。
しかし、朝水さん作詞のジュリー・ナンバーとして絶対に外すことのできない重要な1曲が未執筆でした。
『ジュリー祭り』堕ちの新規ファンは皆、この名曲のインパクトをずっと心に留めているのではないでしょうか。そして、長いジュリーファンの先輩方にとって、この1曲がリリース以降どういうスタンスであり続けたのか、ということにも興味深々。

アルバム『REALLY LOVE YA !!』から、「そのキスが欲しい」。僭越ながら、満を持しての伝授です!


とにかく、『ジュリー祭り』で本格ジュリー堕ちとなった僕にとって特別な曲です。
冒頭の「そのキスが欲しい♪」から続いてピアノのグリッサンドが鳴っただけで、脳内にパッと甦る東京ドーム2階席から見下ろしたステージとアリーナの光景。
ドームの広い屋根からはまだ午後の陽射しが入りこむ中、真っ赤な衣装(←ご指摘頂きました。正しくは「真っ白な」酋長衣裳でございます。大変失礼いたしました汗)身を包みステージに進み出たジュリーがサッ!と1本指を立てて腕を突き上げるシーンが、年々薄れるどころかますます鮮明な記憶として僕の中に焼きついていくようです。

そこで、このヒヨッコ新規ファンは今ふと思うのです。
「そのキスが欲しい」って、あの『ジュリー祭り』以前、長いジュリーファンの先輩方にとってはどんな立ち位置の曲だったのかなぁ、と。『ジュリー祭り』のあの瞬間のずっと前から、「そのキスが欲しい」は先輩方の「特別な1曲」だったのでしょうか?

大名盤『REALLY LOVE YA !!』からのシングル・カット。
ツアーDVDを見ても、ジュリー自身「シングルはこの曲だよ!よろしく!」といった感じでひときわ気合を入れて歌っているのが伝わってきます。
その後、年が経ってもこの曲は幾度のセットリスト入りを重ね、先輩方の中に「LIVEの定番曲」というイメージは間違いなく確立していたでしょう。
でも、『ジュリー祭り』で歌われたあの80曲(厳密にはインスト合わせて82曲)の1曲目をこの曲が飾ることを予想できた先輩はどのくらいいらっしゃったのかなぁ。

僕は、なんとか『ジュリー祭り』にこの曲を知っている状態で臨むことができました。
”第1次ジュリー堕ち期”最終盤にDVDとCDの『REALLY LOVE YA !!』を購入していたのです。
(僕が「CDよりツアーDVDを先に観た」というジュリー・アルバムは後にも先にもこの1枚だけです。DVDで観た「アルバム収録曲」・・・特に「夜明けに溶けても」「幻の恋」「F.S.M.」「憂鬱なパルス」などに強く惹かれたのでCDも購入、という流れでした)
ドーム二大公演にはいわゆる「中抜け」のファンの先輩方も多く参加されていた、と後になってから認識しましたが、意外に「そのキスが欲しい」を知らなかった、と仰る「中抜け」の先輩も多いと聞きます。僕(とYOKO君)はその点、ラッキーでした。
ただ「1曲目」にこれが来るとは全然考えてもいなくて。
イントロの瞬間、YOKO君と顔を見合わせて何となく「クスッ」としてしまったことを覚えています。
「いやぁ、これですか~!」みたいな感じでね。
なんで2人して笑ったのかなぁ。
「どうやら俺達ヒヨッコが軽々しく描いていた”お祭り”とはだいぶ違うステージが始まったらしいぞ」
という、覚悟というか、自らのヒヨッコ度を直感した照れというか、そんな「笑い」だったのかなぁと今は思ったりしています。

アルバム『REALLY LOVE YA !!』収録曲を俯瞰した時、「そのキスが欲しい」には「シングルならこれしかない!」という「格」のようなものを感じます。
元々、短調のメロディーでガツンと攻める曲は「ジュリー・シングル」にふさわしいイメージがあるのです。これは僕が新規ファンだからこそ分かることなのかもしれません。一般ピープルに近い目線で「シングル」を捉えることができますから。
その意味で、「背中まで45分」や「SPLEEN~六月の風にゆれて」を素晴らしい名曲と踏まえた上で、アルバム『MISCAST』からは「ジャスト フィット」か「デモンストレーションAir Line」、アルバム『PANORAMA』からは「涙が満月を曇らせる」がシングルの「格」を持つ曲なんじゃないかなぁと個人的には考えます。
まぁ、それを絶妙に外してくるジュリーのセンスが好きなんだ、というところまでは僕も成長してきていますが、『REALLY LOVE YA !!』についてはシングル・カットに「そのキスが欲しい」が選ばれたこと・・・タイムリーでも万人納得の選択だったのではないでしょうか。

でも、セールスは芳しくなかったようです。後追いの僕には、納得いかないんだよなぁ・・・。

ヒットしなかったことに本当に首を捻るくらい、この曲には「大ヒットの要素」が詰まっています。
先に書いた、ジュリー・シングル向きの短調で攻める曲想ということもそうですが、朝水彼方さんの歌詞はジュリーの世間的なヒット・イメージに無理なくリンクし、しかもこの時のジュリーの年齢との乖離も無い、細部まで練りこまれたヒット性の高い1篇。「甘くハードに狂おしい」発信力のある詞だと思うんですよ。

また、覚え易いサビメロに、一度聴いたら忘れられない演奏パートの「追っかけ」を配したアレンジも、「これはヒットするぞ!」という雰囲気バリバリです。
具体的には

そのキスが欲しい(ソファミ♭ド~ミ♭ファ~) ♪
   Cm7            A♭maj7

このキーボードね。
僕は『ジュリー祭り』以降のLIVEで「そのキスが欲しい」を体感するたび、このキーボードのフレーズをエアで弾かずにはいられません。僕のような絶対音感の無い者でも鍵盤移動がハッキリと分かる、あまりにキャッチーな音階の素晴らしさ。
その点だけとっても、これほどの曲がヒットせずにタイムリーでジュリーを見ていたファンの間でしか知られずにいた、というのは合点がいかないんだよなぁ・・・。

みなさまはやっぱりこの曲のサビが(ジュリーのステージ上のアクションとも連動して)特にお好きだと思いますが、僕が曲中で一番惹かれるのはBメロです。

RUNTHROUGH THRILLなこの街
A♭maj7                           Gm7

あなたはいつでも視線を気にしてる ♪
Fm7                      Gm7            Cm

この、「抑えて、抑えて、さぁこれから解き放つぞ!」というSAKI&MATSUZAKIさんのメロディーがスリリングで、完璧な「仕込み」でね~。
あ、わざわざ2番の歌詞を書いたのは、「視線を気にしてる♪」と歌う時のジュリーがいつもメチャクチャにカッコ良く見えるから!

でも、ジュリーのヴォーカルの見せ場、聴かせどころということなら、やはり圧倒的にサビですね。

そのキスが欲しい
   Cm7            A♭maj7

熱いダメージ受けるよな
B♭            Gm7      Cm

情熱の雨だ
    Cm7   A♭maj7

甘くハードに狂おしく ♪
B♭           Gm7   Cm7

「欲しいぃぃ♪」「雨だぁぁ♪」・・・この小刻みに語尾を下げるメロディーを歌わせた時の威力。僕にとってはジョン・レノンかジュリーか、という素晴らしさです。
しかもこの2行、メロは同じですが語尾のイ行とア行の違いでジュリーの発声のニュアンスがまったく変わるというのがね。「欲しい」は「ねだる」感じで、「雨だ」は「征服する」感じ。つまり、「情熱の雨だ」の箇所ではもう「奪っちゃってる」ように聴こえるわけです。
これは朝水さんが描いた「時間の経過」表現が素晴らしいということでもありますが、それをここまで声で伝えられるんですからねぇ・・・本当に凄いです。
また、「受けるよな」「狂おしく」はそれぞれメロディーが微妙に違うんですけど、その微妙な変化をジュリーの歌は逃さない。僕は「狂おしく♪」と歌うジュリーの「しく♪」の声が、「グッ」と語尾で緊張感を持つ感じが好きです。細か過ぎますかね?

この先も何度も生で体感できる曲だと思っていますが、個人的には常にジュリーLIVEのスタート地点に引き戻される感覚があり、この曲が入っているだけでツアー・セットリストが特別なものになります。
思えば2009年『PLEASURE PLEASURE』ツアーでは、後半1曲目として「インストゥルメンタル~そのキスが欲しい」の『ジュリー祭り』入場編を再現してくれたジュリー。「ドームに来れなかった人のために」という思いからでしょうけど、どちらかと言うと”ドーム堕ち”組への「念押し」効果の方が強かったのでは?

未だ、僕をあの2008年12月3日へと立ち返らせてくれる名曲。今年は歌ってくれるかな?


それでは、オマケです!
93年繋がりということで、音楽劇『漂泊者のアリア』パンフレットから数枚どうぞ~。

Hyouhaku1

Hyouhaku2

Hyouhaku3

Hyouhaku4

Hyouhaku5

Hyouhaku6

それにしても、1993年のジュリーって格別に濃厚ですね~。actが『SHAKESPEARE』、そして音楽劇『漂泊者のアリア』に阿呆劇『三文オペラ』、でもってアルバムが『REALLY LOVE YA !!』という・・・。


さて、5月いっぱい頑張ってきた”ジュリー・ナンバー女性作詞作品の旅”シリーズは、今日の「そのキスが欲しい」の記事をもってひとまず〆とさせて頂きます。
次回更新・・・6月に入りましたら新たにテーマを変えまして、久々に『act』の曲をガンガン採り上げていきます(お芝居繋がりということで、第1回の次回更新では音楽劇『悪名』観劇の感想も少し織り交ぜつつ)。

昨年、J先輩との新たなご縁を頂きまして、遂に購入叶った『act-CD大全集』。
現時点で僕は、全9枚のうち8枚までをじっくり聴き込むことができています。どの作品も素晴らしい!
そんな中から今、イの一番に採り上げたいお題・・・これは、デヴィッド・ボウイが天国へと旅立ったこの年になんとしても書いておきたかった曲。

みなさまは「えっ、actとボウイって何か関係があるの?」と思われるかもしれませんね。
ジュリーファンの先輩方にとってデヴィッド・ボウイの曲と言えば、70年代のジュリーがツアーで歌ったことがある「ジーン・ジニー」でしょう。でも、あまり知られていないけど実はもう1曲あるんですよ。正確に言うと「ジュリーもボウイもカバーしたことのある曲」が。

ともあれ次回から『actを楽曲的に掘り下げる!』カテゴリーにて、いつもより頑張ったこの更新ペースで、actの曲をガンガン書いていきますよ~。
実際にactを観劇されている先輩方からのコメントも楽しみにお待ちしていおります。
よろしくお願い申し上げます!

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2016年5月26日 (木)

沢田研二 「淋しい想い出」

『JULIE SINGLE COLLECTION BOX~Polydor Yeas』収録
original released on 1973 シングル『あなたへの愛』B面


Singlecollection1

disc-1
1. 君をのせて
2. 恋から愛へ
disc-2
1. 許されない愛
2. 美しい予感
disc-3
1. あなただけでいい
2. 別れのテーマ
disc-4
1. 死んでもいい
2. 愛はもう偽り
disc-5
1. あなたへの愛
2. 淋しい想い出
disc-6
1. 危険なふたり
2. 青い恋人たち
disc-7
1. 胸いっぱいの悲しみ
2. 気になるお前
disc-8
1. 魅せられた夜
2. 15の時
disc-9
1. 恋は邪魔もの
2. 遠い旅
disc-10
1. 追憶
2. 甘いたわむれ
disc-11
1. THE FUGITIVE~愛の逃亡者
2. I WAS BORN TO LOVE YOU
disc-12
1. 白い部屋
2. 風吹く頃
disc-13
1. 巴里にひとり
2. 明日では遅すぎる
disc-14
1. 時の過ぎゆくままに
2. 旅立つ朝
disc-15
1. 立ちどまるな ふりむくな
2. 流転
disc-16
1. ウィンクでさよなら
2. 薔薇の真心
disc-17
1. コバルトの季節の中で
2. 夕なぎ
disc-18
1. さよならをいう気もない
2. つめたい抱擁
disc-19
1. 勝手にしやがれ
2. 若き日の手紙
disc-20
1. MEMORIES
2. LONG AGO AND FAR AWAY
disc-21
1. 憎みきれないろくでなし
2. 俺とお前
disc-22
1. サムライ
2. あなたに今夜はワインをふりかけ
disc-23
1. ダーリング
2. お嬢さんお手上げだ
disc-24
1. ヤマトより愛をこめて
2. 酔いどれ関係
disc-25
1. LOVE(抱きしめたい)
2. 真夜中の喝采
disc-26
1. カサブランカ・ダンディ
2. バタフライ革命
disc-27
1. OH!ギャル
2. おまえのハートは札つきだ
disc-28
1. ロンリー・ウルフ
2. アムネジア
disc-29
1. TOKIO
2. I am I(俺は俺)
disc-30
1. 恋のバッド・チューニング
2. 世紀末ブルース
disc-31
1. 酒場でDABADA
2. 嘘はつけない
disc-32
1. おまえがパラダイス
2. クライマックス
disc-33
1. 渚のラブレター
2. バイバイジェラシー
disc-34
1. ス・ト・リ・ッ・パ・-
2. ジャンジャンロック
disc-35
1. 麗人
2. 月曜日までお元気で
disc-36
1. ”おまえにチェック・イン”
2. ZOKKON
disc-37
1. 6番目のユ・ウ・ウ・ツ
2. ロマンティックはご一緒に
disc-38
1. 背中まで45分
2. How Many "Good Bye"
disc-39
1. 晴れのちBLUE BOY
2. 出来心でセンチメンタル
disc-40
1. きめてやる今夜
2. 枯葉のように囁いて
disc-41
1. どん底
2. 愛情物語
disc-42
1. 渡り鳥 はぐれ鳥
2. New York Chic Connection
disc-43
1. AMAPOLA(アマポーラ)
2. CHI SEI(君は誰)
bonus disc
1. 晴れのちBLUE BOY(Disco Version)

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今日は70年代ジュリー・シングルB面曲がお題ということで、久々に『SINGLE COLLECTION BOX』収録曲目を書き出し、せっせとリンク貼ってみました。
ずいぶん書いてきたなぁ、と思うと同時に、まだまだ書いていない大好きな曲が残ってるなぁ、とも。

みなさまお察しの通り(汗)、実は前回更新後に喉の痛みが悪化しまして、日曜日もひたすら寝ておりました。結果、更新ペースが若干崩れてしまって・・・ふがいない限りですが、ようやく快復しましたので、今日はほとんどぶっつけで書いています。
でも、筆はスラスラと進んでくれるでしょう。個人的には、ジュリー・ナンバーの中でも10本の指に入るくらい本当に大好きな曲がお題なのですから。採譜もずいぶん前に済ませていた曲ですしね。

”女性作詞ジュリー・ナンバーの旅”シリーズも佳境です。いよいよ安井かずみさんの登場となりました。
73年のシングル『あなたへの愛』B面曲「淋しい想い出」、僭越ながら伝授です~。


今回改めて『SINGLE COLLECTION BOX』でクレジットを見て、今さらながら気づいたこと・・・。

Img2648

「淋しい想い出」の英タイトルは「Love's Gone」でしたか!雰囲気は出てるけど、ちょっと解釈をせばめちゃってる気もするなぁ・・・。
確かに歌詞には主人公が思いを寄せる「愛する人」の存在があるんだけど、安井さんの詞は常に「書いてないところまで表現してしまう」のが凄いところで、「淋しい想い出」の場合、リスナーが自分に置き換える心情は「恋愛」にとどまらないんですよね。

淋しさ押し隠して ポケットに入れた手を
G              Em    C                   Am  D7

つなぐ人もいなくて
G               Em

気が滅入る こともある ♪
      C        Am D7    G

10代、20代を思い返せば、誰しも経験のある情景ですよね。それは何も恋人との別れ、とは限らず、むしろ友人とケンカをしてしまったり、親子で言い争いをしてしまったり・・・そんな出来事の直後の「日常」風景。「淋しい想い出」の歌詞を、僕はそんなふうに受け止めています。みなさまはいかがですか?
場所も、歌詞にあるような海辺じゃなくても、公園だったり、何気ない道端であったりね。そんなところでポケットに手を突っ込んで「ちぇっ!」と少し内にこもった若き日の想い出、僕にもたくさんあります。
安井さんは、自分のそんな時の心境を男性視点に置き換えてこの詞に綴ったのかなぁ・・・?

僕にはまだまだ分からないことかもしれないけど、そういう心境や情景って、もしかすると老いて再びふと巡り来るものなのかなぁ、とも思います。
子供の頃に感じた「淋しさ」とはまた違うそれを胸に抱きながら、独り佇む日々が来るのかもしれない・・・それを素敵なことだ、と考えられる人生が理想でしょうけど、そうそう割り切れるものでもないだろうなぁ。

「淋しい想い出」の詞は、1番と2番とで時間(主人公の年齢)が違うように僕には感じられます。

古ぼけた思い出を 無理に引き出して 今
G              Em       C                   Am  D7

あなたを呼んでみても
G                   Em

帰えるはずないけれど ♪
      C       Am D7    G

この2番を、1番の歌詞から数十年を経て年老いた主人公の独白と考えると、どうしようもなく切ない。
だからこそ僕らは24歳のあのジュリーの声でこの曲が歌われていることに今救われ、青春の歌として心にしまいこむんじゃないか・・・そしていつか、それを引き出してきて独り涙することがあるんじゃないか、とそんなことまで僕は考えてしまいます。

でも、この曲を聴く時の涙はきっと瑞々しいに違いありません。だって、このジュリーの声ですからね。

73年のジュリーは「危険なふたり」の大ヒットで大きな飛躍を遂げ歌声にも自信が漲っていきますが、その直前のリリースと言ってよい「淋しい想い出」にはまだどこか「壊れそうな」ジュリーが見えるようで(実際にはそんなことはないのでしょうが)、それが天性の「無垢」なジュリー・ヴォーカルの魅力をそのまま表していて、なるほど先輩方が「ガラスのジュリー」と仰るのはこういう時期のジュリーなのかなぁ、と思います。
具体的に「声」で言いますと

どうせ今は 何しても ♪
     F     C            D7

ここで、メロディー最高音の「ソ」が4音続く箇所があります。ジュリーの声が本当に自然に掠れるんですよね・・・これがたまらなくピュアなのです。
音が高くて苦しいから掠れているのではなく、歌詞の深みやメロディーの妙を表現として知らず知らずにに会得してしまっている、いわば「神童」の声です。
「遠い旅」もそうですけど、「聴くと元気が出る!」というような声ではありません。無性に心に沁みる、感覚に入りこんでくる力が凄い・・・そんな声ですよね。

安井さんの詞と川口真さんのメロディーが優しく導いたジュリーの声。
僕は少し前まで、70年代のジュリー・ナンバーは「詞先」であろうと何の根拠もなく考えていたのですが、いくつかの資料からそれが間違いで、ほとんどの曲が「メロ先」だったことが分かってきました。
そこには「え~っ?」という意外な驚きもあれば、「なるほどそうか!」と合点がいくこともあります。

例えば、安井さんの多くの作詞作品で見られる美しい「倒置法」は、「メロ先」だからこうなったのかな、と今では思えています。
「淋しい想い出」の場合ですと、1番では

過ぎる今日も一日が ♪
      F        C    G

2番では

蹴った小石の音が 跳ね返す 淋 しさを ♪
G                 Em           C     Am  D7  G

この倒置法がとにかく美しく、切ないんです。
2番などは普通に「淋しさを跳ね返す」としてもメロディーには合うのですが、「歌」として考えれば絶対に「淋しさを♪」で締めくくった方が良いんですよね。
「歌ありき」の安井さんの感性だと思います。

川口さんのメロディーも本当になめらか、清らかです。「少年性」の高い安井さんの詞とは相性抜群。
手元には、長崎の先輩から長々とお借りしてしまっている『沢田研二/ビッグ・ヒット・コレクション』に収録されているこの曲のスコアがあります。
(このスコア本には、他に「恋から愛へ」「別れのテーマ」「愛はもう偽り」「青い恋人たち」といったジュリー珠玉のシングルB面の名曲がいくつか抜擢されていて、コンテンツを眺めているだけでも涎が出てくるほどの貴重なお宝資料です!)

Lovesgone

この本、他収録曲には「おいおい!」ってツッコミたくなる採譜のものもありますが(「君をのせて」が凄過ぎる・・・)、「淋しい想い出」については一部コード・チェンジの抜けが目につく程度で、おおむねそのまま歌って問題無さそうな感じです。
ただし

誰にも打つけようもない この気持 ♪
   Am                                 G

この「Am」を「G」で押し通して採譜してしまっているのは、痛恨ですな~。
(そう言う僕も、「ぶつけようもない」を「打つけようもない」と表記していた安井さんのセンスに、今回初めて気がつきました・・・汗。)

キーはト長調。A面「あなたへの愛」と同じです。
ト長調の曲に「F」のコードを採り入れるとどこか尖ってロック色が強まるもの。でも川口さんのこのメロディーは終始穏やかで、しかも鮮度が高い(似たメロディーの曲を思いつかない)です。
アレンジも非の打ちどころなく完璧で、どこか日本人離れしています。初めてこの曲のイントロのピアノを聴いた時僕は、ジョン・レノンの『心の壁、愛の橋』というアルバムに収録されている「枯れた道」を思い出しました(リリースは「淋しい想い出」の方が先です)。詞のテーマもなんとなく似ているものですから。

これは、井上バンドの演奏なのかなぁ・・・僕にはそこまでは分からない。ベースはサリーっぽくないけど、右サイドから聴こえるアコギには堯之らしいストイックさを感じますし(イントロ最後の潔いミュート・ストロークとか)、どうにも判断つきかねます。
シングル盤クレジットは「ケニー・ウッド・オーケストラ」と「井上堯之グループ」の併記ですので、井上バンドのトラックにストリングスを重ねたのかもしれません。

川口真さんは本当に有名な大御所の作曲家さんで、「代表曲」も数限りなく挙げられますが、刑事ドラマ・サントラフェチの僕が特に好きな川口さんの作曲作品は、『華麗なる刑事』のメイン・テーマです。
当然、CD音源も持っていますよ~。

Img65_2

Img66

添付画像では、川口さんの『華麗なる刑事』は一番右の掲載。主演は、今『真田丸』で真田昌幸を演じていらっしゃる草刈正雄さんでした。
ちなみに、こちら見開きページに載っている4つのドラマをはじめ、このCDの収載曲はどれも素晴らしい名曲揃いです。『男たちの旅路』は確か泰輝さんがお好きなんじゃなかったでしたっけ・・・?

川口さん作曲のジュリー・ナンバー、もっともっとあっても良かった、聴いてみたかったと思います。でも、安井さんのこの詞が載った奇跡の1曲、しかもそれがシングルのB面・・・ジュリーの歴史の長さ、深さ、多彩さを今となっては大切に考えたいですね。

あと、これは誰を絶賛すればよいのか分からないので最後に書いておきます。
僕が「淋しい想い出」で一番好きな箇所は

跳ね返す 淋 しさを ♪
      C     Am   D7 G

このラスト1行を3回繰り返す、その3回目で「ルルル・・・♪」という
ハミングに変わるところ。
グッときます。胸に優しく刺さります。
これ、安井さんの作詞段階でハミングの表記で完成していたのか、川口さんが編曲時にリフレインを加えたのか、はたまたジュリーの歌入れの現場で突発的に誰かが出してきたアイデアだったのか・・・。
意外と、ジュリー自身がこういう「変化」をその場でパッと思いつきそうな気もするんですけどね。

『危険なふたり/青い恋人たち』、『恋は邪魔もの/遠い旅』、『追憶/甘いたわむれ』・・・70年代ジュリーのあまりに豪華、完璧なシングル・レコード。『あなたへの愛/淋しい想い出』はそれらの直前、ソロ歌手としてまだ完熟手前のシングルであるだけに、初々しく恥ずかしげな独特の魅力を持つカップリングです。
僕は、この1枚を「ドーナツ盤」として「想い出」に持つ先輩方が、本当に羨ましい限りなのです・・・。


それでは、オマケです!
Mママ様からお預かりしている切り抜き資料の中から、『かわいた都会の男』と題された73年の資料を(出典元などはまだ分かっていませんが、文中でのジュリーの年齢表記と、「昨年末」という文章表現から判断し、73年初頭のファイルとして整理しています)。

Img833

Img834

Img835

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Img837

ジュリーは「かわいた男」でも「都会の男」でもないように思うけど、当時のタイムリーなイメージはそうだったのかもしれない、と想像しました。
この資料のジュリーは、今日のお題曲「淋しい想い出」の主人公とどこか重なるようにも感じますね。
いや、やっぱりちょっと違うかな・・・。


それでは次回更新は、「女性作詞ジュリー・ナンバーの旅」シリーズ最終回となります。

ご指名の女流作詞家さんは、個人的な思い入れの強さから大トリ登場となる、朝水彼方さん。
不勉強にてジュリーの曲で出逢うまではお名前も知らず(知ってからも、ある時期まではお名前を「ともなが・かなた」さんとばかり思い込んでいました汗)・・・。
とにかく僕は朝水さんの「夜明けに溶けても」「愛しい勇気」の2篇に特に惚れこんでいるのですが、朝水さん作詞のジュリー・ナンバーと言えばもう1曲・・・絶対に外すことができない大切な曲が残っています。

その曲については、何となく「2017年の12月3日に書こう」と決めていたんですけど、今月せっかくこういうテーマで頑張って書いてきたので、予定を早めてこの機に書いておきたいと思います。
『ジュリー祭り』で本格ジュリー堕ちした僕は、今でもその曲のイントロが鳴っただけで、2008年12月3日に心を引き戻されます。まだ明るい陽射しが屋根から透けている時間に始まった、あの6時間半に及ぶ奇跡のステージ。2階席から見下ろしたアリーナの熱狂、遠いステージで躍動するジュリーの雄姿・・・いつまで経っても記憶が薄れることはありません。

お題、バレバレですね。頑張って書きますよ~!

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2016年5月21日 (土)

沢田研二 「オーガニック オーガズム」

from『CROQUEMADAME & HOTCAKES』、2004

Croquemadame

1. オーガニック オーガズム
2. whisper
3. カリスマ
4. 届かない花々
5. しあわせの悲しみ
6. G
7. 夢の日常
8. 感情ドライブ
9. 彼方の空へ
10. PinpointでLove

-------------------

このところ、気温の高低差が激しいですね。みなさま体調にお変わりありませんか?
僕は、火曜に雨の中を薄着で外回りしたのが祟ったのか、今かなり喉が痛いんですよ・・・。寝込んだりはしていませんが、どうやら風邪をひいたようです(泣)。


さて、”大好きなジュリー・ナンバーをお題にガンガン更新するシリーズ・女性作詞編”は今日を含めて5月内に残すところ3本の記事を予定しています。

本日ご指名の女流作詞家さんは、覚和歌子さん。
まだ執筆していない覚さんの作詞作品、大好きな曲が結構残っています。「いつ暑苦しく語り倒してやろうか」と手薬煉ひいている曲は、ざっと思いつくだけでも「懲りないスクリプト」「恋がしたいな」「インチキ小町」・・・と、まだまだありますが今日採り上げるのは2004年リリースの「エロック」ナンバー。
「エロック」なる呼称が一般的なのかどうか分かりませんが(僕は、以前ひいきゃん様がそう仰っているのを聞いて以来、ブログの文中でこの呼称を愛用しています)、文字通り、エロいジュリー・ロックのこと。

今日のお題はそんな「エロック」の代表格でしょう。先輩方の人気も高い1曲、と認識しています。
アルバム『CROQUEMADAME & HOTCAKES』から、「オーガニック オーガズム」、伝授です!


まず最初に・・・この曲のタイトル、「オーガニック」と「オーガズム」の間に「・」は入らないんですね。
たぶん「ラジカル ヒストリー」同様にこれまでブログでは無意識に「・」を入れて書いてきちゃってると思います。気づいたところから修正していかないと(汗)。


ジュリー・レーベル・リリース以降、完全にキーボードを排したギター・サウンドの追求を始めていたジュリー。前作『明日は晴れる』もゴッツいギター・サウンドではありましたが、アレンジ的にはアコースティック・ギターの活躍が目立ちました。
ジュリーは2004年、「今度は徹底的にエレキの音で、よりハードなものを作って欲しい」とアレンジャーの白井良明さんに伝えたのではないでしょうか。

『CROQUEMADAME & HOYCAKES』では、白井さんの作曲者としてのクレジットは2曲。いずれも「よ~し、じゃあ俺も徹底してハードなロックをぶつけてやろうじゃないか!」と狙い定めて作ったのではないか、と思わせるようなナンバーです。
「感情ドライブ」と「オーガニック オーガズム」。
プログレばりの変拍子構成を擁する「感情ドライブ」、容赦の無いセメント進行の「オーガニック オーガズム」・・・いずれも作曲段階から「過激なハード・ロック」の仕上がりが約束された特異なナンバーです。
ジュリーはプリプロ段階でこの白井さん作曲の2曲を聴いて「よし、これだ!」とばかりに、それぞれの作詞をGRACE姉さん、覚さんの女性2人に託し、「この曲はエロで!」とリクエストした・・・これが僕の推測する楽曲制作の流れです。結果、2人の女性作詞家によるブッ飛んだ「エロック」競演が実現したわけですね。

GRACE姉さんの「感情ドライブ」の方はいかにもロック的な比喩表現で攻めていますから、中学生が聴いてもなんとか「車に乗って飛ばしている歌」で済むこともあり得ますが、覚さんの「オーガニック オーガズム」は・・・こりゃ完全に成人指定です。
さすがは覚さん・・・男性作詞家に依頼していたら、白井さんのこのメロディーに「いつでもふたりでいきたい♪」なんて詞は載らないでしょう。
男ならもっとカッコつけて、オーガズムを描くにしてもフレーズが小難しくなってくるはず。対して覚さんの表現には、男性視点からすると「うわ、言っちゃった!」みたいな強烈なインパクトがあります。

その辺り、『CROQUEMADAME & HOTCAKES』リリース時、ジュリーのこんな言葉が残っています(大分の先輩がコピーしてくださった資料です)。


Fan

作詞を女性に依頼する意義を語るジュリー。
男が書く詞は「女々しい」けれど、女性は「思いきりがいい」のだそうで、覚さんについて、「オーガニック・オーガズム」というタイトルは男じゃ出てこない、と絶賛。

それにしても、ハードな2曲を覚さんとGRACE姉さんに任せて、自らの「エロ」作詞についてはキッチリ「バラードで落とす!」とは・・・どこまで確信犯な色男なんでしょうかジュリーは(←「PinpointでLove」)。

また、「オーガニック オーガズム」は激しいビートに載った「思いきりのいい」歌詞のみならず、その斬新なコード進行によって官能を語ることもできそうです。
先述の通り「オーガニック オーガズム」の白井さんの作曲は、変態的なまでにラジカルでガッチガチのハードな展開で、息つく間も無いほど。
「ムチャクチャな曲を作ったる!」という白井さんの気合がヒシヒシと感じられる・・・これまた「オーガニック オーガズム」と「感情ドライブ」の共通点ですね。

白井さんはきっと、ロックに限らず膨大な楽曲の引き出しから手を変え品を変え音に注入してゆく作曲やアレンジが好みなんだと思います。
僕などでは把握しきれない罠も、きっと数え切れないほど仕掛けられてるはず。そんな中で僕が敏感に察知できるネタと言うと、やはりビートルズです。
白井さんのビートルズへのリスペクトは、白井さんがアレンジを担当したジュリーのどのアルバムからも伝わってきて、その手管はリアル・オーソリティーの域。
例えば『CROQUEMADAME & HOTCAKES』収録曲のアレンジについて言うと、「whisper」に「ノー・リプライ」が隠れていたり、「PinpointでLove」に「ドゥ・ユー・ウォント・トゥ・ノウ・ア・シークレット」が隠れていたり。
さらにそれが自身の作曲作品となると注入自由度も高いのか、「オーガニック オーガズム」では、ギター・リフやコード進行で過激な変化球を以ってビートルズ・ネタをブチこんできているようです。

この曲で僕が探り当てたビートルズ・ナンバーは2曲。「ヘルター・スケルター」と「イエスタデイ」です。
ポール・マッカートニーのLIVEセットリストでアンコールの定番ともなっているこの2曲・・・ビートルズに詳しいみなさまなら、「確かに、最初”オーガニック オーガズムのイントロを聴いた時には”ヘルター・スケルター”が始まったのかと思ったけど、このハードな曲にまさか”イエスタデイ”は隠れてないでしょ?」と思われるかもしれませんね。ちょっと解説してみましょう。

コンクリート ひっぺがしたベッドに ♪
A            G#7        C#m7         F#

なんとも挑発的なコード進行なんですが、実はこれは

Yesterday all my troubles seemed so far away ♪
A            G#m7  C#7                      F#m

↑ 比較し易いように、イ長調に移調表記しています

お分かりでしょうか。
起点の「A」から続くコードをすべて「イエスタデイ」進行になぞらえた上で、マイナーはメジャーに、メジャーはマイナーに変換してしまっているという過激な荒技。
いや、偶然そうなったとも考えられますけど、「こういうこと、白井さんならやりかねない」と僕は思ってます(笑)。そもそもこの曲、「メジャーのニュアンスとマイナーのニュアンスを混沌とさせる」というのが進行のコンセプトにあるようで、Aメロにしても冒頭は「Em」で着地は「E」なのです(ホ短調とホ長調の混在)。

で、イエスタデイ進行をいじり倒した後は

種まきする ちょっと野蛮ね ♪
A          G#7                 F#  C#

何と嬰ハ長調に着地しています。
・・・と思ったら、シレッとホ短調のリフが再登場。この破天荒な展開は、白井さんの性癖なのかもしれません。さすがは変態!(大変失礼なことを書いているようですが、気持ち的には絶賛してます)
つまり、詞が載る前からこの曲は「エロック」だったということです。その辺り、白井さんはもう何年もジュリーのアルバムを作り続けてきていたわけですから、「今回沢田さんはエロいロックを望んでいるに違いない!」という以心伝心でしょうか。

好みのエレキ・サウンドで斬新な「エロック」を得たジュリーのヴォーカルは、生き生きと突き抜けます。
驚くべきは、これほどラジカルで煽動的なハード・ロック・ナンバーを、イントロなどで披露してくれる「ヨガリ声」(?)含めジュリーが「歌」をまったく逸脱せずに表現しきっていること。このテーマで、絶対にキワモノにはならないんですよね。それがジュリーの凄さ。
提示された詞曲、アレンジにジュリーが完全に満足していることもあるでしょうが、こういう曲をこともなげに「歌って」しまえるジュリーの能力は特筆もの。
しかもこの曲はアルバム1曲目に配され、さらにはシングル・カットも。ジュリーはこの曲に相当な手応えを感じていたと思われます。

これひとつで『CROQUEMADAME & HOTCAKES』のアルバム全体像を形容できるほどの名曲・・・普段からジュリー以外でもハード・ロックをよく聴いているファンは、特にこのアルバム、この1曲は大好きでしょう。
また、前作『明日は晴れる』では収録各曲の歌詞が少し落ち着いた感じもありますので(もちろんそれはそれで素晴らしいですが)、「過激なジュリー」再降臨を待ち望んでいた多くの先輩方が、この「オーガニック オーガズム」で幕を開けるロックなアルバムを高く評価していらっしゃるようですね。
その意味でも、『明日は晴れる』の1年間お休みとなっていた覚和歌子さんの作詞起用は大当たり・・・そんな2004年だったんだろうなぁ、と後追いファンのヒヨッコは勉強した次第なのです。


そでれは、オマケです!
こちらも大分の先輩がコピーしてくださった2004年の資料です~。元はカラーだったのかな?


20041

20042


それでは次回更新でご指名の女流作詞家さんは・・・
この人はもう絶対に外すことはできない特別な存在・・・安井かずみさんです!

昨年僕は「ジュリーが歌った加瀬さんの作曲作品をすべて記事に書き終える」という大それたことに取り組みなんとか達成なりましたが、それは同時にいくつもの安井さんの詞を改めて味わい、感動させられるという貴重な日々でもありました。
今、加瀬さん以外の作曲家とコンビを組んだ安井さん作詞の記事未執筆のジュリー・ナンバーがまだ何曲か残っています。
その中に、個人的に猛烈に好きな1曲があるのです。
ジュリー・ナンバー全体の中でも突出して好きな曲のひとつ。安井さん作詞作品としては、「遠い旅」と同じくらいに溺愛してしまっているシングルB面曲・・・と、ここまで言えばみなさまも「はは~ん、アレだな」と想像がついたりするでしょうか?

「ジュリー・ナンバー女性作詞作品の旅」シリーズも、残すところ2回となりました。
引き続きこのペースで顔晴ります!

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2016年5月17日 (火)

沢田研二 「シルクの夜」

from『NON POLICY』、1984

Nonpolicy

1. ナンセンス
2. 8月のリグレット
3. 真夏のconversation
4. SMILE
5. ミラーボール・ドリーマー
6. シルクの夜
7. すべてはこの夜に
8. 眠れ巴里
9. ノンポリシー
10. 渡り鳥 はぐれ鳥

---------------------

昨夜は関東で地震がありました。
僕は既に仕事から帰宅していたのですが、自宅のある地域は震度4でした。テーブルに置いてあったカップが揺れ、コーヒーが少しこぼれました。
みなさま、大丈夫だったでしょうか?

そして、仕事が外回りだった今日はと言うと、うっとおしい雨です・・・。なんだか気分も滅入りかけますが、「いやいや、九州のみなさまの苦労に比べれば」と思い直し、矢継ぎ早の更新を頑張ってまいります。
なにせ今日は先輩方大好物の(?)、ジュリー・エロ・バラードがお題ですよ~。
ジメジメ転じてエロと為る、ということでこのうっとおしい天気を吹き飛ばしたい!

さて、僕がこれまで記事に書いてきたジュリーのバラード中に、90年代から2000年代にかけての「ジュリー3大エロ・バラード」なる3曲があります。
下世話な表現で申し訳ないのですが

ビフォー→「Don't be afraid to LOVE」
本番→「PinpointでLove」
アフター→「AFTERMATH」

というもの。
ただ、当然70年代、80年代のジュリーにも幾多の官能のバラード名曲があって、その中から今日は80年代の名曲を採り上げることにしました。

今拙ブログは”大好きな曲をお題にガンガン更新するシリーズ・女性作詞編”開催中ということで、今日のご指名女流作詞家は、三浦徳子さん。
ジュリーへの提供曲は、「ス・ト・リ・ッ・パ・-」「おまえがパラダイス」「6番目のユ・ウ・ウ・ツ」など80年代ロックン・ジュリーの名シングルがズラリ。
官能ということで言えば、妖しいながらもカラリとした性衝動でスカッとさせてくれる詞が多く、どちらかと言うとアップテンポとの相性が良さそうな三浦さんの「エロ」ですが、ジュリーには極上のエロ・バラードを1篇、(世間的には)ひっそりと提供してくれています。

アルバム『NON POLICY』から。
「シルクの夜」、伝授です!


80年代ジュリーのエロ・バラード・・・みなさまそれぞれに「意中の1曲」がありそうですね。
超弩級は「クライマックス」と「指」の2曲でしょうか。実は80年代ジュリーのエロ・バラードは、すべてこの2曲とのバランスをとってみるとその魅力が際立ってくるように僕には思えます。「シルクの夜」についてもまずはそんなお話から始めてみましょう。

「クライマックス」と「指」は両極端として、真ん中に「シルクの夜」を置いてみるととても座りが良い・・・個人的な感覚ですけど、これは曲の「体温」の話なんです。
まず糸井重里さん作詞の「クライマックス」は、火傷するくらいに熱い!
対して、先日の蜷川さんの旅立ちの知らせもあって、今ジュリーファンの多くが思いを馳せているであろう松本一起さん作詞の「指」は、蜷川さんの演出のイメージも加え、極度に(身体が)冷たい感じがします。
実際にコトに及んでいる(←下品な表現ですみません)「クライマックス」も、失われた愛撫を妄想の中で取り戻し再現しようという「指」も、とてつもなく「リアル」。
どんな作詞家さんの作品であれ、ジュリーが歌うエロ・バラードは常に「リアル」です。
でもこの2曲、ジュリーの天才的な歌詞解釈表現によって、伝わってくる「体温」が極端に違う・・・ならば、「シルクの夜」はどうでしょうか。

これが不思議なことに、熱くも冷たくもないんですよね。「平熱」なんですよ。

一人の朝には むなしいこの僕
Cmaj7    B♭6  Cmaj7           B♭6

HOTELの窓ににじんだBlue
A♭maj7                 Cmaj7

抱きしめるぬくもり それは   はかなさ ♪
A♭maj7                      G7sus4   G7

このように2番Aメロ冒頭に「回想」が挿し込まれることで、聴く側の鼓動が落ち着いてくるような・・・。

「平熱」の感覚は、実は『NON POLICY』というアルバムに共通する魅力なのかもしれません。
良い意味でどこか「醒めた」サウンドをして僕は何となくこのアルバムに「シティ・ポップス」を想起していました。今も変わりなくそう感じてはいますが、そんな(言わば)無臭の音の中でのジュリー・ヴォーカルの「情」を探っていくのが醍醐味・・・僕がこのアルバムの再評価に至ったのには、そうした気づきがあります。

「シルクの夜」には確かにエロを感じます。しかし具体的にそのエロティシズムを紐解こうとすると、この「温度」感の無さというのはなかなかに難問です。
三浦さんの詞は端麗で素晴らしい名篇ですが、じゃあ歌詞中で派手にエロティクな表現が貫かれているかというとそういうわけでもなくて。
かりそめの恋を歌うストーリーは主人公の心情を淡々と追うように描かれ、特に官能を押し出すフレーズは見当たりません。それでも・・・エロい。何故でしょう。
そこで浮かび上がってくるのが作曲者・・・稀代のメロディー・メーカー、南佳孝さんの存在です。

僕自身には才が無く理解できない部分もありますが、多くの著名な方々が南さんを「エロティックなメロディーを書く人」として高く評価していらっしゃるようです。
もうタイトルも作者のお名前も忘れてしまったのですが、「音楽業界やヒット曲を斬る」みたいな辛口な感じで、オーケストラの指揮者のかたが執筆された本を高校生の時に読んだことがあります。
文中でその指揮者さんが南さんの「スローなブギにしてくれ」(だったと思います)のコード進行を一部挙げ「エロティックな進行だ」と絶賛されていました。「コード進行だけでエロを感じる、なんてことがあるんだろうか。プロというのは凄いなぁ」とまだ10代の僕はそのくだりを読んで面食らったことをよく覚えています。
ちなみにその指揮者さんが『第22回・日本レコード大賞』で指揮をしていらしたことは確実ですので(てっきり新人賞は聖子さんで間違いない、と思って準備していたら田原さんが受賞したので慌ててスコアを差し替えた、と書いていらっしゃったので)、よく調べたらお名前と著作タイトルが分かるかもしれません。

南さんのメロディーの個性が、ジュリーの歌によって素直に押し出された・・・それが「シルクの夜」をエロ・バラードたらしめているのではないでしょうか。
当然、三浦さんの詞のシチュエーションも、そんな南さんの官能的なメロディーだからこそ生まれたのでしょうし、無用に煽動することなく流れるような言葉を連ねていった「シルクの夜」が三浦さん作詞作品の中で逆に異色の名編であることも、詞曲一体かつジュリー・ヴォーカルの邪気の無さ故と言えます。
才あるプロフェッショナルの素直さが生み出してしまったエロティシズム・・・痛快ではありませんか。

さすがに僕は「コード進行から南さん特有のエロを指定する」には才が足りません。
と言うかこの曲、メチャクチャ採譜が大変だった!
いやぁ難易度高いです。なんとか「一緒に合わせて演奏するのに違和感の無い」ところまではコードを当て、今日は恥ずかしながらの自力採譜の表記をさせて頂きますが、正解はもっと複雑なテンション・コードが乱れ飛んでいるはず。どうぞご容赦を・・・。

で、何となく「エロい気がする」進行部として僕がなんとか挙げられるとすれば、それぞれ違った役割で2度のディミニッシュが登場する箇所でしょうか。

白いその肌に
G7

リボンをかけてしまいたいのさ ♪
G7        A♭dim       Am7     C#dim

本当に「なめらか」です。音の才を持つ人は、こうしたなめらかさを「なまめかしい」官能の感覚へと脳内で変換できるのかもしれませんね。
一方、「ジュリーのヴォーカル表現からメロディーのエロを測る」・・・この切り口なら僕のような者でも可能ですし、みなさまそれぞれ思いつく箇所もあるでしょう。
例えば、サビ途中の語尾はいかがでしょうか。

(1番)
言葉にはしない 愛が消えそうで ♪
   Dm7      Fm7      Em7       Am7

(リフレイン)
約束は しない  愛は消えないさ ♪
   E♭m7  G♭m7     Fm7      B♭m7

サビのリフレイン部については、キーが半音上がっているので一層エロい!
ジュリーはロングトーンも素晴らしいですが、こんな感じでフッと囁くように語尾を切る表現・・・絶品です。
みなさまが考える、「この曲のエロいメロディー」はどの箇所でしょうか?


最後になりますが・・・また「クラマックス」「指」との比較なんですけど、この2曲には明らかな「仕掛け」があるのに対し、「シルクの夜」の場合は「優れたメロディーに優れた歌詞が載って」いて、ジュリーがありのままに歌うことで成立した、「本当に良い曲とはこういう曲」というお手本のような名曲です。
敬愛するJ先輩の名言のひとつに、「ジュリーほど雰囲気で歌っているように見えて”歌”を歌っている人はいない」というお言葉があります。「シルクの夜」や「絹の部屋」などは正にそんな「歌」ではないでしょうか。

サビ最後に登場する「One Night Dreamer」のフレーズ示す通り、「シルクの夜」でジュリーは「一夜限り」のアバンチュールを歌っています。ところが

「言葉にはしない」
「約束はしない」

な~んてジュリーにこの声で歌われると、「一夜限り」が確信犯の色男っぽいと言うのか、聴いている女性ファンにしてみたら「いけず」なジュリー・・・つまり「私はジュリーのものになってしまっているのに、ジュリーは確信めいたことを言ってくれない」という、そんな「いけず」がこの曲のエロの正体かもしれませんね。
僕のような鈍感な男性ファンにはなかなか辿り着けない底知れぬ魅力が「シルクの夜」には隠されているようです。僕としてはこれをして「ドSに歌うジュリーのバラードはエロい」と、浅~く結論づけるに今はとどめておきましょう(汗)。

いずれにしても数年前から右肩上がりで再評価し始めたアルバム『NON POLICY』にあって、最重要な名曲・・・さすがにこの先のLIVEセットリストに採り上げられる可能性はゼロに等しいのでしょうけど、こうして音源を繰り返し聴いているだけでどんどん嵌ってゆく感覚、やっぱり僕の行くジュリー道はまだまだ先が長く、「気づき」のお楽しみもたくさん待っているようです。


それでは、オマケです!
今日は、手持ちのツアー・パンフレットの中で最大サイズを誇る『JULIE CONCERT TOUR '84』(中野『まんだらけ海馬店』さんにて購入)。
とにかくデカくて、A4でスキャンしようと試みるのはあまりに無理があるんですけど、それでもなんとかできる範囲でやってみたいくつかのショットをどうぞ~。


Tour8404

Tour8406

Tour8407

Tour8410

↑ 建さん若い!

Tour8412


↑ 柴山さんは、今とさほど変わらない・・・?

Tour8411


それでは、次回更新でご指名の「ジュリーを語る上で欠かせない!」女流作詞家さんは・・・いよいよ登場の覚和歌子さんです。

90年代から2000年代、覚さん作詞のジュリー・ナンバーにはこれまた数えきれないほどの名曲がありますが、今日の三浦さんご指名お題「シルクの夜」が「エロ・バラード」でしたから、この調子に乗って(?)今度は覚さんの「エロック」を採り上げたいと思います。
後追いで「じゅり勉」してゆく中で、多くの先輩方が「こんなジュリーを待っていた!」とタイムリーでこの曲を絶賛されて
いたことを学んできました。
詞、曲、演奏、ヴォーカルともインパクト抜群の2000年代ジュリー、オンリーワンのハード・ロックです。
さぁどの曲でしょうか(バレバレかな?)。

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2016年5月14日 (土)

沢田研二 「永遠に」

from『第六感』、1998

Dairokkan

1. ホームページLOVE
2. エンジェル
3. いとしいひとがいる
4. グランドクロス
5. 等圧線
6. 夏の陽炎
7. 永遠に(Guitar Orchestra Version)
8. 麗しき裏切り
9. 風にそよいで
10. 君にだけの感情
11. ラジカル ヒストリー

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熊本地震から1ヶ月が経ちました。
今も余震が続いています。ずっと離れた都心で暮らしていても、熊本や大分で余震があると、すぐにテレビで速報が出ます。それを見て、「なんだ、たった震度2か」などと言う人が会社にいます。恐ろしいことです。想像力の欠片も無い、と言わざるを得ません。

例えば、僕らが実際に「震度2」を体験した多くの機会を思い起こしてみましょう。
まず「どん!」という「始まり」があって、グラグラと揺れ始めます。その揺れを感じて「さほど大きくはないぞ」と身体の緊張が解けていきますが、一番最初の「どん!」の瞬間には誰しもが「あっ、地震だ!」と心体をギュッとこわばらせるはずです。
震度がどうであれ、この瞬間を体感する際の熊本や大分、九州のみなさんの緊張が今どれほどのものなのか・・・少し想像すれば分かるでしょう。

中止となってしまったジュリー全国ツアーの熊本公演・・・会場となるはずだった熊本市民会館の現在の様子を、大西市長が知らせてくださっています(こちら)。
何度もこの会場を訪れたことのある長崎の先輩が教えてくださった悲しい写真ですが、まずは被災者の生活再建から。本当に、1日も早く余震が無くなり、平穏な毎日が戻ってくることをお祈りするばかりです。
僕にできることはありませんが、ブログ記事の更新頻度を上げてゆくことを頑張っています。

今は”大好きなジュリー・ナンバーをお題にガンガン更新するシリーズ・女性作詞編”として、様々な時代を翔けながら名曲の旅をしているところ。
GRACE姉さんの「未来地図」に始まり、 桃井かおりさんの「桃いろの旅行者」、岡田冨美子さんの「アンドロメダ」と採り上げてきてちょっと脳内整理し、女性作詞作品の旅を5月いっぱいと決めて、月内に書けそうな記事本数を逆算。「ジュリーに関わった女流作詞家さんとして、この人だけは外せない!」というお名前が、今僕の頭の中で5人挙がっています。
なんとか月内にこの女性作詞作品テーマであと5本の記事更新、頑張ります!

5人のうちの1人・・・今日採り上げる女流作詞家さんは、「超」ビッグネームの岩谷時子さんです。前々からずっと岩谷さんのことを書きたいと考えていました。

ジュリーが今もステージで歌い続けているファースト・ソロ・シングル「君をのせて」を宮川泰さんとのコンビで提供された岩谷さん。その後の偉大なキャリアはご紹介するまでもないでしょう。
2013年に天国へと旅立たれた岩谷さんですが、1998年には「君をのせて」と同じく宮川さんとのコンビで、御年82歳にしてあまりにも素敵な至高のラブ・ソングをジュリーに再び提供してくれました。
ということで今日のお題は、アルバム『第六感』から「永遠に」。伝授です!


最初に・・・みなさまご存知の通り、この曲には2つのヴァージョンがありますね。
まずは、アコースティック・ギターのアルペジオ1本(左寄りにミックスされ、ヴォーカル・トラックとの分離を図っています)で歌われるシングル・ヴァージョン。
岩谷さんの描いた「生身の人間力」による普遍的真実=愛のコンセプトを、余計なものをすべてそぎ落としてジュリーの声に託すというアレンジ・コンセプトです。

一方アルバム・ヴァージョンでは白井さんの変態性(褒めてます!)、冒険心が炸裂。
クイーンのブライアン・メイを意識したであろうギター・サウンドが全編に楽しめる『第六感』にあって、「永遠に」は白井さんのエレキギター多重録音による「ギター・オーケストラ」・・・ジュリー史上他に類を見ない斬新なロック・バラードへと変貌します。

甲乙などつけ難い2つのヴァージョン、みなさまはどちらがお好みでしょうか。いやいや、そんなの決められっこありませんよね。

アコギ1本、エレキの多重録音。
いずれも「究極」な岩谷さんの歌詞を受けた白井さんが、ギターでもってアレンジャーとしての「究極」を体現させた手法です。凡人では到底思いつかない「究極の1篇に、2つの究極解釈あり」というアイデアは、岩谷さんの詞と何ら乖離するところはありません。

数年前、この曲のシングル盤の歌詞カードにコード表記があると知り、ことあるごとにブログで「見たい、見たい」と駄々をこねていましたら(汗)、いつもお世話になっている先輩がスキャンしてくださったのですが、その後、断捨離された大分の先輩(地震は大丈夫でしょうか・・・1日も早く平穏な日々が戻りますようお祈りしています)からシングル盤の実物を授かってしまいました。


Eienni1

Eienni2

もちろんギターを片手にジュリーと一緒にこのコードで歌ってみましたが、結論から言うと、いわゆる「完コピ」の採譜ではありませんでした。コードもところどころCDでの実際の演奏とは異なります。
でも、「間違っている」のではなく「易しく噛みくだいた」解釈なんですよ。ギター初心者のジュリーファンが、曲を覚えて一人で弾き語るのに適した採譜。貴重な簡易コード譜は、スコアフェチの僕にとっては宝物です。

今日はそんな歌詞カードのコードを叩き台にしつつ、歌詞引用部については自力で採譜したコード表記で頑張っていきたいと思います。

とにかく、何と清らかな歌なんだろう、と。
繰り返しますが、この時82歳の岩谷さんが書いた愛の歌・・・こんな素敵なことはありません。つくづく、女性の感性には敵わない、と思います。
世の中の男性が、こうした女性をリスペクトし従順に生き、なんとかその女性の思いを世に反映させようと考える人ばかりだったら、戦争なんて起こりようがないと僕は思うんですけどね・・・。

君 どこか  遠く  へ 
C   Em7(onB) Am   Am7(onG)

ただ二人だけで
   F              C  C(onB) Am7

でかけないか 何も持たず
         Dm7  G7      C      Am7

風のように 旅をしよ  う ♪
       D7            Gsus4 G7

こんな歌詞をジュリーがあの声で歌っているのを聴くと、日本語って女性的で、とても柔らかな言語なんだなぁと改めて感じさせられます。
「永遠に」に登場する言葉や表現には奇をてらったものはいささかも無いし、シンプルに、真に「日本語」ですよね。この国の愛すべき言葉の魅力・・・岩谷さんの「永遠に」はその意味でも名篇です。

岩谷さんは「訳詞」の巨匠でもいらっしゃいます。
僕の勤務先から発売中の本に『レ・ミゼラブル』のピアノ・ヴォーカル・スコアがありまして

Lesmiserable1

これは、「HAL LEONARD」という海外スコアの大手メーカー出版本を、ご存知ナベプロさんが輸入、発行してくださっているスコアを販売させて頂いているのですが、天下のナベプロさんは、輸入した本をそのままの形態で国内販売、という野暮なことはいたしません。
そう・・・収載曲の日本語訳詩がキチンと添えられていて、その訳詞者こそ岩谷時子さんなのです。

少しご紹介しますと、収載1曲目は「一日の終わりに」。

Lesmiserable2

歌詞全編を添付すると問題がありますので、一部トリミングさせて頂いています。

岩谷さんの紡ぐ言葉には、別に難しい意訳があるわけでもなんでもないんですよ。ほぼ直訳です。
それなのに、何と自然で美しい言葉並びでしょう。
シンプル・イズ・ベストとはよく言いますけど、それは決して「容易い」ということではないのですね。優れた才能を持つ感性豊かなプロフェッショナルが用い実践してこそ、の至言・・・岩谷さんには、訳詞であれ作詞であれその極意があります。
「君をのせて」然り・・・そして当然、「永遠に」もそんな名編ではないでしょうか。

宮川さんの作曲がまたシンプル・イズ・ベスト。
この場合も「容易い」のではなく、ただただ美しく純粋なメロディーを生み出す稀有な才能、その偉大なキャリアを感じるばかりです。

久々のジュリーへの楽曲提供で、王道・ハ長調のバラードを提示した宮川さん。ここに僕は、後の2008年に大野さんが提供した「我が窮状」との類似を見ます。
それは、「ジュリーの曲を作る」にあたって、奇をてらわない直球勝負のメロディーで挑む作曲家の矜持です。「我が窮状」がピアノ1本、「永遠に」(シングル・ヴァージョン)がアコギ1本という究極のアレンジ形態にしても、それぞれ作曲者の気迫から導かれたアイデアのように思えるんですよ。

また「我が窮状」と「永遠に」では、双方美しいサビ部の異なるメロディーで、代理コードのディミニッシュを採り入れている共通点も見逃せません。

君 信じて欲しい  君 泣いているの  
Am      F                D7          G

君 僕はいつも君の  ものさ ♪
E7        F       F#dim  C

この「F#dim」ね。
これが「我が窮状」では

我が窮状 守りきれたら ♪
   C      E7  F            F#dim

というふうに使われているのです。

「F#dim」はギター初心者には少し難しいコードですが、ここは下山さんを倣って

・ひとさし指=1フレット4弦
・中指=1フレット2弦
・薬指=2フレット3弦
・小指=2フレット1弦
・親指=2フレット6弦

というフォームがお勧め。
親指をネックの上からカマす、というのがまぁ掌サイズの大きい人限定の押え方なんですが。指の短い人は親指を割愛しても鳴り自体に問題はありません。
でも、アコギの「永遠に」はアルペジオですからね・・・できれば6弦ルートの音が欲しいところです。

最後に、アルバム・ヴァージョンでの白井さんのギター・オーケストラについて書いておきましょう。
シングルとはただ単にアレンジ違いというだけでなく、細かな工夫がたくさんあります。鳴らしているコードもシングルとは微妙に違うんですよ。

僕も多重録音が好きで(この点についてだけはYOKO君からも「変態」認定を頂いています)、素人ながらその30年のキャリアで推測しますと、このヴァージョンの白井さんのエレキギターは十中八九「後録り」です。
つまり、まずアコギをバックにジュリーが歌ったテイクがあって、その上から白井さんがエレキギターのトラックを次々に重ねていきます。最後にアコギのトラックをOFFにして改めてミックスすればこのアルバム・ヴァージョンになる、という仕組み。

Bメロのトレモロ奏法、サビ部でジュリーの「おいで♪」を追いかけるフレーズの音色など、本当にブライアン・メイのようで個人的にはとても癒される演奏です。
あと、2番Aメロで噛んでくるアルペジオは、「ギター・オーケストラ」のクレジットが無ければ僕はシンセの音だと勘違いしていたかもしれません。よく聴くと、ミュート奏法とエフェクターをかけ合わせて音作りしているようです。凝ってますね~。
やっぱり白井さんは筋金入りの変態(しつこいようですが、褒めてます)です。

それにしてもこの曲のジュリーのヴォーカル・・・特に一番最後、「ふたりは変わらない♪」の語尾の「い♪」の情感は本当に凄くてため息が出ます。
優しさだけでなく、何か確信のようなものを感じさせる声。もっと言うと、永遠の眠りに就く直前の睦言のような・・・いや、さすがにそれは考え過ぎかな。

大きな声を出すことだけが歌の感情表現ではないのだ、と思い知らされます。
詞曲、アレンジ、演奏、歌、すべてにおいて90年代のジュリーを代表する名曲のひとつですね。
後追いファンの僕が生のLIVEでこの曲を聴ける時が、いつ来るのかなぁ・・・?



☆    ☆    ☆

蜷川幸雄さんが亡くなられました。
舞台の演出というジュリー絡みももちろんそうですけど、故郷・鹿児島で一人暮らしをしている父親と同い年での訃報ということもあって、胸が詰まりました。

今日のオマケは、記事お題とはまったく時期が違いますが・・・蜷川さんのご冥福をお祈りする意味も込めまして、『ヤング』バックナンバーの75年4月号から、『唐版・滝の白糸』特集ページを添付させて頂きます。

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『唐版・滝の白糸』については、いつもお世話になっている先輩が、観劇された時のことを色々とお話くださったことがあります。その先輩は当時の一般の新聞、雑誌の関連記事の小さな切り抜きもいくつか保管されていて、そちらも見せて頂きながら・・・。
頭の固いメディアの「大人」達がジュリーという彼等にとって未知の若い魅力をどう受け止めてよいか分からず、上から目線の論評を弄しつつも、ジュリーにある種の脅威を感じていた様子が垣間見られました。
麗しく、素敵な舞台だったのでしょうね・・・。


それでは次回更新、ご指名の「ジュリーを語る上で外せない女流作詞家」さんは、三浦徳子さんです。特に80年代前半のジュリーの健全なロック性を振り返るには、欠かせない存在でいらっしゃいます。
みなさまそれぞれお気に入りの三浦徳子さん作詞のジュリー・ナンバーがあると思います。僕もこれまで多くの曲を記事に採り上げてきましたが、まだ未執筆の三浦さん作詞の大名曲、いくつか残っているんですよ。

次回記事で書きたいと思っている曲は、一般的には知られていない「隠れた名曲」的スタンスと言ってよいでしょう。ただ、新規ジュリーファンとして僕は、「アルバムの中でこれが1番好き!」と仰る先輩がとても多い曲なのでは?と想像しています。
だって・・・ジュリーが歌うエロいバラードが好物ではない先輩はいらっしゃらないでしょ?

さぁ、お暇な方はお題を当ててみてください(笑)。

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2016年5月10日 (火)

沢田研二 「アンドロメダ」

from『BAD TUNING』、1980

Badtuning

1. 恋のバッド・チューニング
2. どうして朝
3. WOMAN WOMAN
4. PRETENDER
5. マダムX
6. アンドロメダ
7. 世紀末ブルース
8. みんないい娘
9. お月さん万才!
10. 今夜の雨はいい奴

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『悪名』がいよいよ東京にやってきましたね。
長丁場の公演日程もいよいよラストスパート。東京でも毎日の大盛況を願っています。
東京公演初日については、最近新たにご縁を頂いたJ先輩が早速メールでご感想を送ってくださいました。お芝居、演奏とも素敵な舞台だったようです。

あと、先日インフォに上がっていた噂のツアーTシャツ、初日公演では即刻完売だったとか。
僕はあのTシャツの購入をとても楽しみにしているんですよ・・・そこまで考えなくても良いのかもしれないけど、正に今この時勢下で『democratic Japan』の文字を胸に掲げて街を歩けるんだ、と思って。
あのTシャツを着ることでね、それは別に政治的煽動とかジュリーファンの間で社会的な物事の考え方を統一とかそんな意味では全然なくて・・・今は皆が自分の考えを堂々と言葉や文字に表すことにすごく苦労している時だと思うので、僕としてはそれがジュリーのツアーTでできてしまうというのが嬉しいわけです。

『悪名』東京公演については、先述のJ先輩とのご縁もあり僕も1日だけですが観劇します。楽しみです!

といったところで、今日もタイトな文量を心がけつつ、枕は短めに本題へ。
”大好きなジュリー・ナンバーをお題にガンガン更新するシリーズ・女性作詞編”(←長いよ)・・・「未来地図」「桃いろの旅行者」に続いての第3弾です。

僕とYOKO君の間で、「数少ないジュリーへの提供曲の中、素晴らしい名篇を残してくれたビッグネーム」としてたびたび話題に上るのが、岡田冨美子さん。
今日はアルバム『BAD TUNING』から、岡田さん作詞の「アンドロメダ」を採り上げたいと思います。伝授~!


大好きな曲です。
僕は”第1次ジュリー堕ち期”ではポリドール時代のアルバムを、「これはたぶんロックっぽいだろう」と勝手に見当をつけたものから(その頃の「ジュリー=ロック」についての解釈は現在とはずいぶん違っていましたが)購入していきましたので、『BAD TUNING』は早めに手にしていました。
とにかく、収録半数の5曲がオールウェイズとのLIVE音源という斬新な構成には驚きましたよ。
バンドメンバーが一新された上、当時のタイトなスケジュールなどからレコーディングにあてる時間が無くて、それでこういう作りになったのかな、と考えられなくもないんですけど、完全にロックにシフトしたジュリーのヴォーカルの凄まじさが生かされるという点、そして何より若き腕利きロック・バンド、オールウェイズの出世作としてこれほどうってつけの構成はなく、LIVE音源の収録は大正解ですよね。
当然、僕がこのアルバムで「特に好きな収録曲」もLIVE音源が多く、「アンドロメダ」もそんな1曲。

「アルバム『BAD TUNING』の中で1番好きな曲は?」ということになると、僕は「どうして朝」、YOKO君は「WOMAN WOMAN」で双方一歩も譲らないのですが、「じゃあ2番目は?」というと、これが2人揃って「アンドロメダ」の気分で一致することが多いです。
そして今挙げた3曲すべてに共通しているのが、作詞・岡田冨美子さん=作曲・鈴木キサブローさんの大御所コンビの作品であること。

初めて僕がそのお名前を意識した岡田さん作詞の楽曲は、意外なところで「怪獣のバラード」だったかと思います。ちょうど僕が小学校に入るか入らないかくらいの頃流行したというこの曲を、僕はずいぶん後になってから「混声合唱曲のスタンダード」として覚えたのでした。
改めてよくよく調べてみますと「怪獣のバラード」はあの『ステージ101』から生まれた作品(作曲はご存知、東海林修先生)だそうですから、ジュリーファンの先輩方はきっとタイムリーでTVを観て自然に知ることになった曲なのでしょうね。

僕は子供時代から、例えば『ウルトラマン』などを観ていて「やられてしまう怪獣が可哀相だ」と思っていた口で(ひねくれていたのか純粋だったのか、どっちなんでしょうか)、まぁ「生き物好き」だったのでしょう。
大人になってもその感覚は持ち続けていたようで、「怪獣のバラード」を聴いた瞬間一発で岡田さんの詞に大いに共感したものでした。
砂漠にひっそりと暮らしていた怪獣がある日「海を見てみたい」と思い立って、気の遠くなるような道のりを歩いてゆくストーリー。言葉には描かれていないけれど、道のりの途中で人間にいじめられたりしたのかなぁ、と想像させられる歌詞です。
「怪獣には怪獣の気持ちがあるんだよ」と歌うこの曲が、混声合唱のスタンダートとしてずっと愛され続けている・・・岡田さんの詞は素敵で、深いと思います。

そんな岡田さんが、ジュリーの『BAD TUNING』に鈴木さんとのコンビでの上記3曲と「今夜の雨はいい奴」(こちらは加瀬さんの作曲)で作詞提供。
いずれ劣らぬ名篇ばかりですが、オールウェイズを率いて先鋭ロックに覚醒した当時のジュリーのヴィジュアル・イメージに最もリンクしているのが、お題の「アンドロメダ」ではないでしょうか。
思えば少年時代の僕が「音楽」よりも先に出逢っていたのが「SF小説」でした。「TOKIO」のシングル・リリースを機にジュリーの作品には「ヴィジュアル・ロック」と共に「SF」性も前面に押し出されていて、今にして僕はそこに自らの原風景を見ます。

ただ、糸井さんが「TOKIO」や「恋のバッド・チューニング」でジュリー本人に「天翔けるSF的なキャラクター」を投影したのに対し、岡田さんの「アンドロメダ」は歌い手・ジュリーの恋の相手に宇宙の女性(?)を配役し、そこから逆にジュリー本人の持つ大きなスケールを描ききるという手法です。
これがとんでもない突き抜け方で、「男よりも男らしい」女流作詞家の凄味を見せつけてくれます。
ジュリーへの作詞提供では他の女流作詞家さんにも同じく「男らしさ」が見受けられますが(三浦徳子さんなど)、僕としては岡田さんの「どうして朝」「アンドロメダ」の2曲がその最高峰の作品例だと考えます。

きらびやかな孤独が 私のぜいたくよと
Am                             F

カードをきり ひいてみせる
G                E7-9

エースはスペード ♪
Am                 E7

「エースはスペード♪」の語感と断言力の凄まじさ・・・思わず「ババ~ン!」と効果音を入れたくなってしまう「満を持しての抜刀」のようなフレーズです。
これ、並の才能だと「スペードのエース♪」という言い回しになると思うんですよ。岡田さんの言葉遣い、フレーズ配置、言葉の距離感は頭抜けていますね。

遠い星で生まれたよな
Fmaj7              Em7

まなざし 時を止めるよ ♪
Fmaj7                     E7

宇宙規模で恋に堕ちるジュリー。謎めく相手にたぶらかされメロメロになったジュリーはサビで

アンドロメダ おまえは宇宙
Am                       G

俺をすきまなく詰め込みたい ♪
      F                            E7

とまで言い切り、自ら宇宙を覆いつくさんという壮大なスケールで「至高の知性体」をモノにしてしまうという・・・さすがはジュリー、正に地球代表の男の中の男。
ジュリー自身がそんなことをまるで意識せずに歌っているのが、実は一番凄いことなのですが。

メロディーについては、いかにも鈴木キサブローさんが得意とする短調のロック・ポップスです。
ジュリー以外への提供曲でも鈴木さんは短調のノリの良い曲でのヒットが多いように感じます(ショーケンの「ぐでんぐでん」とか)。ジュリーの有名曲だと「酒場でDABADA」がそれに当て嵌まり、「お月さん万才」含めた『BAD TUNING』収録4曲の中ではこの「アンドロメダ」ということになりますね。
キーは王道のイ短調。普遍的なメロディーはポップ性が高く、万人に愛されそう。かと言って「ありきたり」かた言うとそんなことはなく、Aメロの「E7-9」の挿し込み方などには鈴木さんの才気が漲っています。
ヴィジュアル・ロックなジュリーの魅力を引き出すという点でもうってつけの才能。鈴木さんのジュリーへの提供曲は、特に80年代、もっともっと多くの機会があっても良かったと思うのですが・・・。

オールウェイズの演奏でパッと耳を惹くのはやはり西平さんのキーボードです。岡田さんの歌詞世界に合わせた「スペイシー・サウンド」と言いましょうか。
今年に入って『A WONDERFUL TIME.』のスコアがきっかけでお友達になった同い年の男性ジュリーファンの方が、エキゾティクス時代の西平さんの演奏について「ほとんどプリセットを使わない音作りが凄かった」と仰っていました。この曲でもその片鱗が窺えます。
80年代の音楽シーンというのはシンセサイザーの大活躍で幕を開けたと言っても過言ではありませんが、そこでプレイヤーが独自の作りこみをしているか否かは重要なポイントでしょうね。
しかも「アンドロメダ」で西平さんはそのスペイシーな音とピアノ連打を噛み合わせてきます。この場合、おそらく左手がピアノ、右手が「宇宙音」。
LIVE音源だからこそ価値のあるテイクです。西平さんは新生・80年代ジュリー・ロックの幕開けを象徴するプレイヤーと言えましょう。

また、後藤次利さんのアレンジによりこの曲は単なるエイト・ビートのポップスではなく「跳ねる」ロック色が押し出されていて、その雰囲気を一手に引き受けているのが建さんのベースです。
Aメロの「ラッラ~ラ、ララ、ラッラ~ラ、ララ、ソッソ~ソ、ソソ、ソッソ~ソ、ソソ・・・♪」とリズムはリフレイン、音階は下降するフレーズ。
サビ部の奔放なフレット移動とアタック(1拍目を抜く、という荒技が登場する箇所はアドリブでしょう)。
すべてにおいて粒揃えがクールで素晴らしい!

ギターは、左が柴山さんで右が沢さんかな。
左サイドの「じゃかじゃ~ん♪」と突き放す太っとい音に、僕は現在の柴山さんをダブらせて聴いてしまいます。実際はどうなのでしょうか・・・。


「アンドロメダ」・・・こんなに凄いLIVE音源がオリジナル・アルバム収録曲として残されているのに、じゃあ今「この先のツアーでのセットリスト入りは?」と考えると、可能性はほとんど無いのでしょうねぇ・・・。
ジュリーのことですから、曲自体を忘れているなんてことは無いはずです。でも、戦火の迫る予感、大自然の恐ろしさ。それらを受けて今、ジュリーには「歌わなきゃ」と思っている曲が他にたくさんあるのでしょう。
いつか、穏やかで平和な時代がやってきたら・・・その時には「アンドロメダ」のような曲にもセトリ入りを期待してみましょう。ジュリーが今、「歌わなきゃ」と思っている歌を歌うということは、そんな平和が訪れるまで歌い続ける覚悟がある、ということなのですから。


それでは、オマケです!
福岡の先輩からお預かりしている『ヤング』バックナンバーから、オールウェイズと共に新たなスタートを切ったジュリー、80年4月号特集記事ページをどうぞ~。


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それでは次回更新は、またまた時代を翔けまして、90年代のナンバーを予定しています。
もちろん個人的にも大好きな曲であり、素晴らしい女流作詞家さんの作品です。引き続き頑張ります!

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2016年5月 7日 (土)

沢田研二 「桃いろの旅行者」

from『チャコール・グレイの肖像』、1976

Tyakoruglay

1. ジョセフィーヌのために
2. 夜の河を渡る前に
3. 何を失くしてもかまわない
4. コバルトの季節の中で
5. 桃いろの旅行者
6. 片腕の賭博師
7. ヘヴィーだね
8. ロ・メロメロ
9. 影絵
10. あのままだよ

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みなさま、連休いかがお過ごしだったでしょうか。
僕は纏まった長い休みをとることができず、遠出は断念。夫婦で出かけたのも近場のみでした。

先日は、初めて多摩動物公園に行ってみました。上野とはまた趣が違って、結構な山の勾配を最大限生かしてそのまま公園にした感じの敷地はとても広く、人出の中歩くにもゆとりがあって、動物達がいない場所も山歩きコースのように楽しむことができます。
もちろん、動物達にもたくさん出逢ってきました。

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まぁ、今のタイミングでジュリーファンが動物園に行って特に着目するのはこの2頭でしょうな~。

というわけで、そこそこリフレッシュしまして。
前回の「未来地図」から続いて”大好きなジュリー・ナンバーをお題にガンガン更新するシリーズ”ではしばらくの間、ジュリーの長い歴史を彩った幾多の女性作詞作品の名曲達を、様々な時代を駆け回りながら採り上げていくことにしました。
そうやっていざテーマを決めると、これまで未執筆だった大好物のジュリー・ナンバーが次々に頭に浮かんできて、書きたい曲が鈴なり状態となっています。
張り切って更新を重ねていきますよ~。

今日は76年リリースの大名盤『チャコールグレイの肖像』から、「桃いろの旅行者」を採り上げます。
先輩方は、この桃井かおりさんの作詞作品をどのように解釈し評価されているのでしょうか・・・みなさまからのコメントにも興味深々の伝授です~!


アルバムの中では、「夜の河を渡る前に」の次に好きな曲。また、70年代リリースのジュリー・レコーディング作品の中で、演奏面の素晴らしさについては突出した1曲だと個人的には考えています。
もちろんそれは優れた詞曲あっての演奏で、まずは桃井かおりさんの作詞、ジュリーの作曲からこの名曲を紐解いていくことにしましょう。

僕がポリドール期のアルバムを次々に大人買いした”第一次ジュリー堕ち期”・・・比較的後回しの購入となったのが、アルバム『チャコール・グレイの肖像』。
それは、何となく「全曲ジュリーの作曲作品」ということでビビっていた、という今では考えられない理由によるものでしたが、購入するや逆の意味でビビり(想像以上に、遥かに素晴らしかったということです)、すぐさまYOKO君にも熱烈推奨。
YOKO君は彼にしては珍しく風邪をひいて発熱をおしてスタジオに向かっていた時に電車内でこのアルバムを初めて聴いたらしくて
「身体が弱っている時にこの名盤は危険!」
と言っていました。
分かるような気がします・・・。

僕もYOKO君も、当時のジュリーをとりまく特殊な状況など全然知らなかったのに、このアルバムに漂う閉塞感、美しいほどの危うさの魅力はヒシヒシと感じられたんです。タイムリーで聴いた先輩方にとってそれはいかほどであったか・・・。
特に今日のお題曲なんかはね。

「桃いろの旅行者」はジュリー史上、最近の2012年以降の新曲群、或いは阿久=大野時代とは異質の、他に例を見ない「ダメージ・ソング」と言えるでしょう。
ジュリーとしては相当珍しい、徹底的なマイナー・スケールに支配された作曲、そして桃井さんの詞から発散する葛藤、孤独感、強烈な心の痛み。

初めてこの曲を聴いた時
「えっ、桃井かおりさんって、あの桃井かおりさん?こんな詞を書いてたの?」
と意外な感じがしました。
桃井さんには「男まさり」「豪快」というイメージが強くあって、「桃いろの旅行者」のような心閉ざした少年の物語とそぐわないと感じたのです。
でもよくよく味わってみると、桃井さんのような人だからこんな詞が書けて、ジュリーに提供できたんだろうなぁと思えてきましたが、どういった経緯で桃井さんがジュリーに作詞提供という話になったのか、などは後追いファンの僕は未だ知ることができずにいます。

歌詞全体を通してどの言葉遣いも好きですけど、僕は2番Aメロの流れが特にグッときます。

誰か旅に出たら 手紙くれませんかね
Dm                                             Gm7         

今ボク 遠くゆきたい
C      F     E7       A7

こんなダメな僕じゃ 部屋もでられないけど
Dm                                                   Gm7

いいでしょ なんか知らせて ♪
C          F         E7         A7

歌詞中で、漢字の「僕」と片仮名の「ボク」が入り乱れるあたりは、主人公の「心の境界線」の危うさを思わせます。狙って使い分けているのかなぁ。
また

あなたなんか いつだって友達がいて
Dm                Am7         Gm         Dm

ガチャ・ガチャさわぎ いつでもそうだよね ♪
Gm                 Dm    Am7                 Dm

「ガチャ・ガチャさわぎ」という表現には、自分を放って他の友達と談笑する「あなた」を非難するようなニュアンスもあり、ドキリとさせられます。
この「あなたには友だちがたくさんいて、いつも賑やかでいいよね」という桃井さんの切り口は、自らの孤独や辛い想い出を嫌味なく晒す手法でもあって、相当肝を据えていないとジュリーの作品として提示できないような気がします。
それだけストレートな詞とも言えるんですよね。
男性一人称を採用し、語りかけている対象も男性のイメージを受けますが、桃井さんの最初の発想は女性同士の物語で、もしかすると実体験に基づいているのかな、とも思います。その点は安井かずみさんの手法と似ているかもしれません。

実はちょうどこの「桃いろの旅行者」という曲を知ってすぐの頃に、僕は女優・桃井かおりさんにどっぷりと嵌っていたことがあったのでした。

2006年のある日、YOKO君が
「『ちょっとマイウェイ』のDVDが出るぞ!」
と興奮して電話をかけてきまして。
みなさまは、この桃井さん主演のTVドラマはご存知でしょうか。僕の世代はドンピシャみたいなんですが、僕は民放が2つしかない田舎に住んでいたので放映が無かったのか、それとも単に見逃していたのか、『ちょっとマイウェイ』なるタイトルを聞いてもまったくピンと来ず・・・「は?何それ?」と。
でもYOKO君にとっては青春の想い出の作品だったようで、しきりにその素晴らしさを語り倒してくれまして、「ドラマ自体はもちろん、劇中に流れる挿入曲が最高だった」とのことで僕も興味が湧いてきました。
そこで音楽仲間3人で協力しDVDを購入することに。
観てみたら、 見事病みつきになりましてね・・・。ハイライトをガンガン吸いまくるヒロインなんて初めて観ましたし、「○○してくれるか?」という独特の言い回しなど、桃井さん演ずる「なつみちゃん」がとても魅力的。
さらにYOKO君の言う通り挿入曲も当時のTVドラマとしては画期的でした。特に、「ラジコン・ブルース」は素晴らしい名曲です。

そんな状況が”第一次ジュリー堕ち期”と同時進行していたわけですから、まず桃井さん作詞の「桃いろの旅行者」に僕が一層入れ込んだことは必然でした。

次に、ジュリーの作曲です。
堯之さん曰く「普通では考えられないコード進行の曲を作る」というジュリーですが、アルバム『チャコール・グレイの肖像』の特徴は、収録曲中半数の5曲でジュリーが「ド」が付くほどの徹底した短調進行を採り入れていることです(他に「何を失くしてもかまわない」「ヘヴィーだね」「影絵」「あのままだよ」)。
このあたり、新規ファンの僕には初聴時に知り得なかった、76年後半のジュリーの特殊な状況が正直に反映されているようでとても興味をそそられます。

先に少し触れた通り、ミドル・テンポ或いはバラードで短調どっぷりの曲想というのがジュリーの作曲としては珍しく、そんな曲が76年の特殊な状況下で制作されたアルバムに固まって収録されている・・・単なる偶然とは言えませんよね。
「桃いろの旅行者」では歌メロ2番までの淡々とした雰囲気がそんな短調進行をより深く、悲しく彩っています。僕が曲中で最もジュリーらしさを感じるのは

誰かひまがあれば 電話くれませんかね
Dm                                                Gm7

今ボク なんかさみしい ♪
C     F         E7        A7

この「E7」への移行です。
直前の「F」まではよくある王道のパターンなんですけど、ここで捻ってくるのがいかにも部屋でひとりぼっちでギターを弾き語りながらの作曲なんだろうなぁ、と。
「ジェセフィーヌのために」にもよく似た進行が登場しますが、和音を急にガクッと下げてしまうのが、当時のジュリーの心境を物語っているようで何とも切ない・・・もちろん、桃井さんの歌詞に合わせている部分もあったのでしょうけど。

「桃いろの旅行者」の場合は音域が「レ」から高い「ファ」と他収録曲と比べるとそれほど広くなく(とは言え普通の男声からすると高っかいですけどね)、ジュリーは「あのままだよ」とこの曲については、滅々と(淡々と)歌うことを作曲段階から決めていたかもしれません。
ジュリーのあの何とも言えない当時の声質で歌われると・・・子供の頃にテレビで観ていて勝手に固定されていた「太陽のようにド派手でギンギンな歌手」というジュリーのイメージをブチ破られ、「翳りの魅力」を後追いで知ることになったという点でも、「桃いろの旅行者」のような曲は僕にとって衝撃的でしたね。

トドメは、演奏について。
本当に素晴らしいです。ライナーに曲ごとのクレジットが無いので断言はできませんが、アレンジが大野さんであること、左サイドで鳴っているリードギターがアドリブ風であること(ヴォーカルに絡みつく演奏が「裏メロ」になっていて、しかもまったく同じフレーズが二度登場することがない)、ピアノのタッチが尖っていて(硬質で)、コンプレッサーを通したような音色であることなど(以前先輩に教えて頂いた、「サムライ」のシングル・ヴァージョンとアルバム・ヴァージョンでのピアノ演奏者の違いで僕が学んだ大野さんと羽田健太郎さんの音の区別ともそれは合致しています)から、この曲は井上バンドの演奏トラックであると僕は考えます。実際どうなのでしょうか。

華麗でありながら寂寥感のあるピアノ、まるで木枯らしが吹き抜けていくかのようなオルガン、サリー在籍時の演奏に近いオクターブ・フレージングで組み立てられたベース、軽快な打点と重々しい「隙間の感覚」を併せ持つドラムス(特にキック)・・・すべてが僕の好みであり原風景、つまり『太陽にほえろ!』サントラの演奏と印象が近しいのです。

さらに左右のギターのアンサンブル。
淡々と進行していた曲が、後奏で主人公の感情が爆発したように混沌とフェイドアウトに向かっていく感覚は、いかにもバンド・アレンジといったところ。
これはギターの
「レ~、レド、レ~、ドレ~、ド~、ドシ♭、ド~・・・♪」
と弾く音階のリフが、「普通こうだよね」というタイミングとは敢えてズレて耳に飛び込んでくる譜割のアイデアが強烈に効いていると思います。
「普通」よりも少しだけ早く、或いは少しだけ遅れて噛み込んでくる、それをギター・リフ音階を生かして試みる手法に、僕はニール・ヤングの奏法を重ねます。75年リリースの「今宵その夜」ですとか。
以前先輩に頂いたコメントによりますと、かつて井上バンドのメンバーがジュリーファンにニール・ヤングを聴くよう勧めていたことがあったそうですね。
「桃いろの旅行者」は大野さんのアレンジですが、この曲が井上バンドの演奏トラックであるならば、後奏でのギター・リフ混沌の譜割について堯之さん、速水さんのアイデアも盛り込まれているのではないでしょうか。

未だ余震が続く九州の震災のこともあり、アルバム『チャコールグレイの肖像』は、心休まらない、辛い思いを抱えた状態で聴く作品とは言えないような気がして、こんな時にブログで採り上げるのはどうだったのかと今さらながら思ったりしますが、ジュリーの特化した一面を味わうことのできる本当に稀有な名盤です。
「桃いろの旅行者」はレコードで言うとA面ラストの配置ですね。きっと76年にタイムリーで『チャコールグレイの肖像』を聴いた先輩方は、CDでしか聴けていない僕の数十倍ものインパクト、鮮烈さをこの名曲に感じとっていらしたのでしょうね・・・。


それでは、オマケです!
Mママ様よりお預かりしている厖大な切り抜き資料の中から、「76年の『プレイファイヴ』だと思われるページを集めてみました」シリーズの第1弾です。


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Pari202

Pari203

Pari205


それでは次回更新では、今度は80年代の名曲を採り上げたいと思います。
女性作詞家による80年代の名曲、というだけでもみなさま本当に多くの曲に思い当たることでしょう。どの曲を選んだとしても、「この曲好き!」と仰る先輩は必ずいらっしゃると思っていますよ。
お楽しみに~。

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2016年5月 3日 (火)

沢田研二 「未来地図」

from『俺たち最高』、2006

Oretatisaikou

1. 涙のhappy new year
2. 俺たち最高
3. Caress
4. 勇気凛々
5. 桜舞う
6. weeping swallow
7. 遠い夏
8. now here man
9. Aurora
10. 未来地図

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澤會さんのサイト更新で、夏からの全国ツアー・熊本公演が中止となってしまったことを知りました。
会館が使えない状態となり、日程までに復旧のメドが立たないとのこと・・・仕方ない事情とはいえ、絶句です。本当に、熊本のジュリーファンのみなさまには、おかけする言葉が見つかりません。
地震で辛い怖い思いをされて、今もそれは続いていて、それでも「ツアーでジュリーに逢える」とお気持ちを奮い立たせていらしたに違いないのです・・・。

ジュリーは「来年こそ必ず」と考えているはずですが、今熊本のファンは悲しみに暮れていらっしゃるでしょう。ここへきて再び「こんな時にブログなんて書いていて良いのか」と、僕の頭も堂々巡ります。
できることを、いつもより頑張ってやるんだ・・・自分にそう言い聞かせるしかありません。
今日は「未来」がテーマのジュリー・ナンバーを採り上げることになりました。頑張りたいと思います。


後追いファン独特のものなのか、僕の個人的な感覚なのか分かりませんが、2000年代のジュリー・ナンバーを聴いていると、作詞がジュリーなのか覚和歌子さんなのかそれともGRACE姉さんなのか混乱して分からなくなっている時が多いです。
覚さんの詞はおそらくアルバム『Beautiful World』あたりから、GRACE姉さんはジュリーの曲の作詞をするようになってすぐの頃から、それぞれがジュリー本人からのサジェスチョンや、アルバム制作段階での打ち合わせもありつつ、ジュリーの生き方、感じ方とシンクロする作詞作品が多くなってきたのでしょう。
ジュリーも含めて3人の作詞に共通して、「大地」(=母)や「天空」(=父)をも含めた「自然への畏怖」という考え方があるように僕には思われます。

さて先日、カミさんと根津の町をぶらっと歩いていて出逢ったのが、雑貨『Sun & Rain』さん。
アメリカはアリゾナの砂漠に暮らす先住民「ホピ族」の工芸品の陳列、販売をされているお店です。

Hopi1

ホピ族について個人的には「平和を祈る」役割を伝承し続けている部族、という点で無性に惹かれました(深く知ればもっと他にも色々あるのでしょうけど)。
”カチーナ”と呼ばれる精霊の人形が所狭しと飾られている店内の様子は圧巻のひと言です。

Hopi2


お店のお姉さんは、ホピ族の生活やカチーナの逸話などを詳しくお話してくださったばかりか、店内のカチーナの撮影も許可してくださいました。「是非広めてください」とのことです。

カチーナは一見愛くるしい外見がまず魅力ですが、配色、飾り、役割などにもそれぞれ揺るぎない決まりがあり、一体一体が本当に貴重なものらしいです。
僕は「決断、行動の際に勇気を与えてくれる」という、イーグルのカチーナに強く惹かれました。


Hopi3

貴重なものですから当然お値段もそれなりで、僕の懐ではさすがに購入することができませんでした。でもそれは、僕自身にまだこのカチーナを所有するだけの格が備わっていない、ということなのだと思います。
再び出逢えることができるかどうか分からないこの一体・・・名残惜しいですが、将来僕がふさわしい器量を持つことがあったとしたら、その時にはまた別のカチーナとの出逢いもあるのかもしれません。

で、何が言いたかったのかというと・・・。
お店のお姉さんからホピ族の生き方、考え方、カチーナに込められた「役割」を伺うにつけ、いくつものジュリー・ナンバーの歌詞を想起させられたんです。
ホピ族によれば、今僕ら人類は「4度目の世界」を生きているのだそうです(1度目から3度目までの世界は、「自然破壊」や「戦争」によって滅んでいます)。
その4度目の世界も危機に瀕する今、僕らが立ち返るべきこと・・・「前の世界に蒔かれた種を食べて生きている」という考え方には、ジュリーの名曲達の歌詞に思い当たるところがありました。

覚さんなら「約束の地」。
ジュリーなら「護られているI love you」。
そしてGRACE姉さんなら・・・。

4度目の世界が、ゆるやかな平和を伴って5度目の世界へと引き継がれてゆく。
誰しもが切望する未来でしょう。その未来のために平凡なる僕らができることは、人間の一番根っこの「愛する」本能を解き放つこと・・・。
そんなふうに感じさせてくれる名曲。今日はアルバム『俺たち最高』から、GRACE姉さん作詞、ミッキー吉野さん作曲の「未来地図」を採り上げたいと思います。
伝授!


アルバムの中で抜きん出て好きな1曲、であるばかりか「日替わり・ジュリーで一番好きな曲」の常連でもあり、本当に大好きなパワー・ポップ・ナンバーです。
常連曲の中にはアルバム『いくつかの場面』収録の「U.F.O.」もありますし、僕はミッキー吉野さんの曲が好みなのでしょうね。以前、常連曲の中に同じ作曲家の作品が複数あるのは堯之さんだけ、と書いたことがありましたが、ミッキーさんもそうでした(汗)。

今までこの曲を記事に書けていなかった理由はただひとつ・・・採譜作業にビビっていたからです。
ミッキーさんの作る曲は本当に才気走っていて、僕の実力では到底太刀打ちできないだろう、と。今回意を決してチャレンジしてみましたが、やっぱり難しかった・・・。
何とか曲に合わせて弾いて違和感の無いところまではコードを起こしましたが、本当はもっと細かいテンション・コードが随所に散りばめられているはずなのです。

そのあたりは何とかご容赦頂くとしまして、まずはミッキーさんのメロディーと同じくらいに入れ込んでしまっているGRACE姉さんの詞について書いていきましょう。
いかにも女性らしい、GRACE姉さんらしいピュアな感性による潔いメッセージ。それが「未来地図」を”スピリチュアルな名曲”へと昇華させています。

きっと運命 なんかじゃない
        Cm7  Dm7   Gm7

兆し感じ た ふたりが
      Cm7  Dm7  Gm7

互いの 糸 たぐり寄せて
      Cm7  Dm7     Gm7

描き出す 未来地図を Ah・・・ ♪
      Cm7  Dm7 Gsus4     Gm7     D7+9

この「運命なんかじゃない♪」、或いは後の「神のせいにはしない♪」という表現。これは決して運命や神の否定とは言い切れないんですよね。
それがたとえ人智を超えた畏怖すべき存在によって決められていた運命だとしても、自分の意思で探し、求め、営んでゆく愛への確信、手応えでしょうか。
「未来」というのは単に恋人達のこれからの人生にとどまらず、世代レベル、伝説レベルにまで及ぶ「次の世界への種」を思わせます。だって

魂より もっと深く
Cm7  Dm7   Gm7

溶け合おう  果てるまで ♪
          Cm7  Dm7  Gm7

なのですから。
種を蒔く歌なのですよ・・・ジュリーの大好きな「エロック」が基本にありつつ、この詞で2人が描こうとしている地図は、既存既知の場所ではないわけですね。
「畏れるべきもの」の聖域を感じます。

一方でミッキーさんの作曲は、理知的なんだなぁ・・・。音は幻想的なんだけど。
同じ進行が繰り返されている箇所であっても載ってるメロディーが微妙に違って、どうやったらこの進行にこのメロが載せられるのか、とため息が出るばかり。
サビ最後の「sus4→トニック」の進行にオリエンタルなシンセのフレーズを差し込むのは、作曲段階からのアイデアだと考えられます。ゴダイゴっぽいですよね。

驚くべきは、これほど多彩なメロディーが乱舞しているのに、音域自体にさほどの高低幅は無いのです。最低音が「ド」で、最高音が高い「ファ」の音。
以前音楽仲間とカラオケに行った時、DAMだったかJOY SOUNDだったか・・・この曲を見つけて歌ってみたことがあります。当然僕がジュリーのようには歌えるわけはないのですが、力むことなく歌っていられる音階が自然に連なっていく感覚に感動させられたものでした。
(そうそう、カラオケと言えば先日、牛田小学校の先輩でいらっしゃるsaba様から公開質問を頂きましたが笑、さすがに僕は「6番目のユ・ウ・ウ・ツ」のカラオケで唇舐めはやったことがありません。でもYOKO君は、カラオケどころかLIVE会場で、「ユ・ウ・ウ・ツ」と「ダーリング」の時にはジュリーと一緒にペロッとやっていますよ)

「未来地図」は、そんな音域の中に自由度の高い音の抑揚がギュッと詰まっているのが凄い。

神の   せいには   しない
    Gm7   F6      E♭maj7    Dm7

ふたりが  互い導い    た
       Gm7  F6     E♭maj7   Dm7

求め合う時が尽きてしまう   まで
D7   Gm7   F6           E♭maj7   Dm7

魂の 欲望 忠実に
Gm7     F6     E♭maj7

Oh! I love you so ♪
Cm7                F

このあたり、歌詞の深さも相俟って、70年代初めのカウンター・カルチャーの匂いが漂っています。

白井さんのアレンジがまた素晴らしく・・・僕がここで書いておきたいポイントは2つ。

まずはギター。
白井さんはこの曲で、単音よりもキレッキレの複音カッティングを全面に押し出しています。
これはミッキーさんの楽曲だからこそのアイデアで、白井さんはゴダイゴの浅野孝巳さんの演奏スタイルを意識しているのではないでしょうか。
ゴダイゴの演奏は、ミッキーさんのシンセサイザー・フレーズと浅野さんのカッティングが特徴的です。僕はTVドラマ『西遊記』ドンピシャの世代なんですけど(だから、その後のタイガース同窓会の時、ジュリー以外に既に顔を知っていたのが唯一シローでした)、主題歌「モンキー・マジック」をバックにしたオープニング・キャッチで、堺正章さん演じる悟空のクレジットの瞬間に流れるギター・カッティングは子供心にも強烈なインパクトを感じていました。
「未来地図」のカッティングに、このインパクトとよく似た懐かしくも刺激的な雰囲気があるのです。

もうひとつは、ハンドクラップ(シンセで出している手拍子の音)の導入。
リズムを打つ拍は、「うん、たた、ん、たた!」という「シー・シー・シー」や「OH!ギャル」とまったく同じで、「未来地図」の場合は譜面で表記しますと

Img20549

こうなります。
「未来地図」ではこのハンドクラップのフレーズをイントロから単独の音で配置しています。そうすると、最初の「うん」(4分休符)が隠れてしまうのですね。
すなわち聴き手はイントロで

Img20649

このようなリズムが鳴っていると錯覚し、3小節の頭から他の楽器が噛んできて初めて「おっとっと!」と脳内でリズムを修正することになります。
この瞬間がスリリング!

以上2点とも本当に細かい工夫ではありますが、僕は白井さんのこうした仕掛けも大好物です。


・・・と、駆け足で書いてきましたが、いかがでしょうか。
この曲はジュリーファンの間でもあまり語られることの少ない気がします。「大好き!」と仰る方はどのくらいいらっしゃるのかな。

詞のテーマなどはジュリーの好みだと思いますが、リリース年の2006年以降はツアー・セットリストに加わることもなくここまで来ているようです。
毎年の新曲を4曲に止めていることについてジュリーは常々「まだ(ツアーで)1度しか歌っていない曲もある」と言ってくれていて、これからは「未来地図」のような隠れた(?)名曲にも少しずつ歌う機会が訪れるのかな、と期待してしまいます。
この曲などは、依知川さんのベースが入ることで劇的に雰囲気が変わると思いますしね。

広く無限の世界の中では本当にちっぽけな人の営み・・・それこそが愛おしい。その小さな営みに注ぎ込まれる命あるものの意志の尊さを感じさせてくれる「未来地図」は、今のジュリーの生き方、考え方に僕がリンクを感じている部分も多く、是非歌ってほしい1曲として、この先のLIVE体感を切望しています。
2006年のツアーはDVDが無いので、この名曲をジュリーがどんな表情で、どんな雰囲気で歌っていたのか、新規ファンの僕にはまったく分からないのです・・・。


それでは、オマケです!
僕の手元には現時点で2006年の資料がたったひとつしか無く、今日はそちらをご紹介。
おそらくカミさんが九州在住の先輩に以前授かっていたものだと思いますが・・・2006年全国ツアー『俺たち最高』春日公演のフライヤーです。


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九州の震災に遭われ今なお大変な苦労をされているジュリーファンのみなさまの中にも、2006年のこの公演に駆けつけていた人は多いのではないでしょうか。
この年のジュリーは、「ひとりぼっちのバラード」を歌っていますね。素敵なセットリストです。
ジュリーLIVEの思い出に浸れる平穏な日々が、九州のみなさまに1日でも早く訪れますように。


今回「未来地図」を記事を書いて、これからしばらくの間、ジュリーの歴史を彩ってきた様々な女性作詞家の名篇を、時代を駆けて旅したい気持ちになりました。
次から次へと大好きなジュリー・ナンバーが頭に浮かんできます。70年代、80年代、90年代、2000年代・・・さぁ、どの時代のどの曲を書きましょうか。
いずれにしても、できる限り早く更新します!

最後に。
先日、ゴダイゴ40周年のメモリアル・コンサートがあったのだそうですね。ミッキーさんはじめ、メンバーみなさんとてもお元気だったとか。
アンコール大トリが「Celebration」だったと聞きました。
僕が初めて自分で買ったシングル・レコード、『ガンダーラ』のB面曲です。懐かしいなぁ・・・。

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