沢田研二 「居酒屋ブルース」
from『JULIEⅥ ある青春』、1973
1. 朝焼けへの道
2. 胸いっぱいの悲しみ
3. 二人の肖像
4. 居酒屋ブルース
5. 悲しき船乗り
6. 船はインドへ
7. 気になるお前
8. 夕映えの海
9. よみがえる愛
10. 夜の翼
11. ある青春
12. ララバイ・フォー・ユー
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ま、間に合った・・・。
下書き期間たった1日で記事を仕上げるなんて、久しぶりだなぁ。
ジュリーファンとしては、どうしても今日のうちに更新しておきたいところですからね。
ジュリー、67才のお誕生日おめでとうございます!
「ありがとう」って言ってそうなおめでたい雰囲気の写真を懸命に迷い探した結果、72年のこのショットになりました。
今年も変わらず歌ってくれて、ありがとう~!
「不言実行」を決めた今年のジュリーは『ビバリー昼ズ』の出演も無く・・・でも言葉は無くとも、ジュリーの歌声が今年も聴ける、というそれだけで僕らは幸せです。
これからもずっと、ジュリーの歌が聴けますように。
それにしても、誕生日に合わせてツアーのチケットを発送するなんてニクイですね~。
いや、僕が貰ったのは不在通知で、チケットを手にするのは再配達の週末までお預けですけど。
全国のみなさま、お手元に届いたチケットの座席確認に、拙ブログ右サイドバー上に表示してある、各会場の座席表へのリンクを是非ご活用くださいませ。
ところで。
世の中の憂うべき情勢や、何より加瀬さんのことがありましたし、ジュリー自身としては今年、浮かない気持ちで迎えた67回目の誕生日だったかもしれません。
そんな中、ジュリーが少し元気と笑顔(苦笑かもしれませんが・・・)を取り戻すであろう出来事が、まるでこの日に合わせるかのように起こりました。
僕は5月に「テレフォン」の記事の枕で「今年はタイガース(阪神の方)はもうダメ!」と散々の愚痴を書いたのですが、その日を境に阪神の調子は何となく上向きな感じになり、ちょうど1ケ月経った昨日24日、何とセ・リーグの首位に立ってしまいました。
まぁ、「ちょっと勝ち出した」というのはあるにせよ、どちらかと言うとリーグの上位にいた他球団が交流戦でズタボロになり勝手に下がってきて漁夫の利を得まくっている、というのが現状なんですけどね。
だって、チーム打率は12球団中最下位だし、チーム防御率は下から2番目。総得点と総失点では失点の方が圧倒的に多く、ついでに盗塁数なんかも12球団中最下位。きわめつけは、勝敗の貯金なんてあるのかないのか、という状況(24日の試合に阪神が負けていたら、セ・リーグ全球団が借金状態、という大珍事が実現してしまうところでした)。
この数字でリーグ首位なんてね・・・こういうワケ分からん事態になった時のタイガースは、やるよ!
このままノラリクラリと、プロ野球史上最低勝率での笑えるリーグ優勝を勝ちとって欲しいです。
まぁ、ジュリーのことですから「この数字で首位とか言ってる場合違うで!ちょっと連敗したらすぐ最下位やで!」とブツブツ言っているかもしれませんが・・・。
それでは本題。
拙ブログが今頑張っている「セットリストのことはなるべく考えずに、ツアー初日まで加瀬さんの曲を書き続ける」期間のお題として、先日まで「二人の肖像」の考察を用意していたんですけど、前回少し触れたように相当暗い内容の記事(短調のバラードですから、そこから色々と考察が連鎖してね・・・)になってしまいそうで。
そんな時、僕自身の「加瀬さんを送る」気持ちが、藤田博章さんの『竹馬の友』という手記を拝見することで変化したこともあって、「二人の肖像」はまたいずれの機会に考察をし直してから、ということで今回は記事を仕上げないことにしました。
そこで、代わりに何か他の1曲を・・・と、深く悩むまでもありませんでしたよ。
あるじゃないですか~、「二人の肖像」と同じ収録アルバム『JULIEⅥ ある青春』の中に、まだ未執筆だった加瀬さん作曲の底抜けに楽しい曲が。
今日はジュリーの誕生日に合わせ、そちらをお題に採り上げたいと思います。
何とか6月25日という今日の日付で更新するために急いだので、かなり駆け足の考察になりますが・・・これまた加瀬さんらしい、そしてこの時期のジュリーならではの雰囲気が楽しめる名曲です。
「居酒屋ブルース」、伝授!
みなさまは、「ブルース」という言葉からどのような音楽を連想されるでしょうか。
僕は少年時代のある時期までは、短調の鬱屈した物悲しいバラードのことだと思っていました。
でもその後、洋楽をよく聴くようになって、特にボブ・ディランの曲を聴き込むうちに「どうやら違うぞ」と(ディランの初期の曲には「○○のブルース」といったタイトルが多かったのです。でもそれらは短調でもなければバラードでもありませんでした)。
もちろん、幼い僕がそう思い込んでいた「短調の鬱屈した物悲しいバラード」として、「日本の歌謡ブルース」というジャンル・カテゴライズも確かにあり、例えばジュリーの曲で言うと「雨だれの挽歌」あたりはそこに入るのではないでしょうか。
ただ、それは元々の「ブルース」という定義から世界中で広く進化応用し枝分かれした多くの音楽的解釈の僅かひとつの呼称ジャンルであって、じゃあその根本としての「ブルース」とはどんな音楽かと言うと、これはアメリカの黒人民謡なのですね。
『実用音楽用語事典』より
なかなか難しいですね。
僕の場合は、ギターを覚えていく過程で
「3行形式の12小節からなり、I-IV-Vという特定のコード進行を持っている」
という上記にあるような基本的な約束ごとをまず何となく会得し、ディランやストーンズなどの曲の中で「あ、これはブルースなんだな」と気づく曲が出てきた、という感じ・・・そんなふうにしてブルース(ブルース・ロック)の意味やパターンを学んでいきました。
みなさまお馴染みのジュリー・ナンバーで挙げるなら、「被害妄想」「DIRTY WORK」「砂丘でダイヤ」などの曲は、そんな約束ごとに当てはまる部分が大きく、この3曲(+今日のお題「居酒屋ブルース」)は、比較的分かり易い「ジュリー・ブルース」です。
さらには、ビートの激しさやアレンジの印象から少し分かり辛くはなっていますが、「マンデー・モーニング」「a.b.c...i love you」「まほろばの地球」といったあたりも、その大部分を「ブルース進行」の約束ごとにのっとって作曲されています。
で、今日のお題の「居酒屋ブルース」・・・これはタイトルが示す通りで、70年代ジュリーの、ブルース進行を擁する代表的なナンバーと言って良いでしょう。
ところが、その基本的な約束ごとを同じように踏襲し、かなり近い曲想であったとしても、例えばストーンズのブルース・ナンバーとジュリーの「居酒屋ブルース」とでは決定的に異なるものがあります。正にそれこそが(特に70年代の)ジュリーという歌手の特性を語ることにも繋がるわけですが、まずはここで、いつもお世話になっているピーファンの先輩に先日お借りしたてホヤホヤの『沢田研二ショー』(1974年お正月、日本劇場)パンフレットに寄稿されている、安井かずみさんのジュリー論をお読みください。
ちなみにこのパンフレットの他ページにつきましては、これから近々に執筆予定の74年リリースのジュリー・ナンバーの名曲が2曲ありますので、そのいずれかの記事(或いは両方?)のオマケ・コーナーにてご紹介させて頂きたいと思っています。
ミック・ジャガーがブルースを歌うと、そこに独特の猥雑さが表れます(ディランが歌った場合は、元々のブルースが持つ「嘆き」「叫び」の表現要素が強いかな)。もちろんそれがストーンズのブルースの大きな魅力なのですが、ジュリーの魅力はまた別です。
「甘いような、冷たいようなだけど清潔なかんじがする」
「決して下品になれない声質だから」
ジュリーに多くの作詞提供をしてきた安井さんが当然のように見抜いたその魅力・・・ジュリーの場合は、いくらブルースの曲想で卑猥でいやらしい内容、或いはだらしない男が管を巻く姿を歌っていても、その声には圧倒的な清潔感、孤高でいて「真面目な」美を感じずにはいられません(これが2002年の「砂丘でダイヤ」あたりになるとミック・ジャガーのような猥雑さ、ふてぶてしさまでもが加わってくるんですけど)。
しかもこの曲のジュリーのヴォーカルって、「ブルース」という括りの曲でなおかつほぼ同時期の「被害妄想」ともまた違うんですよ(ルーズなニュアンスなのに清潔感を感じる、という点では共通していますが)。
「被害妄想」はやはり井上バンド(PYG)のヴォーカリスト、という立ち位置が強いです。堯之さんのアコースティック・ギターがおそらくCSN&Yの「キャリー・オン」、或いはポール・マッカートニーの「三本足」などのタイムリーな洋楽を意識していて、ジュリーもそんな演奏に沿った発声をしています。
でも「居酒屋ブルース」は現地(ロンドン・レコーディング)の楽団の音ですよね?
バンド・パートの音も、アレンジャーがキチンと譜面に起こしたアレンジがあって、「ソロ歌手の伴奏」という形になっています。
どちらのスタイルが良い悪いではなく、ジュリーはそうした「今そこで鳴っている音」に瞬時にシンクロしてしまう天賦の才を持っているのでしょう。
逆説的のようですが、当時のジュリーは「伴奏」っぽい音だからこそ自分の声で曲全体をリードすることができた、という面もあったのではないでしょうか。
僕が「居酒屋ブルース」のジュリーの歌を、敢えて他のジュリー・ナンバーに見出すとすれば、それは『act ELVIS
PRESLEY』の「無限のタブロー」ですね。ジュリーとしては珍しくトリッキーなスタイルで歌っているのに、結果それが本道のように聴こえてしまう、という・・・。
「居酒屋ブルース」で、思わぬ色っぽい成り行きに舌なめずりして唾を吸い込む音を立てる(1番の演奏ブレイク部)のも、完全に酔っぱらって下品に「ヒック」と喉を鳴らす(エンディング)のも、安井さんが紡いだ場末の居酒屋での何気ない物語の通り。
安井さんの歌詞と加瀬さん流ブルースの曲想に、ジュリーは忠実に表現しているんだけど、滲み出るジュリーの中の「人間」は、そこにいやらしい感じをまったく出しません。これは何だろう?
安井さんは先の文章でこう書いていますね。
ジュリーの歌は、華麗さをよく人から指摘されるけど、やはりその声とフレージングの組み合わせは泥っぽいとか不透明とかではなくイメージ通りカット・グラスの美しさに、ほんとは実に人間っぽいジュリーがうまく混ざり合って、歌に出てきていると思う
ジュリーの「歌」の本質に迫った言葉だと思います。
ロックだ歌謡曲だブルースだと言う前に、まずその声。安井さんの挙げた「泥っぽさ」は「居酒屋ブルース」のような詞曲にこそ本来強く出る要素であるにも関わらず、ジュリーが歌うとそうじゃないんだよ、と。
さてさて、この曲は手元にスコアがあります。
これまたいつもお世話になっている長崎の先輩から長々とお借りしてしまっている(お借りしたのは老虎ツアー鹿児島公演の打ち上げの時汗)超お宝本『沢田研二/ビッグ・ヒット・コレクション』。
非常に、大らかな採譜でございます(笑)。
ジュリーの曲に限らず、70年代前半までの日本のスコア本というのは採譜が大変大らかでして、まぁこの本に収載されている「君をのせて」の採譜あたりは、今からでも天国の宮川先生に土下座した方が良いくらいのレベルではありますが、そういうことも含めてとても貴重な資料であり、楽曲構成を紐解く際の有り難い叩き台です(これが70年代後半になると、どの出版社のどんな歌手、曲のものも採譜の精度がグッと上がってきます)。
この「居酒屋ブルース」の採譜でも、明らかに「B♭」に行くのが早いぞ(笑)。
ブルースってのは、もっと粘らないと・・・これをして、この時期は日本人にとっていわゆるアメリカ音楽としての「ブルース」の馴染みがまだまだ薄かった、ということは言えそうです(だからこそ、一般世間からは単に流行のアイドルとしか捉えられていなかったであろうジュリーが、73年のアルバムで「居酒屋ブルース」のような曲をリリースしている、という意義は大きいのです)。
まぁしかし、あとは「Dm」表記のいくつかを「B♭」に変え、サビの最後、ドミナントの「C7」に行く前に1小節ぶん「G7」を加えれば修正はOKかな。「君をのせて」は修正する気が失せましたからね・・・。
そうそう、例の「YOKO君に正月セトリを週に1曲ずつ伝え、一週間互いに関連するスコアの研究をする」シリーズも遂に先週、21曲目の「君をのせて」に到達。
参考スコアに面白半分でこの本のものをスキャンしてメールで送ってみたところ、YOKO君は
「弾いて歌ったら、夢に出そうなほどの違和感だった」
と言ってましたよ。
でも、解説で「サビはまたブルース進行とは別」とアドバイスしている点は良かったです。
と言うのは、この曲はバタ臭い気取りが無く、サビに本来の「ブルース進行」からは逸脱した、洋楽風に言えば「ポップ」・・・その実は日本人特有の泣きのメロディー、進行が織り交ぜられているんですね。
時々見つめる 物云いたげな瞳
Dm Am B♭ Am
今夜は僕に 最後まで つき合ってくれる ♪
Dm Am B♭ G7 C7
(コード、修正してみました。『沢田研二/ビッグ・ヒット・コレクション』をお持ちのかたは、比べてみよう!)
このあたりが、変に「俺は海の向こうの本場のブルースを目指して作っているんだぜ」みたいな気負いや個人主張がまったく無い、純粋に「ジュリーの曲」として取り組んでいる加瀬さんならではの作曲の味なんだよなぁ、と僕は考えます。
もちろん、それは安井さんの歌詞についても同じことが言えると思います。
安井さんも、そして加瀬さんも、当時ジュリーの作品を共に作り上げていく中で「ジュリーの歌は凄いなぁ」と、詞や曲を提供する側にも関わらず感心しながら聴き惚れていたかもしれないけれど、この時期のジュリーの歌の素晴らしさは、お2人の熱意と才能と、何より無償の愛情から引き出されていた部分が大きかったのかなぁと感じています。
「海の向こうの音楽を踏襲した」はずの「居酒屋ブルース」を、ピュアなジュリーの名曲たらしめたのは、そんな愛情の為せるところだったのではないでしょうか。
この先ジュリーがこの曲をLIVEで歌うことはまず無いでしょうが、今のジュリーが歌ったらどんなヴォーカルになるんでしょうね?
安井さんが語った魅力をそのまま持ちつつも、意外やメチャクチャにエロい歌になったりして・・・。
それでは、今日のオマケです!
73年夏の『沢田研二ショウ』(国際劇場)パンフレットから、ほぼ全ページをどうぞ~。
さて、これで全国ツアー初日までに残す執筆予定お題曲は3曲となりました。
その中に、74年リリースの超大ヒット・シングル(バレバレ)のA面、B面が2曲仲良く揃って待機中。
次回、次々回と続けて書きたいと考えています。
A面、B面どちらを先に書こうかな・・・?
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