沢田研二 「お気楽が極楽」
from『いい風よ吹け』、1999
1. インチキ小町
2. 真夏・白昼夢
3. 鼓動
4. 無邪気な酔っぱらい
5. いい風よ吹け
6. 奇跡
7. 蜜月
8. ティキティキ物語
9. いとしの惑星
10. お気楽が極楽
11. 涙と微笑み
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多くのみなさまもご覧になったでしょうが、僕も『レッツ・ゴー・ヤング』の「OH!ギャル」(&ロッド・スチュワートのカバー)映像の再放送を観ましたよ~。
カミさんの話だと「You Tubeにも上がっている結構有名な映像」らしいですけど、僕は初めて観たかなぁ。
「ハンドクラップはキーボードで出しているのかな」とか、「女声コーラスは生なのか?」とか、ヒヨッコにはまだまだ多くの謎が残されています。
それにしても凄い名曲だなぁ、と。
で、やっぱり「この曲を生のLIVEで体感できる日は来るのだろうか」と考えてしまいます。
『ジュリー祭り』のセットリストから外れたいくつかの有名シングル曲については、「そのうちすぐに聴けるだろう」という当初の予想に反し、僕個人の初体感までにはなかなか時間がかかっている現状。
昨年の『こっちの水苦いぞ』ツアーで「恋のバッド・チューニング」はじめ加瀬さんのシングルがいくつか聴けて、今年の『Barbe argentée』では待ちに待った「麗人」をようやく聴けました。
それでもまだまだ残っている・・・「魅せられた夜」「酒場でDABADA」「渚のラブレター」「OH!ギャル」。
聴きたいなぁ、いつか聴けるかなぁ、「OH!ギャル」だけは無理かなぁ・・・とつらつら考えた時間でした。
さて本題。
”『Barbe argentée』セットリストを振り返る”シリーズも第3弾です。今日は、依知川さんのバンドメンバー復帰を祝してのお題、ということも含めて「お気楽が極楽」を採り上げ考察していきたいと思います。
ついこの間まで「個人的にちょっと苦手な曲」ということで、「DYNAMITE三大壁曲」などと事あるごとに喧伝していたこと・・・「涙のhappy new year」に引き続き、今大いに恥じているところです。
今回もまた、生のLIVEを体感することで、ジュリーに見事壁をブチ破られました。
なにより、僕もいよいよ50代を間近にし、「お気楽が極楽」をリリースした時のジュリーの年齢というものも実感するようになりました。これからの人生、この曲に勇気づけられることがきっとある、と思っています。
アルバム『いい風よ吹け』から、伝授!
まずは懺悔コーナーから(汗)。
『Barbe argentée』以前の僕のこの曲についての印象はどんなものだったか・・・これが何と「ほとんど印象が無い」という、ジュリーファンとして大変由々しき状況でございました(滝汗)。
苦手苦手と言うけれど、「涙のhappy new year」と違ったのは、「どんな詞でどんなメロディーなのか」という基本的なことを反芻するほど聴いてもいなかったんです。
初めて曲を聴いた時最初に引っかかったのは、イントロから入っているサンプリング音。「びょ~ん、びよ~ん♪」って鳴ってて「なんじゃこれは?」と。
音は曲の最後まで消えることはなく、「あぁ、この曲は打ち込みに合わせての演奏かぁ」と先入観を抱いて聴いてしまったこと・・・これが大きい。
いや、僕は別に打ち込みそのものに否定的ではないんですが、何となく構えてしまったんですね。
あとは、サビの最後の最後のコーラスです。あくまで当時のヒヨッコの感想、ということで書きますが
お気楽(ガッツ!) 極楽(ガッツ!)
G D
お気楽(ガ、ガ、ガッツ!) 極楽(ガッツ!) ♪
C G
これは・・・果たしてロックなのであろうか、と(笑)。
それを言うなら、『忘却の天才』収録「感じすぎビンビン」の「ばばば、びびび・・・♪」は平気だったのか、って話なんですけど、あちらは大丈夫だったんだよなぁ。
アルバム大人買い期の経過も含め、本当にちょっとした感覚の違いだったのでしょうね。
で、それらをして「うわ~、なんか苦手~」と思ってしまうと、ジュリーの詞も(その時は)いささか脳天気が過ぎるんじゃないかなぁ、なんて感じてしまって・・・。
恥ずかしい次第です。
そもそも、『ジュリー祭り』後に大人買いした未聴のアルバムの中、『いい風よ吹け』は、『サーモスタットな夏』『忘却の天才』『CROQUEMADAME & HOTCAKES』などとは違い、初めて聴いた時に「ん?これはちょっと好みに合わないか?」と感じてしまった作品でした。
うまく説明できないんですけど、例えばこのアルバムでの白井さんのアレンジはレッド・ホット・チリ・ペッパーズの影響が色濃いのかな、と思っています。僕はレッチリって、とても肌が合う部分もあればまったく合わない部分もある、というバンドで、「お気楽が極楽」には「合わない部分」を見とってしまったのかなぁ(あくまでアレンジの話ですが)。
でも、その頃僕はもう完全にジュリーの90年代以降の名盤達の虜になっていて、「このアルバムも、聴き込めばきっと何か感じるものがあるはずだ」と考え、鬼のように繰り返し聴いたんです。
その確信は正しく、年が明ける頃(2009年『奇跡元年』の前くらいのことですな)には大好きなアルバムになっていました。ただひとつ問題は・・・僕は通勤時間の電車内などで音楽をじっくり聴くことが多いんですけど、このアルバムから「お気楽が極楽」1曲を抜けば通勤時間にちょうど良い長さになる、と気づいて、わざわざ10曲入りに編集し直したCDを持ち歩いていたという・・・。
つまり、僕がアルバム『いい風よ吹け』を大好きになる過程で、「お気楽が極楽」1曲だけが、その存在を無くしていたのでした。
その後、この曲についてはCD音源で聴く機会も少なく、たまにツアーDVDなどで歌われているのを観て「おおっ壁曲!」などと面白がるにとどまり(『Barbe argentée』直前も、『祝・2000年大運動会』で観ていました)、再評価に至らぬまま今回のツアーを迎えました。
「マッサラ」に続いて、あの独特のイントロのギター・リフが始まった瞬間、思わず隣のカミさんに「うわ~出た~!この曲苦手なんだよ~」と(汗)。
ところが、すぐにノっていけたので我ながらビックリ。
前のお2人連れのお客さんが嬉しそうに身体を動かしていらしたことも良かったのでしょう。
しかも、なんと新鮮なことか・・・次にどういうメロディーになるのか、どんな演奏が繰り出されるのか、どんな歌詞フレーズがカッ飛んでくるのか、ジュリーの歌を全っ然予測できない!というね。
ジュリーのLIVEでこんな盛り上がり方をしたのは、『奇跡元年』の時に「まだ知らない曲」だった「希望✌」以来のことでしたよ。
ただ、その場ではひたすらジュリーの歌とバンドの音に「酔った」感じで、自分なりにこの曲の魅力を改めて再評価しそれまでの己の不明を恥じ入ったのは、後日CD音源を繰り返し聴いてからのことでした。
これは、50代に入ったジュリーの反骨心・・・痛快な「負けじ魂」の歌だったんですね。
僕に気づきたくなかったんだ
G F Em
醜いんだぞ 恐ろしいんだぞ (optimistic)
E♭ G D C D
誰も助けてくれないんだよ 空回りだぞ
G F Em E♭ G
震えるんだよね グズと言われて ♪
D C D G
ジュリーは凄いです。
みなさま観たばかりであろう「OH!ギャル」の映像のような・・・本当に自他共に認めるあれほどの美貌の人がですよ、50歳を超えて、ふと自分の顔、身体を俯瞰した時の衝撃を、真っ正直に歌っています。
僕の場合は男性だし、ジュリーがどんな体型であるにせよ、昔どれほど綺麗だったにせよ、そんなことには関係無く今のジュリーに惚れ込んでいるんだけど、「醜いんだぞ」と自分のことを歌いきってしまうその感性こそ「男」だと思うし、そういう人だからこそ若い頃から圧倒的な地位に昇りつめたのだと思います。
何も容姿だけのことではありません。50歳を過ぎれば、身体も何処かくたびれてくるのは当たり前。
かく言う僕もこの「お気楽が極楽」の魅力に気づかないでいる間、知らず知らずのうちにその歌詞を真に共感できる年齢になっていたんだなぁ、と今思います。
ジュリー51歳。色々とこの歌詞に描かれているような体験が実際にあったんだろうなぁ。名も知らぬ若造に「グズ」と言われたりしたのかなぁ、と。
「震えるんだよね」の「震える」とは、若い頃のようには動かなくなった身体への驚き、ショックと、失礼な物言いをしてくる若造への怒り・・・その両方なのかな。
反射神経が鈍くなり、雑踏の中で動作がぎこちなくなる瞬間・・・僕も最近は多くなってきました。腰を痛めてソロソロと駅の階段を降りていたら、後ろから若い兄ちゃんにプレッシャーかけられたり、とかね。
情け容赦なく歳月は過ぎていきます。
でもジュリーはこの曲で歌ってくれる・・・「それがどうした、まだまだくたばらない、日々の風が吹くまま、お気楽に行こう、それが極楽」。
いや~、沁みる!
だから、この曲が大好きになった今僕は、年長のジュリーファンのみなさまを一層リスペクトすると同時に、辛い時やシンドイ時にこれほど頼もしい曲も無いだろう、と「この先」を思うこともできます。
そして、今回『Barbe argentée』でジュリーがこの曲を歌った意味についても改めて考えます。
バンドメンバーに復帰した依知川さんのために、依知川さん作曲作品の中から1曲選んだ、ということは間違いないとして、何故それが「お気楽が極楽」だったのか。
弾ける 明日 きっと 来るさ
G D C G
死んで たまるか パーッと 行くぜ
Bm C Am7 D
世界で たった ひとつ だけの
G D C G
服を まとって 今日も 走る ニューソング ♪
Bm C Am7 D A
(この曲はト長調ですが、「ニューソング♪」歌詞直後のギター・ソロ間奏部は「A→E→D→A」の進行で、1音上がりのイ長調に転調しています。最後の「A」のコード表記はその構成に基づきます)
リリースから時は経ち、2016年。
残念ながら、年若い国会議員が「日本は核武装すべき」なんてことを、与党内で平気で政策議論できるようになってしまった世の中です。
老いたるは無力を気骨に変えて、「負けてなるかよ」「死んでたまるか」の精神。
ジュリーの言う「お気楽」って、矜持だと思うんですよ。
どこを向いても危うい火種がウヨウヨしている世の中だけれど、年をとって鈍くなってきた心身に「お気楽」を注入し、明日も明後日も自分は歌を歌うんだ、と。
そして当然、今年も「ニューソング」のリリースがあるわけです。正に2016年・ジュリーの予告編のような、「お気楽が極楽」のセットリスト入りだったのかなぁ。
おっと、詞の話ばかりになっていますね。
最高に明るい、極楽な「音楽」のことも書かないと。
少し前までは苦手だ苦手だと思っていた「ガッツ♪」コーラスや、「びよ~ん♪」というサンプリング音も今ではすっかり大好きに。
独特の追っかけコーラス・パートは2拍目の裏で2回、1拍目の裏で2回と、面白いタイミングで噛んできますね。このアルバムの頃には、「(CDの)ジュリー・ナンバーのコーラスと言えば伊豆田洋之さん」というイメージが確立していますが、依知川さん作曲作品では、依知川さん自身がコーラスを担当しています。
ツアーDVDを観ても、依知川さんのコーラスは本当に素晴らしいですし、これから先再びジュリーのステージで欠かせない役割を担ってくれるでしょう。
サンプリングのあの音はね、僕はずっと以前に先輩から頂いたコメントで初めて気がついたんですけど、アルバム『いい風よ吹け』には、「himitsu-kun」なるなんとも不思議なクレジットがあるんですね。
「無邪気な酔っ払い」「蜜月」「ティキティキ物語」「お気楽が極楽」の4曲にこのクレジットがあり、どうやらサンプリングを採用している曲でそのように記されているようですが、「音」としてそれが一番目立つのは「お気楽が極楽」でしょう。
『Barbe argentée』ではそんな「himitsu-kun」もしっかり再現され、いやぁ楽しかった!
こうして僕は、壁を完全に乗り越えました。
てか、何故「ちょっと真剣に聴いてみようか」と今まで思い立たなかったのか・・・。
だって、歌詞やアレンジにヒヨッコ故の初っ端の引っ掛かりはあったにしても、メロディーについては間違いなく僕好みなんですよ、この曲。
現時点では依知川さんのジュリーへの楽曲提供はさほど多くはありませんが、名曲揃いです。
共通して言えるのは、メロディーや調号が本当に素直な直球であること。
真っ向勝負の作曲手法と言えます。それをアレンジの白井さんがイジリ倒して変化球に見せかけている、というパターンが意外と多くて、例えば「麗しき裏切り」(『第六感』)でイントロだけキーを半音上げてみたり、「お気楽が極楽」での間奏のみ1音上がりの転調なども白井さんのアイデアでしょう。
依知川さんは幼少時クラシック・ピアノを学んでいたそうですが、ビートルズと出逢ったことで一転ロックを志すようになったのだとか。
とすれば依知川さんの楽曲にビートルズへのオマージュがあっても不思議ではなく、「インチキ小町」はおそらく「ヘルター・スケルター」(『ホワイト・アルバム』)だと思います。今回「お気楽が極楽」でジュリーの決意が聴けたし、夏からのツアーでは「インチキ小町」でハジケまくるジュリーが見たいぞ~。
また、以前ジュリーLIVEでセットリスト前半、後半の間にバンドのインストが配されていた頃、「サン・キング」(『アビィ・ロード』)が演奏されたことがありましたが、これは依知川さんの選曲だったのかもしれません。
ビートルズ好きのベース弾きにとって、本当に演奏が心地よい曲ですからね。
依知川さんのことはこれまで過去のジュリー・ツアーDVDで観るばかりで、最近の活躍までは追いかけていませんでした。
この機にネットで最近の依知川さんのエッセイも拝見しましたが、まずは「謙虚」の精神ありきの上で
「何かを始めるのに遅過ぎるということはない」
「10年あればたいていのことは成し遂げられる」
との文章には感銘を受けました。
依知川さん自身の活動も音楽にとどまらず、この10年で新たに「書」「空手」にも精力的に打ち込んでいらしゃるようですね。いずれの道も、依知川さんの堂々たるあの体躯にふさわしいイメージです。
僕も個人的に好きなジャンル(これでも一応書道六段、空手の方は体格的に不向きと悟り半年でリタイアして合気道に乗り換えましたが・・・)ですので興味深々。
特に依知川さんの「書」は、展示などの場があれば是非見てみたいものです。
でも、何より楽しみなのは今後の依知川さんのジュリーの楽曲、ステージを通しての活躍。
期待しています。
何はともあれ・・・おかえりなさい、依知川さん!
それでは、オマケです!
お題曲リリースの1999年に発行された、『婦人公論』掲載のインタビューをどうぞ~。
20代の頃に胸に秘めていた反骨心について穏やかに語るジュリー。
その反骨心は50歳を超えてなお衰えず、年齢にふさわしい形に深まり進化して「お気楽が極楽」のような痛快なメッセージ・ソングを生み出しました。
これほどの特別な歌人生を送っているというのに、ジュリーは本当に自然な年のとり方をしていますね。
僕も来年には、この当時のジュリーに年齢が追いつきます。遠く及ばぬまでも見倣いたい、あやかりたいという気持ちでいます。
それでは次回更新は、”『Barbe argentée』セットリストを振り返る”シリーズ第4弾・・・「彼は眠れない」をお題に採り上げる予定です。
少し前までは、いくらEMI期の曲を記事に書き熱烈にお勧めしても、新しいファンのみなさまはなかなかCDが入手困難、という状況が続いていました。
しかし、ずっと待ち望んでいた再発リリースが成った今はもうそんなことはありません。
ジュリーファンのみならず一般のロック・リスナーにも是非聴いて欲しい大名盤からのお題、張り切って書きたいと思っています。
今月は勤務先の決算月で、月末のこれからは怒涛に忙しい一週間となりますので、更新の間隔は開いてしまうかと思いますが・・・なんとか新譜発売までに”振り返る”シリーズをあと2曲書かないと!
そのためには、まず体調を崩さぬこと。
どうぞみなさまも、インフルエンザなどにはくれぐれも気をつけてお過ごしください。
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