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2015年5月

2015年5月27日 (水)

ザ・タイガース 「あなたの世界」

from『THE TIGERS CD-BOX』
disc-5『LEGEND OF THE TIGERS』


Tigersbox

1. タイガースのテーマ
2. スキニー・ミニー
3. 白いブーツの女の子
4. 愛するアニタ
5. 南の国のカーニバル
6. 涙のシャポー
7. 涙のシャポー(別テイク)
8. 傷だらけの心
9. 730日目の朝
10. 坊や祈っておくれ
11. Lovin' Life
12. 誰もとめはしない
13. 夢のファンタジア
14. ハーフ&ハーフ
15. 遠い旅人
16. タイガースの子守唄
17. あなたの世界
18. ビートルズ・メドレー(ヘイ・ジュード~レット・イット・ビー
19. 明治チョコレートのテーマ
20. あわて者のサンタ
21. 聖夜
22. デイ・トリッパー
23. アイム・ダウン
24. 雨のレクイエム
25. ギミー・シェルター

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久々にザ・タイガースのお題にて更新ですよ!
先日、いつもお世話になっているピーファンの先輩が一週間ほど入院されることになってしまって(大事には至らず、ということでホッとしました)、病室で過ごされる回復のお時間のささやかなお供になれば・・・と、昨日から集中して考察に取り組みました。
以前から、「近いうちに書こう」と準備していたタイガースの曲があったのです。

そしてこれがまた、加瀬さんの作曲作品です。
加瀬さん作曲のタイガーズ・ナンバーと言えば、当時未発表のテイクながら後にファンも音源を聴けるようになった「愛するアニタ」のタイガース・ヴァージョンまで含めると、3曲ありますね。
残る2曲は、まずシングルA面として超有名曲で、ジュリーwithザ・ワイルドワンズのツアー・セットリストではオープニングを飾った「シー・シー・シー」。
もう1曲は、一般公募選出の作詞作品5篇に名うての作曲家5人がそれぞれ曲をつける、という『明治チョコレート』とのコラボレーション企画としてリリースされた5曲のうちのひとつ、「あなたの世界」。
今日のお題は、この「あなたの世界」です。本当に加瀬さんらしい曲なんですよね。

とあるきっかけで、「近々の執筆」に大いに意欲を持っていた曲・・・そんな折に加瀬さんの突然の旅立ちがあり、今回悲しいタイミングで採り上げることになってしまいましたが、詞曲とも爽やか、涼やかで邪気が無く、タイガースにピッタリのポップスであると同時に、「愛する人の平穏を願う=世界平和」という当時のフラワー・ムーヴメントを反映するかのようなメッセージをも思わせるような・・・。「さりげなさ」と「普遍さ」を併せ持つ素晴らしいナンバーです。
僭越ながら、伝授!

「タイガースの曲の作詞者について僕らが何も知らないのはおかしい」というピー先生の探究心により、一般公募作詞作品である「花の首飾り」の菅原房子さん、「白夜の騎士」の有川正子さんについては、長年のタイガースファンですら「初めて知る」事実を、僕らは今ピー先生の著書などで学ぶことができています。
加えて、明治製菓とのコラボレーションによる5曲。計7曲が「ザ・タイガースの一般公募作詞作品」ということで間違いないのかな?

僕は明治製菓とのコラボ5曲を冒頭にジャケット写真を添付したCD『LEGEND OF THE
TIGERS』で音源所有しています。歌詞カードもあります。
最近は、「作詞採用された5人の方々はその後どのような人生を歩まれたのだろうか、2013年のあの奇跡のステージをご覧になられのだろうか」と、そんなことを考えながらこの5曲を聴いていたものでした。

そんな中、「あなたの世界」の記事を書きたい、と考えたのは今年の3月のことです。
3月15日・・・ずっと以前に執筆を終えていた「シー・シー・シー」の
記事(2010年のジュリーwithザ・ワイルドワンズのツアー・セットリスト予想シリーズ、大トリとしての更新でした)に、思いもかけず頂いたコメント。投稿してくださったのは、「あなたの世界」の一般公募作詞者である伊藤栄知子さんをよくご存知の方でした。
「シー・シー・シー」が加瀬さんの作曲作品ということで、僕は記事中に伊藤さん作詞・加瀬さん作曲の「あなたの世界」に少しだけ触れていて、その記述についてのコメントだったのですが・・・コメントをくださった方のお話では、投稿日の3月15日は、47才の若さで亡くなられた伊藤さんの17年目の命日だった、とのこと・・・。
伊藤さんの命日に、故人を偲ばれながらネット検索され、たまたま僕の記事を見つけてくださったのでしょうか。亡くなられた伊藤さんは、「最期の時まで詩人だった」そうです。
ショックでした。47才での旅立ちは、あまりに早過ぎます。今の僕よりもお若い・・・。

伊藤さんが歩まれた「人生」がまざまざと見えてくるようなコメントに、胸が熱くなりました。
「よし、近いうちにこの曲を記事に書くぞ」と思った矢先、今度は作曲者である加瀬さんの悲報が・・・。
なんと皮肉な巡り合わせでしょう。この「純粋」と言うにはあまりにも邪気の無い爽やかな名曲が、いざ記事に書こうとする段になって、二重の悲しみに包まれてしまったように僕には感じられました。


でも。
こんな素敵な詞を書く人、こんな素敵な曲を書く人の魂が今、安らかでないはずはありません。
僕はとにかく、「あなたの世界」という名曲を自分なりに紐解き、読んでくださるみなさまに改めてこの曲を聴いて頂き様々な教えを乞う・・・そのために頑張るのみ。
ここで書くのは僕の個人的な楽曲解釈によるもので、それがどの程度まで合っているのか分かりませんが、素直な気持ちのままにベストを尽くします。
早速、考察に入りましょう!

Anatanosekai


SNSでこの曲の話題になった時、先述したピーファンの先輩がお手持ちのものを写メして添付してくださった画像です。
僕は「夢のファンタジア」と「タイガースの子守唄」の2枚についてはJ先輩からお借りしている実物が手元にあるんですけど、「あなたの世界」は持っていません。ですので、レコードについている貴重なスコアも目にしたことがなく、今回のお題曲は自力での採譜作業となっております。


「あなたの世界」の魅力は、まず伊藤さんの詞です。
なかにし礼さんの補作詞も含めて、幾多のタイガース・ナンバーの中で圧倒的に「ピュア」だと感じます。

明治チョコレートとのコラボレーションによって生まれた一般公募作詞による5曲はどれも名曲で、それぞれの詞が信じられないほど素晴らしい作品ばかり。その中にあって、「無垢」の魅力を感じるのが「タイガースの子守唄」、そして「あなたの世界」の2篇です。
ただこの2曲は「ピュアな少女の感性」という共通点を持ちながら、作者のスタンスは大きく違っているのかもしれません。その点で僕が常々考えるのは
「タイガースの子守唄」には
ザ・タイガースにこんなふうに語りかけられたいな
「あなたの世界」には
いつまでもそのままのザ・タイガースでいてね
・・・というそれぞれ異なった作詞の出発点(=動機)があるのでは、ということです。

「あなたの世界」には、タイガースのメンバーとファンである自分とは暮らす「世界」が違う、と踏まえた上での無償の愛情を感じます。ひたすらに彼等の平穏、無事、友情、成功を祈る、今の魅力的な彼等の永遠を願う、というテーマがまずあると思うのです。
伊藤さんのこの詞は、安井かずみさんのような「女性である自分の思いをそのまま書いて、そこから一人称の性別を入れ替えて全体を纏めてゆく」手法で書かれたのではないでしょうか。

伊藤さんがタイガースのメンバーの中で特に思いを向けたのは、やはりジュリーかなぁと僕は想像します。

あなたは虹より美しい
C          Em    F     C

光を集めて 歌う 愛の  プリズム ♪
F    C     Am    Dm   B♭ G7      C

後追いファンの僕ですら、この歌詞部にはジュリーを重ねずにはいられません。当時のジュリーは本当に「光を集めて歌っている」ように見えたのでしょうから。
・・・と言うと先輩方に「いやいや、ザ・タイガースというバンドそのものが、光を集めて歌っているように見えていたんですよ」とご指摘を受けそうですね。

歌詞中で僕が最も惹かれるのは、サビ部に「平和」というフレーズが登場することです。
当時の洋楽ロック界は、フラワー・ムーヴメント全盛期。当然、邦楽にもその影響は大ですが、「ラヴ&ピース」のコンセプトを堂々と発信し、なおかつセールスにも反映させることのできる日本のバンドはやはりザ・タイガースを置いて他に無かったと想像します。
頭の固い識者(?)達から「不良」のレッテルを貼られていた彼等が、正攻法で以ってそれを為し得たのですから、歴史は「ラヴ・ラヴ・ラヴ」を支持したタイガース・ファンの目利きを証明しています。識者や学校の先生方、形無しですね。

ただ、「あなたの世界」には「ラヴ&ピース」以前にまず「ザ・タイガースへの親身の愛」があり、時代に厳しく当たられたこともあった彼等の心の平穏、変わらぬ活動継続を願った強い思いが感じられます。
その視点が、実際にタイガースがこの詞を歌うことによって普遍的なラヴ・ソング、メッセージ・ソングへと昇華した・・・職業作詞家であればそこまで狙って詞を書くものかもしれませんが、「あなたの世界」ではタイガース・ファンの少女の無垢な思いがはからずも彼等に「ラヴ&ピース」曲のコンセプトを与えた、という流れがあり、そこに一般公募作詞作品ならではの魔法を見る思いがします。

この歌詞が素晴らしいのは、そんな純粋な「タイガース愛」が何のてらいもなく言葉に託されているからです。

やさしい微笑み そのままに
C         Em        F           C

悲しい恋 の涙 知らずにいてね ♪
F       C  Am B♭       G7      C

少女が憧れのタイガースに、「辛い恋を知らずにいて」「誰のものにもならないで」と願う純粋さ。
特に、伊藤さんのこの詞と同じ思いを持ってジュリーを見つめていた少女達が世に数えきれないほどいらしたことは、僕がこの数年ジュリーファンとして学んできたことでもあります。もちろん、他のメンバーに対して同じ思いを持っていたかたもたくさんいらしたはず。

「あなたの世界」に僕は、そんな当時のザ・タイガースと彼等を愛する少女達の純情、双方の美しいバランスを見る思いがし、感動させられます。
そして、少女がタイガースに語りかけたこの歌詞部は、彼等が歌うことによって「タイガースからファンへのラヴ・ソング」としても逆に成立しているのですね。

このように、「あなたの世界」は伊藤さんの詞によって「ザ・タイガースによるザ・タイガースらしい名曲」となっていると思うのですが、加瀬さんの楽曲構成に耳を向けると、そこにワイルドワンズっぽさ・・・つまり「加瀬さんらしさ」も見えてくるような気がします。
「無垢」「純情」ということなら、加瀬さんも相当です!
イントロのギター・ソロなんて、聴いていて頭に浮かんでくるのはジュリワン・ツアーでの加瀬さんの、12弦ギターをピッ、ピッとはじくようなピッキングで弾いている姿・・・CDで鳴っているのは加瀬さんの音ではないはずなのに、ギターが奏でるメロディーはどうしようもなく加瀬さんを思わせるのです。

曲想に逆らわない素直なフレーズは、加瀬さんのギター最大の個性。それが「あなたの世界」イントロのギターのメロディーに踏襲されているように思います。

しかも歌メロは明快なハ長調のポップス。この詞にしてこの曲、これぞ加瀬さんですよね。

邪気の無い作詞と、邪気の無い作曲。
この世にただ1曲、伊藤さんと加瀬さんの奇跡的な組み合わせがタイガースの曲で起こったこと、それを今僕らがCDで聴けていること・・・素晴らしいことです。

最後に。
明治チョコレートとのコラボ企画による5曲は、一般公募の作詞、名だたる作曲家によるメロディー、アレンジとも素晴らしい作品ばかりですが、おそらく相当限られたタイトなスケジュールでリリ
ースされていたのでしょう・・・楽曲的な「プロデュース」に費やす時間があまりなく、完成度として惜しい部分が5曲いずれもも残されている、と個人的には考えるところがあります。

以前「タイガースの子守唄」の記事では、メロディーがジュリーのキーとしては低い設定で、細部を詰める時間があれば移調して再度演奏してのレコーディングになったのではないか、と(今なら既存の音源の移調はひと手間でできることなのですが、当時はテンポの上げ下げくらいしか方法がありませんでした)書きました。
その点、「あなたの世界」ではどんなことが考えられるかというと・・・。
この曲、全編タイガース・メンバーの重唱になっているじゃないですか。それ自体はとても良いと思うんですけど、1番、2番それぞれのサビの箇所

いつでも僕は祈っている

Am       G7    F          G7

あなたの世界が平和である   ように ♪
Am        G7         C    Bm7-5   E7  G7

この「いつでも僕は♪」から「あなたの世界が♪」までをジュリーのソロにした方が(「平和であるように♪」から再び重唱となる)、歌詞もメロディーも説得力を増していたんじゃないかなぁ、と思うのです。

また、1’26”直後にAメロのヴァースでミドル・エイトの間奏(ギターソロ)を挿し込んでも良かったのではないでしょうか。一気に突っ走る構成も魅力的ですが、この曲ではイントロとエンディングのコーラスに歌メロには登場しない進行が配されて形よく纏まっているので、間奏があるとさらに引き締まったのでは・・・?
まぁ、所詮それは僕のアレンジの好みの問題。詞曲の純粋さを生かすには間奏無し一気の演奏の方が良い、とする制作側の狙いがあったのかもしれません。
加えて、完成音源ではなんと言ってもストリングスが効いていて、詞曲の「爽やかさ」を演出しています。
僕があれこれ考えるのはリリースから40年以上経っての「後づけ」に過ぎず、やはり当時仕上げられたこのアレンジが「ベスト」ということなのでしょう。

ちなみに、この明治チョコレート企画の5曲って、演奏はタイガースなのでしょうか。
僕の耳ではどうにも判断がつかないのです。
「あなたの世界」では、1’43”あたりで炸裂しているイイ感じで突っ込むドラムスのフィルを聴くと、「ピー先生かな?」とも思うのですが・・・。


それでは、オマケです!
今日は、Mママ様所有のお宝切り抜き資料から、タイガース関連のものをお届けいたします。


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余談ながら、今日の記事も含め拙ブログでのタイガース・ナンバーの記事は『タイガース復活祈願草の根伝授!』というカテゴリーになっています。
これは、2009年に初めてタイガースの曲を採り上げた際(「淋しい雨」)につけたもので、その後あれよあれよという間にザ・タイガース完全復活の奇跡は現実となり・・・本来ならそろそろカテゴリー・タイトルを変えるべきなのでしょうが、複数記事のカテゴリーを一気に変更する方法が分からないんですよ・・・(涙)。
仕方ないので、このまま行かせてくださいね。

それにしても、タイガースが本当に再結成して、メンバーだけの演奏で武道館のみならず東西二大ドーム公演を大成功させるとは・・・ブログでこのカテゴリーを始めた頃には、想像もできないことでした。
伊藤さんもきっと、天国の特等席からあの奇跡のステージをご覧になっていたのではないでしょうか。

「愛する人の心(=世界)の平穏を願う」・・・何十年の時が経とうと、それは人として最も大切な気持ちです。今回、タイガースの名曲「あなたの世界」から改めてその大切さを噛みしめることができました。
伊藤さん、加瀬さん、ありがとうございます。

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2015年5月23日 (土)

沢田研二 「テレフォン」

from『S/T/R/I/P/P/E/R』、1981

Stripper

1. オーバチュア
2. ス・ト・リ・ッ・パ・-
3. BYE BYE HANDY LOVE
4. そばにいたい
5. DIRTY WORK
6. バイバイジェラシー
7. 想い出のアニー・ローリー
8. FOXY FOX
9. テーブル4の女
10. 渚のラブレター
11. テレフォン
12. シャワー
13. バタフライ・ムーン

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どうやら、今年の秋くらいに「”Rock 黄 Wind”の記事の準備しなくちゃ!」などと慌てる事態はまったく考えておかなくても平気そうだな~。
・・・と、この5月の時点で早くもタイガース(阪神の方)に見切りをつけてしまった今日この頃(泣)、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
しかし、12球団の中でも上位と思えるメンツとスキルが揃ってて、何故今この成績なのか分からん・・・。
(僕が阪神の愚痴をブログに書くとその後不思議と勝ち出す、という毎度の流れに少し期待)


気をとり直しまして。
前回「みんないい娘」の記事で、「実は加瀬さんはハードな短調のロック・ナンバーの作曲が得意」と書きました。ジュリー・ナンバーにその多くの例があるわけですが、その上で「みんないい娘」にはどこか懐かしい60年代回帰のアレンジが施されている、とも。

今日採り上げるお題はその逆。
ポップス職人・加瀬さんの作ったハードな短調のナンバー、そこに今度は「新しい」ロックのセンスを感じさせる伊藤銀次さん渾身のアレンジが採り入れられた、これまた加瀬さん作曲の名曲です。
ロック・ヴォーカリスト・ジュリーが完全覚醒した大名盤、『S/T/R/I/P/P/E/R』から。
「テレフォン」、伝授です!


同じような感覚のファンも多いかと思いますが・・・アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』の中で「テレフォン」は次収録曲「シャワー」とメドレー形式になっていて、2曲セットでの印象が強いです。
以前執筆した「シャワー」の記事で、先輩方から頂いたコメントにそんなお話もありました。

それぞれの作曲者は加瀬さん、建さんと異なっていますが、アルバム収録曲の中でこの2曲は格別ハードなアレンジ・アプローチが施され、なおかつその2曲が連続で矢継ぎ早に繰り出される・・・カッコ良い「ロック・アルバム」の曲並びですよね。
またこれは、前作アルバム『G. S. I LOVE YOU』での「SHE SAID・・・・・・」「THE VANITY FACTORY」の曲配置アイデアの踏襲をも思わせます。
いずれのアルバムもラス前に「過激な」メドレー2曲の繋がりがあり、オーラスにはジュリー作曲による明るいナンバー(「G. S. I LOVE YOU」はバラードですが、明るい曲ですよね?)が配され名盤の締めくくりとなる・・・アルバム『S/T/R/I/P/P/E/R』の場合は「バタフライ・ムーン」が「アンコール」的なハッピーエンドの役割を持ち、その直前の「テレフォン」~「シャワー」はクライマックス的(LIVEで例えるなら、セットリスト本割の最後の2曲)な役割。僕にはそんなイメージがあります。

さらに、「SHE SAID・・・・・・」のエンディング(次曲へのメドレー導入部)と、「テレフォン」のそれとはかなり似ています。ジュリーの「Crazy テレフォン Crazy・・・」のシャウトから「ブツッ」と音が途切れて「シャワー」のイントロに行くあの感じ。
タイムリーでアルバムを購入されていた先輩方は「あっ、『G. S. I LOVE YOU』のメドレー2曲が繋がるパターンに似てる!」と思われたのではないでしょうか。

「シャワー」の記事で僕は銀次さんのアレンジにザ・キュアーを連想する、と書いたのですが、それはこの「テレフォン」も同様です。
サイケ度は「シャワー」の方が高く、「テレフォン」にはパブ・ロックの要素も大いに混ざっているとはいえ、やはりこの「繊細にして狂乱」のギターに、ロバート・スミスのイメージが重なるんですよ。
で、「テレフォン」にしても「シャワー」にしても、その数年後にキュアーが確立させていく独特の音楽性(良い意味で退廃的でダークな雰囲気のサウンド)までをもこの81年のジュリーのアルバムで先取りしてしまっているかのようなアレンジになっているのです。
銀次さん、本当に冴えまくっているなぁ、と今回改めてこの2曲を聴き驚嘆させられました。


このアルバムでのエキゾティクスのレコーディングは、ジュリーのヴォーカルを含めてほぼ一発録りだった、と先輩に教わったことがあります。
そんな中このアルバムはロンドン録音ということで、当時旬であったパブ・ロックの雄・・・現地のゲスト・プレイヤーとしてビリー・ブレムナー(僕がこの世で最も敬愛するギタリストです)がスタジオに招かれ、いくつかの曲で間奏リード・ギターを弾いています。
それらの曲の場合、エキゾティクスの一発録音は「間奏以外」のトラックに限られ、あらかじめリード・ギターの後録り部分を空けてあったようです。
必然、ビリー・ブレムナーがリード・ギターで参加している4曲・・・「BYE BYE HANDY LOVE」「DIRTY WORK」「バイバイジェラシー」「想い出のアニー・ローリー」は、ギター・トラックが柴山さん、安田さん、そしてビリーのパートと合わせて3トラック存在することになります。

ところが、すべてエキゾティクスのみの演奏である他収録曲の中に、やはりギターが3トラックを数える曲があるのです。つまり、柴山さんか安田さんが片方のトラックを後から追加録音している、ということ。
「テレフォン」はその例に当てはまります。
何故、曲によってこうしたレコーディング・スタイルがとられたのでしょうか。
アレンジの問題・・・それとも?
ここで、「一度は録音されたビリー・ブレムナーのギターがボツになった」という可能性を僕は考えます。

『S/T/R/I/P/P/E/R』収録曲の記事でこれまで何度か書いているんですけど、このアルバムでのビリーのいくつかのリード・ギター・テイクについて僕は「彼本来の持ち味が抑えられ、丁寧に丁寧に、という感じで慎重に弾いてしまっている」と感じています。
「軽い気持ちでスタジオに来てプレイバックを聴いてみたら、東洋の若いバンドの凄まじい腕前にビビって緊張してしまった説」というのを僕は以前から唱えているんですけど(半分冗談ですが半分は本気です)、何度も書いてきたように、他でもないビリー・ブレムナーの大ファンであり信奉者である僕がそんな推測に囚われるほどエキゾティクスというバンドの演奏は凄い、ということ。
だからこそ、ひょっとしたら「テレフォン」あたりはビリーが間奏箇所でいざ一度テイクを録ってはみたけれど、周囲が期待するほど上手くいかず採用されなかったのでは、などと考えてしまうわけで・・・。

まぁ、ビリー・ブレムナーのそんな話は僕の勝手な邪推に過ぎなかったとしても、(左右いずれかのサイド・ギターを、ノンクレジットながら銀次さんが演奏し、すべてのトラックについて一発録りである可能性も考えられなくはないですしね。 とにかく早く『S/T/R/I/P/P/E/R』制作秘話が読みたいよ~銀次さん!)「テレフォン」の柴山さんのギターがアルバム収録曲の中でも特に凄い、ということは歴然の事実です。

リード・ギターが主役となる箇所は最初の間奏とエンディングに向かっていくリフレイン部と、2つあります。狂乱のフレージングがキュアーのロバート・スミスを思わせる、というのは先に書いた通りですが、音色やサスティンにはミック・ロンソンっぽさも感じます。
弾いているのはレスポールなのかなぁ?

もちろん演奏が凄いのはギターのみにあらず。
建さんのベースもキレッキレで、例えばAメロの一見シンプルなラインにしても、最後の1音に下降、上昇の2パターンがあったり、サビも1番と2番では「アドリブかな?」と思える変化があったり。
素人だと「ここはこのパターン、ここは別のパターン」とあらかじめ決めておいて演奏に臨むことをまず考えますが、建さんレベルになるとその時々のバンドのグルーヴを察知して、瞬時にフレーズ・パターンを使い分けているのでしょう。脳と指が連動するんですね。

上原さんのドラムスも素晴らしい熱演。激しいテンポチェンジのある曲は、ドラマーとしても血が沸き立つのでしょうか・・・気合入りまくってブッ飛んでます。
どのくらいブッ飛んでるかというと、「明日への線を切る♪」直前のフィルで左右のスティックが激突しちゃうくらい。ここ、みなさまは聴きとれるかなぁ?
1番の「電話の線を切る♪」直前のフィルと比べてみると分かりやすいと思いますが・・・。
こういうテイクが正規音源として生かされるのが、エキゾティクス「一発録り」の証明であるし魅力なんですね。建さんのベースもそうですが、「逸脱する」ことが逆に全体のレベルを押し上げています。

その一方で、僕は新規ファンだからということもあるのでしょうが、今回改めて「テレフォン」のリード・ギターを聴いていた時脳内に浮かんだ映像が、銀髪の柴山さん・・・つまり、現在の鉄人バンドで演奏している柴山さんの姿だったり。
ここ数年で生で体感している「Pray~神の与え賜いし」とか「1989」のソロと重なるのでしょうか。
そうなると、あとは自然な流れで・・・「テレフォン」のギター・サウンドのもうひとつの特徴である、ディレイを駆使した無気味でおどろおどろしい右サイドのギターに耳が行くと、今度は”青くせめぎあう霊”の映像が浮かびますし、尖りまくったオルガンの刻みは「3月8日の雲」の泰輝さん、サビで倍速のシャッフルになるドラムスは「ねじれた祈り」のGRACE姉さん・・・というふうにね。妄想が繋がっていきます。
この曲、ひょっとしたらエキゾティクス期のジュリー・ナンバーの中で鉄人バンドでのステージ再現が最も似合う曲なんじゃないの?と思えてきました。
建さんのカッコ良いベースラインも、泰輝さんの左手に期待できますし(この曲の西平さんのパートは2つの音色合わせて右手だけで再現可能です。もちろん素人が簡単に弾ける演奏ではないですが)。
実現はしないでしょうけどね・・・。

演奏、アレンジが狂乱なら、歌詞はシュール。
「テレフォン」ではある意味、三浦さんの「容赦無さ」が炸裂しているように思います。男にとって「女性には見せたくない」部分での「リアル」を感じる歌詞です。

Ah…… 昨夜忘れた赤い皮のダイヤリー
B♭                       Dm

誰に逢うのか 知ってるのさ MY ANGEL ♪
C                  B♭                    Dm

他の男とのあれやこれやをしたためたダイヤリーを部屋に忘れてゆくとは・・・そんな粗忽で恥知らずな女なぞには、キッチリ電話に出てどやしつけてしまえ!
・・・と、女性ファンは思ったりするのかな?
しかし

男には~、それが~、できないのだよ~♪

「日記を盗み見た」などとはとても言えなくて、イジイジしちゃってる、自暴自棄になってるわけですね。三浦徳子さんは、こうした「男心の機微」には本当に深い理解のある素晴らしい女流作詞家さんです(笑)。

それではいよいよ、加瀬さんの作曲について。
ジュリーファンのみなさまに「この曲の印象をひとことで言うと?」とお尋ねしたら、「カッコイイ曲」「斬新な曲」といった感じの答が返ってくるでしょう。

しかし、実は加瀬さんが作った「テレフォン」のメロディー、コード進行自体は王道過ぎるほど王道なんです。変則的なところはまったく無いんですよ。
三浦さんの歌詞とエキゾティクスの演奏、銀次さんのアレンジで「過激」に拍車がかかり、イメージが相当発展した形で仕上げられた「テレフォン」。その意味で、音源完成までの手管は、『G. S. I LOVE YOU』に近いと思います。「生身」の感覚に拘って作られたような『S/T/R/I/P/P/E/R』の中では異色の名曲、名演と言えるのではないでしょうか。
プロデューサーでもある加瀬さんは、自身の提供曲の想定外までの進化に大喜び、「もっともっといじって良いよ!」と炊きつけていたんじゃないかなぁ。

Telephone2


参考スコアは当然『ス・ト・リ・ッ・パ・-/沢田研二楽譜集』。
「テレフォン」は「FOXY FOX」と抱き合わせの1ページに掲載。その見開き、右ページのジュリーのショットはコレ↓

Telephone1

「テレフォン」は、曲想だけならば「みんないい娘」とかなり近い短調のメロディーです。キーも同じニ短調。
ただし、「みんないい娘」が最後までポップスらしい(GSなどの60年代の雰囲気を思わせる)整ったテンポ、展開を貫くのに対し、「テレフォン」は次から次へと容赦のない新展開が繰り出される、という点。それが銀次さんの斬新なアレンジとエキゾティクスの素晴らしい演奏によりさらに強調されているのです。
最終的には、「1度聴いただけではなかなか全体像を把握できない」変態”ねじれポップ”(褒めていますよ!)にまで進化していますから、初めて聴いた時はよく分からなかったけど、アルバムを聴く回数に連れて徐々に病みつきになっていった、と仰るタイムリーなジュリーファンの先輩方も当時多かったのではないでしょうか。それはイコール、聴き手が加瀬さんの最初のメロディーの良さを自然と頭に叩き込んでゆく道のりでもあるでしょう。

楽曲構成で最大の肝は、いわゆる「大サビ」の存在。
「大サビ」とは、通常のAメロやサビとは別に、曲の最後だけに配されるヴァースのことです。

Crazy Crazy Crazy テレフォン ♪
F       C                 Dm

このリフレイン・メロディーね。
パブ・ロック好きの僕としては、ここから噛んでくるビリー・ブレムナーとポール・キャラックの「いかにも」といった感じのコーラスにも痺れます(ちなみに、この2人については以前「DIRTY WORK」の記事で語り倒しているので、ご参照を)。

壮大なバラードで採り入れられることが多い手法ですが、「テレフォン」のような曲でそれをやってしまうあたりは、アルバム『G. S. I LOVE YOU』制作時の「もっと過激に!」というコンセプトを経て加瀬さんが仕掛けた工夫であり、そういう構成だからこそ、リフレインで引っ張るだけ引っ張って「シャワー」へと繋ぐメドレー形式が生きてくるのですね。
また、先程も少し触れたサビ部でのテンポの変化。突然スネアのアクセントが倍になって、ギターとベースが激しい演奏を始める・・・メロディーから考えると、このテンポの変化もおそらく加瀬さんの作曲段階でアイデアに組み込まれていたのでしょう。

最後に。
ジュリーのヴォーカルは、加瀬さん作曲の王道メロディーである「原型」と、アレンジ、演奏で進化した最終的な「音」双方に反応した縦横無尽なテイクです。
Aメロでは

お前の電話と知ってたさ
Dm                             B♭ C

ベルが鳴るたびふるえたさ ♪
Dm                                B♭ C

最初の1行はじっくりとクールに導入して、次の2行目ですぐさまエモーショナルに発声展開。
加瀬さんは反復進行のメロディーが得意ですが、その上でこの2行には激しい音階の高低差があり、ジュリーはその特性をいともたやすくヴォーカルに採り入れて表現しています。無意識でしょうね。
また、「バンドの音に敏感」なジュリーらしく、1番と2番の間の最初のギター・ソロ部では、切り刻むノイズのようなギター・フレーズに合わせて呻き声のようなシャウトを繰り出していますね。マイクがギリギリ拾っていることから考えても、これは「無心」の為せるジュリーのアドリブでしょう。曲の世界に入り込んで自然に生まれたシャウトということです。
今年の新譜1曲目「こっちの水苦いぞ」にも同じような瞬間がありますが、こういう無心状態でのヴォーカル・レコーディングこそが、ジュリーならではの「ロック」的な楽曲解釈を引き出すのでしょうか。

ジュリーって、アレンジはもちろん、バックで鳴っているひとつひとつの音に敏感ですよね。
以前NHK『ソングス』で「危険なふたり」を歌った時、加瀬さんの12弦ギター低音部によるシンコペーションの3音の下降メロディー(後に、ジュリワンのツアーで再現されることになります)の連発に強く反応していたことがあり、「12弦で低音弾くと凄いですねぇ」と加瀬さんに話しかるシーンもオンエアされていました。
ジュリーは「引っかかり」の音に聡いんだと思います。音に関して先入観を持たないと同時に、良い意味での「違和感」は大好きなんじゃないかなぁ。メロディーを大切にすればこそ、ね。
同じ歌を歌っていても、鳴っている音によって以前とはメロディーの表情が変わる・・・ジュリーはそんな瞬間が好きなのでしょう(だからLIVEが好きなんですね)。
「テレフォン」では、それを音源制作現場で一気体験した、ということになるのかな・・・。


それでは、オマケです!
今日は『ス・ト・リ・ッ・パ・-』のツアーパンフ(『ロックン・ツアー’81』)から、いくつかのショットをご紹介です。


Stripper1_2

Stripper8

ジュリーファンには「膝関節フェチ」が多いと聞きます(笑)。

Stripper13

Stripper20

Stripper21

バンマス、建さん。若い!

Stripper22

キュートな仕事人、柴山さん。若い!

Stripper22_2

静かなるオールラウンダー、西平さん。若い!

Stripper25

柴山さん、上原さん、安田さん。見開きページのためこんなスキャンになってますが、実際にはこの左端で建さんと西平さんがクネクネと互いの胸を密着し手を絡ませております・・・。

Stripper11

ちなみにこのパンフ、今年の1月の時点では中野の『まんだらけ海馬店』さんで3000円で販売されているのを見かけました。なかなかお買い得な価格なのでは?


さて。
私事ですが僕は今夜、以前から楽しみにしていたジョン・ハイアットのLIVEに行ってきます。
ジョン・ハイアットと言ってもご存知の人は少ないでしょうね・・・僕が昔から大好きなヴォーカリストにしてソングライターの1人です。彼もジュリー同様、常に新しい曲をリリースし続けてくれる人。僕はそういう姿勢のアーティストをとても好むのです。
エリック・クラプトンや、先日亡くなってしまったB.B.キングに詳しい人なら、「ライディング・ウィズ・ザ・キング」という曲をご存知でしょう。あの曲は元々ハイアットの作詞・作曲作品でありアルバム・タイトルチューンです(プロデューサーはニック・ロウ)。

80年代パブ・ロックの面々とも深い繋がりのある人で、ニック・ロウ、そして本日のお題「テレフォン」にコーラス参加しているポール・キャラックとのトリプル・フロントメン体制でツアーをしていたこともありました。
今回はバンドではなくギター1本の弾き語りスタイルでの来日ですが、生で聴くハイアットの歌声とギターでリフレッシュしてきます~。

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2015年5月17日 (日)

沢田研二 「みんないい娘」

from『BAD TUNING』、1980

Badtuning

1. 恋のバッド・チューニング
2. どうして朝
3. WOMAN WOMAN
4. PRETENDER
5. マダムX
6. アンドロメダ
7. 世紀末ブルース
8. みんないい娘
9. お月さん万才!
10. 今夜の雨はいい奴

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最近の僕の通勤途中のBGMは、加瀬さんの作曲作品を集めて編集したCD2枚と、ジュリーの新譜『こっちの水苦いぞ』のローテーション。
その新譜のタイトルチューン、下山さん作曲の「こっちの水苦いぞ」について、かなり多くの先輩方が「なんとなくGSを思わせる」と仰っています。「イントロのあの覚えやすいギター・リフのせいかな」というのがそんな先輩方のご感想と分析です。

それはもちろんその通りです。
でも「GS風」というキーワードであの曲を紐解くと、それだけじゃないと思うんですよね。

シンプルなギター・リフと、もうひとつ別の楽器・・・良い意味での「チープさ」を以って、誰しもの郷愁をかきたてるオルガンの音が噛んでこそ、みなさまがタイムリーで体感されたGS、ひいては古き良き60年代ビート・サウンドを想起させるんじゃないか、と僕は考えます。
比較的最近のジュリー・ナンバーですと、例えば2006年の「Aurora」あたりにGSを思い起こす、というかたがいらっしゃるなら、それは曲想だけでなく、オルガンの音からそう感じとっているのだと思います。

「GS回帰」と言えば、他でもないGSが生んだトップ中のトップの作曲家である加瀬さんが3曲を提供したジュリーのアルバム『G. S. I LOVE YOU』が思い出されるところですが、実はその少し前に、加瀬さんがGSのエッセンスを存分に発揮し、見事その曲想通りのアレンジと歌詞が施された「ひと足早いGS回帰」とも評すべき名曲があります。今日はそちらをお題に採り上げましょう。

アルバム『BAD TUNING』から。もちろんアレンジの決め手は「明快なリフとチープなオルガンの合わせ技」です。
「みんないい娘」、伝授!

「TOKIO」「恋のバッド・チューニング」・・・加瀬さん作曲のシングルでジュリーが開いた80年代の扉。
いよいよ、途方も無く新しい音楽のスタイルでジュリーが邦楽ヒット・チャートを席捲するぞ、という予感バリバリの斬新なシングルが2枚続いていたその頃、加瀬さんはそうし た作風とは別に、「みんないい娘」のような素敵な曲もアルバムに加えていたのですね。
どうでしょう・・・当時、発売と同時にアルバム『BAD TUNING』を購入された先輩方、「みんないい娘」を聴いて「GSっぽいなぁ」とか、「懐かしい感じがする曲だなぁ」と感じたことはありませんでしたか?

加瀬さんのメロディー、後藤次利さんのアレンジ、糸井重里さんの歌詞、そしてジュリーのヴォーカルも・・・それぞれ「60年代回帰」を体現しているように僕には聴こえています。
まずはアレンジ面から紐解いてみましょう。

良い意味での「チープ」なオルガン。しかし単にそれだけなら、アルバム1曲目にしてヒット・シングルでもある「恋のバッド・チューニング」にも、似た音色のオルガンが採り入れられています。
作詞・作曲・編曲とも同クレジットですが、「恋のバッド・チューニング」と「みんないい娘」とでは、印象がかなり違いますよね。オルガンの音については、後追いの僕が言うのは変ですが前者は「おおっ、新しいぞ!」という感じで、後者は「懐かしい」感じ。
先輩方がどう感じていたかは分かりませんが、「どちらも大好きな曲、同じ人の曲なのにずいぶんイメージが違う」と仰るファンは多いと推測します。
これは1つには、「チープなオルガン」を他の楽器とどう噛ませたか、というアレンジの狙いの違いであると僕は思います。「恋のバッド・チューニング」の「装飾」に対して「みんないい娘」は「土台」。

70年代末から80年代冒頭にかけてのロック・ムーヴメントには、先ほどから述べている「60年代回帰」以外にもうひとつ重要なジャンルの流行がありました。
「テクノ・サウンド」ですね。
「ピコピコ」しているイメージ、と言えば分かりやすいでしょうか。この時代の真に「新しい」(当時の言葉で言うと「ナウい」)手法で、「恋のバッド・チューニング」のオルガン(を含むアレンジ)はこちらに分類されそうです(当然、前シングル「TOKIO」の流れも汲みます)。

Stripper29

いかにもこういう格好の人が当時歌ってそうな音楽・・・でもジュリーのテクノは「ブッ飛び×大衆性」が唯一無二だけどね!
(画像は『ス・ト・リ・ッ・パ・-/沢田研二楽譜集』より)

対して「みんないい娘」の場合「昔よく聴いていたような感覚」を甦らせるもので、それが「GSっぽさ」に繋がるのではないでしょうか。

また、「みんないい娘」ではオルガン・パートがサイド・ギターの役割を代行しています。
このアレンジが60年代っぽい!

朝に追われて 夜が逃げてゆく
   Dm                     Gm7

酔いも醒めたよ 外は曇空
      C                      F

ひとり窓  に 額つけて
      Gm7  A7   Dm    Gm   

おまえを想っていたよ ♪
         B♭   C        Dm

Aメロ最初の2行ではカッティングのような歯切れ良い「刻み」、3行目は1小節の全拍頭打ちの突き放し、そして4行目で他楽器とキメのリズムをユニゾン・・・これはまさしくギター・パートのアプローチですよ。

クレジットによると、オルガン演奏は佐藤準さん。
60年代回帰ムーヴメントの元祖である海の向こうのネオ・モッズ・バンドが積極的に採り入れていたホンキー・トンク風のピッチ設定も含めて、「ロックの手管だなぁ」と感じます。

また、後藤さんのベースに関しても、76年の『チャコール・グレイの肖像』の「夜の河を渡る前に」などでレコーディング参加していた頃の後藤さんの演奏には、「俺のベースを聴けい!」と言わんばかりの強烈な主張があったのですが(もちろん、それはそれで素晴らしいです)、『TOKIO』『BAD TUNING』ではベースも完全に「アレンジャー」視点。
類稀なる音のセンスで各楽器のアンサンブルに気を配り、楽曲の「仕上げ」に心血を注いでいます。
「神技の演奏者」から「アレンジの達人」へ・・・ジュリー絡みの人脈で言うと、実はこの後、後藤さんと同じくベーシストである吉田建さんが同じような変化を辿ります。その建さんの変化については、いずれ「噂のモニター」をお題に採り上げた際に語りまくる予定です。

80年当時後藤さんはもうヒット・メイカー・アレンジャーですが、時代が求めるありとあらゆるバリエーションへの嗅覚が鋭く、しかも柔軟で幅広いのですね。
ジュリーのアルバム『TOKIO』『BAD TUNING』の2枚への後藤さんの貢献度は本当に凄いと思います。

次に、詞について。
糸井さん作詞のジュリー・ナンバーを大きく2つのタイプに分けるとすると、先に挙げた「TOKIO」「恋のバッド・チューニング」、或いは「HEY!MR.MONKEY」「クライマックス」などの「ぶっ飛び系」と、「MITSUKO」「嘘はつけない」そしてこの「みんないい娘」のような「物語系」に整理することができると思います。
さらにその「物語系」3曲には、「花から花へ」上等な浮気性の色男が、たったひとりの女性にいつしか心奪われている自分にふと覚醒する、という共通のシチュエーションがあります。「二枚目な男の三枚目な純情」とでも言いましょうか・・・これは、60年代ティーンロックの主人公だった少年(大抵は気に入った女の子を片っ端からモノにしてゆく浮気者)が成長した10数年後の情景とも考えられ、それをして「80年代冒頭の原点(60年代)回帰」と解釈するのもアリなんじゃないかな~。

ちなみに楽曲タイトルは、ビートルズがカール・パーキンスの曲をカバーした「EVERYBODY'S TRYING TO BE MY BABY」の邦題・・・ズバリ「みんないい娘」にあやかったのではないでしょうか。


Everybodystryin

↑ バンド・スコア『ビートルズ・フォー・セール』より

この曲を大トリ収録したアルバム『ビートルズ・フォー・セール』には、ジュリーファン、タイガースファンならお馴染みの「ロックンロール・ミュージック」「ミスター・ムーンライト」も収録されています。

ただ、ここまで書いてきた後藤さんのアレンジ、糸井さんの作詞も、加瀬さんが作った素晴らしいメロディーあってのプロフェッショナルな仕事(前回執筆「恋は邪魔もの」の記事でご紹介した資料の記述から、この頃の加瀬さんの曲は「曲先」であり、糸井さんの詞は後から載せられたと考えて良いでしょう)。
「みんないい娘」が60年代回帰に適い、「懐かしい感じの名曲」たらしめたのは、まず加瀬さんの作曲作品であったことが大きい・・・それを忘れてはなりません。
正に日本ポップス界の軽業師。「恋のバッド・チューニング」のような曲もあれば、「みんないい娘」のような曲もある。それらが涼しい顔で1枚のアルバムに同居してしまうことの凄まじさは、そのままジュリーと加瀬さんの「ただならぬ関係」(2010年のジュリーがよくMCで言ってました笑)を表していると言えるでしょう。
加瀬さんが素晴らしい作曲家であることは当然として、「ジュリーの曲」だからこそ加瀬さんができたこと、というのはあると思うんですよ。

世間一般的に「加瀬邦彦の曲」と言うと、「想い出の渚」のようないわゆる「湘南サウンド」の朴訥で柔らかい長調のメロディーを想起する人が大半かと思います。
しかし実は加瀬さんはハードな短調のロック・ナンバーが得意中の得意。
最近お題に採り上げた「許されない愛」「恋は邪魔もの」もそうですし、2010年のジュリーwithザ・ワイルドワンズのツアーでも採り上げられたワイルドワンズの名曲「夕陽と共に」「青空のある限り」「愛するアニタ」・・・そして、今日のお題「みんないい娘」もテンポこそミディアムですが曲想は「ハードな短調のロック」と言えます。

「みんないい娘」のキーはニ短調。
ところがこの曲には、まるで長調のポップスのような明るさがあるんですよね。これはサビ部でヘ長調への平行移調があるから、というだけでは済ませられません。だって僕はこの曲、明快な短調で始まるAメロの時点で既に、明るくウキウキと聴いてしまうのですから・・・。

だけどいま 胸のなかに
F                Dm

痛みまで感じてる
B♭       C7

おまえだけ眩しくて 消えてくれない ♪
F             Dm        B♭     C      Dm

(このサビ部はヘ長調になってるんですけどね・・・。ただし最後の着地点はニ短調のトニックである「Dm」)

これは、加瀬さんの持つ天性の「軽快さ」がそうさせているんじゃないかなぁ。
アレンジを経てもそのまま残る「軽さ」。「軽い」という言葉は僕にとっては素晴らしく良い意味で(元々、音量や音圧で威嚇するようなタイプのバンドの曲が少々苦手だった、ということもあります)、加瀬さんのような「軽さ」を持つ人が作曲して、ジュリーのような人が歌う・・・それこそがポップスとしてもロックとしても最高なのであって、『ジュリー祭り』以前にCD音源だけでジュリー堕ちしていた時期(まぁ今とは濃さが全然違いますが)、僕は間違いなくジュリーと加瀬さんの「音楽作品における関係」についてはハッキリ「好みだ」と無意識にでも感じとっていたと思うんですよね。
2人の「ただならぬ関係」までをも知ったのは、『ジュリー祭り』以降のことでしたけど。

Aメロ・・・1番で言うと「額つけて♪」のメロディーは、ジュリーのヴォーカルがグッと強調されています。ここ、他の歌手が歌うと普通に流してしまうところですよ。
ジュリーが歌うと何故か「特に魅力的な箇所」になるのは・・・声なのか、歌い方なのか・・・いずれにせよこういうところがジュリーと加瀬さんの相性。
「優しかったよ♪」のあたりには70年代後半、大野さんの曲を歌っていた頃のジュリーのヴォーカル・ニュアンスがひょい、と顔を出したり。ジュリーにそれをさせるのもまた加瀬さんの曲の力かな、と。

加瀬さんの作曲作品でヘヴィーなアレンジが施されたジュリー・ナンバーもいくつかありますが、すべて元々の「軽快さ」は残されていると感じます。それこそが「KASE SONGS」ではないでしょうか。
そして、「みんないい娘」はその度合が高い・・・僕はとても好きな曲ですね~。みなさまはいかがですか?

最後に。
今さら言うまでもないことですが『BAD TUNING』は大変な名盤です。今回もこの記事を書くにあたってアルバム通して何度も聴きましたが、改めて思うのは・・・スタジオ・レコーディングの5曲とLIVEテイクの5曲の振り分けが神だな、と。
もちろんそれぞれの曲の逆のパターンも聴いてみたいですけど(「世紀末ブルース」に関してはシングルB面で聴けますね。先輩に教えて頂きようやくその存在に気づいたいたのがほんの数年前なんですが恥)、それぞれ「この形がベスト!」という分担になっていて、それが収録曲の並びの素晴らしさ、レコーディング・テイクとLIVEテイク入り乱れる構成の自然さを生み出していると思います。

実は先の「SHE SAID・・・・・」の記事を更新する直前まで、「この次のお題は”PRETENDER”にしよう」と考えていて、「書きたいことの箇条書き」やオマケ画像の添付までは終わっているんですよ。
その後、更新お題については方針転換しましたが・・・秋くらいにはその記事も仕上げたいと思っています。


それでは、オマケです!
今日も『ヤング』のバックナンバーをご紹介いたします。まずは80年7月号から5ページ!


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800705

続いて8月号から3ページ!

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で、この次の9月号では『ロックン・ツアー’80』のフォト&レポートなど掲載されていくわけですが、そちらはまたいずれの機会にとっておきましょう。

いつも思うことですが・・・こうした貴重な資料を長い間大切に保管されていた先輩方がいらっしゃって、こうして拝見していると、僕ら新規ファンも当時のジュリーの活動を追体験できたような気持ちになれます。
感謝、感謝です!

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2015年5月12日 (火)

沢田研二 「恋は邪魔もの」

from『A面コレクション』
orginal released on 1974、single


Acollection

disc-1
1. 君をのせて
2. 許されない愛
3. あなただけでいい
4. 死んでもいい
5. あなたへの愛
6. 危険なふたり
7. 胸いっぱいの悲しみ
8. 魅せられた夜
9. 恋は邪魔もの
10. 追憶
11. 愛の逃亡者
12. 白い部屋
13. 巴里にひとり
14. 時の過ぎゆくままに
15. 立ちどまるな ふりむくな
16. ウィンクでさよなら
disc-2
1. コバルトの季節の中で
2. さよならをいう気もない
3. 勝手にしやがれ
4. MEMORIES(メモリーズ)
5. 憎みきれないろくでなし
6. サムライ
7. ダーリング
8. ヤマトより愛をこめて
9. LOVE(抱きしめたい)
10. カサブランカ・ダンディ
11. OH!ギャル
12. ロンリー・ウルフ
13. TOKIO
14. 恋のバッド・チューニング
disc-3
1. 酒場でDABADA
2. おまえがパラダイス
3. 渚のラブレター
4. ス・ト・リ・ッ・パ・-
5. 麗人
6. ”おまえにチェック・イン”
7. 6番目のユ・ウ・ウ・ツ
8. 背中まで45分
9. 晴れのちBLUE BOY
10. きめてやる今夜
11. どん底
12. 渡り鳥 はぐれ鳥
13. AMAPOLA
14. 灰とダイヤモンド

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前回は、ゆるい旅日記更新にて失礼いたしました。
こちらはゴールデンウィーク呆けがようやく抜けてきたところです。覚悟していたこととは言え、大型連休明けの仕事はさすがに質量ともにキツいですな~。

そんな中、先日僕は今年も開催されることになったピー先生の全国ツアーの申し込みを済ませました。
参加会場は最後まで迷った末、やはり僕としては「ツアー初日に拘りたい」との思いが強く、ジュリーの渋谷公演直前という慌しいスケジュールとはなりますが、9月29日の国立市民芸術ホールに決めました(ジュリーと両方のレポが大変そうだ・・・汗)。
若干のメンバー変動があるようですが、昨年体感している二十二世紀バンドの演奏について、僕はもう絶対の信頼を持っています。あとは、どんなセットリストになるのか・・・ある意味ピー先生は、ジュリー以上に裏をかいてきますからね。
昨年採り上げられた「都会」級のサプライズを期待しています。楽しみです!

さて本題。
今日は、タイムリーなジュリーファンの先輩方には圧倒的な人気もあり、『ジュリー祭り』セットリスト80曲にも堂々連ねられたジュリーの代表的ヒット・シングル・・・でありながら、ファン以外の認知度はさほど高くなく、一般的には「隠れた名曲」というスタンスにとどまってしまっている(と個人的には思っている)ロック・ナンバーを採り上げたいと思います。
ジュリーと井上バンドがいよいよ「ロック」へと本格的に転換し、それをセールスにも結びつけていこうか、という重要な立ち位置のシングル・・・後追いファンなりにそんなふうに捉えている曲です。

「恋は邪魔もの」、僭越ながら伝授!


Ys740601

↑ 今回の参考スコアは『YOUNG SONG』74年6月号。

僕の手元には、シングル『恋は邪魔もの』のレコーディング状況、そして73年末から74年冒頭にかけてのジュリーのスケジュール、ジュリーをとりまく人達との関わり合いなどを勉強してゆく上で非常に重宝している、貴重な資料があります。
いつもお世話になっている先輩からお預かりしている、74年の『ヤングレディ』。ご紹介しましょう。


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大衆向けの女性誌ですし、ジュリーの発言などについて若干「盛って」いる部分もあるのでしょうが、加瀬さんや井上バンドとのやりとり、ステージの様子などは貴重なレビュー、レポートとして音楽雑誌に負けないほどの密度を誇ります。

最も興味惹かれるのは、「恋は邪魔もの」のレコーディング風景についての記述です。この資料を初めて読んだ時まず驚いたのは、「ジュリー・シングル通常のレコーディング段取りの紹介」(添付画像3枚目)。この記述から、当時加瀬さんと安井かずみさんによる曲作りの作業は基本「曲先」であったことが分かりました。
僕はつい最近まで、なんとなく加瀬さんの作曲は詞先だとばかり思い込んでいたんですよね・・・。
いや、もちろん「詞先」のパターンも存在することはハッキリしています(ジュリーwithザ・ワイルドワンズの「FRIENDSHIP」など、具体的に詞先の制作過程が本人達の言葉で語られている曲もあります)。しかし少なくとも70年代のこの頃のシングルは「曲先」だったようです。
「危険なふたり」もおそらくそうなのでしょうし、以前「詞先」作業を前提として加瀬さんの曲作りを推測した「白い部屋」の記事での僕の考察は、どうやら根本から成り立っていなかったようです・・・(涙)。
また、A面の「恋は邪魔もの」がそうならB面の「遠い旅」も、堯之さんの曲が先だった、と考えるのが自然。これ、僕にとってはかなり衝撃なんですよねぇ・・・。
でもそうして改めて考えてみますと、安井さんのあの独特の倒置法の詞作は、「まずメロディーありき」であったからこそ生まれたのかなぁ、とも思えたり。

さらにこの資料でも明記があるのは、それまで外部作業であった「編曲」(アレンジ)を、「恋は邪魔もの」で初めて井上バンドが担った、という事実。
あくまで「シングルA面」(当然レコード会社の勝負曲)に限った話とはいえ、これは画期的なことです。
(クレジットとしては、A面「恋は邪魔もの」が大野さん、B面「遠い旅」が堯之さんの編曲となっています)
「セールス」の数字が重要なシングル曲の制作についても「ジュリーの作品と一心同体」として井上バンドがいよいよ制作側に全幅の信頼を受けた最初の1枚。
そういう時期的なこともあって、ジュリーが「(バンドメンバーの)名前をキチンと覚えて欲しい」と会社の上層部にハッキリ物申す男気にも繋がっているのかなぁ、と思えます。

記事からは実際の井上バンドによる妥協無きアレンジ作業も目に浮かぶようで、例えば大野さんのピアノ・・・完成された音源を聴くと、決して「メイン」のパートではないのにすごく効いているんですよね。
「もっと良くなるはずだ」とジュリー達が額をつき合わせて曲を練り上げていったことが分かります。

「恋は邪魔もの」での加瀬さんの曲想は、井上バンドのアレンジにより「リフ・ロック」へと進化。
これは前年大ヒットし歌謡大賞を受賞した「危険なふたり」の路線を継承したアイデアと言ってよいと思います(「危険なふたり」のレコーディング音源の演奏は井上バンドのものではありませんが)。
印象的なリフのアレンジだけに留まらずにその辺りを細かく分析するならば

昨日まで 愛していた ♪
B♭    D7    Gm     E♭dim

この演奏の突き放しを採り入れている構成。
これなどは「危険なふたり」での「別れるつもり~♪」の箇所を踏襲したとも考えられます。

「危険なふたり」と「恋は邪魔もの」は長調と短調の違いこそあれ、明快で覚えやすいリフを擁しポップスとしてのヒット性を意識した作りです。これは加瀬さんの作曲段階から狙っていたことでしょう。
いずれも今では「ロック」と断ずることのできる曲ですが、当時はそんなふうには捉えられていなかったのかな。しかし「恋は邪魔もの」の場合は、レコーディング、アレンジが井上バンドに一任されていることから考えても、制作サイドに「ロック」つまり「世界に通用するものを」というコンセプトが強くあったのではないでしょうか。73年末の「魅せられた夜」からのジュリーには、「世界戦略」のプロモートが強く打ち出されていますしね。
「恋は邪魔もの」はそんな中で国内でのヒットを求められ、作曲を担う加瀬さんも大いに張り切ったと思いますが、「賞レース」ということで言えば、加瀬さんはまずここでスマッシュ・ヒット、そして次のシングルで大勝負、と考えていたかもしれません。
逆に言えば、そのぶん「恋は邪魔もの」は井上バンドの理想を持ち込めるシングルだったのでしょう。

冒頭に記したように、「恋は邪魔もの」はファンの間でこそ「ジュリー・シングルの名篇」ではありますが、一般世間では「誰もが知るヒット曲」とまでは捉えられていないようだ、というのが個人的な印象です。
実際、僕もYOKO君に『A面コレクション』を借りて初めて知ったくらいですからね。
『ROYAL STRAIGHT FLUSH』にも入ってませんし(余談ですが僕は未だに『ROYAL~Ⅰ』の収録曲をしっかり把握できていなくて、「君をのせて」を聴きたくなった時にCDをセットしてから「あ、入ってないんだった」と再確認した、という経験があります。逆のパターンで、「あなたに今夜はワインをふりかけ」を聴こうとして『Aコレ』をセットして「ありゃ?」となったことも汗)。
ただ、例え一般的にはそうであっても、タイムリーなジュリーファンの先輩方の中には幾多あるジュリーの名シングルの中で、この「恋は邪魔もの」が特に好き、と思い入れを持つ方々がとても多いようです。

後追いファンの僕は、ジュリーの歴史のほとんどを「振り返りながら知る」という形で学んでいます。
ですから安易に「あらゆるジャンルを網羅した最強の歌手」なんて言葉がポンと出てしまうわけなんですけど、ずっとタイムリーだった先輩方にとってすれば、ジュリーの歴史、ジャンルを軽々しく俯瞰することはできにくいのだ、とも想像します。
俯瞰どころか濃厚かつ局地的な記憶へと引き戻され、おそらくそのほとんどは「実際に歌っている姿」に集約され、じゃあそこで歌われている曲は・・・?と思考が進んだ時、多くの先輩方の頭に甦る曲が「恋は邪魔もの」であることが多いのではないでしょうか。

僕が思うに、それは「井上バンドへの思い入れ」と密に繋がっているんじゃないかなぁ、と。

よくよく考えると、70年代のジュリーのヒット・シングルで、完全に井上バンドの音だけで制作 されたA面曲って実はそう多くはないじゃないですか。
特にこの74年という時期・・・速水さんが加入し、サリーもいる。『ロックン・ツアー』として井上バンド充実の音がしっかりとファンの間に浸透した頃ですよね。翌年の「時の過ぎゆくままに」あたりになると、音作りやクレジット的には「ジュリーとそのバックバンド」というイメージが強くなってくるのですが(それが悪いわけではありませんよ!)、「恋は邪魔もの」でのジュリー本人のスタンスは、「井上バンドのヴォーカリスト」だったんじゃないかな(それがアルバム『JEWEL JULIE -追憶-』にも引き継がれているように感じます)。

74年の第1弾シングル「恋は邪魔もの」は、ジュリーの「ロックバンドで歌う喜び」に満ちていて(このことは、先日「悲しい戦い」の記事でも書きましたが)、その意味では ジュリー唯一無二のシングルA面曲。
それが先輩方の熱烈な支持に繋がっているのではないか、と僕は考えるのですがいかがでしょうか。

井上バンドの演奏で素晴らしい箇所を挙げるなら、まずはやはりイントロから登場する4小節のリフ。「恋は邪魔もの」と言えばこれ!という音ですが、これは最初の2小節が堯之さんと速水さんのツイン・リード、次の2小節は右サイドのギター(たぶんこちらが速水さんだと思うけど・・・自信なし)とサリーのベースのユニゾンです。
伴奏の進行としては

何も知らないお前に
Gm    F           Gm   F

優しくされて見つめる ♪
Gm   F          Gm     F

このAメロ部とリフ部がまったく同じ。
つまり、ギターとベースのユニゾン2小節のリフは、ジュリーのヴォーカル部と同じく、ツイン・リード2小節をも「追いかける」アレンジ。4小節のリフの中に、役割の違うフレーズが2種類あるわけです。
ちなみに右サイド(更新から丸1日、「左サイド」と誤記されたままでした汗)のギターは2トラックに分けてレコーディングされた可能性があります(フレーズの繋ぎ目からの判断)。他にもマラカスなど明らかな追加トラックがありますし、「アレンジ」の重責からも一層綿密なレコーディング作業だったのでしょうね。

先に添付した資料にある、「そこでピアノ弾いてみて」の箇所はおそらくサビ部。

恋は邪魔さ 僕は僕で
F                B♭

顔を背け 今暫くは ♪
Cm          D7

加瀬さんの作ったサビのメロディーは王道の「反復進行」であるだけに、ヴォーカリスト・ジュリーはワンフレーズごとの「合いの手」を求めたのではないでしょうか。
左サイドにミックスされた大野さんのピアノが、目立たないながらも華麗な指さばきでそれに応えています。

サビでの
大野さんのピアノが素晴らしいのは単純に演奏だけの話ではありません。大野さんはやみくもにジュリーのヴォーカル・フレーズすべてを追いかけているわけではなく、きちんとベーシック・トラックの見せ場を分別しつつ「味つけ」に徹しているのです。
例えば2番のサビ、2’34”の箇所ではピアノはサッと退き、サリーのベースを引きたてています。ここは注意して聴けばサリーのベースのうねりにみなさますぐ気づけるはずですが、もし大野さんが1番と同じピアノのフレーズを弾いていたら、そうは言い切れません。

サリーのベースの一瞬の冒険を聴き逃さない、優れたプレイヤーならではのアレンジ能力・・・のちに作曲家、アレンジャーとして日本音楽界のトップに立つ大野さんの才能、きめ細かさが、74年のジュリーのこんな激しい曲にも既に表れていたんですね・・・。
名曲の陰に、名アレンジあり!です。


それでは、オマケです!
まずは『ヤング』のバックナンバー、74年3月号から。


740301

740302

続いて4月号!

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740403

740402

さらに5月号!

740503

740501

このレコード広告・・・LP『パーフェクト24』というのがどんな内容なのかサッパリ分かりません。お持ちだった先輩方、いらっしゃいますよね?ご伝授を~!

後註:
長崎の先輩が早速お手持ちのLP『パーフェクト24』の写メを送ってくださいました。ありがとうございます!

Perfect241

Perfect242

なるほど、「これまでのジュリーの歴史を振り返る」コンセプトの編集盤ですね。シングルB面曲の収録が渋い!曲並びも素敵じゃないですか~。大トリが「涙」・・・いいですね!


最後に・・・こちらは雑誌か何かの切り抜きページのみを先輩からお預かりしています。
時期は「恋は邪魔もの」の頃で間違いないのですが、出典不明なんです~。乞逆伝授!


Koihajamamono1

Koihajamamono2


台風は温帯低気圧に変わったようですが、みなさまお住まいの地域が無事でありますように。

こちらは今、雨が降り続いています。
この雨が過ぎて、明日、明後日は最高気温が30℃を越える、などと予報されています。
極端な気候の変化、本当に参りますよね・・・。
みなさまも、お身体に充分お気をつけください。

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2015年5月 8日 (金)

沢田研二 「風吹く頃」

『JULIE SINGLE COLLECTION BOX~Polydor Yeas』収録
original released on 1975 シングル「白い部屋」B面


Siroiheya

disc-12
1. 白い部屋
2. 風吹く頃
----------------------

みなさま、連休はいかがお過ごしでしたか?
ジュリーの音楽劇『お嬢さんお手上げだ 明治編』もその間お休みで、明日の栃木公演から再開ですね。

僕は5月2日から5日まで、カミさんの実家への帰省を兼ね、おもに琵琶湖周辺を旅しておりました。
女性が旦那さんの実家に帰省するのは「修行」だと聞いたことがありますが、男性が嫁さんの実家に帰省するのはひたすら怠けに行くようなものでして・・・僕も仕事で慌ただしい日常から解放され、完全まったりモードでリフレッシュしてまいりました。

今日は、DYNAMITEがこのゴールデン・ウィークに訪れたところ、食べたものをひたすらご紹介するという、世間にとって何の需要も無い旅日記です。
記事タイトルは、加瀬さん作曲ジュリー・ナンバーの隠れた名曲「風吹く頃」をお借りしました(加瀬さん、今回はこんな内容ですみません・・・)。
「風吹く頃」はシングル『白い部屋』のB面として1975年3月にリリースされていますが、歌詞と曲想の爽やかさは、今の季節にピッタリではないでしょうか。春の緑の景色が浮かぶ名曲だと思います。

それでは、「風吹く頃」をBGMに、しょうもない旅のスナップなどを・・・。興味の無い方々は、最後の最後にちょっとだけ楽曲考察がありますので、そちらまで読み飛ばしてくださいませ~。


☆    ☆    ☆

出かけたのは、連休初日の2日です。新幹線品川駅は乗車待ちの人でごった返していましたね・・・。

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ランチは車内で、崎陽軒のシウマイ弁当。
有名な駅弁で、メインのシウマイはもちろんですが、「サブの鮪の照り焼きが好き!」と仰るJ先輩も。

京都駅で下車。すぐに実家には向かわず、地下鉄で四条まで移動し散策しました。

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錦市場。すごい人混みでした。外人さんが多かったな~。

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市場のを少し逸れた通りに見つけたレトロな造りの喫茶店・・・アイスカフェラテを注文したら、こんなグラスで出てきました。

翌3日は素晴らしい快晴でドライブ日和。カミさんのお父さんが車を出してくれ、お母さんとカミさんと4人で遠出しました。

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長浜城址入口から見た琵琶湖。

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本丸跡。

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復元された長浜城。

ちなみに今、すぐ近くの安土城にも城郭復元の話が持ち上がっているとか。安土城のスケールだとずいぶんお金も時間もかかりそうですが・・・実現したら訪れてみたいです。

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長浜名物、『鯖そうめん』を道の駅で頂きました。
鯖を炊いた甘辛い出汁の味をそうめんにも染みこませ、つゆ無しで鯖と一緒に頂くという不思議な食べ物でしたが、なかなか美味しかったです。

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木之本駅から徒歩5分、木之本地蔵尊。

で、地蔵尊から徒歩30秒、信じがたいほどの大変な賑わいを見せていたのが、『つるやパン』さん。

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このお店の「サラダパン」はもう全国的に有名なのだとか。
狭い駄菓子屋さんのような店内には人が溢れ、お店の人が黙々とサラダパンを補充し続けていました。

木之本から少し西、琵琶湖と余呉湖の間にあるのが有名な賤ヶ岳。僕が戦国武将好きなのを知っているカミさんの両親は、今回この賤ヶ岳登頂をドライブのメインに、と考えてくれていたようです。
登山道もありますが、僕らはリフトで頂上へ。

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リフトの出発点には七本槍の幟が・・・。

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結構な急勾配を、一人乗りの小さなリフトで登っていきます。下が岩肌剥き出しだったら相当怖いと思いますが、今の季節はご覧の通りシャガの花が足元一面に咲いていて、フワフワと花の上をすべりながら昇っていくような感覚があります。

ちなみに降りの写真はこちら↓
シャガの花の眺めは、降りリフトの方がより感動的でした。

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リフトを降りてから数分かけて険しい山道を上ると頂上です。

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賤ヶ岳七本槍で一番有名なのは清正公でしょうが、僕の贔屓は何と言っても福島正則。出世後の広島の為政、人望など、単なる暴れん坊というだけの人物でなかったことは明らかです。

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山頂から南西を臨んだ琵琶湖眺望。
賤ヶ岳古戦場の激戦地はここよりも少し北西、余呉湖周辺だったと言われています。

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一方こちらは山頂から南東を臨んだもの。方角的には、姉川古戦場や小谷城址などが見えているはずなのですが・・・。

帰りには近江八幡にある『ラ コリーナ』(たねや)に寄りました。

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ところが、連休ということもあってか、店内は想定外の大混雑。バームクーヘンを買って帰るつもりだった僕らは、あまりの行列にスゴスゴと退散したのでした・・・。

翌4日はハッキリしないお天気。結局、日中に激しい雨が降ることはありませんでしたが、遠出は控えました。
午前中にやってきたのは、昨年まで「日本一の廃墟」とまで言われ閑散としていながら、今年リニューアル・オープンし復活を遂げたという『ピエリ守山』。

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朝10時オープンで到着したのは10時20分くらいだったのですが、どうにかギリギリ満車を免れるほどの盛況です。ちなみに帰る頃には駐車待ちの車が並んでいて大渋滞となっていました。

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大型連休とは言え、朝からかなりの盛況。どうやら「廃墟」の汚名返上は成ったようですね。

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フードコートの目玉はこのお店。バニラアイスがはさんであるメロンパンなのだそうです。
が、甘いものにあまり興味の無い僕は、近くのラーメン店『来来亭』でのランチをリクエストしていました。

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チェーン店で関東にもガンガン進出してきていますが、本場は滋賀県です(本店は野洲)。
一味唐辛子が隠し味の濃厚鶏ガラ醤油に背油、という組み合わせ。麺は細ストレート。美味いです!

翌5日は朝の散歩から。

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カミさんの実家近辺は『とび太くん』発祥の地として有名ですが、JA直売所『おうみんち』入口近くに、「3人のとび太くん一体型」という超レア・ヴァージョンがあります。こうなると最早「こども飛出し注意」という本来の目的とは別の「アート」と化していますな~。

そして、お昼12時過ぎの新幹線で帰京。

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京都駅構内の『松葉』さんにて、鴨せいろ蕎麦。
ここは「にしんそば」が有名らしいのですが、僕は蕎麦はできれば「もり」系で頂きたい派なので・・・。

☆    ☆    ☆

といった感じで、完全に「食う・寝る・遊ぶ」を満喫したゴールデンウィークでありました。

久々の更新がこんな話だけでは怒られそうなので、少しだけですが今回記事タイトルを借りました「風吹く頃」について書いておきましょう。

ジュリーのシングルB面曲は本当に名曲の宝庫ですが、中でも70年代は特に加瀬さん作曲による素晴らしい作品が多いですよね。
先輩方の人気が特に高いかな、と感じているのは「青い恋人たち」と「甘いたわむれ」ですが、この2曲はA面がとんでもなく有名な大ヒット曲ということで、「完璧なシングル盤」として両面合わせての評価の高さに繋がっているとも考えられます。

「風吹く頃」の場合はA面が「白い部屋」・・・もちろんこちらも名曲です。ただ、「白い部屋」の考察記事を書いた頃に色々と先輩方に教えて頂いたのは、ジュリーがこのタイトルに今ひとつ乗りきれていなくて、自分が海外に行っている間にタイトルが決定していたのを悔やんでいた、と。
タイトルには前年の布施さんの大ヒット曲「積木の部屋」とのイメージ重複などもあったようで、ジュリーファンの間では当時このシングルA面に微妙な感覚もあったのかなぁ、と僕は想像しています。
もしかすると「”風吹く頃”の方がA面だったらな~」とお考えのかたもいらしたかもしれませんね。

実は僕も後追いファンなりにジュリーの歴史を勉強してきて、そう思うところはあるのです。
「白い部屋」
リリース時のジュリーは海外での活動を成功させ、ファンにしてみれば「凱旋」のイメージがあったに違いありません。
とすれば


風吹く街を 背中にかんじて
G      Em    G                 Em

急ぐ小さな お前の住む窓 ♪
Am   D7      Am7   D7    G

「旅先でいろいろ楽しんでいたけど、やっぱり僕の帰る場所はあなたの家」
という安井さんの歌詞がそのまま、ジュリーの海外進出を応援し帰国を楽しみに待っていたファンへの言葉・・・「風吹く頃」にはそんなストーリー演出が可能だったんじゃないかなぁ、と思うのです。
曲想も、(当時の邦楽としては)ちょっと珍しいカントリー・ポップな16ビート。加瀬さんの作曲の懐の深さを感じますし、何よりキュートですよね。洋風でいて日本的な穏やかさ、涼やかさもあり、「海の向こうから颯爽と帰ってきたジュリー」のイメージにピッタリで、リリース・タイミング的にはA面曲としてよりふさわしかったのでは?
もちろん「白い部屋」も素晴らしい名曲なのですが・・・みなさまはどうお考えでしょうか。

ちなみに「風吹く頃」で僕が最も好きな箇所は

髪をとかし 淋しそうな 姿 が胸に
   Em            Bm          C   D7  G

ひとり静か 時計の音
      Em           Bm

すべてが 昔のままで ♪
   A7                     D7   B7

2番のこの歌詞部です。
いかにも安井さんらしい、そして加瀬さんらしい箇所だと思います。ジュリーの歌声はタイガース前期を思わせる可愛らしさで、この曲がA面の方がジャケ写ともマッチしていると僕などは思うのですが・・・。


ということで、今日は個人的な旅日記の記事更新にて失礼いたしました。次回からはまた、通常の楽曲考察記事スタイルに戻りますからね~。

最後に、オマケです!
お題曲とは全然時代が異なりますが、『山河燃ゆ』完全版DVD発売決定を
祝しまして・・・『ヤング』83年11月号からの関連記事ページをどうぞ。

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『山河燃ゆ』・・・本当に豪華キャストですよね~。
DVD発売の詳しい情報はこちらで!

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2015年5月 1日 (金)

沢田研二 「燃えつきた二人」

from『いくつかの場面』、1975

Ikutuka

1. 時の過ぎゆくままに
2. 外は吹雪
3. 燃えつきた二人
4. 人待ち顔
5. 遥かなるラグ・タイム
6. U.F.O.
7. めぐり逢う日のために
8. 黄昏のなかで
9. あの娘に御用心
10. 流転
11. いくつかの場面

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残念ながら僕は(金銭的な理由で泣)参加できなかったのですが、去る28日のポール・マッカートニーの歴史的武道館公演も大盛況に終わり、ポールは本日、無事日本を後にしたようです。
その武道館公演は18時半の開演予定が19時半まで遅れた、と聞きまして・・・「まるで護国寺から加瀬さんが駆けつけるのをポールが待ってくれてたみたいだなぁ」としんみりしてしまいました。

ツアー中にセットリストを劇的に変化させることはほとんどしないポールが、「今回の武道館公演のために特別な曲を用意している」とのかねてからの噂通り、「ワン・アフター909」「ダンス・トゥナイト」「アナザー・ガール」「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」「バースデイ」といったレア曲が歌われた、とのこと。参加された方々が本当にうらやましいばかりです。
中でも「アナザー・ガール」には驚きました。
アルバム『ヘルプ!(四人はアイドル)』の5曲目収録、正に隠れた名曲。ポールのLIVEとしては世界初演奏だったこともあり、今頃は海外のファンからも「良いな~日本!」と羨望を集めていることでしょう。

これ、ジュリーで例えればどのくらいのサプライズかと言うと、ツアーの最終日に突然70年代のアルバム収録曲を歌った、という感じでしょうかね~。

例えば、今日採り上げるお題曲とか。

最近僕は、加瀬さんの作曲作品を纏めて作成したCDをよく聴いていますが・・・ジュリー・ナンバーばかりでなくワイルドワンズの曲などもじっくり聴いていると、加瀬さんの作る曲想の幅広さ、その広さにして卓越したポップ性に改めて驚嘆するばかり。
本当に色々なタイプの曲があります。ギンギンのロックもあれば、実験的な佳作も。
加瀬さんの場合それらすべてが「ポップ」でありとても耳馴染みが良い・・・聴く者、聴く場所を選ばない、という感じがします。例えば、病院のBGMで流したとしても何ら問題の無いような曲ばかり。加瀬さんの人間性が曲に表れているのでしょうか。
今日はそんな多くの加瀬作品の中から、ジュリーのアルバム『いくつかの場面』収録の「燃えつきた二人」を採り上げることにします。

非常に美しくも淡々としていて、でも切なくて、それなのに聴きやすくてポップで・・・75年当時はいよいよ阿久=大野コンビの短調のバラードがジュリーの時代を導いていこうか、という頃ですが、加瀬さんの「短調のバラード」には、悲しさ、切なさの中に気持ちの良い風通しがある・・・「燃えつきた二人」はそんな曲だと僕は思っています。伝授!


大名盤『いくつかの場面』の中でも、個人的には特に好きな曲のひとつです。
このアルバムは1曲目「時の過ぎゆくままに」から2曲目「外は吹雪」、そしてこの3曲目「燃えつきた二人」まで冒頭から短調の曲が続くという、ジュリー・アルバムの曲並びとしては異色作でもあります。
そのせいか、僕はこのアルバムには「真冬」のイメージが強いんですよ。もちろん、どの季節に聴いても最高にシビれる大傑作ですけどね!

「燃えつきた二人」についてはまず、多くの先輩方ならご存知の逸話をここでも一応ご紹介しておかなければなりません。僕のように、アルバムでこの曲を知っていて、大好きな曲なんだけど、そんな逸話は数年前まで一切知らなかった、という者もいるわけですし。まだご存知ない方々のためにも・・・楽曲考察上、とても大事な話ですからね。
既に詳しくご存知のみなさまにとっては退屈かもしれませんが、しばしおつき合いくださいませ。

日本語の歌の歌詞というのは、基本的に規則正しく1行1行の「文字数」を揃えて作られます(英語詞などの場合は、1行ごとの語尾の発音を揃えていく、というやり方です)。ですからシンプルな詞曲の場合、ある意味「定跡」とも言える文字数(七五調など)で整えられているため、まったく異なる別の曲にその歌詞を載せても丸々歌えてしまう、という偶然が時に起こり得ます。
誰もが知る有名な楽曲例では、『水戸黄門』のオープニング・テーマ「あゝ人生に涙あり」と、童謡の「どんぐりころころ」の関係がそうです。
詞曲入れ替えて歌ってみましょうか。

ど~んぐりころころ ど~んぐりこ~
(ミ~レドレミミレド レ~ドシソラ~)

お~いけにはまって さあたいへん ♪
(ミ~ミソミソソドシ ラ~シラララ~)

当然ながら逆も然りで

じんせいらくありゃ くもあるさ ♪
(ソソミミファミレド ソソミミレ)

ね?
でもこれはあくまで「偶然」の例で、これから語るのは「必然」の例です。
「時の過ぎゆくままに」と本日のお題「燃えつきた二人」の関係・・・こちらは「先に歌詞があり、違う作曲家がそこに全然違う別の曲をつけた」というパターン。
ファンの間では本当に有名な話みたいで、「時の過ぎゆくままに」は阿久さんの詞に複数の作曲家が競作でメロディーをつけ、その結果大野さんの曲が採用されたという経緯があるのだそうです。
その時加瀬さんが作っていた別のメロディーに新たに松本隆さんが詞を載せた曲が「燃えつきた二人」というわけ(「複数の作曲家」で僕が知っているのはこの大野さんと加瀬さんの2人だけ。他にどんな人がどんな曲をつけていたので しょう・・・ご存知の先輩はいらっしゃるでしょうか。また、こうした「競作」により複数の作曲家の作品を募る手法は、ピー先生の近作「一枚の写真」でも行われていたと言います。こちらも採用されたタローのメロディー以外に、どんな人達がどんな曲をつけていたのか・・・とても気になるところです)。

とまぁ、偉そうにウンチク垂れるみたいにして書いていますが、僕がこの「燃えつきた二人」の逸話を知ったのは、確か2009年。もちろん先輩に教わったのです。
ビックリしましたよ。アルバムの1曲目と3曲目という接近した配置の2曲なのに、歌詞の言葉並びの共通点なんて微塵も感じとれていませんでしたからね・・・。

加瀬さんのメロディーは大野さんと狙いは同じ「短調のバラード」ですから、「時の過ぎゆくままに」の阿久さんの世界観にも合いそうです。
早速、歌詞を入れ替えて歌ってみましょう。まずAメロ・・・これは見事にそのまま歌えます。

あなたは~すっかり つかれ~てしま~い
(ドドドド~ドレミド シシシ~ラソラ~シ)

いきてる~ことさえ いやだ~とない~た ♪
(ララララ~ラシドラ ソソソ~ファミファ~ソ)

ちょっと難しいのはサビですね。
微妙に文字数が異なり、おそらく松本さんの「燃えつきた二人」の作詞段階でメロディーが変化したものと考えられますが、少し工夫して音符を増やせば、このような感じで入れ替えて歌うことができます。

とき~のすぎゆくまま~に~
(ミミ~ミミミレドレレ~レ~)

このみを~ まかせ~ ♪
(レミファファ~ ファソミ~)

いや、イイ感じじゃないですか~!
大野さんのメロディーとは甲乙つけ難いと思いますが、最終的にはズバリ楽曲タイトル「時の過ぎゆくままに~♪」と歌われるサビ部のインパクトを以って、大野さんの曲が採用となったのではないでしょうか。
加瀬さん、悔しかったかなぁ・・・いやいや、加瀬さんはそんな狭量の人ではありませんよね。
「おぉ、大野さんのこのサビの感じ、ジュリーの声にピッタリだよ。これはきっと大ヒットするよ!」
と、大喜びしていらしたことと思います。


さて、「時の過ぎゆくままに」を大野さんのメロディーに譲ることになった加瀬さんの曲は、松本さんの新たな作詞を得てそのまま生かされ、アルバム『いくつかの場面』に収録されることになります。
何という奇跡か・・・結果的にこの美しいメロディーには「これしかない!」と言えるほどの素晴らしい詞が載ったのです。「時の過ぎゆくままに」とはまた味わいを異にした素晴らしい名曲がここに誕生しました。

僕ははっぴいえんどというバンドを知るのが遅く、作詞家・松本隆さんを知ったのはまず80年代の大ヒット歌謡曲の数々。そしてその魅力を真に実感したのは、高校時代に夢中で聴いていた大滝詠一さんのアルバム『A LONG VACATION』と『EACH TIME』の収録曲でした。
その印象はどこまでも爽やかで、まるで美しい「スケッチ」のようでした。逆に言えば、人間の慟哭や暗い感情の吐露をそこに見出すことまでは無かったように思います。「非肉感的」な、お洒落な大人の音楽にマッチした詞を作る人なんだなぁ、と。

しかし、30代後半にして出逢ったジュリーのアルバム・・・この「燃えつきた二人」、或いは『チャコール・グレイの肖像』収録の「影絵」での松本さんの詞には、昏いうめきのような、聞き手の身にリアルに迫って来る、斬り込んでくるものがあって、本当に驚きました。

生きてる辛さに 泣いて眠った
Am                  G

あなたの寝顔を憶えておこう
F                    C

目覚まし時計が 鳴る頃僕 は
Dm7            G7  C       E7  Am

北ゆく船から 海を見るだ      ろう ♪
F             Dm    F    Bm7-5   E7

僕は『いくつかの場面』収録の特に及川恒平さんの作詞3作品に「学生運動」の情景を重ねて聴いてしまうのですが、加藤登紀子さんの「黄昏のなかで」、藤公之介の「めぐり逢う日のために」、そして松本隆さんの「燃えつきた二人」にも同じテーマを感じます。
「燃えつきた二人」に見るのは、志を共にし惹かれあった若い運動家の男女が迎える挫折の時。
苦しいだけの生活、理想とかけ離れていく世の中・・・すべてに夢破れた若い男は、共に暮らした彼女の寝顔を記憶に焼き付け傷心の帰郷を決意する・・・そんな情景が僕には浮かんでくるのです。

あふれる若さを想い出に変え
Am           Dm    F           E7

二人の季節が 燃えつきてゆく
Am          Dm         F          E7

傷つき力の尽きたあなたに
Am      Dm       F           E7

わかれがせめてのやさしさでしょう ♪
       C          Em  F         E7     Am


本当にメロディーに合ったいい詞だなぁ、と。
僕は「燃えつきた二人」を知ってから、先述した大滝さんの『A LONG VACATION』に収録された「スピーチ・バルーン」という曲の聴こえ方がガラリと変わってしまったほどです。どちらも、「船出=別れ」の情景を描いた作品ですから。
なるほど松本さん、「燃えつきた二人」があっての、「スピーチ・バルーン」だったのかも・・・とね。


素敵なのは、詞曲ばかりではありません。
「燃えつきた二人」は『いくつかの場面』収録曲の中では特に楽器トラックの多い贅沢なアレンジが施された1曲。演奏もとにかく素晴らしいです。

ギターはエレキが1トラックでアコギが2トラックのアンサンブル(アコギの2本はそれぞれ左右にミックスで振られています)。アコギはアプペジオとストロークのパートをストイックに使い分けていますね。
シンセサイザーはイントロで大活躍の木管系(これぞ”ムーグ”と言いたくなる、時代を反映した音色ですね)の音。ストリングスは生音のように僕には聴こえるんだけど、クレジットが無いということはシンセサイザーの演奏なのかなぁ。
あとは、ジュリーのヴォーカル部がすべて終わってから仕上げとばかりに噛んでくる美しいピアノ、さらに最高に渋いのが左右1トラックずつのラテン・パーカッションです。左がコンサート・カスタネット、右がマラカス・・・このラリー寿永さんのパーカッション・トラックは全体からすると決して目立ちませんが、曲に無くてはならない重要なアレンジの肝です。
土台となるドラムス、ベースも職人技が炸裂。「海を見るだろう♪」の箇所で重々しく噛んでくるベースのフィル・インには、何度聴いてもドキリとさせられます。

そして・・・毎度のことですが、やはり素晴らしさの極みはジュリーのヴォーカル!
悔しさ、あきらめの感情を織り交ぜて「わかれがせめてのやさしさでしょう♪」と歌うジュリーのこの声!
アルバム・ジャケットのあのルックスでこれを歌っているのかと思うと・・・ほとんど反則ですよ。
天はニ物を与えまくっています。

さらに・・・短調の悲しくせつないバラードでも、加瀬さんの「陽」のキャラクターがジュリーの声に生かされている、という点が凄いと思うんですよね。
「わかれがせめての♪」の部分・・・歌詞としては曲中一番キュンとくる寂寥の表現部と言えますが、実はここはメジャーコードの進行なのです。こういうところに加瀬さんの真髄があると思う・・・まず楽曲として聴き手との「近しさ」があり、構えさせないと言いますか。
加瀬さんの訃報を1面で伝えるスポーツ紙に「その作品は”和製ビートルズ”と呼ばれ・・・」と書いてありましたけど、「燃えつきた二人」や、同じく短調バラードの「二人の肖像」(『JULIEⅥ~ある青春』収録)には、悲しみのメロディーの中にひょい、と一瞬「陽」のニュアンスを射し込ませる「アンド・アイ・ラブ・ハー」などのビートルズ・ナンバーと共通するセンスを感じます。
その「陽」の一瞬が、それまで溜め込まれていた切なさを一度落ち着かせてくれるんですよね。ジュリーもそうした箇所は心得て歌っているように聴こえます。

「燃えつきた二人」・・・志の高い名曲ですよ!


最後に、余談になりますが。
少し前に「僕がせめぎあう」の記事で、僕は盟友・YOKO君にお正月の『昭和90年のVOICE∞』セットリストを週に1曲ずつ伝え、その曲からインスパイアされる洋楽曲のスコアを毎週4曲ずつお互いに研究する、という気の長~い作業途中である、と書きました。
あれ、今もまだ継続中なんですよ。
そして、どういうめぐり合わせでしょうか・・・実は今週順番を迎えたセットリスト曲が、ちょうど15曲目の加瀬さん作曲作品、「ねじれた祈り」だったんです。

普段であれば「ねじれた祈り」の曲想から「ロカ ビリー」のテーマを得てあれやこれや洋楽のスコアを探し研究するところですが、今回ばかりは4曲すべてを「加瀬さんの曲」ということでテーマとしました。選んだスコアは「シー・シー・シー」(『60年代グループ・サウンズ・ファイル』、「許されない愛」(『沢田研二/イン・コンサート』、「青い恋人たち」(『沢田研二/ビッグヒット・セレクション』、「TOKIO」(『ス・ト・リ・ッ・パ・-/沢田研二楽譜集』)。
2人で、「加瀬さん、凄いよね」と確認し合いました。
今日は、悲しいニュースを22日の朝刊で知り目を疑った、というYOKO君のメールでの加瀬さんへの言葉をご紹介して、締めくくりとしたいと思います。


オレの場合最後までジュリーを通しての加瀬さんではあったけれど、加瀬さんの音楽の素晴らしさの一欠片でも感じられたこと、何よりも生で体感できたこと・・・川口で観た(ジュリワンの川口公演)「想い出の渚」のギターとかさ、他の曲もそうだね、いや~ロックだった!しかも楽しかったし、これぞプロ。兄貴がそばにいてジュリーも楽しそうだった。一生忘れないよね。

まったく同感です。
ちなみにYOKO君は”今週の4曲”の加瀬さん作曲作品のスコア研究を終えた後、ジュリワンのアルバムの中でも「クセになる名曲」として日頃から猛烈に推しているナンバー、「僕達ほとんどいいんじゃあない」を聴いてから眠りについたそうです。
あ、ジュリーファンとしてはかなり珍しいでしょ?YOKO君はあの曲がとても好きなんですよ。
何と言っても彼は、「僕達ほとんどいいんじゃあない」のあの加瀬さんのヴォーカルを聴いた瞬間、「これは男同志の歌である!」と即座に見切ったくらいですからね(詳しくはこちらの記事で)。

僕にとってはそんな笑い話も含めての想い出だけど・・・ジュリワン、本当に楽しかったですよね・・・。


それでは、オマケです!
今日は『ヤング』75年のバックナンバーからのご紹介。まずは表紙もジュリーだった8月号。


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続いて12月号から。

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さて、次回更新ですが・・・明日からのゴールデンウィーク、3泊4日でカミさんの実家に帰省するため、ちょっと間隔が開いてしまうかと思います。
次回記事、旅日記になるかも・・・(汗)。

期待せずお待ちください。
みなさまも、どうぞ良い連休を!


(渋谷の抽選結果お知らせハガキの第2弾が各地に届きはじめているとか?僕は5日までポストのチェックできない・・・泣)

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