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2015年6月

2015年6月25日 (木)

沢田研二 「居酒屋ブルース」

from『JULIEⅥ ある青春』、1973

Julie6

1. 朝焼けへの道
2. 胸いっぱいの悲しみ
3. 二人の肖像
4. 居酒屋ブルース
5. 悲しき船乗り
6. 船はインドへ
7. 気になるお前
8. 夕映えの海
9. よみがえる愛
10. 夜の翼
11. ある青春
12. ララバイ・フォー・ユー

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ま、間に合った・・・。
下書き期間たった1日で記事を仕上げるなんて、久しぶりだなぁ。
ジュリーファンとしては、どうしても今日のうちに更新しておきたいところですからね。

ジュリー、67才のお誕生日おめでとうございます!

1972010


「ありがとう」って言ってそうなおめでたい雰囲気の写真を懸命に迷い探した結果、72年のこのショットになりました。

今年も変わらず歌ってくれて、ありがとう~!
「不言実行」を決めた今年のジュリーは『ビバリー昼ズ』の出演も無く・・・でも言葉は無くとも、ジュリーの歌声が今年も聴ける、というそれだけで僕らは幸せです。
これからもずっと、ジュリーの歌が聴けますように。

それにしても、誕生日に合わせてツアーのチケットを発送するなんてニクイですね~。
いや、僕が貰ったのは不在通知で、チケットを手にするのは再配達の週末までお預けですけど。
全国のみなさま、お手元に届いたチケットの座席確認に、拙ブログ右サイドバー上に表示してある、各会場の座席表へのリンクを是非ご活用くださいませ。

ところで。
世の中の憂うべき情勢や、何より加瀬さんのことがありましたし、ジュリー自身としては今年、浮かない気持ちで迎えた67回目の誕生日だったかもしれません。
そんな中、ジュリーが少し元気と笑顔(苦笑かもしれませんが・・・)を取り戻すであろう出来事が、まるでこの日に合わせるかのように起こりました。

僕は5月に「テレフォン」の記事の枕で「今年はタイガース(阪神の方)はもうダメ!」と散々の愚痴を書いたのですが、その日を境に阪神の調子は何となく上向きな感じになり、ちょうど1ケ月経った昨日24日、何とセ・リーグの首位に立ってしまいました。
まぁ、「ちょっと勝ち出した」というのはあるにせよ、どちらかと言うとリーグの上位にいた他球団が交流戦でズタボロになり勝手に下がってきて漁夫の利を得まくっている、というのが現状なんですけどね。
だって、チーム打率は12球団中最下位だし、チーム防御率は下から2番目。総得点と総失点では失点の方が圧倒的に多く、ついでに盗塁数なんかも12球団中最下位。きわめつけは、勝敗の貯金なんてあるのかないのか、という状況(24日の試合に阪神が負けていたら、セ・リーグ全球団が借金状態、という大珍事が実現してしまうところでした)。
この数字でリーグ首位なんてね・・・こういうワケ分からん事態になった時のタイガースは、やるよ!

このままノラリクラリと、プロ野球史上最低勝率での笑えるリーグ優勝を勝ちとって欲しいです。
まぁ、ジュリーのことですから「この数字で首位とか言ってる場合違うで!ちょっと連敗したらすぐ最下位やで!」とブツブツ言っているかもしれませんが・・・。


それでは本題。
拙ブログが今頑張っている「セットリストのことはなるべく考えずに、ツアー初日まで加瀬さんの曲を書き続ける」期間のお題として、先日まで「二人の肖像」の考察を用意していたんですけど、前回少し触れたように相当暗い内容の記事(短調のバラードですから、そこから色々と考察が連鎖してね・・・)になってしまいそうで。
そんな時、僕自身の「加瀬さんを送る」気持ちが、藤田博章さんの『竹馬の友』という手記を拝見することで変化したこともあって、「二人の肖像」はまたいずれの機会に考察をし直してから、ということで今回は記事を仕上げないことにしました。

そこで、代わりに何か他の1曲を・・・と、深く悩むまでもありませんでしたよ。
あるじゃないですか~、「二人の肖像」と同じ収録アルバム『JULIEⅥ ある青春』の中に、まだ未執筆だった加瀬さん作曲の底抜けに楽しい曲が。

今日はジュリーの誕生日に合わせ、そちらをお題に採り上げたいと思います。
何とか6月25日という今日の日付で更新するために急いだので、かなり駆け足の考察になりますが・・・これまた加瀬さんらしい、そしてこの時期のジュリーならではの雰囲気が楽しめる名曲です。
「居酒屋ブルース」、伝授!


みなさまは、「ブルース」という言葉からどのような音楽を連想されるでしょうか。
僕は少年時代のある時期までは、短調の鬱屈した物悲しいバラードのことだと思っていました。
でもその後、洋楽をよく聴くようになって、特にボブ・ディランの曲を聴き込むうちに「どうやら違うぞ」と(ディランの初期の曲には「○○のブルース」といったタイトルが多かったのです。でもそれらは短調でもなければバラードでもありませんでした)。

もちろん、幼い僕がそう思い込んでいた「短調の鬱屈した物悲しいバラード」として、「日本の歌謡ブルース」というジャンル・カテゴライズも確かにあり、例えばジュリーの曲で言うと「雨だれの挽歌」あたりはそこに入るのではないでしょうか。
ただ、それは元々の「ブルース」という定義から世界中で広く進化応用し枝分かれした多くの音楽的解釈の僅かひとつの呼称ジャンルであって、じゃあその根本としての「ブルース」とはどんな音楽かと言うと、これはアメリカの黒人民謡なのですね。


Blues

『実用音楽用語事典』より

なかなか難しいですね。
僕の場合は、ギターを覚えていく過程で
「3行形式の12小節からなり、I-IV-Vという特定のコード進行を持っている」
という上記にあるような基本的な約束ごとをまず何となく会得し、ディランやストーンズなどの曲の中で「あ、これはブルースなんだな」と気づく曲が出てきた、という感じ・・・そんなふうにしてブルース(ブルース・ロック)の意味やパターンを学んでいきました。
みなさまお馴染みのジュリー・ナンバーで挙げるなら、「被害妄想」「DIRTY WORK」「砂丘でダイヤ」などの曲は、そんな約束ごとに当てはまる部分が大きく、この3曲(+今日のお題「居酒屋ブルース」)は、比較的分かり易い「ジュリー・ブルース」です。
さらには、ビートの激しさやアレンジの印象から少し分かり辛くはなっていますが、「マンデー・モーニング」「a.b.c...i love you」「まほろばの地球」といったあたりも、その大部分を「ブルース進行」の約束ごとにのっとって作曲されています。

で、今日のお題の「居酒屋ブルース」・・・これはタイトルが示す通りで、70年代ジュリーの、ブルース進行を擁する代表的なナンバーと言って良いでしょう。

ところが、その基本的な約束ごとを同じように踏襲し、かなり近い曲想であったとしても、例えばストーンズのブルース・ナンバーとジュリーの「居酒屋ブルース」とでは決定的に異なるものがあります。正にそれこそが(特に70年代の)ジュリーという歌手の特性を語ることにも繋がるわけですが、まずはここで、いつもお世話になっているピーファンの先輩に先日お借りしたてホヤホヤの『沢田研二ショー』(1974年お正月、日本劇場)パンフレットに寄稿されている、安井かずみさんのジュリー論をお読みください。

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ちなみにこのパンフレットの他ページにつきましては、これから近々に執筆予定の74年リリースのジュリー・ナンバーの名曲が2曲ありますので、そのいずれかの記事(或いは両方?)のオマケ・コーナーにてご紹介させて頂きたいと思っています。

ミック・ジャガーがブルースを歌うと、そこに独特の猥雑さが表れます(ディランが歌った場合は、元々のブルースが持つ「嘆き」「叫び」の表現要素が強いかな)。もちろんそれがストーンズのブルースの大きな魅力なのですが、ジュリーの魅力はまた別です。

「甘いような、冷たいようなだけど清潔なかんじがする」
「決して下品になれない声質だから」

ジュリーに多くの作詞提供をしてきた安井さんが当然のように見抜いたその魅力・・・ジュリーの場合は、いくらブルースの曲想で卑猥でいやらしい内容、或いはだらしない男が管を巻く姿を歌っていても、その声には圧倒的な清潔感、孤高でいて「真面目な」美を感じずにはいられません(これが2002年の「砂丘でダイヤ」あたりになるとミック・ジャガーのような猥雑さ、ふてぶてしさまでもが加わってくるんですけど)。

しかもこの曲のジュリーのヴォーカルって、「ブルース」という括りの曲でなおかつほぼ同時期の「被害妄想」ともまた違うんですよ(ルーズなニュアンスなのに清潔感を感じる、という点では共通していますが)。
「被害妄想」はやはり井上バンド(PYG)のヴォーカリスト、という立ち位置が強いです。堯之さんのアコースティック・ギターがおそらくCSN&Yの「キャリー・オン」、或いはポール・マッカートニーの「三本足」などのタイムリーな洋楽を意識していて、ジュリーもそんな演奏に沿った発声をしています。
でも「居酒屋ブルース」は現地(ロンドン・レコーディング)の楽団の音ですよね?
バンド・パートの音も、アレンジャーがキチンと譜面に起こしたアレンジがあって、「ソロ歌手の伴奏」という形になっています。

どちらのスタイルが良い悪いではなく、ジュリーはそうした「今そこで鳴っている音」に瞬時にシンクロしてしまう天賦の才を持っているのでしょう。
逆説的のようですが、当時のジュリーは「伴奏」っぽい音だからこそ自分の声で曲全体をリードすることができた、という面もあったのではないでしょうか。

僕が「居酒屋ブルース」のジュリーの歌を、敢えて他のジュリー・ナンバーに見出すとすれば、それは『act ELVIS
PRESLEY』の「無限のタブロー」ですね。ジュリーとしては珍しくトリッキーなスタイルで歌っているのに、結果それが本道のように聴こえてしまう、という・・・。
「居酒屋ブルース」で、思わぬ色っぽい成り行きに舌なめずりして唾を吸い込む音を立てる(1番の演奏ブレイク部)のも、完全に酔っぱらって下品に「ヒック」と喉を鳴らす(エンディング)のも、安井さんが紡いだ場末の居酒屋での何気ない物語の通り。
安井さんの歌詞と加瀬さん流ブルースの曲想に、ジュリーは忠実に表現しているんだけど、滲み出るジュリーの中の「人間」は、そこにいやらしい感じをまったく出しません。これは何だろう?

安井さんは先の文章でこう書いていますね。


ジュリーの歌は、華麗さをよく人から指摘されるけど、やはりその声とフレージングの組み合わせは泥っぽいとか不透明とかではなくイメージ通りカット・グラスの美しさに、ほんとは実に人間っぽいジュリーがうまく混ざり合って、歌に出てきていると思う

ジュリーの「歌」の本質に迫った言葉だと思います。
ロックだ歌謡曲だブルースだと言う前に、まずその声。安井さんの挙げた「泥っぽさ」は「居酒屋ブルース」のような詞曲にこそ本来強く出る要素であるにも関わらず、ジュリーが歌うとそうじゃないんだよ、と。

さてさて、この曲は手元にスコアがあります。
これまたいつもお世話になっている長崎の先輩から長々とお借りしてしまっている(お借りしたのは老虎ツアー鹿児島公演の打ち上げの時汗)超お宝本『沢田研二/ビッグ・ヒット・コレクション』。

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非常に、大らかな採譜でございます(笑)。
ジュリーの曲に限らず、70年代前半までの日本のスコア本というのは採譜が大変大らかでして、まぁこの本に収載されている「君をのせて」の採譜あたりは、今からでも天国の宮川先生に土下座した方が良いくらいのレベルではありますが、そういうことも含めてとても貴重な資料であり、楽曲構成を紐解く際の有り難い叩き台です(これが70年代後半になると、どの出版社のどんな歌手、曲のものも採譜の精度がグッと上がってきます)。

この「居酒屋ブルース」の採譜でも、明らかに「B♭」に行くのが早いぞ(笑)。
ブルースってのは、もっと粘らないと・・・これをして、この時期は日本人にとっていわゆるアメリカ音楽としての「ブルース」の馴染みがまだまだ薄かった、ということは言えそうです(だからこそ、一般世間からは単に流行のアイドルとしか捉えられていなかったであろうジュリーが、73年のアルバムで「居酒屋ブルース」のような曲をリリースしている、という意義は大きいのです)。

まぁしかし、あとは「Dm」表記のいくつかを「B♭」に変え、サビの最後、ドミナントの「C7」に行く前に1小節ぶん「G7」を加えれば修正はOKかな。「君をのせて」は修正する気が失せましたからね・・・。
そうそう、例の「YOKO君に正月セトリを週に1曲ずつ伝え、一週間互いに関連するスコアの研究をする」シリーズも遂に先週、21曲目の「君をのせて」に到達。
参考スコアに面白半分でこの本のものをスキャンしてメールで送ってみたところ、YOKO君は
「弾いて歌ったら、夢に出そうなほどの違和感だった」
と言ってましたよ。

でも、解説で「サビはまたブルース進行とは別」とアドバイスしている点は良かったです。
と言うのは、この曲はバタ臭い気取りが無く、サビに本来の「ブルース進行」からは逸脱した、洋楽風に言えば「ポップ」・・・その実は日本人特有の泣きのメロディー、進行が織り交ぜられているんですね。

時々見つめる 物云いたげな瞳
Dm  Am          B♭               Am

今夜は僕に 最後まで つき合ってくれる ♪
Dm     Am    B♭         G7                 C7


(コード、修正してみました。『沢田研二/ビッグ・ヒット・コレクション』をお持ちのかたは、比べてみよう!)

このあたりが、変に「俺は海の向こうの本場のブルースを目指して作っているんだぜ」みたいな気負いや個人主張がまったく無い、純粋に「ジュリーの曲」として取り組んでいる加瀬さんならではの作曲の味なんだよなぁ、と僕は考えます。
もちろん、それは安井さんの歌詞についても同じことが言えると思います。

安井さんも、そして加瀬さんも、当時ジュリーの作品を共に作り上げていく中で「ジュリーの歌は凄いなぁ」と、詞や曲を提供する側にも関わらず感心しながら聴き惚れていたかもしれないけれど、この時期のジュリーの歌の素晴らしさは、お2人の熱意と才能と、何より無償の愛情から引き出されていた部分が大きかったのかなぁと感じています。
「海の向こうの音楽を踏襲した」はずの「居酒屋ブルース」を、ピュアなジュリーの名曲たらしめたのは、そんな愛情の為せるところだったのではないでしょうか。

この先ジュリーがこの曲をLIVEで歌うことはまず無いでしょうが、今のジュリーが歌ったらどんなヴォーカルになるんでしょうね?
安井さんが語った魅力をそのまま持ちつつも、意外やメチャクチャにエロい歌になったりして・・・。


それでは、今日のオマケです!
73年夏の『沢田研二ショウ』(国際劇場)パンフレットから、ほぼ全ページをどうぞ~。


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さて、これで全国ツアー初日までに残す執筆予定お題曲は3曲となりました。
その中に、74年リリースの超大ヒット・シングル(バレバレ)のA面、B面が2曲仲良く揃って待機中。
次回、次々回と続けて書きたいと考えています。

A面、B面どちらを先に書こうかな・・・?

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2015年6月21日 (日)

沢田研二 「ウィンクでさよなら」

from『ROYAL STRAIGHT FLUSH 2』
original released on single、1976


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1. ス・ト・リ・ッ・パ・-
2. おまえがパラダイス
3. 恋のバッド・チューニング
4. TOKIO
5. OH!ギャル
6. ウィンクでさよなら
7. 渚のラブレター
8. 酒場でDABADA
9. ロンリー・ウルフ
10. さよならをいう気もない
11. 立ちどまるな ふりむくな
12. コバルトの季節の中で

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まずは、J先輩から頂いた情報です。
中野ブロードウェイ4Fの『まんだらけ海馬店』で、ジュリーの誕生日から数日に渡り、”沢田研二生誕記念”としてお宝の庫出し販売期間の開催があるようです。
詳しくはこちら
78年の『プレイファイヴ』は是非見てみたいなぁ。
でも、僕はお店に行けても週末ですから、その時にはもう店頭からは消えているのでしょうけどね~。


さて・・・今日のお題ですが。
前回の「きわどい季節」の記事をupした時には、次(今回の更新)はアルバム『JULIEⅥ ある青春』から「二人の肖像」を採り上げる予定でいました。
「あんなに明るい加瀬さんが作った曲でも、短調のバラードってのはやっぱり悲しい、切ないメロディーになるんだね・・・」みたいな感じで、ちょっと暗い内容の考察になるはずだったんです。

でも、急遽予定変更!
メチャクチャ明るい曲を書きますよ~。

と、いうのはね・・・。
ようやく、本当にようやく、加瀬さんもそう望んでいるに違いないこと・・・「明るい笑顔で加瀬さんを送ろう」という心からの気持ちに僕自身がなれたのです。

前回の「きわどい季節」の記事更新を終えた後すぐに僕は、saba様のブログで『財界さっぽろ』に掲載されていた、藤田博章さん(加瀬さんの中学・高校・大学の同級生でいらしたそうです)が書かれた『竹馬の友』という手記を拝見しました。
感謝と感動で涙が出ましたよ・・・「そうだよ、そうだよなぁ」と何度も読み返しました。
もうお読みのかたも多いでしょうが、まずはそちらをご紹介いたします。

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画像はsaba様のブログからお借りして転載させて頂きました。素敵な記事を本当にありがとうございます!


僕は、加瀬さんの旅立ちを知らされてからずっと、どうにも釈然としないものを胸にかかえていました。
そのモヤモヤを振り払うために、躍起になって加瀬さんの残してくれた名曲と対峙し、ここまで加瀬さんの曲ばかりを書き続けてきたようなものです。

なるべく楽しい内容の記事に・・・と心がけてはいたけれど、お読みくださるみなさまは、文章の端々に僕の中のモヤモヤを感じとっていらしたかもしれませんね。
aiju様も書かれていましたが、僕も「やっと」です。この『竹馬の友』という手記を拝見してやっと、加瀬さんに心からの感謝と尊敬、そして哀悼の気持ちをもって、楽しい考察記事が書けそうなんです。

そんな気持ちにうってつけの曲があります。
ヤンチャで明るい加瀬さんの人柄をそのままメロディーにしたような名曲。そこに愉快な歌詞と痛快な演奏、いかにも楽しげなジュリーのヴォーカルが加わって、本当にハッピーな気持ちにさせてくれる・・・ポップ・ミュージックのお手本のような、それでいて加瀬さんとジュリーのコンビでなければそうはなり得なかった大傑作。
76年のヒット・シングルです。
「ウィンクでさよなら」、伝授!


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『ヤング』76年7月号より


加瀬さんの旅立ちの後僕は、「ツアーが始まるまで加瀬さんの曲だけを書いていこう」と決めました。
前回記事で触れたように、当初はこの機にジュリーの歌った”KASE SOGS”をすべて書き終えるつもりでいましたが、「残す日数から考えて、そこまでは無理だなぁ」と思い始めた頃に、「あとはこの曲を書く」とお題曲の執筆スケジュールを組みました。
当然「ウィンクでさよなら」もその中に入っていたんですけど、実はこの曲は最後から2番目・・・「もうすぐ初日!」と心逸る7月第2週に採り上げるつもりでした。

僕は今回の加瀬さんの突然の旅立ちがどうにも納得できなくて、信じられなくて、「加瀬さん、何故?どうして?」というふうにしか考えられませんでした。
今思うと、いかにもセンセーショナルなメディアの報道をまともにそのまま鵜呑みにしていた・・・と言うか、真剣な思考を停止してしまっていたのだと思います。

僕はここまで(前回記事まで)、自分の中にあった釈然としない引っかかりを振り払おう振り払おうとしながら加瀬さんの曲について書いてきて、その状態はツアー初日まで続くと思っていました。
ジュリーがツアーで加瀬さんの曲を歌うかどうかは分からないけど、どんな曲を歌ってくれるにしても(新曲も含めて)、歌詞の中に加瀬さんを連想し、辛い気持ちになるんだろうなぁ、と考えていました。
「それじゃいけない、加瀬さんはそれを望んでいない」と分かっていても、そうなるんだろうなぁ、と。

だからせめて、「もうすぐツアーが始まる」という頃に、楽しい楽しい「ウィンクでさよなら」のような曲を採り上げて、無理矢理にでも「笑顔で加瀬さんを送ろう」と自分に言い聞かせるために、記事を書こうかなぁと。
でも今回saba様のブログで『竹馬の友』という藤田さんの手記を読んで・・・「これこそが真実」などとは決めつけられないかもしれないけど、加瀬さんの旅立ちについての「考え方」「受けとめ方」「送り方」を教えて頂いた気がしました。
そして、「よし、心からの感謝を込めて、加瀬さんが作ったジュリーの歌を聴いて楽しく加瀬さんを楽しくを送るんだ」という気持ちにやっと辿り着いたのです。

「ウィンクでさよなら」は、そんな今の僕の気持ちに本当にピッタリの曲で、心躍っています。


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今日の参考スコアは、『沢田研二/イン・コンサート』より

空前の大ヒットとなった75年の「時の過ぎゆくままに」。年が明けて翌76年の次シングル「立ちどまるな ふりむくな」も引き続き阿久=大野作品となりました。
いずれも素晴らしい名曲ですが、どちらかと言うと切ない、もの悲しい雰囲気でジュリーの「退廃美」を前面に押し出しているタイプの曲でしたよね。

76年初夏に向けて、ちょっと久々にジュリーのシングル曲を担当することになった加瀬さんは、阿久さん作詞、大野さん作曲の近作2曲とはガラリと雰囲気を変えて、ジュリーの「陽」の魅力を再度引き出そう、と狙ったのではないでしょうか。
73年の加瀬さん作曲作品「危険なふたり」で完全に一般世間にまで浸透した、「愛されキャラ」「放っておけないキャラ」のジュリーがここに再登場!というわけです。しかもそれが荒井(松任谷)由実さんの愉快な詞を得て、「いじられキャラ」にまで到達してしまった・・・これはジュリーの歴史においても唯一無二の陽気なヒット・シングルだと思います。

『ヤング』76年4月号に、ジュリー、布施明さん、森進一さんのいわゆる「ビック3」特集が組まれていて、その中のジュリーのページにこんなショットがありました。


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普段どんなにユーモラスでヤンチャでも、大切な仕事に臨む時には真剣師の眼光鋭い加瀬さんと、そんな加瀬さんに全幅の信頼を置いて自らのベストを尽くそうというジュリー。2人ともカッコイイ!
掲載が5月号(4月の出版)ですから、これは正に初夏に向けてニュー・シングル「ウィンクでさよなら」の制作が進行している時のショットに違いなく、おそらくレコーディング(或いはリハーサル)現場に潜入取材したものではないでしょうか。

とにかくこの曲、リスナーがジュリーの「歌の主人公へのなりきり度」を感じる、という点においても70年代屈指のヴォーカルを堪能できる傑作です。
もちろん荒井さんの詞が底抜けに面白い、明るいということもあるのですが、まずやはり加瀬さんの曲想ですよ。イントロからエンディングまで完璧ですものね。
「これこれ、こういう曲がやってて楽しいんだよ」と、ジュリーと井上バンドのテンションが上がっているのをヒシヒシと感じます。

また、多くの制作スタッフは、73年の「危険なふたり」の再来を予感していたかもしれません。皆が手放しで楽しめる新曲を1年のこの時期(5月1日リリース)に得たことで、「今年はこの曲で行ける!」と年末の賞レースへ向けて気合も入ったのではないでしょうか。
レコード大賞受賞は、73年が五木さん、74年が森さん、75年が布施さん、と来ていましたから、「今年(76年)こそはジュリー!」と考えるのは至極自然な流れ。
実際には76年のジュリーは、賞レース辞退という残念ないきさつになってしまったわけですが・・・(しかしジュリーは翌77年の「勝手にしやがれ」で圧倒的な10倍返しで栄冠を手にすることになります)。
ともあれ加瀬さんの「ウィンクでさよなら」というシングルに、気持ち的にも技巧的にも万人に歓迎されるタイムリーな状況があったであろうことは、後追いファンとしても容易く想像できるところです。

いやいやそれにしてもこの突き抜けたメロディーによくぞこの突き抜けた歌詞が載ったものです。
これ、どう考えても作詞者である荒井さん自身の代表作「ルージュの伝言」と対になっていますよね?

荒井さんの「ルージュの伝言」は日本ポップス史上に残る大変な名曲。
コード進行がシンプルであれ難解であれ、そんなことは関係なく全体像がポップで美しく、天才的な詞曲の手管がすべて「歌」に向かっているのが荒井さんの作品最大の持ち味だと僕は考えますが、「ルージュの伝言」はシンプルなタイプの代表格。
例えばこの曲をギター初心者が弾こうと思ったら、3フレットにカポタストをつけさえすれば「C」「Am」「F」「G7」というポップス王道の、基本中の基本の4つのコードだけで曲の最初から最後まで演奏可能です。

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ギター弾き語りスコア『日本の恋と、ユーミンと』より

それでいてAメロとサビではメロディーの表情が全然違うのですからね・・・凄い曲なのです。

おっと、歌詞の話でした。
有名な曲ですので改めて説明するまでもないかもしれませんが、「ルージュの伝言」では、彼氏(或いは旦那?)の度重なる浮気癖に遂に堪忍袋の緒が切れた主人公の彼女が意を決して家を飛び出してしまう、というシチュエーションが描かれます。
もちろん彼氏には行く先など告げず、心細いながらも電車で向かったのは彼氏の実家。彼のお母さんにチクって泣き縋ろうというわけですね。

一方「ウィンクでさよなら」は、「ルージュの伝言」とはそっくり入れ替わって、主人公は彼氏の方。バスルームに残されていたルージュの伝言を見て彼女の家出に気がつき・・・というシチュエーションの歌詞と考えると本当に楽しいのですが・・・実際どうなのでしょう。

彼氏は慌てふためいて策を練ります。
とにかく思いつく限りの言い訳と甘い説得の言葉を用意。最後の最後は

I LOVE YOU    I NEED YOU
  G                   Bm

決まりのせりふで悪いけど
Am        G         Am      D7

I LOVE YOU    I NEED YOU
  G                   Bm

やっぱりあなたのほかにない ♪
Am       G          D           G

このキメ台詞でうまいこと丸めこめるだろう、と・・・軽薄な色男である彼氏は一晩あれこれとシュミレートして、状況を楽観してしまった模様です。
翌朝電話のベルが鳴り、「そら来たっ!」と余裕で出てみると、意外やその声の主は。
・・・嗚呼、主人公(=ジュリー)の運命やいかに?

・・・と、「ウィンクでさよなら」の歌詞だけではそこまで考えられないことが、「ルージュの伝言」を知っているとこうして楽しく妄想することができます。
あんまりいないとは思うけど、もし荒井さんの「ルージュの伝言」を知らない、というジュリーファンのかたがいらっしゃったら、この機に是非聴いてみてください。「ウィンクでさよなら」が一層楽しい曲になりますよ!

この曲は演奏も完璧です。
キュート・ポップと言うだけでなくロック・バンドならではの演奏ですよこれは!
『JULIE SINGLE COLLECTION BOX~Polydor Yeas』でジャケット裏のクレジットを確認しますと、このシングルは「井上堯之バンド」と「ケニー・ウッド・オーケストラ」が演奏者として併記されています。
その上で音を聴けば、A面「ウィンクでさよなら」が井上バンドの演奏(ただしサックス奏者1人のゲスト・トラックはあり)、B面「薔薇の真心」が大々的にケニー・ウッド・オーケストラが参加している演奏、とそれぞれ断定して良いでしょう。
編曲もA面が大野さんでB面が東海林さんとなっていますからね。

あと、この当時の井上バンドにはキーボードの羽岡利幸さんが既に加入していますよね?
確かに「ウィンクでさよなら」のキーボードは、センターやや右寄りにミックスされたピアノと、左サイドに振られたウィンドっぽい音色の計2トラック。イメージ的には、ピアノの方が大野さんかな~。

ギターもカッコイイです。僕がシビレるのはAメロのバックで鳴っているミュート・カッティング。
これ、普通のコード・ブラシングじゃなくて単音のカッティングなんですよね。アプローチとしてはクロマチック・グリスに近いけど、1音1音それぞれが緻密に練られていて、ミュートのフレット・ポジションが計算され尽くされているような演奏なんですよ。
2番のAメロの

ベッドに見慣れぬコンパクト
G                      Em

あなたは気づかぬふりをする♪
C          Bm         Am       D7

の直後には、ジュリーのヴォーカルの隙間を縫うようにして指にグッと力を入れてミュートを解除、渋い音階のメロディー(単にペンタトニックのスケールを適当にアドリブで押さえているだけではこの音はなかなか出てきません)をほんの一瞬だけ明確に出しています。
これは堯之さんのトラックじゃないかなぁ。77年(だったと思う)のテレビ番組での「危険なふたり」の映像を数ヶ月前に初めて観た時、こんな感じのミュートを交えたバッキングを堯之さんがやっていて、すごく新鮮に感じたことがあったのです。

そうそう、演奏のことではないのですが、この曲の華麗なコーラス・ワークね・・・確か以前先輩に「山下達郎さんと大貫妙子さん」だと教わったような気がするのですが、改めて確認しようとしてもジャケット裏はその点ノン・クレジットだし、果たして本当に教えて頂いていたのかどうか、自分の記憶も曖昧になっています。
乞逆伝授!(←あつかましい)

さて、この曲のジュリーのヴォーカルも全編素晴らしいのですが、個人的には1番Bメロ推しですね~。

あなたと出会ったときめきが
Bm                   Em

この頃 色あせて
Am       E        Am

塗りかえなくちゃいけないと
Bm                  Em

思っただけなのさ ♪
Am                 D

ここは、浮気性のだらしない男が都合の良い言い訳を甘えモードで炸裂させる、歌詞中ではフック、そして「歌」としては最も表現が難しい箇所だと思うのですが、まぁ何とジュリーの完璧なことよ!
「あなたと出会った♪」のところは、「本当に反省してるんです」みたいなしおらしい声に聴こえますし、最後の「思っただけなのさ♪」では、「ってことだからさ、いいじゃん!」とばかりの甘え&自己完結モードで、「不良少年のイノセンス」的ヴォーカルの代名詞でもある「ジョン声」(高音が艶っぽく掠れる)を楽々と炸裂させます。
しかもメロディーはオクターブ上で「ミ・ソ・ミ・ソ・ミ・ソ・・・」と繰り返すわけですから、男声にとっては相当キツイ。でもジュリーは楽勝なんですよ。


しかしこれ、男の浮気の言い訳の内容としては相当身勝手なものですが、こんなふうに歌われたら彼女はコロッと納得してしまうかも。
いや、これまで何度もそんなふうに許してきたことがあって、彼女は「今度もまたいつもの調子で甘やかしてしまう」と大いに悩み、遂に最終手段に打って出た、という状況が「ルージュの伝言」なのかな。

ところで「ウィンクでさよなら」は、「君のキレイのために」「愛まで待てない」と共に、「LIVEではジュリーが歌いながらステージの端から端へと走り回る」三大運動会ナンバーの一角とされているようですね。

『ジュリー祭り』が初めてのLIVE参加だった僕は、「あれ~、この曲でジュリーそんなに走ってたっけなぁ?」と思ってしまうほどのヒヨッコですが、この曲でのジュリーの疾走が再び観られるのを楽しみに待っている、という先輩方は多いでしょう。
そう、この曲は『ジュリー祭り』以降まだ1度も歌われていない曲のひとつです。

他にも「許されない愛」「恋は邪魔もの」や、加瀬さんの曲ではありませんが「あなただけでいい」などは、「還暦で歌われて以来ご無沙汰のヒット曲で、次はいつだろう?」というファンの気持ちがもうパンパンに膨らんでいますね。
それらの曲が巷で流れているらしい「予定曲」に入っているのかどうか僕は知りませんし、最後まで知らない状態を貫き通すつもりでいますが、正直ちょっと期待はしちゃってます。

こんなふうにツアーのことをあれこれ考えられるようになったのも、今回の藤田さんの手記を読めたから。
「本当に加瀬は幸せ者です」という藤田さんの言葉が温かく胸に沁みてきます。

実は昨日夜僕は、尊敬する男性タイガース・ファンの先輩であるYOU様のバンドのライヴに行ってきたんですけど、YOU様はMCで、アメリカの「ポジティヴ心理学」の学者さんの研究の話をしてくれました。
その学者さんが実際に多数の人を対象に行い集計したデータによれば、「感謝」の気持ちを胸にとどめて表に出さないグループと、「感謝」の気持ちを実際に感謝を与えてくれた人に直接伝えたり、手紙を書いたりするグループの2つに分け、1週間後、1ヶ月後の心理を比較すると・・・感謝の気持ちを言葉や文字で伝えたグループの方が、圧倒的に「感謝」による幸福感、充実感が持続している、ということがハッキリしたのだそうです。
人に感謝することで人は幸せになれるんだけど、その感謝をキチンと言葉や文字にした方が、何倍も長い期間の幸せが得られるんだよ、というお話。
いやぁ勉強になります。

ということで、僕も改めて。
加瀬さん・・・たくさんの楽しい想い出と、たくさんの素敵な曲をありがとうございました。


それでは、オマケです!
今日は、(考察本文中でもその中からいくつか添付させて頂いていますが)、『ヤング』76年のバックナンバーから厳選してのご紹介です。

まずは5月号。
これは、ファンの質問にナベプロ所属のスターが自筆で答える、という企画のようです。


760502

「本人も周りも慣れてきた」というこの時期の髪型ですが、後追いファンでしかも男性の僕から見ると、一瞬「誰?」みたいな感覚もあります。ジュリーのようなタイプの美形にこれは合わないですよねぇ・・・。
その後すぐにこの髪型はやめて元に戻しちゃうジュリーですが、すかさず「コバルトの季節の中で」で、「髪型が変わりましたね♪」って、久世さん大喜び?

続いて7月号には、これまた僕の知らないベスト盤っぽい企画モノのレコードの広告が。


760701

「悪い予感」「愛は限りなく」「絆」という初音源化の3曲が目玉だったのでしょうね。
それにしても、「死んでもいい」って誤植はちょっと酷いなぁ・・・。

(後註)
今回も早速、長崎の先輩がお手持ちの実物の写メを送ってくださいました。ありがとうございます!

Forever1

Forever2

Forever3

3枚目の画像に映っている、予約特典のソングブック・・・な、な、なんとスコア付とな・・・!
スコアはこのレコード収録曲全曲の掲載なのでしょうか。「悪い予感」とか「燃えつきた二人」とか「ELLE」のスコアがこの世に存在するというのでしょうか?
もしそうなら・・・『まんだらけ海馬店』さんの”沢田研二生誕記念”期間にこのソングブックの販売があって、運よくそれを手にとることができたら、僕は相当な値段でも購入してしまいそうです。


最後に9月号から『ロックン・ツアー’76』のジュリー!


760901

760902


ということで・・・随分時間がかかりましたが、僕はやっと加瀬さん作曲のジュリー・ナンバーに、心からの「楽しい考察」で臨むことができるようになりました。
少し前まで今日のお題予定としていた「二人の肖像」(かなり暗めの考察内容)の記事構想は、またいずれの機会までお預け。しばらく封印しようと思います。

これから、代わりに書く曲を1曲決めなきゃ・・・。
やっぱり、楽しい曲がいいな~。

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2015年6月16日 (火)

沢田研二 「きわどい季節」

from『ROYAL STRAIGHT FLUSH 1980-1996』
original released on 1987、single


Royal80

disc-1
1. TOKIO
2. 恋のバッド・チューニング
3. 酒場でDABADA
4. おまえがパラダイス
5. 渚のラブレター
6. ス・ト・リ・ッ・パ・-
7. 麗人
8. ”おまえにチェック・イン”
9. 6番目のユ・ウ・ウ・ツ
10. 背中まで45分
11. 晴れのちBLUE BOY
12. きめてやる今夜
13. どん底
14. 渡り鳥 はぐれ鳥
15. AMAPOLA
16. 灰とダイヤモンド
17. アリフ・ライラ・ウィ・ライラ~千夜一夜物語~
disc-2
1. 女神
2. きわどい季節
3. STEPPIN' STONES
4. CHANCE
5. TRUE BLUE
6. Stranger -Only Tonight-
7. muda
8. ポラロイドGIRL
9. DOWN
10. 世界はUp & Fall
11. SPLEEN ~六月の風にゆれて~
12. 太陽のひとりごと
13. そのキスが欲しい
14. HELLO
15. YOKOHAMA BAY BLUES
16. あんじょうやりや
17. 愛まで待てない

----------------------

どうやら夏風邪をこじらせてしまったようです。
実は先日書いた「コンビニ店員のジュリー」の夢を見た日あたりから、どうもおかしかったんですよ。「雨に濡れる夢」って、だいたい体調悪い時に見ますよね・・・。
「そんな状況で長文書いてる場合か!」とのみなさまのお声、ごもっともなのですが、僕は文章をこねくり回していると心が落ち着く、という不思議な体質でございまして・・・「下手の横好き」というヤツですな。

今は「ジュリーの全国ツアーが始まるまで、セットリストのことはなるべく考えずに加瀬さんの曲を書き続ける」ということで頑張っていて、今日を含めて残すところあと6曲分の記事構想を持っています(4月頃は、「ジュリーの歌った”KASE SONGS”をなんとかこの機にすべて書き終えたい」と意気込んでいましたが、さすがにそこまでは無理でした。名曲が多過ぎるよ加瀬さん・・・)。
7月第2週まで、だいたい5日に1曲の更新ペースでベストを尽くしていきたいです。

今日は、CO-CoLO時代唯一の加瀬邦彦作曲作品をお題に採り上げ、例によって大胆な仮説(邪推とも言う)など織り交ぜながら語ってまいりますよ~。
これまた名曲「きわどい季節」、伝授です!


Fukyou513


今日の参考スコアは、福岡の先輩からお預かりしている『不協和音』5号掲載のコード譜。『不協和音』では毎号新曲のスコアが紹介されていて、4号までは五線譜のメロディー付という贅沢なものだったのですが、この号と最終号(6号)では「コード付歌詞」というシンプルな形に変わっています。

しみじみ、いい曲ですよね~。
「女神」やアルバム『告白-CONFESSION』もそうですが、この頃のCO-CoLOの音って、(レコーディングの場所は関係なしに)「ニューヨーク・サウンド」って感じです。ちょっとジャズっぽさもあったりして。
どの曲、とは言えないけど、僕はビリー・ジョエルの『ザ・ブリッジ』(1986年)というアルバムでの音作りを連想するなぁ。ちなみに作曲者の加瀬さんがタイムリーでビリー・ジョエルをよく聴いていたことは確実で、加瀬さんが音楽を担当した東映戦隊ヒーロー番組『超電子バイオマン』(1984年)のエンディング・テーマである「バイオミック・ソルジャー」という曲は、明らかにビリーの「あの娘にアタック」(1983年)へのオマージュです。

さて、「きわどい季節」は一般ピープル的にはどういうスタンスの曲でしょうか。

ファンにとってはシングルの名曲ではあるけれど、ジュリーがMCで「みなさまにも多少は耳馴染みのある・・・」とおどけて紹介するパターンのいわゆる「シット曲」には当てはまらないでしょう。
リリース当時特にジュリーファンでなかった僕は、この曲を長い間まったく知りませんでした。
『ROYAL STRAIGHT FLUSH 1980-1996』の豪華ブックレットに載っているシングル・レコードのジャケットを見ると、「’87サントリーCANビールCMソング」とありますが、CMの記憶も全然無いんだよなぁ・・・。


Kiwadoikisetu

『ROYAL STRAIGHT FLUSH 1980-1996』を購入するまで、この曲に「Summer Graffiti」という副題がついていたことすら知らなかったヒヨッコです・・・。
「アリフ・ライラ・ウィ・ライラ」と「愛の嵐」の副題は早々に覚えたんだけど、何故この曲については見逃していたんだろう・・・?

前シングル『女神』に続いて「素晴らしい歌手が素晴らしい曲を得た」という感じが今でこそ僕にも分かるけど、ずっと知らなかったということは、ファンでない人のアンテナに届くほどには当時ヒットはしなかった、ということなのでしょうね。

本格的にジュリーファンとなって以後の僕にとっても、これは時代背景の整理、セールス状況の把握に時間がかかったシングル曲のひとつでもあります。
そもそも、後追いのジュリーファンが過去のジュリーの作品を遡って勉強していく中で、CO-CoLO期は色々と難易度が高いんですよ。
まずCDが普通には手に入らない(オークションなどでたまに見かけても、途方も無い値段がついています)。僕も未だにCO-CoLO期のアルバム4枚については先輩を頼っての音源のみの所有で、歌詞カードもプレプレ安城公演で出逢った別の先輩にお願いしてコピーを頂いたものを今もって愛用している状況。
また、ジュリーをとりまく環境が劇的に変化した時期の作品ということで、制作経緯、CO-CoLO各メンバーの個性など学ばなければならないことは非常に多いはずなのに、情報量が他時期と比較すると圧倒的に少ない、という面もあります。

ところが、まず昨年末に先述の『ROYAL STRAIGHT FLUSH 1980-1996』を手頃な中古価格で購入することができ、シングル曲の歌詞、ジャケット写真を含む充実のブックレットを手にしたこと。
さらには今年に入って、いつもお世話になっている福岡の先輩から『不協和音』をはじめとするCO-CoLO期の貴重な雑誌資料などを大量にお預かりしたことで、どうにかこうにか僕もこの時期のジュリーについて新たに知識を蓄えているところです。

それらを参照しながら、復習も兼ねて「きわどい季節」リリースの時系列、ジュリーのスケジュールを整理してみて・・・ふと沸いた疑問。
それは、このシングルが果たして国内でレコーディングされた作品なのかどうか、ということ。

シングル「きわどい季節」のリリースは1987年3月。
タイミングとしては、アルバム『告白-CONFESSION』に先がけてのプロモート戦略と言えるでしょう。
そこでジュリーのスケジュールなんですが・・・リリース直前の2月に、ジュリーとCO-CoLOはアルバム・レコーディングのためニューヨークに渡っています。


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Fukyou505

こちらも『不協和音』5号より

この記事で嬉しいのは、レコーディングの細かな作業スケジュールが明確に記されていること。
ベーシック・トラック(リズム録り)からオーヴァーダブ、そして最終的な作業であるマスターカッティングまで、すべての作業がニューヨークで行われたようです。
もし「きわどい季節」「やさしく愛して」の2曲がこの時同時にレコーディングされていたとしても(相当タイトなスケジュールではありますが)、プレスを経て3月のシングル・リリースには間に合うでしょう。むしろ、「最短で」作業すればそれは必然の流れ。
一方、87年が明けてすぐにジュリーは日本国内でCO-CoLOと共にシングル用の2曲のレコーディングを済ませ、マスタリングとプレス作業をスタッフに任せて次のアルバム制作のためニューヨークに飛んだ、という経緯も考えられます。
スケジュール的にはこちらの方が自然かな。

ただ、この87年2月のニューヨーク・レコーディングには「現地のミュージシャンが多数参加した」とされていて、じゃあアルバム『告白-CONFESSION』収録曲でCO-CoLOメンバー以外の音を探してみよう、となるとどうも合点がいかないんですよ。
例えば「青春藪ん中」のサックスとかは分かるんですけど、アルバム収録曲の基本的なトラックはCO-CoLOの演奏でほぼ事足りているように思うので、現地のミュージシャンが「多数」という印象は薄いのです。
そこで、もし「きわどい季節」がこの時のニューヨーク録音作品で、あの豪華な生のストリングス・パートが現地ゲスト・ミュジーシャンの演奏だったら、と仮定するとすべて納得が行くんですね。
でもクレジットが無いので本当のところが分かりません。「きわどい季節」ストリングス・レコーディングの経緯を詳しくご存知の先輩はいらっしゃらないかなぁ?

さて、後追いファンなりにジュリーの歴史を俯瞰すると、この「きわどい季節」はCO-CoLO期のジュリーのシングルの中で最重要、大勝負のシングル・リリースであると捉えることができます。その理由はただ1点、「加瀬さんが作曲している」ということです。

加瀬さんのジュリーへの楽曲提供は、シングル『麗人』のB面「月曜日までお元気で」以来5年ぶり、ということで良いのかな。
独立以後シングル・セールスで苦戦を強いられてきたジュリーとしても、加瀬さんに作曲を依頼することで心機一転、セールス実績の盛り返しを心に秘めていたでしょうし、「どんな時でもジュリーの味方」である加瀬さんが意気に感じ相当な気合を入れて作曲に取り組んだことは想像に難くありません。

では、加瀬さんはどんな曲想を以って「ジュリー完全復活」を新たなメロディーに託したのでしょうか。

「きわどい季節」は3連符構成による長調のバラード。
この87年の時点で、ジュリーには3連符のバラード、或いはロッカ・バラードの名曲が既にたくさんありました。ヒット・シングルとしても「おまえがパラダイス」「渚のラブレター」の2曲がすぐに浮かびますね。
「ジュリーに再びヒット曲を」の思いを描いたであろう加瀬さん・・・ジュリーの歌手としての素晴らしさを知り尽くしている加瀬さんは、この機に「ジュリーらしさ」を第一に目指したのではないでしょうか。
「何も奇をてらう必要は無い。ジュリーが、ジュリーらしいメロディーを歌えばそれだけで素晴らしい曲になる。そうすればセールスは自然に後からついてくる」
という考え方です。

タイガース時代から「おっ、ひと味もふた味も違うぞ」と思わせた、3連符のバラードを歌う時のジュリー独特の艶っぽいヴォーカル。加瀬さんはそこを狙いました。
しかし加瀬さんが選んだのは、かつて自身が作曲したロッカ・バラード「おまえがパラダイス」のような、猛々しいジュリー・ヴォーカルではありませんでした。

「きわどい季節」を「クラシカルな曲」「どこか懐かしい感じの曲」と評することは簡単です。
でも、それは単に洋楽オールディーズの3連バラードを踏襲した、とかそういう曖昧な考察では不充分。「きわどい季節」を楽曲的に評するならば、ジュリーが過去に歌ったある名曲との比較考察が絶対に必要ではないか、と僕は考えています。
その曲とはズバリ、正に歌手・ジュリーの原点・・・ソロ・ファースト・シングル「君をのせて」です。

多くのみなさまがご存知の通り、かつてのジュリーのMCによれば(僕の場合はタイムリーでそれを聞いたわけではなく、DVDで後から観たのですが)、加瀬さんは「君をのせて」について「ああぁあ~きみを~♪のああぁあ♪ってところが沢田らしくてイイ!」と大絶賛していたそうです。ジュリー曰く「その後ワタシは、あ~あ♪と歌う曲が多くなりました(笑)」とのこと。
「きわどい季節」に「あ~あ♪」は登場しませんけど、87年というこの時期に作曲を任された加瀬さんは、「君をのせて」へのリスペクトをメロディーに込めて、原点回帰とも言うべき「ジュリーらしさ」を引き出し、世に問おうとしたのではないでしょうか。

記念すべきソロ・デビュー曲でありながら、セールスは今ひとつだった「君をのせて」。
しかし加瀬さんは当時からこの曲の中に「ジュリーらしさ」「ジュリーの歌手としての本道」を見ていました。
時は流れ、抜群に上手い歌手に成長したジュリーが今、セールスに苦戦しながら「歌」を求めている。飢えている。ならば、ジュリーの持つ一番の良さを自分がもう一度引き出してやろう・・・加瀬さんは、そんな思いで「きわどい季節」を作ったんじゃないかなぁ。
「ジュリー、今こそ俺がもう一度、”君をのせて”海を渡る舟になってやる」と。

「きわどい季節」と「君をのせて」の共通点を具体的に挙げてみましょうか。
3連符構成のバラード、というのはまず基本として、キーが王道中の王道、ハ長調であること。
ハ長調のメロディーでどんな音域になろうとも、今のジュリーなら高い声も低い声もバッチリだ、という加瀬さんのジュリーへの信頼が第一にあります。

あとは、歌、伴奏を含めたヴァースの構成です。
歌メロとは完全に別モノの独立した格調高い伴奏がイントロに配されたかと思えば、間奏ではあくまで歌メロ(Aメロ)の旋律に忠実に奏でられるストリングス・アレンジ。その間奏を引き継ぐ形でジュリーのヴォーカルが戻ってくる、というパターン。
最後の最後には半音キーを上げる転調があり、一層美しい声でダメ押しのサビが歌われる・・・本当に「君をのせて」とそっくりな構成なんですよ。

ふり向けば乙女が まぶしい女になり
   C       Em      Am         Dm  G7

抱きしめてみたいと 両手を   ひろげる ♪
   C       Em        Am       Dm7  G7       C

「きわどい季節」でファンが一番惹かれるのは、このサビへと入った瞬間のジュリーの声ではないでしょうか。色っぽい、と言うにはあまりに自然な・・・。
Aメロで訥々と語りかけるように歌っていたのが、いざサビに入ると感情が溢れだすような歌い方に聴こえます。しかもその変化は信じられないほどになめらか。

これはおそらく意識せずともできてしまうジュリー天賦の才によるもので、「君をのせて」でも「君のこころ ふさぐ時には♪」の箇所から声がいきなり伸びやかになって歌の表情が変わりますよね?あれと同じ魔法が「きわどい季節」のサビでも起こっているわけです。
「きわどい季節」のサビに入った瞬間がたまらなく好き、と仰るかたは、たとえ無意識であろうとも「君をのせて」を歌うジュリーをそこに見出していらっしゃるんじゃないかなぁ、と僕は思っていますし、逆に、少し遅れてジュリーファンになって「きわどい季節」を先に知っていた人が、遡ってソロ・デビュー作「君をのせて」を聴いた時にどんな印象を持たれたのかなぁ、ということにも大いに興味があります。
(ちなみに僕はだいぶ遅れてきたファンですが、曲を知った順序は「君をのせて」の方が先でした)

ジュリーが天性で持っていた「ジュリーらしさ」を存分に引き出し再演出する加瀬さん渾身の作曲作品、それが87年の「きわどい季節」。
阿久さん独特の高尚なリビドー(?)を投影したような味わい深い歌詞が載り、CO-CoLOのクラシカルでありながら80年代最先端の音作りを追求した演奏、アレンジを擁して、「きわどい季節」はジュリーがステージや歌番組で歌う回数を重ねれば重ねるほどに深さを増し、次第に一般リスナーにもキラキラと浸透してゆく・・・特に、半音上がりの転調後のサビのヴォーカルあたりは、きっと生で歌い重ねるごとに「ジュリーの声、一体どこまで突き抜けるんだ?」という感じで進化していったに違いないんですよ。
この曲は、そんな輝かしい道のりをゆく名曲であったはず・・・なのですが。

何ということか・・・予期せぬ大きなアクシデントがジュリーを襲い、ジュリーはこの名曲を「歌い重ねる」多くの機会を逃してしまいます。
さぁこれからガンガン行くぞ、という時に大怪我をして入院してしまうんですね。

全6冊に及ぶ『不協和音』は、いずれも読み応え充分の内容で、レコーディングからLIVEに至るまで当時のジュリーのタイムリーな活動を綿密に網羅した貴重な情報が満載ですが、第5号だけはページ数も極端に少なくあっさりした作りになっています。
それがちょうど、この「きわどい季節」のセールス・プロモート展開たるべき時期。
原因は他でもない、ジュリー本人が怪我の治療とリハビリで活動を制約されていたからだ、と後追いファンの僕が気づいたのは、恥ずかしながら本の内容を確認してからのことでした。


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再び『不協和音』5号より

冒頭に掲載されたジュリーの言葉は一見明るく前向きのようですが、ジュリーにしては珍しく「無念」の思いが滲む内容となっているように僕には感じられます。
「せっかく加瀬さんが作ってくれた新曲を、もっとどんどん歌っていかなきゃいけないのに・・・」という悔しさが伝わってくるようで、切なくなってしまうのです。

リリースから、30年近い時が流れました。
ジュリーが今、加瀬さんのことを思う時・・・CO-CoLO期唯一の加瀬作品の名曲「きわどい季節」への、ある意味での悔恨、忘れ物をしてきたような気持ちというのがありはしないでしょうか。

夏からのツアーではどうか分かりませんが(僕は巷に流れているらしい今ツアーの「予定曲」なる情報、その内容には一切目を通していませんので・・・みなさまにもどうか汲んで頂き、コメントなどでその件には触れないでくださるよう、厚かましいながらこの場を借りてお願い申し上げます)、ジュリーが加瀬さんへの深い親愛を自ら確信に変えるべく、改めて「きわどい季節」を熱唱する日が来るのはそう遠くないのではないか、と僕は勝手に想像しているのです。


ということで、ちょっとしんみりしてしまいましたが・・・それでは、今日のオマケです!
『不協和音』6号より、その後すっかり元気になったジュリーのインタビューをどうぞ~。


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最後に、蛇足と言うかまたまた得意の邪推になってしまうかもしれませんが、「きわどい季節」の阿久さんの歌詞について少しだけ。

これは男性目線からすると、かなり「きわどい」性衝動の一瞬を描いたものかと思いますが、女性ファンにはそのあたりが伝わりにくいのかもしれないなぁ、と。
いずれにしてもこういうことは阿久さんが描きジュリーが歌う、という天才による表現だからこそカッコイイのであって、一凡人が熱く語り始めるとただの気持ち悪い話になってしまうのでここでは置くとして。

その一方で・・・この詞に登場する女性というのが、阿久さんが当時のジュリーを見て置き換えた姿である、と考えてみるのはアリのような気がするんですよね~。
70年代から、大野さんとのコンビで幾多の名篇をジュリーに提供してきた阿久さんから見た、10年経って成長しリアルな生活感のある色気を纏ったジュリー。

「君をのせて」について「これは男同士の歌だ!」と言っていたのは久世さんでしたっけ?
当然阿久さんもそうした感性は持っていたはずで、はからずも加瀬さんが「君をのせて」を思わせる曲を提示したことにより、阿久さんもソノ気になってみた・・・そんな歌詞考察はいかがでしょうか?(汗)
まぁ、「君をのせて」と「きわどい季節」の関連からして僕の邪推である可能性もあるわけですが・・・今日は、「この2曲には色々と共通点があるよ」ということを是非書いておきたかったのでした。


では、次回更新では再び70年代のお題に戻ります。
その前にこのしつこい夏風邪をなんとかせねば(涙)。みなさまも体調には充分お気をつけください。

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2015年6月11日 (木)

沢田研二 「旅立つ朝」

『JULIE SINGLE COLLECTION BOX~Polydor Yeas』収録
original released on 1975
シングル「時の過ぎゆくままに」B面


Tokisugi

disc-14
1. 時の過ぎゆくままに
2. 旅立つ朝

----------------------

え~、突然ですが。
去る6月9日火曜日の未明(午前3時くらい)でしたが、久々にジュリーが夢に出てきてくれました。

これが意味不明の変テコな夢でね~。
まず、夢の中の登場人物としての僕はそれをジュリーだとは認識していないんだけど、夢を見ている自分自身はその人をジュリーだと分かってる、というややこしい状況。人間の脳ってどうなってるのでしょうか。

舞台は、僕が20年以上前に住んでいた練馬区上石神井と杉並区上井草の境のアパート『石風荘』近辺。夢の中で、僕は何故かまだそこに住んでいたようです。
夜中、最寄りのコンビニ(徒歩5分くらいのセブンイレブン)に買い物に出た途中で雨が降ってきて、走って店に駆け込むと、レジにいた店員さんがジュリーで(夢の中の僕はジュリーだとは気づいていない)。
白髭、アロハシャツに赤いエプロンでレジの向こうに立っていて(よって、下半身は見えていない)、店に入ってきた僕を見て低めの声で「いらっしゃいませ~」と。

降りだした雨のことがあって僕はまずビニール傘を探したんですけど、残り最後の1本をタッチの差で先に来ていたお客さんのお姉さんに持っていかれました。
次にビールを物色すると、見たこともない怪しい幾何学模様のデザインのビールだけが冷えていて、あとの有名メーカーのやつは補充が追いついていないのか、ヌルヌルのまま並んでいました。
近くにいた30才くらいの男性客がレジに向かって
「モルツ冷えてないの?」
と言うと、ジュリーが机に両腕を拡げて置いた格好で
「そうなんですよ~。すいやせん」
と応えます(「すみません」ではなくて「すいやせん」でした。朝吉親分のイメージだったのかな)。
それが、過剰にへりくだるでもなく、かといって失礼な感じもない自然な受け応えだったんだよなぁ・・・。

その男性客は結局、冷えている怪しげなメーカーのビールを買っていきましたが、僕は「まぁ家で冷やせばいいや」と考えて、スーパードライを2缶と、輸入物っぽい巨大なポテチを手にとってレジ待ちの列に並びました(真夜中だというのに混んでて結構な行列でした)。
レジの順番がきて、ジュリーは僕の差し出したぬるいスーパードライを手にとって「ピッ」とやりながら

「(冷えてなくて)すいやせん

と。
僕は、「なんだか迫力のあるお爺さんだな・・・こういう人は怒らせたらイカン」とか思っていました。
で、コンビニ袋を抱えて雨の中を家まで走って帰るところで目が覚めたんですけど・・・ジュリーが低く言った
「すいやせん」
という声が妙にリアルに耳に残ってるような気がしましてね~。しばらく起きて余韻に浸っていました(笑)。

これ、夢判断的にはたぶん「傘が買えなかった」「ビールが冷えていない」「レジ待ちの列に並ぶ」「雨の中を走る」といったシーンが重要になってくるかと思うんですが、なにせジュリーファンの僕が見た夢ですからね。店員さんがジュリーだった、というところから分析を始めないといけないでしょう。
としても、全然意味分からない・・・。
やっぱりアレですかね、音楽劇全公演が大成功に終わって、1ケ月後の全国ツアーが始まるまで、ジュリーファンにとっては一番ソワソワする時期だけに
「LIVEが待ち遠しい!」
という気持ちが見させたおめでたい夢、な~んてシンプルな解釈で良いのでしょうか。


といったところで、本題です。
ジュリーが40数年(もすぐ50周年!)のキャリアの中で歌ってきた曲はとにかくその数が凄まじく多く、すべての曲を完璧に聴き込み理解する(したつもりになる)ことは至難の業。数回聴いただけで「なるほど」と適当にそのままにしておいて、ふとした時に突然その大きな魅力に気がつき驚かされ、「とてつもなく好きな曲」へと変わることがあります。
そのパターンとして「生のLIVEで聴いて・・・」というのが一番多いのは当然として、他にも様々なきっかけで突然過去の素晴らしい楽曲に魅入られることも。

今日は、このヒヨッコがほんの1年ちょっと前にいきなり大好きになった曲を採り上げます。
もちろんそれまで何度か聴いたことはあったのですが、本当にある日突然惚れこみ、「何故こんな名曲を見逃していたのか」と今では不思議に思うほどの曲。

きっかけは、大滝詠一さんの訃報でした。
僕の中では、高校生の時に出逢った大滝さんのアルバム『A LONG VACATION』は今でも邦楽ポップスのバイブルであり、2013年暮れに大滝さんが亡くなったと知り大きなショックを受けた後、しばらくの間僕は『A LONG VACATION』を何度も聴き返していました。
今でもCMで流れている「君は天然色」、先日「燃えつきた二人」の記事中で少し触れた「スピーチ・バルーン」など本当に素晴らしい名曲ばかりが詰まった名盤ですが、収録曲中最も有名なのは何といっても「さらばシベリア鉄道」でしょうね。大滝さんにさほど詳しくなくともこの曲をご存知のかたは多いでしょう。
もちろん僕も大好きな曲で、高校時代にコピーしたこともあり、歌詞、コード進行、さらにはアレンジ細部まで頭に叩き込まれています。

音楽というのは不思議なもので、何度も聴いている曲でもその時の気持ちやそれまでの体験、或いは他に新たに聴くようになった音楽の知識の積み重ねによって、曲の聴こえ方、感じ方が違ってきます。
大滝さんの旅立ちを思いながら「さらばシベリア鉄道」をしんみりと聴いていた時、ふと僕は「あれ?ジュリーの曲にこれと似た感じの曲があったような気がする。何だっけ?」と思い立ちました。
短調の美しくも勇ましいメロディー、マーチングのようなリズム・アレンジ、孤独な「旅立ち」を歌う歌詞。
絶対ある、よく似た感じのジュリー・ナンバー・・・何だ?と焦りました。
すぐに思い出せないってことは、どうやらこれまでの聴き込みが足りていない曲だぞ、と躍起になって考え、しばらくして思い当たったその曲。
改めて聴いてみると、大変な名曲でした。

前回記事の「明日では遅すぎる」から、75年のシングルB面曲のお題が続きます。今日のお題も、これまた東海林先生のアレンジが素晴らし過ぎる名曲。
超特大ヒット・シングル『時の過ぎゆくままに』のB面です。「旅立つ朝」、伝授!


「さらばシベリア鉄道」から「旅立つ朝」への連想は、ジュリーファンとなる数十年前から大滝さんのファンであった僕にとって、遅まきまがらの目からウロコでした。

「さらばシベリア鉄道」のリリースは、太田裕美さん(ジュリーとはナベプロで一緒でしたね。『ヤング』バックナンバーでも太田さんの記事は多いです)への楽曲提供が、大滝さんの『A LONG VACATION』でのセルフカバー(1981年)よりも早くて1980年のこと。
対して「旅立つ朝」は1975年。

ん?75年?
大滝さんが、ジュリーと深く関わっている年だ!

と、勝手に興奮してしまいましたが。
大滝さんほどのポップスの巨匠が、当時のジュリーの楽曲の優れたポップ性に気づいていなかったはずはありません。また、マニアックな「引き出し」をに自作曲に華麗に反映させていく大滝さんに、ジュリー・ナンバーという引き出しが蓄えられていた、とするのはさほど強引な考え方ではないと思うのです。
僕はここに、”ジュリーの「旅立つ朝」が大滝さんの「さらばシベリア鉄道」作曲のモチーヴメントになっていたかもしれない説”を唱えたいと思います(こういう大胆な邪推が楽しみでブログ書いているようなものですから・・・毎回突拍子もない仮説ですみません)。

「さらばシベリア鉄道」と「旅立つ朝」。
確かに最終的な音源作品としては、テンポ含め曲のイメージは大きく異なります。
しかし、曲想にせよ歌詞にせよアレンジにせよ、この2曲には共通点が驚くほど多いのです。

例えば。
「旅立つ朝」イントロのコード進行は「Em→G→D」。
このイントロに合わせてそのまま「さらばシベリア鉄道」のAメロが歌えます。また、両曲ともディレイの効いた太い音色のスロー・ハンドなリード・ギターが前面に押し出されているアレンジも共通します。

「さらばシベリア鉄道」のあの疾走感は、「じゃんじゃかじゃかじゃか・・・♪」とかき鳴らすアコースティック・ギターが演出するところが大きいです。
これ、「旅立つ朝」で言うとAメロ左サイドのピアノや、時折「じゃかじゃっ!」と切り込むホーン・セクション、或いはマーチング風のドラムがよく似た効果を狙ってアレンジされていたんじゃないか、それが大滝さんの引き出しにあったんじゃないか・・・僕にはそんなふうに思えてならないのです。

まぁ、大滝さんの「さらばシベリア鉄道」の作曲に「旅立つ朝」へのオマージュがあった、とする考えはさすがに行き過ぎにせよ、 大滝さんの名曲を連想したおかげで、僕自身これまで気にとめていなかった(恥)「旅立つ朝」の豪華なアレンジ、緊張感溢れる演奏の素晴らしさにようやく気づくことができました。
おかげでこの曲が突然大好きになり、聴き返すたびに新鮮な感動に浸れているというわけです。

さて、そんな素晴らしい演奏トラックをすべて書き出しますと、以下の通りです。

・ドラムス(センター)
・ベース(センター)
・ピアノ(左サイド→センター)
・リード・ギター(右サイドややセンター寄り)
・サイド・ギター(右サイド)
・ホーン・セクション(センターから右サイドの間でパートごとに分離)
・ストリングス(左右に分離)
・ティンパニ(センター)

この豪華な楽器陣が要所要所で噛み合い、出番を入れ替える・・・前回記事「明日では遅すぎる」にも負けない、東海林先生の隅々にまで行き届いたストイックなアレンジは、圧巻のひと言。
例えば

背中にあなたの 目が残る
    Am7         D7          Gmaj7

旅立つ朝の 心かくし
       Em  C          D

今 風 の 中 ♪
     Em  B7   Em

1番のこのヴァースでは、エレキギターがヴォーカルを追いかけるように「ファ#・ミ・レ~♪」「ミ・レ・ド~♪」と下降するメロディーを奏でますが、曲後半の同じヴァースでは、それがホーン・セクションの低音担当パートに切り替えられています。
このように、曲全体を通して各楽器が役割を変えるのがこの曲のアレンジの肝。
単純に1番、2番・・・と同じ演奏を繰り返しているのではないんですよね。

そうした東海林先生のアレンジ・・・ストリングス、ブラスがここぞ!というタイミングで噛んでくる正確無比かつ躍動的なアンサンブルも、加瀬さんのメロディーの「純度」があればこそ生まれたものでしょう。
加瀬さんの曲は本当にアレンジ解釈の自由度が高くて、僕はこのところ様々なタイプのアレンジが施された加瀬さんの作品を代わる代わる聴きこんでいますから、改めてその素晴らしさを思い知らされているところでもあります。

「旅立つ朝」はジュリー・ナンバーの中でも「似たアレンジ」を探すのが難しい曲のように思えます。
むしろ、アレンジや演奏のアプローチは全然違うのに、シングルA面曲の「時の過ぎゆくままに」ととても似ているような不思議な感覚があったり・・・。
共通点を挙げるとすると、このシングルは両面ともキーがホ短調で揃っているんですよね。
これはそれぞれの作曲段階での偶然の一致かもしれませんが、B面の「旅立つ朝」ははからずも、ドラマ・タイアップで大ヒットを狙うA面曲、同じホ短調の「時の過ぎゆくままに」への念押しの刷り込み、というと変ですけど・・・そんな役割を担っていたかもしれません。
聴き手が各面2曲に同じ空気、統一感を感じる。だからこそA面の価値、印象が上がる、という・・・。
タイムリーでシングル・レコードを聴いていらした先輩方、そのあたりいかがでしたか?

アレンジ、演奏も凄いですが、さらにこの曲はミックスも素晴らしいですよ~。

忘れないさ 愛の暮らし ♪
C                Bm

2番のこの部分から、ドラムスとベースの音量がスパ~ン!と上がるんです(1番の同じ箇所でも上がりますが、2番の方が跳ね上がり方が凄いです)。
テンポが変わっているだけに、ドキッとしますよね。
また、ピアノのトラックはずっと左サイドに振られているんですけど、たった1箇所・・・エンディングのグリッサンドの瞬間、いきなりセンターに移動。
これが左サイドのままだと、最後の最後の「じゃかじゃん!」が唐突過ぎる印象になってしまうと思います。ピアノの「さぁ終わるよ!」という主張を生かした、楽曲愛のあるミックスと言えるのではないでしょうか。

さて、この曲もジュリーのヴォーカルが素晴らしいのは当然。加えて、75年というのはジュリーの「歌」が劇的に変化した年ではなかったか、と僕は感じています。

こうしてブログで加瀬さんの曲を集中して採り上げていく中で、たまたま僕は「風吹く頃」「明日では遅すぎる」「旅立つ朝」と75年のシングルB面曲をリリース順にじっくり聴く機会を得ました。
この3曲の流れが、如実にそんなジュリーの歌の変化を表していると思うんですよね・・・。

「風吹く頃」では、タイガース時代からあった良い意味での「甘さ」がジュリーの歌に残されています。
次の「明日では遅すぎる」になると、詞曲では加瀬さん、安井さんが引き続きジュリーに「甘さ」の魅力を求め提示しているのに対して、ジュリーは歌手として成長した「上手さ」を発揮しています。
そして、「旅立つ朝」ではその上手さが「歌の深化」というところにまで達しているようです。
伴奏やアレンジの「技術の高さ」「正確さ」に歌い手として負けなくなった・・・いや、悠々と勝ってしまうようになった、と言えば良いのでしょうか。
まず声が変わっています。グッと「男」っぽく、それ以前のジュリーのヴォーカルではほとんど感じられなかった「線の太さ」が押し出され、高音部で微妙にかすれるいわゆる「ジョン声」を自在に操っているな、という印象については「旅立つ朝」がジュリー最初の1曲となったのではないでしょうか。

声質のことだけではなく、「ロック・バンドで歌えることの歓び」とはまた別の、「歌手の本懐」のような感覚をジュリーはこの短い期間に会得したようです。
それは、ジュリーの「歌」に対する意識が、LIVEとレコーディングの2本立てで確立した、ということ。「ロック・バンドで歌える歓び」については、前74年から開始された『ロックン・ツアー』をはじめとする井上バンドとのLIVEステージで、一方もうひとつの柱としてレコーディング作品での「歌」。
どんなにハイレベルの、どんなに難解な演奏がバックだったとしても、或いは逆にどんなにシンプルな、どんな実験的環境で歌うことになってもそれをクリアし自分の表現に引き込む・・・歌手としての覚醒。
シングル『時の過ぎゆくままに/旅立つ朝』から、年末リリースのアルバム『いくつかの場面』には、そんなジュリーの成長、「独り立ち」を見る思いがします。

「独り立ち」って・・・ジュリーはとっくに歌手として独り立ちしていたよ?
と、みなさま思われるかもしれませんね。
そこで最後に、安井さんの詞についての個人的な考察を少しだけ書いておきましょう。

今このような「旅立ち」の歌詞に接すると、どうしても加瀬さんの訃報を重ねるようにして聴いてしまいます。これは先に記事を書いた「燃えつきた二人」の松本隆さんの詞についても同じ感覚がありました。
ただ、そういう「今」の思いをなんとか振り払って、純粋に「旅立つ朝」の歌詞を読み解くと・・・悲しいストーリーでありながらとても力強い詞だ、と僕は思います。

男の明日に 風が吹く
Am7      D7        Gmaj7

やさしい過去を ひとつ残し
         Em     C             D

今 旅 に出る ♪
     Em  B7   Em

確かに主人公は愛に溢れていた暮らし(=やさしい過去)に別れを告げて旅立とうとしているわけなんですけど、作詞者である安井さん、つまり女性の視点からこのシチュエーションを考えた時に、男が大きな世界に勇躍踏み込み旅立とう、とする姿にエールを送っているような、不思議な暖かさ、充実感をも感じるのです。

この時期、ジュリーが歌手として、男として大きな力を確立していったことは、すぐ近くにいた安井さんや加瀬さん達には手にとるように分かったでしょう。
「旅立つ朝」では、ジュリーをある時期から間近にしてきた安井さんが、この先ジュリーが歩もうとしている道をこの詞のストーリーに投影して見守ってくれているような・・・。さすがに深読みし過ぎでしょうか。

それにしても、これほどの名曲の魅力に数年間(2009年春にポリドールのシングルコレクションBOXを買った時から、2013年冬まで)気づけずにいたとは(恥)。
詞曲、アレンジ、演奏そしてヴォーカル・・・とてもシングルB面のテンションではありません。
「シングル・レコード」に大きな価値があった良き時代だからこそ生まれた、誇り高い名曲ですね。


それでは、オマケです!
今日は、75年の『プレイファイブ』掲載の特集『限界なき男ジュリー』から、10枚のショットをどうぞ~。


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それでは次回更新ですが、ちょっと時代を飛んで、CO-CoLO時代の曲を採り上げたいと思います。
「全国ツアーが始まるまでは加瀬さんの曲を書き続ける」と宣言しているわけですから、お題曲はバレバレですね~(汗)。引き続き頑張ります!

故郷・九州の大雨による被害が心配です。
みなさま、どうぞ無事でありますように・・・。

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2015年6月 6日 (土)

沢田研二 「明日では遅すぎる」

『JULIE SINGLE COLLECTION BOX~Polydor Yeas』収録
original released on 1975 シングル「巴里にひとり」B面


Parinihitori

disc-13
1. 巴里にひとり
2. 明日では遅すぎる

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まず、少しだけプロ野球の話から。
先日「テレフォン」の記事冒頭にタイガース(阪神の方)の愚痴を書いたところ、案の定(汗)直後にささやかな連勝もあったりしまして、その後も一進一退する中、どうやらタイガースはクライマックス・シリーズ進出圏内で上向きに奮闘してくれています。
まぁ現在でも、順位が下位のチームとはゲーム差がほとんど無いので安心はできませんが・・・。

それにしても最近の阪神は、勝つにしても負けるにしても派手な試合が多くてね(笑)。
満塁ホームランを食らって大逆転負けしたかと思えば、ビックリしたのが先の6月3日の試合。帰宅後に途中経過をチェックして「8対0」とあったので「今日は楽勝」とゴキゲンでゆったりと夕食をとった後、再度経過を覗いたら「8対8」ですよ(驚)。
7回表にいきなり8失点していたという・・・。
最後は延長戦の末サヨナラ勝ちしたから良かったようなものの、もし負けていたらファンから(ジュリーからも)激しくダメ出しされていたでしょうね・・・。

今日(6月6日)はメッセンジャーが日ハムの大谷君に投げ勝ち、渋~く「1対0」で勝ちました。
日本各地食べ歩きをするほどのラーメン好きで知られるメッセンジャー投手、開幕当初はラーメンの食べ過ぎによるウエイトオーバーを心配されていましたが、どうやら本来の姿に戻ったようです。メッセが最終的に12~15勝くらいの成績なら、とりあえずチームのクライマックス・シリーズ進出もついてくるでしょう。


さて本題。
いわゆるラブ・ソングの本命テーマ・・・「君しか見えない」的な楽曲は世に星の数ほどあって、それぞれの歌手のファンにとっては、そのテーマだけでもう既にたまらなく魅力的な曲となっているはず。
もちろんジュリーにもそうしたテーマの名曲が幾多あります。いよいよツアーのクライマックス、渋谷公演真っ只中である音楽劇のタイトル・ナンバー、「お嬢さんお手上げだ」などもそのひとつでしょう。

「お嬢さんお手上げだ」の場合は、恋の手管を知り尽くしている男が初心な少女に心奪われるという、いかにも阿久さんらしいシチュエーションですが、そのほんの数年前までジュリーは、おもに安井さんの詞で真逆のシチュエーションも数多く歌っていましたよね。
つまり、恋の経験の浅い少年(さすがに「青年」なのかな?)が年上の女性に夢中になって駄々をこねるように甘えまくっている・・・「危険なふたり」はその代表格。

でも、他にも同様のシチュエーションを思わせる隠れた名曲、たくさんありますよね。
今日のお題はそんな1曲。
「セットリストのことはなるべく考えずに、ひたすら加瀬さんの曲を書く」シリーズ(でも、先達のみなさまのご予想は楽しみにしております)ということで頑張っておりますので、当然今日も加瀬さん作曲作品。

まさに「名曲の宝庫」と言うにふさわしいジュリーのシングルB面曲の中から、「明日では遅すぎる」を採り上げたいと思います。
シングル『巴里にひとり』のB面としてリリースされた、これぞ70年代ジュリー・ポップスです。伝授!


個人的にこの曲は、全ジュリー・ナンバーの中で東海林修先生のアレンジについては最高峰の名曲だと思っています。
ジュリーの歌手としての驚異的な成長がそれを生んだ、とも言えますが・・・もちろん素晴らしいのはジュリーのヴォーカルと東海林先生のアレンジばかりではないわけで、まずは楽曲の根本的なところである「詞とメロディー」から考察していきましょう。

映画みてても 胸のどこかに
F                   Am7

ただ君の事が 気になって早   く
Cm        B♭   B♭m        Am7   Dm

ふたりっきりになりたくて ♪
Gm7             C7

前回記事のワイルドワンズ「バラの恋人」のコード進行について、ト長調に「Cm」を挿し込むことで「少年性」を注入している、と書きましたが、「明日では遅すぎる」Aメロに登場する「B♭m」は、「バラの恋人」からキーを1音下げた場合の同じ理屈の進行として登場します。
ただし、このAメロに登場している「Cm」はドミナント・コードをマイナーに使っているものでそうそう「キュート」とばかり言ってもいられない精密な進行。最近のジュリー関連のナンバーだと、「一握り人の罪」や「涙がこぼれちゃう」で採り入れられているもので、一筋縄ではいかない「美しいけど繊細・・・に見えて骨太」なポップス進行は、やはりジュリーが歌ってこそ僕のような者にも「胸キュン」をもたらすのです。


「バラの恋人」の考察で僕は、「手の届かない王子様」的なジュリーに対して「同級生の男の子」的な渡辺茂樹さん、と比較しました。それはあくまで一般大衆の聴き手から見たイメージを考えたものです。
ファンにとっては「王子様」であるジュリーにも、実際には身の周りに目上の親しい先輩達がたくさんいて、ジュリーを現実の弟のように親しんでいたのでしょう。「明日では遅すぎる」でも作詞・作曲のコンビを組んでいる安井さんと加瀬さんは、おそらくその筆頭。

「明日では遅すぎる」でジュリーは
「君しか見えない、君じゃなきゃダメ、君とずっと一緒にいたい、君もそうなんでしょ?」
と、甘えモード全開で歌っている(と聴き手は感じる)わけですが、ひっくり返して考えればこれは曲作りに関わった安井さん、加瀬さん側からの「歌うのはジュリーでなきゃダメ!」という可愛い弟に寄せる愛情がジュリーをそう歌わせていた、とも言えそうです。
この曲については、最終的にジュリーの歌と東海林先生のアレンジがその愛情を「作品」として纏め、普遍的なものに押し上げているのかなぁ、と僕には思えます。同年の「風吹く頃」あたりと比べると、「明日では遅すぎる」にはジュリーの「完璧」を感じるんですよ。

そして、加瀬さんのメロディーが素晴らしく「いじりやすい」純度の高さを誇っていたこともまた、ジュリーの歌、東海林先生のアレンジに影響したことでしょう。

曲想は明快なヘ長調のポップス。
その上でウキウキとはずむような16ビートのリズムと爽やかなコード展開。朴訥でありながら趣味性が高い・・・これほどの曲が、シングルB面なのですからね~。恐るべしジュリー、恐るべし加瀬さん。

この曲の加瀬さんのアプローチで特筆すべきは、何と言ってもサビの最初のコード進行です。

今黙って そばにいる ♪
   F         A7

この「F→A7」という展開は邦洋問わずポップス作曲において「伝家の宝刀」とも呼ぶべき、「万人の胸キュン」に適う王道の手法。しかしあまりにインパクトが強過ぎて、名うての作曲家と言えどもおいそれとは乱発できない(多用するとクドくなる)、「ここ一番」で採り入れるコード進行なのです。

ジュリーには本当に多くの著名な作曲家が楽曲提供していますが、一度この手法で楽曲提供してしまうと、その後別の曲で「もう一丁!」とはなかなかいかない。結局「このパターン、僕からはこの1曲」という形になるのでしょうね。
そのぶん、違う作曲家がジュリーに「僕の1曲」をそれぞれ提供している中で、その聴き比べが非常に楽しいコード進行である、とも言えます(その点については、以前ザ・タイガースの「銀河旅行」の記事で触れたことがあります)。
面白いのは、加瀬さんが『巴里にひとり』のB面曲として渋~く「F→A7」の刀を抜き提示した直後、次シングル曲「時の過ぎゆくままに」で大野さんが見事ド派手に同じパターンを採り入れて空前の大ヒットを放っていること。

時の過ぎゆくままに ♪
   F             A7


註:「時の過ぎゆくままに」のキーはホ短調ですが、「明日では遅すぎる」と比較しやすいように、ここではニ短調(ヘ長調と同調号のキー)に移調してコード表記しています。

阿久さんの詞が先にあった「時の過ぎゆくままに」の競作に参加していた加瀬さん(「燃えつきた二人」の記事を参照してくださいませ)としては
「うわ、大野さんここでコレ来たか!ヤラレたな~」
と、逆に大喜びだったのではないでしょうか。

この曲は演奏も素晴らしいです。クレジットが無いのでこれが井上バンドの演奏なのかどうか僕には分かりませんが、楽器によってはバンドとは別の人が弾いているんじゃないかなぁ。

特に惹かれるのは、ドラムスとベースのリズム隊。
アルバム『いくつかの場面』の各収録曲の演奏クレジットから聴き込み比較すると、ドラムスは鈴木二郎さんのように思いますがどうなのでしょうか。2’30”或いは3”28”でのオープン・ハイハットの裏打ちフィルに特徴があるように思います。ハイハットと言えば、ジュリーのヴォーカル部で黙々と16ビートを刻み続けるクローズの音などは、手数が多いのに押しつけがましい感じはまったく無くて、演奏者の崇高な志を感じますね。

ベースはとにかくカッコイイ!
2’24”や2’40”あたりのフレーズは指弾き独特の音作りですから、これはサリーではなさそう・・・佐々木隆典さんかなぁ?同じ16ビートの「スコッチ刑事のテーマ」(井上バンドによる『太陽にほえろ!』の挿入曲で、佐々木さん加入直後の新曲)のフレージングと似ているところもありますから。
(後註:この時期の東海林先生のアレンジ作品なら、演奏はケニー・ウッド・オーケストラによるものと考えた方が自然かもしれません)

そんなドラムス、ベースを土台として華やかに楽曲を彩る他各楽器パートの何と緻密で何と美しいバランス・・・ヴォーカルの裏メロを奏でる左サイドのリード・ギター、軽やかに16ビートを刻む右サイドのギター・カッティングに加え、左右に振られたホーン・セクション、右サイドにはホイッスル風のキーボードとマラカス。そしてセンターにストリングス。
各楽器トラックの登場演奏箇所はストイックに分担され、ミックス配置も完璧。

さすがは東海林先生、これだけにぎやかに多くの楽器が入れ替わり立ち替わりに鳴っているのに、何ひとつ歌詞やメロディーの邪魔をしていない、何ひとつ欠けても成り立たない・・・そんなアレンジです。

そしてジュリーの歌。凄いですよね。
まずはもう、上手いんです。圧倒的に上手い!
その昔ジュリーの歌を下手だ下手だと言っていた大人達は、75年のこの曲をどんなふうに聴いたのでしょうかねぇ。しかも上手い上にキュートなんだから最強です。

明日ではもう遅すぎる お互い の愛が
  F            A7               B♭  C     F

この時  を待ってい た 信  じていた ♪
      Gm7 C7     Am7  Dm B♭ C7     F

ヴォーカル部最後の「信じていた♪」のあまりになめらかなロングトーン。結構長く声を伸ばしていますが、文字通り伴奏に「溶け込んで」います。自然ですよね。


ところで、僕は2009年くらいまで、シングル『巴里にひとり』を1976年のリリースだとばかり勘違いしていました。これは、アルバム『KENJI SAWADA』のリリース年と同時期だろう、という安易な思い込みによるもの。つまり、ジュリーは1974年にイギリス、翌々年の76年にフランスと時期を空けて海外セールスに打って出ていたんだ、とばかり・・・。
今でこそ73年末からのジュリーの海外戦略のプロモートの流れは正しく認識していますが、これ、いかにも新規ファンが陥りやすい勘違いだったなぁ、と。
ほら、76年には映画『パリの哀愁』の公開があったりもするじゃないですか。ジュリーが歌も映画も含めてフランスに関わっていたのはすべて同じ時期だろう、と後追いファンが一気に大量の知識を詰め込んだ際に、そう思い込んでしまうわけですよ。

たぶん僕にはまだまだ正しく整理できていないジュリーの歴史がたくさん残っていると思う・・・少しずつ、ブログを通じて学ばせて頂いていますけどね。先輩方のコメント、いつも頼りにしております。

・・・と、強引に映画のタイトルを出したところで。
今日のオマケはMママ様所有のお宝資料、『パリの哀愁』のパンフレット(?)から!


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さて、僕が把握できていないのは、「じゃあジュリーは合計何回フランスに行ってるのか」、という・・・。
結構頻繁に行き来していますよね?

確か2010年お正月LIVE『歌門来福』のMCだったと思いますが、「今年はジュリーwithザ・ワイルドワンズを結成して新曲を出す」という話の流れで、「加瀬さんとのただならぬ関係」についてジュリーが色々と語ってくれたことがありました。
その中で、「海外の旅先で熱を出してしまいホテルで寝込んでいた」時の思い出話があって、あれはフランスだと言っていたんじゃなかったかなぁ(違ったかな?)。
せっかく外国に来ているのに自分が寝込んでしまい、心配する加瀬さんがホテルでずっと付き添ってくれているのを申し訳なく思ったジュリーが、「外出してきていいですよ」と言っても、加瀬さんは
「いいんだ!」
と、本を読みながら寝込んでいるジュリーの傍に1日中いてくれた、とのことでした。

正に「兄のように弟のように親しむ」二人だったんですね(ジュリーはそんな感動的なMCに「でも、肌を合わせたことはありませんよ!」とオチをつけ、会場は爆笑に包まれていましたが)。

73年からの海外戦略プロモート時期のジュリー自身の思い出は、加瀬さんの思い出と強く重なっているのかもしれません。想像すると切ないですね・・・。

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2015年6月 1日 (月)

ザ・ワイルドワンズ 「バラの恋人」

『All Of My Life~40th Anniversary Best』収録
original released on 1968、single


Wildones

disc-1
1. 想い出の渚
2. 夕陽と共に
3. ユア・ベイビー
4. あの人
5. 貝殻の夏
6. 青空のある限り
7. 幸せの道
8. あの雲といっしょに
9. 可愛い恋人
10. ジャスト・ワン・モア・タイム
11. トライ・アゲイン
12. 風よつたえて
13. バラの恋人
14. 青い果実
15. 赤い靴のマリア
16. 花のヤング・タウン
17. 小さな倖せ
18. 想い出は心の友
19. 愛するアニタ
20. 美しすぎた夏
21. 夏のアイドル
22. セシリア
23. あの頃
disc-2
1. 白い水平線
2. 涙色のイヤリング
3. Welcome to my boat
4. ロング・ボード Jive
5. 夏が来るたび
6. ワン・モア・ラブ
7. 想い出の渚 ’91
8. 追憶のlove letter
9. 星の恋人たち
10. ハート燃えて 愛になれ
11. 幸せのドアー
12. 黄昏れが海を染めても
13. Yes, We Can Do It
14. あなたのいる空
15. 愛することから始めよう
16. 懐かしきラヴソング
17. 夢をつかもう

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6月です。
音楽劇『お嬢さんお手上げだ・明治編』も残すところ渋谷の追加公演3日間のみとなり、それが終わるとジュリーは束の間の休息の後、いよいよ7月から始まる『こっちの水苦いぞ』全国ツアーに向けてのリハーサルへと進むのでしょう。
音楽劇の観劇予定を既に終え、気持ちはもう鉄人バンドとのLIVEに・・・と、切り替えていらっしゃるファンも多いかもしれませんね。
僕も、カレンダーがLIVEツアー初日のひと月前になると、毎回グッと気持ちが盛り上がってきます。

ところで・・・拙ブログですが、今年の全国ツアーに関しては、恒例の”全然当たらないセットリスト予想シリーズ”の記事は書かないことにしました。
今回はなるべくセットリストのことは考えないようにしよう、と思ってるんです。

今セットリスト予想をしますとね・・・どうしても「加瀬さんの曲をたくさん歌ってくれたら嬉しいなぁ」という思いもあれば、「いや、ジュリーはそんなに簡単に心の整理はつかないだろう。加瀬さんの曲は1曲も歌うことができないのでは?」と心配になったり。
結局、ヒヨッコ後追いファンの身勝手な堂々巡り。

本格的にジュリーファンになってまだ数年、加瀬さんとワイルドワンズについては本当に基本的なことしか知らない、という僕のような者が、それでも加瀬さんを思って今できることは、加瀬さんの残してくれた数々の名曲を心から楽しみ、じっくりと聴き込むこと。
それしかないんですよね・・・。
ですからジュリーのツアーが始まるまで僕は、セットリストのことはなるべく考えずに、純粋に加瀬さんの曲の考察に集中しようと決めたのでした。
毎回「DYNAMITEの予想がどれだけ的外れかミモノだ」と、セットリスト予想シリーズを楽しみにしてくださっている方がいらっしゃったら(←いらっしゃるのだろうか汗)、今回はごめんなさいね。

ただ、ツアーに向けて特別なことを何もしないというのも寂しいので、全国の各会場へのリンクコーナーを右サイドバーのトップに上げておきました。
今月中には7月公演のチケットが届けられるでしょうから、座席確認にお役立てくださいませ。
みなさまの良席ゲットを願っております。
(かく言う僕はもう、先のポール・マッカートニー東京ドーム公演の望外の良席で、今年のLIVE席運はすべて使い果たしてしまったかもしれません・・・)

そんなわけで今日は、2ケ月半に渡る「加瀬さん作曲作品お題期間」のちょうど折り返し地点ということで、ワイルドワンズ・ナンバーの考察に初挑戦させて頂きます。
ワイルドワンズの知識などほとんど無いに等しい僕のことです。いくら気をつけて書いても、誤った思い込みによる記述があり得ます。何かお気づきの点がありましたら、遠慮なくバシバシご指摘くださいませ。

お題は、僕の知るワイルドワンズ・ナンバーの中で、現時点で個人的に最も好きな曲です。
加瀬さんと安井さんの黄金コンビが、その素晴らしい感性をもって「少年」を描ききった大名曲。
「バラの恋人」、畏れながら伝授!


加瀬さんの旅立ちを知らされた後、僕は加瀬さんの名曲の数々を纏めて編集したCDを作りました。
全2枚となったそのCDの収録曲の多くがジュリー・ナンバーですが、中にはこんな曲も入っています。

アン・ルイスさんの「女はそれを我慢できない」。

Onnahasorewo


『アン・ルイス/グレイト・ヒット』より

寺内タケシとブルージーンズの「雨の想い出」。

Amenoomoide


『寺内タケシ&ブルージーンズ/スーパー・ベスト』より

また、これはおそらくみなさままったくご存知ないだろうな、と思うのですが・・・「超電子バイオマン」。

Tyoudensi


『昭和の特撮&アニメ主題歌ベスト②』より

これらすべて、素晴らしい名曲ばかりです。

そして・・・ワイルドワンズの曲も10曲ほど選びました。
2010年のあの楽しかったジュリーwithザ・ワイルドワンズの全国ツアー・・・それまでワンズの曲をまともに聴いたことすらなかった僕は、冒頭にジャケと収録曲を記した『All Of My Life~40th Anniversary Best』という2枚組のベスト盤を購入し、ツアー初日に向けて必死に予習したものでした。
編集したCDには、そのベスト盤の中から個人的に好きな曲を入れたのです。

2010年のツアーで、本当に多くの(僕にとっては未知の)ワイルドワンズの名曲を生で聴きました。「青空のある限り」「懐かしきラブソング」・・・激しいロックから穏やかなバラードまで、それまで知らなかった加瀬さんの曲にときめく日々でした。
ただ、僕が『All Of My Life~40th Anniversary Best』で一番好きになった曲「バラの恋人」は、ジュリワンの全国ツアー・セットリストからは外れました。

この曲は、ワイルドワンズの最年少メンバーであった渡辺茂樹さんが主を張る曲なのですね。
もし渡辺さんが2010年のあのツアーに参加していれば、必ずセットリスト入りを果たしたであろうワイルドワンズの代表曲。実現はしませんでしたが・・・。

ジュリーファンである僕は、加瀬さんと言うと「ジュリーの兄貴分」というイメージが先に立ちますが、加瀬さんはまず、ザ・ワイルドワンズのメンバーにとって偉大な兄貴・・・それを忘れてはなりません。
J先輩からお預かりしている切り抜き資料の中に、2002年に加瀬さんが新宿という街について語った新聞記事があります。見出しは「ワイルドワンズ事始め」。


20020610

鳥塚さん、植田さん、島さんが、「頼れる兄貴」加瀬さんを慕っている様子がありありと想像できます。

そして加瀬さんは「ワイルドワンズ事始め」から1年と少し後、さらに年若い弟をバンドに迎え入れることになります。それが渡辺茂樹さん(チャッピー)です。

「バラの恋人」は、渡辺さんが加入した新生ワイルドワンズの第1弾シングルとしてリリースされ大ヒットしたのだそうですね(オリコン・チャート6位)。
不勉強にてベスト盤で聴くまでまったく知らない曲でしたが、加瀬さんのキャッチーなメロディー、安井さんのキュートな歌詞。そして渡辺さんの甘いヴォーカル。僕は一発で気に入りました。

加入時は何とまだ16才の高校生だったという渡辺さん・・・色々と先達の方々のブログなど拝見しますと、当時の日劇ウエスタン・カーニバルではジュリー、ショーケンに次ぐ大変な人気だったとか。
まだ記憶に新しい渡辺さんの訃報に際して、僕はワイルドワンズ解散後の渡辺さんの偉大なキャリアや家族背景を初めて知り驚いたものです。弟さんも音楽の道に進まれ、天才一家だったようです。
そんな音楽的な資質の一方で、ワイルドワンズの末弟となった頃の渡辺さんは、良い意味で幼さが一目で伝わるルックスこそ最大の魅力だったのでしょう。
年齢に似合わぬ多彩な楽器演奏は二の次、とばかりのファンの嬌声を一身に浴びていらしたのでは?

渡辺さんをフィーチャーした最初の1曲「バラの恋人」は、安井さんと加瀬さんの黄金コンビによる、非の打ちどころのない完璧なポップチューンでした。
まずは、なんと可愛らしい曲でしょうか。
タイガース初期のジュリーにも「白いブーツの女の子」「星のプリンス」「イエロー・キャッツ」という三大キュート・ポップスがありますが、それらの曲を歌うジュリーがどこか「手の届かない王子様」キャラであるのに対し、渡辺さんが歌う「バラの恋人」は完全に「同級生の男の子」といった雰囲気です。
クラスメー
トの男子がいきなりGSのトップ・グループであるワイルド・ワンズのメンバーとなり、輝き出した・・・当時ウエスタン・カーニバルに押し寄せていた少女達の間で「チャッピー派」が結成されるまでに、時間はかからなかったでしょうね。

「バラの恋人」は手元にスコアもあります。古書で購入した『明星ミュージック・ブック』の68年春号です。


Mj68sp1

ちなみに僕はザ・タイガースのスコアに期待してこれを購入していたわけで、当然他のページには

Mj68sp2

Mj68sp4

といったページも。
この頃の歌本のイラストって、独特ですよね・・・。

さて「バラの恋人」。
本当に素敵な曲です。スコアの音符ならびを見ているだけで、加瀬さんの育ちの良さだったり邪気の無さが感じられます。新加入した渡辺さんのキャラクターに沿うように、と工夫された朗らかで初々しい感じのポップス進行。さすがは加瀬さんの曲だなぁ、と。


加瀬さんと安井さんお二人が共にこの名曲に注入したであろう、新メンバー・チャッピー=渡辺さんの持つ「少年性」推しのコンセプト・・・まずは加瀬さんの作曲について考察してみましょう。


ワンズのCDをお持ちでないかたのために、参考音源映像をYou Tubeで探しました。リリース当時のものではありませんが、とても素敵なLIVE演奏です。こちら

キーこそ違いますが、コードの展開とメロディーの載せ方は、前回採り上げたタイガースのナンバー、「あなたの世界」に似ています。
覚えやすいポップなメロディーは、60年代マージービート直系と言って良いんじゃないかな?

冒頭から耳に飛び込んでくる加瀬さんのギター・ソロがとにかくキャッチーです。最初に聴いた時に僕はビートルズの「イッツ・オンリー・ラヴ」のリード・ギターと「ナット・ア・セカンド・タイム」の歌メロを合わせたような音階のフレーズだなぁ、と感じました。
加瀬さんのギターって、噛めば噛むほど味がしみこんでくる感じで、クセになります
ね。
(上添付映像の生演奏で、加瀬さんは歌メロ部にオリジナル音源には無い裏メロのフレーズを挿し込んでいます。これは名演です!この時加瀬さんがヴォーカルに加わっていないのは、素晴らしいギターを弾くがため。弾きながら身体を揺らすその表情も素敵!)


さらには、レコーディング段階で渡辺さんのヴォーカル・トラックに施された工夫。
Aメロをダブルトラックで導入させておいて(添付映像では加瀬さんを除くメンバー全員で歌っているようです)、サビでは満を持してのシングル・トラックへと流れてゆく構成の素晴らしさ。このヴォーカル・トラックの振り分け方も初期のビートルズっぽいです。作曲段階から加瀬さんが持っていたアイデアではないでしょうか。

そのサビに組み込まれた「少年性」は

髪がゆれて バラのくちびる
      C                     G

すねてるようなとこも 好きなのさ ♪
          Cm           G      A7     Dsus4  D7

この「Cm」の部分だと思います。
どこか頼りなく(良い意味で、ですよ)、正直で純粋なんだけど「芯が揺れている」幼い感じを演出するのは、ト長調のメロディーにCmを挿し込む「一瞬の切なさ」。
これが渡辺さんのキャラクター、ヴォーカルにマッチしていて凄く良いのです。

渡辺さんがシングルで歌うサビ部が光るのも、Aメロの「普遍的」としか言いようのない完璧にポップなメロディーが、聴き手に先に提示されていればこそ。
添付した映像で、植田さんがおどけるように首をかしげながら歌う箇所がありますよね。植田さんのこの動き、気持ち分かります!あそこは首を傾けて歌いたくなるメロディーなんですよね~。

アレンジ面で特筆すべきは、歌メロと同じ伴奏進行、旋律で奏でられるフルートのソロです。
調べますと、ワンズでの渡辺さんのパートは「キーボード、フルート」とあります。僕はもちろんタイムリーで観たことはありませんが、ウエスタン・カーニバルなどのLIVEでは、ここで渡辺さんが実際にフルートを吹いていたりしたのでしょうか(先に添付した映像ではこの部分、キーボードのソロになっていますが、CDのオリジナル音源は生のフルート・ソロです)。
覚えている先輩はいらっしゃるかな?

安井かずみさんの詞も当然「チャッピー新加入」がコンセプト。それまでのワイルドワンズの世界(「若い」とは言ってもある程度成熟した大人の恋や出逢い、別れを歌う)とは一線を画した、「まだ本当の恋を知らない少年」の独白スタイルとなっています。

Aメロ出だしが

いつでも逢うたびに 君の返事を
G                          C            G

待ってるのに  また今日も ♪
C       G    Em   A7        D7

そしてサビ後の「結」の部分が

いつでも逢うたびに 気になるのさ
G                           C             G

まだ恋人と   呼べない君を ♪
C       G  Em   A7   D7     G

この「まだ恋人と呼べない君」という微妙なシチュエーションの表現が、僕はすごく好きで。
その上で爽やかなメロディーで歌われる「少年性」。
世に数ある”ZUZU=KASE SONGS”の中でも、コンセプトによって統一されたポップ性、詞曲の相性については、最高峰の1曲かもしれません。
「ヒットした」という事実とはまた別に、タイムリーで体感された世代の方々にとっては「記憶に残る」名曲じゃないのかなぁ、と想像しますがいかがでしょうか?

加瀬さんはもう安井さんとも渡辺さんとも再会を果たされ、「バラの恋人」を歌われたでしょうね・・・。


それでは、今日のオマケです!
まずは、渡辺さん在籍時の若きザ・ワイルドワンズのショットを2枚。


Wildones2

Wildones1


さらに、今から40年以上前の、ジュリーとワイルドワンズが共演する新番組を紹介した資料を。

Onetwo1

Onetwo2

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資料では番組名が『ワン・ツー・ジュリー』となっているのですが、先輩方に色々と調べて頂いたところ、どうやら実際にはこの記事の後に番組名を『ドレミファ大作戦』と変更して正式に放映が始まったのだとか(資料記載の放送開始日からの調査)。

この『ドレミファ大作戦』の流れを汲んだ番組『ドレミファ学園』については、ジュリーwithザ・ワイルドワンズのツアーMCでたびたび触れられていました。
ジュリーと鳥塚さんが司会で、「気をとり直して・・・」というのがキメ台詞だった、と。ジュリーと鳥塚さんのツイン・ヴォーカル・ナンバー「プロフィール」を歌う直前に、必ず話してくれましたね。

そのタイミングとは別にジュリーは、加瀬さんが「僕達ほとんどいいんじゃあない」を歌い終えた後にも、そのキメ台詞「気をとり直して・・・」をMCに挟んでいました。これは、毎回だったっけかなぁ・・・?
DVDには、そのシーンが残されています。

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自身作詞・作曲によるツアー・タイトルチューン「僕達ほとんどいいんじゃあない」を、いやらし~い猫声で熱唱する加瀬さんと、背後で黙々とシェイカーを振ってサポートするジュリー。

加瀬さんの歌が終わると、「お客さんが(加瀬さんの歌で)変な気持ちになっちゃったから」というジョークを込めてジュリーが、「それでは、気をとり直しまして・・・」と。
すかさず加瀬さんは

144501_2


「いや、気をとり直さなくてもいいんだよ!」
と、ジュリーに猛抗議。

DVDを持っているので、いつでもあの2010年のジュリーwithザ・ワイルドワンズに逢うことができます。
本当に、本当に楽しいツアーだったなぁ・・・。



それでは、次回更新から再び加瀬さん作曲ジュリー・ナンバーの考察記事に戻ります。
まだまだ、記事に書いていない加瀬さん作曲のジュリーの名曲は、たくさん残っているのです。

今日の「バラの恋人」はワイルドワンズのナンバーでしたが、安井さん作詞、加瀬さん作曲、それに東海林修先生のアレンジとくれば、それはジュリー・ナンバーの黄金トリオでもありますよね。
次回の予定お題もこの3人の組み合わせ。
個人的に「東海林先生のアレンジについてはジュリー・ナンバー中、最高の傑作!」と考えているポップチューンを採り上げたいと思います。
お楽しみに~。


(追記)
J先輩にしてB先輩のひいきゃん姉さんが教えてくださったCM
こんなんあったのか~。

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