沢田研二 「WE BEGAN TO START」
from『A WONDERFUL TIME.』、1982
1. ”おまえにチェック・イン”
2. PAPER DREAM
3. STOP WEDDING BELL
4. WHY OH WHY
5. A WONDERFUL TIME
6. WE BEGAN TO START
7. 氷づめのHONEY
8. ZOKKON
9. パフューム
10. 素肌に星を散りばめて
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ずっと履いていた29のジーンズが入りにくくなったので先日1コ上の30を買い直したら、それもキツいことに気づき青ざめているDYNAMITEです。
みなさま、年の瀬いかがお過ごしでしょうか。
こちらは50代目前にして、お腹だけがかつてない成長期に突入したことを実感しております。叩くととても良い音がするようになりました・・・(涙)。
といったところで、今日はいよいよ『Barbe argentee』に向けての”恒例・全然当たらないセットリスト予想”シリーズの締めくくり、第5弾にして今年最後の更新です。
2015年、色々とありました。
『昭和90年のVOICE∞』のMCで
「新しい年になったのに、何も嬉しいことがない」
と、言葉少なに語ったジュリー。
「不言実行」として、危うい流れに向かおうとするこの国に「歌で物申してゆく」という孤独な「悲しい戦い」を決意した発言だったのでは、と僕には思えました。
そんなジュリーの姿勢を僕は大いに支持し共感もしたけれど、一方ではジュリーが頑なに心閉ざしてしまったように見えてしまい、暗い気持ちにもなったものです。
ところが4月に加瀬さんが亡くなってしまって・・・はからずもジュリーの全国ツアー『こっちの水苦いぞ』は当初の予定とは大幅にセットリストを違えた内容となり、各地で加瀬さんとの思い出を語るジュリーの姿がありました。心開いて加瀬さんの話をしてくれるジュリーに安堵したファンも多かったのではないでしょうか。
為政はジュリーが恐れ案じた方へと流れ、本来ならジュリーも憤懣やるかたない思いで迎えた全国ツアーの初日だったはず。
でもジュリーには明るさ、屈託の無さが戻っていた・・・もちろんそれは加瀬さんの力でもあったでしょう。しかしもうひとつ考えられるのは、こんな世の流れの中で、僅かでもジュリーを安心させる、勇気づける、希望を見出せることもあったのかもしれない、と。
僕にとっては、「何度でも作り直せばいい」と声を上げてくれる若者達の出現こそがそれでした。
1月にジュリーはMCで「私達ひとりひとりが、自分のこととして考える時が来ましたね」と語りました。
それを僕は、ジュリーが皆に「頼むから考えてくれ」と懇願したように感じていましたが、実際にはその言葉は予言だったと今思います。僕よりもずっと若い世代がジュリーの言葉を実行し、「諦め」すら感じていた大人達にこれほどの勇気を与えてくれるとは。
確かに状況は差し迫っている・・・数年前までは小さな予兆でしかなかった(かのように見えた)ものがハッキリ形となり、来年さらに酷い拡がりを見せるかもしれない、というところにまで今の世の中は来ています。
それでも、若者達の声に叩き起こされた大人はたくさんいる、と思う・・・僕は間違いなくそのひとり。
まぁ「ジュリーもそう思っているかな」なんて考えるのは僕の勝手な妄想に過ぎません。ジュリーは僕などと違い、ずっと前からガッチリ「起きて」いたのですから。
でも、例えば僕のような者がジュリーの今年の新曲「臨界限界」に登場する「未熟でも若い者」というフレーズを大好きになっている・・・「未熟」って素敵なことなんだ、と思えたのは、頼もしい若者達のおかげです。
「さぁ2016年、また1から一緒に始めよう」
来年がそんな年になるように願いも込めて・・・多少強引な執筆動機ではありますが、お正月セトリ予想として今日採り上げる曲は、エキゾティクス期1982年のアルバム『A WONDERFUL TIME.』から「WE BEGAN TO START」です。
2015年、納めの伝授!
まずは、このアルバムについてヒヨッコ・DYNAMITEが「今さら」知った事実を少しだけ。
先日keinatumeg様が『A WONDERFUL TIME.』について記事を書いてくださっていて、僕はkeinatumeg様の詩人肌の文章がとても好きでいつも爽やかな気持ちで拝読しているんですが、その記事の最後に
TIMEの後には必ず「.」を忘れずに
と書いていらして、僕は一瞬「???」・・・直後、「ああっ、そうだったのか!」と意味を理解。
『A WONDERFUL TIME.』って、タイトルの後にピリオド(「.」)をつけるのが正式な表記なんですね。
アルバムジャケットを改めて見てみますと、ハッキリ「.」が付いています。
楽曲タイトルについては歌詞カードにも特にそうした表記は無いので、「.」をつけなければならないのはアルバム・タイトルに限ってのことみたい。
気になって、手元のアルバム・ツアー・パンフレットでも確認してみますと
中表紙にはきちんと「.」の表記が。
いやぁ知らなかった・・・過去記事の表記も折をみて少しずつ修正していかないといけませんね。
これ、先輩方にとってはやっぱり常識だったのでしょうか。「えっ、そうだったの?初めて知った!」と仰るかたは正直に手を上げて!
さて「WE
BEGAN TO START」です。
大澤誉志幸さんという新たな才能を得たこともあり、洋楽直系のクールなロック&ポップスを中心に仕上がった名盤『A WONDERFUL TIME.』。当然レコード時代の作品ですからこの「WE BEGA TO START」は「B面の1曲目」という重要な配置のナンバーですね。
LP両サイドのトップを新人作曲家である大澤さんの曲が飾っていたわけですか。レコードをひっくり返しての1曲目が3連ロッカ・バラードとくれば、あの『G. S. I LOVE YOU』と同じ構成です。
YOKO君曰く「ジュリー3連はすべて大名曲!」・・・もちろんこの曲も素晴らしい名曲です。
夜明けの街がまぶしくて
D F#m Bm Bm7
帰り道が 遠い
Em F#m Bm Bm7
眠い目をこすって
Em F#m Bm Bm7
ふたりきり early morning ♪
Em F#m G A
結構(数年間くらい?)つきあってきた恋人同士のワンシーンでしょうか。登場人物の2人にとって、この時が「最初の夜明け」ってことはないでしょう。
歌のシーンに至るまでの熟成された時間を感じさせるシチュエーションは、『REALLY
LOVE YA !!』収録の「夜明けに溶けても」と似ていると思います。あと、ピー先生の今年の新曲「三日月」もそうだと僕は思うなぁ(考察記事の執筆が遅れていますが、ジュリーの『Barbe argentee』ネタバレ禁止期間に書かせて頂く予定でいますらね!ピーファンのみなさま、もう少しだけお待ちください)。
で、ズバリこれは求婚の歌ですねぇ。
先日書いた「ユア・レディ」なんかもそうしたコンセプトなのかもしれないけど、こちらはもう明快に
ぶっきらぼうにプロポーズ
D F#m Bm F#m
今なら言えそうで
Em G A
つぶやいた言葉は follow me
D F#m Bm F#m
秘密はもうないさ ♪
Em G A
と。
ハッキリ「プロポーズ」というフレーズが登場。
同じ柳川英巳さん作詞の「”おまえにチェック・イン”」から時を経た続きの物語、と考えてみると楽しいです。
大澤さんのメロディーはポップで瑞々しい、この時期のジュリーにピッタリの名篇。
ザ・タイガース同窓会の活動もあり、古き良きものをリスペクトしつつ、ニュー・ウェーヴ的な音作りの流れにも沿う・・・そんな絶妙なバランス感覚が求められた年のジュリーのニュー・アルバムにうってつけの才能が、よくぞこのタイミングで現れたものですねぇ・・・。それぞれの時代時代にジュリーに引き寄せられた多くの若き才能の中でも傑出した存在です。
「WE BEGAN TO START」は3連のロッカ・バラードなんですけど、ジュリーの歌い方も良い意味で力みが無いですよね。ヴォーカルのアプローチだけなら、「おまえがパラダイス」より「きわどい季節」に近いです。
丁寧さも感じますが、それ以上に自然で清らか。それがまた歌詞の内容にも合っているという・・・。
歌メロ以外の箇所で「おぅ」とか「あぃぁ」とか言っているのもすごく良いのですが、僕がこの曲のジュリーの声で一番痺れるのは
誰とも違うfeeling ♪
Em F#m Bm Bm7
の「feeling」です。
ここは1番で言うと「(眠い目を)こすって♪」「(嬉しい)予感が♪」の部分と対になっていますから、本来なら「feeing」を「ミレレ~♪」と歌うのが自然。
でもジュリーは「ミレ~ファ#♪」と歌っていて、これが大澤さんの作曲段階からのアイデアなのかどうかは分からないけれど、ジュリーの発声するメロディーの何と艶やかで自然な「色っぽさ」であることか。
あのジュリーが3連ロッカ・バラードを楽曲通して敢えてサラリと歌う、からこそこういう色っぽい表現も生まれるわけで、一見当時流行のニューウェーヴやシティサウンドのクールな感覚に「のっかった」制作の印象もある『A WONDERFUL TIME』や『NON POLICY』あたりは、逆に「鳴っている音との対比」からジュリー・ヴォーカルの奥深さを再認識させられるアルバムと言えましょう。
僕の場合、そうしたことが分かるまでに結構時間がかかってしまったのですが。
また、この曲については吉田建さんのアレンジにも注目したいところ。
シングル『ス・ト・リ・ッ・パ・-』B面の「ジャンジャンロック」、或いは前作アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』収録の「FOXY FOX」に顕著なように、少し前の建さんはエキゾティクスのバンマス、ベーシストとして「どうだ!」と自らのパフォーマンスを全面に押し出す演奏を以ってジュリーに貢献していました。
しかしこれが「アレンジャー」となると一変。
それぞれの音を生かし、自らは黒子に徹して「楽曲」のクオリティー、完成度に純粋に心技を砕いていて・・・それが後に『彼は眠れない』『単純な永遠』・・・と続くEMI期の名盤に繋がっていくのですね。
「音作りの新しさ」に関連して少し書いておきますと、例えばこの曲、歌メロと同時に右サイドから噛んでくるパーカッションの音があるじゃないですか。ハイハットのような、マラカスのような。
keinatumeg様も書いていらっしゃいましたが、この曲では木崎賢治さんが「ボイス・パーカッション」でクレジットされています。それがこの音なのかな、と僕は最初考えたのですが、どう聴いてもこれはサンプリングされたトラックでしょう。あの「裏の裏」で拍を入れ替えるリズムを正確に、延々とモニターに合わせてボイパするのは人間技では考えられませんから、もしあれが木崎さんの声だったとしても、もしくは別クレジットにある「percussion pecker」だったとしても、あらかじめワンフレーズ打ち込んだものをプログラミングループで打ち込んだトラックだと考えられます。
こうした手法は次作『ミスキャスト』や翌年の『女たちよ』で大々的に採り入れられてゆきます。
まだ完璧に検証できていませんが、ジュリーのレコーディング・アルバムで打ち込みのサンプリングを導入したのは、『A WONDERFUL TIME.』でのこの曲が初めてだったんじゃないかなぁ。
ちなみにこのサンプリング・トラック、右耳ダンボで注意して聴いていると、曲の最後まで頭から離れてくれなくなる可能性があるのでご注意くださいませ。
いや、そういう聴き方もとても楽しいんですが、本来サンプリング・トラックって、「リスナーが意識しなくとも、楽曲の仕上がりには一役買っている」音なんです。
「第一次ジュリー堕ち期」(2006年くらいにポリドール期のアルバムを大人買い)に購入した際には、『BAD TUNING』『G. S. I LOVE
YOU』『S/T/R/I/P/P/E/R』に比べるとどこかおとなしい、落ち着いちゃったのかな、という印象からあまり熱心に聴き込んでいなかったこのアルバムも、その後再評価の機会を幾度と得てきて、初聴きから10年近く経った今ではすっかり僕にとっても「愛する名盤」となりました。
(当初は何となく聴き流してしまっていた)レコードで言うところのB面1、2、3曲の流れはもう病みつきです。中でも「WE BEGAN TO START」は病みつき度が高い!
あとは・・・先輩方の間では大変人気の高い、アルバム大トリ収録の「素肌に星を散りばめて」。後追いファン、しかもアレンジフェチな聴き方を好む僕が初めてこの曲を聴いた時から抱えてしまっている
「パラ○イス銀河」に構成がそっくり過ぎて、CDで聴く度に脳内にローラースケートをはいた少年達が登場してしまう
という情けないトラウマを乗り越えるのみ。
それを成せば『A WONDERFUL TIME.』は僕の中で本当に大切な「大名盤」として「大好きなジュリー・アルバムの2番手集団」の地位に昇りつめるでしょう(トップは不動の『JULIEⅡ』ってことで)。
ジュリーが生で歌うのを体感すれば、一発でそんなトラウマは乗り越えられるはず。
さぁお正月、かかってこい素肌!(←「WE BEGAN TO START」よりは可能性高いですよね?)
今日は「セットリスト予想」としてはいささかそぐわない(セトリ入りの可能性は極めて低い)お題だったかもしれませんが、「さぁ、今から始めよう!」というこの歌をもし今後ジュリーが歌ってくれることがあったら、それが不安な時代であっても僕はきっと大きな力を貰えると思う・・・力まずに、メッセージ・ソングとしても聴ける、楽しめるような気がします。
来たる2016年が「希望」押し返す年になることを願って・・・勝手ながらお題とさせて頂きました。
それでは、オマケです!
僕は70~80年代(良き歌謡ポップス黄金期)の雑誌(『明星』や『平凡』)付録の歌本をコツコツと集めていますが、その中で時折ジュリー関連の貴重な記事に予期せず巡り逢うことがあります。
今日ご紹介するのは、『YOUNG SONG』82年7月号。
当時のシングル曲「”おまえにチェック・イン”」のスコアのみならず、なかなか興味深いインタビュー記事が数ページにわたり掲載されています。
早速どうぞ~!
最後に、余談になるのですが。
僕はアルバム『A WONDERFUL TIME.』のマッチング・エレクトーン・スコアをずっと探し続けていますが、未だ入手できておりません。ネットオークションの出品は中古価格が2万円以上の設定のものしか目にしたことがなく、さすがに手が出せずにいます。
昨日も神保町の古書街を巡ってみたのですが、発掘できませんでした。
もし地方の古書店などで見かけた、というかたがいらっしゃいましたら、情報をお待ちしております。
それにしても、神保町には久しぶりに行ったのですが、いつも歌本や昭和アイドル雑誌などを安値で販売してくださっていた古書店『ファンタジー』さんの店舗が無くなってしまっていたのは、かなりショックでした。
上に添付した『YOUNG SONG』をはじめ、何冊も歌本を購入していたお店だったのに、寂しいなぁ・・・。
ということで、少し早いんですけど。
みなさま、今年も大変お世話になりました。
新たな出逢いもたくさんあった1年でした。みなさまのお話やコメントに僕自身が本当に楽しませて頂いていて、それがこのブログを続ける力になっています。
来年もコツコツと頑張りますので、変わらぬご訪問、叱咤激励の程どうぞよろしくお願い申し上げます。
お身体に気をつけて、よいお年をお迎えください。
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