沢田研二 「WALL IN NIGHT」
from『TRUE BLUE』、1988
1. TRUE BLUE
2. 強くなって
3. 笑ってやるハッ! ハッ!!
4. 旅芸人
5. EDEN
6. WALL IN NIGHT
7. 風の中
8. 痛み
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お正月LIVEのツアー・タイトルが決定したようです。
ズバリ『Barbe argentee』。
・・・って、「ズバリ」とか書いたけど、読めん!
「バーブ・アージァンティ」?フランス語で「銀の髭」という意味なのだそうですね。
僕は今度のお正月は「いかにも社会派」なタイトルになるかな、と予想していたので(ツアー・タイトルが『若者よ』でも不思議ではない、と思っていました)、ちょっと意表を突かれました。でも考えてみればこれまでジュリーのつけるタイトルには意表を突かれ続けてきましたから、むしろこれは本道かな?
そのお正月コンサートなんですが、残念ながら今回のこのスケジュール・・・僕は1月6日のフォーラム初日公演1回きりの参加となってしまいそうです。
オーラス29日、1992年以来となるNHKホールを是非観たかったんですけどね。毎月最終営業日の平日は、どうしても仕事を早退できないのですよ。
まぁでも、これで初日が仕事初めの5日だったりしたら1度も参加できなかったわけだし、そもそも「お正月は毎年参加できない」という地方にお住まいのファンも多くいらっしゃるのですから、贅沢は言わないようにしないと。
1回でも参加できる、一番観たいツアーの初日公演を体感できる・・・それだけで幸せなことです。
ラストスパートに入った今年の全国ツアー『こっちの水苦いぞ』セットリストが新曲以外加瀬さんの作曲作品ということもあり70年代、80年代のナンバーが多く歌われていますが、お正月のセットリストは最近(2000年代以降)の曲が中心になるのかな。
でもせっかくのタイミングですから、ここはリマスター再発されたばかりのEMI期のアルバムから多くの名曲が採り上げられる可能性にも期待したいところです。
さて、『こっちの水苦いぞ』ツアーでも会場販売されているというそのEMI期の再発CD・・・長いファンのみなさまがお手持ちのものとは別にお気に入りの作品を購入し直したり、或いは長らく実物を持っていなかった中抜け、新規のファンのみなさまがまとめ買いしたりと、売行きも大変好調のようですね~。
僕もこの機に、ジュリーのオリジナル・アルバムの中で正規音源としてキチンと所有していなかった最後の4枚である『架空のオペラ』『CO-CoLO1~夜のみだらな鳥達』『告白-CONFESSION-』『TRUE BLUE』をまとめて購入しました。
で、その中で特にどの作品を激リピしているかと言うと・・・これが『TRUE BLUE』なのですよ~。
と言うのもこのアルバム、僕にとっては「今回初めて歌詞カードを手にした」作品なのです。
『架空のオペラ』『CO-CoLO1~夜のみだらな鳥達』の2枚は、2009年『Pleasure Pleasure』ツアーで隣席のご縁を頂いた先輩にお願いして、歌詞カードのコピーを頂きました。『告白-CONFESSION-』については、確か2011年でしたか、何かの記事に「歌詞カードが無くて・・・」と書いたら、有難いことにコピーを送ってくださった先輩がいらして。
『TRUE BLUE』は僕が「歌詞カード無し」で聴いていた唯一のアルバムだったことになります。
僕は日頃、歌詞を読みながらヘッドフォンでじっくり音楽鑑賞することが多いので、必然この『TRUE BLUE』は真剣な聴き込みがまったく足りていませんでした。
そうした自覚もあり楽しみにしていた今回の再発。
いつもお世話になっている先輩が熱烈に推すアルバムということもあり、購入するや腰を据えてゆったり聴いてみたら・・・いやぁ『TRUE BLUE』、確かに地味かもしれないけど、素晴らしい名盤ではないですか。
とは言っても、数年前の僕がもし歌詞カードを入手できていたとして、いち早く『TRUE BLUE』の魅力に気がつけていたか、と言うとそれは怪しいと思います。
2008年に本格堕ちしてLIVEに通うようになり、2012年以降のジュリーの社会的メッセージ・ソングを聴き、ジュリーの懐の深さを実感した上で、2015年再発という今回のタイミング。僕がこのアルバムを改めて評価するには、絶好の時期だったかもしれません。
今日は、拙ブログの考察記事としては初めてこの名盤『TRUE BLUE』からお題を選び、当時のジュリーの音作りを新規ファンなりに探ってみたいと思います。
採り上げる曲は「WALL IN NIGHT」。
なにせ、先達のみなさまによるネット情報なども極端に少ない時期の作品です。
下調べも不足のまま・・・「伝授」と見得を切るには程遠く、みなさまに教えを乞うような内容にはなるかと思いますが・・・どうぞよろしくお願い申し上げます!
まず最初に、僕が『TRUE BLUE』のアルバム全体として再確認した諸々の点からお話させてください。
先輩方にとっては「今さら」ではありましょうが、何故このアルバムからイの一番に「WALL IN NIGHT」をお題に選んだか、にも繋がってくる話ですので・・・。
歌詞カードを持っていなかった、ということはイコール「作詞・作曲クレジットを把握していなかった」わけで、今回のアルバム再評価もそこからのスタートでした。
僕が今、『TRUE BLUE』を聴き込んで特に惹きつけられているのは、「WALL IN NIGHT」「風の中」「痛み」のラスト収録3曲の流れです。
ちょうどリリース年の1988年、ジュリーはテレビの企画か何かで(詳しくはまだ調べきれていません)中近東を訪れていますね。エジプト、ヨルダン、イスラエル・・・それらの国をジュリーが旅した、という知識だけは以前からあって、僕は『TRUE BLUE』収録曲の歌詞世界はそんなジュリーの体験から生まれ、ひいてはアルバムのトータル・コンセプトにもなっていると考えていました。
その解釈はおおむね合っていると思いますが、意外だったのは収録8曲の中でジュリー本人の作詞作品が7曲目「風の中」ただ1曲しかない、という事実です。
てっきり(『告白-CONFESSION』ほど徹底的ではなくとも)、多くの収録曲がジュリーの自作詞ではないかと思い込んでしまっていたのでした。
「風の中」には明らかにジュリーの異国の地での体験、或いは心境が反映されていると考えられますが、その「風の中」を挟む松本一起さんの作詞作品・・・6曲目「WALL IN NIGHT」と大トリ8曲目「痛み」は、「風の中」でジュリーが描いた風景とダブると言いますか、松本さんがジュリーと同じ場所にいて同じものを見て作った詞のように感じられませんか?
確かに「WALL IN NIGHT」1曲だけを独立して考えるならば、淡々とした情景描写と寂寥感、その中に少女の存在があり主人公のシレンマのような感情が浮き上がってくる・・・そんな詞だと思います。
でも、アルバム通して、歌詞カードを追って聴いていくと解釈がどんどん広がってきましてね。「風の中」のジュリーの詞に登場する「少女」とリンクしてきて。
毎度得意の深読みなのかなぁ?
松本さんがジュリーの異国の旅に同行したというお話を聞いたことがあったように思いますが、それは85年か86年だったような・・・その辺りも先輩方に再確認を乞わねばならないんですけど、「痛み」まで含めたこの3曲の共通の空気感はアルバム『TRUE BLUE』の醍醐味、大きな魅力だと僕は感じています。
また、3曲の共通点は詞だけではありません。いずれも(ジュリー・ナンバーとしては珍しく)意味深なサウンド・エフェクトが続けざまに施されています。
「痛み」エンディングでは、広大な砂漠の吹き抜ける風の音(?)。そして「WALL IN NIGHT」「風の中」はそれぞれよく似たイントロ導入・・・オルゴールのような、ガムランのような。「異国」を思わせる音色です。
これは今回の再発CD購入で僕がようやく思い当たった発見・・・先輩方はそうした点(特に「WALL IN NIGHT」と「風の中」のイントロの類似)にはとっくに気がついていらしたのでしょうね。
話を詞に戻すと、ジュリー作詞の「風の中」での少女には悲劇的な情景が示唆されているだけに(いずれまた別に「風の中」の楽曲考察記事で詳しく書きたいと思っていますが、「怪しげな鳥」は爆撃機、「鈴の音」はその轟音、と捉えるプロテスト・ソング的解釈も可能ではないでしょうか)、「WALL IN NIGHT」の少女も同様に、何か不吉な跫音の中に佇んでいるように思えます。
加えて松本さんの歌詞には「明日に目を開くな」と、具体的に聴き手の不安をかきたてるようなフレーズがあり、少女を見つめる主人公にも
切ないね 今日までのすべて Ah Ah Ah
Dm Am Em7 Am Em7
無くしても あの少女にもう
Dm Am Em7
逢えや しない ♪
Am Em7 Fmaj7
と言わせるなど、「とり返しのつかない」無力感、行き詰まった心境を想像させます。
本当に不思議なことですが、「WALL IN NIGHT」「風の中」「痛み」の3曲の詞は、現在のジュリーの新曲群と並べて聴いてもリリース年の隔たりを感じないような気がします(まだ実際に試してはいませんが)。
松本さんの詞であれジュリーの自作詞であれ、1988年の『TRUE BLUE』に、「大自然への畏怖」「国際情勢など社会的不安」といった今のジュリーの制作スタンス、コンセプトと共通する要素は少なからずあったのではないか、と僕は感じましたが・・・。
「WALL IN NIGHT」というタイトルも意味深ですよね(ジュリーのヴォーカルは「WALL IN THE NIGHT」と発声しているように聴こえますが、歌詞カードは楽曲タイトル通り「WALL IN NIGHT」と記されています)。
「WALL」と言えば僕にとってはピンク・フロイドの名盤『ザ・ウォール』です。
ビートルズの『ホワイト・アルバム』、ローリング・ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』と並び、個人的に「とてつもなく好きな三大2枚組アルバム」の一角。
実は「WALL IN NIGHT」での石間さんのギターの音色、カッティングは、『ザ・ウォール』収録の「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール(パート1とパート2双方)」のそれとよく似ているんです。
曲想やリズムはまったく違うのに・・・。
一度そう感じると、そう言えばイントロでサウンド・エフェクトとクロスフェイドで噛んでくるオルガンのフレーズなんかも『原子心母』っぽいなぁ、と思えてきたり。
ピンク・フロイドは社会派ですから、余計にイメージをダブらせてしまったのかな。
篠原さんの作曲も素晴らしいです。
淡々と進行しているのに飽きが来ず気高い・・・これにはいくつかの秘密があります。
第一に、この曲のリズムが美しく跳ねる8分の6のワルツだということ。
アルバム『TRUE
BLUE』は全8曲と収録曲数こそ少ないですけど、どれとして安易なアプローチの楽曲構成はありません。リズムひとつとっても、16ビートだったり(「笑ってやるハッ! ハッ!!」)レゲエだったり(「EDEN」)。そんな中で6曲目の位置にワルツの「WALL IN NIGHT」が配された曲並びは、最高に渋いですね。
第二に・・・サビ部のメロディーの載せ方です。
歌詞の3行目からガラッと雰囲気が変わりますよね。
wall in night 夜のドアよ
Am Dm7
明日に 目を開くな
Am Dm7
このままじっと ♪
Am D7
ここです!
エキゾチックと言うのか、何とも不思議な感じがします。
これは「じっと♪」の部分が一時的にイ長調のスケールになっている(そのためメロディー中の「ファ」の音がシャープする)からです。
「Am」から「A」のハッキリした同主音移調を使わず、「D7」(イ長調のサブ・ドミナント)の1小節で瞬間的に転調のニュアンスを採り入れるのが篠原さんの狙い。
ジュリーのヴォーカルもここではブルースっぽく歌っているように感じるのですがいかがでしょうか。サビの最後でファルセットになるのもグッときますよね。
最後に、『TRUE BLUE』はじめ今回の再発リマスターの音質向上について少し触れておきましょう。
あくまで僕が購入した4枚のみについての個人的な感想なのですが・・・。
レンジの変化は明らかです。
今まで「4」の音量で聴いていたのがこれで「3」になった、とか、自作で編集盤を作成する際の他アルバム収録曲との繋がりでレベルのバラつきが解消された、といったことは、購入されたみなさまそれぞれ実感していらっしゃることでしょう。
ただ、具体的にどの楽器がどのように音質向上したのか、イコライジングに劇的な変化はあるのか、という点が僕の耳では明確には分かっていないんですよ。
でも、それで良いのかな、と。
例えば僕はビートルズのリマスターやリミックスを聴いた時、「音質向上」と言うよりむしろ「昔から耳馴染んだ感覚と違う!」と違和感を覚えた経験があります。
どのみちレコードで聴く音には敵わないわけで、こうして今回CO-CoLO期のリマスター盤を聴き
「よく分からないけど、なんだか音が良くなった・・・ような気がする」
そんな程度で聴いている方が良いんじゃないかなぁ、と今のところは思っています。
もちろん、旧いものとじっくりトラックごとに聴き比べれば何か分かるかもしれませんが、そもそも僕は、旧盤を正式な形では持っていませんからね。
今後は、このリマスター盤を聴き続けていきます。
先述した「熱烈にこのアルバムを勧めていらっしゃる」先輩以外にも、「CO-CoLO期の中では『TRUE BLUE』が一番好き」と仰るジュリーファンの先輩は多いです。
かと思えば、「ちょっと残念」みたいな感想を持ち続けている先輩も、これまた多くいらっしゃる。
評価が分かれている1枚のようですが・・・今よく耳にするのは、「再発のCDを一気に買いたいけど、お金がかさむので『TRUE BLUE』は後回し」というお話。
今頃になってこのアルバムの魅力に気づいた僕のような超・ヒヨッコが言うのもなんですが・・・勿体ない!
各収録曲のリズムの多様性はそのままCO-CoLOのアレンジの素晴らしさにも繋がってきますし、何と言ってもこの、ジュリーの切なそうな声です。この声こそがジュリー・・・そう思わせてくれるアルバムです。
リリースは真夏だったようですが、これから秋が深まってくる季節が似合うジュリーの声と楽曲。この機に是非リマスターで購入し直しておきましょう。
そして・・・発売当時のことをふと思い出されましたら、また僕に色々と教えてください(←それが下心か)。
それでは、オマケです!
1988年繋がりということで、音楽劇『ドン・ジョバンニ~超人のつくり方』のパンフレットから3枚どうぞ~。
ではでは、次回更新はいよいよ週末に迫った『こっちの水苦いぞ』川越公演のレポートです!
今ツアーで一番良いお席を頂いています。ジュリーが近くで見える喜びは当然として、位置的には柴山さんの細かな動きにも目を奪われそうな席です。
ただ・・・その次に参加のファイナル・フォーラム公演までは10日間しか余裕が無いんですよね。いつもの調子でネチネチと書いていては、完成前にフォーラムを迎えてしまいかねません。
文量少なめ、要点をタイトに纏めて、なんとか10月末の一気更新といきたいものです。
ジュリーは今日、明日と関西ですね。
長岡京、奈良に参加されたみなさまのご感想も楽しみです。鉄人・金本新監督、ミスター・タイガース・掛布2軍監督誕生というニュースもあり、久々に阪神ネタのMCが来ないかなぁ?と期待しているのですが、今年のツアーは特別ですから・・・やっぱりツアーの最後の最後まで、MCは加瀬さんの思い出話で通すのかな?
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